小さき豪勇の炎

    作者:御剣鋼

    ●クロキバ、再び
     イフリート源泉防衛戦にあたり、共闘を持ちかけてきたイフリート『クロキバ』の来訪。
     その知らせは直ぐに広がり、男を出迎えた武蔵坂学園は、落ち着いて彼の言葉を待った。
    「シロノ王セイメイノアラタナ企ミガ確認サレタ。死体ヲアンデッドニスル儀式ノヨウダ」
     ノーライフキング勢力に、看過できない動きがあったのだろう。
     けれど、何故そのような貴重な情報を、それも武蔵坂学園に持ってきたのだろうか……。
     その疑問はクロキバが僅かに曇らせた表情と、次に発した言葉から察することが出来た。
    「申シ訳ナイノダガ、コレヲ知ッタ若イイフリートガ、事件ノ起コル場所ニ向カッテシマッテイル」
     ――若いイフリート。
     紡いだ言葉から醸し出された憂いは、年長者が若者を心配する気遣いだろうか。
     それとも。息巻く若者達を止められなかった、不始末からの歯がゆさなのだろうか。
     想像できる余地はたくさんある。けれど、はっきり分かったことが1つだけあった。
     ……それは。
    「彼ラガ暴レレバ、周囲ニ被害ガ出テシマウノデ、済マナイガ彼ラヲ止メルカ、彼ラガ来ル前ニ、セイメイノ企ミヲ砕イテクレナイダロウカ」
     若いといえど、ダークネスであるイフリートの暴走。
     最悪、セイメイの儀式よりも、犠牲者が出てしまう恐れがあるということだ。
    「ヨロシク頼ム」
     後は、武蔵坂に任せる。
     そう言付けるように、クロキバは灼滅者達に依頼を託したのだった。
     
    ●豪勇の炎と蘇る死者
    「お集り頂きまして、誠にありがとうございます」
     集まった灼滅者達に深々と会釈して出迎えた里中・清政(中学生エクスブレイン・dn0122)は、早々に説明を始める。
     クロキバからもたらされた情報について調べたところ、とある山村近くの火葬場で、死体がアンデッド化する事件が起こる事がわかったという。
    「アンデッド化されるのは火葬される直前の、元警官の男性の死体でございます」
     周囲には、葬儀の参列者や身内知人もいるはずだ。
     新たに生まれたアンデッドが暴れた場合、大きな悲劇になってしまうのは間違いはない。
    「そうなりませんよう、速やかにアンデッドを倒して事件を解決して欲しいのです」
     一旦、言葉を結んだ執事エクスブレインは、バインダーから見取り図を取り出した。
    「この火葬場にある火葬室は、1部屋だけでございます」
     出入口は左右に1つずつ。
     部屋の中央にはアンデッド化する40代の元警官の死体と近しい親族が20人程。
     それから、部屋の外には故人の親しい同僚達が10人集まっているという。
    「責任感が強い方だったのでしょう。病を隠し続け、勤務中に亡くなったとのことです」
     武器は拳銃と警棒。
     通常の眷属より能力は高めだけど、ダークネスほどではない。
     敵は1体。けれど、執事エクスブレインと灼滅者達の表情は、曇ったままだ。
    「ご存知の通りですが、ここで1つ問題がございます」
     それは、クロキバの話にもあった通りのこと。
     既に、若手のイフリートの1体が、この事件を嗅ぎ付けて近くまで来ているらしい。
    「幸い、わたくし達のような予知はございません。周囲を徘徊している状態でしょうね」
     けれど、事件が発生すれば、まっすぐその場に駆けつけて来るとのこと。
     もしそうなった場合、一般人の被害がどれだけ出るか、皆目見当がつかない。
    「人が多い所で暴れられましたら、眷属と戦う以上に被害が出る恐れがございます」
     場合によっては、より多くの死人が出てしまうかもしれないのだ。
     これを防ぐためには、イフリートを探し出して、説得して引き返してもらうか。
     あるいは、被害を出さないように協力して、事件を解決して貰うかが必要になるだろう。
    「クロキバが引き止めてもダメだったくらいだし、説得は簡単に行かないかもね」
    「アンデッドは1体だ。何とか足止めをしている間に、別班が討伐する手もあるぜ」
     万が一、接触に失敗して戦闘になった場合、予想外の被害が出てもおかしくはない。
     そのことも考慮して、接触する際は十分注意した方が良いだろう。
    「電光石火の如く、先にアンデッドを倒して撤退するのも、手段の1つかと存じます」
     そう付け加えた執事エクスブレインは、少しだけ神妙に眉を寄せた。
    「この依頼に関わるイフリートですが、少し毛色が違う感じがいたしますから」
    「それは、どういうこと?」
     そう聞いても執事エクスブレインは「執事の勘でございます」と首を横に振るだけ。
     小さき豪勇の炎との会合が、吉と出るか凶になるかは、誰にも分からない――。


    参加者
    千布里・采(夜藍空・d00110)
    仙道・司(オウルバロン・d00813)
    芹澤・朱祢(白狐・d01004)
    小圷・くるみ(星型の賽・d01697)
    時渡・竜雅(ドラゴンブレス・d01753)
    普・通(正義を探求する凡人・d02987)
    オリキア・アルムウェン(ジンたんラブ・d12809)
    船勝宮・亜綾(天然おとぼけミサイル娘・d19718)

    ■リプレイ


     薄暗い敷地に故人を偲ぶよう、明かりが灯る。
     幼い子供をあやしながら火葬室に入る女性の傍らを、静かに影が通り過ぎた。
    「火葬室に向かうあたりが怪しいですぅ」
     人々に怪しまれないよう、ESPで姿を隠した船勝宮・亜綾(天然おとぼけミサイル娘・d19718)が目配せで一方を指し示す。
     出入口から同心円上に捜索していた千布里・采(夜藍空・d00110)も、その先を見やった。
    「確かに、明かりを目印に来そうやね」
     炎や武器、物音に注意しながら采は亜綾と共に手分けしてイフリートを探す。
     必ず見つけよう。傍らの名も無き霊犬にも視線を送った、その時だった。
     ぼっと灯った不自然な灯火が、火葬場の方へ向かってくるように見えて……。
     イフリートに間違いないだろう。
    「上手く共闘できるといいですねぇ」
     外套を解除すると同時に飛び出して来たのは、炎を纏った子供だった。
     いや違う。上半身は子供だが、下半身は屈強な獣のイフリートそのもので。
     そして、何よりも目を惹くのは、華やかに広がる緋色の髪だった……。
    『?!』
     2人の存在に気付いたイフリートは速度を緩め、怪訝そうに眉を寄せていて。
     亜綾が別班のオリキア・アルムウェン(ジンたんラブ・d12809)に連絡を入れる。
     同時に。采ができるだけ簡易に言葉を発した。
    「クロキバはんから聞いてます、武蔵坂学園の者です」


    「緊急地震速報発令です、指示に従い避難を」
     プラチナチケットを使用した仙道・司(オウルバロン・d00813)の声に、最後の別れを惜しんでいた人々に戸惑いが広がっていく。
     紺のスーツ姿の司が落ち着いた所作で避難を促すと、故人の子供に何かあってはという思いからか、親子連れほど素直に従ってくれた。
    「お子さんやお爺様、お婆様のお手を取って避難するようお願いします」
     ラブフェロモンを使用した普・通(正義を探求する凡人・d02987)にも、人々の視線が集まる。
     外にいた同僚も故人の身内を見やると職業柄故なのか、率先して老人らを背負ってくれた。
     手が足りなければ芹澤・朱祢(白狐・d01004)に協力を要請する手筈も取っていたけど、避難は順調に運びそうだ。
    「落ち着いて二列でお願いします」
     司は通と手分けして2つの出口に分かれて誘導しつつ、胸の内で遺族に謝罪する。
     若さで暴走するのは目をつぶっても無関係の人々に危害が加わるのは許されない。
     それでも、だ。
    「誰もが幸せになる結末にしたい……」
     司は我が身を省みながらも、外の人々にも誘導に従うように声を掛けていく。
     通はアンデッドの動向を注視するように、遺体が安置された部屋に視線を送った。

    「順調にいってますね」
     入念な準備と故人の同僚らの手を借りたことが迅速な避難に繋がったのだろう。
     騒ぎに乗じて火葬室に入ったのは、戦闘班の小圷・くるみ(星型の賽・d01697)達4人。
     一見、飄々と軽めな朱祢が遅れている人がいないか見回せば、残っているのは遺体だけ。
    (「この人達の前で二度死なせるなんて出来ない……出来るだけ目に入らないようにしないと……」)
     入口から僅かに見える遺族の背からオリキアは視線を外し、胸元の携帯を握りしめて。
     そして、別班の亜綾から「接触」の連絡があったことを告げると、唇をきゅっと結んだ。
    「まあ、最優先は一般人の安全だ、敵の射線を塞ぎながら惹きつけていくか」
     時渡・竜雅(ドラゴンブレス・d01753)は赤色の双眸を細め、遺体を見据える。
     4人の服装も避難班と同じで斎場に居ても不自然でない、紺のスーツで統一されていて。
     がらんとした火葬室の静寂は静かに破られる。ゆっくりと不自然に起き上がったソレに。
    「身を挺してでも庇い抜くわ」
     くるみは人々を護るように前に立ち、惹きつけるようにシールドを構える。
     傍らに、ビハインドのリデルを従えたオリキアも、音を遮断する帳を下ろした。


    『オレハ戦士、戦イニキタ!』
     采が先に名乗り相手の名前も問おうとすると、イフリートは敵意を剥き出す。
     クロキバの名に不快を示した素振りから察すると、止めに来たと警戒されたのだろう。
     一瞬即発。采は素早く首を横に振り「止めに来たのではない」と、はっきり告げた。
    「仲間を想っての行動やろ? だから止めません」
     その気持ちは分かると続ける采に、イフリートは不思議そうに首を傾げている。
     亜綾も他の人を巻き込んだ戦いは、悲しみや怒りを広げるだけだと添えた。
    「私達もそーいう人を守るために戦ってるんです、だから守るための戦いを一緒にしましょ」
     2人の説得にイフリートは「コトバ、ムズカシイ」と眉を寄せ、困ったように呻いて。
     このイフリートにとっての仲間はイフリート。他を巻き込むことについては乏しいようだ。
    『ヨクワカラナイ、ケド、ジャマシナイ、ホント?』
    「はい、しませんよぅ」
    「クロキバはんから叱られるかもやけど、一緒に戦いません? トドメはお任せします」
    『シカラレル、コワクナイ! テツダイモ、イラナイ!』
     クロキバの名に再び機嫌を損ねた素振りは反抗期の子供のよう。
     少し待って欲しいという願いも「マツノキライ」と更に損ねてしまうだけで。
     交渉決裂か。そう思った瞬間、イフリートは苛立ちながらも急かすように叫んだ。
    『アンナイシロ。ジャマヲシタラ、オマエタチモ……コロス!」
     決して邪魔はしない、止めは任せる。
     それは簡潔で、イフリートも合意できるコトバだった、けれど。

     ――この依頼に関わるイフリートですが、少し毛色が違う感じがいたします。

     不意に。エクスブレインの言葉が2人の脳裏に鮮明に過る。
     口先ではなく、本当にアンデッドと灼滅者を纏めて倒せる実力者だった場合だ。
    「この子を全力で戦わすのは、不味そうやね」
     采は僅かな不安を抱きながらも、息巻くイフリートを先導する。
     竜雅に「説得成功」の連絡をいれた亜綾も急いで火葬室へ向かった、結果。
     一行と遭遇したのは戦闘班ではなく、避難中の人々と誘導班の通と司だった。


     遠目でも鮮明に映ったイフリートに人々を別室に誘導していた司と通は息を飲む。
     他班と明確な連絡ルールを定めてなかった誘導班には、突然の出来事に等しくて。
     それも、予定よりイフリートが現れるのが早かったのだから、尚更のことだった。
    『オマエタチガ、セイメイカ!』
    「いえ、貴方の仲間の仇はあちらです」
     火葬室へ続く扉なき別室へ人々を誘導していた司は身を盾にしながら火葬室を指差す。
     そして、ここにいる人々は大切な仲間、どうか怪我をさせないで欲しいと懇願した。
    「この人たちは僕の仲間でセイメイとは関係ない」
    『ワカッタ』
     通も人々を庇いながら火葬室を示すと、イフリートは意外に素直に踵を返した。
     あとは「情報確認のため」と告げて火葬室に戻り、戦闘に加勢するだけだ……。
    「万が一のことを考えたら、施設外に誘導した方がいいんじゃないかな?」
     避難先の選択も、避難経路も、決して間違っていない。
     けれど、通達は一目で分かった。あのイフリートは例外だと言うことが。
    「情報を確認して参りますので、しばらくこちらで――?」
     一先ず作戦通りに進めようと通が人々に告げた、その時だった。
     人々はほぼ無意識に、それも敷地全体から遠ざかるように出て行こうとして?!
    「恐らく、誰かが殺界形成を使ったのかと……」
     困惑の色を浮かべたのは、司も同じだった。

     ――少しだけ時間は遡る。
    「説得成功だ」
     己の携帯が鳴った瞬間、体力維持を優先し防衛に当たっていた竜雅に笑みが浮かぶ。
     自分の携帯が鳴るタイミングは1つ、説得成功に他ならない。
    「アンデッドにトドメをさしちゃダメだよー」
     光輪で味方の守護を高めることに専念していたオリキアにも笑みが広がっていて。
     それでも攻守の手は緩めず、鋭い裁きの光条をアンデッドに解き放つ。
     オリキアの前で壁となっていたリデルも、光に合わせて電撃を撃ち放った。
    「いつでも敵の強化を解除出来るように備えるわ」
     くるみも首に提げた携帯に着信音――失敗の知らせがなかったことに安堵を洩らす。
     後は共闘を前提に、アンデッドを火葬室内に留めることに集中するだけ!
     くるみの不死鳥の癒しが味方を包み、足止めに奮闘していた朱祢も不敵な笑みを見せた。
    「『仲間』には、全力で手を貸すぞ」
     先程までの軟派さは控えたノリで朱祢は愛用の大振りナイフを閃かせて。
     瞬時に距離を狭めると死角からの斬撃で腱を削ぎ、足取りを鈍らせる。
     竜雅も態勢を立て直そうと斬艦刀を頭上に掲げ、金髪を炎の如く逆立てたその時だった。
     無機質な火葬室に緋色の炎が飛び込んできたのはッ!


    『ミツケタゾ!!』
     瞳を爛々と輝かせた半人半獣のイフリートの気迫が明確な殺意に変わる。
     攻勢に転じた戦闘班は幼さに似合わぬ覇気に驚きながらも、彼らを迎え入れた。
    「仲間の為に戦う姿は勇ましいものやね」
     采はイフリートに積極的に声を掛けながら、彼の動きを支援せんと影を伸ばす。
     名も無き相棒と亜綾の霊犬も、援護に徹しようと前線へと駆け出していく。
    「誘導班がまだ戻ってないか」
     誘導班とは明確な連絡ルールを決めていなかったため、動向が掴めていない。
     イフリートが現れた今、安全が確保されたと信じて竜雅は殺気を解き放った。
    『オレハ戦士、戦ウコト、ダレニモ負ケナイ!』
     豪勇さを褒める言葉に嘘はない。
     けれど、意思疎通を図ろうとする采や共闘を持ち掛ける竜雅をイフリートは見てない。
     戦場の張り詰めた空気に高揚したイフリートが見ているのは、アンデッドだけだ。
    「なら、記憶に残るくらい超弩級の炎を見せつけてやるぜ!」
     竜雅は鉄塊の如き刀を振り回すと地面に引き擦るように駆け、一気に斬り上げる。
     宿敵と馴れ合うことには抵抗があるけど、仲間を想う気持ちと実力は素直に認める。
     だからこそ竜雅は攻撃の手を緩めず、全力を尽くさんと炎を叩きつけた。
    (「このままだと建物が壊されちゃう!」)
     メディックのオリキアは不安な眼差しで前線を見つめていて。
     アンデッドの銃撃は必中に近いけど、数も威力も負ける相手ではない。
     それよりも格上のイフリートを煽ってしまっている状況の方が恐ろしかった。
    「ボク達は危害を加えるつもりはないの、あなたたちと同じものに対して憤ってる」
     オリキアが敵意がないことを強く訴えた時、誘導班が姿を現す。
    「すみません、遅くなりました」
     殺界形成で散らばった人々の対応で合流が遅れた司は非物質化させた剣を振う。
     霊的守護を破壊された敵は体を折り曲げ、疲労を濃くしたくるみに通が癒しを施した。
    「セイメイに一矢報いてやりましょ」
     イフリートも己が一部だと思っているくるみにとっては親近感を抱く存在。
     荒々しく影を織り交ぜながらくるみは目的は同じと告げ、オリキアが敵意はないと訴える。
     簡潔に好意を示すくるみとオリキアにイフリートは初めて「オウ」と返して――。
     アンデッドの銃口がイフリートを狙う。強引に体をいれた朱祢の肩に被弾した。
    『ドウシテ』
    「お前の敵はそいつ。んで、俺らの敵もそいつだ」
     朱祢は指差しで関係性を説明しようとするけれど、イフリートは困惑するだけ。
    「烈光さんもゴーですぅ」
     亜綾と回復主体で動くはずだった烈光さんの背中が「何だとっ!」と震える。
     同時に。朱祢も補佐せんと距離を狭め、出過ぎない程度にナイフに炎を纏わせた。
    「決めるのはお前だ。外したら承知しねぇ!」
     無意識のうちに共闘を楽しんでいた竜雅も張り合うように全力の炎を重ねて。
     苦痛で呻くアンデッドに炎が躍動し、亜綾は烈光さんを豪快にぶん投げた。
    『ゼンブモヤセバ、ハズサナイ!』
     鼻をフンと鳴らしたイフリートは重厚な剣斧を軽々と旋回させ、跳躍する。
     竜雅や朱祢の比ではない、凄まじい炎と熱風が剣斧を覆っていく――!
    「ここはボク達の終の聖域、出来るだけ壊さないで下さい!」
     イフリートの剣斧に宿った灼熱の炎は、尋常でない威力なのは明らかで!
     司は願いと共に癒しに変換した聖なる言語を届け、オリキアも強く懇願する。
     けれど、その声はイフリートに届かず、勢いよく剣斧を振り下ろし――。
    「敵以外は傷つけないのがカッコイイでっ」
     采が張り上げた声にイフリートはビクッと動きを止めた、刹那。
     凄まじい衝撃と熱風が灼滅者達の視界を覆った。


    「遺体、余り残らなかったね」
    「擬死化粧で元の状態に近付けるのも難しいかな」
     炎煙が消え、遺体の側に駆けつけた通の言葉にくるみは肩を落とす。
     寸での所で加減してくれたものの、遺体と火葬室を半壊させるには十分だった。
    「気高き魂よ、安らかに」
     司は故人に尊敬の念をこめ、この場にない人々の分も鎮魂の祈りを捧げる。
     遺体が残っても残らなくても連絡することになっていたけど、戻って来る人はなく。
     選択は後から覆せない。泣いても、笑っても……それは、彼の死と一緒だ。
    「烈光さん、大丈夫ですぅ?」
     少し離れた所で俯せに転がっていた烈光さんに、そっと瞳を細める亜綾。
     緊張が解けて眠気が襲ったのだろう、そしてそれは亜綾だけではなかった。
    「おつかれさん、えーと……」
     先程までの不敵なノリは薄れ、緩い笑みを浮かべた朱祢は苦笑を洩らす。
     覇気が消えたイフリートは、あどけない子供のように微睡んだ目を擦っていて。
    「采です。名前、教えてくれます?」
     今なら、話を聞いてくれるかもしれない。
     采が改めて名前を訪ね、霊犬も仲良くなりたいと足元で尻尾を振ってみせて。
     イフリートも眠そうに霊犬をなでながら、聞きたいことがあると目を瞬いた。
    『スレイヤーモ、セイメイ、キライナノカ?』
     興味津々に灼滅者達を見回す、イフリート。
     くるみが敵対意思がないことを告げると、オリキアも強く頷く。
    「私もあいつが許せないわ」
    「協力しよう。いや、協力させて欲しい」
     朱祢も「さっきも言ったろ?」と、ゆるりと笑みを返す。
    「同じ相手に向き合ったんだから、お前と俺らとは仲間……で、よくね?」
     敵の敵は味方だと続けた朱祢にイフリートは「コトバ、ムズカシイ」と無邪気に笑って。
    『オレ、ヒイロカミ!』
     イフリート――ヒイロカミは、すっと背を伸ばして。
    『敵イナイ。ダカラ、カエル』
     軽い足取りで外に出たヒイロカミは、俊敏で鬣が美しい獣に姿を変える。
     緋色の鬣を靡かせ、炎の縞が煌々と漆黒の四肢に浮かんだ獣は風となった。

    「ヒイロカミさん、でいいのかな?」
     緋色――髪。神、守?
     小学3年生のくるみより年下ではなさそうだけど。
     武蔵坂学園が敵でないということを分かってくれたのは、間違いないだろう。
    「人型になれはるんは、えらい強い証拠やね」
     仲良くなれたらいいと采は想う。
     けれど、小さき豪勇に秘められた炎は頼もしくも、とても危ういように見えた。

    作者:御剣鋼 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年11月29日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 25/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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