●
「お菓子ちょうだーい!」
「ねぇ、遊ぼうよ!」
子供たちが、わいわいと楽しげにはしゃぐ声が響く。
「はいはい。それじゃ、このお菓子を食べてから、みんなで遊ぼうね」
ひょろりと背の高い神父が、子供たちにクッキーを配る。子供たちは歓声を上げ、クッキーを口に放り込む。
「!?」
クッキーを食べた子供たちが、次々とその場に倒れた。体を小刻みに痙攣させたのち、ピタリと動かなくなってしまう。
「ふむ。効果は上々ですね。ですが、これでは楽しくない。苦しんでもらわなくてはね。子守も楽ではないですね」
動かなくなってしまった子供たちを見下ろし、神父はつまらなそうに、ゆるゆると首を左右に振った。
「みや~」
その時、間の抜けた猫の鳴き声が聞こえてきた。
「……おや? どなたかな?」
神父は首を巡らす。名も知らぬ機械の陰に、どこかの学校の制服を着た少女が佇んでいた。薄闇に紛れているのではっきりとは分らないが、どうやら、その少女が子猫を抱いているらしい。少女の足元にも、小さい影が幾つか動いているのが確認できた。
「私たちのような者を灼滅して回っている輩がいると聞きます。それらとは別に、吸血鬼が集めているらしいとも。……さて、貴女はどちらでしょう?」
神父は腰の後ろで腕を組むと、柔和な笑みを浮かべて背筋を伸ばした。しかし、返ってきたのは、問いとは程遠いもの。
「……ここには迷い込んできた子たちが大勢いる」
少女は、抱いている子猫の頭を撫でていた。子猫は、気持ちよさそうに目を細める。
「後者……のようですね。私に御用ですか? 吸血鬼のお嬢さん」
ちらりと確認できた赤い瞳を見て、神父は表情を引き締めた。少女は顔を上げる。
「わたしには用はない。ただ、連れてこいと言われたから来ただけ」
「断ったら、どうなります?」
「何れ、殺される」
少女は断じた。そして、射るような視線で真っ直ぐに神父を見つめる。
「わたしはあなたのような人は嫌い。だから、断ってくれた方が嬉しい」
「なら、貴女を困らせることにしましょう。よろしく、吸血鬼のお嬢さん」
神父は破顔した。
●
「また、あの女の子がデモノイドロードに接触しようとしているのだ」
髪を左側でのみ結んでいる朱雀門高校の吸血鬼の少女だ。
木佐貫・みもざ(中学生エクスブレイン・dn0082)が珍しく難しい顔をしているのは、デモノイドロードが引き起こしている事件に問題があるらしい。
廃工場に子供たちを集め、毒入りのお菓子で命を奪っているのだという。既に、何人もの子供たちが犠牲になっているようだ。
「デモノイドロードは、ジャック・パレンタリアっていう神父なのだ。優しそうな顔をしてるけど、とっても残虐なやつなのだ」
説明するみもざの鼻息も荒い。
「なんとしてでも、朱雀門高校の吸血鬼と接触する前に、ジャック・パレンタリアをこてんぱんにやっつけて、ぎっちょんぎっちょんにした上で灼滅して欲しいのだ」
とはいえ、デモノイドロードは自らの意志で闇堕ちし、デモノイドとなれる強敵である。加えて、戦闘を開始してから10分後には朱雀門高校の吸血鬼が到着してしまう。現時点では、ヴァンパイア勢力との全面戦争は避けなければならない。なので、朱雀門高校の吸血鬼と接触する前に撤退する必要があった。
「8分以内に灼滅できれば、安全に撤退できると思うのだ」
デモノイド化した場合の戦闘能力は、8人の灼滅者とほぼ同等だ。一筋縄ではいかないが、うまく立ち回れば8分掛からずに灼滅できるだろう。
「ジャック・パレンタリアがいるのは、都心から離れた廃工場なのだ。お菓子で釣って、都市部で集めてきた子供たちを、その廃工場内で殺して楽しんでいるのだ」
灼滅者たちが到着する前に、6人の子供たちを巧みな言葉とお菓子で誘惑し、廃工場に連れてきているという。
「変な拘りを持っている人なので、毒入りお菓子以外では子供たちを殺そうとは思わないみたい。その部分は、みんなにとっては有利かも」
ジャック・パレンタリアが、戦闘中に子供に危害を加えることはないという。また、逃亡されたとしても、特に気にしないようだ。
「子供はいつでも集めることができるし、それよりも自分を襲うみんなの方を排除しようと考えてくれるよ」
廃工場に乗り込み、戦闘に突入してしまえば、子供たちは安全というわけだ。
「戦闘が始まると、子供たちはびっくりして逃げちゃうと思うので、あんまし気にしないでもよいのだ」
戦闘に集中してしまったも問題なさそうだ。
「さっきも言った通り、戦闘を開始すると約10分後にはヴァンパイアさんが来てしまうのだ。ヴァンパイアさんと戦闘になっちゃった場合は、今のみんなでは勝てないと思うし、その後の情勢も悪化しちゃうので、ヴァンパイアさんとの戦闘は避けてほしいのだ」
万が一、デモノイドロードを灼滅する前にヴァンパイアが現れた場合は、戦闘を中断して撤退するのが望ましい。
「あ、そうそう。ジャック・パレンタリアが子供たちにお菓子を渡す前に、接触して欲しいのだ。子供たちが毒入りお菓子を持って帰っちゃったら、大変なことになっちゃうからね。では、にくったらしい神父のデモノイドロードを、バシッと灼滅してきてね!」
みもざは、拳を振り上げた。
参加者 | |
---|---|
火之迦具・真澄(火群之血・d04303) |
文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076) |
イシュテム・ロード(天星爛漫・d07189) |
荒神・番(泣いて笑うバケモノ・d13367) |
上土棚・美玖(中学生デモノイドヒューマン・d17317) |
南谷・春陽(春空・d17714) |
佐々木・陽哉(グリーンヒーロー・d18581) |
安楽・刻(キリングダスト・d18614) |
●
オレンジ色に染まる廃工場から、子供のはしゃぎ声が聞こえる。
灼滅者たちはいったん足を止め、周囲の様子を伺う。
(「デモノイドロードと吸血鬼の依頼、2回目ですの……。やっぱりまだ、怖いです」)
イシュテム・ロード(天星爛漫・d07189)は思う。
彼女の頑張りもあり、1人の負傷者も出すことなく、前回の依頼は完遂した。だが、まだ戸惑いはある。ヒトの意思を持ったまま堕ちるなど、イシュテムからしてみれば理解し難い行為だ。
「でも、頑張りますの」
意気込みを言葉にし、イシュテムは自らを奮い立たせた。
「ごめん、ちょっと無理みたい……」
持参した望遠鏡で廃工場の内部を探ろうとした上土棚・美玖(中学生デモノイドヒューマン・d17317)だったが、残念ながらその目論見は外れてしまった。窓があるので、内部の様子は確認できるのだが、大型の機械が邪魔で、細部まで見通すことができなかったのだ。
走り回っている子供の姿をチラリと捉えはしたものの、肝心の神父の姿は、外からでは確認できない。
だが、全く収穫がなかったわけではない。
工場の内部に、大型の機械が放置されたままだということを事前に知ることができたのだ。これで、作戦が立てやすくなる。
「よし、行こう」
計画通り、文月・咲哉(ある雨の日の殺人鬼・d05076)が先頭に立って、廃工場の内部に突入する。
子供たちの歓声が聞こえた。
最短距離を通り子供たちに接近するのは、そして難しいことではなかったが、彼らは敢えて回り道を選択した。
大型機械の陰に身を滑り込ませ、相手に悟られぬように慎重に接近していく。
「ふぅ……」
装置に背を預け、咲哉は深く息を吐き出す。この機械の向こうに、神父がいるはずだった。
「お菓子ちょうだーい!」
「ねぇ、遊ぼうよ!」
子供たちの声。
仲間たちが、配置に付いているのかを確認する術はない。信用するしかなかった。
――今だ!
咲哉は決断した。神父が子供たちにお菓子を渡してからでは遅い。
(「……気付いてくれよ!」)
そう祈りながら、咲哉は石を宙に投げた。
「Trick or Treat……にはちょっと遅いんじゃないか、神父さん」
装置の間を風のように駆け抜け、咲哉は神父の背後に接近した。
「!?」
神父が気付いたが、僅かに咲哉の動きの方が早かった。愛刀【十六夜】が一閃する。
「ちっ……」
咲哉は小さく舌打ちした。刃が神父の脹ら脛を捉えようとした瞬間、神父が身を翻したのだ。しかし、手応えはあった。脚の腱を切断するまでには至らなかったが、どこかに傷を負わせることには成功したようだ。
「初めまして腐れ神父サマ、腐れ子羊ちゃんたちが懺悔に来ましたよ!」
ヘラヘラしながら、火之迦具・真澄(火群之血・d04303)が声をかけた。
「大きいお友達を呼んだ覚えはありませんね」
やんわりとした笑みを浮かべ、神父は言った。ぐるりを灼滅者たちに取り囲まれているのだが、動じた様子はない。
「早くお家に帰りなさい」
状況が飲み込めず、茫然としている子供たちに向かってそう言うと、南谷・春陽(春空・d17714)は、近くにいた子供の背を優しく押した。
子供たちは本能的に身の危険を感じ取ったらしく、出口に向かって駆け出していく。
「家の飯の方が絶対うまいから帰れ! あと、知らないおっちゃんから物貰うなよ!」
佐々木・陽哉(グリーンヒーロー・d18581)は、子供たちの背中に声を投じた。
「ふむ……。私たちのような者を灼滅して回っている輩がいると聞きます。それらとは別に、吸血鬼が集めているらしいとも。……さて、貴方たちはどちらでしょう?」
神父は腰の後ろで腕を組むと、柔和な笑みを浮かべて背筋を伸ばした。
「噂は知ってるでしょ? アナタをぶちのめしに来たわ」
先ほど子供たちに対した時とは逆に、春陽は凄みを利かせてそう応じた。
「成る程。前者、ですか」
納得したように、神父は首肯する。
「……ですが、私の悦楽の時を邪魔してもらっては困ります」
「ふざけんな!」
真澄が激高する。
「食いモンを悪用、子供を騙くらかす。アタシのブチキレ要素ガッツリだね。許すワケにゃいかねー……ぜってーにブッ倒す!」
「君がいると、困るんだ……。全力で、潰す」
荒神・番(泣いて笑うバケモノ・d13367)が、バイザーを装着した。怒りのために、体温が上昇する。全身にある傷痕からチロチロと炎が漏れ出し、赤く光を放つ。
「死の恐怖に打ち震えながら、苦しみ藻掻く子供の姿を見るのは愉絶。そう思いませんか?」
「何て卑劣なの……許さないわ、絶対」
美玖は武器を構えた。
「外道が!」
陽哉が吐き捨てるように言い放つ。
「お前の趣味のために、食いもんと子供たち犠牲になるなんて……。そんなの、見過ごすわけにはいかねえんだよ!」
「……ほんと、デモノイドロードは碌でなしばっかりだね……」
安楽・刻(キリングダスト・d18614)は吐息を零すようにそう言い、傍らのビハインド
「黒鉄の処女」に、お前もそう思うだろう?という視線を送る。
「黒鉄の処女」は、静かに目を伏せる。
「まぁ……それを望んで殺しにいく僕も、本質的には大差ないのかもしれないけれど、ね……」
刻は神父に向き直った。
春陽のセットしたアラームが鳴り響く。接触から1分が経過してしまったらしい。
「羊は群れたとて所詮は羊。狼には勝てぬ事を教えてあげましょう」
神父の体は、デモノイドへと変貌した。
「貴方、許せないです! 人は実験の道具じゃありませんですの!」
イシュテムが仕掛けた。無数の炎の弾丸が、デモノイドに向かって放たれた。
●
「ひまり! もう少し頑張れ!」
陽哉が相棒のナノナノのひまりを後方から援護する。デモノイドの痛烈な一撃を浴びたひまりに檄を飛ばす。
彼が陣取っているのは、工場の出入り口付近。そこを塞ぐような形で、位置を定めていた。神父を逃がさぬようにする為と、万が一の為の撤退路確保だ。
「普段ならっていうか二次元なら美形鬼畜神父襲い受け萌えー。……なんて言っちゃうかもしれないけれど!」
美玖はDMWセイバーで斬り付ける。しかし、デモノイドは野太い腕でそれを受け止めた。デモノイドの口元が、笑んだように歪む。やんわりとした笑みを浮かべた神父の面影が、そこに重なって見えた。
「その笑顔の仮面、剥がしてやるわ、絶対に!!」
すぐさま体勢を立て直し、デモノイドの脇腹にオルタナティブクラッシュを炊き込んだ。
『ゴッ』
短く呻き、デモノイドは体勢を崩した。
ワンテンポ遅れて、春陽が踏み込んできた。妖の槍を飲み込んだ腕が、美玖が付けた脇腹の傷を更に抉った。
「!?」
自分が思っていた以上のダメージが入ったことで、春陽は思わず息を飲み込む。
「……大丈夫、大丈夫!」
しかし、自らに言い聞かせるように、春陽は口の中で反芻する。
自分のこの力は怖いし、好きにはなれない。だが、相手の悪意を捻じ伏せ、悲劇を止める為ならば、この忌むべき力を使うことを厭わない。春陽は、全身全霊で、自分の中の恐怖を無理矢理捻じ伏せた。
「……大人しくしててよ。すぐ殺してあげるから」
刻が更に追い打ちを掛けた。縛霊手から伸びた霊力が、デモノイドの体に絡み付く。「黒鉄の処女」が刻の動きに合わせて霊撃を見舞った。
『ゴアッ』
蹈鞴を踏んで2-3歩後退ると、デモノイドは右膝を突いた。右の太股に裂傷がある。咲哉の奇襲によって負った傷のようだ。
『グオオオオオ……!!』
デモノイドは雄叫びを上げ、巨大な腕を振り上げた。狙いは春陽のようだったが、それはひまりが許さない。小さな体で、デモノイドの一撃を受け止めた。
すぐさま、陽哉の防護符がその傷を癒す。しかし、既に2回もまともにデモノイドの攻撃を食らっているひまりの傷を塞ぐには至らない。もう一撃食らうと危険な状態だが、仲間たちは攻撃を優先した。
既に戦闘開始から6分が経過していた。残り時間はあと僅か。そして、今はこちらが優勢だ。ここで畳み掛けねば、タイムリミットがきてしまう。
戦いの最中でも、1分が経過した毎にアラームが教えてくれた。とはいうものの、必死に戦っている状態では、アラームの数を数えている余裕はない。時間の経過は、やはりタイマーをセットした者たちの確認に頼らざるを得ない。
「俺の怪我? それがどうした。犠牲者の無念、じっくりその身に刻んでやるよ」
右腕を負傷していた咲哉だが、構わずにフォースブレイクを打ち込む。怒濤の如き連打を受けたデモノイドの皮膚が凹み、注入された魔力が強固な鎧を砕きながら爆裂した。
「子供を殺したんだ、これぐらい覚悟してるんだろ?」
咲哉は、普段は見せぬ冷徹な笑みを浮かべてみせた。犠牲になった子供たちのことを考えると胸が痛む。たっぷりと恐怖を味合わせてやらねば気が済まない。
続けざまに、番と真澄の攻撃が襲い掛かる。
「見せてやるよ、アタシの真っ赤な炎をさ!!」
番の妖冷弾によって凍て付いた腹部に、真澄の炎が覆い被さった。
『グギァァァァ!!!』
たまらず、デモノイドが悲鳴を上げた。
それでもデモノイドは反撃してきた。岩の如き拳が、刻の左肩をゴリゴリと砕く。
『ゴアアア!!』
苦痛に歪む刻の表情を見て、デモノイドは興奮したような雄叫びをあげた。
「とことん下男な神父だね」
まるで汚物でも見るように、真澄は顔を顰めた。
●
『グオオオオ……!!』
狂ったような咆哮をあげながら、デモノイドが突進する。丸太のような腕が、再び刻に迫る。「黒鉄の処女」が強引に割り込んできた。デモノイドの攻撃を全身で受け止め、刻を守る。
「すまない」
刻は「黒鉄の処女」の背中に小さく声を掛けると、脇をすり抜けるようにしてデモノイドに肉薄する。
「……魂まで、凍り付け……」
零距離で妖冷弾を放つ。
仲間たちが呼吸を合わせてくれた。咲哉が、真澄が、イシュテムが、春陽が、美玖が、そして、番と陽哉が、同時に渾身の一撃を放った。
凄まじい衝撃が、廃工場を揺さぶった。
「ぐっ……ぐはっ」
もはやデモノイドの形態を維持できなくなったジャック・パレンタリアは、「人」の姿へと戻り血反吐を撒き散らした。
「あと1分よ!」
春陽が叫ぶ。目標とする8分が迫った。しかし、まだデモノイドは健在だった。だが、灼滅者たちは確信していた。次の攻防で決められるはずだと。
「こいつは逃しちゃいけない」
陽哉が静かに言った。
「……羊の群れが、狼を踏み潰す……か」
神父はそれでも、柔和な笑みを崩さなかった。
「怖いか? ここで終わりにしてやるんだ、有り難く思えよ」
咲哉が【十六夜】を構えた。
「ねぇ、まだ生きたい?」
刻は笑みを浮かべながら問い掛けた。
「バケモノどもが、同じバケモノの私を始末しますか……。それも一興」
「バケモノ……?」
番の体の傷跡から、凄まじい炎が噴出する。それを見て、神父は満足そうに笑んだ。
刹那――。
黒い影が神父を飲み込んだ。
「ごふっ」
ジャック・パレンタリアは再び血反吐を吐くと、その場にバタリと倒れた。
「……迷える子羊たちに、神の祝福があらんことを」
神父は最期まで柔和な笑みを崩さずに、そして事切れた。
「な、んで……」
陽哉は怯えたように体を震わす。血や死へ対しての無意識な怯え。
「大丈夫……オレだって……!」
深呼吸をし、顔を上げた。ひまりが誇らしげな表情を浮かべて、目の前をふよふよ漂っていた。
●
「8分ですの!」
イシュテムが時間を知らせてくれる。撤退の時間だが、まだ灼滅者にはやるべきことがあった。
「食いモン……しかもお菓子使って悪さしたバツさ。懺悔は聞かねェよ」
真澄は吐き捨てるようにそう言いながら、散らばっているクッキーを拾い集めた。番と協力して、クッキーを炎で焼き尽くす。こんな忌まわしいお菓子を、このままにしておいてはいけない。
美玖はクッキーを神父の亡骸の口に突っ込んでやろうかと考えたが、思い止まり、炎の中へと投げ捨てた。
「急ぐぞ」
咲哉が仲間たちを促した。
やるべきことはやった。これ以上、この場に留まるのは危険だ。
灼滅者たちは、廃工場を飛び出す。
数十メートル向こうに、制服を着た女の子の姿が見えた。サイドテールが揺れた。こちらに気付いたようだ。だが、この距離ならば無事に逃げ切れそうだ。
「こっちへ」
春陽が撤退方向を示し、先頭に立つ。刻は「黒鉄の処女」に殿を指示し、春陽の後を追った。
「あの子が……」
ヴァンパイアの女の子かと、陽哉は呟いた。ひまりはふよふよと移動し、殿の位置に付いた。
「銀髪の高校生さんは、今回はいないのでしょうか……」
イシュテムは周囲に視線を走らせたが、それらしき人影はない。どうやら、女の子一人のようだ。
全力で廃工場から遠ざかる。
チラリと背後を振り返ってみたが、ヴァンパイアの女の子が追ってくる気配はなかった。
どこからか、夕方の5時を告げる放送が聞こえてきた。
子供たちが、我が家に向かって駆けていく姿が見える。
楽しげに笑う子供たちの声が、耳に心地よかった。
作者:日向環 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年11月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 12/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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