はなむけの手に、荒ぶともしび

    作者:雪月花

     ファー付きの黒いジャケットに、サングラス。
     クロキバは、以前訪れた時と変わらぬ姿で佇んでいた。
    「シロの王セイメイのアラタナ企ミガ確認サレタ。死体ヲアンデッドニスル儀式ノヨウダ」
     切り出したクロキバの声音は、心なしか困っているようにも聞こえる。
     理由はすぐに分かった。
    「申シ訳ナイノダガ、コレヲ知ッタ若イイフリートガ、事件ノ起コル場所に向カッテシマッテイル」
     血気盛んな若手のイフリート達は鉄砲玉、彼も止めようがなかったらしく。
     頭の痛い問題に、クロキバは一度閉ざした唇を開いた。
    「彼ラガ暴レレバ、周囲ニ被害ガ出テシマウノデ、済マナイガ彼ラヲ止メルカ、彼ラガ来ル前ニ、セイメイノ企ミヲ砕イテクレナイダロウカ」
     
    「クロキバも、若手の連中には梃子摺っているようだな……」
     彼の苦労を思ってか、土津・剛(高校生エクスブレイン・dn0094)は何処か同情的な目をして呟いた。
    「ともかく、彼からの情報で白の王セイメイが新たなアンデッドを生み出そうとしていることが分かった。これを元に調べたところ、今度は人里離れた樹海などでは済まないことになりそうだ」
    「それって、まさか……」
     灼滅者達と一緒に話を聞いていた矢車・輝(スターサファイア・dn0126)の顔から、血の気がなくなる。
    「全国の病院や葬式など、人が『亡骸』として存在する場所で……事件は起こる」
     突然アンデッド化した死体が暴れ出し、周囲の人間を手当たり次第襲う。
    「故人の死をゆっくり悼む猶予もなく、同じ姿の者に襲われるなんて、どんな悲劇だろうな……」
     剛の声音はやるせなさに満ちていた。
    「お前達には、周囲の人々を手に掛ける前に、このアンデッドを倒して貰いたいんだ。関係者にとってはどの道ショッキングなことかも知れないが、それでも皆殺しにされるよりはずっと良い筈だ」
     託すことに覚悟を込めて、剛は灼滅者達を見据えた。
     
    「皆の行き先は、栃木にある住宅だ。割と古くからある家で、そこで一家の主の葬儀が行われる」
     襖を外した二間続きの和室が葬式会場として使われ、故人の棺を親類縁者が外に運び出そうとしている時に、その時は来てしまうのだという。
    「ここのご主人は50代半ばで、生前バイクや自転車を販売する仕事をしていた。息子さんが同じ仕事に就いて熱心に教えているところだったのに、急に倒れて病院に運ばれ、そのまま亡くなったそうだ」
     剛が話したのは痛ましい経緯だが、誕生するアンデッドの特長にも関係しているらしい。
    「ご本人もバイク好きだったせいか、攻撃は車輪を飛ばしてきたり、数秒ほどの間具現化させたバイクの幻影を突撃させたり、縦横無尽に走り回らせて周囲の人々を一気に轢いてしまうような力ばかりなんだ」
    「それは……ご親族や参列者の人達を早く避難させないと危ないね」
     輝の言葉に、剛はあぁと頷いて。
    「それも大事なんだが……もうひとつ問題があってな」
    「えっ」
     輝はまだあるの、という顔をする。
    「先に言った、血気盛んな若手のイフリートがな……既に事件を嗅ぎ付けて、付近に到着しているようなんだ」
     勿論武蔵坂学園と違って未来予測はない為、セイメイの悪事の臭いに気付いて周辺を嗅ぎ回っているのだろうと剛は言うが。
    「事件が発生すれば、明確な臭いを追って現場に姿を現すだろう。イフリートが人間を避けて暴れられる筈もないから、幾ら悪気がなくとも大惨事になること必至だ」
     流石に輝も眉を下げる。
    「そのイフリートを、なんとか葬儀の場に近付けないようにしないといけないんだね……でも、クロキバが止めてもダメだったのに、僕達の話が通じるかな?」
    「その懸念は尤もだな。むしろ拳で語り合って、灼滅者に任せた方が良いと納得させる方がやり易いかも知れない」
     腕を組んで嘆息した剛は、更に続ける。
    「加減を知らない若いイフリートが人を手に掛けてしまえば、そのイフリートも武蔵坂学園の灼滅者達によって灼滅されてしまう可能性があると、クロキバも理解している。逆に、若手イフリートを撃退せずに丸く収められれば、若手達も『武蔵坂学園とは争わない』という方針に賛同してくれるのでは……という期待もあるようだ」
     逆に、イフリートを灼滅してしまえばイフリート側と武蔵坂学園の関係が悪化する懸念もあるという。
     
    「ややこしい事態だが、精神の幼いイフリートをなんとか説得して、アンデッドを倒してやって欲しい。出来れば、被害を最小限に抑えて貰えれば有り難いが……」
     あれもこれもは難しいと分かっている口ぶりで、剛は灼滅者達に依頼する。
    「突然亡くなって、ご本人も心残りがあるだろうに……。いきなり化け物みたいになって、大切な人達を殺してしまうなんて……そんなのダメだよ。死んでも死に切れない」
     俯いた輝の呟きには悲壮さが滲んでいたものの、顔を上げればその瞳は真っ直ぐに仲間達を見詰めていた。


    参加者
    シオン・ハークレー(光芒・d01975)
    枝折・優夜(咎の魔猫・d04100)
    松苗・知子(なんちゃってボクサーガール・d04345)
    一・威司(鉛時雨・d08891)
    シーゼル・レイフレア(月穿つ鮫の牙・d09717)
    片峯・侠助(ペリドットの剣・d17049)
    水瀬・裕也(中学生ファイアブラッド・d17184)

    ■リプレイ

    ●しめやかな終幕……の筈だった
     白黒の花輪が飾られた門に、ひとりまたひとりと黒服の人々が吸い込まれていく。
     中には学生らしき姿の者もいて、なんでも近場の中学校に通っていた時、ご主人に自転車のパンク修理などでよく世話になっていた子達だという。
    「親父は面倒見が良かったからな……君達もそうか」
     レーナや矢車・輝(スターサファイア・dn0126)が使用したプラチナチケットの効果もあってか、一足先に式場である民家に向かった灼滅者達もその手合いと思われたようだ。
     母親と一緒に参列者を出迎えていた若い男性は、心なしか表情を和らげて席を勧めてくれた。
    「(制服を着てきて良かったね)」
     輝は同じ学園のブレザーを着た水瀬・裕也(中学生ファイアブラッド・d17184)とこっそり言葉を交わす。
     裕也が祭壇の方を見遣ると、闇を纏って気配を消した枝折・優夜(咎の魔猫・d04100)が棺の近くに控え、目配せしてきた。
    「(後は出来るだけ棺の近くに……)」
     視線を返し、裕也は前の方の席を見回した。

     その住宅地の裏手。
     落ち葉に彩られた小さな里山は、冷たい風が吹き降ろしている。
     用でもなければ人が踏み入らないような奥まった場所に、そのイフリートはいた。
    「ニンゲン……グルル、すれいやー カ?」
     柴犬の子を赤くして角を生やし、そのまま巨大化させたようなイフリートの『ジロ』は、現れた灼滅者達を威嚇するように立ち上がった。
    「待って、ジロ君」
    「ヌゥ、オレ シッテル?」
     制止の声を上げたラピスティリア・ジュエルディライト(夜色少年・d15728)は頷き、自分達の名前とクロキバの使いであること、敵意もないことを伝えた。
    「クロキバガ……ナンデ?」
     ジロは何処かムッとした様子で、灼滅者達を見回した。
     個々としてはジロ自身よりずっと弱く、そもそもダークネスからすれば中途半端な存在と見られるものだから、仕方ないのかも知れないけれど……。

    ●すれいやー ぶか ニナル?
    「クロキバは静観を望んでらっしゃるの。っていうか、イフリートが足を運ぶほどの事態じゃないのよー」
     松苗・知子(なんちゃってボクサーガール・d04345)が、意志の強そうな大きな瞳でジロを見詰め返してそう告げた。
    「……ナニ?」
    「かんたんなじけんだから、半端なぼくたちが、行ってきます」
     訝るジロに、しっかり者ながらまだ幼い容貌のシオン・ハークレー(光芒・d01975)が言葉を継ぐ。
    「セイメイは、もっといろんなことしてくるから、強いジロさんは、大将として、大きなじけんに当たった方が、カッコいい」
     シオンがカッコいい、と言ったところで、ジロの耳がピクリと跳ねた。
     イフリートの中では小柄な方とはいえ、シオンよりはずっと大きいジロだが、仕草や反応がちょっと子供っぽくてなんだか親近感が沸いてしまう。
    (「ったく、世話の掛かるイフリートなこった……」)
     思わず笑ってしまいそうなのを堪え、シーゼル・レイフレア(月穿つ鮫の牙・d09717)も口を開く。
    「今回の件に関しては、俺らみたいな半端者に任せてくれたりはしないだろうか」
    「白の王の企ては今後更に激化すると予測出来ます、どうかこの程度は僕達に任せて頂けないでしょうか?」
     ラピスティリアが続けると、更にシーゼルも頷いた。
    「これから起こるもっと大きなことに対して、お前のような実力者は力を温存しておくべきだと思うんだ」
    「サキノコト ムズカシ。ヨクワカラン」
     ジロは悩んで落ち着かなくなったのか、自分が座っていた辺りをウロウロと忙しなく動き回る。
    (「勢いがあるのはいいと思うが、短慮で物事を進めることには感心しないな」)
     流希はイフリートが灼滅者達を無視して動き出さないように、注意深く見守っていた。
    「クロキバはセイメイの所業に悩まされているが、必要以上の被害は望んでいない。ジロ君が戦えば、その強すぎる力でアンデッド以外の者も傷つける可能性がある。そこでだ、ここは俺達を使ってみないか? ということなんだが」
     落ち着かない様子のジロに、辛抱強く話し掛けるのは片峯・侠助(ペリドットの剣・d17049)だ。
    「ヌゥ、ヒガイ?」
    「ジロ君は強いです。強い分、アンデッドの周囲にいる人間や、周りの環境まで傷付けてしまうかも知れません」
    「そうそう、クロキバはそういうところまで考えてらっしゃるの。だから、まずは私たちに戦わせてほしいのよー」
     よく分からない、といった風のジロに、ラピスティリアと知子が説明した。
    「クロキバ ソンナコトマデ カンガエル」
     とにかく敵を見付けて暴れることしか考えていなかったらしく、ジロはまだちょっと怪訝な様子を残しながらも腰を下ろした。
     耳を傾けるような姿に小さく笑みながら、一・威司(鉛時雨・d08891)も言葉を掛ける。
    「ジロさんなら、われわれ すれいやー を じぶん の ぶか のように うまく つかうことができるはず。 ここは、われわれに おまかせを」
    「ぶか? つかう?」
     あまり聞いたことがない言葉や言い回しなのか、ところどころオウム返しのジロだったが、
    「どんな者にだって半端な期間というのはある。その半端な者も含めて使いこなせるようになれば、それこそ一人前と認められて、いずれはクロキバのようになれると思うぞ?」
     と侠助に言われて、耳をぴんと立てた。
    「オレ ナレルカ? クロキバ オオキイ、カシコイ」
     正直知能の部分では保証出来ないが、期待を込めて聞かれてしまうと、ここはひとまず頷くしかない。
    「オマエラモ ハンパ ナクナルカ。ソノウチ ナカマ ナルノカ」
     ジロは何か納得したように呟いた。
    「(流石に闇堕ちはねーよな……ってか、俺エクソシストなんだけどな)」
     ポツリとシーゼルが零す。
    「(ファイアブラッドの2人は今頃向こうで輝君と待機してるが、この場合はあまり関係なさそうだ)」
     侠助が微かに肩を竦めると、威司が静かに目を細めた。
    「(……ここは黙っておこう)」
     なんてひっそり交わされた会話が聞こえる筈もなく、ジロは少しして「ワカッタ」と地面にお腹を着けて足を投げ出した。
    「オマエラ、ヤッテミル。オレ ココニイル」
     ジロを立てて勝ち取った交渉だった。

     シーゼルの前の植物達が道を開いてくれるお陰で、裏山の道程はかなりショートカット出来そうだった。
    「イフリート達との関係を、悪化させずに済みそうですね」
     ゆったりと笑みを浮かべるラピスティリアの表情には、安堵も覗える。
    「しかし……セイメイは一体何を考えているのだろうかな。目的がまるで見えてこない」
     威司は逆に、何処か剣呑な思いを抱えているようだった。
     セイメイの行動は、今のところ死体を使っての戦力増強以上のことは見えてこない。
     得体の知れないやり口が、彼の中には随分と胡散臭いダークネスだと印象を残していた。
    「なんだか白の王? とかいう二つ名の割に、セセコマシイことしてるわよねー」
     知子はうーんと伸びをしながら、ちょっと呆れたように言った。
    「まー、あたしはぶっ飛ばすだけなのよ! 悪い奴のおもいどーりにはさせないわ!」
     明るくきっぱり言い放つ彼女に表情を緩め、シオンは頷く。
    「こんなことするなんて、やっぱり許せないよね」
     その目はあどけないながら、真剣だ。
    「よーし、じゃあこっからは悪い奴から亡くなった人を取り返す為に、いっちょやるかー!」
    「おー!」
    「はい!」
     シーゼルの気の良い掛け声に、和子とシオンが応えた。
     少し和んで、威司は緩く息を吐く。
    「今回の依頼で、何か手掛りが掴めれば良いのだが……」
     灼滅者達の意識は、次の戦いへ移っていた。
     近付いてくる民家の瓦屋根に、侠助も知らず唇を引き結んでいた。

    ●見送りのその前に
     葬儀は終盤に差し掛かる。
     読経や焼香なども滞りなく終わって、参列者が家族への挨拶を始めていた。
     先程庭先に見えた仲間達の影を、優夜は着席している裕也達にそっと手振りで知らせておいた。
     故人への最後のお別れとして、花を手向けた棺の中で眠るご主人の顔を見ても、これからアンデッド化するとは思えない。
     周囲の悲しい気持ちに包まれながらも、裕也と輝は緊張を手放せなかった。
    「そろそろお時間です」
     すすり泣く婦人とそれを支える息子に、進行を務めるスタッフが声を掛ける。
     出棺は親戚達が棺を抱え、外の車に運んでいく手筈だった。
     しかし。
     一度閉じられ、さあ持ち上げようと人々が取り囲んだ棺の中から、ゴソリと奇妙な音がする。
    「ん?」
    「今、何か……」
     不思議そうに覗き込もうとしたおじさん達の目の前で、棺の蓋が更にガタガタと揺れ出した。
    (「これ以上は……!」)
     危険と判断して、優夜は闇纏いを解く。
     が、突然現れた彼に人々が驚いている間はなかった。
     棺の蓋が吹き飛んだのだ。
     片手で棺を開いた遺体が、悠々と起き上がる。
     一拍おいて、場がどよめき悲鳴が上がり出す。
     白目を剥いて見る影もない形相になったアンデッドを、目を見開いて見詰める母子の姿から裕也は視線を逸らした。
    (「……うまく言葉にできないけど、すごく嫌だ」)
     大好きな人が、大切な人が……目の前で異形と化していくなんて。
    「早く逃げて!」
     闇よりも黒い爪を持つ縛霊手で、優夜がアンデッドに一撃を浴びせ周囲の人に声を浴びせる。
    (「そうだ、今は」)
     裕也はすぐに殺界形成を発動した。
     少しでも早く、一般人がここを離れられるように。
     優夜の霊犬・ゼファーや裕也が『にーちゃん』と呼ぶビハインドの葉と一緒に、黒髪のカツラで明るい茶髪を隠した真昼も、あまりのことに腰を抜かしたり動けなくなっている棺前の人々とアンデッドの間に割って入った。
     間一髪、放たれた無数の車輪の蹂躙から人々を守る。
    「さぁ、今のうちに」
     バスターライフルとロケットハンマーを構えて牽制する優歌の声に頷き、輝とレーネはまだ残っている人々を誘導し始めた。
     真昼が肩を貸して立ち上がらせた老人を預かり、輝は振り返る。
    「この人達にはちゃんと避難して貰うから、後は……!」
     懇願のような声に、優夜は強い眼差しを返した。
    (「誰一人として、犠牲にはさせない。この力は、その為に」)
     闇爪を装着した手に力を込め、アンデッドと向き直る。
     庭に隠れていた灼滅者達も、避難していく一般人と入れ替わりに窓から飛び込んできた。
     時間稼ぎは極小で済み、優夜は少しだけ安堵した。
     同時に、ここからが本格的な戦いの始まりと、気を引き締め直す。
    「月海で躍れ!」
     シーゼルの指に挟まれたスレイヤーカードから、殲術道具が解放される。
     仲間達も次々と武装し、アンデッドを棺に留める者達に迫った。
    「Twins flower of azure in full glory at night.」
     軽く白いヘッドフォンを耳に掛けたラピスティリアの口許に、心なしか好戦的な表情が浮かぶ。
    「大切な人との別れをこんな形で汚すなんて……人の命を何だと思っているんだ……」
     体格はあまり変わっていないようだが、既に人間の形相ではないアンデッドを目の当たりにした侠助の呟きは悲痛さを帯びていた。
    「ヒカル! そっちは任せたのよー!」
     脱出口から彼らの突入を確認した輝に、知子はぐっとサムズアップ。
     輝も少し笑って、同じ合図を返し身を翻していく。

     突然現れたバイクの突進や、際限なく現れる車輪の回転が畳に無残な跡を付けていく。
     だが、仲間達に向けられた攻撃の多くは、優夜と裕也、そして彼らの相棒が上手く往なしていった。
     アンデッド自体はあまり大きく動かず、ぼんやりと立っているようにも見えるが、身を傾いで攻撃をかわすくらいは出来るらしい。
    「でも……今は大人しくしてね」
     何度目かの影縛りで、シオンの影がアンデッドの胴や腕を絡め取った。
    「この分なら、あまり消耗せずに倒せそうだな」
     威司の赤茶の瞳が、敵の急所を捉えた。
     ガトリングガンから続けざまに打ち込まれる弾丸が、アンデッドの脇腹に風穴を増やしていく。
    「っしゃおらー! 一気にいくわよー!」
    「援護しましょう」
     オーラを宿した知子の拳が何度も突き込まれ、更にラピスティリアの巨大化した腕が、紫の輝きを纏って風のように振るわれた。
     思いっきり横っ飛びして畳に打ち付けられるアンデッド。
     漣のように押し寄せた陰が、亡者の身を切り裂いていく。
    「これでも、喰らっとけよ!」
     癒し手としても余裕のあったシーゼルも、攻撃に加わったのだ。
     死者は呼吸はしないが、例えるならものの数分のうちに虫の息のようだった。
    「すぐに終わらせてやる……安らかに眠れ!」
     狙いをつけた侠助のサイキックソードから、渾身の想いを込めた眩い光の刃が放たれる。
     光刃は奇妙な姿勢で立とうとしていたアンデッドの肩を貫き、『彼』は力尽きたように前のめりに崩れ落ちていった。

    ●静かな畳の上で
     ただの遺体に戻った男性は、棺の中に戻された。
     火葬される前に、随分痛んでしまったが……ダークネスに狙われた上でちゃんと亡骸が残っている分、まだ救いがある方なのか。
     どの道やるせない気持ちを抱えつつ、侠助は可能な限り葬儀の場を整えた。
     威司は特に目に付くような痕跡がないことだけは、確認した。
     戻ってきた輝達の話によれば、家族や参列者達は避難時に転んだ程度の軽傷くらいで、深刻な傷を負った者はいなかったという。
     心の傷はそう簡単には消えないかも知れないが……それでも、灼滅者達は被害を最小限に留め、悪い事態を防いだのだ。

    「ニオイ ナクナッタ」
     ジロは約束通り、出会った場所で待っていた。
    「君がジロさんだね」
    「ソウ、オレ ジロ。オマエ、フエタ?」
     説得時にはいなかった優夜が話し掛けると、ジロはふんふんと匂いを嗅いだ。
     なんだか、彼が幾つも持っているぬいぐるみをちらちら見ていた気もするが。
    「実は先行して貰ってたのよー」
    「フム。ツヨクナクテモ レ……レンケ、イ? ヤルナ」
     知子が軽く事情を説明すると、ジロはちょっと感心したようにも見える。
    「オマエラ、ニンゲン マモル? ナカマ、カ?」
     ジロは不思議そうにしていたが、やがてブンと尾を振って立ち上がった。
    「せいめいノ クサイノ モウナイ。オレ トリアエズ カエル」
     その言い回しに灼滅者が顔を見合わせていると、ジロが振り返る。
    「クロキバ ノ ハナシ キク」
     と言い置いて、彼は林の奥へ駆け出した。
    「あっ、ジロさん。またね」
    「またなのよー!」
     シオンが手を振り、皆彼の燃える尻尾が緑の中に消えていくのを見送った。
     彼がクロキバの方針を理解して賛同してくれるかはまだ分からないが、接触としてはまずまずの結果を手に、灼滅者達も山を降りていくのだった。

    作者:雪月花 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年11月16日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ