秋茄子は嫁に食わすな

    作者:佐和

     新潟県のとある八百屋にて。
    「もし、店主」
    「はい、いらっしゃい」
     声をかけられて、おじさんは反射的に答えながら振り向いた。
     そこに立っていたのは、黒い女性。
     短く外側に跳ねた髪も、さした日傘も、長袖の上着もロングスカートも、全て黒。
     いや、よく見ると、服や傘は光の加減で紫色にも見える。
     なかなか見ない格好の客にちょっとおどろいたおじさんに、女性は気にせず問いかける。
    「茄子は、ございますか?」
    「あー……いや、ないねぇ」
     収穫全盛を過ぎ、仕入れ量も少なくなった茄子が、今日はもう売り切れているのをちらりと見て、おじさんは少し申し訳なさそうに答えた。
     途端、女性がその場に崩れ落ちる。
    「ああ……そんな……
     私に売るような茄子はないと言われますの!?」
     そしてそのまま、よよよ、と泣き崩れて。
    「日本には『秋茄子は嫁に食わすな』という悪しき風習があると聞きましたが、本当だったのですね」
     1人、悲劇のヒロインよろしく舞台を作り上げている女性に、おじさんは呆気に取られて立ち尽くす。
    「これは由々しき事態ですわ。
     ここは1つ、ロシア茄子怪人の私、バクラジャンが、日本の女性のために、ロシアの茄子文化を広めてさしあげますわ!」
     そんなおじさんの前で、女性……ロシア茄子怪人はすっくと立ち上がり、何もない空に向けて日傘を持った手を高々と掲げると、そう宣言した。
     何となく、勢いにつられてぱちぱちと気のない拍手をするおじさんに。
     怪人はくるりと振り向き、再び問いかけた。
    「……で、店主。女性が集まる場所、近くにございますかしら?」
     
    「それで、近くのカルチャースクールを乗っ取って、主婦とかに茄子料理を広めてるんだって」
     教壇の上に乗ってぴこぴこ足を振りながら、笑屋・勘九郎(もふもふ系男子・d00562)が説明する。
     その足元では、八鳩・秋羽(小学生エクスブレイン・dn0089)が茄子料理をもぐもぐ食べています。
    「ちなみに、新潟って茄子の作付面積日本一なんだよ」
     知ってた? と問う勘九郎に、灼滅者ほぼ全員が首を横に振った。
     ほとんど自分達で食べてしまうこともあり、出荷量としてはあまり多くなく、そのため茄子産地として全国的にはさほど知られていないようだ。
    「新潟の茄子は露地栽培ばっかりだから、収穫期は6~8月。
     ちょっと今は時期外れになっちゃうんだよね」
     残念そうに言う勘九郎だが、ロシア茄子怪人はそんなことを構いもしない。
     一年中、日本の女性が茄子を食べられるように、とロシア化を進めているのだ。
     淳・周(赤き暴風・d05550)が予想したロシア風怪人の出現の一端である。
    「まあ、食べたい時に食べたい物が食べれる、ってのはいいことなんだけど……」
     野菜苦手な勘九郎が、ちょっと苦笑しました。
     怪人相手では、食べたくない者も食べることになっちゃうのが常ですね。
    「ってことで、皆に向かってもらうのは、そのカルチャースクール。
     その日の授業前、怪人が材料とかを準備しているところに乗り込むよ」
     スクールが始まる前なので、生徒はまだ来ていない。
     また、怪人もロシア文化を広める対象である一般人を巻き込むことをよしとしないため、戦闘に巻き込まれてしまうことはないだろう。
     戦闘場所となるであろうスクールの教室は、学校の家庭科室をイメージしてもらえばいい。
     もちろん、茄子がたっぷり用意されている。
    「怪人は茄子を投げつけて攻撃してくるんだ。
     調理前の茄子か、調理後の茄子か、って違いがあるくらいかな」
     調理前のは、調理後に比べて受けるダメージが大きい。
     だが、調理後の茄子は食べれてしまうため、その美味しさに【パラライズ】の効果がつく。
    「あと、料理する怪人だから、炎を使った攻撃と、包丁を使った攻撃もあるみたい」
     どうやら灼滅者も調理されてしまう可能性があるようです。
     まあ、説明はこんなもんかな、と勘九郎は手元のメモを手に、ふんふん頷いて。
     ふと、足元を覗き込む。
    「そういえば、さっきから何食べてるの?」
     問いかけに、秋羽は顔を上げて、
    「……茄子のイクラ」
     端的に答える。
     ロシアの、定番茄子料理『茄子のイクラ』。
     怪人が投げつけてくる調理後の茄子がこれになるのだという。
     茄子の他、ズッキーニやニンジン、タマネギなどの野菜を細かく切って、炒めて煮詰めた料理だ。
     味付けはトマトペースト主体なので、トマト煮に近いかもしれない。
     素材の形を残すものもあるがペースト状のものが多く、瓶詰めでよく市販されてもいるらしい。
     パンに乗せてよし、グリルした鶏のソース代わりによし、ブイヨンを加えてスープにしてもよし。
     用途も多い、茄子の旨味が出て美味しい一品だが。
    「……何で『イクラ』?」
    「……さあ?」
     ロシアの謎に、勘九郎と秋羽は揃って首を傾げたのでした。


    参加者
    笑屋・勘九郎(もふもふ系男子・d00562)
    ジャック・アルバートン(ヒューマノイドベビータンク・d00663)
    奥村・都璃(黎明の金糸雀・d02290)
    城橋・予記(お茶と神社愛好小学生・d05478)
    ルナエル・ローズウッド(葬送の白百合・d17649)
    廻谷・遠野(ブランクブレイバー・d18700)
    風輪・優歌(ウェスタの乙女・d20897)
    杉山・由佳理(孤高の女子ドラマー・d20933)

    ■リプレイ

    ●秋の茄子
    「な、なんてはたメーワクな怪人なんだ……
     茄子無理やり口にねじ込まれたら美味しくてもトラウマになっちゃうだろー!」
     件のカルチャースクールが入った建物を見上げて、笑屋・勘九郎(もふもふ系男子・d00562)は怒りに震える手を握り締めた。
    「ていうか! 野菜は敵! 食べたくない!!」
     以上、野菜嫌いの一方的な主張でした。
     隣でその様子を眺めていた奥村・都璃(黎明の金糸雀・d02290)は、ふむ、と頷いて。
    「笑屋君が茄子嫌いで、怪人が茄子好きだと言う事はなんとなく分かった。
     が、やっている事がずれている気がするな……」
     怪人のやる事だからそんなものか? と複雑な表情を見せる。
    「私も、いつもどこかずれてる気がしてるのよね。ご当地怪人の世界征服の仕方、って」
     奇遇と言わんばかりに進み出たのは、ルナエル・ローズウッド(葬送の白百合・d17649)。
    「個性豊かすぎてある意味凄いけど、押し付けるだけの広め方は迷惑だし意味がないのにね」
     ふっと微笑んだルナエルに、都璃は再び頷いた。
    「確かに、相変わらず怪人は面白いし時に有用ではある。
     だが、行き過ぎては困るのも確か。異文化交流で済んでいる、今のうちに灼滅だな」
     そこに頭上から降ってきたのは、長身のジャック・アルバートン(ヒューマノイドベビータンク・d00663)の声。
    「異文化交流自体は否定しないけれどダークネスが絡むなら話は別よね」
     ルナエルは肩口にかかった長髪を手で払うと、銀色の輝きがふわりと舞って。
     隣に立った風輪・優歌(ウェスタの乙女・d20897)の艶やかな黒髪と共に風に揺れる。
    「食文化の交流には心惹かれますが、語り合い学び合う、そうできる相手ではないことも分かっています」
     憂うような表情で優歌はすっと目を伏せる。
     対照的に、廻谷・遠野(ブランクブレイバー・d18700)は元気よく飛び込んで。
    「私達には私達の愛が、文化がある。
     それでも正しいと思うなら、君の文化を魅せつけてみろ!
     ヒーローとして、応えてあげようじゃないか!」
     怪人のいる建物へと指を突きつけた。
    「『秋茄子は嫁に食わすな』は『茄子は体冷やすから大切な嫁には食べさせちゃいけない』っていう説もあるよねー」
     これって文化? と杉山・由佳理(孤高の女子ドラマー・d20933)は考えたものの。
    「そんでもってごま油で炒めるとウマーだよねー」
     難しいことより単純な美味しいモノに惹かれて、表情を綻ばせる。
    「パラライズを受けちゃうくらい美味しい茄子……
     き、気になるけど、倒さなくちゃ!」
     城橋・予記(お茶と神社愛好小学生・d05478)の瞳もキャスケットの下でキラキラと輝いていた。
     そうして、集まった灼滅者達は建物へと入っていく。
     都璃は閉めた入り口のガラス扉の鍵をかけて、予記がそこに張り紙をする。
     紙に書かれた文言は『本日の授業は臨時休校です』。
     教室にスクールの生徒はいないが、万が一にも被害が出ないように、念のための対応だ。
    「なるべくなら教室の方も汚さないで戦いたいなぁ……」
     怪人のいる教室を目指して歩きながら、勘九郎がぽつりと皆の思いを呟く。
     教室とはいえ料理を作る調理場。確かに、汚したくない場所ではある。
     そのためにも、と由佳理は柔道着の帯をぎゅっと結び直して。
    「怪人はチャチャチャと灼滅しますかー」
     かけた声に、仲間達はそれぞれ頷いた。

    ●ロシアの茄子
     乗り込んだ教室で、スクールの教師役たる女性と灼滅者達は対峙する。
     紫がかった黒色のドレスの上からエプロンを付けたその相手こそ、茄子怪人・バクラジャン。
     灼滅者達の様子から戦いを悟った怪人は、包丁と茄子を手に身構えた。
    「ご当地怪人の愛の力、存分に見せてもらおう!」
     その足を狙い、ジャックが刀を力強く振り抜いて。
     青いオーラを纏った予記の拳が立て続けに打ち込まれる。
     その場が戦場となったことを確認して、都璃は念のためにとサウンドシャッターを展開した。
    「行っくよー!」
     炎の剣を手に飛び出した勘九郎の声に合わせるように、遠野のガトリングガンが火を噴く。
    「あなたがなさっていることは、私たち日本女性には不要なものです」
     シールドを展開した手で怪人へ殴りかかりながら、優歌は言葉でもその気を惹きつける。
    「私たちは我慢してでも男の方にしっかり食べてもらうのが日本の習慣ですし……」
     どうやら怪人が誤解しているらしい『日本の悪しき風習』を受け入れている女性を演じ、理解できないというように優雅に首を振って見せた。
     漆黒の髪と日本女性らしさを心がけた服装も相まってか、それは怪人に素直に受け取られて。
    「そんなことではいけません。美味しい料理は、台所を守る者こそが食するべきです」
     怪人の手から前衛陣へと投げ放たれたのは、優歌の狙い通り、ロシアの定番茄子料理・茄子のイクラだった。
     ペーストに近いその茄子は、大した衝撃もなく灼滅者達へと飛び行き。
    「あ、やっぱり美味しいや」
     トマト大好きな予記は、幸せそうに表情を緩ませながら味わってみる。
    「これが『茄子のイクラ』か。私も初めて聞いたが、美味しいものなのだな」
     同様にその味を確かめた都璃も、うんうんと頷いた。
     初めての料理と美味しさに、優歌の頬もふわりと緩んで。
    「く、でも、お料理の誘惑に負けるなんてはしたない……」
     美味しさにかまけて戦えなくなってはいけないと、慌てて首を横に振る。
     そんな肯定的な反応に、怪人は満足そうに頷いた。
    「これこそがロシアの茄子!
     いつでもこの美味しさを味わえるように、茄子のイクラを広めてみせますわ!」
    「ん、いいね! ストレートにご当地愛に溢れた怪人は嫌いじゃないよ」
     後方に下がっていた遠野は、ぐっと指を立てて怪人に笑いかける。
    「けどね、それは他人に愛を押し付けていいって理由にはならないのさ!」
     その遠野の言葉に応えるように、同じメディックの由佳理が、ナノナノのイコールと共に、予記と都璃へ歌とハートを届けた。
     回復の手が届かなかった優歌には、予記のナノナノ・有嬉がハートを飛ばす。
    「たまたま茄子が売り切れてただけで今のご時勢、旬が分からなくなりかねないほど通年で色んなものが出回ってると思うんだけれど……」
     槍を手にしたルナエルが、回復の時間を稼ぐように怪人へとその穂先を鋭く突き出して。
    「と言っても無駄でしょうね。ご当地怪人はちょっと血の気を抜いた方がいいレベルで情熱的よ」
     攻撃の合間に、ふぅ、と呆れたようなため息1つ。
    「茄子は食べたくない食べたくないたべたくなーい!」
     その目の前を、必死な勘九郎がその目の前を走り抜けて行った。
     野菜嫌いを公言していた勘九郎は、ディフェンダーなのに庇うどころか必死で茄子を避けています。
    「笑屋君、好き嫌いはよくないぞ。一度食べてみたらどうだ?」
    「とりちゃのいじわるー!」
     都璃の言葉にも、勘九郎はぶんぶん首を横に振って逃げ回る。
     その様子を視界の端に捉えていた怪人は表情を引きつらせて。
    「そんなに嫌がることはございませんわ」
    「あいたぁっ!?」
     調理前の茄子が直撃した頭を抱えて、勘九郎はその場にしゃがみ込んだ。
    「固いですね」
     優歌も驚いたように飛び来た茄子を眺める。
    「ロシアの茄子は、軟弱な日本の茄子とは違います」
     得意気に笑う怪人に、このままダメージの大き目な攻撃を続けられるわけにはいかないと、灼滅者達は頷き合った。
    「俺は、茄子のイクラの味に興味があるな」
     上段に構えた日本刀を振り下ろしながらジャックはそう声をかけ、
    「もう1回味わわせてよ!」
     予記も言葉と共に掌に集めたオーラを撃ち放つ。
     美味しい攻撃を誘う作戦は、被ダメージの上では選択されて当然の戦法である。
     悲鳴を上げたのは勘九郎のみ。
     そこに再び茄子のイクラが飛来する。
     野菜なんか死んでも食べない! という信念を持っていた勘九郎だが、重なる攻撃にさすがに避けきれず、口の中へと飛び込んできた茄子のイクラに思わず倒れ伏した。
     だがしかし、ペースト状によく煮込まれたそれに勘九郎が苦手な食感は残っておらず。
    「……あれ? 美味しい?」
     勘九郎は不思議そうに首を傾げた。
     幸せそうな予記と怪人が、そうだろうと言うように頷きました。
     都璃ももぐもぐと口を動かしながら、炎を纏った刃を振るって。
    「しかし、料理を食べて貰いたいからといって、武器として投げ付けてくるのはどうなんだろうか?」
     勘九郎と同じ様に、だが違う点について、首を傾げる。
     その後ろで、由佳理も、うーんと考え込んで。
    「しかしなんであれがイクラ? そんでロシア?」
     こちらでもさらに違う疑問が発生中。
    「私もそれが分からなくてね」
     茄子のイクラを食す前衛陣を優しい風で癒しながら、遠野も苦笑した。
     そのまま視線を怪人に投げかけて、
    「教えてもらえるかい?」
    「どう見てもイクラですけれども……ああ、これが文化の壁というものですのね。
     でも私、挫けませんわ。そんな疑問すらも打ち払ってみせます!」
     泣き崩れたと思ったら勝手に立ち直って決意する怪人に、ルナエルはまたため息をついた。

    ●日本の茄子
     そして茄子のイクラをかいくぐり、灼滅者達は攻撃を重ねていく。
     ダメージよりもBSが積み重なることを憂慮した優歌は、仲間に耐性をつけることを心がけ。
     遠野は浄化をもたらす風を呼び続ける。
    「こうやって誰かを守るのだって、立派なヒーローの仕事だからね!」
     回復役に徹しながら笑って見せると、怪人の邪魔な者を見るような視線が遠野を捕らえた。
     その視線を辿るように走った炎が、遠野を襲い、纏わりつく。
    「ちょっとあんた! いたいけな学生いじめて何が楽しいんや!
     あたしがウロボロスブレイドでペシるから覚悟しとき!?」
     由佳理が怒りに口調すら変えて、言葉の通りに連結刃を振るうと、主の代わりにと進み出たイコールが、有喜とのナノナノコンビを組んで、遠野をふんわりとハートで覆う。
    「私達は簡単に調理される訳にはいかない」
     食べてばかりもいられないと、都璃は怪人の懐へと飛び込んで拳の連打を叩き込んだ。
     そのまま離脱する都璃を怪人は追いかけて、だが不意に横手へと何本もの包丁を投げ放つ。
     包丁の向かう先にいたジャックは日本刀で受け止めんとするが、その全ては止めきれず、鋭い刃が腕の筋肉をいくつも切り裂いた。
     だが、避けきれないなら返すのみ、と言うようにジャックは傷を意に介さず前へ出て、その巨体の重さを乗せた一撃を繰り出す。
    「人に刃物や火を向けたり茄子を投げたり……
     人として大切な事が守れてない怪人がどんなに食材愛を説いたって、人の心に響かないよっ!」
     予記の青いオーラが軌跡を描いて怪人に突き刺さり。
    「一先ず『茄子のイクラ』の知名度は上がったが、良い印象で、とは言い難いだろうしな」
    「トラウマになっちゃうところだったよー」
     しみじみ頷く都璃と勘九郎が、揃って拳を打ち出して。
    「実りに感謝する気持ちを忘れた人に料理をする資格はないわ」
     ルナエルのロッドが振り下ろされる。
    「包丁も料理のための道具であって人を傷つけるための道具ではないのだし」
     魔力の爆発に煌く銀の髪。
     その煌きの中を進み出たのは、優歌。
    「あなたが正しいとは思わない。
     でも、あなたは私達日本人女性を案じ、そしてその食文化を与えようとしてくれた……」
     その気持ちだけは敬えると、真っ直ぐに怪人を見つめて。
     倒す相手だけれども、せめてその味わいと共に覚えておこうと、優歌は思いを告げる。
    「あなたを私は生涯、師と思います」
     だからこそ全力で、優歌はチェーンソー剣を振るい、怪人を斬り裂く。
     ジャックが付与し続けていたBSをさらに増やし、怪人の動きが鈍くなったところで。
     ダメ押しのように遠野の影が怪人を捕らえた。
    「守るヒーローだからって、自分で攻撃しないとは言ってないからね!」
     前言を撤回するような行動に、遠野はぱちんとウインク1つ。
     さらに由佳理のウロボロスブレイドが伸び、怪人へと巻きついて。
    「くっ……まだ私には、成すべきことが……」
    「行くよっ! とりちゃ!」
     振り払おうとする怪人へ、勘九郎とその声に合わせた都璃が飛び込んで。
     同時に放たれた対の刃から燃え移った業火は、倒れ伏した怪人を燃やしつくした。

    ●茄子のイクラ
     戦いを終えた灼滅者達は、教室内の片付けにとりかかった。
     各々気をつけていたとはいえ、暴れた場所が綺麗なはずがない。
     粗方片付いたところで、ふと、予記は準備されていた食材を見つめた。
     そこに横から伸びて来た手が、ひょいと茄子を掴み上げる。
    「なんとなく、食べたくないか?」
     振り向くと、茄子を掲げた都璃が笑っていて。
     その笑顔に背中を押されるように、予記は思ったそれを口にした。
    「茄子のイクラ作り、挑戦してみたいな」
    「うむ。いい考えだな」
     ジャックも満足そうに頷いて。
    「ここに調理法が書いてありましたよ」
     優歌は見つけたレシピを予記の元へと持っていく。
     そして料理教室が始まった。
    「和風の焼き茄子とか和食の茄子も美味しいよね」
    「うっ……茄子の食感があるのは、やっぱり嫌だっ!」
     刻まれてる茄子を眺めながら、日本の茄子にも思いを馳せる都璃に、勘九郎は首を横に振る。
     茄子のイクラは食べれたけれど、野菜嫌い克服にはまだ遠いようです。
    「茄子への気持ちは愛だったけど、それを他人に押し付けようって考えは、やっぱり愛じゃないんだよ」
     遠野は、レシピの紙をぴらぴら仰ぎながら呟いて。
    (「……帰ったら、練習してみようかな。彼女の愛を覚えておくためにも」)
     そう思って、ふっと笑う。
    (「お嫁さんではないけどね」)
    「しかし、何でイクラ?」
     由佳理は未だ解けない謎に再び首を傾げていた。
    「ロシア語で、野菜を細かく刻んで煮込んでペースト状にした料理のことも『イクラ』と言うらしいわ」
     まさかの答えに由佳理が驚いて振り向くと、そこに佇んでいたのはルナエル。
    「魚の卵、じゃなくて?」
    「私も最初、そう思ったけれどね。つぶつぶした細かいもの、っていう意味もあるらしいの」
     結構面白かったわよ、と調べたことを話すルナエルに、由佳理は興味深々聞き入った。
     その間にも、調理組の作業はてきぱきと進んでいて。
    「このような感じでしたでしょうか?」
     調味料で味を調えていた優歌が、隣へと問いかけると、
    「そうだね」
     頷きながら、予記はぺろりと味見をする。
     口の中に広がったのは、先ほど知ったばかりの異国の味。
    (「……この美味しさ、ボク達がちゃんと伝えて行くからね」)
     こちらを伺う優歌に頷いてから、予記は小さく微笑んだ。
     

    作者:佐和 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年11月19日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 6
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ