オレサマ オカシ マルカジリ

    作者:相原あきと

    「シロノ王セイメイノアラタナ企ミガ確認サレタ。死体ヲアンデッドニスル儀式ノヨウダ」
     学園にその情報を持ってきたのは、かのイフリート・クロキバであった。なぜクロキバがその情報を、それも武蔵坂学園へと持ってきたのか……。
    「申シ訳ナイノダガ、コレヲ知ッタ若イイフリートガ、事件ノ起コル場所ニ向カッテシマッテイル」
     若いイフリート、そう語るクロキバからは年長者が若者たちを心配する、そういう気遣いが感じられた。
    「彼ラガ暴レレバ、周囲ニ被害ガ出テシマウノデ、済マナイガ彼ラヲ止メルカ、彼ラガ来ル前ニ、セイメイノ企ミヲ砕イテクレナイダロウカ」
     クロキバは武蔵坂学園へ断りづらい依頼を簡潔に説明すると。
    「ヨロシク頼ム」
     そう言って、去って行ったのだった。

    「みんな、イフリートのクロキバが、またやっかいな依頼を持ってきたの……」
     集まった灼滅者達に鈴懸・珠希(中学生エクスブレイン・dn0064)が説明を開始する。
     クロキバから聞いた情報について調べたところ、町外れにある火葬場で死体がアンデッド化する事件が起こる事がわかったという。
     それは火葬される前の運ばれてきた死体だ、周囲に葬儀の参列者もいる、もしアンデッドが襲いかかれば悲劇の一言では済まないだろう。
    「その火葬場にはいくつか火葬室があるけど、まだ焼かれる前の死体があるのは1部屋だけ。部屋の中にはアンデッド化する子供の死体と、近しい親族が約10人、それから今から部屋に入ろうとしている親戚たちが20人ほど廊下に並んでいるわ」
     その火葬場には、その部屋以外にも参列者や関係者が200人ほどいる。アンデッドを部屋内にとどめられれば被害は最小限に押さえられるだろうが……。
    「アンデッド化するのは男の子の死体なんだけど、戦闘になると男の子の影がみんなに襲いかかってくるわ」
     その影はまるでデフォルメされた車のような形状で灼滅者へと突進してくるらしい。
    「もしかしたら、生きていた頃の男の子が好きだったのかも……」
     珠希が少しだけ声のトーンを沈ませつぶやいた。
     ちなみにアンデッドの攻撃は影業に似たサイキックに分類されるらしい。防御も小細工も無く、ただただ強く攻撃してくる。
    「――本当なら、それで説明は終わりなんだけど……クロキバから聞かされちゃってるしね……」
     珠希が言うには、血気盛んな若手イフリートが、セイメイの悪事のにおいを嗅ぎ付けて、この火葬場のすぐ近くまで来ているらしいのだ。
     火葬場で事件が発生すれば、即座に嗅ぎ付けその場へ突撃するだろう。
    「もしそうなったら最悪よ。一般人の被害がどれだけ出るか……」
     もちろん、付近を徘徊しているイフリートとの接触に失敗し、戦いにでもなったら、それも同じく予想外の被害が出てもおかしくない。十分その点も注意した方が良い。
    「付近にいるイフリートを見つけたら、説得なりして引き返して貰うか、被害を出さないよう協力して事件を解決してもらうか、もしくは足止めしている間に事件を解決しちゃうのも手よ」
     人差し指を立てて言う珠希。
    「相変わらずイフリートの依頼には釈然としない部分もあるけど、セイメイの企みを阻止する機会を逃すわけにもいかないわ。みんな、気を付けて行ってきて!」


    参加者
    仰木・瞭(朔夜の月影・d00999)
    二夕月・海月(くらげ娘・d01805)
    有栖川・へる(歪みの国のアリス・d02923)
    武神・勇也(ストームヴァンガード・d04222)
    千凪・志命(隻眼の星を取り戻す者・d09306)
    園観・遥香(寝起きのネコ・d14061)
    ジャック・サリエル(死神神父・d14916)
    天堂・櫻子(桜大刀自・d20094)

    ■リプレイ


    「ヒャッハーハハハ! 迷エル子羊ノ魂ヲ救ワネバナリマセーン! そレニ今回はヤンチャなイフリートさんモイテ大変ソウデスネ」
     住宅街の通りに響き渡る笑い声はジャック・サリエル(死神神父・d14916)。
     今、ジャックたち8人は予測された町の中心地から町外れへと向かって歩いていた。
    「そのヤンチャなイフリートの方はボクたちに任せて! 最低でも火葬場の退避が終わるまでは足止めしておくよ」
     有栖川・へる(歪みの国のアリス・d02923)がえへんと胸をはる。
    「ああ、こっちはこっちで何とかするつもりだ。それにしても……白の王はまた面倒なことをしてくれる」
     年齢のわりにいくつもの修羅場でも潜ってきたかのような落ち着きようで言うのは天堂・櫻子(桜大刀自・d20094)だ。
    「死者のアンデッド化か」
     千凪・志命(隻眼の星を取り戻す者・d09306)が相づちをうつ。
     白の王セイメイの企みにより、アンデッドとして蘇る死体たち。このような非道を、放っておくわけにはいかない。
    「死者は安らかに眠らせるべきです。再びの死なんて苦痛でしかないでしょう」
     仰木・瞭(朔夜の月影・d00999)のつぶやきは、温厚そうな雰囲気とは少し違う真剣な声音だった。
     僅かに沈黙が8人の間を支配する。
    「そろそろ携帯の番号を交換しておかないか?」
     その沈黙をわざと破るように二夕月・海月(くらげ娘・d01805)が提案すると、携帯を持っていなかった志命以外、互いに番号の交換を開始する。
     それが終わると火葬場に向かう5人と、イフリートを足止めに向かう3人に分かれる。
    「こっちも全力を尽くすつもりだ。そっちも大変だと思うが、よろしくな」
     足止めに向かう3人へ海月が言う。
    「ゆっくりお茶会してくるよ♪」
     へるの軽口に皆が笑う。
    「そういや、エクスブレインの話を聞いた限りでは、妙に微笑ましいところのある奴のようだが、後でどんな奴だったか教えてくれよ?」
     笑いながら武神・勇也(ストームヴァンガード・d04222)が言えば、イフリートの元へ向かう3人は手を振って「わかった」と約束し、別の道を曲がっていったのだった。
    「では、火葬場に向かう間に、作戦の最終確認をしておきましょう」
     ほのぼのした空気を引き締めるように園観・遥香(寝起きのネコ・d14061)が言うと、残った5人の間に灼滅者としての緊張した空気が張りつめ出す。
     スピーディにアンデッドを灼滅する、それが皆の総意であり。
    「手早く済ませなければいけませんね。誰よりも……ご家族の為に」
     こくり。
     瞭の言葉に皆がうなずき、5人は火葬場へと足早に向かって行ったのだった。


    「年上なので驕るのは良いのだが……」
     そんな呟きを漏らしつつ、志命は両手に持った買い物袋に視線を落とす。
     5人と分かれた後、意外とケーキの量が少ないことに気づいてお店に駆け込んだのだが、驕ると言った瞬間に遠慮無く買わされたのだ。
     正直、ホールごと数個も買う必要があったのだろうか……。
    「ボクは飽きさせないことを目的にいろんなプチケーキを用意したからね、もし量が必要になったらボクのだけじゃ足りないだろう?」
     へるの言葉に志命は頷くしかない。
    「作ったのか?」
     そう櫻子がへるに聞けば、へるは「もちろんボクのお手製さ」と自信満々。
     へるの持つ箱を開けてみれば確かに色とりどりの美味しそうなプチケーキがいっぱいだった。
    「器用なものだね」
    「死人を生き返らせること以外、大体は器用にこなせちゃうからね♪」
     櫻子の言葉にへるはとてもうれしそうだ。
     志命はというと、ちゃっかりプチケーキの中に抹茶味(だと思う)な緑のケーキに目星をつけ、ちょっと楽しみが増えていたり……。
     やがて車通りもなくなり、閑静な住宅街といった雰囲気に。
     そして……。
    「いた」
     視線の先、高級そうなケーキ屋の前で炎の獣がウロウロ円を描くように歩き回っていた。
     一般人がいないのは助かるが、巨大な炎獣が葛藤しているような様子は、どこかユーモラスだ。
    「アリスはプチケーキを作ったのか、本当、美味しそうだな」
     少し大きな声で演技を開始する櫻子。
     同時にへると志命が殺界形成で一般人がこれ以上ここに近づかないよう対策をうつ。
    「グルルルルル……」
     低いうなり声で灼滅者たちに気づくイフリート。
     3人はお互い目で合図をすると、楽しいお茶会になるようコクリと頷き合い、イフリートとの接触を開始したのだった。


    「煙が……火事です、みなさん逃げて下さい!」
     斎場の職員のように黒スーツを着込んだ瞭が叫ぶ。
     火葬場内にはプラチナチケットを使った海月のおかげで悠々と入り込め、影纏いを駆使したジャックが周囲で発煙筒を焚き、さらに目的の火葬室に入った瞭たちも室内で発煙筒を焚いたのだ。
     同時に発動させた遥香のパニックテレパスで混乱に陥る一般人たちだが、即座に勇也の指示が飛ぶ。
    「退避経路は把握している者は」
     それは王者の風、数人の参列者が手を挙げる。
    「手を挙げた者に付いて言って避難しろ……いけ!」
     灼滅者の取った行動はこれ以上無いくらいに的確で完璧だった。
     まるで避難訓練を見ているように一般人たちが次々に火葬室から逃げていく。
     そして最後の1人が部屋を出たのを待っていたかのように。
     むくり。
     小さな少年の死体が、ゆっくりとその身を起こす。
     一斉にカードを解放し臨戦態勢を取る灼滅者たち。ここまで綺麗に避難が成功した今、あとは遠慮無く戦うのみだった。
    「クルマ……クルマ……クルマ――!」
     虚ろな眼窩で虚空を見上げていた少年アンデッドが、突如奇声を上げる。
     その瞬間、少年の影から何かが飛び出し、それはみるみる大きなデフォルメされた自動車となり灼滅者たちへと突っ込んでくる。
    「私が」
     影の車に向かってゆっくり歩を進めたのは遥香だった。
     ドッ!
     まるで交通事故のような鈍い音が火葬室に響きわたる。
     だが、瑠璃色のオーラを纏った遥香は僅かに眉間に皺を寄せただけで、微動だにしない。
     遥香にとって、今回の一連の事件は忸怩たる思いだ。だが、それを態度に出すつもりはない。
    「……ごめんね」
     遥香の言葉とともに、一斉に灼滅者たちが動き出す。
    「影の使い方を教えてやる」
     海月の足下から影がゴポリと浮き上がるとくらげ型をとり、海月の肩辺りに浮遊する。
    「こうやって使うんだ、縛り上げろクー!」
     海月の言葉とともに、クーと呼ばれたくらげ型の影が触手を伸ばすように一気に延びてアンデッドを縛り上げる。
     チャンスとばかりに攻撃を浴びせる灼滅者たち。
     回復役のジャックですら「ワタシノ大鎌デ刈取リマス!」とデスサイズでアンデッドに向かう。
    「アアアアアア――ッ!」
     少年アンデッドの苦痛の声が響く。
     だが、絶望の呼び声は無慈悲に灼滅者たちを凍り付かせる。

    『トゥルルルルル……トゥルルルルル……』

     一斉に冷や汗が背中を支配する。
     まだ、戦い初めて1分も経っていない……。
     電話は櫻子からだった。
     海月がスピーカー状態で通話ボタンを押す。
    『すまない、交渉に失敗した……戦闘に……くっ――』
     バキッ!という嫌な音が電話の向こうで聞こえ、ツーツーツーという通話不可の音へと変わる。
    「ヒャッハーハッハッハッ!」
     ジャックの奇妙な笑い声が皆の意識を戻す。  
    「急イデ迷エル子羊ヲ救イマショウ!」
    「ああ、集中するぞ」
     ジャックに続き勇也が宣言し、5人は目の前の戦いに集中するのだった。


     少しだけ時間を巻き戻す。
     ケーキ屋の前でイフリートを発見した3人は、偶然をよそおいつつ炎獣へと近づいていった。
     基本的な流れはへるがメインだ。櫻子はへるに任せつつ適宜相槌を、志命も同じように2人に合わせる腹積もりであった。
    「もしかして……クロキバのとこのイフリートだよね?」
     へるが人当たりの良い笑顔でイフリートに語りかける。
     対するイフリートの返事は。
    「………………」
     なんかじーっとへるの持つケーキの入った箱や、ホールケーキが数個の入った志命のビニール袋に視線が注がれているような……。
    「ああ、これは武器とかじゃないぞ?」
    「その通り、ただの食べ物だ」
     イフリートのプライドを傷つけないよう注意しつつ櫻子と志命がフォローする。
     スッと目を細めるイフリートに、へるがぱかっと箱を開けて、中のプチケーキを取り出す。
    「キミの口に合わないかもしれないけど……一緒にどう?」
     その手に乗った美味しそうなケーキに、イフリートの大きな口からだらだらと涎が垂れそうになる。
    「あー……その、良かったら一緒に食べないか?」
    「俺の持ってるのもケーキでな、3人じゃ食べきれないって話してたところなんだ。一緒に食べてもらえるなら助かるんだが……」
     櫻子と志命もへるの言葉に乗るようにイフリートを誘う。
     疑わしそうに目を細めていたイフリートが、まるで「そういうことなら仕方がねぇなぁ」とばかりに、ゆらりゆらりと3人の元へと歩いてくる。
     もっとも、尻尾がすごい嬉しそうにパタパタ振られているのを見てしまうと、思わず吹いてしまいそうになって逆に辛い。
    「ああ、どうせならあっちの公園で食べない? ゆっくりお茶会とかしようよ♪」
     へるが途中にあった公園の方向を指さしつつ。
    「安心して、ボク達はクロキバのトモダチだから」
     ぴたり。イフリートの足が止まるが、へるは公園の方向を見て気づかない。
    「人間の世界ではトモダチは一緒にご飯を食べるのが流儀なんだ。あのクロキバもそうしてる。だから――」
     屈託無い笑顔でイフリートを振り向くへる。
     だが。

     ――ガッ!

     へるの視界は一瞬で暗転し、突如襲った浮遊感とともに腹と背に衝撃が、尋常じゃない痛みが走る。
    「へる!」
     志命が叫び、櫻子が慌ててイフリートの腹へ鋼鉄拳を叩き込む。
    「グウ……ガアアアアア!」
     丸齧りしていたへるを吐き出し、イフリートが雄叫びをあげる。
     櫻子がイフリートを引きつけつつ火葬場班に電話をかけ、その隙に志命がへるの元へ駆け寄る。
     慌てて状況を説明しようとする櫻子だが、イフリートの攻撃で吹き飛び携帯が壊されてしまった。
    「ボ、ボクは大丈夫……まだ、死ぬわけには、いかないからね」
    「そうか……どうする、このままじゃ」
     へるの無事を確認した志命が安堵する。
     その2人の元に血を流しながら櫻子がザッと戻った。
    「撤退する。3人で戦える相手じゃない」
     櫻子の言葉に2人はうなずくしかない。
     だが、イフリートはのしのしと3人の前に立ちふさがる。
    「問題は……逃がしてくれるのなら、だな」


     すぐに来ると思っていたイフリートは未だ来ず、すでに戦い初めてから数分が経っていた。
     アンデッドとの戦いは5人なれど善戦していると言って良い。
     攻撃、防御、回復と安定した戦術は、特別さは無くとも確実だった。
    「クルマ――!」
     アンデッドの叫びとともに、何度目かの影車が突進してくる。
     車の狙いは遥香。
     だが。
    「何度もやらせはしない。行くぞ、クー」
     遥香の前に海月が立ち塞がり、クーと共に影車を防ぎきる。
    「クルマ……クルマ……」
     何度もつぶやく子供のアンデッドに、海月は何ともいえない視線を向ける。
    「遊び足りないのかもしれないが……目を覚ますには早すぎる。誰かに使われる人生なんて幸せじゃないからな」
     行け、とクーをアンデッドに飛ばす海月。その海月に治癒の力を宿した暖かな光が降り注ぐ。
    「怪我シテモ、スグニ癒シマース!」
     死神のような格好をした神父、ジャックのヒーリングライトだった。
     一方、アンデッドはかなりボロボロになって来ており、そろそろ終わりが見え始めていた。
     だが、その時だった。

     ドカーンッ!

    「オオオオオオオオオオオッ!」
     火葬室の壁をぶち破って現れたのは炎獣イフリート。
     凛々しい獅子型のソレは、まさに仲間達が足止めに向かった個体で間違い無いだろう。
    「来たか」
     勇也がつぶやく。
     イフリートは室内を見回すとアンデッドに目を止め、跳躍。
     そのまま鋭い爪を振り下ろす。
    「ア……ア……ア……」
     アンデッドが苦痛の声をあげるが、まだトドメには足りない。
    「まずは目の前のアンデッドを」
    「ああ、そうだな」
     影で作った2本の長剣を構えた瞭の言葉に、勇也が巨大な西洋剣・無名大業物を担ぎ構える。
     2人がアンデッドに駆け出そうとした瞬間、イフリートが邪魔をするなとばかりに炎のブレスを吐き床が燃え上がる。
     だが。
    「このまま行く」
     勇也が体内から自身の炎を噴出、そのまま巨大な西洋剣に宿すとイフリートの炎を切り裂きアンデッドまでの道を切り開く。
     さらに勇也の背後から瞭が飛び出す。
     寄生体の力も含んだ青黒い剣による二刀の連撃がアンデッドを切り裂き、動きの止まった所に炎を纏った勇也の剣が振り下ろされた。
    「どうか静かで安らかな眠りを」
     瞭の言葉と共に、少年のアンデッドは崩れ落ち動かなくなる。
     ゴッ!
     しかし戦いが終わったわけではない、即座に飛んで後退した2人のいた場所を、イフリートの爪が薙ぎ払う。
     それは明らかな敵意。
    「死体ぐらい棺に戻したかったが……戻ろう。イフリートと戦うメリットは無い」
     海月の言葉に誰もが頷く。
     牽制しつつ一気に駆けだし撤退する5人。
     遥香が後ろ髪引かれるように一度だけ振り向く。
     できるなら、何も言わずしっかりと抱きしめて、乱れたり破損したりした部分を整えてあげたかった……だが、今はそれすらもできない。
    「アーメン」
     ふと、横を走るジャックの言葉に目があった。
    「気持チハ皆同ジデース」
     本当に燃える火葬室を背に、灼滅者達は足止めの3人が向かったであろうケーキ屋へと急ぐ。


     ケーキ屋から数百メートル離れた公園で、3人は倒れていた。
    「感謝する……櫻子が守りながら引いたおかげで、無事に撤退できた……」
     遊具に背を預けたまま顔を上げることすらできずに、気合いだけで感謝を述べる志命。
    「あのイフリート……ホールケーキに、気づいて……少しでも時間を、消費してくれたら……」
     大地にうつ伏せに倒れたまま息も絶え絶え櫻子がつぶやく。
     少しでも時間稼ぎができれいれば、今はそれだけが心残りだった。
    「有栖川……大丈夫、か?」
     櫻子の言葉に、仰向けに倒れたままのへるがピクリと反応する。
    「う……ん……」
     何がいけなかったのだろう。
     ケーキに関する事は何も間違わなかったはずだ。
     だとしたらイフリートの……。
    『人間と共闘したり助けられたりするイフリートを嫌う』
     それはつまり、人間と同レベルに扱われるのが嫌いな性格だったのだろうか?
     ふと、へるの視線に白いクリームがうつる。
     戦ってる時にケーキのものが飛び散ったのだろうか。
     ふるふるとふるえる指で掬い、ちょっとだけ舐めてみるが……。
    「はは……なんでだろう……すごい、苦いや」

    作者:相原あきと 重傷:有栖川・へる(歪みの国のアリス・d02923) 千凪・志命(灰に帰す紅焔・d09306) 天堂・櫻子(桜大刀自・d20094) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年11月15日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 9
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