●
「どうしたの? もうお仕舞い?」
乱れた髪を手櫛で整えながら、美しい女は畳の上で大の字になってぜいぜい喘いでいる男を見下ろした。見ると、他にも同じように、畳の上でぐったりしている男たちがいた。
「も、もう勘弁してくれ……。これ以上は、し、死んじまう……」
息も絶え絶えに男は答えた。
「ったく。あれだけの啖呵切っといて、1日保たないって、あんたたち情けなさすぎ」
「お、俺たち5人の相手して、あんた、なんでそんなに元気なんだよ……?」
「あんたたちが、だらしなさすぎるのよ。で、どうなの? もうギブアップ?」
「ちょ、ちょっと休ませてくれ。頼むよ。このままじゃ、打ち止めの赤玉が出ちまう」
「そう。じゃ、休ませてあげるわ。……永遠にね」
女はそう言うと、その身を変貌させた。青く醜い肌を持つ、異形の怪物に。
「ひっ」
男たちは息を飲み、その場から逃げ出そうとするが、足腰がいうことを聞いてくれない。
『サ…ヨ…ナ…ラ…』
異形の怪物が腕を振るった。男たちの首は、次々と胴体から刎ね飛ばされていく。
「……人生の最後に良い夢を魅せてあげたんだから、悪く思わないでね」
美しい女の姿に戻り、くつくつと笑いを零す。
「さて、またオモチャを集めてこないとね」
女は身なりを整えた。
「……あなたはその力で、何がしたいの?」
屋敷の柱の陰に、いつの間にか少女がいた。灯りが充分に行き届いていないために、少女の表情がはっきりと見えない。しかし、どこかの学校の制服を着ているということだけは分かった。
「にゃあー」
間の抜けた猫の鳴き声が聞こえた。どうやら、その少女が抱いているらしい。
「あなた、誰?」
「ここに来る途中で拾った。ダンボールの中で、震えてた」
「いや。猫のことじゃなくて……」
女は大袈裟に肩を竦めた。
「……また、人を殺すの? その力で、命を奪うの?」
少女がこちらに顔を向けた。左サイドで纏めた髪が、小さく揺れた。
女は挑むような態度で応じる。
「世の中の下衆な輩を処分してるだけよ。いけない?」
「別に……。でも、こんなことを続けていたら、近いうちにあなたは殺される」
「あたしが!? 誰に?」
「あなたを殺しにくる人たちに」
女は、自分が殺されるなどありえないと、一笑に付そうとしたが、少女が向けた赤い瞳を見た瞬間、その考えを改めた。
「あなたのような人たちが、もう何人も殺されている」
「あたしはどうすればいいの?」
「あなたがどうなろうと、別にわたしには関係ない。でも、連れてこいって言われたから」
「……あなたに付いていけばいいのね? わかったわ。年下も、たまにはいいわよね」
女は嬉しそうに微笑した。
●
「ヴァンパイアさんがデモノイドロードをスカウトしてるって話は、もう知ってるよね?」
タブレットPCの画面をスライドさせながら、木佐貫・みもざ(中学生エクスブレイン・dn0082)は集まった灼滅者たちに問いかける。
デモノイドヒューマンと同じ力を持つデモノイドロードは、自らの意思で自在にデモノイドに変貌することができる厄介な存在だった。
武蔵坂学園の灼滅者であるクラリス・ブランシュフォール(蒼炎騎士・d11726)は、デモノイドロードを自勢力に取り込もうとするダークネスが現れるのではないかと危惧した。9月に入り、正しくそれが現実のものとなってしまった。朱雀門高校に属するヴァンパイアたちが、デモノイドロードと接触し始めたのだ。
「けっこう阻止できてるんだけど、幾つか失敗もしてるんだよね」
事件を穏便に解決するには、デモノイドロードが事件を起こしてから、ヴァンパイアが現れるまでの短い期間に、デモノイドロードを倒さなければならなかった。時間制限を伴う強敵との戦いは、容易なことではない。
「今は誰も暮らしていないお屋敷を根城にしているデモノイドロードがいるのだ。名前は、相染・生野(あいぞめ・いくの)。20台前半の超美人のお姉さんなのだよ」
みもざは、「美人」という箇所を強調する。
「相染・生野さんは、男の人を集めてきては、お屋敷の中で、その……あの……な、なんか楽しいことをして遊んでいるのだ! でもって、男の人の体力が尽きたら、容赦なく殺しちゃうのだ」
一部の内容をぼかしているのは、良い子のみんなは知らなくていいことだからだろう。
「みんなが到着する頃は、まだ5人の男の人は生きているはずのだ。は、は、裸で畳の上にぐったりしてるから、できれば助けてあげて欲しいのだ」
どうでもいいが、あまり助けてあげたくない状況ではある。が、一般人を見殺しにするわけにもいかない。
「お屋敷の中には問題なく入れるから、相染・生野さんを見つけたら、懲らしめてやるのだ!」
灼滅できればそれに越したことはないが、よしんば時間内に灼滅できなかったとしても、死への恐怖心を植え付けることができれば、任務は成功したと言えよう。
「ヴァンパイアさんが現れるのは、デモノイドロードとの戦闘を開始できるようになってから、10分後だよ。8分以内にデモノイドロードを灼滅できれば、安全に撤退できるはずなのだ。余計なことをしているとヴァンパイアさんが来てしまうので、灼滅したらとっとと撤退した方が良いのだ」
現時点で、ヴァンパイア勢力との全面戦争は避けたい。なので、ヴァンパイアが現れたら直ちに戦闘を中止して、撤退しなければならない。
「接触してくるヴァンパイアは、サイドテールの女の子なのだ。この前、救世・太門(くぜ・だいもん)ていうデモノイドロードを連れてった子と同じみたいなのだ」
ヴァンパイアと戦闘になったとしても勝利は難しいという。また、その後の情勢も悪化する可能性がある。
「相染・生野さんは、男の子がとっても好きなのだ。色香に惑わされちゃだめだぞ! 淫魔みたいなエッチな人だけど、淫魔じゃなくてデモノイドロードだから間違わないで欲しいのだ」
みもざは腰に手を当て、灼滅者(特に男子)に注意する。
「それじゃ、気をつけて。頑張ってくるのだぞ!」
参加者 | |
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神條・エルザ(クリミナルブラック・d01676) |
王子・三ヅ星(星の王子サマ・d02644) |
シルフィーゼ・フォルトゥーナ(小学生ダンピール・d03461) |
天宮・黒斗(黒の残滓・d10986) |
夢代・炬燵(こたつ部員・d13671) |
エール・ステーク(泡沫琥珀・d14668) |
フィナレ・ナインライヴス(九生公主・d18889) |
夜桜・紅桜(純粋な殲滅者・d19716) |
●
その日本家屋は、ひっそりと佇んでいた。
住む者もなく、放置されて既に数年が経過しているようだ。庭は荒れ放題で、近年、人が寄り付いた様子もない。
だからこそ、ここに目を付けた者がいたのだ。
8人の灼滅者は、ゆっくりと屋敷へと向かう。屋敷の周囲を調査し、予め撤退路を確認しておく。
3人が、足を止めた。
複雑な思いを胸に、3人の灼滅者が荒れた藁葺き屋根を見上げた。
特別な思いがあった。「今回は」負けられないと。
「怖いか?」
足取りが重い夢代・炬燵(こたつ部員・d13671)の背中に、天宮・黒斗(黒の残滓・d10986) が声を投じた。
「大丈夫です。大丈夫……」
炬燵は振り返らずに応じた。恐怖を与えるつもりが、逆に恐怖を与えられてしまった前回の依頼。正直に言って、まだ立ち直れてはいない。しかし、立ち止まっているわけてもいかない。今回こそ灼滅に成功し、自信を取り戻すのだと、炬燵は心に誓う。
「今回は良い機会だよ」
王子・三ヅ星(星の王子サマ・d02644)は笑みを浮かべる。前回の反省を生かし、一矢報いる為にこの依頼を受けたのだ。
これから自分たちが戦うデモノイド・ロードに因縁があるわけではない。しかし、そのデモノイド・ロードを誘うであろうヴァンパイアに対しては、因縁めいたものを感じる。
エクスブレインの予測では、あの時と同じヴァンパイアであるという。仲間を抱えて民家を脱出する際、ちらりと視界の隅に写った制服の少女の姿を思い出す。逃げるのに必死で確認する余裕はなかったが、彼女が朱雀門高校のヴァンパイアだったのだろう。
「どうしたのじゃ? ゆくぞ」
立ち止まったままの3人に、シルフィーゼ・フォルトゥーナ(小学生ダンピール・d03461)が声を掛ける。突入の準備は既に整っていた。敵に感づかれる前に、屋敷内に突入しなければならない。
「いこうか」
フィナレ・ナインライヴス(九生公主・d18889)が仲間達の顔を見回す。全員が肯いたのを確認し、自分も肯き返した。
「ちゃっちゃと終わらせてちゃっちゃと帰ろうね」
エール・ステーク(泡沫琥珀・d14668)は言った。戦闘を開始すれば、そこから10分後にはヴァンパイアが到着してしまう。つまりは、この場所から約10分圏内には、既に到着しているということだ。危険な橋は渡りたくない。
8人の灼滅者たちは地を蹴り、戦いの舞台となる屋敷へと突入していった。
●
「どうしたの? もうお仕舞い?」
美しい女が、乱れた髪を手櫛で整える。畳の上に視線を流すと、あられもない姿でぜいぜいと喘いでいる男どもの姿が視界に入ってくる。
「も、もう勘弁してくれ……。これ以上は、し、死んじまう……」
男の一人が、情けない声を上げた。
「ったく。あれだけの啖呵切っといて、一日保たないって、あんたたち情けなさすぎ」
女は、あからさまに不満げな口振りだった。
「お、俺たち5人の相手して、あんた、なんでそんなに元気なんだよ……?」
「あんたたちが、だらしなさすぎるのよ。で、どうなの? もうギブアップ?」
女は自分の髪を右手で再び撫でた。
「ちょ、ちょっと休ませてくれ。頼むよ。このままじゃ、打ち止めの赤玉が出ちまう」
「そう。じゃ、休ませてあげるわ。……永遠にね」
女がふっと笑ったその瞬間、騒々しい足音が屋敷内に響いた。
「ふむぅ、あんなのと同じ力なんてのはどうにも気に喰わんな」
フィナレは女の姿を見やると、ポツリと呟いた。
「どこの淫魔かと問い質したくなる相手だな」
一糸纏わぬ女の姿を見て、神條・エルザ(クリミナルブラック・d01676)が苦々しく笑った。
「何よ、あんたたち」
女――相染・生野(あいぞめ・いくの)は、不愉快そうに眉根を寄せた。
「通りがかりの正義の味方じゃ」
シルフィーゼが答える。
「正義の味方、ね。……あら」
灼滅者たちの顔を値踏みするように見回していた相染・生野の視線が、三ヅ星の前でピタリと止まる。
「あら、可愛い子。お姉さんと遊ばない? 色々と教えてあげるわよ。もちろん、手取り足取りでね」
「うーん」
三ヅ星は首を捻って思案する仕草をしたが、
「確かに貴女は綺麗だけど……」
仲間の女子たちに目をやる。
「こちらのお姫様たちの方が可愛くて、魅力的だよね」
邪気のない笑みを浮かべた。
「そ、そう……。ふふっ。ふふふふふ……」
相染・生野の笑顔が引き攣っている。プライドが傷付いたようだ。
「おいおい。ややこしくするなよ?」
フィナレが、ちらりと視線を流してきた。三ヅ星がニコリと笑う。どうやら、本気でそう思っているっぽい。
「それじゃ、腕尽くでお姉さんがモノにしちゃうわ。お嬢ちゃんたちは、ちょっと痛い目を見てもらうわよ?」
実力行使というわけだ。
「そうはいかないよ!」
夜桜・紅桜(純粋な殲滅者・d19716)はスレイヤーカードを取り出す。
「いくよっ、夜桜!」
彼女の声に合わせて、全員がカードに封じた力を解放する。
「あんたたち!?」
「……お前のような存在を捨て置くことなど、私には出来ない。裁きを受けるがいい」
エルザが前に一歩踏み出した。
●
「そう。遠慮はいらないってことね」
相手が灼滅者だと分かり、相染・生野は嬉しそうな笑みを浮かべた。肌の色が、不気味な青に変わる。肉が膨れ上がり、異形の怪物へと変貌を遂げた。
「ひっ」
畳の上に寝転がったまま、茫然と成り行きを見守っていた男たちが、途端に息を飲んだ。
三ヅ星が清めの風を吹かせたが、残念ながら男たちにはあまり効果がなかったようだ。ヒール系のサイキックは衝撃ダメージを回復させるものであり、疲労を回復させるような効果は無い。
「ほらほら、その粗末なものを締まってきりきり歩けい!」
ならばと、フィナレが近くにいた男の尻を爪先で小突いた。目が合った際に、男が色目を使ってきたが、殺気だった視線でぎろりと睨む。
男は顔を引き攣らせたまま、あたふたとその場から逃げ出した。
逃亡を援護する為に、エルザがデモノイドに仕掛けた。エルザのサイキック斬りを腕の刃で受け止める。エールが螺穿槍で追撃を試みたが、紙一重で躱されてしまった。直後、彼女たちの体が虚ろになる。紅桜の夜霧隠れが、前衛陣の体を包み込んだのだ。
「た、助け……」
「ごめんね、ちょっと時間無いから、自力で逃げて貰いたいんだ」
男の一人が縋るような視線を向けてきたが、エールはピシャリと言い放った。既にカウントダウンは始まっているのだ。悪いが、彼らに構っている時間的余裕は無い。
「死にたくなかったら、さっさと逃げろ!」
フィナレが男たちに活を入れた。異形の怪物と激しい戦闘を繰り広げている少年少女たちの姿に、男たちもようやく事態を把握した。足を縺れさせながらも、各々自力でその場から逃げ出していく。
エルザの殺気が、追い打ちを掛けるように彼らの背中を押す。誑かされる男たちの性への憤りと、僅かな哀れみ。粗末なものをブラブラさせながら逃げ惑う男たちの姿は、少し滑稽でもあった。
(「無事に逃げ切ってください」)
炬燵が祈るように、男たちの背中を見送る。あんな状態で外に飛び出したら、別の不幸が彼らの身に降りかかってくるかもしれないが、命を失うよりはマシだろう。それに、ある意味自業自得でもある。
『ぐお……』
デモノイド化した相染・生野が、逃げる男たちに気付いた。その瞬間、光の刃が彼女の背中を斬り裂いた。
「こっちの目的はあくまでお前だ。余所見してて良いのか?」
「Black Widow Pulsar」を逆手に構えたまま、黒斗が不敵に言い放った。
『コ…ロ…ス!』
逆上したデモノイドが、黒斗に挑みかかった。
シルフィーゼがその眼前に飛び出す。黒斗に向かって振り下ろされるはずだった屈強な腕が、小柄なシルフィーゼの体に叩き込まれた。衝撃とともにシルフィーゼの体が畳に沈む。大量の埃が舞った。
『バカナ…コ…』
デモノイドの口が、笑んだように歪んだ瞬間、粉塵の中でキラリと刃が光る。
『ガッ!? グオオオッ』
右腕から鮮血を迸らせながら、デモノイドが苦悶の雄叫びをあげた。
「これ以上の狼藉はさせりゅわけにはいかにゅのでな」
粉塵の中から、シルフィーゼの声が聞こえた。
「私は、お前みたいなやつが一番嫌いなんだ」
エルザの想い込められた輝ける十字架から、無数の光線が放たれた。肉体の快楽で相手を堕とすやり口には、虫唾が走る思いだった。自分の過去の罪を見せつけられるかのようで、我慢がならない。
『グガッ……!!』
デモノイドの両腕の刃が、粉々に粉砕された。
『ガアアア!!』
怒り狂ったデモノイドが、エルザに襲い掛かった。
「させないって!」
三ヅ星が間に飛び込んだ。唸りを上げて突き出されたデモノイドの腕は、彼を守るべく展開した「クラヤミ」を突き破る。最後の砦となった「ミカヅキ」が、その威力を僅かに殺す。腕と肩が悲鳴を上げたが、そんな様子はおくびにも出さない。
「女の子を守るのが、男の役目だからね……っ!」
痛みを堪えて言い放つ。
「それに、貴女には絶対負けられないのさ」
その静かなる気迫に、デモノイドが一瞬たじろいだ。その隙を見逃さず、シルフィーゼの紅蓮斬が叩き込まれた。攻撃した直後ということも相まって、デモノイドは防御の姿勢を取れなかった。
「攻撃しながら防御おもすりゅことはできまい」
緋色のオーラを纏った日本刀が、デモノイドの腹部に深々と突き刺さった。
だが、さすがはデモノイド。致命傷には至らない。
黒斗が発光機能付き腕時計をチラリと見、時間を確認する。同時に、三ヅ星の仕掛けたアラームが一回目のコール音を発した。今のは5分目の合図のはずだ。まだ時間は充分にある。
デモノイドの動きをよく観察し、仲間への対応に気を取られた瞬間に死角へと回り込む。死角からの斬撃。狙いは右の腱だ。
『ガフッ』
デモノイドが苦痛に喘ぐ。だが、黒斗は表情一つ変えずに、次の攻撃のために態勢を整えた。
「ブラックフォームを使うのは実は初めてなんですよね」
炬燵は戦闘において初めてトランプのマークを出現させる。
「……なので、この後どうなるのか分からないんですよ。ですので、許してくださいね。あなたがどうなっても」
のほほんとした炬燵の表情に、僅かな変化が見られた。恐らく、魂が一時的に闇堕ちへと傾いた影響だろう。
デモノイドの攻撃がエールの体を掠める。
紅桜の神秘的な歌声が、邪な心を持つデモノイドの精神を蝕んでゆく。
灼滅者達の隙の無い攻撃に、デモノイドは徐々に追い詰められていった。
●
黒斗が腕時計を見た。次のアラームが鳴るまであと1分。仕掛けてくれと、三ヅ星に目配せした。
三ヅ星が螺穿槍を打ち込む。デモノイドは、屈強な腕でそれを受け止めた。命中してもしなくても、これは構わなかった。今の攻撃は、次で確実に仕留めるための布石。
ウロボロスブレイドが、デモノイドの体に巻き付いた。剣先が、獲物に噛み付く蛇の如く、喉元に食い込んだ。
「ふふん、ナインライヴスからは逃げられない、とでも言っておこうか、くふ♪」
フィナレが笑む。
『ゴアアッ!!』
デモノイドは雄叫びをあげた。狂ったように腕を振り回す。しかし、刃が砕かれてしまった為か、エルザに直撃したようにも見えたが、大きなダメージを与えられていない。
二度目のアラームが鳴り響いた。
「時間だよ!」
大声で仲間達に知らせると、三ヅ星が素早く動いた。その動きに同調し、仲間達も一斉に仕掛ける。
紅桜と炬燵の渾身の一撃。
両手首に噴射口を伴った篭手を出現させると、フィナレは大きく踏み込んだ。
「この毒は、貴様の体内で爆発的に増殖するッ!」
「死の光線」が、デモノイドの体に吸い込まれる。
「滅び去れ、相染生野。その罪に穢れた魂ごと切り裂く!」
エルザのサイキック斬りが一閃した。
『アアアッ……!!』
女の悲鳴が、デモノイドの口から絞り出された。
間髪入れずに繰り出されてくる灼滅者たちの攻撃に、デモノイドは為す術がない。
「……まあ、何だ。さっさと死ねよ」
黒斗のティアーズリッパーが、デモノイドの首筋を滑る。
『……ア』
悲鳴が途絶えると同時に、デモノイドの首がゴトリと畳の上に転がった。
「やりました!」
炬燵が歓声をあげた。だが、勝利の余韻に浸っている時間はない。グズグズしていたら、ヴァンパイアがこの場に到着してしまう。
「今ヴァンパイアさんとやりあうのは賢くないもんね」
エールの言葉に、皆は肯く。強敵と戦った直後である。疲労も困憊だ。こんな状態でヴァンパイアと遭遇するのは得策ではない。
「急ごう。時間が無いよ」
紅桜が仲間達を急かした。
フィナレが先行し、シルフィーゼとエルザがその後に続いた。
「天宮君?」
一点を見詰めたまま動こうとしない黒斗の背中に、三ヅ星が声を掛けた。
「ああ」
黒斗は短く応じると、足早に立ち去っていく仲間達の後を追う。名も知らぬヴァンパイアに抱いた敵意、今は戦えない事、そして勝てない事に対しての苛立ちを胸に秘めたまま。
彼らが立ち去った直後、子猫を抱いた少女が屋敷へと足を踏み入れる。
部屋の様子を一瞥した少女は、顔色一つ変えずにくるりと踵を返した。
作者:日向環 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年10月30日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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