なにが、どうして

    作者:聖山葵

    「次は七日だったな」
    「あぁ、七日だ」
     言葉を交わす男達の足下にはあられもない姿の女性が横たわり、一人の男が油性マジックで女性の肌に何やら書き込んでいるところでもあった。
    「しかし、この女もなかなかのもち肌ではあったものの、我らが主にはとうてい及ばぬ」
    「是非もあるまい。いや、だからこそ主は主であらせられるのだよ」
    「なるほど」
     黒いローブを着た男達は内容とは裏腹に真面目そうな顔で仲間の言葉に頷くと、後方に振り返る。
    「はぁ……」
    「あぁ、憂う姿も素晴らしい」
     周りから一段高くなった場所に設けられた玉座。そこにいたのは、男達と比べて丈の短いローブからこぼれた白い肌を晒す少女。
    「あたしどうしてこんな所に居るんだろ」
     とでも言うかのような憂鬱げなため息をこぼしたのが、男達の仰ぐ主であった。
     
    「一般人が闇堕ちしてダークネスになる事件が発生しようとしている」
     では説明に移ろうか、と灼滅者達が集まるなりすぐさま口を開いた座本・はるひ(高校生エクスブレイン・dn0088)の告げた二言目が、それだった。
    「本来ならば闇堕ちした時点でダークネスの意識に取って代わられ、人間の意識は消えてしまうのだが、今回のケースは問題の人物が人間の意識をとどめた状況にある」
     これは、いわばダークネスの力を持ちながらもダークネスになりきっていない状態。
    「もし、件の少女に灼滅者の素質があるなら助けられるかもしれない」
     可能であれば救出を、それがかなわない時は完全なダークネスになってしまう前に灼滅を。
    「むろん、救えるに越したことはない。この世の中、悲しいことが多すぎる。ならばせめて救える者は救いたいのだよ」
     故にはるひは君達を呼んだのだろう。
    「問題の少女の名は、端城・うさぎ(はしろ・うさぎ)。中学三年生だ」
     どういう経緯でそうなったのかは不明だが、現在この少女は定期的にもち肌の女性をさらってもち肌具合を確かめ、身体に評価を書いてリリースするという変態組織のリーダーの座に納まっている。
    「完全に闇堕ちした場合ソロモンの悪魔になるところから推測するに、人の願いを聞き堕落させ続けた結果がそれなのだと思われる」
     少女自身もかなりのもち肌であることからすると現在の構成員の誰かにせがまれ肌を触らせた事がきっかけだったりするのかもしれない。
    「ともあれ、人間の意識の方は現状を良しとしていない、もし説得するならそこを指摘するといい」
     闇堕ち一般人と接触しその心に呼びかければ、戦闘力をそぐことが出来る。闇堕ちから救う為には戦ってKOする必要がある為、説得を試す価値はあるだろう。
    「さて、それでバベルの鎖の影響を受けず少女と接触する方法だが二つある」
     一つめは一人が囮となって組織にさらわれ、残る面々が追跡することで組織の拠点に乗り込むというもの。
    「二つめは、一般女性をさらう組織の構成員を追跡することで拠点へ乗り込み、少女と対面するという方法だ」
     灼滅者の中にもち肌を持つ者が居なければ後者以外の手段はない訳だが、性別がそぐわないだけなら女装するという手もあるのだ。
    「戦場になるのは、拠点最奥にある儀式場。構成員達は幸いにもまだ一般人の為、無力化するのは容易い」
     もちろん少女は戦闘になれば魔法使いのサイキックに似た攻撃で応戦してくるだろうが。
    「それだけでなく影業のサイキックに似た攻撃もしてくる。何というか主に服破り目的だな」
     おそらくは少女の中のダークネスがそう言う趣向なのだろう、ツッコミどころ溢れる犯罪組織を作っている辺りとかからしても。
    「もっとも、少女本人は至って真面目な性格のようだがな」
     やや気が弱く、頼まれるとNOとは言えないお人好し。それがはるひの見る少女の人物像であり。灼滅者達が救うべき人物。
    「そも、件の組織も放置してはおけない」
     少女が居なくなれば自然消滅するだろうが、既に犠牲者は出ているのだ。
    「これ以上の悲劇を生まない為にも宜しく頼む」
     はるひに見送られ、踵を返した君達は教室を後にする。ふざけた変態犯罪組織に終焉をもたらし、少女を救う為に。
     


    参加者
    東雲・由宇(神の僕・d01218)
    本堂・龍暁(ドラゴン番長・d01802)
    秋夜・クレハ(紅の葬焉・d03755)
    桐谷・要(観測者・d04199)
    マリーゴールド・スクラロース(小学生ファイアブラッド・d04680)
    山田・菜々(鉄拳制裁・d12340)
    ユウ・シェルラトリア(七の星架・d19085)
    菊水・靜(ディエスイレ・d19339)

    ■リプレイ

    ●巣窟
    「また新しい子が来てるらしいっすね。どのくらいのもち肌が楽しみっす」
    「あぁ、そうだ」
     黒いローブ姿の男が山田・菜々(鉄拳制裁・d12340)の言葉に相づちを打とうとした瞬間だった。
    (「もち肌を求める、か……世には奇妙な思考を持つ集団もいたものだな」)
     冷めた目で眺めつつ菊水・靜(ディエスイレ・d19339)の発した眩い光が男に降り注いだのは。
    「うあぁぁっ、私は何と言うことをっ!」
     突如蹲り悔恨の言葉を発すその症状は、別の場所にも存在した。
    「おいコラ。押しに弱いからって、いたいけな少女を自分達の趣味の崇拝物にするのやめなさい。今度したら、警察に捕まった方がよかったって嘆くレベルで本気でシバくよ? マジで」
    「ひいっ、ごめんなさい。反省してますぅぅぅっ!」
     こちらは東雲・由宇(神の僕・d01218)からESPで改心させられた上に脅されてしきりに謝っていたが、どちらにしろ灼滅者達の障害たり得ない。
    「んー、とりあえずここはこんな物で良さそうね」
     言い終えるなり猫の姿に戻り、過去を悔いている男達を置き去りに、由宇は更に奥へと進む。
    「これがもち肌愛好家の組織の拠点か」
     ポツリと呟く本堂・龍暁(ドラゴン番長・d01802)も、ここに来るまでは「相手は何だったか」などと口にしていたが、壁の至る所に貼られている「もち肌賛美のことば」だの「もち肌の愛で方」だのをみれば、認識せざるを得ない。
    「もち肌だからってどういう理由かしら。やはり悪魔の思考は理解し難いわね」
    「ええ。もう少し割り切れる立場とか無かったのかしら。もち肌を確かめて評価するなんて、失礼極まりないわ」
     思わず桐谷・要(観測者・d04199)の口から声が漏れ、同意しつつ秋夜・クレハ(紅の葬焉・d03755)は顔をしかめて壁にある張り紙の一つへ目を留めていた。
    (「悪趣味というか、何というか」)
     同じ張り紙を見るユウ・シェルラトリア(七の星架・d19085)が肩をすくめてみせる程度に書かれた内容は色々とアレだったのだ。
    「もち肌を崇拝する組織って、なかなかに面白そうって思ってたっすけど、こんなモノ書いてる連中の仲間のふりをしてたって思うと今更ながらにアレっすね」
    「なんだきさ」
     口元を引きつらせて目をそらした菜々は誤魔化すように足を速め、自分以外の侵入者に気付き、誰何の声をあげようとした男の横をすり抜ける。
    「邪魔よ」
    「ひっ」
     結局の所、灼滅者達を見つけたこの男も何の役にも立たぬまま要に威圧されて無力化させられる。
    「一般人……? 失せろ。こんなことは二度とやるな」
    「は、はぃぃ」
     龍暁の言葉へしきりに頷いて外へ飛び出して言った男には、もはや目もくれず、一行はマリーゴールド・スクラロース(小学生ファイアブラッド・d04680)の残していったESPの糸を辿りつつひたすら奥へと進む。
    「マリーゴールドさん無事よね?」
     幾人かは見失わない程度の距離を保ちながら囮として掠われたマリーゴールドを追いかけていた、故に手遅れにはなっていないはず。
    「あ、やだ、さわらないで~!」
    「っ」
     扉の向こうから当人の叫び声がして灼滅者達の足は更に速くなり。
    「そこまでっす」
    「「なっ」」
     勢いよく解き放たれた扉の向こう、燭台に囲まれた儀式場にいた男女が驚きつつも一斉に振り返る。
    「クレハさん……」
    「無事かしら?」
    「あ、はい。菜々花出したらどっちから確かめるかって話になったので、何とか」
    「ナノ~」
     唯一の例外、マリーゴールドとナノナノの菜々花を除いて、いや驚いていないと言う点を除けば同じか。
    「っく、し、侵入者だ!」
     一拍おいて我に返った黒ローブの一人が叫ぶが、問題はない。
    「さっさと出て行った方が身のためっすよ」
    「きゃぁ」
    「ひえぇぇっ」
     菜々の放出した殺気に気圧されて黒いローブの構成員達は我先にと逃げ出したのだから。

    ●少女がひとり
    「これ以上このもち肌には指一本触れさせないっすよ」
     残る変態組織の人間はただ一人。
    「……そう」
     灼滅者達が踏み込んだ時から変わらず玉座に座り続けていた少女は、マリーゴールドの横に立つ菜々へ視線を向けながらゆっくり立ち上がった。だが、それだけ。
    「こんな主体性のないダークネスは初めてっす」
     思わず菜々は呟き。
    「心ここに在らずと言った感じかな」
     観察するユウもこれに倣う。
    「はぁ……」
     まるで此処にいることを心の何処かが拒絶しているかのようにどことなくぼんやりとし、それでいていっさいの隙を見つけさせないのは、端城・うさぎと言う少女が有したダークネスの力故。
    (「これ以上、被害者を出さない為にも。ここで終わりにしないとね?」)
     声に出せば仲間から同意が帰ってきたであろう意見を胸中で呟き、チャキリと咎人の大鎌を鳴らすとユウは口を開いた。
    「あのさ……」
     切り出した瞬間、うさぎの肩が微かに震え。
    「何かすんごい黒魔術的な事でもしてる集団かと思ったら……うん、まあこれもある意味凄いっちゃあ凄いけど」
     声は届くと言う事実へ微かに背も押されて、言葉を続けるよりも早く感想を漏らした者が居た。
    「別にこの集まりは悪くはねえがよ……拉致ったりすんのは良くねえ」
    「……っ」
     外部からの侵入者、灼滅者達の誰かが言葉を紡ぐたびに少女は反応を見せた。そもそも、ただぼぅっと話を聞くには灼滅者達の動きが危険すぎる。
    「あっ」
     少女を崇めていた黒ローブの男女はもう居らず、気がつけばうさぎを飲み込もうとするどす黒い殺気がすぐ側まで迫っていたのだ。配慮すべき一般人など居ない、闇堕ちしかけた少女と灼滅者達、そしてナノナノだけが居る空間。燭台に串刺しにされたロウソクの揺らめく明かりで照らされた儀式場は既に戦場になっていた。
    「とりあえず! 前途あるかわいこちゃんがあんなアブノーマル変態集団で過ごすのは非常に宜しくない! あいつらはただの変態なの、これ以上流されちゃ駄目!」
     まっすぐ少女を見据え、声をかけながら由宇は床を蹴る。
    「突然攫われて、見知らぬ人に肌を触られることって、かなり怖いし、イヤな事だと思うよ」
    「う」
     Laudate Dominumを握る手で穂先に伝わるように捻りを加えながら肉薄し、ユウの言葉にうさぎが反応を見せた瞬間に突き込んだ。
    「きゃあっ」
    「貴女はこのままもち肌故の不幸を振りまいていくつもりかしら?」
     悲鳴と共に玉座の脇に二歩退いた少女を視界に入れながら、クレハは少女の退路を断つべく死角へ回り込む。
    「くっ」
     仕掛けて何かに弾かれた斬撃はおまけに過ぎない。主目的は味方のガードと援護なのだから。
    「でも、端城先輩にも反省する箇所はあるんじゃないかしら」
    「えっ」
     攻撃を弾いたところで、更に。
    「自分の嫌なことは嫌と言わないと」
     思わぬ事を言われたかのようにホンの刹那の間だけ固まって隙を見せた少女へ、要は石化をもたらす呪いをかけた。

    ●垣間見せる、闇
    「っ」
    「そこに付け込む相手もいるんだし、相手のことを思い遣るなら真実を伝えることも優しさの一つだと思うわ」
     ローブから出た白い肌の一部が石に覆われ出す少女へ、要は尚も言葉をかける。
    「取り合えずやりたくないのならやらなきゃあいい、馬鹿馬鹿しい。自分を持て」
    「時にはNOと言える勇気も必要なのよ? ここ抜けるなら、今しかないって!」
     龍暁が、由宇が言葉を重ね。
    「うさぎさんが闇堕ちしかけた気持ち、すっごくわかりました、……でも、だからこそダークネスに負けないで、嫌なものは嫌って言いましょうよ!」
    「ナノ」
     更には新たな犠牲者に加わる恐れすらあったマリーゴールドと菜々花が真っ直ぐに少女を見つめる。
    「あ、あたしは……」
    「人の言うことばかり聞いて、端城さん自身は何がやりたいんすか?」
     かすれたように漏れた声の主に、菜々が問いかけて。
    「もち肌至高主義の地下帝国建設、もちろんこれは足がかりですけどっ」
     答えたうさぎの口調が明らかに以前とは変わっていた。
    「邪魔をしないで欲しいですっ、せっかくここまで来たってゆーのにっ!」
     追いつめられたことでダークネス側の人格が出てきたのだろう。何処か子供っぽい仕草でむくれながら闇は影を手繰った。
    「ぐっ」
    「あらら、せっかくそのもち肌拝めると思ったんですけどねっ」
     狙われたのは、マリーゴールド。庇ったのは、龍暁。
    「あまり女相手に無体なことはしたくないのでな……代わりにこっちは任せろ」
    「わぁ、紳士なんですねっ。けどそういうの嫌です、罪悪感とかでうさぎさんが頑張っちゃうじゃないですかー」
     お気楽っぽそうな口調とは裏腹に闇は何処かへ焦りを滲ませる。
    「それでは、こちらの番だ」
    「ふぇ?」
     声に釣られて振り向く少女が見たのは、異形化及び巨大化した靜の腕。
    「喰ろうて見よ」
    「ちょ、きゃぁぁぁっ」
     戦いが始まるまでのぼーっとした顔を何処かに放り投げ、顔を引きつらせた少女の悲鳴が儀式場に響き渡った。
    「うぐぅ、よくもやってくれましたねっ」
     それなりにダメージが大きかったのか、説得で弱っているのか。
    「もち肌を見せるのですっ」
     鬼神変で潰されかけた少女の顔は険しく、手繰る影は凶暴さを増す、ダメな方向へ。
    「ダークネスの思うままにさせたら、悲しむ人はこれからも……増え続ける」
     まさに、ユウが説得で口にした文句の体現だろうか。いや、若干方向性が違うか。
    「う、うさぎさん、そんな変態ダークネスに負けちゃダメ!」
     マリーゴールドの悲痛な声が戦場へ響き。
    「ふぅ~む、服破り目的攻撃とか非常に良い趣味をしておる……気が合いそう!」
     例え、その目的に沿った一撃が自分を庇った仲間に当たったとしても。
    「ならばこちらもそれに応えてあげましょーうっ!」
     ブツブツ呟いていた由宇は、鼻息も荒く影を刃の形に変える。
    「では、私も」
     これに合わせる形で、実際服を破られたクレハが動きだし。
    「人の服破るって事は、自分も破られる覚悟あるのよね……? さあ脱げ、一気に脱げ!!」
    「ちょっ、え、あ、きゃぁぁぁぁぁっ」
     攻守が反転した。切り裂かれた黒いローブに大きなスリットが出来、ロウソクの明かりに白い肌が浮かび上がる。
    「……恥ずかしいって言うなら、もうこんな事しちゃ駄目!!」
     ゆうのいってることはもっともなのにびみょうなしらじらしさをかんじるのはきのせいだろうか。
    「うきゃぁぁぁ、あ、こんな所まで……ちょっ」
    「その肌、もっと見させてもらうっすよ」
    「端城さんもこれ以上、犠牲者を……出したくは、ないよね?」
     黒いローブごと少女を切り裂いた菜々の言も相まって、むしろ次に犠牲になるのは他者ではなくうさぎ自身になりそうな「服破り合戦」と化した戦場で、ユウに見つめられる少女の足が凍り付き始める。寒そうだった、肌の露出度が増している分、輪をかけて。
    「負けちゃダメだから、わたしも――」
     かといって、マリーゴールドが振るう炎を宿したウロボロスブレイドも氷を溶かす為のものではなく。
    「ナノナノ~」
    「やぁぁぁぁっ」
     味方を癒す菜々花の鳴き声を聞きながら炎刃と化す殲術道具を叩き付ける、変態ダークネスからうさぎを解放する為に。
    「あんたもこんな犯罪まがいの場所にいるのも本懐じゃあないだろう」
     少女の為というのは龍暁も同様で、寄生体により殲術道具が飲み込まれ身体が変貌する中も、龍暁はうさぎから視線を逸らさず距離を詰める。
    「……出れねえのなら……その場所をぶっ潰す。それだけだ」
    「うぐっ、あた……しは」
     説得で弱った所に降り注ぐサイキックの数々。地面に跳ねた少女は腹部を押さえながらヨロヨロと身を起こすと。
    「無理をする必要はない、私達は君を助けに来た」
    「え」
    「私達は――」
     靜の声に立ちつくし、続く説明に膝をつく。少女の中の闇はもう軽口を叩く余力もないのか。
    「ぐっ」
     呻きつつそれでもまだ動き出そうとした少女へ向かって由宇はTonitrusを振り上げる。
    「とりあえずさ、これ終わったら一緒に服でも買いに行こ? 普通にお洒落して楽しむ為の、ね!」
     拳の連打か内からの爆発を生じさせる殴打かどちらが決定打になったのかはわからない。ただ、少女の意識は一旦そこで刈り取られ、戦いは終わったのだった。

    ●目覚め
    「ご、ごめんなさい」
     意識を取り戻した少女は、自分の格好に気づくなり真っ赤な顔をすると玉座の裏に飛び込んだ。服破り競争の結果である。
    「そう言えば、ただでさえ丈が短かったのにあちこち切り裂かれてたものね」
    「あぅぅ……すみません」
     ユウの言葉に反応し、真っ赤な顔をして玉座からちょこんと顔を出した少女を誰が責められよう。そも、灼滅者達には異性も含まれているのだ。
    (「頼まれたら嫌と言えないのとは別と言えば別よね。自分から肌を晒す気でも無い限り」)
     周囲に巻き込まれた一般人が居ないことを確認し終えた要は、未だ顔しか出せない少女を見つめたまま頷く。意識を取り戻すなり短い距離とはいえ走れたのだから心配も不要だろう。
    「じゃあ、後二つ三つやること終えて解散っすね。一つめは変態組織の解体っすけど」
    「あれだけ脅したんだ、もう戻って来ねえだろ」
     幾本か指を立てて口を開く菜々に龍暁が応じ。
    「そ、そう思うけど、戻ってきたら……今度は、き、きちんと言ってみる」
     つっかえつっかえになりつつも、玉座から顔を出した少女が意思を表明することで、一つめの懸案は解決を見た。
    「二つめは」
    「えっと、私達もち肌仲間ですよね、一緒にいたら色々助け合えるんじゃないかって思います」
     菜々が指を一つ折りながら言えば、ひょいっと挙手したマリーゴールドが学園の各種説明をしながら玉座に向かって歩き出す。
    「ナノナノ♪」
    「菜々花ももち肌仲間ですって、良かったら武蔵坂学園にいらっしゃいませんか?」
    「あ、えぇと……」
     差し伸べた手は確約の言葉こそ返ってこなかったものの、伸ばされた真っ白な手によって握られて。
    「じゃ、最後っすね。そう、端城さんのもち肌触らせてほしいっすー」
    「へ、あ、っきゃぁぁぁぁ」
     直後、儀式場に少女の悲鳴が響き渡る。
    「あと、マリーさんの肌も触らせてっすー」
    「え、ちょっ」
     もっとも危険なのは敵ではなく味方だったのかも知れない。
    「しかしあんな組織ができるほどのもち肌か……ふむ」
     菜々に追いかけ回される二人を見て龍暁は徐に歩き出し。
    「やっぱり触りたくなるのかしらね」
     四人を眺めて苦笑しつつ、クレハは「程ほどに」と釘を刺す。
    「助けに来たんですよね? 今こそ助けるべき時ですよ靜さん!」
    「む、何か違うような気もするのだが」
     想定外の救援要請に靜が腑に落ちなさげながらも動き出す中、要は呟く。
    「理解し難かったのは悪魔の思考だけではなかったかもしれないわ」
     と。

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年11月14日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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