鬼祭

    作者:立川司郎

     古来、ここ神無城神社では水にまつわる神を奉ってきた。
     神社裏手にある泉はどんな天候の時でも澄みわたり、その泉には龍が住むという伝説も残っている。
     神社に伝わる古い書物を、破らぬように慎重にめくりながら青年は読み進めていく。社務所の板間にきちんと座したその姿勢は、彼の性格をあらわしていた。
     隣の部屋から聞こえる騒ぎ声は、時折彼の神経を苛立たせた。祭りを目前に控えて、その騒ぎはいっそう激しくなったように思う。
    「ゲン、屋台追加分ね」
     ゲンと呼ばれた青年へ、若い女性がお金を手渡しているのが社務所から見えた。彼は体格が良く、その言動も荒々しい。
     ゲン……厳が神無城神社の青年団を率いるようになってから、風紀が乱れる一方だった。
     水=酒=風俗業という驚くような三段論法で、勝手に神様を風俗の神に仕立て上げてしまったのである。
    「厳、酒を振る舞うのはかまわない。だけど、祭りに風俗をからめるのはやめろ。それに、屋台からみかじめ料を取るな、神無城の祭りで得た金をお前が使い込むのは勘弁ならない」
     青年はきっぱりと言った。
     この言葉を、何度言ったか分からない。
     だけど青年は、かつてののどかな祭りの光景が思い出されてならなかった。祭りの前に、巫女と神官が御祓をして泉から水を汲みに行く儀式。
     御神水として振る舞われる水を楽しみに、近隣の家族や老人が集まっていた時。決して規模は大きくないが、近くの人々を楽しませるには十分な数の屋台。
     ひとしきり考え込んだ後、青年は深夜ひっそりと社に戻ってきた。月の光の差す泉は、神々しいまでに青く輝いている。
    「たとえ僕が責められる事になってでも、厳さえ居なければ祭りは戻る」
     懐に隠した小刀を握り込み、青年は振り返る。
     しかし彼の目前にいたのは、当の厳の姿であった。仁王立ちして厳の迫力に、青年は言葉も吐けずにただ立ち尽くした。
     懐に小刀を握ったまま。
    「そろそろ鬱陶しいと思ってた所だった」
     にたりと笑うと、厳は彼の首をつかんだ。片手一つで彼の首を締め上げ、引きずり上げる。
     彼は懐の小刀を抜くこともできず、意識は反転。
     そして永遠に意識が戻る事はなかった。
     最後に見たのは、厳の頭に生えた大きな角。
     羅刹。
     それは、鬼と呼ばれた種族である。
     五十嵐・姫子は鬼について書かれた書物を開き、静かに話しを進めた。彼女が語るのは、とある神社の青年団として訓練する鬼の話であった。
    「神社は水の神を奉っているのですが、祭りを利用して鬼は利益を得て横暴を働いているようです。……鬼は人間に近い容貌をしていますが、その性質は凶暴で話し合いが通じない攻撃的な性格です」
     君臨する事、そして圧政を敷くこと。
     鬼の周りには常にそれが存在する。姫子は少し悲しそうに眉を寄せると、本をパタンと閉じて視線をあげた。
    「今夜、羅刹の厳は神社に勤める神官の青年を殺害してしまいます。青年は夜十時頃に神社に現れますが、厳は夕方からずっと社務所に待機しているようですね。……つまり、青年が一人になる瞬間を待っているのです」
     厳はおそらく、自分の邪魔になる人間は次々殺してきたのであろう。彼には迷いなど一切なく、ただ鬼としての本能のみによって動いている。
     厳はおそらく、自分の邪魔になる人間は次々殺してきたのであろう。彼には迷いなど一切なく、ただ鬼としての本能のみによって動いている。
    「厳は素手での戦いを得意としますが、戦闘力はかなりのものです。彼の側には取り巻きが三人居るのですが、刀やナイフを所持していて対抗してくるでしょう。彼らは一般人ですが、羅刹から力を得ているので手強い相手となるはずです」
     姫子は、相手に気づかれずに事を進める方がいいと助言した。厳は単体でもかなりの力を有している為、普通に正面から斬りかかるのは若干不利であると言うのである。
     時間が夜間である事から、暗闇を生かして戦うのもいいかもしれない。
    「殺されるはずの青年の命は、できれば助けて頂きたいと思います。ですがもし成らなかったとしてもそれが運命。あなた達は、それを超えてでもダークネスを倒して戻らねばなりません」
     静かであったが、姫子の言葉は力強く凜と響いた。


    参加者
    九条・千早(中学生神薙使い・d00148)
    上月・若菜(仄かな記憶の収斂・d00355)
    無道・律(タナトスの鋏・d01795)
    神楽・美沙(妖雪の黒瑪瑙・d02612)
    珠瀬・九十九(藍色ナインテイル・d02846)
    聖・ヤマメ(とおせんぼ・d02936)
    ヴィラン・アークソード(闇夜を駆ける影狼・d03457)
    柊・志帆(浮世の霊犬・d03776)

    ■リプレイ

     波の立たぬ池の水のほとり、目を閉じればただ風が木々を撫でる音だけが耳に届いてきた。ざわざわ、ざあざあと風が抜ける音をじっと聞く。
     やがてさくさくと人の足音が近づいたと思うと、ぴたりと側で足を止めた。
    「ヴィランさん達が社務所に向かいました。…そろそろ、身を隠した方がいいでしょう。社務所の近くで戦う事になりそうです」
     少年の声が聞こえ、聖・ヤマメ(とおせんぼ・d02936) は目をゆっくり開けると、じっと池を見つめた。
     月明かりがあるから、ここはずっと明るい。恐らく社務所の方も、思ったより明るいだろう……石灯篭のあかりが、穏やかに揺れて綺麗に違いない。
     そっと振り返ると、浅黒い無道・律(タナトスの鋏・d01795) の顔色が月光のあかりにも見てくれた。その後ろで九条・千早(中学生神薙使い・d00148)が、周囲の気配を伺いながらこちらに歩いて来るのが見える。
     こちらに気付いた千早が、軽く手を振って誘った。
     早足で歩く律の後ろを行きながら、ヤマメは池を振り返る。
     龍の住む……池。

     朧に発光したと思うと女子高生ほどの年齢に変わった上月・若菜(仄かな記憶の収斂・d00355) は、自分の体を見下ろしてから満足げに少しだけ微笑んだ。
     この姿であれば何かと子供扱いされることもなく、口にしはないが若菜にとって一番気楽なESPであった。
     それにしても、この男はまた別の様子。
     素肌の上からジャケットとジーンズというだらしのない格好をしているヴィラン・アークソード(闇夜を駆ける影狼・d03457)は、18歳の若菜より更に背が高かった。
     見上げつつ、思わず溜息をこぼす。
    「もう少し、大人っぽい格好は出来なかったの?」
    「マジメな格好をするよりいいだろう」
     しれっとヴィランは言うと、若菜と珠瀬・九十九(藍色ナインテイル・d02846) 、双方に用意はいいかと問いかけた。若菜の変身さえ済めば、後は社務所に向かっても問題は無い。
     九十九は楚々とした様子で、笑顔を浮かべる。
    「大丈夫、しっかりヴィラン先生の教え子を演じてみせますわ」
     先生、と九十九にもう一度言われると、ヴィランは社務所の扉を叩いた。灯りがついた社務所の向こうからは人の声が聞こえていたが、扉を叩く音がするとピタリと止んだ。
    「誰だ?」
     甲高い男の声が聞こえ、ヴィランはドアを開け放った。ぐるり、と見回すと男が3人、女が1人。人数からすると、この4人が羅刹に支配されている人間……という事になるだろうか。
     怯まずヴィランは、軽く頭を下げてから堂々と口を開いた。
    「この近くの学習塾で教えてる者なんですが、祭りがあるって聞いてこいつらと屋台を出させてもらえないかと来たんですけどね」
     社務所とは思えない退廃的な空気と、威圧感。
     それでも若菜は落ち着いた様子で、楽しそうな祭りだから参加させて欲しいとヴィランに続いて訴えた。
     厳はこっちの様子を伺いながら、にたりと笑った。
    「幾らかお納め戴く事になりますが、よろしいですか?」
     低い声で厳が言った。
     言葉は丁寧に言ったが、はっきり言って脅しである。ヴィランは表情一つ変えずに頷いた。
    「場所はどの辺りになるか、案内して戴きたい」
     ヴィランは厳に話ながら、社務所を出た。ちらりと振り返って厳は仲間に残るよう言いかけたが、結局全員付いてくる事になった。
     姫子の言葉通り。
     全員が表に出ると、若菜は眉を寄せた。静かで荘厳な空気満ちる神社に相応しくない、手荒で煩い連中だ。若菜は騒々しい声に、眉を寄せた。
     ざくりと足が砂利を踏むと、風がざわりと吹いた。暗闇の中で息を潜めていた六名は、月明かりの下に人影が現れるのをじっと待っていた。
     九十九は、その影の所定の位置に律と神楽・美沙(妖雪の黒瑪瑙・d02612) の影が立つのを見つけ、軽く手を挙げる。ゆるりと物静かな仕草で、九十九は笑顔をたたえたまま口を開く。
     さん、に、いち。
    「始めましょう」
     九十九が声を上げると、律を戦闘に一斉に六名が飛び出した。側に居たヴィランは若菜、九十九とともに厳の前に立ちはだかる。
     事態を把握した厳が、飛び込んで来た一匹の犬を白鞘の刀で制した。戦いの気配を察した厳の顔は、既にヒトではなく鬼の形相。
     厳の前に果敢に飛び出したのは、柊・志帆(浮世の霊犬・d03776) のパートナーであるコペルであった。
     うなり声を上げるコペルを、志保が心配そうに見やる。無理はしないで撤退しろとは言ってあるが、どこまで耐えられるのか志保にも予測がつかなかった。
    「無茶をしたら……か」
    「ごめんなさい、でもどうしてもコペルが消えるのを見ている事が出来ないんです。たとえまた戻って来ると言われてでも……」
     ヴィランは志保に、小さく笑って返した。
    「そうしてやれ。俺も気をつけておいてやる」
     頼もしいコペルの様子を、ヴィランはちらりと見て言った。
     厳は刀を凄まじい勢いで振り込んだが、防御態勢を取っていたコペルの体を切り刻むには足りない。それでも、ダメージは彼の体に大きく傷を残した。
     睨み付ける厳の頭についた角が、ぎらりと月夜に光る。
    「鬼……」
     小さく、九十九が呟いた。
     どうやら鬼に縁のある者ばかりのようですから、手加減など出来ませんでしょう…と九十九が呟く。
     斬りかかる隙を伺う面々に、九十九はヤマメと視線をかわして斧をすうっと真っ直ぐ差し出した。目を伏せて祈りを捧げる。
    「勝手に神様を風俗の神に仕立て上げるなんて、あなた方には少しお灸を据えて差し上げませんとね」
     九十九がふわりと風を起こすと、同時にヤマメがそれに合わせた。二つの風が境内に吹き荒れ、彼らを包み込む。
     だが厳の気迫に飲まれ強化された彼らには、鎮めの風で眠りを誘われる気配はなかった。ざわざわと風だけが、衣服や髪を揺らすばかり。
    「ならば、正攻法で足止めをするのみです!」
     ヤマメは攻撃方法を変え、声をすうっと張り上げた。まだ幼さの残る若々しい声が、優しい歌声を奏でる。
     ゆっくりと、その歌は最後尾で構えていた女性の心を眠りへと誘うのであった。

     最後尾で前衛に護られる千早は、ヤマメに続いて符で眠りを誘おうと計っていた。だが二人がかりでも完全に足止めするには弱い。
     咆哮をあげて厳が刀を振り回し、攻撃を受け止めようとするヴィランと若菜達に打ち据える。刃というより、金棒か何かのような力まかせの攻撃と威力に、ヴィラン達は耐えていた。
    「下がれ!」
     現に蹴り飛ばされ地面に叩きつけられたコペルに、ヴィランが声を掛ける。とっさに九十九がその前に立ちふさがり、コペルへの攻撃を阻止した。
     嘲笑しつつ斬りつけようと刃で斬りつける男衆の攻撃を、九十九は笑って受け止めた。
    「まずは私と、踊ってくださる?」
     さて、消してはならぬと仲間が言うのだから無事撤退させねばなるまい。九十九がちらりと見ると、コペルは後ろに引き下がっていった。
     大切な相棒を見送り、振り返ったその顔に『大丈夫』と言って聞かせた志保。きっと視線を羅刹に向けると、清めの風で前衛の仲間をさらりと撫でた。
     無事逃がしてくれた仲間への感謝の気持ちと、そして戦いを続ける彼らへの支援が込められた志保の風に、ヴィランは深呼吸を一つした。
    「こいつは……長居は出来そうないな。手早く片付けろ」
    「わかっておる!」
     後ろに従う美沙が、風の刃を放って最後尾の女を切り裂く。執拗に刃を差し向ける美沙であったが、躱されると即座に舞を織り交ぜて集中力を高める。
     ヒトである主等を倒すのは本意ではないのでな。
     …そう、美沙は呟いて手をゆるめた。だがここで手を止めるという訳にはいかない状況、手加減をして気でも失わせようとした美沙達であったが、厳達ががっちり固めているままでは後ろの女に手加減して手出しをする事が出来ないのである。
    「こいつらを先に倒すしかありません。まずは前衛を無力化するべきです」
     律は前に立ちはだかる男衆を指して言った。
     だが美沙は、後衛から治癒と攻撃を仕掛ける女を後回しにすべきではないと主張する。
    「今、手加減をする余裕はなかろう。後ろでフォローされるとやっかいじゃ、さっさと倒してしまえばよい」
     一般人とて、殺す気で叩かねば死ぬような傷を負うことはめったにあるまい、と美沙は言うのである。
    「だけど、万が一にも死なせてしまう可能性があるなら避けるべきです」
     きっぱりと律は言い切り、若菜へと斬りつける男衆へと神降ろしの風を放った。一瞬迷った若菜も、続いて風を放つ。
     美沙とて一般人を巻き込む事はしたくないが、あと一撃という所で攻撃の手をゆるめるのは甘いとしか言いようがない。
     くすりと美沙は笑って、小さく肩を揺らす。
    「甘いのう」
    「甘くていいんです。大丈夫、みんな片付けちゃえばいいんだから」
     護符を握りしめると、千早はそう言って次々と符を放った。千早の前に立つ美沙は、『ならば片付けてみせよ』と千早に言うと神薙の風を読んだ。
     ここに居るのはみな、神薙の力を持つ者……全て、羅刹に縁のある者ばかりなのである。厳の攻撃に呻き声を上げ、なおも耐える若菜の背後から美沙が風を放つ。
     狙ったのは厳ではなく、その横にいた男衆であった。眠りを誘う千早の符が立て続けに切り裂き、眠りの呪を植え付けていく。
     ぐらりと体勢を崩したのは、幾度も放たれた符の力によるものだろうか。
    「今ですよ!」
     千早が声を張り上げると、若菜がはっと顔をあげた。するりと厳の前を抜け、若菜が細い手を伸ばす。
     ふ、と懐に入り一撃。
     眠りに誘われていた男は、すとんと倒れた。
     律と美沙は千早やヤマメ達の符に助けられながら、神薙の風で切り裂いていた。一人、そして一人と倒れて…残ったのは厳と後衛の女。
    「ふむ、女を護るは男の役目と言うからの」
     まあ、ここに居るのは護られるも護るも為すおなごばかりじゃがと、美沙はくすりと笑って言った。
     さて、残りは二人。
     ふうっと大きく息をつき、ヴィランが肩をぐるりと回して力を抜く。ようやくここからは攻撃に転じる事が出来そうである。
    「さて、それじゃあここからは一丁本領発揮といくか」
    「え、うん?」
     きょろきょろと千早が見回すと、皆知った顔で頷いている。
     そういえば何か言っていたような……。
    「何ですか、教えてくださいよ神楽さん?」
     千早が揺さぶると、美沙は首を振った。
     美沙も聞いてはいなかったから知らぬ、とそっぽを向く。志保が嬉しそうに笑い、皆の攻撃に合わせて神薙の力を宿した。
     せーので行きますよ。
     志保は早く言いたくて仕方ないらしい。
    「手下を倒したからといって勝てると思うなァァァァ!」
     怒号を荒げる羅刹に見えるように、ヤマメは腕を異形化させて掲げた。いびつに巨大化したその腕は、羅刹が最も得意とする破壊の力である。
     ここにいる誰もが羅刹と表裏一体。
    「皆様一緒に」
    「そーれ、鬼退治!!」
     志保が神薙の風を放つと、一斉に厳の体を風が覆い尽くした。一瞬遅れたが、千早も声をあげる。幾多もの風と、そして羅刹のパワーを宿した一撃が止めとばかりに殴りつけ…そして風が全てを包み込み、また嬲り。
     風は厳しく、そして全てを消し去るように羅刹から全ての力を奪い尽くした。
     ゆるり、と風が止む頃には一人、ぽつんと佇むだけであった。その姿があまりに寂しく、呆然と立ち尽くす女性に律がそっと近づくと手刀の一撃で意識を奪ったのであった。

     ヤマメ達がぽつりぽつりと話している頃、律はヴィランや志保とともに片付けをしていた。ここをこのまま放置していくのは、申し訳ない。
     律がそうヴィランと志保に言うと、ヴィランはひとまず持ってきたクッキーをゆっくりと味わい、それからゆっくりと立ち上がった。
     クッキーの包み紙をポケットに入れ、ヴィランは倒れ込んだままの男衆達を見下ろす。引きずっていた律が、ふと首をかしげる。
     さて、彼らはこのまま放置して良いのだろうか。
    「脅しておけば、後は余計な悪さをせずに住むかもしれません」
     すると志保は、しずしずと彼らの顔をしゃがみこんで見つめた。曰く、彼女に言わせると自業自得だから放っておけばいいというのである。
     大人しい顔立ちであるが、そのあたりはハッキリとした意見を持っていた。
    「幸い、羅刹の遺体も消えていますから、このままにしていていいんじゃないかな」
     確かに羅刹はいなくなったけど、ここの人達に笑顔が戻ってくれるのだろうか。誰かのささやかな笑顔を楽しみに祭が開かれる、そんな神社に。
     律はそれを願い、龍神の泉の方へとそっと祈るように目を伏せるのであった。
     ふたたび静寂の戻った、神無城神社。
     社務所には、夜遅くにも関わらずぽつりと灯りがついていた。懐に刃物を持っていた青年は、それを若菜に奪われて椅子にがっくりと座り込んでいる。
     周囲を囲む人々はいずれも学生のようだが、一体何故こんな所に居るのか。青年は疑問を感じながらも、口を挟む事なく黙っていた。
    「自分が何をしようとしたのか、今一度深く考えてみて頂戴」
     若菜が厳しい口調で言うと、ヤマメは『貴方の記憶が戻らなければ、祭りが戻っても寂しい事』と諭した。
     厳と相打ちになどという方法を強く非難したのは、彼女なりに羅刹との因縁や思いがあった事も起因しているかもしれない。
     しかしそれが分からない青年にとって、子供に諭されたと自嘲気味に笑うしかない訳である。
    「なさけないな、こんな姿を見られてしまって」
     力に頼り暴虐を繰り返す羅刹が多いからこそ、ヤマメは同じような方法を彼には取って欲しくなかった。
     二人が無言になると、側でじっと聞いていた美沙が薄く笑った。
    「慣れない事はするものではない。おぬしの役割は、人を殺す事はあるまいに…と、妾の話なら聞いてくれるかえ」
     美沙が意地悪げに言うと、肩をすくめた。

     月明かりに照らされた池が、煌々と輝いている。
     千早は池のほとりにちょこんとしゃがみ込んでじっと水面を見つめた。青年の事は、皆に任せておけばいい。
     千早は背後に立った九十九に、細い声で言った。
    「ねえ、本当に龍が居るかな」

     信じたいような、信じられないような…信じる気持ちが分かるような。
     千早は龍伝説に頼る人達の気持ちが、少し分かる気がしていた。九十九はすうっと上を見上げて、月を視野に入れる。
    「居る方が楽しいですわ。だって居ないと、浪漫がありませんもの」
    「浪漫? …んー、それでいいの?」
    「信じてない人には、それでも十分だと思います。それに、龍神様が私達を呼び出した…と考えると素敵じゃありません?」
     九十九の言葉は多分、千早の知る人達とは違う信仰であろう。でも龍神が呼んだという言葉は、どの言葉よりしっくりくる気がした。

    作者:立川司郎 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年9月10日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 17/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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