病院に眠る者

    作者:柿茸

    ●クロキバの依頼
    「シロノ王セイメイノアラタナ企ミガ確認サレタ。死体ヲアンデッドニスル儀式ノヨウダ」
    「申シ訳ナイノダガ、コレヲ知ッタ若イイフリートガ、事件ノ起コル場所ニ向カッテシマッテイル」
    「彼ラガ暴レレバ、周囲ニ被害ガ出テシマウノデ、済マナイガ彼ラヲ止メルカ、彼ラガ来ル前ニ、セイメイノ企ミヲ砕イテクレナイダロウカ」
    「ヨロシク頼ム」
     
    ●教室
    「―――って依頼が、クロキバから来たんだけど」
     田中・翔(普通のエクスブレイン・dn0109)が聞いた話をそっくりそのまま口に出して切り出した。カップ焼きそばにお湯を入れ終えて、タイマーをセットする。
    「調べてみたら、視えたね。全国各地で、病院、葬式場、火葬場。そんなところで死体がアンデッド化する事件」
     ということで、それを阻止してきて欲しい。簡単に言えばアンデッドを倒せばいいだけなんだけど。
    「それが最優先、絶対して欲しいこと。でも、病院の職員や入院患者とかの一般の人達にも、被害は出して欲しくないのが本音」
     そこで口を一度閉じかけて、あ、言い忘れていたね、と思い出したように付け加える翔。
    「君達に行ってもらいたいところは、まぁ、都市近郊に立っている大き目の病院」
     死体がアンデッドになるのは深夜のこと。もちろん戸締りはされるので、入るには何か工夫が必要かもしれない。
    「外から鍵を開けようとせずとも、例えば、最初から病院が閉まるまでずっと中にいるとか」
     玄関扉はガラスでできており、特にハイテクな機能もついてないので、最悪力技で破ることはできるが……。
    「まぁ、病院だし、寝静まっていても警備員の人や監視カメラはついてる。のどかな地方にある病院だから、警備員の人は深夜でもあんまりやる気ないのがまだ楽かな」
     決まった時間に見回りに行くことを除けば、基本的には警備室でテレビを見ているようだ。監視カメラの映像を見ないこともないのだが、あまり注意して見ることはない。
    「すんなりと潜入することができれば、戦場になるのは霊安室の中になるね。アンデッドを外に出さなければ、一般人の心配はする必要はないよ」
     討伐対象のアンデッドは1体。そのアンデッドだが、生前は剣道の道場主をする程度に剣豪だった老人らしい。
     アンデッドとして蘇ったその死体は、オーラで剣を生み出して斬りかかってくるだろう。知性は既にアンデッドのそれになってしまっているので、こちらの言葉は聞こえることはない。『セイメイサマノタメニ』と虚ろに呟くだけだ。
    「オーラの剣だけど、サイキックソードというよりも、日本刀だね」
     使ってくるのは日本刀のアビリティ。ただのゾンビだが、その戦闘力は普通のゾンビよりも強い。
    「で、えーと。クロキバからの説明でもあったんだけど」
     血気盛んな若いイフリートの存在がここで問題になってくる。
     エクスブレインの予知がないので、彼ら自身、事件が発生する場所をしっかりと把握しているわけではない。ただ、悪事の臭いを嗅ぎつけて周囲を嗅ぎまわっている。
     だが、事件が発生すればその場に駆けつけてくることが視えている。
    「でもほら、イフリートだし、ね?」
     ガラスが邪魔するなら叩き壊して中に入る。人が力尽くで邪魔するなら叩き潰す。例えそうでなくても、最短ルートを通ろうと壁を壊したら、それに人が巻き込まれたり、倒壊の可能性もある。
     ということで、そういうことをしないようにしてもらう必要がある。突入前に見つけ出して説得してお帰りいただくか、被害を出さないように注意しながら共闘するか。スピード勝負で、イフリートが来る前に事件を解決すると言う手もとれるだろう。
    「クロキバのように人間社会の常識が分かってればいいんだけどね」
     学校とかもないし、仕方ないのかな。と呟いたところでタイマーが鳴った。カップ焼きそばを持ち、立ち上がる翔。
    「それじゃ、皆。セイメイの悪事を、しっかりと止めてきて欲しい」
     最優先事項はそれだから。そう言って、翔はお湯を捨てに教室を出て行った。


    参加者
    睦月・恵理(北の魔女・d00531)
    枷々・戦(キャッキャいくしゃ・d02124)
    ロロット・プリウ(ご当地銘菓を称える唄を・d02640)
    竹端・怜示(あいにそまりし・d04631)
    水無瀬・京佳(あわいを渡るもの・d06260)
    汐崎・和泉(翡翠の焔・d09685)
    ギルドール・インガヴァン(星道の渡り鳥・d10454)
    リューネ・フェヴリエ(熱血青春ヒーロー修行中・d14097)

    ■リプレイ

    ●炎獣説得
     人々も寝静まる深夜。都市近郊に立っている大き目の病院。
     その、鍵がかけられているはずのガラス戸が、軽く音を立てて開いた。中から闇を纏った竹端・怜示(あいにそまりし・d04631)が顔をだし、辺りを伺う。中では、怜示と同じく、病院が閉まる前から入り、旅人の外套を纏いこの時間までずっと院内に待機していた水無瀬・京佳(あわいを渡るもの・d06260)が警備室を探っている。
     入り口付近の外に、旅人の外套を使いイフリートを警戒して待機していたロロット・プリウ(ご当地銘菓を称える唄を・d02640)と視線が合うと、そのままロロットは、さらに病院の外側へと目を向けた。
     その目線の方向を見る怜示の視界に、燃える巨大な狐が入ってくる。そしてその前に立つ仲間達。
    「ちょうど数分前に来たところです。恵理さんの偵察連絡があったとはいえ、近くの森から、木々をなぎ倒しながら飛び出して来てびっくりしましたよ」
     今はちょっと落ち着いているみたいですけど、説得開始時はそれはもう興奮して興奮して今にも飛び掛かりそうなぐらいでした。
    「そう、まぁ何ともなってないようで良かった」
    「そちらは?」
     首を振る怜示。霊安室の場所と、そこからの地下駐車場のルートは見つけたが、そこへの扉は特殊なキーが必要な鍵がつけられていた。
    「ここから入るしかないみたいだよ。今、京佳くんが警備員の人達を眠らせているはず」
    「そうですか……」
     それじゃ、私は説得に向かいますね。と、入口から離れてイフリートの方へと歩くロロット。
    「……どうか、行くなら私達と一緒に行って貰えませんか?」
    「クロキバから話は聞いてる、強いイフリートの力を是非力を貸して欲しいんだ!」
     睦月・恵理(北の魔女・d00531)と枷々・戦(キャッキャいくしゃ・d02124)の説得に、グルルとちょっと困ったように唸る狐型のイフリート。
     先ほど、出合い頭に恵理が―――。
    「こんばんは、武蔵坂の者です。そのふわふわで綺麗な毛並みですぐ判りましたよ」
     と言った時点で警戒心が若干薄れ。
    「ハジメマシテだな、素敵な毛並みのイフリートさん」
     と汐崎・和泉(翡翠の焔・d09685)がおだてて挨拶すれば剥き出しにして唸っていた口が収まって。
    「素敵な毛並みのイフリート様にお会いできて光栄です」
     とギルドール・インガヴァン(星道の渡り鳥・d10454)が執事の様に声掛けをすれば、もう見てわかるほどに機嫌が良くなっていた。
    (「やっぱ毛並は大事なんだな……。女の子っぽいし、髪みたいなものなのか?」)
     そしてそれを見ていたリューネ・フェヴリエ(熱血青春ヒーロー修行中・d14097)はこっそりと、そう思っていた。
     だが、イフリートは自分一人で何とかなるとか、何とかするとか思ってるらしく、一度機嫌は良くしても手伝って欲しい、という言葉にはなかなか首を縦に振らず、困惑と苛立ちが混じったように唸るだけ。
     今はまだ大丈夫だが、このまま苛立ちが募れば―――。
    「あー、そのな。俺達、クロキバにお前の事を頼まれてるんだ」
     咄嗟にリューネが口に出した頼まれてる、という言葉に、狐の耳がピクリと動いた。チャンス、とばかりにリューネの口はさらに動く。
    「ここでクロキバの言うとおり、俺達と一緒に来れば、あいつもきっとお前の事を見直すと思うぜ?」
    「アンデッドなんて、きっと楽勝、ですよね。でも、騒ぎを起こさず、敵だけ倒したら、もっと格好良いです! クロキバさん、感心しちゃうかも」
     ピンと耳を立たせて背筋を伸ばして、イフリートの顔がリューネとロロットに向けられた。恵理が畳みかける。
    「今回の悪事の被害者は私達の同族。私達の手で弔ってあげたいですし……」
     貴女は仲間に迫る悪事を思い飛び出した立派なイフリート。その仲間想いの心に免じて、私達が同族を想う気持を汲んで貰えませんか?
     そう言われると弱いのか、苛立ちはすっかりと収まり、困ったように唸り、きょろきょろと視線を忙しなく彷徨わせ始めたイフリート。
     その鼻先に、和泉の差し出したスナック菓子と、ロロットの持ってきたフライドチキンがチラついた。
    「これは強くてカッコいいあんたへの捧げ物。今回のことに関しては仲間が説明した通りだ。どうか、あんたの強い力を、お力添え願えねェかな」
    「これでお願い、出来ませんか?」
    「ガウッ!」
     喜んで頷いて、餌に跳び付いた。説得完了できたようだ。
    (「か、可愛い……。撫でたい、でも我慢……!」)
     そして美味しそうにお菓子と鶏肉を食べているイフリートの姿を見てキュンとしていたロロットの後ろで、携帯を耳に当てていた怜示が皆を呼び寄せた。

    ●病院潜入
    「こっちだね」
    「警備員の人達は問題なく眠らせましたので……」
     怜示と京佳の先導で院内を進む一同。途中、警備員室の前を通ったが、中で2,3人の警備員がぐっすりと眠りこんでいた。
     それを横目に、イフリートを加えた灼滅者達は進み、冷たいリノリウムの階段を降りていく。
     無機質な扉が並ぶ廊下へと来たところで、奥から、微かに、何かが倒れる音がした。同時に、怜示を筆頭に全員の足が駆け足になり、走り出す。
     音がした部屋の扉の前に到着し、直ぐに体当たりをしてぶち破ろうとするイフリートを何とか押し留めつつ、ドアノブに手を掛けながら頷き合う灼滅者達。
     音をたてないように、それでも素早く開け放ち、一斉に部屋の中に雪崩れ込んだ一同の前に、寝台から倒れ落ちた老人がいた。
     後ろ手に扉を閉めながらサウンドシャッターを展開するギルドール。カードを解放する灼滅者。牙を剥き出しにして激しく唸り声を上げるイフリート。
    「Allez cuisine!」
     そしてリューネが叫ぶ前、死体であったはずの老人が勢いよく立ち上がり、無手のまま、中段に剣を構えた。
    「剣豪の方と見えるのは光栄だけれど、その死を弄ぶ不敬の輩に払う礼儀は持ち合わせていない……」
     あるべき姿に、還るがいい。眉を顰めそう言う怜示の前で、黒い霧が集まってくる。辺りに強く警戒が走る中、その霧は、やがて剣の形を取り、老人の手の中に収まった。
    『オオオオオオ……セイメイサマノタメニ……』
     轟くような声が響いた、その瞬間。
    「!」
    「っぉぁあ!!」
     本能的に、眼前に構えた戦のマテリアルロッドに、一瞬にして詰め寄った老人から繰り出された重い一撃が食い込んでいた。その重さに膝が折れ、老人の腕の筋肉が膨れ上がり、弾き飛ばされる。
    「セイメイの為に何をなさろうと言うのですか?」
     そもそも、ノーライフキングでは無く眷属を増やす……これも白炎換界陣に関係あるのでしょうか?
     ロロットのエンジェルボイスを聞きながら、京佳が問いかけながら指輪をはめた手を構える。龍翼飛翔で突進するリューネの攻撃を剣で受け流し、体勢を立て直した戦のフォースブレイクを、致命打を避ける様に肩で受け止めた老人が、虚ろな表情のまま、再びゆっくりと口を開く。
    『セイメイサマノタメニ……』
    「……例えそれが生前の貴方の意志であろうと阻止させていただきます」
    「さぁ、オレと楽しいこと、しようぜ!」
     放たれる制約の弾丸。 和泉がかき鳴らすギターの音波がその後に続き、それを混じって【有声杖【吟輪】】の音が鳴る。
     音波を切り捨て、ギルドールの影を切り払った老人。その太ももに、一歩踏み込んだ怜示のフォースブレイクがめり込んだ。
     軽くたたらを踏みながら後ろに下がる老人へと炎の狐が飛び掛かる。燃え盛る爪の一撃は、黒い霧の剣と衝突し激しく火花を散らして、そして互いに大きく離れた。
    「折角の修練、この様に使われたくはなかったでしょう。すぐ安らかな眠りに戻してあげます……だから、御免なさい」
     そこに、恵理が踏み込んでくる。縛霊手を介して影が伸び、足首にきつく巻き付いた。

    ●死者浄化
    「―――ハル!」
     和泉の言葉に、待機していたブラドールレトリバー、もとい和泉の霊犬のハル
     ギルドールの制約の弾丸が老人の胸を穿つが、既に死んでいる身故にそれで止まることはない。足を満足に動かせずとも、麻痺が身体を蝕んでいても、流れるような、そして風の如き速さで剣が、宙を薙いだ。
     吹き荒れる衝撃波が部屋を揺らし、中衛、後衛の髪や服を強くはためかせる。【Terre Protection】を盾に、真っ向から衝撃波を受け止め歯を食いしばるリューネの視界に、四肢を踏みしめて吹き飛ばされるのを耐えつつも、衝撃に体のいたるところから裂傷が生まれ炎を噴き出す狐の姿が入った。
    「大丈夫か!?」
     だが、それには答えずに、返答代わりに強く床を蹴り再度、炎を纏った爪で老人に襲い掛かるイフリート。縛られた足を軸に捻った老人の脇腹を掠め取っていく炎に続き、同じように、全身のいたるところから噴き出す炎を身に纏った戦が殴りかかった。
     勢いと炎のオーラを乗せた燃える攻撃が老人の胸を抉るが、老人は踏ん張って直ぐに剣を構え直す。
    (やばい、戦うことが楽しくてたまんねえ。集中しなきゃ……)
     軽快なステップで素早く距離を取りつつ、同じく離れるイフリートを、戦はチラリと見る。いつもより、戦うことが楽しくて仕方がない。
    「和泉くん、ありがとう。大丈夫かい?」
    「平気だ。まだいけるぜ!」
     そうか、と呟き遊環を鳴らした怜示が一瞬、ロロットへと視線を向けて、頷いたロロットが京佳と目線を交した。
     光と歌が戦場を駆け、イフリートと戦の傷が癒えていく。その向こうで、リューネの振り下ろした龍砕斧が、掲げられた剣に受け止められつつも、その上から衝撃を叩き込んだ。
     飛んでいく恵理の制約の弾丸が老体を抉る前で、ギルドールの歌により和泉の怪我が治っていく。少し遅れて戦場に響き渡ったロロットのリバイブメロディが、前衛陣の癒しきれなかった傷を塞いでいった。
     イフリートの口から放たれた炎が老人の身を焼く。だが、そこまでダメージになっていないようだ。
    「さすがだぜ! やっぱり強いな……!」
     それでも褒めることは忘れない戦の隣、怜示が吟輪を鳴らし撃ち出した雷が老人の頭へと牙をむいた。予測はできても足を縛る影が邪魔をして避けられないその紫電を喰らい、身体に残る痺れによって仰け反る老人に、リューネと和泉が同時に足を踏み出した。
     高速で薙ぎ払われるリューネの攻撃によろめいた老体に【透徹の皓】が喰らいついた。一瞬の間をおいて、老人とは思えない膂力で縛霊手が振り払われるが、その時には既に戦が懐に潜り込んでいる。
     光の本流が老人の全身に叩き込まれた―――否。全ての拳を、凄まじい剣捌きで受け止め、逸らしている。剣の縁によって切れたのか、小さな炎を噴き出す拳と共に下がる戦が軽く顔を顰めて左頬のガーゼを押さえた。
     心配そうな視線を向けるロロットに大丈夫だと手を横に軽く振って返す戦に頷いて、ロロットは生み出したリングスラッシャーを射出する。さらにハルの六銭文が、リングスラッシャーと共に老人の身体を穿った。
     崩れ落ち、膝をついた老人に、好機と見て踏み込む灼滅者達。背を追い越すソニックビートを切り払った老体へと、魔力を宿した錫杖を叩き込まんと、強く床を踏みしめて怜示が迫った。
     だが、振り下ろした錫杖の先に老人の姿はなし。部屋に響いた、清涼ともいえるほどの金属音は、鳴らされた遊環のものなのか。
     それとも、怜示の傍らを素早く掻い潜り、戦目がけて、低い腰だめの姿勢から抜き放たれた、老人の剣のものなのか。
    「させるかぁぁぁ!」
     響く声。老人の動きについて行けなかった戦の目の前にリューネが割り込んだ。残像すら残さない一閃がリューネの身を引き裂き飛ばす。
     それを追った戦の視線の先、ギルドールと京佳のエンジェリックボイスと祭霊光が追いすがっていたのを見て、戦の視線が、振り抜いたままの姿勢で一瞬硬直している老人へと戻される。
     槍を腰だめに構える間に、駄目押しと言わんばかりに恵理の影がさらに絡みついた。この好機を逃すわけにもいかない、と鋭く一閃。至近距離で射出された氷の刃が老人を凍らせる。
    「「今だ!」」
    「僕らでは難しいけれど、キミなら簡単にできるだろ?」
     叫んだのは誰だったか。だが、その言葉に反応するまでもなく、イフリートが飛び掛かっていた。
     燃える狐の爪が振り下ろされて、氷の上から老人を切り裂く。
     それが、とどめだった。

    ●帰宅時間
    「いやー、良かった良かった。無事に解決できたな!」
    「流石だね。キミの御蔭で倒せたね」
     病院から出て、次々にイフリートを褒めちぎる和泉とギルドール。ロロットもありがとうございましたと頭を下げれば、イフリートはまんざらでもなさそうに、大きく鼻息を鳴らして尻尾を横に大きく振った。
    「ええと、それで」
     ぼく達はこっちなんだけど、と怜示が自分たちがやってきた道を指差す。イフリートが通ってきた山の中とは正反対の方向。
     イフリートが、ちょっと名残惜しそうに山の方へと顔を向けた。
    「それじゃ、ここでお別れだな」
     言いながら、手を差し出すリューネ。イフリートが首を傾げるのを見て、苦笑する。
    「握手って言ってな、軽い挨拶だぜ」
     前脚を取り、ぎゅっぎゅと握る。ロロットも続いて、毛並を堪能するように握手した。
     あ、1つお願いがあるんですが、と京佳が口を開く。視線を向けるイフリート。
    「クロキバさんに『セイメイの手段・目的をご存知なら教えてください』と伝えてくださいませんか?」
     分かったのか分かってないのか、軽く唸って首を傾げるイフリート。
    「ありがとうございます。流石クロキバさんの同胞ね、懐が深いわ」
     だが、それでも恵理はお礼を言った。ちゃんと伝えられるかどうかは、まぁこの際やってみないと分からないだろう。
     今度こそ、イフリートが背を向けて山へと帰っていく。
    「またなー。また共闘するときは、よろしく頼むぜー」
     手を振りながら告げる和泉。振り返るイフリート。

     ガルゥゥゥゥォォオオオオオン!

     そして、大きく、遠吠えをするように一度鳴いてから、炎の獣はくるりと踵を返して山の中にその姿を消していった。

    作者:柿茸 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年11月16日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
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