マラソン大会2013~ゴールへ往くなら、君と共に

    ●皆で走れば怖くない!
     10月31日。武蔵坂学園では、今年もまたマラソン大会が開催される。
     マラソンコースの全長は10キロメートル。出発点を学園とし、先ずは市街地を走り抜けて井の頭公園へ――。
     そして吉祥寺駅前や繁華街を通り過ぎ、最後に立ちはだかる坂を駆け上って学園へと到着すれば、めでたくフィニッシュを迎えることができるのだ。
    「みんな、マラソン大会はもうすぐだよ。万全の状態で走れるよう、体調管理には気をつけてね!」
     愛用のペンをくるくると回しながら、須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)はマラソン大会についての助言を呈する。
     当日までに早寝早起きを習慣づけたり、こまめな水分補給も忘れないように――など、基本的なアドバイスをし終えたのち、ペンの回転をぴたりと止める。
    「ちなみに……今年のマラソン大会も、少しばかり無理をしたり、はっちゃけたりしても大丈夫みたい。
     みんなも知ってのとおり、武蔵坂学園は比較的自由な校風だからね。
     けれど、周囲の一般の皆さんやお店の方に迷惑をかけるのは『メッ!』だよ?」
     ビシッとペン先を向け、まりんは真剣な面持ちで注意を促した。
     エスケープなどのズルを試みれば、魔人生徒会の協力者に捕らえられてお仕置きを受けることとなるだろう。
     ゆえに正々堂々と長い長いマラソンコースに挑み、走り終わった後の心地よい達成感を味わってみては如何だろうか。

    「運動が苦手だったりすると、マラソン大会って不安でいっぱいだよね……。
     でも、『一緒に走ろうね』って声を掛けてくれる友達が居てくれたら、すごく気楽になれると思うんだ」
     ぎゅっと握った右の手を胸に当て、まりんは柔らかな声音で語り始める。
     長い道のりの中で雑談を交わしたり、一緒にゴールを迎えようなんて約束をしながらも抜け駆けしてみたり。
     一人では辛いマラソンも、隣に誰かが居るだけで景色がガラッと変わったりするものだ。
    「だから誰かを誘って、マラソン大会を一緒に挑戦してみるのはどうかな。
     お友達とか、クラスメイトとか、クラブの皆とか――恋人さんや、気になるあの人、とか?」
     自分で言ってのけながら、まりんはえへへと照れ臭そうに微笑む。
     井の頭公園や繁華街など、誰かと過ごすにはもってこいのスポットもマラソンコースとして含まれている。
     公園の中心を成す井の頭池には、鯉だけでなく、沢山の水鳥が集まってきている。
     池の上に設置された橋は、色とりどりの立派な鯉や水と戯れる鳥たちを眺めるのに打ってつけだ。
     だが池を汚してしまわぬよう、餌を与えることは控えた方が良いだろう。
     ちなみに周辺の木々はというと、紅葉の見頃としてはまだ早く、大半が青葉のままだ。
     それでもよく探してみれば、色づき始めた木を運良く見つけることができるかもしれない。

     最後に待ち受ける上り坂も、一緒に臨むのならば怖いもの無しだ。
     互いを支え合ったり、或いは競い合ったり。励まし、労わり、笑い合いながら乗り越えて。
     共に喜びを分かち合う存在が居れば尚更、マラソン大会という行事は後に掛け替えのない想い出となるのではないだろうか。
    「誰かの力を借りるっていうのも悪くない……ううん、寧ろとっても素敵なことだと私は思うよ。
     せっかくだから、皆で最高のマラソン大会を過ごしてみよう!」
     ――大切な『日常』を、悔いなく味わえるように。
     まりんはいつもの元気な笑みと共に、皆へエールを送った。


    ■リプレイ


     もうすぐ、午前9時。ガラスの破片を散らすような陽の光が、晴れ晴れとした秋日和を示していた。
    「おはようございます、咲哉さん。今日のマラソン大会……頑張ってくださいね」
     納薙・真珠が柔らかな笑みを浮かべ、咲哉へと激励を送る。
     もうすぐマラソンがスタートするからと、真珠は小さく頭を下げた後にすぐ学園へと戻っていった。
     彼女の背を見送った後、咲哉は少しばかり気を引き締め、スタートラインへ着く。
    「……いっちょ、頑張りますかね」

    「それじゃ、ふぁいとですよー!」
    『ゆびとま』の部長たる縁樹は、のんびりと走る予定のようだ。
     早々に走っていく子達をスタート時点で見送っても、きっと後で合流できるのだから――。
    「ね、後で合流しようって考えてる? なら、今でもいいわよね♪」
     縁樹の元へひょっこりと、目に競争心を宿したリュシールが現れたと同時――スタートの合図が鳴り響いた。
     武蔵坂学園の校門を潜り抜け、何人もの生徒達が市街地を駆けてゆく。
     その最中、レーナがよろめき足を滑らせた。
     すかさず隣にいた侠助が彼女を受け止めるが――二人共々、派手に転倒してしまう。
    「えと、侠助君、怪我ない?」
     幸いにも二人に怪我は無い。転んだ拍子に、侠助の顔はレーナの胸の中へと埋まっていたけれど。
    「うぅ……」
     恥ずかしさの余りに再び転んだレーナ。侠助はそっと、彼女を抱き起こした後。
    「ほら、これでもうこけないだろ?」
     微笑みかけながら、レーナの手を取って一緒に走っていった。
    『おもけん鍋』もとい、おもけん部長・糸子が、紫緑が持つ鍋へ箸を入れ、熱々の大根を摘まみ上げる。
    「はい、しっつー。あーん、して?」
    「いっちゃん部長やめて。鍋の具を俺に押し付けないでくださ熱! 熱美味熱い!」
     そして出汁がたっぷり染み込んだ大根をずずいと、紫緑の口に運んだ。
     鍋マラソン真っ最中の糸子達を眺めるのは、彼等の前方をゆっくりと走るアゲハだ。
    「(マラソンしよう! と鍋しよう! が混ざると、こんなに面白くなってしまうのですね……)」 
     然れど――お鍋への愛も、ここまで来てしまえば天晴れだろう。
     こくり、と頷き、アゲハは感心しながらも静かに二人を見守っていた。
    「響生は体育、得意なんだっけ? 先に行きたければ行っていいぞ」
    「ん? 机に向かうより断然好きだな。や、一緒にゴールするって言ってんだし出来ねぇって」
     ゴールの約束――勿論それもある。
     けれど、響生は貧血を起こして倒れた事があるという玉兎の身を案じていたのだ。
    「玉兎って響生には遠慮ないっていうか容赦ない、よね。珍しいかも」
    「ん、それだけ心を許してるって事じゃないかなぁ?」
     けれど、仲の良さならばオレ達も負けてないよね。そう耳打ちし、琉珂と故は和やかに笑い合う。
     2人のラブラブっぷりを見習うべきか――と、頭に考えがよぎったものの、やはり自分らしくないと玉兎はかぶりを振った。
    『彩結び』の4人は余裕を持って、緩やかなペースのまま市街地を駆けていた。
    「ふう……みんな、平気か?」
     そう気遣いながら、雅也が少しばかりペースを落として皆の様子を確認する。
     日頃の鍛錬の賜物か、織緒は大きな荷物を背負いながらも軽やかに走れているようだ。
    「だ、だいじょうぶ、なのです……」
    「やっぱり、10キロは長いの……」
     しかし、運動が苦手な桜小路姉妹にとって、やはり10キロという長い道のりは険しい。
     意地を張る愛姫の顔は疲労で濁っており、姫璃は息を切らし、思わず本音を零してしまっていた。
     けれど、顔を上げれば――共に走り、優しい言葉をかけ、支えてくれる皆がいる。
     なんて心強いことだろう。愛姫も姫璃も、元気を取り戻しつつあった。
    「公園まであと少しだ。そこで多めに休憩をとろう」
     織緒の提案に賛同する三人。
     目指すは、次なるポイント。井の頭公園――!


     青葉が繁る公園内では、『足跡』の面々がゆったりとした足取りで並木道を進んでいた。
    「ももさん~。大丈夫ですか? ちょっと疲れてます?」
     共に走る百花へと、智恵美は声を投げかける。
     百花の顔は汗も目立たず、余裕そうに見えるのだが――、
    「……しにそう。そっちは平気そうね?」
     実際はこの通り。かなりバテているようだ。
     最後尾にて走るマーテルーニェは、怜悧な眼差しで皆の背を注視している。
     列の乱れは勿論のこと――エスケープを試みる者が、現れないように。
    「(問題は体力のなさそうな飾さんですね。……留意しませんと)」
     鋭い視線を注がれ、末梨はぶるりと背筋を震わせる。
    「……どうしてもキツイなら、ちゃんと誰かに言うのよ?」
    「は、はい……。頑張ります……」
     見かねた百花が労わるが、末梨は伏し目がちなまま頼りない声を漏らした。
     池を泳ぐ水鳥の姿に癒されながら、花之介はふと思い至る。
     そういえばまだ、木々は秋の色に染まっていないようだ、と。
    「今度来る時は、マラソンじゃなくて紅葉でも見に行くか。皆でさ」
    「あ、紅葉♪ 素敵ですね!」
     花之介が話題を振ると、智恵美は嬉々としてマーテルーニェにお弁当作りの誘いをかけた。
    「え、お弁当……ですか? まあ、それもいいですわね」
     一方、その頃。
    「佐那子ぉぉおーー!! あんっったぁ鬼かぁー!! 背中が熱っ熱っ!!」
     ずるずるずる、と佐那子によって勢いよく引きずられていくテレシー。
     いつの間にやら道の真ん中で倒れてしまっていたらしい。
    「このままでは魔人生徒会にしょっぴかれますよ」
     先へ進む皆を追いかけるべく、佐那子とテレシーは散歩道を辿った。

     ひらり、と風に乗る木の葉は、仄かな朱に染まりかけている。
     マラソンには丁度良い季節ではあるものの、不相応なのは生徒の人数か。
     息苦しい人混みをやり過ごすべく、葉と啓は池近くのベンチに腰掛けていた。
     ――ふと見渡すと、走りゆく生徒の数も疎らになっているようだった。
    「公園出たら倍速で」
     ペットボトルの蓋を閉めたのち、啓は笑みを湛えて宣言する。
     軽く伸びをし終えた葉も、不敵な様子でそれに応えた。
    「OK、倍速な。遅れたら遠慮なく置いてくぞ」
     のどかな秋風に身を預けるように、鋼と鷹秋は道のりを進んでゆく。
     秋めく公園の景色を眺めるのも楽しいが――最愛の存在が隣に居てくれるという事が、何よりも心地良いのだ。
     繋いだ手から伝わるお互いの温もりが、心に沁みる。
    「最後まで、がんばろう、ね」
    「ん、最後まで一緒だ。いや、最後でもいっしょだぜ」
     鋼が柔らかな微笑を向けると、鷹秋もお返しとばかりに口元を緩め、改めてぎゅっと手を握った。
     のんびりとした足取りで園内を進むのは、『空色小箱』の4人だ。
    「ほらアトレイア、どんどん行きましょ。でないとお弁当もなしですよ♪」
    「恵里さん、お弁当無しはちょっと酷いと思います」
     そう、静かに呟くアトレイアの顔には疲労の色が一切見当たらない。体力は充分な様子。
    「そうそう。最後になった方には、飲み物でも奢ってもらいましょうか?」
     悪戯っぽく微笑んで、部長の紗月が皆へと提案する。
    「あら、最後になった人が? いいですよ。……最初に、ごめんなさいねっ!」
     そう言い残し、恵里はアトレイアを抱き上げた後に猛ダッシュで前進する。
     少し離れた位置に彼女をそっと降ろし、すぐさまトップを目指すべく走っていった。
    「上位入賞めざせ~! さて、ボクらはゆっくり完走を目指そうかっ」
     既に見えなくなった恵里へ声援を送った後、みとわは紗月とアトレイアへそう声をかけた。
    「眞白君、ほら、猫さん……!」
    「お、ほんとだ! 随分とまぁ気持ちよさそうに寝てんなぁ……」
     ベンチに寝転びぐっすり眠る猫と、猫を眺めて幸せそうな緋織。
     愛らしい一人と一匹を交互に見つめ、眞白の心もほっこり安らぐ。
     ――マラソンじゃなく、イチャイチャがメインだよな?
     と思いかけていた眞白だったが、視線に気づいて顔を赤く染めた緋織に窘められ、我に返った。
    「さ、まだ前半だけど……最後まで一緒に走ろうね、眞白君」
    「……っと、そうだったな。ん、最後までヨロシク頼むぜ、緋織ッ♪」
     井の頭池の橋にて。何匹もの鯉を初めて目の当たりにし、思わずユウは感嘆の声をあげた。
    「こんなに大きいんだね……すごい。生き物のふしぎ?」
    「ね、鯉ってこんなに大きくなるんだなぁって」
     溶けかけたチョコを頬張りながら、隣り合う灯倭も鯉の様子をじっと見つめる。
    「元気に泳ぐ姿を見てるとおいしそ……た、楽しい、ね」
    「うんー、見てるだけで楽しい」
     危うく零しかけた言葉を、ユウはチョコポテチと共に噛み砕いた。
     並木道を相棒と共に潜り抜け、ハルトとシズキはふと過去を振り返る。
     かつて教団に属していた頃は、日常とは一切縁が無かった。
     故に今――この瞬間が、とても新鮮に感じられるのだ。
    「……何だか良いな。たまには……こういうのも」
    「何の目的があって走るのか理解できなかったが、体が鈍らなくて良いかもしれないな」
     穏やかな言葉、柔和な笑みを交わし合う二人。

     頬を掠める冷ややかな秋風が心地良い。
     のんびり走りゆく里月の一歩後方にて、氷雨はマップを確認しながら進行方向を指示していた。
    「里月さん、ずっと空を眺めてると危ないですよ」
    「んー、気をつける」
     氷雨が注意を促せば、里月もそれに従いながらもぼんやりとした様子のまま前を見据えた。
     しかし、公園へ到着してから二人の走行ペースは緩やかだ。
    「ご飯まだかなー、氷雨君」
    「もうちょっと先ですね……。頑張りましょう」

    「空も、景色も、秋めいてきて、風もとても心地いいです。もう、あっという間に秋なんですね」
     きょろきょろと佳奈子は井の頭公園を見渡す。彼女のすぐ隣を、雛が並走していた。
     凛としたその顔立ちには、ほんの僅かだが穏やかさが滲んでいる。
    「私にはない視点でした。……こういうのも良いですね」
     ありがとうございます、と礼儀正しく頭を下げる雛。
    「いえいえ、そんな……! 雛さん、最後まで頑張って走りましょうね」
     目を細めてふんわり微笑む佳奈子へ向けて、雛は「勿論です」と確り頷いた。
    『Cc』の列を先行する篠介の耳朶へと、後方を走る後輩達の賑やかな声が響いてくる。
     振り返ると、甘く熟した真っ赤な瞳を輝かせる壱子が自信満々に胸を張っていた。
    「えへへー…いちごね、走るの意外と得意なんだよっ」
    「じゃ、ラストは競争な」
    「勿論、篠介先輩には負けないよ!」
      先を行く篠介へと、壱子は宣戦布告してみせる。
    「依子サン、紅葉綺麗、だよっ!」
     メロが笑みを咲かせ、依子へと両手を大きく広げてみせた。
     其処にあった幾つもの紅葉は、メロの手の平を彩るように美しく散らばっている。
    「あら、綺麗な紅葉ゲット! ですね」
    「えへへ、昭子チャンといちごチャンにも見せるん、だー」
     元気よく駆け出したメロの背を、依子は緑の瞳を細めて微笑ましく見守った。
     依子がふと振り向くと、うつむいて走っている昭子に気づく。
     顔を上げてみて――という助言を頼りに、昭子は顔を上げて体勢を整えた。
    「んん。なるほど。足元よりも、周りを見た方が楽です」
     鯉や、水鳥――大きな灰の眸に、様々な景色を映して。
     不思議な感覚に耽りながらも、昭子は皆と並んでゴールへと目指してゆく。
     ひんやりとした空気を吸い込みながら、『雪隠れ邸』の蒼刃は妹である薙乃の様子を気にかける。
    「薙……あまり無理はするなよ?」
    「別に、マラソンくらい全然平気だしっ」
     決して人の前で弱音を吐かぬまま、薙乃は足を止めようとはしない。
    「マラソンを走りきったら、皆でお茶にしましょうね。お茶菓子を幾つか、家からいただいてきました」
    「あ、わたしもおやつ作ってきたよ。秋らしく、りんごのケーキ」
     お茶菓子、ケーキ――火夜と薙乃が発した単語に、素早く反応したのは雪姫であった。
    「お菓子が待ってる……お菓子が待ってるの……」
     白伽・雪姫――実は:とんでもない甘党。お菓子の為に、彼女は皆とマラソン完走を目指すのだ。
    「お菓子やりんごのケーキでお茶会か……あ、でも早く食べたいからって慌てないようにね」
     完走後のご褒美を待ち望みながらも、葵は皆に呼びかけた。
     お菓子もケーキも、決して逃げたりはしないのだから――と。
    「あの、迷惑、かけちゃうので……伶さん、先に行っていいですよ……」
     息を切らしたにょろが、伶に提案する。愛する人に、不愉快な思いをさせたくなかったからこそ。
     マラソンを嫌に感じ、愚痴や弱音を吐き出しそうになっている自分と居たって、楽しくないに決まっている――。
     そう深く感じて、今にも泣き出しそうなにょろを、その場で伶は抱き寄せる。
     走った距離がどんなに短くとも、咎めたりなんてしないから。
    「嫌だったのに良く付き合ってくれましたね。偉かったですよ……」
     彼の温もりに触れ、にょろは堪えることができずに涙を溢れさせた。
      冷たく吹き抜ける寒風を身に受けて、並木道を揃って走るのは『雨宿り』の三人だ。
    「走ってたらおなかすいちゃった。なんか秋っぽいもの食べたいなあ……走り終わったら、皆で行かない?」
     ふと、言葉が笑みを浮かべながら提案する。
    「秋っぽいものか? そうだな。無事にゴールしたら、皆で食べに行く事にしよう」
     雨ヶ屋は何を食いたい? ――そう久遠が訊ねると、刻は普段の明るい調子で淀みなく話し始める。
     和やかに会話を交わしながら、三人は井の頭公園を駆け抜けていった。
    「それにしても……今日は晴れて良かったですね」
    『ましろのはこ』の遥斗は清々しくそう言いながら、晴れ晴れとした秋空を仰ぎ見る。
    「走るの不得手同志、無理せず行こうな」
    「そうだな。完走する事に意味があるのだものな、マイペースで行こう」
     樒からそう声を掛けられ、みゆも笑みを広げて深々と頷いた。
     参加したからには、全力を尽くす為に。

     ――ぐらぁ、ばたり。

     一緒に頑張ろう、と意気込みかけていた柊・司が突然、道の真ん中へと崩れ落ちる。
    「柊さん、大丈夫ですか?」
    「はっ。寝てません。寝てません。大丈夫です……」
     香奈芽が司の元へと駆け寄る。どうやら、意識はあるようだ。
     司は自力で起き上がろうと、腕に力を込める――が。
    「これしきのこと…………済みません。肩を貸していただければ幸いです」
    「司さん、無理をしたらダメですよ」
     まったく、と遥斗は苦笑し、司を支えながら道を進んでゆく。

     互いのペースに合わせた調子で、桐人と花夜子はゆっくりと並走していた。
    「まだ青いけど、赤くなったら綺麗だろうね」
     そう言いながら、花夜子は公園を彩る青葉の木々を見上げる。
    「赤といえば。……花夜子の赤い瞳も、すごく綺麗だよね」
    「えっ……?」
     それだけじゃない、と桐人は真っ直ぐに花夜子を見つめて続ける。
    「白い髪も、可愛い声も、明るい笑顔も。みんなみんな、僕は大好きだよ」
    「私も……桐人の全部好き……」
     花夜子が囁くような声で想いを伝えたのち、二人は微笑みを交わし合う。
    「ああ、杏理、先に行ったかと思ったよ」
     白々しい台詞と共に、無常は悪戯っぽい笑みを浮かべている。
     杏理は共に走るはずだったこの男に置いてけぼりにされ、やっとの思いで公園まで走ってきたのだ。
     無常のジャージの裾を握り、息を整えたのち――やっと、杏理は口を開く。
    「……あのですね、先輩。僕、あなたの通常ペースだと申し訳ないことについて行けないので」
    「ははは、ごめんよ」
    「せめて横というか後ろを気にしながら走ってもらえると……助かります」
     その後、はあ、と吐き出した杏理の溜め息には、言い表せない複雑な感情が孕んでいた。
    「……貴明にとっちゃ高校最後のマラソン大会になンのかな」
     スポーツドリンクの蓋を開きながら、ふと和泉が静かに訊ねる。
    「ああ、真面目にマラソン大会なんて出るつもり無かったんだけどなあ」
     お前が居なかったらもっと簡素な学園生活で――人生の彩りも、褪せたものだっただろう。
     始めは苦笑を交えて、次第に過ごした日々を思い返しながら、貴明は悠然と語った。
    「なあ、またこうやって出掛けような。高校を卒業しても、いろんなものを見に行って、一緒に楽しみに行こう」
    「高校を卒業しても……か。当たり前だろう。お前とはそういう縁じゃない筈だ」
     和泉の率直な願いに対し、言うまでもなく、とばかりに貴明は微笑を湛えた。
     井の頭公園へと到着した時点で、陽羽の疲労は相当ひどく溜まっていた。
     幾度も転びかけ、その度に恋人のケイネスに支えてもらって。
     彼の足を引っ張っているのではないか。心に不安を、募らせる。
     その時――ぺちん! と、陽羽の額めがけてケイネスがデコピンをかます。
    「うぅっ。なにすんの、痛いじゃない……」
    「そんなこと考えてる暇あるんじゃったら、まっすぐ前向いて走っとき。
     ――そんで、一緒に手繋いでゴールしようや?」
     励ましを受けて、自然と陽羽の眸から雫が溢れる。悲しみでない、嬉しさの涙が。

     緑が広がる木々を見渡すうち、ふらりふらりと命達はコースから外れてしまってしまう。
    「あ、あそこ、葉っぱがきれいに赤くなってるよ~」
     そう指し示しながら、命は赤く色づいた木へと近寄っていった。
    「?」
     無表情のまま首だけを傾げて、レナータは彼女にただ付いていく。
     しかし命は、すぐさま水鳥の方へ興味を注ぐ。他にもめまぐるしく公園を走り回り――。
    「……そういえば、マラソン……こ、コース。どっちだっけ!?」
    「コースは……ずーっとあっちの方」
     レナータが手を差し伸べ、コースの方向を淡々と促した。

    「……今度、こういうところに、二人きりでゆっくりしに来たいですね……」
     と、控えめに智が呟いた。
    「……二人きり……」
     胸を高鳴らせながら、真琴は思わず言葉を反芻する。
     ――まさか、真琴に聞こえてしまっていたとは思っていなかったのだろう。
    「あ、あまり遅くなりすぎると大変ですし……」
     そう言い残し、真っ赤に染まった頬を手で覆いながら、走り去ってしまう智。
     はやる気持ちを抑えきれず、真琴は彼女の後を追うように走っていった。


     人々の声援が間近に聴こえてくる、吉祥寺駅前。
     さて突然だが今日、10月31日といえば……そう、ハロウィンだ。
     ――吉祥寺に、着ぐるみ出現!
    「それは、あたいたちだーっ!」
     マラソン中、ウサ耳をびよーんと伸ばしたヒマワリ着ぐるみのミカエラが元気に跳躍する。
     なんと、『あかいくま』と『文月探偵倶楽部』の部員達は着ぐるみでマラソンに挑んでいたのだッ!
    「えへへ、似合ってますかっ♪ 皆さんもそれぞれ良くお似合いですよ!」
     嬉々とした様子でバサバサっとフクロウの翼を広げる司。
    「うん! すっごくにあってるよ!」
     長い耳を揺らして、うさぎ着ぐるみの恋も元気よく道を走ってゆく。
    「これも鍛錬の一つ、着ぐるみで完走を目指します!」
     まさかマラソン大会という舞台でパンダを引っ張り出すことになろうとは――。
     パンダに扮した嘉月は、ぐっと拳を握って気合を入れる。
    「着ぐるみだらけの中、私は反旗を翻すっす!」
     もふもふに囲まれていながらも、レミは体操服に白衣と鹿撃ち帽という出で立ちでドヤっと決めポーズ。
     ポジションとしては、着ぐるみ達を支えるマネージャー役といったところか。
    「みんなで着ぐるみ、楽しいですねっ♪」
     ぺたぺたっと愛らしい足取りで駆けてゆくのは、ペンギン着ぐるみの月夜だ。
     学園生活から戦闘まで、いのぐるみを愛用し続ける師将もキビキビと走る。
    「旅は道連れ、世は情け。道路を覆いしは着ぐるみ……ですわねぇ」
     コアラの着ぐるみを被った桐香は、仲間達をにこやかに見守っていた。
     ハロウィンと同時にマラソン大会。つまり、着ぐるみで走れば目立てて仮装にもなり一石二鳥なのだ。
    「アタシたちは普段から着ぐるみだから、仮装でもなんでもないわけだけど……」
     イフリートの着ぐるみに身を包んだ毬衣は、チラリと直哉の方へ視線を向ける。
    「今こそふわもこ着ぐるみ普及の大きなチャンス。目指せ、着ぐるみが世界制服!」
     暑く、熱く――目つきの悪い黒猫の着ぐるみ姿で直哉は力強く語る。ちなみにだが、『制服』は誤字に非ず、であるッ!
     あくまで目標はマラソン完走! 着ぐるみ達は突っ走る――!

     遠く離れた仲次郎の背を追うようにして走り続けるのは、光画部部長であるまぐろだ。
     しかしふとした拍子に崩れてしまったペースは、簡単に整えることはできない。
     息も絶え絶えな様子のまぐろを――よいしょ、と仲次郎が担ぎ上げる。
     いつの間にやら仲次郎は、まぐろの元へと引き返していたのだ。
    「ちょ、ちょっと待って、あーる!? 担ぎ上げなくてもいいわよ!?」
     まぐろは顔を真っ赤に染め上げ、驚いた様子で声をあげる。
    「あっはっは、赤くなって照れてるまぐろさん、可愛いなぁ」
    「照れてるんじゃないわよ、恥ずかしいじゃない!?」

     お互いに声を掛けて励まし合いながら、めいことくるみが走り抜ける。
     此処まで辿り着くのにも、かなりの距離だ。
     話しながらのマラソンなのもあり、二人ともかなり疲れが溜まっている様子。
     段々とペースが落ちてきているめいこの手を、くるみがぎゅっと握った。
    「私がめーこちゃんを、ほんとに置いてくわけないでしょ!」
    「ありがとう、くるみちゃん……! 一緒にゴールするって、決めたもん。だから頑張る!」

    「――アッ、もうすぐ繁華街エリアか。ニャミ! ちゃんと走ってな!」
    「エ、エミちゃんっ……?」
     此処までずっと厳しく先導してくれていたエミリィが、星波を置いて人混みへと消えていく。
     安堵とさみしさを感じながらも、星波は足を止めることなくマラソンを進む。
     暫くしてエミリィの姿を見つけると――ふらふらと彼女の胸へと飛び込んだ。
    「や、やっぱり……っ、置いてかれるのは、やだあ。はああ、疲れたあ~……」
     エミリィが持っていたレジ袋には、星波の為にと買ってきた、スポーツドリンクとバランス栄養食が入っていた。

    「さあ、みんな! 上り坂に向けて寄りみ……、もとい探求部、繁華街を探求だよ!」
    『探求部』部長の結衣奈が、堂々と宣言する。
    「これはエスケープじゃありません。普段気づかないお店他エトセトラを探索しているだけです」
     そう言い張って、七波も部員達と揃って走り、繁華街を探求し始める。
    「あんま長居しないように、時間決めて効率よくいくぞっ」
     探求の最中、銀都は皆へとそう注意を促した。
     魔人生徒会の存在もあるからこそ、あからさまに休憩している事がバレないよう気をつけなければならない。
    「皆さん、タフですね……」
     今もなお走り続きである為、乙葉はかなり疲労困憊しているようだった。
    「せっかくだし、わたしが奢っちゃうよ! さあ、好きなものを頼んじゃって!」
     お姉さんらしく、結衣奈は後輩の乙葉と希紗に向けて呼びかける。
    「結衣ねぇ、ありがと~! どれが良いかな……!」
     街の様子を見渡したのち、希紗はドーナツ店を指差し、結衣奈へ案内していった。
    「皆さんと過ごすゆったりとした日常……いつまでも、続けていたいですね……」
     彼女等の様子を微笑ましく眺めた後、結唯は何処か遠くを見つめて小さく呟いた。

    「……なー、オレあそこらへん行ったことないんだけど、寄り道していい?」
     イリヤが繁華街の方を示しながら、隣で並走する昴へと提案する。
     繁華街に寄り道。昴としても興味をそそる――が、今は学園行事の真っ最中だ。
    「阻止部隊の人に見つかっても知らないよ?」
     悪戯っぽく笑んでそう囁けば、「スバルが止めるなら――……」とイリヤは仕方なく諦めた。
     遊びにならいつでも行けるけれど、まずは一緒にゴールを目指さなくては。
    「どこに行きたい? メイニー。とことんまでつき合うぜ」
    「うん、まずはあのお店を覗いてみたいかな」
     平日の真昼間に繁華街へ行く機会など滅多にないだろう。
     武流はメイニーと共に、色んな店を見て回っている。
     もはやマラソンではなく、立派なデートになりかけてはいるが――。
     勿論、武流もメイニーも、ゴールのことは忘れてはいない。
     ただ、今は恋人と共に過ごす時間を、のんびりと楽しんでいた。

     未空が順調にマラソンを走り抜けている最中、ポケットに入れていた携帯が振動する。
     確認すると、先を進んでいるはずのイリスから電話が掛かってきていたのだ。
    『未空ちゃん!助けて!道に迷ったよ!』
    「……今どこなのですか? 目印や番地の看板はありますか?」
     伝えられた目印を頼りに、未空は電話越しからイリスを正規のマラソンコースへと誘導することとなる。

    「助かったよ未空ちゃん。無事に戻ってくれたよ」
     お礼を言った後、イリスは未空との通話を切る。
     愛用の携帯をふと眺め――イリスは今更になって、思い出した。 
    「(確か、この携帯……GPS機能付いてたんだった。まあ、いいか……)」


     義姉の栞と並走していた翠が、足をもつれさせて躓き、その場で倒れ伏してしまう。
    「もう、すこし……です」
     そう、もう少し。もうすぐ傍には最後の難関、上り坂が待ち構えている。
     あれを乗り越えれば、マラソン完走だ。
     だから頑張って、と栞は翠の手を握って引き上げ、再び立ち上がらせる。
    「あっ、ありがとう。お姉ちゃん……」
     涙で潤んだ瞳を拭い、翠は栞の手をぎゅっと握り返した。

     上り坂を駆け上がる途中。足元が縺れて転んだ梗花へ、咄嗟に南守が手を差し伸べる。
     同じ孤児院に居た幼いあの頃とは違う。口に出さずとも、分かる。
     握り返した掌から伝わるのは『大丈夫』――という、確かな想い。
    「ったく、幾つになっても梗花は足元おぼつかねーなぁ。今度転んだらおぶってっちまうからな?」
     笑みを向けて梗花の背中を軽く一つ叩いたのち、南守は再び坂道を登り始める。
    「おぶられるのは、流石に恥ずかしいよ」
     投げかけられた言葉に少しばかり拗ねつつ、南守の背を追うように梗花は走った。

    「なぁ、信」
     隣の恋人から呼ばれ、信彦は顔を向ける。
     上り坂に臨む直前、奏はある話を持ちかけた。先にゴールできなかった方は、ゴールした方の言う事を一つだけ聞く――という、単純なゲームだ。
    「えっ、一緒にゴールするんじゃねぇの?」
     そう信彦が訊ねれば、褒美があるとヤる気に火が点くだろ? ――と、奏は楽しげに唇の端を歪めた。
     勝負開始は掛け声と同時。
     ――と、思わせておきながら、奏は信彦の耳元でそっと、甘い愛を囁く。
    「はぁっ!? お前何言ってんの!? って、くっそやられた!」
     罠にハマった信彦の隙を見やり、いつの間にか奏は坂を登り始めている。
     耳までも赤く染まったまま、信彦は奏の背を追いかけた。

     蓮司と流惟は順調に坂を登ってゆく。いつの間にやら、ゴールも目前だ。
    「そうだ……レン、競争しよっか。負けた方がこの後……ご飯奢りね!」
     そう告げた直後、温存していた体力を奮い、流惟が全速力でゴールへ向かっていく。
    (「……ああ、予想通りの展開だな」)
     勝負を持ちかけ、何かを賭けることも。ラストスパートで一気にゴールを目指す事も。
     マラソンは終盤ではあるものの、蓮司も体力が有り余っていたのだ。
    「――えっ!?」
    「俺に勝つには甘かったな……」
     瞬時に流惟を追い越して、蓮司はゴールへいち早く到達した。

    「……っと、痛っ!」
     龍一と並走していた最中、紗里亜はふとした拍子に足を挫いてしまう。
    「ゴールまでもう少しですし、龍一さんは先に行って下さい。私は大丈夫ですから……」
     それでも、龍一は紗里亜を置いてゴールへ向かおうとはしなかった。
     龍一は決心して、重々しく口を開く。
    「その……紗里亜さんが良ければ、ですけど……おんぶ、しましょうか?」
    「……え?」
     一瞬、紗里亜の思考が停止するものの、気がつけば龍一は顔を真っ赤に染め上げていた。
     彼なりの気遣いと、一緒にゴールしたい気持ちと、そして――距離を縮めたい思いと。
     それらを己の胸いっぱいに受け止めて、紗里亜は「……はい」と頷いた。

    『夜天薫香』のあずさが脇腹の痛みに耐えながら、ゴールを目指して坂道を進む。
    「あと少しだから……意地を見せろよ、高野。男だろ?」
    「が、がん、ばる……!」
     すぐ傍から優志が静かな声で後押しし――遂に、あずさ達は一斉にゴールへと達する。
    「10キロ完走……おめでとう、高野」
    「みんな、お疲れ様でした。何とかゴール出来たね……」
    「皆、ありがとう……っ」
     両の目を潤ませながら、あずさは優志と拳をぶつけ合ってから、天嶺と握手を交わした。

    「駄目だー、僕はもう駄目だー……これ以上走れないっ!」
     そう言い残し、響斗は音を立てて崩れ落ち、力尽きる。
     上り坂の路上に仰向けで寝転がる『白の王冠』部長の彼へと、冷静に声をかけるのは騰蛇だ。
    「硲さん、まずは起き上がりましょう」
    「騰蛇君! 僕の事は此処に置いていって思う存分、風を切って走るといいよ!」
     この様子では仕方がない――と、騰蛇は響斗を背負って、また坂道を登り始めた。
    「背中が汗で湿っているかもしれませんが、我慢して下さい」
    「いいよいいよーっ。ゴールまで連れて行ってくれるなら!」

     ゴール前である武蔵坂学園の校門では、今年も『びゃくりん』が宣伝を行っていた。
    「やれやれ。まあ皆楽しそうだし、多少恥ずかしいぐらいは良しとするかね」
     咲哉は幟を掲げながら、皆の様子を見つめてそう独りごちた。
    「みんなー、マラソンの後はびゃくりんをよろしくねー♪」
     向日葵は普段通り、明るく元気いっぱいな笑顔でアピールする。
    「疲労回復には、りらくぜ~しょんぷらざ・びゃくりんのご用命を!」
    「皆さん、マラソンの疲れと汗は是非ともびゃくりんで流していってくださいませ!」
     ハキハキと宣伝する真琴に続き、セカイも透き通るような声を響かせて生徒たちへと呼びかけた。

    (「この……上り坂を上がれば……」)
    『図書愛好会』の通には今、白半袖にブルマという愛らしい己の格好を恥じらう余裕すらない。
     身も心も――限界に近かった。身体が、ふらつき始めている。
    (「置碁、そろそろ出番だぜ」)
     利戈からの目配せに、春実は即座に応じた。
     足から力が抜け、崩れかける通の身体を――利戈が優しく抱きとめていた。
    「おっと。……よしよし、ここまでよく頑張ったな、普。後は置碁の背中で休んどけ」
    「ゴール手前になったら下しますからね。三人みんなでゴールですよ」
     通を背負った春実は、彼の身体を揺らさぬよう慎重に駆け出した。

    「はぁ……オレ、筋肉痛でもう全然動けねーっス」
     険しい坂道の真っ只中、『絆部』の愛は腰を下ろして深く溜め息を吐き出した。
    「……って、もう愛ちゃんは限界っぽいなー……。ひよりんと透夜は、も少し頑張れそうかー?」
    「勿論! 私はまだまだ行けるよ。愛くんは大丈夫かな?」
     悠からの問いに対し、ひよりは笑顔で応える。透夜も順調に、坂道を登れているようだ。
    「上り坂、めんどくせー……」
     弱音を吐き続ける愛を見かねて、仕方ないと悠は彼を背負って坂を登ることになった。
    「愛ちゃん、重……っ!」
    「……っと、神羽さん、小鳥遊さん、手伝いますね」
    「わたしも何かお手伝いさせてっ。みんなで一緒にゴール、したいから――!」
     透夜はおんぶされている愛の背中をそっと押して、少しずつ進ませてゆく。
     ひよりも彼等を手伝えるように、悠の背を支えるようにして押す。
     皆が助け合ううちに――学園の校門へと、到達する。
    「うっし、みんなお疲れ!」
     悠の言葉と同時、四人が奏でるフィストバンプとハイタッチの音が次々と木霊した。

    作者:貴志まほろば 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年10月31日
    難度:簡単
    参加:160人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 9/キャラが大事にされていた 18
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