白い毛玉は殺人モンスターの夢を見るか

    作者:池田コント

    「へへ……どんな怪物だろうとかかってこいよ。アクションゲームなら負ける気がしねえ……俺に勝てるやつは俺だけだ!」
     と、自信満々だった水峰君の前に現れたのは、白い毛玉のような生き物達。
    「なん、だと……!?」
     まんまる。ふわっふわ。
     動揺する水峰君の足元に、小さな手足でちょこちょこやってきて、電撃ぱちぱちしたり、体当たりしてきたり。
    「これが敵だっつーのかよ。ケッ……こんなやつら一撃で……」
     もきゅ?
     もきゅもきゅ?
     遊んでくれりゅ?
    「……倒せるかよ、バカヤロー! 好きだー! 大好きだー!」
     
     
    「えぇ、肌の白いは七難隠す……ってぇと、色白の肌なら多少の欠点は気にならない。美人の条件なんてぇ意味でございますが、はてさて白い素肌じゃなく白い毛玉となると、それにあてはまるんでしょうか。まぁ、確かに、白くて、小さくて、ふわふわとしたもんとくりゃ、ひょっとしたら、そいつはとてもかわいいもんなんじゃねえかと想像するのは難しくないもんですが」
     前口上を述べて調子を整えると、落合・文語(高校生エクスブレイン・dn0125)ことラクゴは依頼の説明を始める。
     博多で妙な機械を受け取った人間が悪夢に囚われる事件がまた予測された。HKT六六六の仕業と思われる。
     悪夢を見ている人間は、望んでその機械を使用しているようだ。
     その機械はどうやらシャドウの力を利用しているらしく、使用者は大勢の敵を殺し続けるゲームのような夢を見る。
     どうやらこの夢を見ている人間を闇堕ちさせようとしているようだが……この青年は最初の低級モンスターが出現した段階でそのかわいらしさに心奪われてしまったらしい。
     このまま放置した場合、彼がどうなるのかはわからないがよくない結果になることは目に見えている。
     彼の夢の中に入り、この夢を終了させてきて欲しい。
     彼が目を覚ませば機械は機能を停止するようだ。
     なお、今回、謎の機械を媒介することで、灼滅者であるならば、この夢の中に入ることができるようだ。
     説得は簡単だ。もう既に水峰君は戦うことを諦めていると言ってもいい。
     むしろモンスターを倒すことを止めようとしてくるかも知れないが、まぁ、大丈夫。
     かわいいものは他にもある。ここは涙を呑んでもらおう。
     毛玉モンスターは二十体いる。少し数は多いし、頭にVの字がついたものや羽の生えたものなどバリエーションはあるが、どれも弱い。倒すのは簡単だろう。
     最低限、水峰君にこれ以上ゲームを続けないこと、HKTの誘惑に乗らないことを約束させたらさっさと倒して構わない。

    「それと、これはそれほど高い確率じゃねえ話なんだが……」
     悪夢に囚われた彼を救出したことを察知した六六六人衆が夢の中に現れる可能性がある。
     その頃には彼の救出は確定しているので、無理にその敵と戦う必要はないが、その辺りは現場の判断に任せる。
    「と言っても、今のところ、夢の中でそいつと出くわしたって話は聞かねぇ……本気でそいつとやり合おうって酔狂には悪いがな」
     臨海学校では序列持ちの六六六人衆と遭遇したという報告もある。

    「お前さん方にとっちゃこれくらいはガキの使いのようなものかも知れねぇが、これも灼滅者の仕事だと思って一つよろしく頼む」


    参加者
    秋篠・誠士郎(流青・d00236)
    鬼無・かえで(風華星霜・d00744)
    榎本・哲(狂い星・d01221)
    梅澤・大文字(ほのおタイプ・d02284)
    堀瀬・朱那(空色の欠片・d03561)
    音鳴・昴(ダウンビート・d03592)
    雲母・凪(魂の后・d04320)
    篠宮・一花(妄想力は正義・d16826)

    ■リプレイ


     水峰が見たのは白い線。
    「いや、違う! あれは……」
     白い毛玉達が列をなして行進してくる。
     もきゅ!
     もきゅ!
     もきゅ!
     一糸乱れぬ整列は、先頭の毛玉の合図「もきゅ~……もっきゅっきゅ!」でピタリと止まり、すぐに散開。
     地面に水玉模様を描いた毛玉達の円らな瞳が水峰を見上げている。
    「こいつらは……」
    「モンスターですよ。貴方を殺そうとする、ね」
     振り返ると、そこには灼滅者達が居並んでいた。

     雲母・凪(魂の后・d04320)がこの世界についてきちんと説明している間、篠宮・一花(妄想力は正義・d16826)は屈んでじっと毛玉を見つめる。
    (「んー、この白い毛玉、どっかで見たことあるような?」)
     確かに可愛いし、気に入るのもわかる。
    「しかし、これを見ていると懐かしいような気持ちになるから不思議だ」
     秋篠・誠士郎(流青・d00236)の言葉に、梅澤・大文字(ほのおタイプ・d02284)も顔を歪める。
    「おれもだ。なんか既視感あんだよな、この毛玉……なんだかおれの生まれる前の遠い遠い昔に……うっ頭が!」
     軽い頭痛。その様が中二病的でナイスだと思ったのか、一花がすぐに真似をする。
    「ぐっ……思いだせん。古の制約が我が記憶を縛るか」
     堀瀬・朱那(空色の欠片・d03561)も鬼無・かえで(風華星霜・d00744)も毛玉を不思議そうに、音鳴・昴(ダウンビート・d03592)も面倒くさそうに見てる。
     白いマリモ? 長い毛のネズミ?
     そうだ名前をつけよう。毛玉ネズミ? 毛ラット? モウラット……?
    「つーか、お前ら毛玉見すぎ」
    「はっ! こうしている場合ではなかった。水峰の説得をせねば」
     榎本・哲(狂い星・d01221)の言葉で誠士郎は我に返り、水峰に向き合う。
    「ここがアクションゲームならば分かるはずだ。アクションに危険はあるもの、今は良くても強いモンスターも現れるだろう。お前も殺される……そうなっては困るのだ。それに……」
    「あっはっは、こいつぅやるじゃねぇかぁ~このもふもふめぇ~」
    「……って聞いていない!」
     水峰は毛玉に夢中か? 夢中だ!
     と思ったら毛玉をポンポン叩きながら一言。
    「危険が怖くてゲームができるか」
     次に口を開いたのは一花だ。
    「くっくっく、無知蒙昧なる輩よ。そなたは気付いていないな?」
    「なに……?」
     ばさぁっ!
     マントを翻す。
    「くはは、ならばこの蒼刃の魔王が教えてやろう。そなたは既に敵の術中にあり、やがて取り返しのつかぬ魔道へと堕し手遅れになるぞ? 今ならばまだ……」
    「魔王ごっこはよそでやれ」
    「ご、ごっこじゃないもん! 魔王だもん!」
     朱那は一足早く毛玉とスキンシップ。
     まーんまる。ふわっふわ。気持ちいい。
    (「こんなけしからん毛玉をけしかけるナンて……」)
    「水峰、水峰」
    「ん?」
    「よくやった!」
    「ほめるな」
     サムズアップを決めた朱那は、
    「だが、この白いもふもふな、ココにいる限りじわじわキミを蝕んでいくンよ。ダカラこれから起きる事は耐え難いかもしれないケド! ひとつ、涙をのんで……!」
     まるで自分に言い聞かせるようにそう言った。
     涙を呑んでもらわないといけない。
    「いいか、嬢ちゃん、覚えとけ」
     水峰は朱那へと視線を向け、
    「涙は飲み物じゃねぇ。男の涙はこらえるもんだ」
    「え、なんか毛玉をものすごく撫でながらかっこよさげなこと言ってる!」
     大文字は腕を組んで首を振り、
    「……まったく。その通りだな!」
    「番長が同意した!?」
     哲はあくびをかみ殺しつつ、
    「涙っつーか、泣くものじゃなく泣かせるもんだろ」
    「え……ドS発言ですか?」
     閑話休題。大文字は声をはりあげて水峰を指差す。
    「おいアンタ! このゲームは夢だ! 陰謀だ! これ以上続けんのは危険だ、お前の精神を壊す恐れが……」
    「それじゃなにして遊ぼっか~。ぼくちんがなんでもしてあげまちゅよ~」
    「……うん。もう既に壊れかかってるかな。別の意味で」
    「つーか、よくそんなに可愛がられるよな。理解できねー。毛玉単体でわさわさ出て来られてもよ……毛玉ってこう、女の子のオプション的なもんなら可愛いけど」
     哲のその発言を聞いて、顔をつき合わせて緊急会議を開く毛玉達。
     そそっと一花に寄っていく。
     なぜなら一花は小学生。
     魔法少女適齢期。
     ぼきゅと契約して魔法少女になってよ。
    「パクッてやがる! 白いけど違うから!」
     毛玉達のお願い視線を受けて、一花は満足そうに笑い、
    「フハハハハ、我に恐れをなし、自ら眷属となりにきたか! 仕方がない、我が軍門に下ることを許そうではないか!」
     あ、そだ。違う。この子違う。魔法少女じゃなくて魔王だった。
     かえでは毛玉の一匹を拾い上げる。彼女もまた小学生。その上、髪が白くて見た目の上では毛玉との親和性は高かった。
    「君が戦いを放棄したくなるぐらいのかわいさなのは、ひっじょうに、とても、すごく、これといってない以上に理解できる。でも、そう思えるのは君が今君であるからなんだ、よ。こんなゲーム飛び出して、現実で可愛いものを抱きしめようよ……」
     ドキン。
     水峰は言葉をなくし、よろよろとかえでに近寄り、その頭にポンと手を置いた。
    「え、なに……?」
    「あ、いや……悪ぃ」
     水峰はかえでから視線をそらす。日焼けた顔が赤い。その手からはいつのまにか毛玉は転げ落ちていた。
    「まー、なんつーの。ゲームって安全に楽しくやるもんじゃん? お前の命やら何やらにまで害が出るのってなんか違くね?」
    「あ、ああ……そだな。正直全然危機感ねーけど、お前らの言うこと信じるわ」
    「どうやら納得していただけたようですね」
     まぁ、水峰はごねていただけで、実は凪が最初にきちんと説明した事で説得自体は成立していたのだけれども。
    「つか夢は夢だろ。どうせ遊ぶんなら、現実の相手した方がよくね? ほら、ましろだっているのにな?」
     昴が見せたのは霊犬ましろ。ボーダーコリーという犬種で真っ白もふもふ。大人しいよい子だが、戦うときはキリッと自分の仕事をするイケわんこだ。その上、毛玉と違って手足もしっぽも、もふもふもふ。これはもふるしかありませんよ奥さん。
    「うちの花もいるぞ」
    「きゃんきゃん」
     誠士郎の霊犬花は、まつ毛のある雌の柴犬。白いコートと帽子で冬を先取りコーディネート。人懐っこい性格のようで、しっぽを盛んにふりふり。これで遊ばなきゃ男じゃない。
    「我が眷属に比べればまだまだ」
     一花が連れてきたのは、ナノナノのアンドレアルフス。ふよふよと浮いて大変に愛くるしい。
    「見て見て、このハート可愛いでしょ? っていうか、この翼が最高にキュートだと思わない? ……こ、こほん。何なら、我が眷属に触れることを許してやってもいいんだぞ?」
    「……やべえ、鬼かわいい……」
     かくして、水峰は毛玉からサーヴァント達の虜へと。


     無事に説得も済み、いよいよ戦闘。
    (「鬼のこころ。可愛いものでも、たおさなきゃ…だめ」)
     かえでは気持ちを切り替えようとする。
    (「敵は敵……かわいいから、不条理な気分だけど」)
    「さあこい! も……っふもふ!」
     先んじて飛び込んでいく朱那に二十匹の毛玉達が殺到する。全身を毛玉に包まれ、その姿はさながら、
    「うわああ、毛玉人間だ」
    「え、なにこれ、どんな状況ナン? なーんも見えないんだケド、ねぇ!?」
    「うわああこっちくるな」
     こうすっと合体してるみたいですね。
    「ああ、でもこれ気持ちいい。この幸福感……」
     全身でもふもふを味わう朱那。
     とりあえず、哲は顔周りの毛玉だけでもとってやり、
    「よーしサッカーしようぜ。ボールは毛玉な」
    「鬼か、お前は!?」
    「えー。だって毛玉じゃん? 毛玉ってあんまり心惹かれねぇんだよな。なんかもう、くしゃみ出そうじゃん……は、は……」
     へくちっ。
     先にくしゃみする毛玉。
     へくちっ。へくちっ。へくちっ。
    「へくちっ! ……あ」
     つい、引っ張られてしまった哲。ちょっと耳が赤く染まる。
    「いや、なんにも恥ずかしがることないんじゃない?」
     昴のフォロー。
    「この中で一番年上の、しかも男の先輩が女子を差し置いてすげえかわいいくしゃみをしたって、恥ずかしがることないんじゃない?」
     フォローじゃなかった!
     哲はやや早口で話題転換。
    「ボ、ボールは友達ってこれ今ならガチで出来るくね? 思いあってる友達だからこそ蹴れるんだ! ほーらそう考えたら良心の呵責も少ないんじゃね。あ、でも俺そういやキャプ翼読んだことねーや。筋力養成ギプスとかいる系? それともサッカーがしたいですって言って泣く系? ……まぁなんでもいいか、へいパス……って痛ェ!?」
     尻に走るビリビリ。
     毛玉の放った電撃が哲の臀部を襲ったのだ。
    「な、なめやがって!」
     ? ペロペロすりゅ?
    「そういう意味じゃねえよ! って痛ぇ!?」
     また別の毛玉が哲の尻に電撃。別のも、また別のも。反応が楽しいのか、毛玉達が寄ってたかって尻を狙う。尻を狙われる男、哲。
    「お尻だけ、丸焼けになっちゃいますね……お猿さんみたいに」
     凪はその想像をしてクスっと笑う。
    「つか……これは悪夢の分類に入んのかね? 本人含めてすげー楽しそうに見えんだけど。めんどくせー」
     昴は毛玉の能力を見て、その場に座り込んだ。
     誠士郎は戸惑う。
     戦闘開始のはずが皆それぞれに時間を過ごし始めてしまった。
    「アンドレアルフス、あのマントカッコよくない? 額のVもカッコいいしやってみてよー」
     一花の無茶振りに応え、ナノナノは形態を変化させ……いやできないよな? え、できるのか?
    「わ、翼の子もいるんだ。なんだかピュアな感じ。ちょっとライバルかも……ハッ!」
     誠士郎の視線に気付き、一花は咄嗟に体裁を繕う。
    「くっくっく、なかなか巧妙な罠だな。だが、この蒼刃の魔王の力を甘く見ぬことだ! 貴様などこうしてやる!」
     工作して毛玉のVを逆さのAにしたり、顔に落書きしたり。
     昴は音楽を聴きながらだらんと横になり、
    「……ん? がんばってー俺はちょーがんばってる」
     毛玉をぐわしとつかんで手加減攻撃という名のスローイング。
    「ほーら、ましろとってこい!」
    「アン、アン!」
    「もらったー!」
     朱那がましろに先んじてキャッチ!
    「犬と張り合うなよ」
     朱那は抱えた毛玉を嬉しそうに昴に見せる。
    「昴、も一回! も一回!」
     毛玉を前足で転がし、じゃれつく花。
    「なんなんだ、このほほえましい光景は」
    「とりあえずおやつにしましょうか?」
     霊犬と戯れる凪。
     誠士郎は視線を動かし、大文字を見つけた。
    「漢はあんな媚び倒した生物になんざ興味がねぇ」
     堂々とした立ち姿。マントをなびかせ、たまに哲の火傷した尻に祭霊光。仲間が満足するまで待つつもりだ。さすが番長、漢の姿。
    (「うっ……やめろぉ! そんな瞳でおれを見るのをやめろ! かわいく鳴くのをやめろォォ! 倒せなくなるだろぉぉ! うわぁぁ来るな寄るなすりすりするなァ!」)
    「……なんだか、顔色悪いように見えるんだ、よ?」
    「すごい汗です」
     大文字の尋常ならざる様子を心配したかえでと凪が大文字の汗をハンカチでぬぐう。
     その後ろで毛玉も心配げに。
     ペロペロすりゅ?
     きゅん☆
     葛藤のあまり大文字は硬直したまま背後に倒れた。
    「梅澤……!」
     番長がやられたその衝撃に動揺した誠士郎に毛玉が突撃。
     かわさず受ける。
     誠士郎は瞬時にそう判断し、毛玉を受け止めた。
     その瞬間、天使のクッションを受け取ったかのような喜びが彼の全身を駆け抜けた。
    (「こ、こういうことか……!」)
     誠士郎は水峰達と気持ちを共有し、毛玉を愛しく抱きしめた。
    (「もふもふ……可愛い。魅了されるのも無理はない……」)
     次々と仲間達がもふりに走る中、かえでは毛玉に地獄投げを試みる。
    「あ……これ。このふわふわ感。つかんだ手が、気持ちいい、よ」
     投げる前についついぎゅっと抱きしめてしまう。
     もっと撫でても、いいんだぜ……?
     男らしい毛玉がキリッと決める。
     それは、本当は倒したくないというかえでの真意を優しく包んでくれた。
    「やっぱ毛玉そのものより小動物とたわむれる女の子の姿が……」
     尻をかばう哲の視界に、毛玉達の毛を刈り取る凪の姿が。
     きゅぴー!
    「うふ、うふふ……」
    「なんかこええよ!?」
     羊の毛にするように剃毛。それ即ち、存在意義の奪取。
    「ほら、毛を刈ったポメラニアンもかわいいじゃないですか。この獣も刈ったらかわいいかなって思って……どうです? うふふ」
     きゅぴー! きゅぴー!
    「やめてあげて!? なんかさすがに切ない!」

     必殺毛玉ぶとん攻撃はすごかった。
     さっらさら。ふっかふか。
    「……ぐー」
    「寝ちゃった!」
     思わず寝入るかえでと一花。
    「……はっ! 気をつけるのだ。誘眠の罠だ!」
    「気づけ。それは眠いだけだ」
    「これ……すごい。寝心地だ、よ」
    「回復して欲しかったら言ってねー」
    「それマクラじゃない、よ」
    「……たく、お前ら、気を抜きすぎだろう」
    「梅澤先輩、抱えてますよ」
    「ハッ! いつのまに!」
     毛玉を抱えて撫でくりまわしていたなんて!

     毛玉達が……!?
     集まってボワン!
    「毛玉キングになった……!?」
    「大きくなったからってなんだ!」
     朱那が突撃をかける。
     しかし、帰ってこない。
    「ちょー気持ちええ! ちょー気持ちええ! モウなんも言えへんわー!」
    「水泳の金メダリストみたいなこと言ってる、よ?」

     やがて。
     あれだけいた毛玉も毛を剃った奴から投げたり、打ったり、打ったのを更に打ったりして、残り一匹。
    「ためらったりせず一気に……あ」
     突然、水峰が最後の毛玉を守るように抱き上げた。
    「こいつは俺が飼う! 一匹だけならいいだろ!? な、テツ!」
     もきゅー!
    「あ、名前……つけてる」
     依存。
     下手をするとこの世界に居続けてしまうかも……。
    「……俺とテツはずっと一緒だ。光と影のように」
     水峰は不敵に笑い……。
     ズバン!
     凪の一撃が水峰の腕の中から毛玉を強奪し地面に叩きつけた。
    「……え」
     大文字の炎が毛玉を焼き尽くす。
    「安らかに眠りな、銀の雨降る世界でな……」
     毛玉の消失を確認。凪は笑顔を向ける。
    「きかないこと言ってないで、現実に帰りましょうね」
    「……あ、はい」
     依頼は完遂した。


    「本当に子供の使いだったな」
     誠士郎達は結局ケガらしいケガはしていない。哲の尻以外。
     なんなら帰り際に都市伝説の一体でも倒していけそうだ。
     誰もいないフィールド。
     もし六六六人衆に会ったら倒してやると意気込んでいたかえでだが、今回も空振りのようだ。ここに居残る手もあるが……。
    (「ううん……僕の独りよがりで、迷惑がかかったら……だめ」)
     いつか戦わざるをえないときもくるのだろうか。
    「……さあ、帰りましょう」
    「……うん」
     凪と二人、仲間達の後ろを追う。
     毛玉のいた世界に別れを告げて。

    作者:池田コント 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年11月16日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 2/素敵だった 8/キャラが大事にされていた 4
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