血染めの白衣

     ――深夜。薄暗くひと気のない廃工場にて、凄惨な死の遊戯が行われていた。
    「は~い、今度はちょっとチクッとしますよ~♪」
     そう言うと白衣を纏った女は、眼前の男の身体へと、まるで慈しむような手付きで杭を刺す。
     縛られた上に口まで塞がれている男は、くぐもった悲鳴をあげながら必死にもがいていた。
     男の身体には、既に様々な器具による傷が刻まれている。しかし彼が命を落とすことはない。こと人という生物の限界について、この女は熟知していたからだ。
    「いい感じねぇ。さぁて、貴方にはどんな治療がいいかしら?」
     治療という名の処刑を、心から楽しんでいるらしき女。今日は被害者をどうやって殺したものかと思案していると、突如廃工場の扉が開いた。
    「ふむ、若干戯れが過ぎるが、悪くないな。お前を私たちの同胞と認めよう」
     現れたのは、学生服姿の若干高圧的な少年であった。――ここに、ヴァンパイアとデモノイドロードの邂逅が果たされたのである。

     ――教室へとやってきた神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)は、そんな予知の内容を語るのだった。
    「既にデモノイドロードのことは知ってるな。普段はただのデモノイドヒューマン同然だが、ピンチになれば自分の意思でデモノイドの力を引き出せる厄介な連中だ」
     さらにそんな彼らを勢力に引き入れるべく、ヴァンパイアがデモノイドロードへと接触を試みる、という事例が報告されていた。
    「で、今回俺の全能計算域に引っ掛かったのも、そんな事件の一つだぜ。敵は昼間は医者をしながら、夜な夜な人を攫っては殺人を繰り返してる下衆女だ。
     ってわけでお前らには、予測された現場まで赴いてこの女デモノイドロードを灼滅してきてほしい。
     ただし例の如く、ヴァンパイアが出現するまでの間に事を済ませる必要があるぜ」
     デモノイドロードとヴァンパイアの結託など、決して看過できるものではない。だがヴァンパイア勢力との全面戦争もまた避けなければならないのだ。
    「敵は知っての通り、ヤバくなるとデモノイド化してくる。戦闘力はデモノイド並な上に、知性もあるから厄介だ」
     敵はデモノイドヒューマンの能力に加えて、デモノイドの身体を糸状に変化させて鋼糸のサイキックも使用してくることが予測されている。
     そして敵と接触するためには、予測された廃工場にて女が拷問を行っている最中に赴く必要がある。
     被害者の男は速やかに治療を施せば助かるだろうが、戦闘を終えるまで体力が保つ保障はない。
     またデモノイドロードは総じて狡猾であり、この男を人質に取られる危険性もある。そして敵と被害者はすぐ近くにいるので、助けるためには襲撃の段階で工夫が必要だろう。
     被害者を端から見捨ててしまうか、あるいは危険を犯してでも救助を試みるか、決断しなければならない。
    「ただ現場は女が犯行現場にしてるだけあって、周囲にひと気はないな。被害者以外の一般人については心配する必要はないようだぜ」
     またもう一つ留意すべき事項として、ヴァンパイアのことがある。
    「ヴァンパイアは、敵と接触可能なタイミングから10分程度してから現れるぜ。安全を確保するためにも、接触してから8分以内に灼滅してから撤退するのが望ましいな」
     今回現れるヴァンパイアもまた朱雀門高校の者である。見た目はただの少年のようだが、正真正銘のダークネスだ。
     戦闘になれば勝利することは困難であり、またヴァンパイア勢力との対立の原因にもなりうる。よって万が一にもヴァンパイアとの戦闘は避けねばならない。
     デモノイドロードを灼滅する前にヴァンパイアが現れたら、戦闘を中段して即座に撤退するべきだろう。
    「被害者も、できることなら助けてほしい。だが何よりも、これ以上の犠牲を出さないために、必ずこの下衆女を灼滅してきてくれ!」
     非常にシビアな状況ながら、灼滅者たちは臆することなく行動を開始した。


    参加者
    風間・薫(似て非なる愚沌・d01068)
    安土・香艶(メルカバ・d06302)
    月原・煌介(月梟の夜・d07908)
    紫藤・ハガネ(墓穴に入って事故を得る・d16848)
    遠藤・穣(高校生デモノイドヒューマン・d17888)
    クリスレイド・マリフィアス(魔法使い・d19175)
    柏木・たまき(中学生デモノイドヒューマン・d19474)
    闇音・ひつじ(想刻華・d21188)

    ■リプレイ


     廃工場へとやってきた灼滅者たち。時間が限られているため、全員の携帯の時刻を合わせておく。
    「念のために、八分経過でもタイマーが鳴るようにしたらどうかな……?」
     そう提案したのは、闇音・ひつじ(想刻華・d21188)だった。それに対し、安土・香艶(メルカバ・d06302)が別の提案をする。
    「向こうは頭よさそうだし、タイマーで変に勘繰られても困るからな……。いっそ消音設定にした方がよくないか?」
     協議の結果、携帯は消音設定にすることになった。そして突入時刻と、八分経過の段階でバイブレーションが働くようにセットする。

     そして突入時刻に備え、各々が持ち場につく。
     まず月原・煌介(月梟の夜・d07908)は箒で空を飛び、高い位置の窓際に立った。ヘッドライトを装備して、戦闘開始まで消灯しておく。
     同じくクリスレイド・マリフィアス(魔法使い・d19175)も箒に乗って、煌介とは別の窓まで近付く。人質救出の任を負っている彼女の手荷物には、応急手当のための手荷物が収められていた。
    「被害者の人……助けたい、ね」
     そう仲間へと告げながら、柏木・たまき(中学生デモノイドヒューマン・d19474)も消灯したランプを手に、別の窓際へと向かう。
     被害者を助けたい気持ちと、場合によっては見殺しも必要という使命との間で葛藤しながら、思わず手を握り締める。
     そして他の仲間たちも別々の窓にて待機する。廃工場だけあって、侵入できそうな窓には事欠かないようだ。

     全員が配置についたところで、各々の携帯が振動する。突入時刻がやってきたのだ。
    「うおおおぉぉぉっ!!」
     一人だけ正面玄関にて待機していた香艶。全力で扉を開け放ち、雄叫びと共に敵へと疾走する。
    「――な、なんなのっ!?」
     他の仲間たちも光源を灯しながら、一斉に窓から工場内へと飛び込んだ。突然の闖入者に、敵は思考が停止してしまった。
     彼らは敵を取り囲み、縛られている被害者との間に割って入る。
    「杭打ちだのなんだの楽しそうじゃねーか、俺にもやらせてくれよ。
     ……もっとも的は、テメェの身体だけどなァ!!」
     槍を手にした腕ごと飲み込ませ、腕全体を円錐形の刃へと変貌させた紫藤・ハガネ(墓穴に入って事故を得る・d16848)。敵を牽制しながらも、さりげなく被害者救助の助けになるよう立ち回る。
     それから数瞬の間を置いて、救出役のクリスレイドが箒を全速で飛ばして被害者を回収しにかかった。
     作戦そのものは、完璧だった――ただ一つの誤算は、敵が我を取り戻すのが予想外に早かったことである。
    「私の患者を奪いに来たようだけど、もしかして私みたいな能力の持ち主かしらぁ? さすがに驚いたけど、ちょっと私を甘く見過ぎじゃない?」
     女は異形の刃と化した片腕で牽制しつつ、被害者を抱き留めて距離を取った。
    「怖い顔ねぇ、もっとにこやかにいきましょうよ。じゃないと思わず、手許が狂っちゃうかもしれないわ~?」
     力の抜けるような声音で言いつつ、しかし油断なく灼滅者たちを見据えて女は言う。そして腕の刃を、被害者の首にあてがう。
    「あぁ? 知ったこっちゃねぇな」
     人知れず奥歯を噛み締めながらも、そんな素振りは見せずに言い放つ遠藤・穣(高校生デモノイドヒューマン・d17888)。
     そして彼もまた片腕を寄生体に飲み込ませ、刃を成して斬り掛かった。
    「――ッ! あなた、この男がどうなってもいいのぉ!?」
     人質に臆することのない穣の攻撃は、女にとって予想外のものだった。男を片手に咄嗟に後退し、なんとか彼の刃から逃れる。
    「……あんさんが、此処まで下衆で良かった。お陰で心置きなく、うちも残虐になれる」
     瞬く間に敵の懐へと入り込んだ風間・薫(似て非なる愚沌・d01068)が、手にした槍で斬り付けた。女は刃でその一撃を防ぐが、思わず防御を崩されてしまう。
    「人質取るとは面白ェじゃねーか、その鈍重な盾を構えたままそこ動くなよ。
     ――俺のドリルが、まとめて貫いてやる!!」
     アニメのドリルを思わせる腕を、防御を崩された敵へと見舞うハガネ。


     ハガネのドリルが突き立てられるまでの僅かな間に、女は驚くべき速さで思考していた。
     確かに戦闘になってしまえば、被害者はただの重荷でしかない。加えて眼前の敵たちはあくまでも、第一の目標は自分のようだった。
     では今、果たして最善の手は何か――女の結論は、人質をハガネに放り投げることだった。
    「そんなに欲しいなら、これあげるわぁ」
     咄嗟に攻撃を止め、被害者を抱き留めるハガネ。そしてその隙を突いて、女の全身が変貌を始めていた。
     青い肉塊が、女の全身を覆い、異形の怪物の姿を成す。
    「ちょっと予定は狂ったけど、頼むぜマリフィアスセンパイ!」
    「私が真っ当に人を助けるなんて珍しいものだけど、今回ばかりは任せて。
     ――やるからには全力でやるわよ、ミスは嫌いなの」
     人質を受け取ったクリスレイドは、箒に乗って速やかに工場を脱出する。あとには援護として、彼女の霊犬『リーア』が残された。
    「Guraaaa――――ッ!」
     言葉にならぬ咆哮をあげるデモノイド。背を向けたクリスレイドへと、砲台と化した片腕を向ける。そして放たれる光線を防ぐべく、リーアと香艶が立ち塞がった。
     光線の瘴気に焼かれながらも、臆さず敵の巨体を抱え上げて放る香艶。
     そして落下した敵に追撃をかけるべく、水晶が虹色に輝く杖『Oculs Tuar Ceatha』を振り被る煌介。
    「――大自然の叡智、力に宿れ」
     渾身の殴打と共に、膨大な魔力を敵へと流し込んだ。デモノイドの体内で、魔力の爆発が巻き起こる。
    「ッ――Gau!?」
    「時間も限られてるから……どんどんいきます、よ」
     縛霊手を飲み込んだ異形の巨腕を使い、地面を飛び跳ねながら敵へと肉薄するたまき。そしてその勢いを乗せつつ、もう一方の腕の槍による刺突を見舞った。
     狙うことに注力した彼女の一撃は、さほど痛打にはならない。だが灼滅者としての経験が浅い彼女にとって、痛打を狙うよりも確実に当てにいくというのは、一つの立派な戦術と言えよう。
    「お医者さん……人を助けるのが仕事、なのに。おっきなちから、手に入れちゃうと変わっちゃうのかな」
     不思議そうに呟きながら、ガトリングを掃射して弾雨を見舞うひつじ。彼女もやはり灼滅者としての日は浅いが、これだけばら撒けば外すことはない。

     一方工場を出たクリスレイドは近くの物陰に被害者を安置すると、速やかに彼の容態を確認する。
     負傷は酷いが息はあった。戦闘の余波を受けた様子もないので、治療を施せば命は助かるだろう。すぐさま男の傷をオーラで癒やす。
    「安静にしてなさい。すぐ終わるから」
     そして大丈夫そうと判断したところで、箒を飛ばして戦場へと急行する。


     与えられた時間に余裕がないこともあって、灼滅者たちは攻撃に注力していた。
     しかしそれでも、敵が弱っている様子はない。理由は単純に、彼らの火力不足である。
     主な要因は、灼滅者の多くが戦力的に、未だ発展途上であることだ。加えて、比較的経験豊富なクリスレイドを離脱させてしまったこともある。
     恐らく一切の制限がなければ、さほど痛手にはならなかっただろう。しかし時間が切迫している今は、僅かな不足も敗因となりうる。
     だがそんな危機的状況でも、灼滅者たちは諦めることなく敵と対峙していた。
    「あんさんの治療法は何がええ? やっぱ灼滅か?
     でも、まだ殺さへんで。あんさんが殺した人の痛みの分まで切り刻む――!」
     目にも留まらぬ速さで敵の背後へと回り込み、死角を突いて槍で斬り掛かる薫。敵は腕の刃で防ぐものの、鋭い斬撃は青い肉を深々と削いでいった。
     さらにその隙を突き、腰に差していた杖を抜き放った香艶。薫によって刻まれた傷口へと杖を突き立て、魔力を流し込んだ。
    「――力を貸し還れ、三六柱の欠片」
     仲間たちが敵を攻め立てているうちに、バベルの鎖を瞳に収束させる煌介。火力不足の今、クラッシャーである自分が少しでも地力を増す必要があると判断したのだ。
    「――ヤブ医者につける薬ってのはねぇのか? あぁ!?」
     己と同じデモノイドの力を、あまりにも残虐な目的に悪用する敵に、穣は激怒していた。
     そして人質など知らぬと悪ぶってはいたが、内心では真摯に被害者が助かることを望んでいた。殺す以外にも、この力の使い道があると証明したい――そんな決意を抱きながら、オーラを込めた拳の連打を叩き込む。
    「人をいたぶることしか考えないなら、同じ力を持つ私達が相手、だよ……」
     巨大な腕で跳躍しながら、その腕を刃に変えて斬り付けるたまき。
     被害者を、見殺しにしなくて済んだ――そのことが、彼女に力を与えていた。
    「――ッ!」
    「やる事が陰湿で気に食わねェんだよ。これでも食らっとけ!」
     仲間たちの攻撃に怯む敵に向けて、ハガネはドリルから砲台に変化した左腕を突き付ける。そして狙い澄ました光線の毒が敵を蝕んだ。
    「……闘うのは苦手。だけれど、誰かが傷つくのはもっと嫌い」
     普段はマイペースなひつじも、戦いの場では真剣な表情である。被害者だけでなく、これ以上誰も傷付けさせたくはない――そんな強い思いがあった。自身の影を敵の足元へと伸ばしながら、そこから刃を放って敵の傷口を抉る。
    「――GUAAAaaa!!」
     受けた傷の苦痛と憤怒から、デモノイドは激しい絶叫をあげる。
     そして全身から肉片の糸を生やすと、それを周囲に放ちながら前衛の灼滅者たちを斬り付ける。
     強靭な肉の糸による斬撃を受け、傷を負う彼ら。その姿に、デモノイドは哄笑する。
     受けた負傷は看過できるものではない。だが回復に手を割いていては、敵を追い詰めることすら危うくなるだろう。
     進退窮まっていたところへ、霊力を集めた癒しの光が降り注ぐ。被害者の治療を終えて戻ってきたクリスレイドによる回復だった。
    「待たせたわね。回復はリーアと私に任せて、あなたたちは攻撃に専念して」
     心強い援軍を得て、灼滅者たちの士気は高揚する。


     全員が揃ったところで、畳み掛けるように攻める灼滅者たち。
     だが無情にも時間は過ぎ、携帯が一斉に振動を始める。戦闘開始から八分が経過したのだ。
     それでも灼滅者たちの意志は決まっていた。ギリギリまで、なんとしても粘るのである。
    「Guaa――ッ!」
     再び糸の結界を構築しながら、灼滅者たちを攻め立てるデモノイド。だが標的である前衛たちは、怯むことなく突っ込む。
    「――ッく、これしき!」
     手の甲のシールドを円形の魔方陣で補強しつつ、糸から仲間を庇う香艶。既に立っているのがやっとの負傷だが、仲間のために懸命に次に繋げるのだった。
     そして他の仲間たちも、糸による威圧をものともせず、背水の陣で攻勢に出た。
     オーラを両手に込めた薫は、目にも留まらぬ連打を敵に浴びせる。
    「もっと歪んだ声を聞かせてや。それがあんさんの断末魔の叫びや、ええ響きやなぁ」
     自分たちに余裕がないことを見切られぬよう、不敵な口調で告げる薫。
    「――竜巻疾く翔ける白鴉、射て」
     煌介もまた一息に敵に肉薄すると、至近距離から魔力弾で敵の体力を削りにかかった。
     デモノイドを生み出したソロモンの悪魔を、自分もまた内包する身だと、煌介はデモノイドロードの存在に責任を感じていた。特に、デモノイドヒューマンという仲間がいれば尚更である。
    「だって俺は彼らを、その強さを尊敬しているから。――だから、デモノイドロードは赦せない」
     悲しみから生まれた彼らの、貴い強さを踏み荒らす存在だから――敵への虚勢という以上に、煌介の静かな声音には熱い思いが込められていた。
     仲間たちを支援するように、敵の糸による威圧を斬魔刀で振り払うリーア。そして主のクリスレイドもまた畳み掛けるべく、後方から魔力弾を放つ。
    「私ね、デモノイドにはとても興味があるのよ。まだまだ未解明な部分が多いじゃない? だから色々と、調べたいのよね。
     ――少し痛いかもしれないけど、あなたがさっきしたことに比べればねえ? それとも、その程度の覚悟もない?」
    「――ッ!?」
     鋭い視線と共に、冷徹に言い放つクリスレイド。その言葉に、デモノイドは思わず息を飲んだ。
     本気で己の命を奪おうとしている敵の殺意に晒され、今まで感じたことのなかった恐怖を覚えてしまう。
     それからの敵は必死になって、灼滅者たちの攻撃を防ぎ始めた。
     そこへひつじのガトリングによる援護を受けながら、穣が敵の急所を狙って斬り掛かる。
     敵は恐怖のあまり、思わず後ずさった。そしてそれが女の命を救う。しかしさらに、狙い澄ましたハガネとたまきの斬撃が見舞われた。
     二人の腕の刃が、敵の首を深々と斬り裂く。しかし寸前で、首を刎ねるには至らない。
     ――そして工場の扉の外に、気配を感じる灼滅者たち。
     ヴァンパイアが、遂に姿を現したのだ。これ以上の続行は不可能と判断し、灼滅者たちは撤退にかかる。
    「今度一般人に手を出したらその時は灼滅するで。覚悟しぃや」
     負傷の度合いが強い香艶を背負いながら、薫が不敵に告げる。そんな彼の言葉に、仲間たちも続いた。
    「……次は無ぇ」
    「もしまた悪さをするなら……その時はまた私達がお相手します、よ。今度は容赦なく」
    「今度俺と会えばもっと、酷い目に遭うっすよ」
     去り際の穣とたまきの言葉に、煌介も続く。
    「また今度楽しもうぜ。次はテメェが灼滅されるまでよ!」
    「必ず……アナタを灼滅するよ」
     同じく敵に渾身の殺意を込めながら、ハガネとひつじも必殺を宣言する。
     そして箒に乗って脱出したクリスレイドが、被害者を回収してその場を離脱する。
     灼滅は果たせなかったが、やれるだけのことはやった。最後に怪物が見せた、怯え切った表情に、灼滅者たちは成功を確信しながら帰還する。


     廃工場へと足を踏み入れたヴァンパイア。その場の惨状を見て、起きた事件のあらましを察し、侮蔑の込もった視線でデモノイドを見据える。
    「随分と手痛くやられたようだな、酷い顔だ。戯れが過ぎる上に、覇気まで失くすとは」
     女は先程の戦いによる恐怖で既に、デモノイドの力を支配できるほどの悪の心を、失くしてしまっていたのだ。
     元の姿に戻りながら、女は深い絶望と恐怖に全身を振わせていた。次に変身してしまえば、もう二度と人に戻れないかもしれない。そうでなくても、自分の命を脅かすほどの存在が、この世界にはいる。
     もうどうあっても、自分が助かることはできない――そう確信してしまったのだ。
    「まったくもって度し難いが、まあいい。
     ――残り少ない人生を楽しむことだ。貴様が自我を保てるのは、もうそう長くないだろうからな」
     絶望に打ちひしがれる女を見捨て、ヴァンパイアは廃工場をあとにするのだった。

    作者:AtuyaN 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年11月10日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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