
●うおおおお
「どけ! どけぇっ!」
切羽詰ったその声は駅のホームの騒々しさにも負けず、電車を待っていた袖岡・芭子(匣・d13443)の耳にもはっきりと届いた。
芭子は声を辿って振り返り、目に飛び込んだその珍妙な光景に思わず眉を寄せた。
「邪魔だ! 流れに……流れに逆らわないと俺は魚おおお!」
下りのエレベーターを逆走して登る、男の背中。何がそんなに男を駆り立てるのか、男は迷惑そうにする人々を無遠慮に掻き分けエレベーターを駆け上っていく。
「……何だったんだろう、あれ」
何事か叫びながらホームへと消えていく男の背中を見送り、芭子は小首を傾げる。
「遡れ俺の魚おおおおっ!」
その男がご当地怪人サカサーモンであることなど、当然芭子は知る由もなかった。
●所謂ボーナスステージ
「また、郷土愛をこじらせたご当地怪人が事件を起こすようだ。事件を起こすのは北海道のご当地怪人、サカサーモン。サカサーモンは札幌で鮭をばら撒き人々を秋鮭で魅了して世界を征服する計画を企てているんだが……」
説明を始めた神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)は1つ嘆息してから、真面目な表情を作り直す。
「何の本能に目覚めたのか、札幌に向かう際に鮭を満載した大型トレーラーで道路を逆走する、という暴挙に出る。もし実行されれば、大きな被害が出るだろう。何としても阻止して欲しい」
サカサーモンの灼滅が目的となるが、計画の阻止が大前提となる。失敗すれば死傷者も出かねない事件であることを、胸に刻まねばならない。
「サカサーモンがトレーラーに乗り込んでしまえば、その暴走を止めるのは困難を極める。狙うはトレーラーに乗り込む直前、この一瞬だ。時間は午前5時。奴は宗谷岬に現れ、先にトレーラーを用意して待っていた配下と合流してトレーラーに乗り込む。付近で待ち伏せして、このタイミングを狙って奇襲をかけてくれ」
周囲の人払いを事前に行うと、敵に奇襲を察知される。時間帯から周囲に一般人はあまりいないが、一応注意はしておくべきだろう。
「ただし、奇襲時に狙うのはサカサーモンではなく、奴らのトレーラーだ。トレーラーは全部で3台、全てを走行不能にするんだ。1台でも破壊しそこない、発車されたらもう止める術はなくなるぞ」
トレーラーを完全に破壊する必要はない。タイヤを狙うなどして、走行できなくすれば目的は達成できる。
「トレーラーが無事な限り、奴らはお前達との戦闘よりも計画の遂行を優先する。相手の虚を突ける初撃が明暗を分けることになるから、そのつもりでな」
奇襲による戦闘そのもののアドバンテージは取れないが、充分に勝機はある。とにかく奇襲時にはトレーラーの破壊に専念するべきだ。
「サカサーモンは戦闘時はクラッシャーのポジションにつき、影業の3種のサイキックに似たサイキックと、ご当地ヒーローのご当地ダイナミックに似たサイキックの計4種を使用する。配下の戦闘員は5人。全員キャスターのポジションにつき、解体ナイフの3種に相当するサイキックを使用する」
基本的にトレーラーの運転要員らしく、配下の戦闘力は低い。だが、サカサーモンの戦闘力は高く、決して楽な戦いはさせてもらえないだろう。
「帰る前に宗谷岬からの日の出を拝むのも、悪くないかもな。ああ、そうだ。トレーラーの鮭はサカサーモンが自前で用意したものだから、持ち帰るなり好きにするといい。折角の秋鮭だしな」
成功を前提に語るヤマトは、失敗するなどという危惧は微塵も抱かない。ヤマトの絶対の信頼を受け、灼滅者達は教室を後にするのだった。
| 参加者 | |
|---|---|
![]() 椿森・郁(カメリア・d00466) |
![]() 蒼月・杏(蒼い月の下、気高き獣は跳躍す・d00820) |
![]() 椅子越・翔(安楽椅子のみる夢・d00885) |
![]() 風花・クラレット(葡萄シューター・d01548) |
![]() 叢雲・秋沙(ブレイブハート・d03580) |
![]() 狼幻・隼人(紅超特急・d11438) |
![]() 桜井・かごめ(つめたいよる・d12900) |
![]() 薛・千草(ダイハードスピリット・d19308) |
●ぎょい
「ほら急げお前ら! 急がないと俺の魚おおお!!」
「魚い!」
頭に鮭のでっかい切り身を乗せたおっさんに見えるが、寿司のコスプレをした変人ではない。下半身には鮭を腰みのよろしく巻きつけているが、ただの変態でもない。
その男、ご当地怪人サカサーモンはトレーラーのドアに手をかけながら、配下の戦闘員を急かす。サカサーモンも戦闘員達も、明かりが瞬き同時に物陰から飛び出した灼滅者達には気付いてすらいなかった。
狼幻・隼人(紅超特急・d11438)は駆け出しながらハンドサインで仲間と意志を疎通し、先頭のトレーラーに狙いを定めてバイオレンスギターを構えてかき鳴らす。
「な、何だ? 何だこれは魚おおお?!」
金属を引き裂くような音と共に走る衝撃波がトレーラーの前輪の辺りを直撃し、その余波でドアの窓を粉砕する。
「今や、あらたか丸!」
1つ鳴いて応えた霊犬のあらたか丸が加速する。あらたか丸は混乱する戦闘員達の足元を一気に駆け抜け、トレーラーの前輪を斬魔刀で切り裂く。
「タイヤを狙って……」
風花・クラレット(葡萄シューター・d01548)がクラレットロッドを振るうその軌跡に、房なりの果実のように無数の光球が生まれる。風花は手首を返してもう一度ロッドを振り下ろし、光球を一斉に飛ばす。
「行っけぇっ!」
光球は一度散開してから巻き込むような軌道で飛び、戦闘員達の頭上を超えてトレーラーのタイヤを直撃、炸裂して完全に破壊する。
「何だ貴様らは! これ以上邪魔をすると俺の魚おおお!」
「生憎だが、これ以上進ませるつもりはない!」
蒼月・杏(蒼い月の下、気高き獣は跳躍す・d00820)が椅子越・翔(安楽椅子のみる夢・d00885)、叢雲・秋沙(ブレイブハート・d03580)と隊列を組んで、最後尾のトレーラーを狙う。
「俺の影……目覚めてここに力を!」
杏の影業が、夜明け前の薄闇を切り裂き伸びる。影業がトレーラーの前輪に絡みつくと、同時に杏は掌を足元の影に押し当てた。
瞬間、杏の掌から溢れ出した炎が影業を伝って駆け抜け、タイヤを炎上させる。
「肩、借りるわよ!」
秋沙が杏の肩に足をかけ、杏が立ち上がるのに合わせて踏み切り高く跳躍した。
跳躍の最頂点で秋沙は黄金色のオーラを発散させ、胸の前で向かい合わせた掌の間に集束させていく。秋沙は膨張する光球を制御しながら上体を捻り、力を溜め込み一気に撃ち放つ。
放たれた光線が、アスファルトを穿ちながらトレーラーの足元を薙ぎ払う。
「椅子越君!」
「まかせて、なのー」
サカサーモン達が秋沙に気を取られた一瞬を突いて、ロケットハンマーの噴進装置に火を入れ飛び出した翔が、トレーラーに肉迫していた。
上体を大きく捻り、構えたハンマーの打撃面に赤熱した印章が浮かび上がる。ロケットの加速に遠心力を乗せた翔のフルスイングがトレーラーのタイヤを直撃し、打ち込まれた印章が爆裂した。
「あと1台!」
椿森・郁(カメリア・d00466)が影業を伸ばし、飛び出す桜井・かごめ(つめたいよる・d12900)と共にトレーラーに襲いかかった。散開した影は郁子を象りタイヤに絡みつき、その葉が切り裂く。そこに突っ込んだかごめが、ゴルフスイングよろしくマテリアルロッドを振り抜き追撃をかけた。
ロッドのインパクトの瞬間、白光が破裂して撒き散らす爆圧がトレーラー浮き上がらせる。
「最後の1台、派手に行きますよ!」
薛・千草(ダイハードスピリット・d19308)がでんでん太鼓を振り、鋼糸の紐を伸ばして浮き上がったトレーラーに引っ掛ける。そのまま千草は怪力無双を発揮して鋼糸を引っ張り、トレーラーをひっくり返した。
横転したトレーラーにサカサーモンが駆け寄る。
「何をやっているんだお前ら! 元に戻せ! 戻さないと俺の魚おおお!」
「無理ですサカサーモン様!」
「起こしてもタイヤがやられちまってて走れませんよ!」
戦闘員に諭され、サカサーモンは忌々しげに歯噛みした。
●ばっけい
「遡れお前ら! この奴らの流れに逆らって俺の魚おおお!」
『魚い!』
トレーラーは使えないと判断したサカサーモン達が、戦闘態勢を取って灼滅者達と相対する。
「俺の計画を邪魔した報いを受けさせてやる!」
サカサーモンが手の甲を地面に向けて両腕を開いて手首を垂直に返すと、横転したトレーラーがガタガタと揺れ始める。直後、トレーラーの横っ腹をぶち破って飛び出したのは、大量の鮭だ。群れをなす鮭は、回遊するようにサカサーモンの周囲を旋回しながら浮遊する。ついでに腰に巻いた鮭もビチビチ跳ねて、鮭のスカートの向こう側が見えそうなのがスリリングな事この上ない。
「食らうがいい、俺の魚おおおっ!」
サカサーモンが回す腕に誘導されるように鮭の群れがうねり、灼滅者達目掛けて殺到する。灼滅者達が鮭を躱して散開すると、各個撃破を狙った戦闘員達が襲いかかる。
戦闘員が腰から抜鮭し、秋沙目掛けて振り下ろす。対する秋沙は鬼神変を発動させ、異形化した腕を盾に戦闘員の鮭を受け止めた。
足を止めた秋沙を狙い、サカサーモンの鮭が大挙して襲いかかる。が、そこにWOKシールドを展開したかごめが割り込んだ。
鋭利な刃と化したヒレがかごめの腕を、太腿を切り裂いていく。かごめはシールドを振り抜いて鮭を弾き飛ばし、そのまま前に出てサカサーモンに飛びかかる。
かごめは鮭の群れを横っ跳びで躱して回り込み、側面からシールドを叩き付けた。
「遡る、遡るって、そんなことばかりして、トラウマで鮭が嫌いになったらどーすんのさ」
「そのトラウマに逆らって俺の魚おおお!」
会話は成立していないが、サカサーモンの気を引く事には成功したので良しとする。
「鮭の前にまずは雑魚からや! 行くで、あらたか丸……あれ?」
突進しかけた隼人が傍らのあらたか丸を思わず二度見する。
「お前くわえとんの刀やなくて鮭やないか!?」
いつの間にか、斬魔刀の代わりに鮭をくわえたあらたか丸は首を傾げてから、自信ありげに吠えてみせる。
「バウ!」
「そっか、秋刀魚だって刀って書くしな。問題なしやっ!」
「問題あるよ!? だってそれ鮭だよ! いや仮に秋刀魚でも問題あるよ!?」
大らか過ぎる隼人に、思わず風花がツッコむ。
「まあ見とき。あらたか丸、お前の鮭捌きを見せたれ!」
「どうせ捌くならあとで三枚におろそうよ?! だってそれ鮭だよ!?」
風花のツッコミを背に受けつつ飛び出した隼人が、ぶちかましで戦闘員の初動を潰しつつ懐に潜り込み、その土手っ腹に掌を押し込む。
瞬間、掌に集中したオーラがゼロ距離で炸裂し、戦闘員を高く打ち上げた。
「今や、あらたか丸!」
戦闘員を追って跳躍したあらたか丸が、くわえた鮭を構えて――、
「バウ!」
――六文銭射撃で戦闘員を撃ち抜いた!
「鮭の立場なくなったー?!」
嗚呼、風花・クラレット。君は今、物凄く正しい。
「バウ!」
「着地からのどや顔!」
鮭の立つ瀬がなくなったのは置いといて、戦闘員を1人倒したのは確かだ。風花は納得できないもやもやを胸に抱えながらも、戦闘員に向き直る。
風花はクラレットロッドを振るって魔法陣を展開し、その中心にロッドを突き立てた。同時に発生した戦闘員達を空間ごと凍てつかせる。
そこに翔が飛び込み、ロケットハンマーで地面をぶっ叩く。凍った地面をぶち割り裏返し、広がる衝撃波が戦闘員をまとめて吹き飛ばす。
「もう1つ、おまけなのー」
更に踏み込み跳躍した翔は、1回転から遠心力を乗せてハンマーを振り上げ、戦闘員を打ち上げる。
「ナイストス!」
跳躍で先回りしていた秋沙が踵落としで戦闘員を迎え撃ち、
「せいっ!」
左ハイキックから右の回し蹴りと叩き込み、
「まだまだ!」
前宙から同廻し蹴りで戦闘員を叩き落とし、
「これで……」
更に前宙で体勢を整え降下し、
「トドメっ!」
飛び蹴りを叩き込んだ!
●待っていました
戦闘員が鮭を振り抜き、その風圧が刃と化して千草の背後から襲いかかる。
反応が遅れ回避はできないと判断した千草は自ら烈風に突っ込み、体を切り裂かれながらも強引に駆け抜ける。
風を引き裂き突破した千草が高く掲げた右腕は、既に異形の巨腕と化していた。
千草が踏み込み、オーバースロー気味に振り抜かれた豪腕が――、
「一撃で決めます!」
――戦闘員をぶっ飛ばした!
「大丈夫ですか、薛先輩!」
すぐさま郁が千草に駆け寄り、防護符で治療を施す。
その一瞬を突いて、サカサーモンが操る鮭の群れが上空から襲いかかった。
「させん!」
2人を突き飛ばした杏が、大挙する鮭の群れに飲み込まれる。
「蒼月先輩!」
更に戦闘員が飛びかかり追い討ちをかけようとしたその瞬間、炸裂した爆炎が戦闘員ごと鮭を吹き飛ばした。
吹き飛ぶ鮭の中心、燃え盛るオーラを纏った杏は眼鏡を押し上げ、飛び出し戦闘員を追走する。
跳躍の最頂点で杏は突き出した掌に集束し火球と化したオーラに拳を叩きつけ、
無数の火球が戦闘員に降り注ぎ直後着地した杏は影と炎の二重螺旋で戦闘員を衝き上げ、
杏の周囲に展開した魔導書が連射する火炎弾の対空砲火が戦闘員を撃ち抜き、
跳躍して魔導書の火線と共に上昇する杏が縛霊手で戦闘員を捉える。
「捉えた!」
縛霊手が戦闘員を掴んだまま祭壇を展開し、杏の体から溢れる炎を吸い上げ――、
「最大火力だ、受け取れっ!!」
――炸裂する爆炎が戦闘員をぶっ飛ばした!
戦闘員最後の1人が背後に回り込もうとしている事に、千草が気付いていない筈がなかった。
「2度も同じ手は食らいません!」
千草が振り向き放った神薙刃が戦闘員の風の刃を突き破り、そのまま戦闘員を斬り裂いた。
遂に1人となったサカサーモンが、翔と相対する。
「えへへ、焼鮭にしちゃうんだからー」
翔はロケットハンマーに火を入れ、その推進力を使って急加速しながらのスラロームステップで、サカサーモンの鮭の群れを躱しながら間合いを詰めていく。
サカサーモンの眼前まで迫った翔はそこでロケットに再点火、ハンマーを返してサカサーモンの背後に回り込みつつフルスイングの一撃を叩き込む。
サカサーモンは跳ね転がりながらも地面にかじりついて制動をかけ、鮭を操り反撃する。
「この逆境に逆らって俺の魚おおお!」
「その反逆する気合いだけは認めたる!」
隼人が全開にしたオーラを纏い、突っ込んでくる鮭の群れを受け止めきった。
鮭が勢いを失くした瞬間を狙い、千草が一気に前に出る。
「百歩譲って秋鮭で世界中の人々を魅了したとして秋以外のシーズンはどうするのですか」
「その時は、次の秋が来るのを待つ!」
胸を張っての即答である。
「その潔さは別のところで発揮できなかったのでしょうか……?」
千草は一瞬脱力しながらもでんでん太鼓を振るい鋼糸でサカサーモンを絡め取り、一気に引き寄せ同時に振り抜く鬼神変の一撃で強制的にカウンターを叩き込んだ!
●秋鮭フェアは開催未定です
ふらつきながらも立ち上がりかけたサカサーモンの足に、郁子の影が絡みつく。
「一度捕まえたら、離さないんだから!」
郁の影業がサカサーモンを縛り上げながら伸びていき、鋭利な刃と化した葉が食い込み切り裂く。
「一気に仕止める!」
「杏先輩、合わせるよ!」
杏が刃と化した影業を走らせると、大槍を構えたかごめが並走しサカサーモンに飛びかかる。
鮫の背ビレの如く駆け抜ける影の刃がサカサーモンの胸を斬り裂き、
飛び込んだかごめが大上段から槍を突き下ろし、
足元から鋭く伸びる無数の影がサカサーモンを全方位から串刺しにし、
かごめは槍を引き抜き旋転から槍を薙ぎ払い、
引き抜かれた影が螺旋を描いて絡み合い融合して真下からサカサーモンを衝き上げ、
追って跳び上がったかごめが槍を突き出しサカサーモンの土手っ腹に突き立てる。
「まだまだ!」
ねじ込まれた槍の穂先に、冷気が集中する。瞬間、穂先から撃ち出される氷弾がサカサーモンを射貫く。
「全弾持ってけぇっ!!」
絶対零度に大槍が震え、氷弾がサカサーモンの土手っ腹を貫く、貫く、貫く!
一際大きく槍が震え、かごめの身の丈よりも大きい槍よりも更に巨大な氷柱が、サカサーモンをブチ貫いた!
「これで決める!」
墜落するサカサーモンに飛びついたのは風花だ。
風花はサカサーモンの正面から組み付きその頭を右脇に抱え、
「仙!」
サカサーモンの右腕を自らの首の後ろに回し、
「台!」
左腕でサカサーモンの右膝を抱え、
「牛!」
そのままサカサーモンを担ぎ上げて後方に倒れ込み地面に――、
「ダァアアアイナミィック!!」
――叩き付けた!!
凄まじい衝撃がアスファルトを捲り上げ、クレーターを作る。
風花はバク転で距離を取り、油断なく構える。が、クレーターの中心で空を仰ぐサカサーモンに、立ち上がる力は残されていなかった。
「俺の、俺の魚おおお!!」
天へ伸ばした腕が力なく地に落ち、サカサーモンは爆散した。
爆炎に散ったサカサーモンを見届けて緊張を解いた風花の横顔を、昇り始めた朝陽が照らす。
灼滅者達は水平線の向こうから昇る朝陽を、暫しの間言葉もなく見つめる。海鳥の鳴く声と波の音だけが聞こえる、穏やかな時間が束の間流れる。戦闘のあとの疲労感が、今は心地好かった。
雲の隙間から射し込む朝陽を浴びながら、かごめが1つ背伸びをした。
杏が眼鏡を押し上げながら振り返ると、そこには完膚無きまでに壊されたトレーラーと散乱する鮭、という何とも魚臭い現実があった。
「と、とりあえず、後片付けしないとまずいよな、これ」
「そのままにしておくのは、腐って勿体ないしね。鮭児とか無いかなー?」
頷いた秋沙が、鮭を拾い片付け始める。
「ん、もう、食べられないのー……」
こっくりこっくりと頭を揺らす翔は、夢の中で既に鮭を食べているらしい。
「アイテムポケット!」
風花がポケットからクーラーボックスを引っ張り出す。四次元という程ではないにしろ、物理法則を無視した奇妙な光景である。
「これだけあると、持って帰っても食べきれないわよねぇ……」
持参した保冷箱に鮭を放り込むかごめと一緒に、風花もクーラーボックスに鮭を詰め込みながら呟く。
何しろトレーラー3台分である。サカサーモンの武器に使われた分を差し引いても、鮭はまだまだ大量にある。
「あの、学園の皆にも分けてあげたいので、鮭を多めに頂いてもよろしいでしょうか?」
「どうぞどうぞ! ……というか、それでもまだ余るんじゃないかしら?」
千草の申し出を快諾しながら、風花が苦笑する。
「学園に持って帰ったら、学食で秋鮭フェアとかやってくれないかな?」
「それいいかも!」
郁の提案に、風花がぽんと手を打つ。
メニューの案を出しながら片付けに精を出す灼滅者達を、朝陽が照らしていた。
| 作者:魂蛙 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
![]() 公開:2013年10月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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