鬱蒼と繁る樹海には、昼なお暗い場所がある。
そこには、人知れず命を絶った者の朽ちた名残が、横たわっているだけだった。
頭上の木の枝には、風雨に晒され汚れた縄。
頭蓋骨は、胴体の骨よりも随分遠い場所に転がっていた……。
『恨みに満ち満ちし自死せし屍よ』
陽光の殆ど届かないそこに、眩いばかりの白い光が降り注ぐ。
『その身に宿す業をこの私に見せるのです。さすれば、その身に不死の力を与えましょう』
光と共に白い骨へと注がれた声はそう言った。
すると、打ち捨てられたような骨達は、人だった頃の動作そのままに起き上がり、自らの頭蓋骨を拾い上げる。
怨恨に満ちた禍々しい気配に吸い寄せられるよう、あちこちから動物や自殺者のものらしき躯が集まってきていた。
「長月・紗綾(暁光の歌い手・d14517)さんの調査によって、富士の樹海で強力なアンデッドが現れたという情報が得られた」
土津・剛(高校生エクスブレイン・dn0094)は、集まった灼滅者達にそう切り出した。
彼女の予測が正しければ、アンデッドの誕生には謎多きノーライフキング『白の王セイメイ』が関わっている可能性が高いだろうともいう。
「セイメイの力を得たアンデッドは、ダークネスに匹敵する戦闘力を持つようだ。今は富士の樹海の奥に潜んでいるが、時が来れば動き出すだろう」
サイキックアブソーバーからの情報によれば、今すぐに事件を起こす気配はないらしい。
「だが、このままではセイメイが強力な配下を増やしていってしまうことには変わりない」
いつかの時、人々が危険に晒される前に、その芽を摘んで欲しい……それが、今回の依頼だった。
「お前達に対処を頼むアンデッドは、樹海の奥で首を吊って自殺したらしい男性の白骨死体で、片腕の先が刀のように変形している。もう一方の腕には自分の頭蓋骨を抱え、戦闘時は大型犬のゾンビの上に騎乗して戦うスタイルのようだ。……まるでデュラハンだな」
年の頃はまだ働き盛りの壮年といったところで、自殺の原因までは分からないらしい。
どれ程の憎しみや恨みから、こんな姿で蘇ってしまったのか……。
「首なしの騎士が従えているのは、3体の白骨死体のアンデッドと2体のゾンビ化した犬だ」
白骨アンデッドとゾンビ犬は然程強くないが、首なしと彼を乗せているもう1体の大型ゾンビ犬は段違いの強さを誇るという。
「白骨のゾンビは、お前達がよく戦うゾンビと攻撃方法も変わりないが、ゾンビ犬はそれに加えて噛み付かれた時に毒を貰ってしまう可能性があるから、注意して欲しい」
首なしの方は、日本刀と無敵斬艦刀に似たサイキックを使用してくるとのことだ。
「それと……樹海の探索についてだが、この辺りではないかという見当しか付かなかった」
剛は地図に描かれた富士山の裾野の、ある一帯を円で囲んだ。
「昼でもあまり光の届かない場所で、恐らく彼が使ったであろう赤い縄が吊るされているところを、まず探すと良いだろう。きっと、その近くに潜んでいる筈だ」
縄のある地点周辺なら、戦うだけの広さも充分確保出来るようだが。
「富士の樹海は迷い易いからな、探索に時間が掛かると日が暮れてしまうかも知れない。夜間に探すにも、一夜を明かしてから探索を再開するにも、一応準備はしていった方が良いだろうな」
くれぐれも気を付けて欲しいと、剛は真剣な表情で締め括った。
参加者 | |
---|---|
巽・空(白き龍・d00219) |
龍海・柊夜(牙ヲ折ル者・d01176) |
遊木月・瑪瑙(ストリキニーネ・d01468) |
時諏佐・華凜(星追いの若草・d04617) |
ヴィントミューレ・シュトウルム(ジーザスシュラウド・d09689) |
シーゼル・レイフレア(月穿つ鮫の牙・d09717) |
蛇原・銀嶺(ブロークンエコー・d14175) |
アムス・キリエ(懊悩する少年聖職者・d20581) |
●森の影を辿って
手付かずの樹海の中を、8人の影は奥へ奥へと進んでいく。
遊歩道の周辺はまだ差し込む光も明るかったが、今は濃い緑の陰影が折り重なり、少しずつ闇に沈んでいくよう。
「皆さん、大丈夫ですか?」
濃い緑よりも若々しい色を揺らし、時諏佐・華凜(星追いの若草・d04617)が振り返る。
「おう、こっちは何事もないぜ」
近くの木陰を確認していたシーゼル・レイフレア(月穿つ鮫の牙・d09717)が、始めに応えた。
他の仲間達も、そう遠くは離れていない。
灼滅者達は、逸れないよう固まって探索を行うことにしていた。
手分けをした方が効率は良いかも知れないが、何処にダークネス級のアンデッドが潜んでいるか全く分からない以上、突然遭遇した場合の危険を重く見たのだ。
今回は急ぎの依頼ではないから、多少時間が掛かってもそれが最善だったろう。
共に歩くヴィントミューレ・シュトウルム(ジーザスシュラウド・d09689)は、懐中時計を手にタイムスケジュールを確認していた。
シスター服の裾から覗く細い足首には、赤い糸が結ばれている。
遊歩道から人目に付かないよう逸れた時、発動させておいたアリアドネの糸だ。
滑り難い加工が為された靴が、落ちて乾いた小枝を踏むと、乾いた音に付近の茂みで鳴いていた虫がなりを潜めた。
まだ明かりは必要なさそうだが、鬱蒼と繁り、光を遮る緑は普段見ている植物とは違うように見える。
「ここは独特の不気味さがありますね……」
かつては田舎に住み、森にはよく遊びに行っていたという巽・空(白き龍・d00219)は「始めは懐かしくてちょっとしかったけど……今はちょっと怖いかも」と少し首を竦めた。
透明シートを重ねブロック分けされた地図の上には、遊木月・瑪瑙(ストリキニーネ・d01468)のスーパーGPSによって現在位置が示されている。
これなら万一コンパスが利かない場所に入り込んでも、迷ったりはしないだろう。
「流石に、居心地のいい場所……とは言えないね」
自殺者の気持ちも理解出来なくはない。
瑪瑙は、占い師だった母の許を訪れていた人々のことを思い出していた。
思い詰め、藁をも縋る様子の顔や声を朧に浮かべる。
(「……別に、解りたくもないけど」)
青碧の瞳が、心なしか沈んだ色を漂わせた。
蛇原・銀嶺(ブロークンエコー・d14175)は上の方を眺めて歩く。
「どうかしましたか?」
蛍光ペンで塗り潰した、探索の済んだ箇所を確認しながらアムス・キリエ(懊悩する少年聖職者・d20581)は彼の横顔を見上げる。
「……あぁ。かの人物が極端に背が低かったりしない限りは、このくらいの高さになるかなと」
銀嶺は、地表から3~5m程のところに太めの枝が伸びている木を探していた。
首を吊る為の縄を掛けるには、それなりの高さと強さを持つ枝でなければと。
「そうですね。私も普通に首を吊ったとすれば、それほど高い位置ではないと思われるので、それなり程度の高さ、ある程度太い枝を目安に探そうと思っていました」
龍海・柊夜(牙ヲ折ル者・d01176)も穏やかな物腰で軽く顎を下げる。
樹木や様々な植物の生える森の中で、上にばかり気を取られては危ないかも知れないが……。
「足元のことは、私が引き受けますから心配しないで下さい」
アムスは、自身と銀嶺の隠された森の小路によって植物が開けてくれている道に目を向けた。
「草を踏んだ時、滑らないように……」
彼の案内を聞きながら、華凛は探索に気を取られすぎて皆がバラバラにならないよう、気を張り詰める。
太陽が次第に傾き、夜の闇が忍び寄り始めた。
赤みを帯びた西の空の切れ端を見上げて、終夜が口を開く。
「日暮れが近付いてきたようですね。完全に暗くなる前に、夜を明かす場所を確保した方が良さそうです」
「日没予定のジャスト1時間前。引き上げ時のようね」
ヴィントミューレが懐中時計を見せた。
この日探索を終えたのは、全体の3分の2程度。
初日のうちに見付からなかったのは残念だが、明日には確実に決着をつけられるだろう。
●夜闇と朝靄の中に
アリアドネの糸を辿って適度な広さの場所を確保した後、シーゼルは呪装帯『Brezza marina』から生み出した粘着性の糸で蜘蛛の巣にも似た空間を作り上げた。
人によっては使用する機会のないESP故か、華凛は珍しそうに巣を見回し中に入る。
「この中では、眠らなくていいんですよ、ね?」
「確かに快適ね」
ヴィントミューレは唇に笑みを浮かべ、適当な場所に腰掛けた。
「樹海の奥を捜索するのは骨が折れるわね。けど、お陰で一般の人への危害を防げるのなら安いものよ」
「そうですね……」
小学生の割りに大人びた少女の言葉に頷きつつ、華凛はもうひとつのことを考えていた。
自ら命を絶った筈なのに、再び呼び戻された存在の胸中には、何が渦巻いているのかと。
(「土津先輩はデュラハンの様、と仰ったけれ、ど。死出に誘う、その先が……戦いの中、だなんて、やっぱり嫌、だから」)
これ以上彷徨うことのないよう、送って差し上げられたら。
彼女がそっと胸に決意を浮かべていると、
「あれ、銀嶺さん、色々持ってきたんですね」
空が銀嶺の荷物を見て声を掛けているのが聞こえた。
探索に使用するもの以外に、携帯食料や水、お菓子などが入っていた。
「あぁ、野宿に備えて……巣の中なら必要ないが、気分的にな」
淡々としている割にはこういう時は色々と話してくれる彼に、空も笑んで戦場食を取り出して見せる。
「ボクも一応非常食、持ってきたんです」
「それは後で、本当の非常時に使わせて貰おうか」
「はいっ♪」
夜の樹海は静かだった。
時折聞こえた虫の声も、気温の低さのせいか少ない。
「もし、皆さんもずっと起きてらっしゃる、なら。気分転換に、トランプでも、如何、でしょう?」
華凛はトランプの箱を手に微笑んだ。
「おっ、用意が良いじゃねーか。折角だから俺もやるぜ」
「そうだな」
乗り気のシーゼルの後ろで、銀嶺も静かに頷く。
「私もお付き合いしましょう」
柊夜はサングラスの奥で穏やかに微笑んだ。
「トランプ? いいわよ。明日のスケジュールを纏めたら参加させて貰おうかしら」
「はい。参加者さんが多い方が、楽しいです」
「言っておくけど、強いわよ?」
嬉しげに目を細めた華凛に、ヴィントミューレは不敵に口端を吊り上げた。
「僕は、遠慮しておくよ」
そう言って微笑んだ瑪瑙は、張り巡らされた糸に足を掛けて少し離れた、上の方に腰を下ろす。
穏やかな時間が過ぎていく。
「くっそー、負けたー!」
シーゼルが思わず放ったカードがひらひら舞う。
「どうするの? まだ挑戦するなら受けて立つわよ」
悠然と問うヴィントミューレ。
カードゲームにおいては、外見と立場が逆転しているようだ。
「ヴィントミューレさん、すごいです」
「華凛さんもお強いじゃないですか」
「違いない」
「わ、私は、運が良かっただけで……」
終夜と銀嶺に言われ、華凛はほんのり染まる。
糸の間から、アムスは闇に沈んだ森を眺めた。
「どうしたんですか?」
ひと段落した輪から抜けてきた空が尋ねる。
「ここは自殺の名所と聞きました」
肩を並べる少女に、少年は視線を外に注いだまま口を開いた。
「自ら命を断つのは罪深いこと。ですが、不浄のものに利用されるなどあってはなりません」
「ボクもそう思います。形はどうあれ、亡くなった人を無理やり甦らせ、従わせるというやり方は、許せませんです……!」
空が真剣な表情で大きく頷くと、アムスも緩く微笑んだ。
彼らの様子や夜の森を、暫くぼんやりと見ていた瑪瑙の瞼がゆっくりと落ちていく。
巣の中では眠らなくても大丈夫とはいえ、ゆったりまどろむのも良いだろう。
静かな、静かな夜は更けていった。
翌朝。
まだ朝靄の漂う頃から、一行は探索を再開していた。
地道だが確実な探索は実を結び、まだ朝の時間帯のうちに赤い縄の垂れ下がった木は見付かった。
それを目印に探索を始めたところで、鼻先を掠める微かな死臭。
「……いたか」
「そうみたいだね」
銀嶺の呟きに、瑪瑙が同意する。
灼滅者達は一様にスレイヤーカードを取り出した。
●安らかな眠りを
「あちらも気付いたようですね」
終夜の言葉を肯定するように、草木を踏む音と嫌な唸りが聞こえてくる。
華凛も頷いた。
「一端、縄の近くまで、戻りましょう」
足場や視界は、ここよりも縄が吊るされている辺りの方が確保出来そうだ。
引き離し切ってしまわないよう後退していくと、やがて先頭を駆ける腐れた犬達が藪を突っ切ってきた。
ゾンビ犬の出鼻を挫くように、空が抗雷撃を見舞う。
ギャンと吼え、身を翻してゆらりと現れた白骨のアンデッド達と足並みを揃えるように一度留まった。
その間に柊夜が藪の向こうに見えた首なしに突っ込み、シールドバッシュを放って怒りを誘発する。
「危なっかしい連中はさっさと退治するに限る、ってな」
手の甲のWOKシールドを展開させ、シーゼルは同じ前衛達への守りと耐性を高めた。
銀嶺は骨を繋げるような動作をしている白骨死体に、メディックの特性を生かして斬影刃にブレイクを乗せ切り裂く。
やがて揃って前進してきたアンデッド達を、瑪瑙が掲げた魔道書から噴き出す炎が舐めていく。
スナイパーのヴィントミューレは、預言者の瞳で更に精度を上げ、首なしに向け魔法の矢を放った。
更に華凛が石化の呪いを首なしに掛け、身動きを制限していった。
「どうか彼らを救うお力を、私にお与え下さい。主よ、導きたまえ……!」
アムスは聖職者の如く、肩に布を掛け聖書のような拵えの魔道書を手に、符を取り出す。
守護の力が込められた符だ。
仲間達に飛ばし、煩わしい異常から遠ざけていく。
「ほーら、どうしたのー?」
美しくも猛々しい『龍の波動』に青いポニーテールを靡かせながら、空は挑発するように笑いながら、超硬度の拳でゾンビ犬を殴りつける。
が、亡者達の目は木の洞か濁った色をしていて、聞いているのかいないのか。
ともあれ、無差別に襲い掛かるアンデッドを引き付け、空はもう一撃お見舞いした。
集中攻撃に、ゾンビ犬の1体目が短い断末魔を吐いて地に転がる。
(「そうね、今度は大型犬を狙ってみようかしら」)
ヴィントミューレは首なしが騎乗する大型ゾンビ犬に狙いを定める。
が、マジックミサイルを他の白骨アンデッドが阻んだ。
「ちっ。めんどくせーが、あいつら先にやっちまった方が良いみてーだな」
軽い舌打ちの後、シーゼルは残りの白骨死体に目を向け、仲間達も応じた。
幸い、取り巻きは普通の眷族と変わらない。
手早く片付けてボスに向かえば良いだけだったが、勿論相手もやられてばかりではいなかった。
月光の如き冴え冴えとした一閃が、中衛の華凛に襲い掛かる。
「させませんよ」
終夜がディフェンダーの面目躍如とばかりに躍り出、少女を庇った。
「やはり、一撃が重い……」
怒りによって多めに首なしからの攻撃を引き受けてきた柊夜は、一気に体力を持っていかれる。
すかさずアムスがヒーリングライトを施し、傷を癒していく。
「流石に、ダークネス並みの力を与えられたというだけありますね」
思わぬ痛撃にヒヤリとさせられることもあったが、今のところなんとかメディックを担う彼と銀嶺によって、誰も倒れずにきている。
癒し切れない傷が蓄積され、長引けば厳しいのはどちらも同じ。
「こいつは俺が引き受けるぜ!」
シーゼルが白骨の攻撃から終夜を庇い、その間に出来る限り万全の状態に回復させる。
灼滅者達は弱ったアンデッドから1体ずつ確実に倒し、一歩一歩優位に近付いていた。
灼滅者達の連携攻撃に、ぐらりと大きなゾンビ犬が傾ぎ、首なしは巻き込まれぬよう飛び退いた。
まるでデュラハンだと呼ばれた者は、騎馬を失った。
「亡霊騎士、覚悟っ!!」
オーラを纏った拳を、空は怒涛の如く首なしへ放つ。
「あなたのこれからする行いが正しいかどうか、裁きの光を受けるといいわ」
人差し指を突きつけ、ヴィントミューレがジャッジメントレイを放つ。
まともに食らいながらも、まだその骨の足はしっかり地面に立っている。
1体になりながらも首なしは凶刃を振るい、後衛陣も激しい列攻撃に晒された。
「おい、しっかりしろ!」
流石に何度もは庇い切れず、シーゼルが叫ぶ。
「大丈夫……です」
アムスはすぐにヒーリングライトで自らを癒し、仲間も癒す準備をする。
(「どうか、深い闇に捕われない、で。来世への巡りに、乗って、下さい」)
回復の間、首なしの危険を少しでも削ぐように、華凛は祈りを込めて歌い出した。
妙なる歌声に頭蓋骨からの唸りが収まり、切っ先が迷う。
「なんて憎しみなの……」
ロッドで身を支え、ヴィントミューレは受けた衝撃に混じる禍々しさに思わず零す。
「何が理由で自殺したのかしら」
「何処の誰かも分からない……この状況では、推し量ることも出来ないな」
答えたのは銀嶺だった。
再び眠らせてやること、それが自分達の役割だと、弦を弾いて生み出される旋律が癒しの力と共に語る。
(「ここにいた理由も抱えた感情も、必要ない。『それ』はもう、死ぬ前の誰かじゃなくて、ただの駒なんだから」)
柔らかな猫毛をなびかせ、瑪瑙が地を蹴る。
巨大な腕へと変容した腕が、白い骨に食い込む。
耐えるにも限界を超えたか、首なしの肩が砕け散った。
外れた片腕から零れ落ちた頭蓋が、恨めしげな声を上げながらカタカタと下顎を鳴らす。
次の瞬間、シーゼルと空が駆けた。
互いの渾身の一撃が、骨の身体を砕いていく。
そして……そのままバラバラに散らばった骨は、もうぴくりとも動かなかった。
●静寂
散らばった骨は出来るだけ一箇所に集められ、その上に損傷の少ない頭蓋骨が鎮座した。
「――おやすみ」
もう笑うでもなく、恨みに唸るでもなくただ沈黙しているしゃれこうべに、瑪瑙は静かに呟く。
「彼らに神の御慈悲がありますように」
利用されてしまった彼らと、樹海に未だ彷徨っているであろう魂に印を切り、アムスは祈りを捧げる。
(「次は……どうかその生を、自ら閉ざす事の無い、日々を……」)
華凛も目を閉じ、切なる願いを込めて祈った。
その人物の死の理由も知りようなく、命を絶った事実も変わらない。
世の中には、意外とこんなすっきりしない出来事が溢れ返っているのかも知れない。
けれど……灼滅者達は、それ以上に最悪の事態を防いだ。
もう、誰も彼の眠りを妨げることも出来ないし、死して尚尊厳を踏み躙られ、ダークネスの好きなようにされることもないのだから。
帰りの樹海の景色は、来た時と何処か印象が違った。
優しい夜のように、そこに留まる者の眠りを見守り続けるように――
作者:雪月花 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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