アメリカンNINJA

    作者:柿茸

    ●某所、国際空港
    「「HAHAHAHAHA!!」」
     大笑いしながら空港に入ってきた外国人が2人。何やら言ってますが、日本語ではないので聞き取れない。
     なので、ここからは外国人の言語でお送りします。
    「いやー、やっぱり本場のスシは美味いヨー!」
    「富士山凄かったネー!」
     和気藹々とそんな会話をしていたが、一人が小さくため息をついた。
    「ドシタ?」
    「ニンジャ……いなかったネ」
    「Oh……ニンジャ……」
     日本と言えば忍者。この2人は、日本に忍者を期待してやってきたようだ。絶対いるって! いないって言われてるけどいるって! みたいなノリで。
    「でも、ま、楽しかったネ!」
    「そうだヨ!」
    「ちょっと、環境が違うからか良く眠れなかったけどネ!」
    「HAHAHA! 時差に慣れてないからヨ! ワタシばっちりヨ!」
     気を持ち直し、搭乗便を確認する。まだ時間に余裕はあるようだ。……と、ここで良く眠れなかったと言った方の外国人が腹を押さえた。
    「Shit! どうやらハラくだしたネ」
    「OH! 早くトイレいくヨ! ワタシオミヤゲ買ってるヨ!」
    「サンキュー! 行ってくるネ!」
     そして、腹を押さえながらトイレに駆けだしていくのであった。
     
    ●教室
    「シャドウの一部が、日本から脱出しようとしているっぽいよ」
     今日もカップ麺にお湯を入れながら説明を開始する田中・翔(普通のエクスブレイン・dn0109)。
     サイキックアブソーバーの影響で、力の強いダークネスは活動することはできないことは既に明らかとなっている。シャドウも例外ではなく、基本的にはソウルボードの中でしか活動できない。
     できないのだが、今回はそれを利用したようだ。日本に旅行に来た外国人のソウルボードに入り込み、国外に出ようとしているらしい。
    「何でそんなことするのかはよく分からないけど……止めて欲しい」
     何が起こるか分からないから。
     万が一、日本から離れたことでシャドウがソウルボードから弾きだされて、飛行機の中で実体化したとしたら……?
    「そういうわけで、その帰国する外国人のソウルボードの中に入ってシャドウを撃退して欲しいんだ」
     対象となる外国人はニューヨーク住まい。都会と言うこともあり、ソウルボードの中はビル群が立ち並ぶ大きい道路と交差点で構成された空間となる。アメリカンサイズで。
    「でも、夢の中だからね。建物の中には入れないし、自動車は走ってない。それと……時間としては夜をモチーフとしてるのかな。空は暗くて満月が浮かんでる」
     だが、そこは夢の中。暗いと言ってもそれは空だけで、建物や人の姿ははっきりとみることができる。
    「で、そこで縦横無尽に戦うことになると思う。文字通り」
     文字通り?
    「その外国人の人。日本に来た理由で、観光のほかに忍者は本当にいないのか、というのもあったらしくて」
     あー、と納得する空気が教室中を包む。
    「ソウルボードの中でシャドウが、忍者のような何か。外国人の考えるような『ニンジャ』に扮してる」
     それと、そのソウルボードの空間自体が忍者ワールドになっており、相手は勿論、こちらも壁を走ったり、大跳躍したり。とは言え、基本的なことは普段、現実世界で行う戦闘と変わりはないだろう。
    「えーと、ニンジャが使ってくる技なんだけど」
     1つ、シュリケンを投げてくる。言ってしまえばデッドブラスター。
     2つ、手に影を纏わせて斬りつけてくる。トラウナックル。
     3つ、夜霧を生み出し隠れる。そのまんま夜霧隠れ。
    「それと、分身の術で8人になって襲い掛かってくるね。その分、個々の戦闘能力は落ちるんだけど、油断は禁物だよ。それでも強いから」
     シャドウは劣勢になれば撤退する。現実世界に実体化されても場所が場所だけに困るし、撤退するのなら、そのまま退場願った方がいいだろう。
    「そうそう、ソウルボードに入るんだけど。シャドウが潜んでいる人は、昼間に国際空港に来るから当たり前なんだけど、まだ起きてる」
     だから、眠らせないといけない。幸いにも一人で、空港内のあるトイレに駆けこむところまでは翔が視ている。どのトイレに入るかも把握済みだ。
    「だから、そのトイレに来たところを狙ってどうにかして眠らせるのが一番じゃないかな」
     最悪、殴って気絶させるとか?
     さらりと物騒なことを言う翔だった。
    「えーと、僕からの情報はこんなところ。……最悪、飛行機が墜落するから、失敗は、いつもだけど、しないでね?」
     翔はいつもと同じ無表情で、いつもより真面目な雰囲気を醸し出しながら告げる。
     だが、ラーメンタイマーが鳴った瞬間、それじゃよろしく、といつもの雰囲気に戻って言いながら、蓋をあけるのだった。


    参加者
    姫宮・杠葉(月影の星想曲・d02707)
    ヴェルグ・エクダル(逆焔・d02760)
    函南・喬市(血の軛・d03131)
    モーリス・ペラダン(カイトウオブスレイヤー・d03894)
    君津・シズク(積木崩し・d11222)
    嶋田・絹代(どうでもいい謎・d14475)
    立花・奈央(正義を信ずる少女・d18380)
    温泉・珠護(違え者・d20368)

    ■リプレイ

    ●空港のトイレって清潔ですよね
     空港のトイレに駆け込んでいく外国人。トイレの中に体格のいい男と、それとコートの襟を立てた小柄な人が見えるが、それよりも個室を、と動かした視界には閉じた扉3つと、開いている最後の扉。ツイテルネ! と迷うことなく外国人は飛び込んだ。
    「忍びや暗殺者はそちらの顔を堅気に見せるほど甘くはないよ……」
     途端に聞こえる声。What!? と思った瞬間、外国人の意識は心地よい眠りの中に引き込まれていった。
     それから数秒置いて、やってきた清掃員のお兄さんがトイレの前に『清掃中』の看板を置いてトイレの中に入る。
     既に中にいた人達に会釈すると、体格のいい男が顎で外国人が入っていった個室を示した。
    「……はぁぁ、男子トイレに入るなんて」
     恥ずかしいわよ。と襟を立てたコートの人、もとい耳まで真っ赤にした立花・奈央(正義を信ずる少女・d18380)が振り返った。隣にいた体格のいい男ことヴェルグ・エクダル(逆焔・d02760)がその言葉に、まぁ分からなくもないが……、と渋い顔をする。
     清掃のお兄さんに扮していた函南・喬市(血の軛・d03131)がトイレの隅に立っていた姫宮・杠葉(月影の星想曲・d02707)に目を向けた。頷いて応える杠葉。
    「そんじゃ確かめてみるっすよ」
     外国人が入っていった隣の個室が開いて、中から出てきたのは嶋田・絹代(どうでもいい謎・d14475)。ひょいと外国人が入っている扉を器用に飛び上がり上から覗きこむ。
    「おー、床の上でばっちり眠ってるっす」
     中に入り、内側から鍵を開ける。
    「NINJAを求めた外人さんには申し訳ないが、僕は魔法使いだ」
     さらに、閉まっていた扉から温泉・珠護(違え者・d20368)と。
    「ソシテ、私は怪盗デス」
     如何にも怪盗という格好のモーリス・ペラダン(カイトウオブスレイヤー・d03894)が出てきた。両者とも旅人の外套と闇は纏っていたが、トイレの中、見えない何かにぶつかってもらっても困るので個室に避難していたのだ。
    「どう? 上手くいった?」
     入り口からかかる声。旅人の外套を纏って君津・シズク(積木崩し・d11222)が男子トイレに入ってくる。
    「ああ、そっちはどうだ?」
    「問題なしよ。看板を見たら皆別のところに行ったわ」
    「そうか」
     そして全員で、外国人が入った個室に押し入った。
    「それにしても、忍者を見たいなら忍者村とか行けばよかったんじゃないの……?」
     って、そういう問題じゃないか、とか呟きながらシズクは鍵を内側からかける。奈央がレジャーシートを下に引いているのを見て、トイレの床に倒れることに抵抗があった杠葉とシズクの顔が幾分晴れやかになる。
     さて、と外国人の傍らに立つシャドウハンターのモーリス、シズク。その後ろで、うーん、と絹代が唸っていた。
    「それにしても、シャドウの国外逃亡とかなんなんすか? 海外旅行かなんかっすか?」
    「さぁね。何にせよそんなことさせるわけにもいかんし」
    「実体化されても困る」
    「そうそう、飛行機墜落とか洒落にならんこともさせられん」
    「うむ、撃退には尽力しよう」
     各々が頷き、今度こそ、モーリスとシズクの指先が外国人に触れる。
    「ソウルアクセスの術デース」
     ……眠りに落ちる直前、そんな声が聞こえたり、視界の端に、杠葉の手から天井に伸びて引っかかる鋼糸が見えたりしたが、些細な問題だろう。

    ●真夏でも黒スーツなのは忍者な証拠と言ったら喜ぶタイプの外国人
     気が付いたら、灼滅者達はだだっ広い交差点の中央に立っていた。四方には十字路が走り、その隙間を埋めるように巨大なビルが立ち並んでいる。空は暗い、というよりも黒く、セットのような月が浮かんでいる。
     それを見て、軽くため息をついたのは喬市だ。
    「……サブカルチャーの影響なのか知らんが、未だに間違った日本観が根付いていることに驚きだ」
     忍者という割に風景も日本ではないしな……。
    「ヤハハ、ニワカニンジャファンには困りマス」
     モーリスが同意する。
    「ジャパニーズNINJAと言えば、チクワと鉄アレイが必要デショウ!」
    「いや、それ明らかにちげぇだろ」
    「エッ」
     ヴェルグのツッコミに心底驚いた表情のモーリスだった。まぁ確かに有名なジャパニーズNINJAかもしれませんが。
    「な、何よ、この格好!?」
     と、突如響いた奈央の悲鳴に全員の目が向いた。
     何故かくノ一衣装になっていた。しかもセクシーである。絹代がほほうとか目を光らせるレベルでセクシーである。
    「くノ一ってエロい格好してんのかなぁって思ってたけど」
    「見ないでー!」
    「実はくノ一装束に憧れ持ってたとか」
    「ないわよ!」
     短いスカートを必死に抑える奈央に珠護が聞いてみるが、顔を真っ赤にして一蹴された。
    「それよりも、来たみたいだぞ」
     喬市の言葉。ロケットハンマーを構えるヴェルグの視線の先には、高層ビルの壁を走ってこちらに向かってくる、マフラーを激しくはためかせる真っ赤な忍者の姿。
    「忍ぶ気ゼロね」
    「そうね。まぁシャドウだからその辺り曖昧でも仕方ないかもだけど」
     体術を駆使する予定の杠葉とシズクが身構える。
    「さて。『今日も平常運転で行こうか』」
     影とオーラを展開する珠護の視界、壁を蹴り、数十メートルの距離を跳躍してくる赤い影。宙を飛びながら、その姿がぶれ、8つに分身した。手裏剣を構え、手に影を纏わせ忍者が一気に近づいてくる。
    「散開しろ!」
     ヴェルグの言葉に全員が反応し、離れた瞬間。忍者の各々の攻撃が全員それぞれに襲い掛かった。
    「分身とか汚いな。さすがNINJAきたない」
     言いながら、珠護は手裏剣を避けつつ箒を生み出し、その上に乗る。
    「鉄アレイじゃないトハ流石ニワカデスネ!」
     高速で宙へと舞い上がる円柱の上でオーラを溜めていた珠護の視界にシルクハットが映った瞬間、跳び上がってきていたモーリスが箒を蹴り方向転換をしながら毒手裏剣(デッドブラスター)を追いすがる忍者に投げていた。
     キャノンで追撃をしかけ跳んできた忍者を撃ち落しながらちらりと視界を地面に移すと、杠葉が手で印を結んでいる。
    「舞うは飄風、刻むは空刃……」
     姫宮流鬼法風遁・空楼乱舞。
     印を結び終えると同時に辺りに渦巻く風が解き放たれ、撃ち落されて受身を取って素早く起き上がった忍者の周りに烈風として展開する。
     素早く身を翻し、隣から放たれた影を避けた杠葉と、その影の主の忍者をすり抜けて、襲いかかってきた他の忍者たちにも目もくれず、竜巻に身を切り裂かれ吹き飛ぶ忍者へと一斉に襲い掛かる灼滅者達。
     一足で10mの高さを跳んだヴェルグの腕が異形化して、赤装束をビルに向けて殴り飛ばす。そのビルの壁を、ヒャッホー! と叫びながら駆け上がっていく絹代。
    「そして壁に開いた穴にホールインワン!」
     壁に上っていても不自然に付き従う自分の影に手を突くと、そこが黒い穴となる。その中に綺麗に入った忍者を影ごとぶら下げて壁から跳ぶと、ちょうど反対側のビルから、マテリアルロッドに魔力を纏わせた喬市が跳んできていた。
     交差する2人。影にマテリアルロッドの一閃が決まり、魔力によって忍者は影をぶち破り吹き飛ばされていく。その行き先のビルの屋上。奈央の癒しの矢を受けて流れる光を纏ったシズクが立っていた。
    「外国人のイメージするニンジャはカンフーを使うらしいけど……」
     ゆったりと、しかし止まることなく、緩やかに水が流れるように構え、そこから体勢と腕を動かしていく。
    「カンフーは中国だろ!」
     握り締められ、雷を纏う拳。噴きあがる間欠泉の如く、爆発的に伸び上がった抗雷撃が綺麗に忍者の腹に決まり、そして天高く吹き飛ばしていった。

    ●集中攻撃してくるとか汚い
     壁に着地する喬市。気が付けば、夜霧が辺り一帯を包んでいた。
    「上から!」
    「前だ!」
     仲間の声に視線を巡らせると、上から走り降りてくる赤い服と、空中を大跳躍してくる忍者が見えた。さらに、接壁しているビルの屋上から飛び降りようとして来ていた忍者をシズクが身体を張って止めている。
    (「俺が狙われている、か」)
     下では三方から杠葉に向けて赤い影が一斉に襲い掛かっていた。今の一連の流れ、灼滅者達が各個撃破をしに来てるとみて、火力が特に高い2人を先に潰そうという魂胆か、と全員が理解する。
    「させねぇよ!」
    「ほいきた」
     足場として飛翔してきた空飛ぶ珠護の箒を蹴り、一気に地面に向かうヴェルグ。箒を蹴られるその瞬間、珠護の黒く染まった手が一瞬ヴェルグの身体に触れた。
    「全く、相変わらず魔法使いっぽいこと全くやらんなぁ、僕」
     これじゃ便利な足場じゃないか、と頭を掻くその手は既に肌色。ヴェルグが消えた、杠葉がいるであろう霧が立ち込めている場所に軽く視線を向けて再び飛翔を開始する。
     霧を突っ切り、体当たりするようにして忍者の1体の攻撃を受け止めるヴェルグ。体に深々と影が突き刺さるが、同時にヴェルグの身体がから伸びあがった、珠護が仕掛けた影業が逆に忍者を絡め取り飲み込んだ。
     瞬時に展開したシールドで地面に叩き付けられるのは阻止。弾けた障壁が一気に辺りに広がっていく。
     その後ろで手裏剣と影に貫かれていた杠葉の姿が掻き消える。引き抜かれた感触と共に、忍者の影から血が零れ落ちた。
    「虚を突くは忍びも暗殺者も同じ事……忍びを模倣しているわりには隙だらけだね」
     聞こえる声は影から這い出た忍者の耳元で。振り返りかけたその身体を手刀が切り裂いて行く。
    「虚の戦には虚を……」
     さっきの姫宮流の風もそうだけど、母の暗殺技法も効くわよ。
    「狙え! 奈央とモーリスはブレイクを!」
    「了解!」
    「分かったわ!」
     身を影と毒が蝕むが、指令を出しつつ跳躍する喬市。再び影を放ちつつビルからビルの壁面へと飛び移る絹代。奈央の持つ、携行性重視の短弓から、とてもそれから放たれたとは思えぬ速度で矢が放たれる。
     同時に、一斉に忍者が同方向を見て動き出す。見ればカードが降る雨の如く忍者たちに迫っていた。
    「沢山投げると実際当たりやすいデス!」
    「こっちまで当たりそうっすよ!!」
     カードが降り注いで来た方向、月を背にする一際高いビルの屋上にいつの間にか怪盗がいた。
     影を避け、カードも回転し弾き飛ばした忍者の身体を喬市が掴んだ。叩き込まれる閃光百裂拳。
     地面を跳ねる忍者に、一気に下降してきた珠護が擦れ違いざまに影で絡め取って壁に叩き付けて上昇していく。
    「うん、済まないね。それなりに接近戦もやったりするんだ。魔法使いだが」
     消えていく忍者にそんなことを呟いて、ビルのさらに上から現在の状況を俯瞰した。
     喬市と杠葉に1人ずつ忍者が向かい、残りの4人が一斉にビルを駆け上り跳び上がり、メディックかつ実力が特に低いと見た奈央に頭上から手裏剣を投げ放つ。咄嗟にシールドリングを杠葉に飛ばしていた奈央は、予見はしていたが反応できない。
    「させないわ!」
     咄嗟に傍にいたシズクが手裏剣の1つを受け止めるが、残りが容赦なく体に突き刺さった。
     一方の地上組。ヴェルグの手が届かず、ダメージが溜まっている2人に迫る黒い刃。
     そこに突如として夜霧が辺りを包んだ。忍者の手元が狂い、霧の中で杠葉が迫る影を払い、一気に加速して切り抜ける。
    「奏でるは星想曲、散りゆくは影……刹那にて消え去るといい」
    「そんでどこ見てるっす?」
     大きく身を裂かれつつも振り返った忍者の背後から聞こえた声。ビルの壁から壁へ跳び、背後を取っていた絹代が跳躍の勢いをもって切り抜けていく。
     そして喬市の前に突如として現れるマント。
    「フゥ、間ニ合イましたカ」
     マントを盾に……いや、ビハインドのバロリを盾に喬市を庇っていた。
     瞬時に状況を把握した喬市が手を動かしながら後ろに高く跳ぶ。それを追おって霧を突き抜けた忍者の視界を、血のように赤く細い糸が横ぎった。
     気が付いたときには時すでに遅かった。喬市の操る鋼糸に絡め取られ、引き絞るそれに従って信号機に宙づりにされる忍者に向けて灼滅者の攻撃が殺到する。振り回されたヴェルグのハンマーが忍者を大きく揺らし、逆側から、飛び降りながらロケット噴射で放たれたシズクのハンマーがぶちかまされた。
     その衝撃に耐え切れず、糸に身を裂かれつつ落ちる忍者を見て、雫はちょっと満足そうだ。
    「忍法・積木崩しの術を使ってみたわ!」
    「KAMIKAZE!」
     その隣で声が聞こえた。モーリスがマントを刃にして卍手裏剣の如く回転回転しながら、嬉々としてバロリを投げつけていた。
     HAHAHA! と聞こえる笑いとバロリの悲壮感漂う顔が回転しながら、その執事ビハインドの身体が地面に落ちた忍者を抉りとった。
    「うむ、優勢優勢」
     頷いて独り言ち、手にオーラを集めながら忍者たちに呼びかける珠護。
    「どうするんだ? 僕達としては撤退してくれればそれでいいんだが」
     頭上から振った言葉に一瞬、忍者たちの止まり―――次の瞬間、一跳躍で5人が一カ所に集まる、否、一人になる。
     それを油断なく見据える灼滅者達を前に、じりじりと隙を見せることなく下がった忍者は、そのまま、生み出した霧に紛れるようにして消えた。
    「オタッシャデース」
     シルクハットを軽くとる仕草をしたモーリスの声がどこか場違いに響き、奈央が膝をついた。

    ●忍者のように去りぬ
     ソウルボードから出ると同時に奈央がすごすごとトイレから出て行った。気持ちを察した杠葉とシズクが後を付いて行く。
     レジャーシートを片付け、ヴェルグと喬市を残し他の灼滅者達も出ていく。
    「……虚の戦、良い鍛錬になったかもね」
    「そうっすか? 自分は楽しかったっすけど」
    「というか何であんな衣装に……」
     頭を抱えた奈央をシズクがまぁまぁと宥めていた。
     一方、トイレの中。
    「おい、大丈夫か?」
     ハイパーリンガルを使用して外国人に呼びかける喬市。
    「ン……OH……?」
     やがて目を覚ました外国人は、トイレの中で心配そうにのぞき込んでいる喬市とヴェルグの姿を視界に入れる。
     状況が把握できないまま起き上がった外国人に、トイレの中で倒れていたぞと説明すると、サンキューネ、と礼を言いながら立ち上がった。
    「飛行機の時間は大丈夫か?」
    「大丈夫ネ! 倒れてたのちょっとの間だけネ、多分寝不足ネ!」
    「そうか、ならいいんだが」
     どうにか無事に誤魔化せそうだ、と会話をしながらほっとしていた2人だったが。
    「YAHAHA」
     響く声。トイレの入り口に怪盗然のモーリスが立っている。
    「NINNIN! サラバ!」
     そして旅人の外套を使いながらトイレから出て行った。
     数秒の沈黙。
    「……ニンジャ?」
    「断じて違う」
     首を傾げた外国人に、2人は即座に訂正を入れる、その様子を見ながら。
    「うん、今日も日本は平和だな」
     珠護はそう呟くのだった。

    作者:柿茸 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年10月31日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 8
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