目覚める死者に迫る焔

    作者:天木一

     イフリートのクロキバが語りかける。
    「シロノ王セイメイノアラタナ企ミガ確認サレタ。死体ヲアンデッドニスル儀式ノヨウダ」
     セイメイの暗躍がまた行なわれようとしていると、クロキバが情報を告げた。
    「申シ訳ナイノダガ、コレヲ知ッタ若イイフリートガ、事件ノ起コル場所ニ向カッテシマッテイル」
     その情報を元に、血気盛んなイフリートが勝手な行動を始めてしまったという。
    「彼ラガ暴レレバ、周囲ニ被害ガ出テシマウノデ、済マナイガ彼ラヲ止メルカ、彼ラガ来ル前ニ、セイメイノ企ミヲ砕イテクレナイダロウカ」
     クロキバだけでは動き出した事態をどうする事もできない。上手く解決するには灼滅者の力が必要なのだ。
    「ヨロシク頼ム」
     
    「やあ、早速新しく起きた事件の説明に入るよ」
     能登・誠一郎(高校生エクスブレイン・dn0103)が集まった灼滅者へ向けて話し始める。
    「クロキバからの情報で、白の王セイメイが新たにアンデッドを生み出そうとしている事が分かったんだ」
     調べたところ、全国の病院の霊安室や通夜や葬式、果ては火葬場で死体がアンデッド化してしまう事件が起きる事が判明した。
    「どれも人が集まるところだからね、もしアンデッド化されて野放しになった場合どれだけ被害が出るか分からないよ」
     そんな悲劇が起きないようにしなければならない。
    「だからみんなの力が必要なんだ。アンデッドを倒して被害を最小にして事件を解決して欲しいんだ」
     誠一郎は真剣な表情で皆の顔を見た。
    「今回事件が起きるのは、通夜の行なわれている田舎の家だよ」
     遺体は92歳のお爺さんだ。田舎だけあって平屋の大きな家だ。大勢の親族や知り合いが尋ねてきている。
    「アンデッドになるのは夜だけど、ひっきりなしに人がやってくるからね。どうにか避難させる事を考えないと」
     アンデッド化して暴れだすのは20時過ぎ、寝かせてある線香を灯した部屋へは人が自由に行き来できる。大勢の来客者には広間で食事や酒を振舞われているようだ。
    「アンデッド化する遺体はゴルフが趣味だったみたいだね。クラブやボールを使って戦うみたいだよ」
     セイメイにアンデッド化された死体は通常のアンデッドよりは強い。だがダークネスには及ばない戦闘力だ。
     だが話はここで終わらない。
    「実はもうひとつ問題があるんだ。どうやら血気盛んな若手のイフリートがこの事件を嗅ぎ付けて迫っているようなんだよ」
     困ったように誠一郎は眉をひそめる。
    「イフリートの予知ではアンデッドが生まれる前には正確な位置が見つけられない。逆に言えばアンデッドが生まれたら戦いにやってくるって事なんだ」
     アンデッドとイフリートが戦った場合、大きな被害が出るだろう。
    「この事態を避ける方法は幾つか考えられるよ。一つはイフリートを説得して帰ってもらうこと。一つは上手く手綱を握って協力して戦うこと。そして最後はイフリートを足止めして事件を先に解決しちゃうこと」
     どの選択肢を選ぶかは灼滅者次第となる。
    「アンデッドにイフリートと、また大変だと思うけど、このままだと大勢の人が死んでしまうんだ。みんなの力で一人でも多くの人を助けてあげて欲しい、お願いするよ」
     足早に事件の起きる現場に向かう灼滅者へ、誠一郎は頭を下げて見送った。


    参加者
    住矢・慧樹(クロスファイア・d04132)
    御盾崎・力生(ホワイトイージス・d04166)
    弥堂・誘薙(万緑の芽・d04630)
    緋野・桜火(高校生魔法使い・d06142)
    桜吹雪・月夜(花天月地の歌詠み鳥・d06758)
    伊織・順花(追憶の吸血姫・d14310)

    ■リプレイ

    ●通夜
     畳張りの部屋を行ったり来たりと、大勢の人々が黒い服で動き回っていた。
     静かな部屋では線香が絶えず灯され、やってきた人々は棺桶の中で穏やかに眠る老人の顔を見ては話しかけていく。
    「これこっちだよな?」
    「僕も手伝おう」
     大勢の関係者に紛れ、尋ねて来た人々に食事を運ぶのを住矢・慧樹(クロスファイア・d04132)が手伝う。
     クラリス・ブランシュフォール(蒼炎騎士・d11726)も同じように手伝いながら、家の構造と人の配置を確認しておく。
    「おじょうちゃん達ジュース飲むかい?」
    「あ、はい。ありがとうッ!」
    「お、いただくぜ!」
     面倒見の良さそうなおばさんが、関係者の振りをして客に混じって座っていた桜吹雪・月夜(花天月地の歌詠み鳥・d06758)と、その連れを装う伊織・順花(追憶の吸血姫・d14310)にジュースの入った紙コップを手渡す。
     2人はジュースに口をつけながらも、携帯を気にする。外の仲間からの連絡を待っていた。
    「……。クロキバ、苦労察し」
     人々に紛れ、一般人から見えないように姿を消しているガイスト・インビジビリティ(亡霊・d02915)は、人間社会同様ダークネスの世界も、集団となれば問題を起こす輩が出て面倒事になるものだと同情する。
    「そろそろ向こうも接触した頃か……」
     屋敷の外から隠れて人の出入りを確認していた御盾崎・力生(ホワイトイージス・d04166)は、携帯を確認しその視線を月の昇る夜空へと向けた。
     外は既に夜の闇に包まれ、人気の無い道は明かりも少なく、月明かりだけが僅かに地上を照らす。そんな空を自由に飛ぶ影があった。
    「イフリートとの共闘は2度目だが、今回は相手が難しそうだな。できれば協力していきたいところだが……」
     箒に乗って夜空を飛ぶ緋野・桜火(高校生魔法使い・d06142)は、地上を見渡しイフリートを探していた。
    「……あれか!」
     地上に灯る炎が視界に入る。それは隠れもせずに堂々と道を歩いていた。桜火は仲間に報せる為に地上へ向け、流れ星のように空を疾走する。
     暫く後、炎をその身に纏った、まだ体が小さく幼い狼の前に、2人の灼滅者が警戒されないよう慎重に歩み寄る。
    「クロキバからあなたを止めて欲しいと言われました。でも僕たちはあなたの手伝いをしたいと考えています」
    『グルゥ?』
     イフリートに対し、弥堂・誘薙(万緑の芽・d04630)が懸命に説得の言葉を紡ぐ。イフリートはその提案を吟味するように大人しく言葉に耳を傾ける。
    「狩りの練習をしたいのだろう? 狩りのコツはチャンスをジッと待つことだ。そして、ベストなタイミングで一気に仕掛ける!」
    『グルルルゥ……』
     桜火が狩りの仕方や心得を教える。それは未熟なイフリートには魅力的な提案だった。イフリートは首を傾げてどうしたものかと考えているようだった。それも見て2人は更に言葉を重ねる。
    「僕の仲間が戦闘しやすい状況を作っています。それまで待ってくれませんか?」
    「私たちと一緒ならいい練習になると思うのだがな」
    『グルルゥ……アオン!』
     長く熟考した後、イフリートは尻尾を振って咆えた。誘薙と桜火は頷き合い、携帯を取り出し仲間へ連絡を入れる。

    ●目覚める死体
    「おじいちゃん、今からちょっと騒がしくするケド、ごめんな」
     申し訳なさそうに、慧樹は眠っているお爺さんに手を合わせて謝り、ナイフで自分の左腕を切り裂いた。
    「いってぇぇ!」
     傷口から炎が噴き出る。そして大きく息を吸うと叫んだ。
    「線香が倒れたー! 火が燃え移ったー! 助けてー!」
     その声を聞きつけ人々が慌ててやってくる。そんな中を炎を発しながら慧樹が走り回る。
    「燃えてる! 燃えてるぞ!」
    「誰か消火器持ってこい!」
     突然の火の手に右往左往する人々。そこに大きな声が届く。
    「火事だ! 家の外に急いで!」
     それは順花が送った思念の声。それを聞いた人々は一斉に逃げ出す。
    「火事だ逃げろ!」
    「ひっ火事!?」
    「こっちです、早く!」
     慌てふためく人々に対し、堂々と玄関から乗り込んだ力生が混乱を防ごうと避難誘導をする。その姿は青年消防団のようで違和感が無い。
    「避難、誘導、指示」
     ガイストも姿を現して一般人の逃げる方向を指し示す。人々は玄関から飛び出すように逃げる。
     そんな騒動の中、安置されていた死に装束を着たお爺さんの遺体に光が降り注ぐと、死んでいたはずの体がむくりと上半身を起こした。
    「ん~煩いのう。しかし、よく寝た……体が痛いわい」
     お爺さんが横を向くと、部屋に人影がある事に気付く。
    「イッツ・ショータァーーイムッ!」
     月夜が指で挟んだカードを天に伸ばし叫んだ。全身が光に包まれ一瞬肌が見えると、光が服に変わり変身する。頭上から現われたギターを手にし、ポーズをとった。
    「おじいさん! わたしの演奏で大人しくしててねッ!」
    「わしは演歌しか聞かん!」
     ギターをかき鳴らすと、お爺さんは一喝して跳ね起きる。
    「……死出の旅路を迷われたか」
     クラリスもスレイヤーカードを解放し、幾つもの戦いの傷が刻まれた甲冑を全身に纏う。
    「生憎と仏教徒やらの葬儀には詳しくないが、もう一度眠ってもらうぞ」
     周囲に殺気を放ちながら、手にした巨大な両手剣を構えた。
    「ふぉっふぉっ、ゴルフに行く前に肩慣らしといこうかのうっ!」
     笑いながらお爺さんは傍にあったキャディバッグから3番ウッドを取り出す。剣とクラブが火花を散らして交差した。

     人々が避難した屋敷の中を灼滅者が駆けて行く。
    「誰かいないか!」
     力生が逃げ遅れた人は居ないかと部屋を確認していく。
    「避難、完了」
    「こっちももう誰もいないぞ」
     玄関で誘導していたガイストと、お年寄りを誘導し終えた順花がそこに合流する。
    「良し、全エリアクリアだ」
    「いてて……じゃあもう傷治していいよな」
     最後の部屋を確認した力生が言うと、思い出したように痛みに顔をしかめた慧樹が腕の傷を癒す。
    「名演技」
    「名演、賛辞」
     そんな様子に力生とガイストが賛辞を贈ると、慧樹は照れたように頭を掻いた。
    「ここからが本番だ」
     順花は外の仲間へ準備完了を報せるメールを送る。
    「それじゃあ俺達も行くとしますか」
     慧樹の言葉に全員が頷き、遺体の眠る場所へと向かう。

    ●死者と焔
    「こっちですよ!」
     誘薙が炎狼を先導して屋敷の中へと入っていく。
    『グルゥォォ!』
    「まだだ、狩りの基本は待つこと、そして一撃必中だ」
     桜火は今にも暴走しそうな、猛る炎狼を落ち着かせようと冷静な言葉を上から放つ。
     2人と1匹が戦いの音に導かれて先へ進む。そこには仲間達の姿。そして1人の老人がゴルフクラブを振り回して戦う姿があった。
    「よー遅かったな! 俺がやっつけちゃうトコだったぜ!」
    「さあ! 次の曲いっちゃうよッ!」
     振り向いた慧樹は軽口を叩きながら、突き出していた槍を引き戻し、月夜は足でリズムを取りながらギターで次のメロディを奏で始める。
    「あれが敵ですよ!」
     老人を指差して誘薙は炎狼を見る。すると炎狼はぐっと身を低くして足に力を溜めた。
    「行け、急所に喰らいつけ!」
    『グゥオッ!』
     鋭い桜火の声に獣は地を蹴って飛ぶように駆ける。獲物を狙い大きく開いた口から鋭い牙が覗く。その動きには無駄が一切無く、一直線に老人の喉を狙う。
    「なんじゃ、犬はちゃんと足を拭いて入れんか!」
     お爺さんは3番ウッドで迫る牙を防ぐ。シャフトの曲がったクラブごと炎狼を放り捨て、新しく1番ウッドを抜き出す。同時にゴルフボールの入ったケースをぶちまけ、畳の上に幾つ物ボールを転がした。
    「飛ばし屋ゲンさんと呼ばれたスイングを見せてやるわい!」
     見事なスイングでボールを打つ。放たれたボールは弾丸のように炎狼を襲う。
    「そうはさせん」
     前に出たクラリスは剣の平でボールを受け止めると、そのまま駆け寄ろうとする。そこにお爺さんは更にボールを打ち込む。だが剣を盾にしてボールを弾きながら接近すると、勢いのまま体当たりのようにお爺さんを押し飛ばす。
    「脚部、切断」
     そこへ、ガイストの影が伸びてお爺さんの足を貫く。だが痛みなど無いかのように、穴を開けた足から体液を垂れ流しながらお爺さんは踏みとどまる。
    「まだまだ若いもんには負けんわい!」
     1番ウッドをスイングするところへ力生が近づく。
    「クラブを振り回すとは危ない。ゴルフは天国のゴルフ場で!」
     振り下ろされるクラブに対し、振るって伸ばした警棒に魔力を込めて受け止める。そしてそのまま押し返し、バランスを崩させたところへ警棒を腹に叩き付けた。クラブをへし折られながらお爺さんは吹き飛ばされ、障子を突き破って紅葉した葉っぱの絨毯が敷かれた庭に転がり落ちた。衝撃で畳に転がっていたボールも一緒になって庭に散乱する。
    「ぐほっ……失礼な坊主じゃ……わしはまだまだ現役じゃぞ!」
     灼滅者が庭に飛び出そうとすると、弾丸のようにボールが飛来する。そのボールを跳躍した霊犬の五樹が受ける。それに続いて次々と打ち込まれるボールを、ガイストと桜火が前に出て防ぐ。
    「ちょっと元気すぎじゃないか?」
     順花は空色の本から知識を引き出し魔術を行使する。原罪の紋章をお爺さんビの体に刻み僅かに動きを止めた。その間に一斉に灼滅者は庭へと飛び出し戦場を移す。
    「回復は任せてください」
     そう言って誘薙が手にしたギターをかき鳴らし、傷ついた仲間を癒す。
    「見ていろ、こうするんだ」
     狙いを定め、桜火がライフルの引き金を引く。銃口から放たれた光線がお爺さんの打ったボールを貫き、その身をも貫いた。
    『グルゥオ!』
     お爺さんがよろめいた隙に、炎狼が横から脇腹を喰い千切って駆け抜ける。
    「この犬っころめ!」
     明らかに致命的な一撃。肉が抉れ肋骨が見えている。だが動く死体と化したその身は止まらない。サンドウェッジを手に炎狼を追い掛ける。
    「防護、割断」
     その背後に影のように近づいたガイストが手刀を振るう。オーラを纏った手は刃と化しゾンビの背中を斬り裂いた。
    「小僧が!」
    「撃ち合いならばこちらに分がある」
     ゾンビがボールを打つと同時に、力生はガトリングの銃口を向けた。重厚な金属の塊から放たれた無数の弾丸がボールを撃ち落とし、ゾンビの体を穴だらけにしていく。
    「俺の炎もすげーんだぜ!」
     炎狼と競うように慧樹は槍に炎を宿すと踏み込み、横薙ぎに槍を振るう。ゾンビもサンドウェッジを振るうが、槍とぶつかり合ったヘッドが砕け、穂先がゾンビの胸を横一閃に斬った。同時に槍の火が移り服が燃え始める。
    「わたしの歌だってすごいんだよッ!」
     楽しげなメロディに乗せて月夜が歌う。それを聴いてゾンビの動きが鈍る。
    「ぬぅ、わしは……演歌一筋……」
     そう言いながらも体がリズムに乗って揺れていた。
    「チャンスだ!」
     順花が鞘から刀を抜く。白い刀身が月光を反射する。振るわれた刃は袈裟斬りにゾンビを断つ。腹に開いた大きな傷口からぼとりと肉片が落ちる。
    「そろそろ永久の眠りに戻ってもらう」
     クラリスの持つ剣が光を放つ。上段から振り下ろした刃はゾンビの左腕を斬り飛ばした。
    『グルァ!』
     炎狼が駆ける。ゾンビは右手に持ったパターで迎え打つ。
    「やはり、ゾンビは動きが鈍すぎるな」
     銃口を合わせた桜火がタイミングを計って光線を撃った。真っ直ぐに伸びた光の筋はパターを吹き飛ばす。
    「なんじゃと!?」
     驚くゾンビ。その隙にゾンビの首筋に炎狼が喰らいついた。そのまま押し倒すと、強靭な顎の力で首を引き千切った。首がごろりと地面に転がる。
     炎狼が満足そうに口を放した瞬間、ゾンビの手に新しいクラブが握られ、それを腹に叩きつけられた。
    『ギャンッ』
     不意の衝撃に炎狼が地を転がり紅葉が舞う。
    「まだじゃ、ゴルフも最終ホールが終わるまで勝負は分からんものじゃからのう」
     5番アイアンを手にゾンビは起き上がると、頭を拾い上げて頭に乗せる。顔が斜めについた状態でふらりふらりと引き摺るようにしてクラブを振るう。
    「流石にアンデッドは死に難いようだな」
     クラリスは剣で攻撃を受け止め、剣で巻き上げるようにクラブを飛ばす。
    「それなら切り刻めばいいんだろ」
     そこに鋭く踏み込んだ順花の刃がゾンビの左足を切断した。
    「その通りだな」
     クラリスは返す刃で右足を斬り飛ばす。
    「狩りでは相手を確実に仕留めるまで油断禁物ですよ」
     蔦が絡まり円を描く光輪を誘薙が放ち、炎狼の護りとなって体を癒す。
    「そろそろ天国に送ってやろう」
    「天にも昇る曲だね、任せて!」
     力生がガトリングを撃ち、弾幕を張って動きを止める、更に月夜が穏やかに歌い、ゾンビの意識を朦朧とさせた。
     そこに慧樹の槍が足を貫き、ガイストから伸びた影が伸長するとゾンビを飲み込む。
    「バトンタッチだ、後は頼んだ!」
    「……。ピリオド、一任。」
     炎狼が獲物を狙う鋭い視線をゾンビに送る。
    「今です」
    「次こそ仕留めろ」
     タイミングを見計らい誘薙と桜火が敵を牽制しながら炎狼に呼びかけた。
    『グォォッ』
     残像を残し火矢のように獣は駆ける。振り上げた鋭い爪で頭を潰し、全身から猛る炎が体を焼き尽くす。炎にゾンビは皮を焼き肉を溶かし、消滅していく。
    「ああ、またゴルフがした……」
     燃え盛る炎が闇夜を照らし、小さな呟きと共にゾンビは炎に飲み込まれ跡形もなく消え去る。
    『グルゥゥゥゥォォォオオ!』
     天を仰ぎ炎狼が勝利の雄叫びをあげた。

    ●死者は静かに眠る
     燻っていた炎も消え、庭には静寂が戻る。
    「任務、完了。……」
    「アンデッドは灼滅したし、イフリートの被害も抑える事ができて一件落着だな」
     無表情のまま、ガイストはアンデッドとイフリートの事件を無事に終えたと口を閉ざし、順花は刀を一振るいして鞘に納める。
    「おじいちゃん、安らかに眠ってくれよな」
    「天国で存分にゴルフを楽しんでくれ」
     消えた老人の安らかかな眠りを祈り、慧樹と力生が手を合わせる。
    「しかし、杜撰な手口だったな」
     敵の形振り構わぬ作戦に、クラリスは裏があるのか、それともそこまで追い込まれているのかと考えを巡らす。
    『グルルゥゥ……』
    「戦闘が上手くなりたいのは僕も一緒ですよ」
     まだまだ自分が未熟だと思い知った炎狼は、狩りの手伝いをしてくれた灼滅者へ感謝を示すように尻尾を振った。それに誘薙が笑顔で応える。
    「まだまだだな。人や周りに迷惑を掛けないように、これからも励むといい」
     厳しく桜火は炎狼を叱咤激励する。だがそこには相手を思いやる気持ちが籠もっていた。
    「おじいさんが天国へ迷わないように送る為にも、一曲歌うねッ!」
     月夜がギターを鳴らす。響く音は優しく、伸びやかな歌声は天に届く。
    『グルゥォォ……』
     それに合わせるかのように、炎狼が咆えた。雄々しく響く声は歌声と混じり空を駆ける。
     灼滅者達は目を閉じ、静かにそのメロディに耳を傾けるのだった。

    作者:天木一 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年11月12日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 13/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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