マラソン大会2013~激闘、灼滅者VS灼滅者!

    作者:空白革命

    ●マラソン。それは血で血を洗う恐ろしき戦争……ではない。
    「武蔵坂学園マラソン大会だああああっしゃオラアアアアアアア!」
     軽機関銃のエアガンを肩から提げ、マウンテンバイクに跨がった大爆寺・ニトロ(高校生エクスブレイン・dn0028)が天に向かって銃を乱射した。
     どう見てもマラソンする格好には見えないが。
     灼滅者のマラソンならば仕方ない。
    「みんなも知ってると思うが、きたる10月31日にはマラソン大会が開催される。学園を出発して市街地を走るコースだ。細かくは井の頭公園、吉祥寺駅、繁華街を抜けてのラスト上り坂といった感じだ。えーっと次に注意事項だが……」
     ニトロは懐から『朝食はちゃんととろう』とか『夜更かしはせずに』とか書いてある紙を取り出して数秒眺めた後。
    「命を大事に!」
     すごく要約した。
    「かつ、ガンガン行こうぜ!」
     そして付け足した。

    ●『今回の趣旨』という名のカオス解禁令
    「いいかみんな。これは武蔵坂学園マラソン大会……つまり灼滅者のマラソン大会だ。灼滅者とはつまり闇を克服し常識を逸脱した存在であるからして最終的に何が言いたいかというと」
     ばん、と後ろに備え付けられたホワイトボードにプレートを貼り付けた。
    「『なんでもアリ』の灼滅マラソンだ!」
     説明しよう!
     灼滅者マラソンとは、灼滅者のスーパーなパワーや文明の利器やショートカットや替え玉作戦やありとあらゆる手段を使って順位を上げまくるカオス競技のことである!
    「……と、説明してはみたが、正直魔人生徒会からはガチで『ダメ』と言われてるんだよな。だからこういうことにした」
     ボードをひっくり返して説明の書かれたほうを表に出すニトロ。

     一部生徒は『トリックスター』と『魔人生徒会協力員』に別れてマラソン大会に出場する。
     トリックスターは名の通りあらゆる手段で順位を上げまくる剛の者たちであり、『灼滅者だから大丈夫』をスローガンに様々な無茶を繰り出すのだ。
     対して魔神生徒会協力員はトリックスターたちを見つけて捕まえる者たちである。『灼滅者に容赦は不要』を合い言葉にあらゆる手を使ってトリックスターたちを捕獲するのだ。

    「闇を克服する柔軟な精神。もしくはそれを押さえ込む強い心。それが灼滅者に求められるものでもある」
     ニトロは機関銃を肩に担ぐと、ニヒルにハッカパイプを咥えた。
    「今年のマラソンも……熱くなりそうだぜ」


    ■リプレイ

    ●合い言葉は『灼滅者だから仕方ないね』だよ! 準備はいいかい!? いざ――!
     西暦二○十三年十月。
     東京武蔵野某所。
     武蔵坂学園マラソン大会、開催。
     スタートの合図と共に沢山の生徒たちが元気に走り出すなかに、その姿はあった。
    「俺は今日、大空をかける風になる――!」
     某ビル屋上。鳥人間コンテストさながらの自転車に跨がった風真・和弥は、気合いと共にペダルをこぎ出した。灼滅者パワーで飛び出した自転飛行機は風をとらえ、そして……。
     眼前に広がる青空。
     真横に浮かび上がる大凧。
     赤フン一丁で凧に張り付くハリー・クリントン。
     目が合う二人。
     『あ、どうも』みたいに首をコクッとやったところで、二人は進行方向上のビルに人影を見た。
     ビル屋上。桃野・実は吹きすさぶ風に身をさらしながら、耳に携帯を当てた。
    「始まったぞ――撃て」
     すれ違うその瞬間、飛行機と凧を謎のビームが貫いた。
    「プロペラに被弾だと!? まずい、補助動力を――」
    「なんのこれしき、ニンポームササビの術で――」
     素早くうちわや風呂敷を取り出した二人はしかし、続けて乱射された大量のビーム砲の餌食になったのだった。
     実は携帯に囁きかけた。

    『――着弾確認』
    「開始直後に出番があるとは思わなかったデース」
    「なああれ、ゆっくり落ちてきた所をしょっぴけばいいのか?」
     別のビルから顔を出す朧月・咲楽。額に手を翳しているが、腰からは今もビームを打ちっぱなし状態である。天鈴・ウルスラも負けじとウルスラちゃんアームでぴしぴしオーラ指弾を連射し、落ちながらもくねくねよけるハリー(どうやってんだろう)を狙撃しまくっていた。
     ちらりと下を見る。
    「あっちも始まってるみたいデース」
     あっち、とは。
    「ライドキャリバーと俺は一心同体!」
     朝比奈・俊が清々しい顔でライドキャリバーをかっとばし、ついでに他の走者を撥ねまくっていた。
    「バイクで人を撥ね進むとはな」
     屈強な男子っていうか本堂・龍暁が髪を靡かせて自転車で併走してきた。スピード一緒だった。
    「すげえぜ灼滅者」
     とか言ってたら、園観・遥香が土下座姿勢でカサカサ言いながらすぐ横を併走してきた。スピード一緒だった。
    「やるな灼滅者」
    「さすが園観ちゃんですね」
     寝起きみたいなドヤ顔をちらちら向けてくる遥香
    「この格好で走ってみたら意外と早かったので今日も――ふきゅう!?」
    「正義はいつでもサクラサク! 皆まじめに走りなさい!」
     木の上からダイブしてきた北大路・あすかが、遥香を両足で踏んづけた。
     龍暁と俊の首根っこを両手にひっつかむ。
    「必殺、飛鳥山千本桜!」
     俊たちは縦に180度ほど回転したのだった。
     そんな彼女たちを飛び越える二つの影。
    「ヒーホゥ! お祭り騒ぎだぜ!」
     オーラを纏った空飛・空牙と、炎を纏った日比野・大誓である。
    「頭上を!?」
     天を仰ぐあすか。次の瞬間、二人はどこからか飛び出た影にぱっくんと呑まれてしまった。
     その辺に座っていたネコが桜井・夕月に変解する。
    「楽しいのは自分も好きだけど、迷惑かけちゃだめだからね」
     二人をしょぴいて帰ろうとしたその時。
    「ウオオオオオ俺は謎のマラソン妨害者・黒騎士! 中等部一年のディーン・ブラフォードとは一切関係ないぞ!」
     謎の前身甲冑をつけた謎の男が謎のタックルを叩き込んできた。こいつ、一体誰ディンなんだ!
     よろけた所へ更に突っ込んでくる野田・順平と楠木・恵。
    「生徒会か? なんでもいーや、タノシーなら!」
     順平はお高そうな水鉄砲を取り出して発射。
     狙いがブレて恵の胸にかかった。
    「なにすんだこの! 味方じゃなかったのかよそしてあんパン返せ!」
    「もう喰った、ごちそーさま!」
     やたら臭いものを詰め込んだゴム風船を叩き付ける恵。
     カウンターで唐辛子鉄砲を叩き込む順平。
    「「はぶ――!?」」
     そして二人は、白目を剥いてぶっ倒れたのだった。
     っていうかその場の全員が倒れたのだった。

     いっぽーそのころ。
    「天知る乳知る人が知る、悪を挟めと胸躍る! マラソンにて不正をはたらこうなど……わたくしのふたつの胸の頂はすべてお見通しですのよ!」
    「不正者さん発見で――」
    「うおおおおおお体操服はやぶるためにあるんだよおおおおおお!」
    「て、わ、こっちにこないでくださいー!」
    「はっはっはー! サービスサービスゥーウ!」
    「僕のゴールは君なんだニトロさん! この気を逃したらいつ想いを伝えればいいんだ!」
    「必殺ブルマレッグラリアーット!」
    「へぶん!?」
    「ぼくはえっちな灼滅者をおうえんします!」
    「や、やめてくださいー!」
    「僕と大爆発してください!」
    「ブルマフランケンシュタイナー!」
    「へぶん!」
    「ぼっちだけどさみしくない! さみしくないよ!」
    「ろ、ロケットランチャーってこれでいいんですか?」
    「ショ、ショギョームッジョー!?」
     以上。
     六六・六。
     ミルフィ・ラヴィット。
     アリス・クインハート。
     千景・七雄。
     計四名。
     画面全部がモザイクで埋まった映像でした。
     ニトロさんにコメントを貰ってみたところ
    『私はエクスブレインだから出ないんだよ……』
     とのことでした。

     いっぽーそのころパート2。
     新郎新婦の格好をしたタージ・マハルと榊・くるみが救護テントの下でお茶を飲んでいた。
     何言ってんのかよく分からないとおもうが、事実そのままである。
    「なんだか仮装大会みたいになっちゃたね」
    「そうだね。一度こういうことしてみたかったから、いいんじゃないかな」
    「なんだかデートみたい。えへへ」
     はにかむ二人の後ろで、李白・御理と夕凪・緋沙は息をついた。
    「今年は看護婦さんがいて心強いです。本当に助かりました、緋沙さん」
    「こちらこそ。知識豊富で助かりますー。ええと、あちらはそろそろ終わりそうですかねー」
     そろってテント前を見やると、セリルザール・フォトムスターと名越・真一が弓削・鈴緒に追い詰められているところだった。と言うか、既に真一は網の罠にかかって気からぶら下がっていた。
    「バスが休みだったとは盲点だったね……更に唐辛子粉末まで耐えるとは」
    「その程度、国防を志すものとして……けほっ、こほっ」
     鈴緒涙目である。割と相打ちである。
     あわや最後かと思われたところで、セリルザールはにやりと笑った。
    「知ってるかい? ここには『出る』んだよ。昼間でもね、振り返るとそこに女の顔が――ほらそこに!」
    「Excuse me. How to go Sendai(仙台ってどうやっていくん?)」
    「Pouvez-vous me dire ou est la gare(駅の場所をお・し・え・て?)」
     山門・新と風花・クラレットが両方の肩からにゅっと顔を出した。
     背筋を伸ばす鈴緒。
     ここぞとばかりにダッシュで逃げる三人。
    「逃げたぞー! 追えー!」
    「あれ外国人観光客じゃなかったのか?」
    「見て分かんなかったんですか!」
    「フ、逃げようたってそうは行きません」
     ガタガタ走行をしていた西原・榮太郎が目をカッと開いて手元のボタンを押した。
     セリルザールの足下が突如爆発。
     吹き飛ぶセっちゃん。
    「銃弾をばらまく簡単なお仕事と聞いて」
     更にライドキャリバーから銃を乱射する四条・貴久。そして明後日の方向から飛び出してきたギーゼルベルト・シュテファンのキックによってクラレットたちがまとめてむぎゅうされた。
     刀を抜くギーゼルベルトと銃を向ける貴久。
     クラレットたちは両手を挙げて降参したのだった。

     今年も平和にリタイアが続出するマラソン大会。
     そんな日の、駅前。
     万事・錠がドラムを前にスティックを振り上げた。
    「さーて、一丁派手にキメようじゃねーの!」
    「「イエーア!」」
     ギターを振り上げる城守・千波耶と宮澄・柊。
     スタンドマイクを突き立てる二十世・紀人。
     サックスをくわえ込む氷雨・雪之丞。
     半数以上ジャージだが、胸には武蔵坂軽音部のマークがくっついていた。
     アンプのボリュームをいっぱいに開く百舌・ハゼリ。
     北条・葉月はマイクを天に掲げると、めいっぱいに叫んだ。
    「MZKゲリラライブが始まるぜ! センキュー、愛してるぜェー!」
     のっけから高速のドラムが鳴り響き、追い越すくらいの勢いでサックスの音が乗っかっていく。
     ギターが左右から別々のパートでノリをあわせはじめ、四段階上昇のコーラスによって最高潮に盛り上がる。
     そこへジャズのテンションで葉月が歌い始めた。
     物珍しさに集まる人々。その中にいた枝折・真昼も段の無いステージに飛び込み、即興のギターテクニックを見せつけた。
     空間がひとつになり、世界が満たされていく。
     そんな中で、ハゼリははっと顔を上げた。
    「上空から敵影。あれは――」
     箒に乗った識臣・晴之が魔矢による急降下爆撃を繰り出してきた。
    「こちは常連客の真昼くんに、軽音部じゃいか! マラソン大会中にゲリラライブとは思い切ったな! 当然覚悟はできてるんだろう!?」
    「げ、晴之先輩!」
    「ここは任せて先に行け!」
    「紀人、ここぞとばかりに死亡フラグ立てんな!」
    「いいじゃない。抵抗しながらライブしましょ。走るわよ~!」
    「しっかしシュールだなこれ」
    「おい待て、アンプを抱えて走るのけ! 本当に!?」
     その後彼らはゲリラライブをしながら逃げまくり、一曲やりきった所で満足して清々しくつかまったという。

    ●灼滅者が本気でスポーツしはじめるとこういうことになるという図
     スウィングジャズが遠く聞こえる繁華街。
     ビールケースの山を倒しながら走る少年たちの姿があった。
    「悪いが……落とし穴に落ちていろ!」
     マンホールを巧みな技で蹴り開き、荒吐・刃鬼が駆けていく。
     彼を捕まえようとした協力員の一人がわひゃーといって落ちていった。
     が、次の瞬間。刃鬼はマンホールに擬態した落とし穴に落下した。
    「な――!?」
    「かかりましたね。向上心はいいですがずるはだめですよ、ずるは」
     工具を手ににっこり笑う蜂・敬厳。
     そんな彼の頭上に降り注ぐコンクリート片。
     緊急回避。
     見上げるとそこには魔法少女に変化した柳生・七威の姿が。
     彼は巨大な刀を振り切ると、壁を蹴って敬厳の先へと飛んでいく。
    「そっちに行きました!」
    「任せるでおじゃる!」
     白塗りまろまゆの着物装束に包まれた紅羽・流希がハリセン片手に飛びかかった。
    「むっ、男のくせに魔法少女とは。そんな格好をして恥ずかしくないのでおじゃるか!」
    「君にだけは言われたくない」
     空中でぶつかり合う刀とハリセン。互角かよ。
     そのすぐ横を陽瀬・瑛多と柴犬に変化した陽瀬・すずめとが駆け抜けていく。
    「しつこいな協力員! そこのおばちゃんあの人らなんとかし――」
    「無理をおっしゃい坊主」
    「だよなあ!」
     その後ろをホイッスル片手に追いかけるフェルト・ウィンチェスター。
    「じゃああの二人を捕まえるのに協力し――」
    「無理をおっしゃいお嬢ちゃん」
    「だよねえ!」
     ホイッスルを吹き鳴らす。
    「止まりなさーい! 不正行為をやめないと、大変なことになるよー!」
    「協力員さーん! そこの柴犬は灼滅者だぞー!」
    「はうわ! ちょ、バラすな!」
     飛んできた石に当たって変化が解けるすずめ。
     そんな彼らを――。
    「出前でござる!」
    「給水所です」
    「同じく!」
     荷台を引いた上代・絢花と鏃・琥珀、そして天方・矜人がまとめてひきつぶした。
    「こうして店員に変装すれば気づかれないでござる」
    「堂々とやれば意外とばれないものなのよね」
    「クク、給水所と称してトリックスターたちをデスソースの地獄に送ってくれるわ」
     ぴたりと止まる三人。
     お互いを見やり。
     自分を見やり。
     もっかいお互いを見やり。
    「「うわああああああああああああ!!」」
     流れるように実力行使に移った。

     『そのへんまで』と書かれたボードをかかげ、加賀峰・悠樹は親指を立てていた。
    「カメラの前の皆さんはもうおわかりですね? そうです、私が試みる裏技……それはヒッチハイクです」
     そしてさらっと目の前に止まるタクシー。
     車の上に片膝ついて乗っている山田・菜々。
    「……」
    「……」
     二重の意味で何か言いたかったが、悠樹は黙って車に乗った。
     ドアが閉まり走り出す車。
     が、少し進んだところで運転手は急ブレーキを踏んだのだった。
     つんのめる悠樹と菜々。
     車の前には響谷・遊羅とドナ・バティーニュが背中合わせに立っていた。
    「まさか本当に車を使ってくる人がいるとはね。でもそのやり方は諦めてねぇ」
    「見つかったからには覚悟は決まってますよね。では遠慮無く!」
     二人は同時に銃と弓を構えると、悠樹たちへ容赦なく襲いかかった。
     その姿、世紀末強盗のごとし。

     一方その頃繁華街のはずれ。
    「イケメンリア充はみんな葉っぱ一枚になれああああああれっえええええ!」
     弐之瀬・秋夜が接着剤と葉っぱをばらまきながらあらぶっていた。
     こんなことすんのは武蔵坂学園ひろしといえどフィラルジアン(フィラルジアの人たちという意味)しかいない。
    「俺の前を走るイケメンは一人残らずグルウウウウウ!」
     同じく接着剤を手に男の尻を狙う(意味深)早鞍・清純。
    「やっぱりそうなるよな! よろしいならば正当防衛だ! 這いつくばる後続者をおいていくのは気分がいいなあ!」
     九葉・紫廉は彼らから逃げながらビー玉を大量に地面に転がした。
     派手に転倒する秋夜たち。
    「そうだぞ早鞍、この簡易火炎放射器の炭にしてく――ほぐお!?」
     虫除けスプレーとライターをアレしたアレを手に、やっぱり派手に転倒する洲宮・静流。
    「ビー玉ごときで転倒するか。それ、カウンターだ!」
     拾い上げたビー玉を指で放つ遠野森・信彦。後頭部にくらってぶっ倒れる紫廉。
     そこへ羽嶋・草灯がいい具合にバナナの皮を挿入。
    「我が覇道を阻む者は滑るがいい!」
    「ばななぁー!?」
    「よおしオイルもまくぞ! どんどん転ぶがいいさ!」
     十七夜・狭霧が煙幕をたきながらそこらじゅうにオイルをばらまき始める
     煙にまぎれ、勿忘・みをきがそっと草灯と狭霧の尻にアングルウ。
    「女子に罪はありません……多分」
    「「へぶん!?」」
     そこへここぞとばかりにエアガンを担いだ蒼間・舜が乱入。煙幕で見えないからって全員無差別に射撃し始めた。
    「いい子はエアガン改造なんてしちゃだめだゾ! てへぺろ☆」
    「だ、だめだ。前後不覚なうえ足下がふらついて……!」
     大量の爆竹を抱えていた笠井・匡は派手に転倒。
     オイルだらけの地面に爆竹がばらまかれた。そして静流の手から転がり落ちるライター。
    「「ぎゃああああああああああああああ!!!!」」
     なんでこの子らはイベントのたびにバトロワをはじめるのか。

    ●スポーツを通り越してもはやサイキックバトルになりつつあるの図
     繁華街で大量の悲鳴があがるその頃、屋根の上では別の戦いが繰り広げられていた。
    「れっつぱるくーっらー! イエエエア!」
     建物の窓や塀を人間離れした技でぽんぽん進んでいく鳴神・裁。
     パルクールというかフリーランニングの動きだが、基本は一緒である。
     その横を同じ制度で乗り越えていく八葉・文。
    「……最短距離は、直進」
    「気が合うねえ!」
     一個屋根を越えると、ダブルジャンプで八嶋・源一郎が飛び乗ってきた。
     反対側からは自販機を踏み台によじ登ってくる白神・柚理。
    「わお! 屋根の上にはこんなに人がいたんだね!」
    「いやはやまったく。マラソン大会は地獄だのう」
     待ち伏せしていた協力員を人間手裏剣にして放り投げる源一郎。
     その途端鞭のように飛んできたロープが直撃。屋根の下に転げ落ちる。
     ぬっと姿を現わす結束・晶。
    「まちたまえ、この先は危険だ。安全な道を教えよう(しかし男は帰れ)」
    「本音! 本音が漏れてる!」
    「案内しちゃだめでしょうが!」
     隣の屋根から飛び移ってきた皇・銀静が斬艦刀でもって晶を殴り落とした。
     続いて続々と現われる協力員。
    「マラソンの平和は俺たちが守る!」
     神打・イカリと熊谷・翔也が鎌と剣によるコンビネーションアタックを繰り出し、それを岬・在雛のロッドが受け止めた。
    「邪魔だコノヤロー!」
     そのままの姿勢でギルティクロスやオーラキャノンを乱射。
     彼らの激突をきっかけに、場の空気は追いかけっこから乱闘へとシフトした。
    「蝶のように舞い、鬼のように殴るアルヨ!」
     おもむろに殴りつける諸葛・明。その背後からガトリング射撃を繰り出す空裂・迦楼羅。
     明は振り向きざまに壺爆弾を投擲。空中で爆ぜる壺。
    「隙を見せたらガツンとやられる。文句なしよね」
    「同感ね。隙ありよ」
     爆風を突き破って飛んだ禰宜・剣が設備の一つを切断して彼女たちに降らせた。
     そんな彼女をすれ違いざまにぶった切る霧夜・篝。
     鋼糸につかまりターザンの如く戦果をかすめとっていく。シリアスに笑う篝。
    「兄さん。もう普通の学生をしていたころが……思い出せないよ」
    「うおおお勝てばよかろうなのだあああってうわあああああ!」
     すると目の前から同じようにストリング移動してきた無常・拓馬が接近。二人は正面から激突し、そこへ鉈を掲げたカツァリダ・イリスィオとナイフを掲げた病葉・眠兎が飛びかかってくる。
    「きゃはは! 私においつかれたらゲームオーバーですねー!」
    「主は一度は異端を許すのです。しかし再犯は死刑です」
     ぶら下がったまま応戦する二人。
     もはや自分以外全員敵みたいな状況である。
     そんな中を軽やかに駆け抜ける深廻・和夜。
    「つかまらなければいいのでしょう」
     不敵に笑うと屋根から屋根へ飛び移り、後続の相手にガスガンを乱射した。
     それをかわして追いかけるレミ・ライゼンシュタイン。
    「ふふ、鬼ごっこは終わりですよ」
    「しつこいっての。それともここでオレとバトるか? 受けて立つぜ!」
    「ほう……?」
     サイキックの弾を連射してくるレミと、金属バットを担いだ蓬莱・烏衣が激突。
     そんな二人に降り注ぐオイルやバナナや紙吹雪。
    「チッチ、星にゃ手は届かないんだぜ――てうおあ!?」
     ニヒルに笑って通り過ぎようとした古関・源氏星だが、足下に発動したロープの罠ですっころび屋根から転げ落ちていった。
     源氏星の落ちた先。そこはある意味でめくるめく愛憎劇の現場だった。
     目の前を高速で駆け抜けていく西院鬼・織久。
    「あ、逃げた方がいいですよ。俺の後ろは危ないので」
    「は?」
     首を傾げる間もなく、炎が足下を覆った。
     恐い顔で追いかけてくるベリザリオ・カストロー。
    「ご注意なさってわたくし織久をつかまえるためには犠牲をといませんの」
     特定の相手を狙って追いかける専属マーク組だ。
     バールを手に逃げてくる剣ヶ峰・鈴と夜桜・紅桜。
    「閃光弾も鼠花火ももうないよ、どうする?」
    「大丈夫だよバールあるし」
    「相手が大丈夫じゃないよ! しんじゃうよ!」
    「でも灼滅者だしこのくら――いっ!?」
     急にのけぞって倒れる鈴。振り向くと、電磁石を掲げた鎌鼬・このかが猛スピードで迫っていた。
    「やっぱり持ってたわね。もう逃がさないわよ!」
    「どうするの!?」
    「よし、お腹蹴ろう」
    「発想が凶悪すぎるよ!」
     あわあわする紅桜。
     するとそこへ竹尾・登と富山・良太が乱入してきた。
    「君に恨みはないけど魔人生徒会にはあるんだ。悪いけど全力でいくよ!」
    「僕も、魔人生徒会はどうも信用なりませんからね。いきますよ」
     三対一かと身構えたその時、明後日の方向から飛んでくる石。
     ぐふうといってノックダウンする良太。
    「この技のキレ……まさか!」
    「登君」
     建物の影からスッと出てくる秋山・清美。反射的に背筋を伸ばす登。
    「実力はトップクラスなんですから。慎んでください」
    「ハイゴメンナサイ」
     直立不動のまま殴り倒される登。
     かくして二対二……と思っていたらまたなんかが現われた。
    「トンカラトンと言えぃ!」
     今日はこういう場でしょとばかりにトンカラ装備で飛び出してくる撫桐・娑婆蔵。
    「アナタのハートに――バニースラーッシュ!」
     バニーガールに扮装した木元・明莉も飛び出してきた。
     変態(トリックスター)が増えた。
     だが同じだけ増援も来るはず。
    「こらー娑婆蔵まじめに走りなさい!」
     ライフルを連射しながら追いかけてくる神坂・鈴音。
     そして。
    「ここは通行止めだ。大人しく捕獲されるんだな」
     キリッとした表情で野良猫に煮干しを与えつつ頭をよしよししている鈍・脇差。
    「すまん、巧妙な罠にかかってしまった……! これを脱したらすぐに戦線に加わる!」
    「帰ってもいいですよ」

     ……などと。
     色々拮抗しているチームとは別に、完全に追い詰められている男たちもいた。
    「透くんハッピーバースデー!」
    「武流……」
     シュークリーム片手に踏み込む神田・依都。
     同じく炎の剣を手にしたメイニーヒルト・グラオグランツ。
     壁際に追い詰められた男たちこと椎葉・武流と土谷・透は、降参というように両手を挙げた。
     ガキィンと壁に突き刺さる剣。
    「メイニー、目的は生け捕りなんだし、殺しちゃまずいんじゃ……」
    「武流は……」
    「ん?」
    「武流はボクとゴールしなければならない」
     一方で透の口にねじ込まれるシュー。
    「なんですこれ辛! なにこれ先輩の悪戯心!?」
    「そうそう、先輩の厚意は素直に受け取るべき! あとは……これ!」
     小脇に抱えていた箱からホールケーキを取り出した。
    「……今ここで?」
    「ゴールまで待てないよ! さ、透くん! 幸せな一年になりますよーに!」
     顔面に叩き込まれるケーキ。
     このとき、二人の男がある意味で拘束されたのだった。

    「みひるちゃーん! 私はここですよ! 捕まえてごらんなさぁ~い!」
    「どんな恐い様子になっても大丈夫だシアン! 大好きだー!」
     蒜山・みるひとフリーシアン・オーロックスがお花畑さながらの追いかけっこをする中。
     二人の男が落とし穴の中に座っていた。
     廻時・流季とバスタンド・ヴァラクロードである。
     体育座りで向かい合い、いくらなんでもこれはないだろっていう深さの穴から空を見上げた。
    「なぁー! 見逃してくれよぉー!」
    「おや、死ななかったんですか」
     穴の縁から覗き込んでくる伐龍院・黎嚇。
    「そこで頭を冷やすといい」
    「クッ、こんな深い穴に落ちてなきゃ殴りかかれたのによ……」
    「それに巻き込まれた僕に言うことは? まあ、いいけどさ」
     同じく上を見上げる流季。
     すると化野・十四行がひょこっと顔をのぞかせた。
    「クックック、出してやってもいいが……他のトリックスターを捕まえるのに協力してもらおう。そう、これぞまさしく――魔人生徒会からの『マージン』!」
     カッと十四行の背後に稲光が走った。
     その後ろをフリーシアンたちがアハハウフフとか言いながらスキップで通り過ぎた。
     咳払いする流季たち。
    「充分頭も心も冷えたから、出てもいい?」
    「却下だ」

    ●ラストスパートとお約束
     トリックスターたちの中でいちはやく最終上り坂へたどり着いたのは、馬だった。
     正確に言うなら、馬にしがみついた、千鳥・撫子と鯉幟・あゆ、アスル・パハロである。
     でもって、それに普通に足で追いついてくる明智・雄大。
    「貴様っ、俺から逃げられるとおもっているのか!?」
     彼の仕掛けたトリモチシートを飛び越えた馬めがけ、ポンポン玉を大量に投げまくる雄大。
    「来ちゃ、だめなのー!」
     対してアスルはバナナの皮を大量に投擲。
     すってんころりんして坂を転がっていく雄大。
    「うおおおおお!?」
    「なにしてんだお前、ルー君まで巻き込んで……って楽しそうだな! いいから早く止まれ!」
     転がってきた彼を飛び越える法花堂・庵。ちなみに自転車で併走していた稲城・実は普通に轢いた。
    「追ってくるわよ!」
    「分かってる!」
     吸盤のついた矢を次々に射るあゆ。それをくらってのけぞる庵。
    「くそ、なんとかとめないと。何か無いか!」
    「あ、いいのあるよー」
     と言いつつ実がニンジンを明後日の方向に投擲。
     つられたのかなんなのか、馬がそちらの方向にぐいんと曲がった。
    「ちょ、どこいくの! あっ、うわー!」
     馬にしがみついたままどこかへ走り去るあゆ。
     すんでの所で馬から下りていた撫子は、目薬を片手に涙を流した。
    「おぬしのことは忘れない。そしてありがとう」
    「隙あり」
     着地直後の足下をスコーンと払うアトシュ・スカーレット。
     うあーと言いながら坂を転がり落ちていく撫子。
     アトシュはチャッと眼鏡を外すと、胸のポケットに入れた。
    「それじゃあ、あとは任せた」
    「お、おう」
     そう言うとさりげなくきびすを返し、さりげなく地を蹴り、ロケットスタートでゴールへと走り出した。
    「って裏切りだー! というかスパイだー!」
     大きな布をばっと広げて投げつける伊織・順花。
     彼の視界を奪ったところにドロップキック姿勢で突っ込む吉備津・彦吉。
    「ルールをまもりーや! 必殺鬼ノ城キィィック!」
     彦吉のキックが直撃し、そのまま一緒になってごろごろ転がっていく。
     対して、彦吉たちを飛び越え山田・透流と猫乃目・ブレイブが駆け上がってくる。
    「どんな場面でも全力を尽くすでござる。透流殿!」
    「そう、勝つのは私。誰にも邪魔は……させない!」
     どっから持ってきたのか、透流は長い高跳び棒を構えると障害物にひっかけて思い切りジャンプをきめた。
     飛びかからんとする協力員たち。それを阻まんと飛びかかっていくブレイブ。
     と、そこへ。
    「この瞬間を待っていた。イッツ、ショータイム!」
     深束・葵はライドキャリバーを召喚してまたがると、ほんとどっから用意したのかわからんような動物たちと共に走り始めた。犬だの猫だの牛だの馬だの……あ、この馬あゆのやつだ。
     それに便乗して列に加わる衣幡・七。
    「なんとかここまで逃げきってきたわ。あと少しでゴールに……!」
     そんな彼女たちを阻むのは、御影・ユキトと浅木・蓮のコンビである。
    「よしここはバッサリいこう。二人ともいただきた」
    「先輩ずるーい! ここは譲らないよ!」
     同時に武器を構えて飛びかかる二人。
     唐辛子銃や爆竹を構える葵と七。
     そして、その中心に颯爽と現われるイリス・エンドル。
     腰を90度ほどひねり、片手で顔を半分かくして頭の後ろに猛片方の手を回す。
     そして一晩んは練習したんだろうなっていう発音で叫んだ。
    「かつてないESPを見せてあげる。ザ・ワール――めぎゅん!?」
     当然の如く押しつぶされた。
     そして、事前に誰かが仕掛けていたサラダ油だかなんちゃらオイルだかをその場にぶちまけた。
    「……あっ」
     油で滑って顔から転倒する七。
     ぶちまけられる着火状態の爆竹。そして大量に用意した花火。
     その場にいた全員の時間が、ぴたりと止まった。奇しくもそれはイリスがやりたかったことそのものだったという。
     引火。
     そして時は動き出す。
    「「うわああああああああああ!!」」
     大爆発に巻き込まれ、トリックスターも魔人生徒会協力員も仲良く坂を転がり落ちていった。
     唯一ゴールインできたのは、あゆくんとこの馬だったという。

     かくして無事に……そう無事に幕を閉じた武蔵坂学園マラソン大会。
     捕まった人々は仲良くお仕置き部屋に放り込まれ、迷惑をかけたっぽい近隣住民には菓子折りもって誤りに行き、みな胸の中に同じ思いを抱えて帰って行ったのだった。
     想いとはそう。

     ――来年もまた、この場所で!

    作者:空白革命 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年10月31日
    難度:簡単
    参加:122人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 6/素敵だった 11/キャラが大事にされていた 23
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