ゆらり揺れるオーナメントは、月夜の晩に空を飛ぶ、箒に乗った魔女やおばけたち。
そして勿論、黒猫に戯れられ嗤う、おばけカボチャのランタンの姿も。
「あら、日本にもハロウィンの習慣があるのね」
「ね、知らなかったわ……帰国したら、私達もハロウィンの準備をしなきゃね」
隣を歩く友人・アリアドニの言葉に、その少女・アガサはこくりと頷きながらも。
オレンジ色や黒を基調とした飾りが目を惹く国際空港の売店を見回しつつ、ふわっとひとつ、大きなあくびをした。
「それにしてもアガサ、あなた、これで何度目のあくび? まだフライトまで数時間あるわよ」
「ん……何だか最近、よく眠れなくて……」
「少し旅行の疲れが出てるんじゃない? そこのソファーに座って休んでおいたらどう? 私はその間、お土産が買えそうな店を見てくるから」
「そうね……そうしようかな」
アガサは小さくこくりと肩ほどの長さのブロンドの髪を小さく揺らして。
再び大きく開いた口に、掌を当てたのだった。
●
「トリック・オア・トリート! お菓子くれないと悪戯しちゃうよー」
飛鳥井・遥河(中学生エクスブレイン・dn0040)は、へらりと悪戯っぽく笑んだ後。
これね、オサレカフェで買ってきたんだーと、ハロウィンカラーのキャンディコーンを集まった皆にもお裾分けしつつ、察知した未来予測を語り始める。
「それで今回察知できたのはね、シャドウの一部が日本から脱出しようとしている事件だよ」
日本国外は、サイキックアブソーバーの影響で、ダークネスは活動することができない。
にもかかわらず、シャドウは、日本から帰国する外国人のソウルボードに入り込み、国外に出ようとしているのだという。
「シャドウの目的はいまだわからないし、この方法でシャドウが国外に移動できるかどうかさえも不明なんだけど……。最悪の場合、日本から離れた事で、シャドウがソウルボードから弾き出されちゃって、国際線の飛行機の中で実体化してしまったりするかもしれない。だから国外に渡ろうとするシャドウをね、みんなに撃退して貰いたいんだ」
今回シャドウが入り込んでいるのは、アメリカ人のアガサという少女のソウルボード。
彼女は友人のアリアドニと二人で日本観光に来ていたが、それも終わり、アメリカへと帰国するところなのだという。
友人がお土産を買うため店を回っている間、アガサはひとり空港内のソファーに座って休んでいるので。まずはアガサに声を掛け、人目の少ないところに連れ出し、眠った彼女のソウルボードの中に侵入して欲しい。
「アガサが座っているソファーの近くには、空港の仮眠室やトイレもあるみたいだし、その他死角になる場所も探せばあるんじゃないかな」
それから遥河は、彼女のソウルボード内について語る。
「アガサの夢の中はね、彼女の故郷であるアメリカの田舎町の風景が広がってるよ。時間は日が暮れた頃、ハロウィンの時期が近いからか町全体がハロウィン仕様になってるんだ」
小さな田舎町が賑やかになる日――ハロウィン。
夢に見るほど、毎年アガサも、この故郷の賑わいを楽しみにしているのだろう。
登校や通勤にも仮装をしていく人が多数なほど、アメリカでは盛んなイベントとなっているハロウィン。
そして醍醐味はやはり、明かりの灯る家を巡ってお菓子を貰って廻ることだろう。
トリック・オア・トリート、お菓子をくれなきゃイタズラするよ――と。
「アガサの夢の中では、特に何か事件が起こっているわけじゃないんだけど。でもあまり目立つ行動を取ったら、シャドウにもしかしたら怪しまれたりするかもだから……みんなも夢の中の人たちみたいに仮装して、アガサの故郷の田舎町の家々を廻ってお菓子を貰って歩きながら、シャドウのいる場所へ移動すれば自然かなって」
ジャック・オ・ランタンが灯る家を巡る、おばけたちに紛れて。少しの間、夢の中でハロウィン気分を味わうのもいいだろう。
そして、誰も近づかない町の外れにある森の中――ゆらゆらと炎揺れる森の道のその奥に、一軒の小さな家がぽつんとあるという。
「そこにね、魔女のようなとんがり帽子をかぶったシャドウが潜んでいるよ。家の扉を開けたら外へと出てくるから、撃退をお願いするね。敵はこのシャドウ1体だけで、シャドウのサイキックとマテリアルロッドのサイキックを使ってくるよ」
夜の森は、普段ならば暗いものだろうが。
たくさんのジャック・オ・ランタンのランプの灯火が道や家の周囲を照らしているため、視界的に問題はないだろう。また、森を抜けて家までやってくれば、その周辺はひらけているため、障害物等も特にないという。
そこまで説明を終え、灼滅者達をぐるりと見回して。
「日本でも最近はメジャーなイベントになってきたよね、ハロウィン。学園でも毎年盛り上がるしね! そんなハロウィンの雰囲気を楽しみながらも、シャドウの撃退をよろしくお願いするね」
ハロウィン当日はお菓子も悪戯も楽しみーと、遥河はにこにこ無邪気に微笑みながらも。
行ってらっしゃい、気をつけてね、と皆を送り出すのだった。
参加者 | |
---|---|
久篠・織兎(糸の輪世継ぎ・d02057) |
黒咬・翼(翼ある猟犬・d02688) |
八槻・十織(黙さぬ箱・d05764) |
香住・連雀(黄昏鳥雀・d09649) |
銃沢・翼冷(過甘毒・d10746) |
エアン・エルフォード(ウィンダミア・d14788) |
葉新・百花(お昼ね羽根まくら・d14789) |
神楽・識(東洋の魔術使い・d17958) |
●
仄かに灯る南瓜ランプが、嗤う様にゆらりと揺れて。
甘いお菓子のおばけが店頭に愉快な行列を成している。
そんなハロウィン一色の空港の売店付近を往きながら。
ガンマンの仮装した黒猫オブジェに興味を惹かれ、ころころ揺らし笑んだ後。
(「トリックオアトリート! アガサちゃんを助け出そう!」)
久篠・織兎(糸の輪世継ぎ・d02057)は、売店近くのソファーへ目を向ける。
そして見つけたのは、眠そうに目を擦る少女。
織兎はふと彼女に近づき、同じ目線に屈んでから。
「すごく疲れてるみたいだけど、大丈夫か?」
ハイパーリンガルを駆使し、顔を覗き込む様に話し掛けて。
「フライトまで時間があるなら、仮眠室で休んではどうかな?」
プラチナチケットで空港関係者を装う香住・連雀(黄昏鳥雀・d09649)の声に、一瞬瞳をぱちくりさせるアガサ。
急に知らない男性達に話しかけられ戸惑う彼女に、連雀と同じくプラチナチケットを纏う銃沢・翼冷(過甘毒・d10746)は、自分達は空港で職場研修中の学生だと伝えて。
彼の言葉を信じたアガサは、眠そうながらも微笑む。
「ありがとう、ちょっと眠たくて。日本の人は親切なのね」
そんな様子を窺いながらも。
(「外国逃亡ねぇ。意思が見えないなぁ……目的さえ……」)
シャドウのその行動の意図を図りかねている翼冷であるが。
宿敵の目論みを阻止し、そして何かが分かればと。ふと、無線の連絡を確認する。
それは八槻・十織(黙さぬ箱・d05764)からのもので。
予め調べておいた近くの休憩室が、確保できたようだ。
それを受け、アガサを休憩室へと促す、織兎や連雀や翼冷。
いや、彼女の傍にいる灼滅者は、彼ら3人だけではない。
(「如何にダークネスといえど、無賃乗車は許されない」)
……という冗談は置いておいて、と。
闇を纏いながらアガサを見つめる、黒咬・翼(翼ある猟犬・d02688)。
(「面倒事になる前に片付けておかないとな」)
そして、すぐ横のソファーで寄り添う恋人達。
この二人もまた、旅行者に扮した灼滅者だ。
(「国外に何かあるんだろうか? シャドウの動きが少し気になるけど」)
ふわり甘い恋人のローズブラウンの髪を撫でながら、エアン・エルフォード(ウィンダミア・d14788)は、状況をさり気なく確認して。
(「人の夢に乗っかって、国外逃亡って……何が目的なのかなぁ」)
葉新・百花(お昼ね羽根まくら・d14789)も、ふと首を傾けるも。
(「でもでも! いいことじゃないのは確かだし。そんなこと、させないもん」)
隣のエアンを見つめつつも、密かにそうぐっと気合を入れて。
接触役の3人と移動を始めようと立ち上がったアガサに気付き、エアンと先に休憩室へと向かう。
だが……その時だった。
灼滅者達の提案に、一度は応じたアガサだが。
「休憩室……そっちなの? えっと……私が此処を離れたら、友人が分からなくなるかも……」
急に歯切れ悪く、足を止めてしまったのだ。
同伴の友人が理由というよりも、灼滅者達が促す方向に行く事を避けたいような仕草。
「!」
その理由を察する灼滅者達。
そう……休憩室を確保すべく展開した神楽・識(東洋の魔術使い・d17958)の殺界形成が、一般人であるアガサに及んでいるのだ。
「連れの人に、休憩室で休んでることは話しておくよ」
「長時間の空旅、少しでも体力を回復しておいた方が良いんじゃないかな」
殺界形成の影響を危惧していた翼は、当身をしてでも彼女を連れて行くつもりであったが。
周囲の一般人が捌け始めた、その隙をついて。
「……っ」
連雀が吹かせた爽風が優しくアガサを包み込み、彼女を眠りへと誘ったのだった。
誘導には若干苦戦したものの、識の殺界形成が良く効いていて。
人の目を余り気にする必要もなく、3人は『貸切中』と看板の立っている休憩室の中へと無事アガサを運んで。
休憩室で待機していた識は、仲間が連れてきた少女を見つめて。
(「ふむ……パスポートもなしに国外退去とはいただけないわね。大人しく強制送還させてもらうわ」)
彼女がぐっすりと眠っている事を確認する。
そしてエアンがサウンドシャッターを展開し、音を遮断してから。
「さて、パーティーの始まりかな?」
そう呟いた翼冷と、そっと彼女の額に触れた十織のソウルアクセスに導かれて。
灼滅者達は、シャドウが潜む少女の夢へと、ダイブするのだった。
●
紫の月が輝く、妖しい夜。
星間を箒に乗った魔女が飛び、黒猫がニャーとお菓子をおねだり。
――トリック・オア・トリート!
そう南瓜灯篭灯る家の扉をノックするのは、甘い物好きなおばけ達。
でも……気をつけて。
ウィル・オ・ウィスプの炎灯る森の奥には、影の魔女が潜んでいるから。
素朴な田舎町を行く、楽しいおばけ達の行進。
そして、そんな賑やかな行列に紛れて。
南瓜灯篭が照らす夜の道を往く、8人と1匹のおばけ達。
「一足早いハロウィン~だな!」
お菓子くれないといたずらするぞ~! と。物珍しげにきょろきょろしながら。
ぴょこり、ぴょこり、と飛び跳ねるように、訪れた家でバスケットを差し出すのは、赤いチョッキの時計兎さんな織兎。
そんな兎の声に合わせ一緒に手を差し出すのは、大きくてもっさもさな、ピンク色の十織クマさん。
ちょっとぷっくりな九紡ミツバチさんも、ちょこんとお手手を前に。
カラフルなハロウィンキャンディーを貰えば、ちゃんと揃ってぴょこりとお辞儀。
(「……この姿で喋るのはちと恥しい」)
敢えてお喋りしないのは……シャイなクマさんだから。
でも、もっさもさした大きな体は、村の子供達に大人気!
チビオバケ達に囲まれて、九紡ともども、もふもふぎゅっとじゃれ合って。
保護者的な雰囲気は、クマさんでも健在?
そんな子供達を、急に脅かしてふざけるのは、真っ白いゴーストさん。
餓鬼は嫌いなんだと言いつつも、わーっとビックリ逃げるチビオバケの姿を愉快気に見送る翼冷。
そしてそんなゴーストのバスケットにも、何気に目がない甘いお菓子が沢山。
「町全体がハロウィン仕様なんて素敵……!」
ぴょこりと尻尾を揺らしながら、そう神秘的なベネチアンマスクの下の瞳を輝かせるのは、連雀ネコさん。
闇の様な漆黒の耳や尻尾をぴこぴこ、ニャーニャー家々を巡っては、お菓子をおねだり。
その後ろで、この不思議な風景に目を向けたり逸らしたりと、交互に繰り返しては物見遊山するのは。ちょっと特徴的な長い耳を揺らし、時計を携えた、識ウサギさん。その様はまるで、親しいあの子のようで。
少し童心に戻ってみるのも悪くないかしら……そう呟いた後、そっと控え目に口にしてみる。
トリックオアトリート――と。
そして……我ながら表情の硬いこと、と。そう思う識であったが。
バスケットに入れて貰った可愛いハロウィンクッキーに視線を落とすと、涼しげな微笑みを小さく宿した。
そんな賑やかな行列を楽しみつつ、ハロウィンの空気を堪能しながらも。
「連れてこれなかったのが残念だ……まぁ、仕方ない」
貰った黒い狼形のチョコクッキーを手に、少し残念そうにぽつりと呟くのは……魔女さん??
いいえ、ちらり魔女帽から覗く顔は、占い師騙りの人狼さん。COするタイミングは、もうちょっと後?
でも、そんな狼さんも。
「……似合ってなんかいないからな。可愛いといわれても嬉しくない」
ちょっぴり寂しがり屋で、照れ屋さんみたい……?
そして今度は、本物の百花魔女さん。
魔女は魔女でも、良い魔女です!
先ずはシャドウを探さなきゃ! ときょろきょろしながらも。
「えあんさん、カッコいい~」
隣を歩く、対の魔法使い・エアンに微笑んで。
「うん、ももも可愛くて似合ってるよ」
ハロウィンの夜にふわり白のドレスを踊らせる愛しい魔女に、エアンも笑み返す。
こんな事をするのは子供の頃以来だろうか……何処か、懐かしさを感じながら。
そして大切な人や仲間と一緒に、わくわく家を廻れば、楽しさも数倍。
でも勿論!
「……シャドウの事は……忘れてないわよ? ……ほんとよ?」
忘れてません、ええ!
「もちろん、俺だって忘れてないさ」
エアンは百花に頷きつつもくすりと笑うと、その優しい手を、そっと取った。
せっかくだから、楽しんでしまおう、と。
そして百花はバスケットを覗き込み、たくさんお菓子貰っちゃった♪ と。
深いロンドンブルートパーズの瞳に、幸せそうな色を宿すも。
「……ソウルボードから出たら消えちゃうのよね」
そう、ぽつりと。
ここはアガサの夢の中――ハロウィンの風景も美味しそうなお菓子も全て、夢。
でも。
「お菓子は現実に戻ったら俺が買ってあげるよ」
夢から覚めても、一緒だから。
それに今の楽しいこの時間は、間違いなく楽しくて。
「沢山集めて悦に浸るのもハロウィンの醍醐味だと思う!」
「せっかくだから食べてみるぞ!」
いっぱいのお菓子を満足気に見つめる連雀の横で、ぱくりとカボチャのタルトを頬張ってみる織兎。
夢だから、おなかいっぱいにはならないけれど。
確かに感じるのは――幸せいっぱいの、甘い味。
「本場のハロウィンてのはこんな感じなのな」
十織も、はむりとお菓子を頬張ってみつつ、九紡にも分けてあげてから。
長閑な夜を染めている、一夜限りの橙色の灯火を見つめた。
「賑やかであったかい光だ。しっかり守ってやらんとな」
少女の心を彩るこの故郷の風景を、守るために。
8人のおばけ達はそっと、賑やかな行列から外れて。
影の魔女が居るという、ウィル・オ・ウィスプの炎灯る森の奥へと、足を踏み入れる。
●
まるで、迷い込んだ者を誘うように。
暗い森を照らすのは、並ぶ南瓜灯篭の光。
そして灯火が導く先――森の奥にぽつんと佇む、一軒の小さな家。
そこに居るのは、夢に巣食う、漆黒の影の魔女だという。
まずは魔女に姿を現して貰うべく。
「Trick or Treat?」
「はーろうぃーん!」
一軒家の扉を、バンッと開け放った灼滅者達。
そして。
「……!」
ハロウィンの夜に現われたのは、ぶよぶよに膨れた闇の様な存在。
とんがり帽子をかぶり、魔法の杖を携えた魔女。
灼滅者達がお菓子をくれないと判断したのか、杖を振り翳し竜巻を生み出してきたシャドウに。
大切な人から贈られた揺るぎない意志の光と、光さす牙となる刃を両手に。獲物を狩る影の狗を地に従えた翼は、言い放つ。
「占い師の俺がカミングアウト。そこの魔女は狼だ。よって、ここはその魔女を吊るべきだと思うんだがどうだ?」
確実に判定は黒。投票せずとも、吊りの対象は確定。
高速の動きで放たれた斬撃が、防御ごと魔女を裂いて。
エアンの槍の一閃が螺旋を描くと同時に、竜巻で負った彼の傷を癒す裁きの光条が百花から解き放たれる。
そして、お菓子いっぱいでほくほくだ、と満足気に言った後。
「シャドウやっつけるよ!」
織兎のふるう魔力を帯びたロッドが叩きつけられ、漆黒の闇が内側から爆ぜる。
そして、魔女の身に浮んだダイヤのスートを確認しながらも。
翼冷は、細く長く変化させた漆黒の腕に白い紋様を浮かび上がらせて。
「シャドウ。……魔女狩りの時間だよ」
強烈な打撃を叩き込み、そしてシャドウに問う。
絆のベヘリタス、タカト、慈愛のコルネリウス、パンタソス・カロ、新宿橘華中学、ハート・エンド――これらを知っているか? と。
それにダイヤの魔女は、首を傾けて。
『……よく知っているのもあれば、聞いたことないのもある』
あ、会話しちゃダメって言われてた……と、以降だんまりを決め込むのだった。
そんなシャドウに思い切り叩きつけられたのは、識の巨大化した拳。
「地面にキスでもしていなさいな!」
『!』
それをモロにくらった魔女は、思わずよろめいて。
隙を逃さず見舞われたのは、連雀の猫パンチ!
巨大に変形した腕から放たれた肉球パンチは、可愛いだけでなく強烈。
さらに魔女へと巻きつき、ぶよぶよの身を拘束するのは、地から伸びた南瓜の蔓。
「悪い魔女には甘い菓子より、苦い仕置きの方を味わって貰おうか」
そして主と共に動いた九紡のシャボン玉が、ハロウィンの空を七色に彩る。
今宵は、ハロウィンナイト。
でも……悪戯が過ぎる魔女には、容赦はしない。
連雀の的確な猫パンチの連打が浴びせられると同時に、まるで特大の板チョコかの様な黒き鉄塊をふるう十織の一撃が、敵を粉砕すべく唸りを上げて。相手に負けじとたつまきを起こす九紡。
そして素早い動きをみせた翼が、敵の懐にぐっと踏み込んで。
「一の斬撃で守りを刻み、二の斬撃で動きを奪う、三の一撃で……壊す!」
防御をも裂く斬撃、死角からの黒死の鋭撃に続き、爆ぜる魔力の衝撃を叩き込んで。
エアンが相手の動きを鈍らせるべく、敵の身を冷気のつららで貫けば。彼と呼吸を合わせ成した百花の光が、仲間のダメージを癒していく。
灼滅者の攻撃を受け、大きく上体を揺らす魔女。
だが、闇に浮き出たダイヤのスートの回復をも追いつかせぬようにと。
「これでどうだよ!」
「魔女は、貴様のような魔法使いは火刑に処す。それが俺の『意思』だ!」
織兎の繰り出した凄まじい閃光の連打が叩き込まれたのと同時に、相手の首を掴み強めた翼冷のエネルギーが炎上して魔女を燃やすかの如く爆ぜて。
『……! ぐおォォッ』
思わず唸り、大きく左右に漆黒の闇を揺らしたシャドウ目掛けて。
「お客様、パスポートはお持ちですか? お持ちでない? では、強制送還ですわ。あの世に」
識の魔力を込めた強烈な一撃が振り下ろされた刹那。
無断海外渡航を企てた魔女の思惑を打破するべく、闇のような身を爆破したのだった。
そして、まるでイタズラして叱られた子供の様に。
シャドウは、アガサの夢から逃げるように、姿を消したのだった。
●
「……あの子、無事間に合うといいわね」
空港の柱時計をちらりと見る識がふと振り返るのは、休憩室。
十織も看板を片付けた後、後は接触係の仲間に少女を託す。
そして、良い旅を……と、休憩室の彼女へと呟いたエアンは。
「シャドウもやっつけられたし、ハロウィン楽しかったね!」
「家でもハロウィンの準備をしないとな」
自分にもお菓子をくれるという百花を見つめ、その耳元でお強請りを。
お菓子よりも甘い――白い魔女のキスを。
「よく眠れたか? もうすぐフライトの時刻じゃないかな。道案内するよ!」
「なぁに、仕事の内ですから。御客様の笑顔がすべてです」
休憩室でアガサを起こした織兎と翼冷は、すっきりした表情の彼女にそう声を掛けて。
アガサは時計を見て慌てながらも、灼滅者達に礼を言った後。
ふと……掌に握っている蜂蜜の飴玉に気付き、小さく瞳を細めたのだった。
作者:志稲愛海 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年10月31日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 2
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