殺人者の問いかけ

    作者:波多野志郎

     ――『彼等』には、疑問があった。
    『人を殺したら死んでしまうでしょう?』
    『殺したら死ぬと決まってるからね』
     会話をするのは、黒と白のパペット人形だ。そのやり取りを眺めるのは、両腕にその人形をつけた一人の少年だ。左目の仮面型のモノクル、その白い瞳に黒目の双眸を細め、少年は口を動かすことなく人形達のやり取りを眺めていた。
    『だとしたら僕は誰なのでしょう?』
     右腕の黒人形が、小さく小首を傾げる。
    『だとしたら俺は誰だ?』
     左腕の白人形も、また疑問を投げかける。
    『……六六六人衆なのは自覚できます』
    『殺意もある。でも、殺人はつまらないからしたくないね』
    『そうだ、こういう時は先人に聞きましょう』
     名案だ、という表情で黒人形の台詞に少年は微笑む。夜空を見上げ、軽い調子で歩き出す。
     誰の意見を聞こう――そう思った時、少年には思いつく名前があった。

    『『悪を成す』、赤鷺に――』

    「ひどく、面倒な事になってるっすよ……?」
     湾野・翠織(小学生エクスブレイン・dn0039)は厳しい表情でそう、切り出した。
     今回、翠織が察知したのは六六六人衆の動きだ。それと同時に、その相手が問題だ。
    「知っている人もいると思うっす。この間、闇堕ちした本田・優太朗さんっす」
     現在、優太朗はまだ殺人を犯していない状況にある。しかし、その状況も長続きしない――何よりも厄介なのは、殺人を犯す理由を得るために他の六六六人衆と接触を試みようとしている点だ。
    「で、接触しようって相手が……六六六人衆、五一六。『悪を成す』赤鷺ってダークネスなんすよ」
     その名前に、その場にいた隠仁神・桃香(中学生神薙使い・dn0019)の表情が引き締まる。知らない相手では、ないからだ。
    「本田・優太朗さんは、赤鷺と接触して『殺す理由』を得てしまうんす。そうなってしまえば、六六六人衆として思う様に命を奪うようになってしまうっす。そうなったが最後……こちらに引き戻す手段は、なくなってしまうっす」
     ようするに、そうなる前に優太朗を倒してこちら側に引き戻さなくてはならない――そのために必要な条件も、またシビアなものなのだが。
    「まず、本田・優太朗さんが赤鷺と接触するために、深夜とあるビルの屋上に姿を現わすっす。そこで、戦って倒さないといけないっす。光源とかはまったくいらないし、広さもかなりあるっすからそこは大丈夫なんすけど……」
     その時、優太朗は両手の人形を着ぐるみ程の大きさにして切り離し、自律行動させてくる。これは配下眷属のような、都市伝説的な何かだ。加えて、この人形には深い意味がある。
    「本田・優太朗さんにとって、この二体の人形は自分自身の心を、魂を宿した存在っす。この二体を倒してしまう事は心を傷つけられる事と同じになってしまうんす。そうなると、よしんば戻って来れたとしても心に大きな傷を負った状態……不安定な状態で戻ってきてしまう事になるっす」
     そして、この二体の人形と本人を説得でこちら側に引き戻さなくてはいけない。これは、かなりの重労働になるだろう。
    「その上で、『悪を成す』赤鷺がやってくる十二分の間に何らかの決着をつけないといけないっす。そうなったら、本田・優太朗さんを連れて全力で逃げ去るっすから……本当に、厳しい戦いになるっすよ、これ」
     翠織の表情は、厳しいを通り過ぎたものだ。それでも、桃香は真剣な表情で付け加えた。
    「その人形二体を、こちらで引き受ければどうでしょうか?」
    「……そうっすね、もうこうなったら人海戦術っす。サポートの人には、人形二体の引き剥がす役をしてもらえば……多分、イケるっす」
     そう答えた翠織の表情は、厳しさは少し和らぐだけだ。それほどに、状況は厳しいと思っていい。
    「なんとか、救出して貰いたいっすけど……それが無理ならば灼滅せざるをえないっす。本田・優太朗さんは、既にダークネスっすから……迷っていて、致命的な隙を作るわけにはいかないっすから……」
     翠織の表情が曇る理由――それは、この厳しい状況に仲間の未来がかかっているからに他ならない。
    「今回助けられなければ、完全に闇落ちしてしまい、おそらく、もう助ける事はできなくなるっす。もちろん、救えればそれに越した事はないっす……でも、その覚悟を決めて、挑んで欲しいっす」


    参加者
    叢雲・宗嗣(贖罪の殺人鬼・d01779)
    金井・修李(進化した無差別改造魔・d03041)
    吉沢・昴(ダブルフェイス・d09361)
    エリ・セブンスター(ミストの嫁・d10366)
    木嶋・央(黄昏を守護する処刑刀・d11342)
    フィン・アクロイド(デクスタリティ・d11443)
    八坂・善四郎(そこら辺にいるチャラ男・d12132)
    アルクレイン・ゼノサキス(治癒魔法使い・d15939)

    ■リプレイ


     秋晴れの空は、冬の星座に彩られていた。それを見上げていたのは、一人の少年だ。灰色の髪。黒目と白目が逆転した目。左目の方には仮面型のモノクルを付け、奇術師のような出で立ちに身を包んだ少年だ。
     深夜、ビルの屋上。一人立ち尽くす少年の背後で、ガチャリと鉄扉の開く音がした。少年は、振り返らない。しかし、その左右の手の人形が口を動かした。
    『おや、これは予期せぬ来訪者です』
    『しかも、いくつかは見知った顔だね』
    「連れ戻しに来たっすよ、優太郎さん」
     その軽い口調に、少年――本田・優太朗が振り返る。そこにいたのは、いつものように笑った八坂・善四郎(そこら辺にいるチャラ男・d12132)だ。
    「優太朗、テメェを失わせはしない。ましてや、赤鷲のようなクソ野郎なんざにな!」
     叫び、木嶋・央(黄昏を守護する処刑刀・d11342)が地面を蹴る。
    「今こそ処刑刀としての責務を果たそう。形成ッ!」
     赤いコートの裾をひるがえし、深紅の影となった央がBois de Justiceを下段から振り上げる。しかし、それを右の黒人形がその口で咥え受け止めた。
    『おや、危な――』
     左の人形の言葉が、遮られる。頭上を舞う影、叢雲・宗嗣(贖罪の殺人鬼・d01779)に気付いたからだ。
    「一凶、披露仕る……」
     カキン、と無銘紅・凶星が鍔鳴りした瞬間には、その刃は振り払われていた。その居合い斬りの一閃を、今度は左の白人形が咥え受け止める。
    「――――」
    「こんなこところでくだらないことで悩んでないで帰っておいで?」
     その懐に潜り込んだのは、エリ・セブンスター(ミストの嫁・d10366)だ。バチン、と雷をまとうその拳が振り返らないままの優太朗へと繰り出された――その瞬間だ。
     音もなく足元からせり上がった影が、エリの抗雷撃を受け止めた。同時に、央と宗嗣二人を弾き飛ばす!
    「こんばんわ、本日のネタ枠だ――リア充、爆発しろ!」
    「良かった……寒冷適応あって……」
     左手のパペット人形の口からガトリングガンの銃口を見せるフィン・アクロイド(デクスタリティ・d11443)と、小さく身震いした金井・修李(進化した無差別改造魔・d03041)が同時にガトリングガンの引き金を引く。無数に咲くノズルファイア――その銃弾の雨に、優太朗は無言でその場を疾走。左右の人形が顔を見合わせる。
    『いやですね、まだ殺す理由が見つかっていません』
    『でも、火の粉は払わないとね』
     優太朗が、左右の手を振るった。瞬く間にぼこぼこと膨れ上がると、着ぐるみ程の大きさとなる。
    『なら、払うとしましょう』
    『うん、叩いて潰すとしよう』
     腕から外れて独立した二体の人形、それを見た瞬間だ。
    「今だ」
    「はい!」
     駆け出す吉沢・昴(ダブルフェイス・d09361)に、隠仁神・桃香(中学生神薙使い・dn0019)がうなずく。優太朗が反応しようとするのを、必中を心に誓った昴の死角からの切り上げが、邪魔をした。
    「フィン弱フィン弱ゥ! あっ、人形止めるからホンダさんよろしく!」
    「どーも、そっちは任せたよ。だからこっちは任せろ」
    「こっちは押さえとくから央たちは思う存分ぶつかってこいよ」
     一気に雪崩れ込んだ仲間達が、黒と白の人形へ殺到。それは、すぐに二つの戦場となり、人形と優太朗を分断する。
    「――――」
    「そっちへは、行かさないっすよ!」
     合流しようとした優太朗の前に、雷を宿した善四郎が抗雷撃を叩きこみ、曲剣を眼前に突き出した央が立ち塞がった。これによって生まれた戦場は三つ――まさに人海戦術と呼ぶにふさわしい、強引な力技だ。
    「これだけ多くの人が、優太朗に帰って来て欲しい。そう思っているんです」
     アルクレイン・ゼノサキス(治癒魔法使い・d15939)は深呼吸を一つ、思い切り叫んだ。
    「優太郎さんが居なくなったら、祈梨さんも虚空さんもアインさんも、他の誰だって幸せになんてなれないんです。祈梨さん達を不幸にしてまで闇に落ちたいんですか! 帰ってきて下さい!!」
    『何か、うるさいですね』
    『ああ、とても耳障りだね』
     多くの灼滅者達を前に、優太朗の余裕は崩れない。黒と白の人形が身構え、優太朗も静かに前に踏み出した。
    『消してしまいましょう』
    『うん、消せば聞こえなくなるよね』
    「過去は変えられない……けど、未来は変えられる!」
     修李のその言葉と同時、この悲劇を覆すための戦いのカウントダウンが始まった。


     ヒュオン、と一陣の風が吹き抜けた瞬間、優太朗の手から放たれた鋼糸が結界を構築する。
    「優太郎さんが居ない日常は寂しいんです。「神秘の力だ」とか叫んでもらう為にも頑張ります」
     アルクレインが吹かせた清めの風を背に受けて、善四郎が踏み出した。
    「はーい、同居人の善四郎くんでーす☆ 寮の皆は優太朗さんが居ないから沈んじゃって……だ・か・ら☆ 有無を言わさずふんじばって連れてかえるっすよォ!」
     変貌した異形の怪腕、善四郎の鬼神変が優太朗を殴打する。それを、優太朗は逆らわず吹き飛ばされる形で後方へ跳んだ。
    「殺人の理由を求めるために赤鷲に教えを請う、か。何だそりゃ、俺への嫌がらせか」
     だが、その懐に央が追随する。Bois de Justiceの横一閃、その死を宿す一撃と共に央は叫んだ。
    「理由さえアレば殺しが出来るなんざふざけた事抜かしやがって、優太朗に住まうダークネス、テメェは処刑刀たる俺が、ここで殺す!」
    「殺すのに理由を欲しがるのは、貴様がまだ迷っているからではないのか?理由もなければ人を殺せないお前達は、そっちに行くべきではない、戻ってこい……!」
     着地と同時、死角から凶星を薙ぎ払い、切り裂いた宗嗣が言い放つ。その直後、優太朗の足元で影が爆発し二人を牽制した。
    「ブリッジしろ、ブリッジ! リア充爆発しろ!」
     ライドキャリバーのエクスカリバーによる機銃掃射と同時、ブリッジしたフィンがバスタービームを射撃する。銃弾の雨と魔法光線を掻い潜る優太朗へ、エリが立ち塞がった。
    「まぁ、アタシ口あまり上手くないから……とりあえず思ったこと口走りながらぶっ飛ばすからね?」
     ギシリ、と硬く握り締められた拳。エリは宣言通り、言葉と同時に殴りかかった。
    「殺す理由を他人に求めるとか如何にもゆうちゃんらしいけど今回は答えを出してもらうわけにはいかないよ!」
     エリと同時、それを補佐するように昴が毛抜形太刀を大上段に振り下ろす。優太朗は、そのオーラを宿した左手で昴の雲耀剣を受け止めるもエリに殴打された。
    「+1人!! さぁ、フルボッコ開始だよ! 修浬!」
     修李の足元から修李によく似た人影が、立ち上がる。唯一の相違点、その長い髪を揺らしながら修浬は刃となったその手を薙ぎ払った。


     十二分、という時間はあまりにも短い。だからこそ、この場にいた全員が死力を尽くした。
    『邪魔をしないでください』
    「全く、勝手に自分の番とか……ふざけてますよ、ありがとう、絶対……借りは返しますよ」
    『本当に、何をしに来たの?』
    「優太朗兄さん……今度どらやきを買ってくれるって約束しましたね。まだ果たしてもらってないですよ? 優太朗兄さんも憂多螂兄さんも……一緒に学園に帰りましょう。帰ってまた沢山遊びに連れてってください」
     黒の人形が護符と光輪を操り、白の人形がその殺人技巧を使い灼滅者達を追い詰めていく。それに対して、散発的な反撃はあっても防戦に徹していた。
    「優太朗! 憂多螂! 貴様らぼけっと何してやがる。とっとと戻ってこい。お前らは両方いないと、弄りがいもなくて面白くないだろう? で、戻ってきたら嫌とうほど、甘味三昧にしてやるからちゃんと付き合えよ? しんみりするのなんか、お前には似合わないからな!」
     ただ、戦いに来たのではない。救いに来たのだ。言葉をかけにきたのだ。何よりも――手伝いに、来たのだ。
     優太朗の周囲を、三人が取り囲む。央と善四郎、エリだ。目まぐるしい攻防の中で、時を惜しんで紡ぐべき言葉を紡いでいく。
    「優太朗さん、思い出話をしようか?寮にあった謎の開かずの間や秘密通路で酷い目にあったっすよね。まさか優太朗さんが出口の落とし穴に嵌るとか思わなかったっすけど、そこを越えた先はプライベートビーチで思い切り遊んで楽しかったっすよね! でも、今の優太朗さんは昔、自分が実家に居た頃と同じっす。家長に言われたから、羅刹を殺す、いずれ家長となるべき兄に言われたから、眷族を潰す、あの頃の自分と何一つかわらない」
     軽口を叩きながらも善四郎の瞳に宿る輝きは、軽くない。腹立たしい気持ちといつかは自分もああなってしまうのだろうかという恐怖心――それをコインいっこの命綱を手に、押し殺して向かい合うのだ。
    「ここに集まってくれた人達はみんなゆうちゃんを大切に思ってくれてる人、アタシも含めゆうちゃんと共に歩んでいくことを望む人達……祈梨ちゃんや義妹義弟の事思い出して……ゆうちゃんが守るんでしょ? ゆうちゃん、これだけの人に望まれてるんだよ……もう不幸だなんて言わないよね?」
     悲痛とも言うべき言葉を、エリは豪快な動きで紡ぐ。優太朗の速度に置いていかれそうになるのを必死に食い下がる――そこでなければ、言葉が届かないと信じているから。
    「優太朗、お前言ってたよな、自分の考えた企画で皆が遊んでくれて嬉しいって。皆でバカやってるあの日常、お前だも守りたいって思ってくれてたんじゃないのか、屋上で過ごした日々を、愛する者と過ごした刹那を……それを捨ててまですることかよ、優太朗!」
     Bois de Justiceを手に、央が切り結ぶ。名も無き黒き刃は、かけがえの無い刹那を守るための処刑刀だ。みんなの居場所を、大事な人たちとの時間を守るため、悲劇を処刑しなくてはならない。
    「――――」
     ゴォ! と優太朗を中心に鋼糸が荒れ狂い、三人を薙ぎ払う。そこへ昴と宗嗣が同時に駆け込み、体勢を立て直す時間を稼いだ。
    「憂多螂さんも一緒に帰ってきてくれなきゃダメなんです。あの人をくったような笑い方をして部室に居てくれなきゃ、日常なんて帰ってこないんです。二人揃って、本田・優太郎なんです。二人で一緒に帰ってきて下さい」
     アルクレインが、かすれそうな声を必死に張り上げる。修李は、唐突に数十枚にも及ぶ大量の写真を優太朗に投げつけた。
    「優太郎君! 殴って、気絶させてでも連れ戻すよ!!また皆とふざけて笑い合えるように!! 憂多螂君だって帰ってきてくれないと!二人が揃ってやっとボク達の日常でしょ!?」
    「優太朗、お前は帰りを待ってる人たちがいるだろ……なんて月並みなこと言うと思ったか!! 俺はンな優しくねえ! 人様待たせて良いと思ってんのか。しかも彼女も待ってんだろ? ちっ、爆発しろ」
     これみよがしに舌打ちして、修李やエクスカリバーと共に銃弾を打ち込みながらフィンが言ってのけた。
    「さっさと帰ってきやがれこのダサモノクル野郎がっ! なあ、俺とか、みんなとの思いでを思い出してみろよ、ワニに食われたり、爆発させたり、残像したり……ははっ、くだらねえことしかしてねぇ。だけど、それがいいんだよな? それが、俺らだろ?」
     攻撃と言葉が、怒涛のように優太郎に憂多螂に浴びせかけられる。
    『僕は――』
    『俺は――』
    「貴方は、私を不安にさせないっていいました。二人とも貴方です、始めから分かれてなんかいませんでした……少なくとも私は、どちらも愛する貴方として見ていました。殺人衝動も、捻くれた性格も、臆病なところも……少し不器用なところも、全部含めて、大好きな『あなた』です。貴方達……いえ、貴方はこの世界で、ただ一人の私が愛する人です」
     剣戟の中、響く声がある。祈梨だ。その声は、段々と熱を帯びていく。
    「私を幸せにしたいなら、もう苦しむのは止めて。大事な人を手にかけ懺悔する気持ちは私も分かります。だからこそ! 貴方は人として、生きなければいけません」
    『僕は……』
    『俺は……』
     空白が、生まれる。戦闘開始から、十一分の経過をその叫びが告げた。
    「目を覚ましなさい、優太朗!」


    『…………』
     黒と白の人形が、動きを止める。優太朗もまた、動かない。それを見た、人形を足止めしていた人間全員が、同時に叫んだ。
    『いっけええええええええ!!』
     歓声の中、八人と一体が動く。この一分こそ、全員が待ち望んだ瞬間なのだ。
    「お願いします、帰って来てください!」
     アルクレインのオーラキャノンに、優太朗が宙を舞う。そこへ、補助に徹した昴と宗嗣が同時に迫った。宙を舞った優太朗、その背後から音もなく疾走する。
    「幸せ者だな」
    「堕ちた先達として教授しよう。ソレは弱さだ……。理由が欲しければ『他人』に甘えるな! 『お前』が探せ……本田……!」
     殺人技巧によって放たれた二つの斬撃が、足を服を切り刻む。着地した優太朗へと修李が迫った。
    「これで銃器も鈍器化できるよ~!」
     巨大な異形の武器となったバルカンガンM2A1が、優太朗を横殴りに殴打。体がくの字へと曲がった。
    「行くぞBarrett! あのモノクル狙い撃つッ!」
     フィンがブリッジと共にバスターライフルを構えたその瞬間、央と善四郎が同時に駆け出した。
     放たれる魔法光線が、繰り出された二発の鋼鉄拳が、優太朗のモノクルを完全に粉砕する。そこへ、エクスカリバーが突っ込んだ。たまらずのけぞる優太朗、その背後をエリががっしと掴んだ。
    「帰ったら祈梨ちゃんに熨斗つけて送りつけるからね?」
     そして、エリと優太朗の体が弧を描く。明日へと架ける橋、ジャーマンスープレックスによる地獄投げが炸裂した。
     黒と白の人形が、音もなく消え去る。それに戦いの終わりを誰もが知った。
    「赤鷲いぃぃぃぃぃ!!」
     央が、叫ぶ。だが、あの不吉な赤い女の姿はどこにもない。十二分経過、その事の意味を誰もが理解し、喝采が巻き起こった。


     ――これ以上は、端的に結果だけを述べよう。
     優太朗は、帰って来た。多くの人間に祝福され、ある者は手荒く歓迎を、ある者は安堵し泣き崩れ、またある者はふさわしい者だけを残しその場から立ち去った。
     手渡されたお汁粉缶を手に、優太朗は笑みと共に仲間達に囲まれていた。もう、あの殺す意味を求めた六六六人衆はどこにもいない。灼滅者、本田・優太朗として、あの騒がしくも愛おしい日常へと帰って来たのだった……。

    作者:波多野志郎 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年11月1日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 5/素敵だった 13/キャラが大事にされていた 16
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