ワサビじゃなかった

    作者:聖山葵

    「つーか、さ。お前等喧嘩売ってんだろ?」
     険呑な目つきで睨まれていたのは、複数の少年達だった。
    「いや、決まり通り負けたから買ってきただろ?」
    「そりゃ和菓子屋じゃなくスーパーで買った奴だけどさ」
     ばつが悪そうに視線をそらした少年達が遊びで勝った奴におやつを奢るという約束を果たしたのは、つい先程のこと。両者の間には、勝者に捧げられたわらび餅のパックが結露した水分を纏わせつつテーブルの上に乗っているのだ。
    「ほら、注文通りのワラビも」
    「ワラビじゃねぇぇぇ! つーか、そんなもん頼んじゃいねぇ! 俺が頼んだのはワサビ餅だ!」
     それは文字にすれば一文字の違い。だが、ワサビ餅を愛する者には絶対に譲れない一文字だった。
    「はー、そんなん対して変わんねぇじゃんかよ」
    「そもそも、女の子がそんな乱暴な言葉遣いしちゃ駄目だろうよ」
    「っ」
     二人の言葉のどちらが作用したのかは解らない。ひょっとしたら両方だったかもしれない。望山・葵の中でぶちりと何かが切れて。
    「ふざけるなもっちぃぃぃ! だいたい、誰が女の子もっちぃ、俺は男もっちぃ!」
     ご当地怪人に変貌した男の娘は叫ぶなり友人達を追いかけ始めるのだった。
     
    「一般人が闇堕ちしてダークネスになる事件が発生しようとしている」
     腕を組んでいた座本・はるひ(高校生エクスブレイン・dn0088)は、灼滅者達を集めた理由を明かすと、そのまま言葉を続けた。
    「本来ならば、闇堕ちした時点でダークネスの意識に取って代わられ、人間の意識は消えてしまうのだが」
     問題の人物の中に人間の意識が残って居り、灼滅者の素質を持つのであれば闇堕ちから助けられるかもしれないのだとか。
    「そして、それがかなわない時は完全なダークネスになってしまう前に灼滅を」
     むろん、救えるに越したことはないのだが、はるひはそう依頼した。
    「今回、闇堕ちしかけている者の名は、望山・葵(もちやま・あおい)、小学五年生だ」
     外見からすると少女なのだが、性別は男。所謂「男の娘」と言う奴だろうか。
    「謎の既視感を覚えるが、どうでも良いことかもしれないな」
     普段自称「ごく普通の男の子」を女の子扱いしているはるひらしい感想と言えば感想でもある。
    「話を戻すが、この少年は遊びに勝って要求したお菓子が自分の愛するものでなかったことを抗議し、返ってきた言葉に激昂して闇堕ちしご当地怪人『ワサビモッチア』となる」
     その後、怒りのあまりに友人達を追いかけ回し、捕まえてワサビ餅を口いっぱいに押し込むという報復手段に出るらしいが、エクスブレインの指示通りに動けば少年達が報復を受ける前に介入することが出来るらしい。
    「ちょうど闇堕ちした直後のタイミングだな。この時点でしかければバベルの鎖も効果を発揮しない」
     尚、戦場になるのは小さな公園。公園内には一息つけるようにテーブルを囲んで椅子が設置されており、闇堕ち直後に公園にいるのは、少年達だけだという。
    「葵の不満はワサビ餅とワラビ餅の違いをぞんざいに扱われたことなのだろうが」
     女の子扱いについても立腹していると見て間違いない。
    「闇堕ち一般人と接触し、人間の心に呼びかける事で戦闘力をそぐつもりならその辺りからどう声をかけるか考えてみると良い」
     闇堕ち一般人を救う為に戦ってKOする必要がある以上、戦闘は不可避。ならば、戦いを有利に進める工夫はしても無駄にならないはずだ。
    「戦いになれば、ワサビモッチアは、ご当地ヒーローのサイキックに似た攻撃で応戦してくる」
     君達が介入すれば、流石に追いかけ回していた少年達にいきなり攻撃すると言うことはないだろうが、巻き込んでしまう可能性はある為、闇堕ちの原因になった葵の友人達には公園から逃げ出して貰った方が良いだろう。
    「救えるかも知れない相手がそこにいて、救い方までわかっているなら助けて欲しいと私は思う。連れ帰ってきてくれたなら、そう、抱きしめたいな、とかそう言うことは一切関係なくっ」
     微妙に下心が透けているような気もしたが、それはそれ。はるひに見送られた灼滅者達は踵を返し、教室を後にするのだった、少年を救う為に。


    参加者
    本山・葵(緑色の香辛料・d02310)
    紅月・燐花(妖花は羊の夢を見る・d12647)
    宿木・青士郎(ティーンズグラフティ・d12903)
    茂多・静穂(ペインカウンター・d17863)
    府頼・奏(ポジティブシンガー・d18626)
    小岩井・しづき(牛乳を愛する少女・d19219)
    蕨田・優希(中学生ご当地ヒーロー・d20998)
    ローラ・トニック(魔法少女ローライズ・d21365)

    ■リプレイ

    ●少年
    「なんだか親近感の湧く名前なんだよなぁ」
     今日はいつも以上に気合いが入るぜ、と続けて本山・葵(緑色の香辛料・d02310)は折りたたんだメモをポケットに押し込んだ。
    「わさび餅ですかーさっぱりめで美味しいですよー」
     と実物を手作りしてきた小岩井・しづき(牛乳を愛する少女・d19219)の言葉に「あたしをわさびと呼ぶんじゃねぇ!」と叫びそうになったのは、つい先程のこと。
    「あーあ、ここん所負け続け」
    「お前、この間奢って貰ってんじゃん」
     視界の中にある公園の入り口をくぐれば、漢字にして一字違いの少年が居るはずで、壁越しに聞こえた声は問題の少年を闇堕ちさせる切欠になる友人達か。
    「闇堕ちですか」
     ポツリと茂多・静穂(ペインカウンター・d17863)の呟いたものによって少年がご当地怪人と化してしまうまであまり時間はない。だからこそ、灼滅者達は公園の入り口に向かっていて。
    「……私も闇堕ちして助けられた身です。初めての救出になりますが、必ず助けましょう」
    「せや、せっかくそこまでの愛があるなら、方向性間違えて怪人になってまうなんてあんまりやっ! なんとか正気に戻して、同じご当地ヒーローとして頑張ってもらいたいなぁ♪」
     力強く頷いた府頼・奏(ポジティブシンガー・d18626)も仲間に倣って希望を口にしながら車止めの間を通り抜けた。
    「サとラの違い。なんという違いでございましょうか、たった一文字でまるで別のものになるなんて」
     雲と蜘蛛のように同じ音でも違う場合もございますし、と口にして紅月・燐花(妖花は羊の夢を見る・d12647)は難しいものでございますねと漏らし。
    (「愛する食べ物をぞんざいに扱われて怒るんは分かるけど、他の食べ物を否定するのは許せんな。男の風上にも置けん」)
     蕨田・優希(中学生ご当地ヒーロー・d20998)は闇堕ちしてしまう理由に理解を示しつつも、憤る。
    「ワラビじゃねぇぇぇ! つーか、そんなもん頼んじゃいねぇ! 俺が頼んだのはワサビ餅だ!」
    「て言うか、わらび餅をそんなもんやと! 許せるか! お尻ペンペンしたる!」
     少年の叫び声へ反射的にそう怒鳴り返せたらどれだけ良かったか。
    「ふざけるなもっちぃぃぃ! だいたい、誰が女の子もっちぃ、俺はおと」
    「ちょっとまったあ!」
     実際に優希が踏み込んだ時、少年は既にご当地怪人に変貌し叫ぶ声を宿木・青士郎(ティーンズグラフティ・d12903)に遮られたところだった。
    「『わさび餅』なら、ここにあるぜ!」
    「な、なん……もちぃ?!」
    「待ちなさい少年」
     ご当地怪人が驚きに目を見張ったところで、声をかけたのは、ローラ・トニック(魔法少女ローライズ・d21365)。
    「私は魔法少女ローライズ。少年、訳を聞かせてくれないかな?」
    「あ、えぇと」
     友人の変貌、そして現れた見知らぬ人々。ご当地怪人と化した葵少年の友人からすれば微妙に理解の追いつかない展開のまま、望山・葵ことワサビモッチアが再起動を果たした。
    「真剣に話してるんだから目をそらしちゃダメ」
     目線をあわせるように屈み込んだローラの格好を見てご当地怪人が視線を逸らしたのは、目のやり場に困ったからなのだろうが、当人が格好に無自覚なのは始末が悪い。
    「わ、悪い」
     ともあれ、なんだかんだで謝ってしまったりしていたのだから、既に灼滅者達の術にはまっていたと言っても過言ではない。
    「ほれ」
    「え?」
     驚いた顔をしつつも、差し出されたわさび餅を拒むことなど出来るはずもなく。
    「落ち着いたか? 二口目はうちらの話聞いてくれたら食べさせたるよ」
     呆然とした様子のご当地怪人へ優希が微笑みかけた時には、復讐の対象にするはずだった友人達から興味が完全に灼滅者達へ移っていたのだから。

    ●おはなしとちから
    「さあお逃げなさいませ」
    「彼は私達が助けます。今の内に避難を」
    「え、あ……う、うん」
     目の前で起きた事態に理解が追いついていなかったからか、プラチナチケットで静穂を何らかの関係者と見たからか、素直に撤退勧告に頷いた少年達は公園の出口へと早足で歩き出し。
    「それならワサビ餅とワラビ餅で迷ったらワサビ餅が勝つくらい有名にするの」
     ご当地怪人の注意を逸らしつつ事情を聞いていたローラは、一つの答えを提示する。
    「このままではワサビ餅は恐怖の対象になってしまうわよ」
    「なっ、そんなことは――」
     追いかけ回す筈の友人達が立ち去りつつあることにも気づかず、ワサビモッチアが話しに引き込まれているのは、優希が実際にわさび餅を餌に釣ったからでもあるが、いつまで耐つものか。
    「そうだ。本当に好きなら、力に訴えずにその素晴らしさを語って認めさせりゃいいじゃねえか!」
    「好物をぞんざいに扱われて怒るのは分かる。でもな、それでも好きなもんやったら丁寧にその魅力を伝えるべきやろ!」
    「っ」
     青士郎や優希に追撃され言葉に詰まったモッチアにも解ってはいるのだろう、三人の言が正論であることは。
    「私は他人とは違う点があります。昔は嫌でずっと押し隠そうと思った点が。でも、それを『受け止めてやる』と言ってくれた人がいました。とてもかっこいい、私の尊敬する人です」
     徐に口を開き生じた沈黙を埋めるよう語り始めた静穂は、誇らしげな表情を浮かべてここではない何処かを見る。
    「周りを否定してばかりより、それら全部自分の正面で受け止めて、その上で自分に対して理解して貰ったりわさび餅の素晴らしさを伝えたりする方が、ずっとカッコよくて男らしいと思いませんか?」
    「っ、俺は……」
     灼滅者達の誰もが説得だけでこの一件が片づくとは思っていない。
    「けなされた友のために怒れるところは男らしいと思うぜ。だがその手を血で汚しちまえば、ワサビ餅は悲しむぞ!」
    「も、もちぃ……」
    「あたしたちが手を貸すから、一緒にワサビ餅の素晴らしさをみんなに広めようぜ!」
     もう一人の葵も呼びかけは止めず、ただ、準備だけはして。
    「ん? そう言えば、あいつら……」
     ご当地怪人が、もうこの場に居ない友人達へ気づいた瞬間にそれは始まる。
    「話はまだ終わっていませんよー」
    「も」
     友人達を探そうとしたのか、別の理由でか。動き出そうとしたわさびモッチアはしづきが放出したオーラに飲み込まれ。
    「っちぃぃ」
    「闇に迷える貴方の痛み、私たちが受け止めます。AllPainMyPain!」
     オーラの中から飛び出し、地面を転がるご当地怪人に視線を固定したまま静穂はスレイヤーカードの封印を解く。
    「友達の間違いやったら笑って許したれや! それが男気ってもんやろ!」
    「だけど、俺にだって譲れないものはあるっ」
     吼えると同時に優希が撃ち出したビームとモッチアのビームが交差し。
    「さあ、私と共に夢へと参りましょうか」
     ご当地怪人を視界に収めつつ燐花が微笑み、歌い出す。
    「いきますよっ」
     物騒な光が飛び交う戦場と化した公園の中、WOKシールドを構えて地面を蹴るのは静穂で。
    「行ったりぃ」
     奏がそんな仲間に盾を与えて背中を押す。
    「やぁぁぁっ」
    「うおっ」
     身を起こしたご当地怪人にWOKシールドが叩き付けられる瞬間。
    「……ところで、あのスカートの下、どーなっとん? ものすごぉ気になんねんけど?」
     優希の視線は何だかとんでもないところに向いていた。淡いエメラルドグリーンのワンピース姿の男の娘というご当地怪人の、そう何というか秘密ゾーンへと。
    「ちょ、いきなりなぶっ」
     気を散らされたのだろうか、シールドバッシュがワサビモッチアにクリーンヒットし。
    「っ、あったま来たもちっ!」
     打たれた場所をおさえながら露わにした憤りは、たぶんシールドバッシュの付与効果なのだと思う。
    「そいつは悪ぃな、けどよ」
     ただ、モッチアの注意が他に向いている今は大きな隙で、この好機をもう一人の葵は逃さなかった
    「な」
     噴き出す炎を宿し熱のこもったガトリングガンの銃身がご当地怪人目掛けて振り下ろされ。
    「がっ、うぐっ」
    「お前のやってることは」
     殴り倒されて蹲るところに迫るのは、青士郎のはめたLerajeの怪腕。
    「ただの価値観の押し付けだぜ!」
    「ぐっ」
     インパクトの瞬間に網状の霊力が放射され両腕をクロスさせ殴打を受け止めようとしたワサビモッチアに絡み付く。
    「自分に誇りと信念を持ってる男、お姉さんは嫌いじゃないよ」
     ここまでのやりとりを思い出しながらモッチアへ声をかけるローラは、だからと続けて影を繰った。
    「葵、思い出して。好きな物をどうして好きになったかを。それは格好いいヒーローやヒーローが好きな物だったりしなかったかな?」
    「っ」
     疑問の提示で男の娘が微かに動揺を見せたのは、一瞬。触手と化した影は僅かな隙を見逃さず鎌首をもたげて襲いかかっていた。

    ●ぶつかり合って
    「貴方を包む餅の壁を、この毒で剥ぎ取りましょう」
    「ぐっ」
     撃ち込まれた漆黒の弾丸は、エメラルドグリーンのワンピースを中身ごと貫いて地面へと突き刺さる。一方的とは言い難いが、影の触手に拘束された男の娘の姿は、何となく犯罪臭を漂わせていた。服が破れたりしていないのが救いと言えば救いだが。
    「オラオラッ! お前のわさび餅への愛はこんなもんかっ!」
    「うぐ、がっ、ぐっ、まだまだぁ!」
     身体の自由を半ば奪われた状態での拳によるめった打ちに耐えた少年は口元の血を手の甲で拭うと指先へ光を集める。
    「おっ、ビームやな。ええで、男同士、ビームで語ろうやっ!」
     まるでそれを待っていたかのように奏も相殺を狙ってういろうビームを放ち、光線同士の激突は火花を産んだ。
    「さぁ、ワサビ餅のえぇとこ、もっと教えてやっ! 興味あんんねんっ!」
    「上等もちぃっ!」
     それは言うなればビーム同士のつばぜり合いだろうか。
    「間違えられるのは悔しいですし嫌ですよねー、でもここで闇堕ちしたらあなたは好きな物に顔向けできませんよー」
    「ちょっ、待」
     二つのご当地愛が見せた拮抗は、直後にしづきの放ったオーラに一方が飲まれることで崩れた。
    「わさび餅を愛し理解される為にも元に戻ってくださーい!」
    「うぐぐ、なんだこの腑に落ちない展開は」
     数の暴力に晒され、蹌踉めきつつもモッチアは立ち上がる。闇堕ちと言う形で歪みつつも確かにあるご当地愛の成せる技か。
    「貴方様のわさび餅への愛、見させていただきましたわ」
     健闘の裏にあるものを認めながら燐花は拳にオーラを集め。
    「さあ、貴方の思い、私たちにぶつけてください」
    「もちぃっ!」
    「葵が格好いいヒーローになればみんながワサビ餅をきっと好きになってくれるよ。だから……」
     静穂の声に応じ最後の力を振り絞り向かってくるご当地怪人を、ローラは呼びかけながら迎え撃つ。
    「させねぇっ」
    「ぐっ」
     葵の連射するガトリングガンの弾が駆けてくるモッチアの足を鈍らせ。
    「だから……その闇を今ここで投げ捨てて!」
     尚も進もうとする男の娘へ拳の嵐が翻弄し、繰り出される縛霊手の一撃が捕らえて。
    「俺は……」
    「へっ、お前の熱い思い、拳に伝わってきたぜ」
     これからは真っ当な方法でその信念を貫くんだな、と続ける青士郎の前で崩れ落ちたご当地怪人は元の少年へと戻り、戦いは終わったのだった。

    ●化学反応
    「ほれ、ちゃんと替えの服も持ってきたからよ」
    「ええ、宜しければ着替えてきて下さいませ」
    「あ、あぁ。悪いな」
     青士郎と燐花に促され、少年が感謝の言葉と共に物陰に去っていったのは、つい先程のこと。
    「待たせた。それから、これ……ありがとよ」
     戻って来るなり名古屋名物なお菓子のCMソングを歌っていた奏へ羽織っていたものを返した葵少年の姿は、燐花がチョイスした物を選んだのか、男女両用なデザインの出で立ちだったが、女の子に見えると口にする者は流石に居らず。
    「何だか色々と手間をかけたみたいで……」
    「あー、もうええて、それは。終わったことやし」
     優希は少年にヒラヒラと手を振りつつ青士郎に目で合図を送り。
    「そうだな、みんなでわさび餅でお祝いといくか!」
    「そうそう、わさび餅でお祝……ってちゃうちゃう!」
     続いた言葉に頷きかけたところで待ったをかけた。
    「これを忘れとるやろ!」
     言いつつ示したのは、葵少年に間違って献上されたわらび餅のパック。
    「と言う訳で、わさび餅とわらび餅でパーティやな♪」
     優希からすればこの一点は譲れなかったのだろう。だが、先に封を切ったのは、わらび餅ではなくわさび餅で。
    「約束の二口目や。ほら、あーんや、アーン」
    「なっ、だ、大丈夫だ。自分で食え」
    「そないに照れんでも。ほら、あー」
     真っ赤になって顔を逸らした少年へ笑顔でわさび餅を差し出した優希をこの直後に不幸が見舞う。
    「ふえっ?!」
    「ちょっ、うわぁぁっ!」
     前方に乗り出すような姿勢からバランスを崩した優希の身体が覆い被さるように葵少年を押し倒したのだ。
    「あー、これがモッチア補正ですねー。元モッチア同士の化学反応かもしれませんがー」
    「し、しづきさん、感心しとらんと助け……ちょ、どこ触っとるん!」
    「え、いや……そんなつもりじゃなくてだな。へたに動かすとわさび餅が落ち」
     のんびり見守るしづきの前で重なり合ってもがく二人の元モッチア。
    「うー、酷い目にあったわ」
    「へえ、これがわさび餅か。結構美味いじゃん!」
     助け出された優希がわらび餅の置かれていたテーブルに突っ伏す横で、青士郎がわさび餅に舌鼓をうち。
    「今だから言いますが……実はわさび餅食べた事無いので、皆でご一緒に食してもいいですか?」
     静穂が告白に続けた申し出へ首を横に振る者も居ない。いや、わざわざ許可を求めるまでもなかったと言うことか。
    「ああ。どうも始めて食べるって人も一人じゃないみたいだしな」
    「え? ああ、初めて食べるけど?」
     葵少年が示した先には、青士郎というお仲間が既に居て。
    「そうそう、お勧めの食べ方はなんでございますか? そのままでしょうか?」
    「そうだな……」
     燐花の問いかけに考え込んだ直後。
    「ねぇ、お姉さんに美味しいワサビ餅を食べさせてくれる場所を教えて♪」
    「え? う、うぁぁぁぁ、近い近いっ!」
     ご相伴に与ってわさび餅が気に入ったのか、それとも葵少年が気になったのか。振り返った少年は息がかかりそうなほど近い位置にいたローラへ思わず仰け反った。
    「わさび餅を広める為に学園に来ませ」
     そして、狙ったかのようなタイミングで後方にいたのは、丁度話しかけようとしていたしづき。
    「わっ、ちょ」
    「なんつーか、難儀な体質だな」
     まだ終わりそうにない混沌を眺めつつもう一人の葵は、嘆息するとわさび餅を口に放り込んだ。
     

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年10月19日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 7
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