殺すのだけは勘弁な

    作者:相原あきと

     その男は反省したふりをし出所してから数日も経っていなかった。
     鎌霧・烈(かまきり・れつ)、18歳。
     在学中に仲の良かった友達にナイフで怪我を負わせ、その後、反省するよう説得していた両親を包丁で怪我させた凶悪な青年だった。
    「どいつもこいつも! 誰もオレの事をわかっちゃいねー! 次は遠慮無く心臓えぐるぞオラ!」
     とは、当日の烈のセリフだった。
     烈はキレたら手が付けられなかった。在学中から老人や子供にすら躊躇無く暴力を振るう悪逆非道の不良として有名だったし、事実、心から烈の事を思って優しくしてくれる人こそ疑り暴力を振るう、そんなひねくれた悪童であった。
     しかし今、烈は穏やかな眠り顔で自室のベッドで寝っていた。
     烈の胸の上には新書版サイズのレトロな機械が乗り、ぴこぴこと怪しいランプを点滅させ……――。

     ――それはHKTの睡眠学習ゲーム。
     弱い魔物から順に敵として登場し、最終的には親族などの殺しにくい相手が敵として現れる。
     そして鎌霧烈は手に持ったナイフを大地へと投げ捨てる。
     その相手は斬りつけても殴りつけても、どんなに痛み付けても向ってくる。
    「くそっ、なんで、なんで逃げねぇ! 死ぬぞ! 本気で死ぬぞ!」
     斬りつける度に相手が弱って行くのがわかる。これ以上やれば確実に……。
    「くそっ! ふざけんな! オ、オレに、殺せっていうのかよ!」
     大地に膝から崩れ落ちる烈、カランとナイフも手から落ちた。
    「こ、殺せるわけがねぇ! お、俺は……苛めたり気づ付けたりはできても、こ、こ、殺すのだけは……動物だって無理んんだよぉぉぉぉぉぉ!」
     叫ぶ烈に対し、じわりじわりと敵――スライム達(最初に出て来たモンスター)が迫って来ていた。

    「みんな、臨海学校で騒ぎを起こしたHKTの事は覚えてる?」
     エクスブレインの鈴懸・珠希(中学生エクスブレイン・dn0064)がみなを見回しながら質問する。
     HKT、正確にはHKT六六六人衆による事件。
     黒いカードを手にした一般人が殺人衝動に覚醒して無差別殺人を行う……それを未然に防いだのが臨海学校での事件だったが。
    「実はね、博多で謎の機械を受け取った人間が悪夢に捕らわれる事件が起きているらしいの」
     珠希が言うには、事件を起こしているのはシャドウの協力を得た六六六人衆で、悪夢を見ている人間を新たな六六六人衆として闇堕ちさせようとたくらんでいるらしい。
     悪夢を見ているのは六六六人衆の研修生で、鎌霧烈という18歳の青年、自ら望んでその悪夢を見ているようなのだが……。
    「だからと言って、一般人の闇堕ちを黙って見てるわけにはいかないわ! 夢の中で彼は殺人ゲームを行っているはずだから、みんなも夢の中に入ってそのゲームをくい止めて欲しいの!」
     灼滅者が夢の中に入ると、そこでは鎌霧烈がスライムを相手に戦意喪失している状態らしい。
     彼を守りながらスライムたちを倒す必要があるのだが、そこまで強い敵ではない。スライムだし。
    「だけど、簡単に倒しすぎるのも問題なの。もしサクっと倒しちゃったら、『助っ人NPCがやってきて苦手な敵を倒してくれた』って勘違いして、彼はそのままゲームを続行しちゃうわ」
     つまり、敵を倒す前に、これ以上このゲームをしてはいけないと説得する必要がでてくる。
     可能ならば、彼が二度とHKT六六六人衆の誘惑に乗らないように更正させてあげられれば文句は無いのだが……。
     そこまで言って珠希は「最後に……」と真剣な表情で付け加える。
    「彼を目覚めさせると、それを察知した六六六人衆がソウルボード内に現れるかもしれないの」
     その場合、珠希もどんな相手が来るかまで予測できないらしい。もちろん、来ない可能性もあるからだが……。
    「どっちにしろ、その時点で目的は達していると思うから、戦わずに撤退しても問題は無いからね! それじゃあ、よろしくね」


    参加者
    アリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814)
    宮廻・絢矢(はりぼてのヒロイズム・d01017)
    万事・錠(ハートロッカー・d01615)
    杜羽子・殊(万色を抱く蕾・d03083)
    華槻・灯倭(紡ぎ・d06983)
    ンーバルバパヤ・モチモチムール(ニョホホランド固有種・d09511)
    辻・蓮菜(反魂パステルアーミー・d18703)
    魅咲・桜(桜姐さん・d19670)

    ■リプレイ


     自室のベッドで怪しげな機械と共に眠っている青年――鎌霧・烈(かまきり・れつ)。
     その烈を8人の学生が見下ろすように囲んでいた。
    「信じることって難しいかもしれないけどさ……」
    「うん、信じるのって怖いことだしね……僕だってそうさ、きっと今だって誰も信じられていないのかも……偉そうなこと言う権利、無いのかもしれない」
     眠る烈を見つめつつ杜羽子・殊(万色を抱く蕾・d03083)が呟くとつぶやくと、宮廻・絢矢(はりぼてのヒロイズム・d01017)が続ける。
    「世界は甘くない、よね」
    「うん……でも――」
     絢矢が思い詰めるように言おうとした時、絢矢の肩にそっと魅咲・桜(桜姐さん・d19670)が手を乗せる。優しく微笑む桜に絢矢は一拍置いて落ち着くようゆっくりと息を吐いた。
    「何だかよく解らないケド、フシギなゲームなのヨー」
     ピコピコと点滅する機械を指でツツこうとするンーバルバパヤ・モチモチムール(ニョホホランド固有種・d09511)を桜が止める(止められたンーが桜を見上げてぐぬぬとなっていた気がするが今は置いておく)。
    「睡眠学習で殺人ゲームだなんて、いくら夢でも趣味悪いよ。ねぇ、早く助けに行こう」
     華槻・灯倭(紡ぎ・d06983)の言葉にシャドウハンターの辻・蓮菜(反魂パステルアーミー・d18703)がうなずくと、ギターを構えて歌い出す。
    「わかーるわかるよ……わかるかもしれないよキミの気持ち~♪」
     ギターの腕前はともかく、それは天使のような歌声だった。
    「だからまずはちょっとお話しよ~?」

     夢の世界の草原で、たくさんのスライムを前に烈はナイフを取り落とし絶叫する。
     それと同時、マスコットっぽいスライムたちが一斉に襲いかかり――。

    「Slayer Card,Awaken!」

     声が聞こえたかと思うと、最初に飛びかかってきたスライムがはね返される。
    「!?」
     呆然とする烈、見れば5つの護符が空中に浮かんでおり――。
    「木火土金水。五の天星にかけて命ず。古式の符よ、障壁となれ。急急如律令」
     先ほどと同じ声と共に、護符を頂点とした白き五芒星が描かれ障壁と化した。
     それはアリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814)の五星結界符。
     驚く烈の前に色黒で粗暴そうな印象の青年、万事・錠(ハートロッカー・d01615)が現れ、烈を守るようにスライムたちに立ち塞がり、一寸遅れて6人の学生たちが現れた。
    「な、何なんだお前らはよぉぉ!?」
     烈の言葉にスッとナイフを手に持った殊が答える。
    「キミを助けに来たんだよ。一線を越えた後だと遅いけど、今ならまだ間に合うしね」
    「オ、オレを助けに?」
    「うん、できれば今後は平穏に生きて欲しい。大切って思っていることを大事にして生きて欲しい……その為にも、キミを助けるよ」
    「は!? 何の為にだよ!」
     烈の問いに殊は手に持ったナイフを額に当て、祈るように目を閉じる。
    「ボクがボクであるために」


     8人全員が殲術道具を構えスライムたちを牽制する。
     明らかに尋常じゃない8人に烈は慌てて捨てたナイフを拾う。
     それを見ていた灯倭が、はふ、と小さくため息を付き。
    「君は命を背負う事の重さを知っているんだよね。だから殺すことが出来ないんだ」
    「は、はぁ!? 何勝手に――」
    「意地っ張りは終わりにしよ? 君が誰かを傷つけた事は、いつか君に返ってきてしまうし、このままじゃ傷だけでは済まなくなるかもしれないよ?」
     灯倭の言葉は全くの正論だ。灯倭の足下に控える霊犬の一惺も心配そうに烈を見る。
     だが――。
    「命の重さなんて知らねーよ! それに傷が返ってくる? はっ、そんなのオレは全く怖くねぇんだよっ!」
     真っ赤になって反論してくる烈。
    「やーい烈君の怖がり屋!」
    「ぁん!?」
     別からかけられた蓮菜の言葉に烈の額に青筋が立つ。
    「ナメらんないよーにって殴ってたんじゃ、そりゃわかってもらえなくなるっすよ!」
     蓮菜はじゃじゃーんとギターを弾き鳴らすと。
    「まずは暴力とゲームに頼らないで対話っす! おしゃべり苦手なら歌でもいいっすよ? とりあえず一緒に歌ってみようじぇ!」
     とても好い笑顔の蓬莱、だが烈は図星だったかのように顔から湯気が昇りそうなほど真っ赤になって怒り出す。
     周囲ではスライムたちが8人を敵だと認識し、じわじわと包囲を狭めて来ていた。
     それを蓬莱の影であるニョグたんや、灯倭の霊犬一惺も共に牽制し、できるだけ烈を囲まれないよう位置をとる。
    「人を信じるのって、とても怖いことだと思う」
     体はスライムの方を向けつつ、視線だけ烈に向けて言うのは絢矢だ。
     反射的に反論しようとした烈だが、絢矢の瞳と目が合い、そこに同じような色を見て言葉を詰まらせる。
    「でもさ、弱さを見せることが出来ないのも、優しさに応えることが出来ないのも、また弱さだよね」
     ナイフを持ちつつ震える烈、絢矢は。
    「誰もわかってくれないって言うけれど、相手と向き合わず目をそらしても何も解決しないよ?」
    「何が、何が解るんだよ……オレだって、そ、それなのに、オレは……気づくと殴っちまってて――」
     その時だ。
     まるで大地が震えるように、ポウンッ、と音が聞こえたかと思うと、スライムたちが一斉に跳躍し襲いかかって来たのだ。
     その一斉攻撃は灼滅者だけでなく、その囲いを越えて烈へも迫る。
     ザシュッ!
     烈を襲おうとしたスライムが哀れな悲鳴をあげ、ウロボロスブレイドに切り裂かれる。
     烈の前には錠。
    「お前の気持ち、分かるぜ」
     再び跳躍してくる2匹目のスライムを縛霊手で掴むと放り投げ、自嘲気味に錠は言う。
    「俺も……誰も信じられなかった。殺すのが怖ぇって気持ちも分かる、それに……このまま繰り返してたら、いつかマジでバラしちまうって、そう思ってんだろ」
    「うっ」
     烈が呻く。
     それは烈が何重にも何重にもして隠していた気持ち……。
    「命を奪いたくねェのなら、暴力以外の抗い方を覚えるしかねぇぜ」
     錠の言葉に烈が初めて怒り以外の表情を見せる。
    「そんなこたぁ、わかってんだ……だけどよ、どうしたって……」
     ナイフが手からこぼれ落ち、烈が両膝をつく。
     それは強がりヒネクレた悪童が見せた初めての弱さだ。
    「未必の故意って、知ってる?」
     スライム達を牽制しつつアリスが言葉だけを烈へ。
    「未必の……故意?」
    「殺すつもりはないのに、傷つけすぎて間違って殺してしまうようなことをいうのよ」
    「それは……」
    「暴力を振るわないのも勇気よ、そしてそれは、他人を信じることにもつながるから……」
     スライムたちから目を離さず語るアリス、烈もまたアリスの言葉を呆然と反芻していた。
    「とりあえず、今回の暴力は私たちが肩代わりしてあげる」
     考え始めた烈をちらりと見て、アリスは仲間達に宣言する。
    「さぁ、スライム退治といきましょう」
     最初に飛び出したのは桜だった。
     スライムたちの群に納刀したままの状態で飛び込み。
     神速の居合いで一刀両断する。
    「一般人に用意された初級の魔物、わたくしの敵ではありません」
     だが、斬られたスライムは1匹、飛び込んできた桜に一斉に回りのスライムたちが飛びかかろうとし……カキン。
     足下が一気に凍り付く。
     殊のフリージングデスで動きの鈍ったスライムたちに、灼滅者たちが攻撃を開始する。
     次々に斬られ、つぶされ、はじけ散るスライム。
     うつろなまま烈がそれを見ており、スライムが消滅するたびに顔を歪ませていた。
     その気持ちに思考を読んでいたかのように一番に気づいたのはンーバルバパヤだ。
    「傷は何時か塞がるモノヨ」
     ンーが烈に言いながら、自分の傷をソーサルガーダーで癒す。
    「でも、殺しちゃったらお終いヨ……命は物と違って、壊れたら元に戻らないのヨ」
    「………………」


     倒したスライムの数は6体、紅蓮の如き紅を纏わせたナイフを逆手に持ち、攻撃の手を止めると烈を振り返る殊。
     烈は無言で自分が捨てたナイフを見つめていた。
    「キミは、殺せないんでしょ?」
     ビクリと顔を上げる烈、じっと見つめながら殊が言う。
    「何度も誰かを傷つけて、だからこそ一番奪っちゃいけない物を、命は大事だって事を……知ってるんじゃないのかな」
     烈が唇を震わせる。何かを、堪えるように。
    「殊ちゃん後ろ!」
     仲間の声が響き、振り向きざまにナイフを一閃。
     紅光が尾を引きスライムが真っ二つに斬られポトリと落ちた。
     殊は烈に背を向けたままその言葉を口にする。
    「……だからやめよう? 誰かを傷つけるような、そんな生き方は」
    「そうですよ。暴力に頼っていたら、いつまでたっても他者と分かり合えることはできません。人は互いに歩み寄って初めて分かり合えるのですから」
     殊を援護するように桜も言葉を重ねる。
    「オレだって……オレだってよぅ……」
     両手で大地を叩くように、そのまま草を握りしめる烈。
     殊と桜がさらに何かを言おうとした時、ソレは起こった。
    「すごい! すごいのヨー!」
     ンーバルバパヤのはしゃぐ声が聞こえ、見れば残ったスライム8匹が次々に押しくら饅頭のように固まると。
     ピカッ!
     光が瞬く。
    「あらあら、塵も積もればなんとやら。ですね」
     桜の言葉通り、そこにはただ1匹の……巨大なスライムが出現していた。 
    「おおー! 合体ヨー! ンーの中でちょっと評価上昇ヨ!」
     合体させる作戦だったんだけど……などと思っていた灯倭の足下で、一惺がワンッと吠え、合体に呆然としていた皆の意識を引き戻す。
     ンーバルバパヤも、チャームや石が怪しく用いられた呪具を構え。
    「合体スライムはなんて言う名前ヨー?」
     影が刃となって巨大スライムを切り裂くも、スライムは揺れるだけだった。
     仲間達が一斉に攻撃を開始する中、烈のそばで彼を守るのは錠だ。
     ――ぼそり。
    「?」
     錠のつぶやきに、思わず烈が顔をあげる。
    「だから、俺も同じだったんだよ。誰も信じちゃいなかった……けど、俺にだって出来たんだ。お前も他人の優しさを信じろ、信じる勇気を持て」
    「はっ……でもよ、オレはオレの中の暴力が止められねぇんだよ……」
    「オレは、ドラムをやってる」
    「あ?」
    「俺も同じだって言っただろうが。衝動を昇華させる為に……いろいろやってんだ。知ってるか? ドラムを叩くとけっこうスカっとするんだぜ?」
     にやりと笑う錠に烈は同類の空気を感じたか、それとも少しだけ進む方向を見つけたか、同じように笑みを浮かべ。
    「人を殴るよりドラムを叩く、か。はは、本当にそんな事でコイツが収まるのかね?」
    「別にドラムにこだわる必要は無いわ」
     口を挟んできたのはアリスだ。「聞いてたのかよ」と少し恥ずかしそうに錠が非難するがアリスはさらりと笑って流すと。
    「力を振るいたくなったら、弱者を守るために使ったらどう?」
    「弱い奴らを?」
    「ええ、正義の味方は気持ちいいわよ?」
     烈は膝を手で支えて立ち上がると、ハッと笑ってアリスや錠を見る。
    「正義の味方ね。そこまでできりゃあ、本当に更正したって感じだな……だが、わかったよ。とりあえずそれを目標にしてみる。オレにできるかわからねーけどな」
     鎌霧烈が果たして本当に更正できるかはわからない、けれど灼滅者達は1人の若者に日の当たる道を示せたのでは無いだろうか。
    「ニョグたん! 食べて食べて! 助けて!」
     戦場にカメラを戻せば、蓬莱が思いっきり巨大スライムに押しつぶされていた。
     己の影(ニョグたん)が、必死にスライムに食らいついて蓬莱を助けようとするが……。
    「ああ……でも、ぷよってて気持ちいい……スライムカワイイ……」
     目が遠くへ逝きだす蓬莱。
    「来たるべき冬の将よ、汝の刀槍を今この場に差し招き給え。贄を喰らい給え」
     蓬莱の周囲のスライムがアリスの放ったフリージングデスで凍り付き、なんとかその隙に脱出できた。
    「あ、ありがとうっす」
    「どういたしまして」
     アリスにお礼を言った蓬莱だが、やられっぱなしでなるものか!
     再び巨大スライムに接敵すると、激しく情熱的に……スライムに掴みかかっては楽しそうに引っ張り始める。
    「弄びながら倒してやるのじぇ!」
     ふと、ウロボロスシールドで自己回復しつつ灯倭が烈に声をかける。
    「悩みは晴れた? 大丈夫、捨てたもんじゃないよ。人を信じるっていうのもね」
    「がんばっては見るさ」
    「じゃあ、もうこんなゲームはしちゃ駄目だよ?」
    「するかよ!」
     烈の答えに嬉しそうに頷く灯倭は、一惺を伴い再び巨大スライムへと飛びかかる。
     戦いは灼滅者有利で進む。
     スライムたちは巨大化してタフにこそなれ、サンドバッグと化していた。
     そして――。
    「強くなりましょう」
     絢矢の声は戦場の中でなぜか烈の耳へ届いた。
     烈が戦う絢矢の背を見つめる。
     絢矢は冷気を纏った赤い花を顕現させると。
    「ぷよぷよと邪魔な奴……死ね」
     烈には背だけを向け、巨大スライムには冷酷な表情で溜めたオーラを一気に解き放つ!
     ズ、ズズズズ……。
     煙をあげて巨大スライムが倒れ動かなくなる。
     烈の方を振り返る絢矢。
    「力に振り回されないように強くなりましょう。殺す事はいけないことだって解ってるあならになら、きっと出来るはずだから」
    「へっ、言われなくとも……なってやらぁ」
     烈は挑戦的な、しかし何か付き物が落ちたような顔でそう言うのだった。


    「それにしても……本当許せないっすよ!」
     スライムが完全に消滅した所で、別の怒りを燃やすのは蓮菜。
     夢に入る機械なんて作られたらシャドハンの影が薄くなるとかなんとか……。
    「まあまあ、帰って調べれば何か解るかもしれませんよ?」
     と桜がなだめ、絢矢も後で機械を回収しようと言い、蓬莱も不承不承納得する。
     そんな中、緊張感も途切れさせず周囲を警戒する殊。
     同じように警戒していた錠が。
    「来ないな」
    「……うん」
    「あいつが来るかと思ったんだがな」
    「あいつ?」
     錠の言葉に殊が見上げながら聞くが、答えたのは灯倭だった。
    「錠くんもか、私も……そう思ってたんだけどね」
     灯倭と錠、何か通じるモノがあったのか2人して安心したような悔しいような……。
    「あの人助けたし、もうあとは三十六計逃げ何とかで早く帰るヨー?」
     ンーバルバパヤが口に人差し指を当てて素直に聞く。
    「ええ、そうね……」
     アリスも夢の世界の草原を見回しつつ――。

     鍵となる物語が用意されているわけじゃない。
     自ら一歩を踏み出した時、物語は特別なものへと変わるのだ。

     ――鎌霧烈の人生は今後新しい展開を見せるだろう。
     依頼は成功したのだ。
     皆が帰り始める中、アリスは後ろを振り返る。
     フラグを踏まなかった……?
    「どうしたヨー?」
     ンーバルバパヤが心配そうにアリスに声をかける。
    「いいえ、気にしないで……ゲームの話よ」
     HKTの事件はまだ終わっていない。
     それなら、次の機会でこそ……。

    作者:相原あきと 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年10月26日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 11/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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