青い瞳の吸血鬼

    作者:宝来石火


     サンディブロンドの少年が、夜の中を駆けていく。
     目指す場所も、頼る相手も居ない少年は、わけもわからず逃げている。
     彼の脳裏に浮かぶのは、昨晩目の当たりにした、悪夢のような光景だ。
     苦悶の表情で床に爪を立て、冷たくなって床に横たわる逞しかった父。真珠のように白く美しかった肌を蝋のように青白くして、ピクリとも動かなくなった母。その母の首元を見つめ、鋭い牙を突き立てる、変わらず愛らしい姿の、幼い妹――。
     口を、舌を、喉を。抑えがたい猛烈な渇きが、彼を襲う。自分の奥の得体の知れない部分から、自分の物でない声がする。
     ――大好きなママの血を、啜りたかったんだろう?
    「No!!」
     叫んだ少年は、ぷっつりと糸の切れたように、その場に崩れ落ちた。一日中飲まず食わずで走り続けて、平気でいられるはずがない。
     少年は自らの内ポケットに手を伸ばした。
     そこにあるのは、一枚の折りたたみ式の手鏡。16歳の誕生日に、妹がくれたプレゼント。
     はにかむ妹の手ずから受け取って以来、毎日のように見ていたその鏡を、街灯の下でそっと覗きこむ。
     少年の瞳は青かった。
     妹が、兄妹二人でお揃いだと、大好きだった青い瞳のままだった。
     あの夜、母の死体からゆっくりと自分に視線を移した妹の、血のように赤い瞳とは違っていた。
    「リズ……ボクは、どうすればいい……」
     彼は自分と、自分達の家族の身に起こったことを未だ理解してはいなかったが、しかし、いずれ気付くだろう。
     妹が既に人ではなくなったことに。
     そして、そんな妹をただ一人にはしておけないことに。
     

    「――ん? あぁ、全員揃ったのかい? なら、ブリーフィングを始めよう」
     寒暖の定まらない日々の続く秋の一日。脱いだ上着の扱いを持て余しつつ、エクスブレインの鳥・想心(心静かなエクスブレイン・dn0163)は灼滅者達に向けて説明を始めた。
    「一人の少年がヴァンパイアへと堕ちかけている。
     齢は16。金髪碧眼。三代続いたチャキチャキの英国人だ」
     名前は、ロバート・ケイ――愛称はロビン。
     十年ほど前、新聞社の特派員として転勤することになった父と一緒に、家族揃って日本に移住してきたのだという。
    「今回、彼に先んじてヴァンパイアに闇堕ちしたものが居るんだ。彼の妹、エリザベス・ケイ――愛称はリズ。まだ10にもならない女の子だよ」
     ヴァンパイアとして闇堕ちしたリズは、まず両親をその手に掛けた。そして、ただ一人生き残った家族である兄を『感染』――即ち、闇堕ちさせようとしたのだ。
    「だが、ロビンはどうやら、妹とは違ってまだ完全に闇堕ちしきってはいないらしい。もし、彼に灼滅者としての素質があるようならば、彼を倒すことで闇堕ちから救い出し、灼滅者へと覚醒させることもできるだろう。
     今回君達には、ロビンを闇堕ちから救出……それが出来なければ、彼を灼滅してもらいたい」
     幸い、今のロビンはふらふらと一人、あてどもなく街をさまよっているという。リズがロビンを見つける前に、エクスブレインの指示通りのタイミングで彼に接触すれば、二体のダークネスを同時に相手取るようなこともなく、ロビン一人に集中できるはずだ。
    「街をさまよう――と言っても、なるべく人通りのないところを選んでいるようだ。
     目立ちたくないのか、何かあった時に誰かを巻き込みたくないと思っているのか……目覚めかけている吸血衝動に抗っているのか。
     いずれにせよ、コチラとしては好都合だね」
     エクスブレインの指定した、その時間。ロビンは深夜の高架下の道路を一人ふらふらと進んでいるらしい。道幅は十分に広く、街灯もある。車や歩行者が通ることも恐らくは、ない。ESPで予防線も張れば、戦闘をするのに不都合になる要因はないだろう。
    「彼は、迷っているようだ。
     幼い妹を一人置いて、逃げ出したこと。
     妹だけを、人間でない何かにしてしまっていること。
     自分が彼女の側に居てやるべきではないのかという、思いを抱えている……が。
     それと同時に、両親を殺してその血を啜る、妹のような化け物の存在――そして自らがその化物になる事への恐れもある」
     エクスブレインの想心は、そこまで言って小さく首を振った。
    「そんな彼に、一体どんな言葉を伝えるべきか……その迷いを正しい方向に導くことができたなら、彼の中のダークネスの力を弱めることができるかもしれない」
     ロビンの使うサイキックはダンピールのそれと同系統のものだが、ダークネスの中でも強力な種族として挙げられるヴァンパイアのそれは、威力が段違いだ。だが、彼の心を事前の説得によって正しい方へと向かわせていれば、その力を幾らか弱めることもできるだろう。
    「……彼が灼滅者として覚醒し、そして学園へと来るようなことがあれば……彼は私の、そして君達の、未来の友人となるかもしれない」
     そう言って想心は上着を羽織り、灼滅者達の顔を見渡した。
    「私にできるのは、ここまでだよ。後は君達の言葉と心で、彼を救い出して欲しい」


    参加者
    因幡・亜理栖(おぼろげな御伽噺・d00497)
    アリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814)
    村上・忍(龍眼の忍び・d01475)
    若宮・想希(希望を想う・d01722)
    村瀬・一樹(叶未進紳・d04275)
    高遠・彼方(無銘葬・d06991)
    杵島・星子(プロキシマより愛をこめて・d15385)
    アルジェント・ヴィザルト(銀の死を舞う者・d20673)

    ■リプレイ


    「――Good evening」
     頼る者のない孤独を強調するかのような誰も居ない夜の街で、突然に背後から聞こえた母国語の響きに、ロバート・ケイ――ロビンは怯えた顔で振り向き、声を張り上げた。
    『誰だッ!?』
    『あなたを迎えに来たわ。怪物ではなく人のあなたを』
     英語で問われたその言葉に、アリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814)もまた、慣れ親しんだ故郷の響きを優しく返す。
     アリスの英国人の声と姿が、親しい者を失ったばかりのロビンの警戒心を解きほぐしたのか。
     少しだけ肩の力を抜いて、彼はゆっくりと口を開いた。
    『……君は。いや、君達は……知っているのか。ボクの、ことを』
     ロビンはアリスと、彼女と共に姿を見せた灼滅者達に視線を流した。その中から一人、村上・忍(龍眼の忍び・d01475)が流麗な仕草で一歩歩み出る。
     視線を合わせ、ひと呼吸。緩やかに頭を下げる古風な礼。
    「ケイさん――ですね。
     こんばんは、私は村上忍と申します」
    「ロバート・ケイ、だ。
     君は……日本人、なのか」
     その問いには答えず、忍は少しだけ寂しげな笑みを浮かべると、伝えるべきことだけを言う。
    「貴方が何から逃げておられるかは、存じております。
     貴方の見た悪夢、そして、今も貴方に囁く声……」
     その言葉の後を継ぐように、若宮・想希(希望を想う・d01722)も前へと踏みだし、ロビンの瞳を見据えて言った。
    「気付いているかもしれないけれど。その声、その衝動は、貴方の妹……エリザベスさんが、ヴァンパイアへと堕ちたことが、原因です」
    「リズのことも……ッ」
     そこまで、知っているのか。思わず絶句するロビンを前に、アリスは冷静に口を開いた。
    「ええ。この世界には、人の心の闇に住まう連中がのさばっている。ヴァンパイアもその一つよ。
     ――最初の質問に答えるわ。私達は、そんな連中から身を守るために集まってる」
     言いながら、アリスはロビンに向けてその手を差し出す。
    「私達の学園に来てみない? その力の鎮め方も教えてあげられるわ」
     魅力的な誘いだった。
     あの悪夢の時以来、ロビンはずっと独りで逃げ続けていた。心の奥で囁く声から。耐えがたい吸血衝動から。妹の赤い瞳から……。
    「ボクは……助かるのか?」
     その問いに答えたのは、因幡・亜理栖(おぼろげな御伽噺・d00497)だ。金の髪。青い瞳。英国人の血を引く亜理栖の容姿もまた、ロビンの警戒を解くのにはよく適している。
    「貴方は化け物にはならないよ。人間、だよ。
     その苦しい気持ちを、ずっと抑え続けてこれたんだもの」
    「そう、か……」
     穏やかで暖かな亜理栖の言葉は、ロビンに確信を抱かせた。
     彼らと共に行けば、自分は助かる。
     そう。自分だけは。
    「駄目だ。ボクは、行けない」
     ロビンは頭を振って、伸ばし掛けた手を自らの胸元へと当てた。その下の内ポケットには、一枚の手鏡が入れられている。
    「ボクは、怖かった……化け物となった、リズのことが。そして自分もまた、リズのようになってしまうことが」
    「……」
     想希の顔がわずかに曇り、その指先がそっと自身の指輪に触れる。
     ロビンは、独白を続けた。
    「でも、ボクは助かる……そう言われて。変わらないで済む道を選べるようになって、やっとわかった。
     ヒトでなくなっても、ボクはリズを独りにはできない」
    「なら、俺達は此処でお前を殺さなきゃいけない」
    「っ! 高遠さんっ!?」
     高遠・彼方(無銘葬・d06991)の剣呑な物言いに、思わず村瀬・一樹(叶未進紳・d04275)は声を上げる。
     焦る一樹を手で制して、彼方は言葉を続けた。
    「だが、ヒトのまま踏みとどまり。妹と、お前自身とに何が起こったのかを知って……それから、妹の所へ行くのなら。
     その選択をするのなら、俺達はきっと力になれる」
    「……妹を、助けることができると?」
    「保証はありません」
     忍の答えは、ロビンの望みとは異なる、現実。
    「ですが、最後の可能性の為に。或はせめて彼女の魂を救う為に。戦ってあげられるのは、貴方だけなんです」
    「戦う……リズ、と……?」
    「考えてもみよ。そも、汝の妹は愛する家族の血を啜るような真似を行うか?」
     困惑するロビンに、杵島・星子(プロキシマより愛をこめて・d15385)は力強い口ぶりで言った。
     語調こそ厳しいが、そこに見下しの色はない。ただ、大気圏の上からモノを見ているような超越感だけがあった。
    「地球規模でコトを計るな。あれはもう妹ではない、異形のモノなのだ。
     汝の心の奥で囁く悪しき声と同じ、な」
     星子に続けて、想希が口を開く。
    「妹さんを放っておけない気持ち、わかります……凄く。
     でも、だからこそ、同じになってしまったら。今のその気持ちごと、貴方は貴方でなくなってしまう」
     大切な人に怖れられる化け物となっても、魂が人であるのなら。自分が自分であるのなら。信じてくれる人のことを思いながら、想希はもう一度自身の指輪をそっと撫でた。
    「君達は……」
     自分に向けられた灼滅者達の言葉の、その内から染み出すような深い想いに、ロビンは気付いた。
    「貴方は、生きるべきです。人間のままで」
     アルジェント・ヴィザルト(銀の死を舞う者・d20673)の物言いは淡々と、それ故に真っ直ぐでもあった。
    「貴方があんな風になれば、もう、誰も彼女を思うことはできない。その時に貴方の妹は、本当の意味で居なくなってしまう」
    「兄が兄でなくなってしまうことを、妹が望むわけがあるまい」
     4.2光年経とうともそれは変わるまい、と星子は言った。
    「ロビン君はここでしっかり踏みとどまって、妹を止めに行かないと。
     それは、君が『人間』のままでいなきゃできないことなんだ」
     一樹の言葉に頷いて、彼方もまた言葉を掛ける。
    「お前が今まで、衝動に耐えてきた理由。葛藤してきた理由を思い出せ」
    「ボクは、化け物が……ヒトでなくなることが、怖くて……」
     ロビンは、内ポケットの手鏡を取り出した。妹からの贈り物。鏡の中の瞳の色が、陽炎のように揺らいで見える。
    「妹さんのことを怖いと……間違ったことをしていると思ったんなら。きちんとダメって言わなくちゃ。
     妹さんが大好きだった、お兄さんのままでね」
     その言葉に、ロビンはハッと顔を上げた。
     亜理栖の青い瞳が、真正面から、ロビンの瞳を見つめ返す。
    「貴方が側にいるべきなのは、赤い妹さんじゃない。
     お兄さんのことが大好きな、妹さんだと思うよ」
     ロビンはもう一度顔を伏せて、鏡を見た。
     大切な妹とお揃いの青い瞳が、そこにあった。
    「ボクは……」
     決意の面持ちで口を開きかけたロビンの、その喉の奥をかつてない猛烈な渇きが襲った。
    「ガッ――!? ア、ガァァッ!?」
    「ロビン君っ!」
     渇きは痛みとなり、熱となり、ロビンを襲う。喉を押さえ、膝を突き藻掻くロビンを前にして、アルジェントは冷静に得物を構えた。
    「どうやら、焦って出てきたようですね」
    「結局は、荒療治になるのよね」
     殺界を形成しながら、アリスはスレイヤーカードを解き放つ。
    「Slayer Card,Awaken!」
     その声が、戦いの始まりを告げる鐘の音となった。


     戦いは灼滅者達の有利に進んでいた。
    「戦って、ロビン君!
     君の中の、そいつと!」
     一樹の言葉に反応するように、ロビンの体を操るダークネスの動きが一瞬、ビクリと止まる。
    「僕達も、手伝うから!」
     その隙に。自らの胸の辺りに手を当てて、力強く、朗々と歌われるエンジェリックボイス。先程紅蓮斬の一撃を受け止めた想希の傷を癒すためのサイキックであるが、その歌に込めた想いだけはダークネスに抗い続けるロビンの元へも届いているはずだ。
    『――ッ! ッ!? ――ッッッ!!』
    「ええっと……さっきから、何て言ってるのかな?」
     ロビンの体を奪ったダークネスは、ずっと英語で何事かをがなり立てている。一樹の独り言じみた問いに答えたのはアリスだった。
    「酷く口汚いスラングよ……通訳は、勘弁してちょうだい」
     げんなりとしたその表情を見る限り、どうやらそれはもう強烈な物言いであるらしい。
    「英語がわからなくとも気にすることなどない! 文化も言葉も人種の壁も、宇宙規模で捉えたならば準惑星より些細なコトである!」
     呵々と笑ってプロキシマのヒーローは、その右腕を敵へと向けた。
     ぐわりぐわりと瞬きの間にその右腕は変質し、コズミックなデザインの縛霊手を飲み込んでいく。そして忽ち放たれる、宇宙規模のDCPキャノン !
    「堕ち損ねたダークネスの悪足掻きなど、プロキシマ・ケンタウリに選ばれし我には通じんわ!」
     たまらず吹っ飛ぶダークネスに向け、影さえ追えぬ素早さで忍が駆け寄った。
    「宇宙規模では、瞳の色など僅かな差かもしれませんが……」
     少しだけくすりと笑った忍は、続けて、憂いを含んだ眼差しでロビンの真正面に立つ。
     つぃ、と振るったその手の中に、いつの間にか数枚の護符が握られている。
    「妹さんは、貴方の青い瞳が大好きだったんでしょう?
     なら、その瞳を赤く染めないで。その時こそ、貴方は彼女を完全に置いて行ってしまうんです」
     祈りを込めた言葉とともに放たれた導眠符が、ロビンの体に巣食うダークネスの意識を弱らせ、惑わせていく。
    『暴れるなとは言わないし、罵詈雑言だって聞いてあげる。
     あなたの心の中の闇、ここで吐き尽くしなさい』
     GBの同胞に向け、アリスはもう一度、慣れ親しんだ言葉で語りかけた。
     白いサイキックのオーラがその身に宿る。詠唱。圧縮。白い魔力が純度を増して輝きを放つ。
    「世を廻る魔力よ、敵討つ矢となりて虚空を駆けろ!」
     白の光は一本の矢――マジックミサイルとなって、ダークネスを撃ち貫いた。
     よろめくロビンの姿のそれに、飛びかかる影がある。
    「『苦しい気持ち』に、流されないで!」
     白き薔薇に飾られた柄を握りしめ、亜理栖はvorpal swordを高々と頭上に掲げた。
     ダンピールである彼には、今のロビンを襲う衝動の苦しみが、心から理解できた。
     故に。迷いなく、その刃を振り下ろす。
    「妹さんのためにも、君がしっかりしないと!」
     亜理栖の戦艦斬りが、袈裟懸けにダークネスを斬り裂いた。
     そこに駆け寄る、もう二人のダンピール。
    「どうか、妹さんのためにも留まってください」
     想希もまた、自らの妹のことを思い出しながら、龍華の柄に手を掛ける。
     一方のアルジェントは、戦いの中で言葉を口にすることはない。
     ただ、ダークネスを倒す意志、ロビンを救う思いを、振るう一撃に込めていた。
    「変わっても……戻ってきて……!」
     想希とアルジェントが、左右から同時に放つ紅蓮斬。
     緋色のオーラは、彼らもまたロビンと同じ吸血衝動に苦しみながらヒトとして生きることを決めた仲間であることの証だった。
    「後は、お前次第だ。
     ……気をしっかり持てよ」
     彼方は強く、強く拳を握りしめた。
     左右の腕が、左右の脚が、無数の閃光となってダークネスを打ち据える。
     その一撃一撃が、闇の力に抗い続けるロビンを支える手足になる。
     閃光百裂拳の乱打は、ダークネスの闇の力を根こそぎに剥ぎ取っていく。
    「――ッ!! ――…………っ」
     ロビンの体に巣食ったダークネスは、最期まで灼滅者達を口汚く罵りながら、闇の底へと沈んでいった。


     全身を覆う鈍い痛みを堪えながら目蓋を開いたロビンが最初に目にしたものは、口の中に一口ゼリーを放り込みながら頭を掻いぐり回してくる真顔のアルジェントの姿だった。
    「……What?」
    「いい子、ですね。よく頑張りました」
     幼子を褒める保育士のような物言いだが、その中性的な美貌は表情のない素の真顔である。違和感しかない。
     困惑するロビンに向けて、次に言葉を掛けたのは彼方だった。
    「やっと起きたみたいだな。ま、お疲れさん」
     彼方がロビンに向けてポンッ、と放ったのは、どこにでもある温かな缶コーヒー。
     飲み物を目の前にして、ようやく味覚がその本分を思い出した。口の中のソーダ味のゼリーから、疲れきった体に染み込む爽やかな甘味――ずっと飲まず食わずでいた身には、ありがたい。
    「戦闘では特に手厳しかった二人が、戦いの終わるなりコレとはな……正しく宇宙規模のツンデレである」
    「どんなだ、それは」
     ウムウムと鷹揚に頷く星子と、それにツッコむ彼方の姿からは、もう緊張は見られない。
     ロビンは闇を退けたのだ。あの堪え難い喉の渇きも、今は大分収まっている。
    『落ち着いたみたいね?』
    『あぁ……君達のお陰だ。ありがとう』
     敢えて英語で話しかけたアリスに、ロビンもまた英語で返した。
     地球規模の二人には、言葉の違いも意味があるのだ。
    『……やっぱりあなたには、下品なスラングよりもスタンダードがよく似合うわ』
     そう言って微笑むアリスの横から、同じ響きの名前を持つもう一人の亜理栖がロビンに向けて語りかけた。
    「ロビンさん――僕たちの学園に来ない?」
    「学園……さっき、彼女の言っていた、君達のグループか」
     こくん、と亜理栖は頷いて。
    「僕たちの学園が……それに、僕たちが。貴方のために、力になれるはずだよ」
     真っ直ぐに、見つめて言う。
    「貴方が妹さんを一人にできないと思うように……貴方を一人にできないと、思う者もいるんです」
     戦いを終え、眼鏡を掛け直した想希が、亜理栖の隣に並んで立った。
    「一緒に来ませんか? ……貴方は一人じゃ、ない」
     そう言って、想希は手を差し伸べる。
     ロビンは迷わず、その手を取って頷いた。
    「……わかった。ボクは、君達と共に、行くよ」
     新たな仲間の加入を告げる声に、わぁ、と灼滅者達は盛り上がった。
    「学園には仲間たちが小惑星の数ほど居る。宇宙規模に賑やかだぞ!」
    「情報も多く集まる。役に立つことが、あるはずだ」
    「僕、クラブでよく紅茶淹れてるからさ。いつでも飲みにおいで。
     その時は紳士として……ううん、友達として歓迎するよ!」
     ついでに英語のリスニングも教えてくれれば……と言いかけて、それは紳士的でないな、とすんでの所で飲み込んだ。 


    「ケイさん。貴方はこれからも思われるかも知れません。妹の傍にいないでいいのか、と」
     学園への帰路。
     ロビンに肩を貸しながら、忍は小さく、しかしはっきりとした声で、ロビンの目を見据えて言った。
     ロビンは沈黙のまま、ただ、その瞳を見つめ返して応える。
    「そんな時は、貴方を愛してくれた妹さんを思うんです。貴方を血と絶望の中に引き込んだとしたら、彼女がどんな顔をしていたか思うんです」
     ロビンは小さく頷き、懐に手を当てた。内ポケットの手鏡の感触が、胸の奥まで伝わってくる。
    「私もそうしています。私を――」
     続けて忍がロビンに語った、彼女の過去。
     それを聞いたロビンの青い瞳からは、リズと、そして忍の妹の為の、涙が溢れだした。

    作者:宝来石火 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年11月7日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 4
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