母の温もり/炎豹の熱

    作者:白黒茶猫

    ●クロキバからの依頼
     「シロノ王セイメイノアラタナ企ミガ確認サレタ。死体ヲアンデッドニスル儀式ノヨウダ」
     「申シ訳ナイノダガ、コレヲ知ッタ若イイフリートガ、事件ノ起コル場所ニ向カッテシマッテイル」
     「彼ラガ暴レレバ、周囲ニ被害ガ出テシマウノデ、済マナイガ彼ラヲ止メルカ、彼ラガ来ル前ニ、セイメイノ企ミヲ砕イテクレナイダロウカ」
     「ヨロシク頼ム」

    ●教室
    「とまぁ、クロキバから持ち込まれた話はそんな感じよ。既に聞いてるかもしれないけど」
     呼びかけに答えた灼滅者達に常磐・凛紗(高校生エクスブレイン・dn0149)が語って聞かせた。
    「ほっといてもアンデッドは退治されるけれど、イフリートが暴れればアンデッドがもたらす以上の被害が出るわ。……人間にとっては、ね」
     ダークネスにとっては被害が出るというわけでもない。
     わざわざクロキバが武蔵坂学園に依頼したのは、好意的に捉えれば一般人に配慮した結果とも言えるかもしれない。
    「で、それを元にあたしが未来予測したのはある葬儀場でのアンデッドの発生よ」
     数は1体のみであり、アンデッドとしては強力な個体とはいえ所詮目覚めたばかりの眷属。
     死に装束に身を包んでいるのは若くして命を散らした女性。年の頃は20代半ばといったところだろう。
     生前は薙刀の名手……とまではいかないが、槍を習っていたという。
     腕前は趣味程度のものだったのだろうが、死者の膂力で振るわれるそれは灼滅者の『妖の槍』のサイキックに近い。
     とはいえ、戦闘に関してだけ見れば、てこずる事は無いだろう。
    「式の最中で目覚めたアンデッドは、生前と変わらない姿をしているわ。戦闘力より、こっちのほうが厄介かもね」
     その場には女性の親類縁者や友人、葬式の関係者など多くの一般人が居る。
     そして、母親を亡くしたばかりの、4、5歳くらいの幼い少年が一人。
     死を理解できぬほどに幼い少年が、以前と変わらぬ姿で起き上がった母親を見て取る行動は想像に難くない。
     少年は暴れる母親を見ても逃げようとせず、逆に近づこうとするだろう。母の温もりを求めて。
    「参列者は全員一般人だからESP使えばあっさり片付くでしょうけど、少年に関しては下手に使うと裏目に出るかもしれないわ」
     少年を救うためには灼滅者達の言葉が……いや、想いが必要になるだろう。
    「で、もう一つ面倒なのがさっきも言ったイフリートの件。現地へ向かったイフリートは燃え盛る炎を隠そうともせずウロウロしてるから、見つけるのは簡単ね」
     イフリートはアンデッドの発生は予知したようだが、正確な場所は分からないために足で探しているようだ。
     イフリートとしての体格は大人のそれだが、精神年齢的には10歳程度の少女だ。
    「対処法は大きく分けて二つ。一つはイフリートと戦う事」
     敢えてバベルの鎖で予知され、イフリートと正対して戦うか。
     あるいはバベルの鎖を突破して不意を打つか。
     前者なら暴れても被害の少ない広い場所で戦う事になる。
     思う存分力を振るってくるため、耐え凌ぐつもりでなければ厳しいだろう。
     後者は人気の少ない、幅の広い直線の道路で戦うことなる。
     戦闘が楽になる上、5人以上で一気に行けば、灼滅すら狙えるだろう。
    「もう一つは、説得。バベルの鎖を突破しようとしなければ、向こうも興味を示して話くらいは聞いてくれるわ」
     但し、難しいことを言ってもイフリートは理解できない。
     幼い子供をあやすように扱う必要があるだろう。
     時間稼ぎすらできればいいため、言葉での説得に拘る必要はない。
     イフリートが満足さえすれば、アンデッドのことなど忘れてしまうだろう。
    「今回が同時にそれぞれ対処してもらう事になるわ。アンデッド側とイフリート側、半々で分かれてもらうのが丁度いいかしら?」
     五分五分で当たれば、さしたる憂いなく対応できるだろう。
     人員を偏らせても、その分の対処が十分ならば問題はない。
    「今回、アンデッドを灼滅することが出来れば成功よ。一般人やイフリートの生死は問わないわ」
     それはつまり、どれほどの被害が出ようと、依頼は『成功』ということだ。
    「だからこれはあたしからの個人的な頼み」
     凛紗は目を閉じ、感情を見せずに口にする。
    「あの子を助けてあげて頂戴。母の死を二度見る、哀しい子を」
     開いた目でしっかりと見据え、灼滅者達を送り出した。


    参加者
    御剣・裕也(黒曜石の輝き・d01461)
    村上・忍(龍眼の忍び・d01475)
    巨勢・冬崖(蠁蛆・d01647)
    叢雲・宗嗣(贖罪の殺人鬼・d01779)
    灯火町・燈(愛の灯のライト・d03566)
    ヘカテー・ガルゴノータス(深更の三叉路・d05022)
    桜庭・遥(名誉図書委員・d17900)
    レナード・ノア(都忘れ・d21577)

    ■リプレイ


     死んでいたはずの者が目覚めると、葬式場にいた参列者達は状況が飲み込めず凍りついたように固まっていた。
     しかしその手に黒い影で出来た超常の薙刀と、それによってもたらされた破壊された物を見るとたちまち悲鳴があがり、軽いパニック状態に陥った。
    「ここは危険です! 皆さん、早く逃げなさい!」
     駆けつけた灯火町・燈(愛の灯のライト・d03566)が大声で避難誘導すると、燈達が何者か考える余裕もなく参列者達はすぐさま逃げ出した。
     だが懸念されていたとおり、少年が人の流れとは逆に母親の元へ向かっていた。
     事前に少年の容姿を聞いていた桜庭・遥(名誉図書委員・d17900)はすぐさま見つけ、少年を後ろから抱きすくめて捕まえる。
    「あなたの気持ち、わかる気がします。わたしもきっと同じことをするかもしれません……けど行っては危ないんです」
    「やだ、やだ、おかーさん、おかーさぁんっ!」
     少年を担ぎ出そうとするが、激しく抵抗されてしまい上手くいかない。
     力ずくで連れて行こうにも少年の幼い体は少し力加減を間違えただけで容易く壊れてしまいそうだ。
     何より少年の気持ちが分かる遥には、泣き叫ぶ少年の姿に心が痛んだ。
    「あれはあなたのお母さんではありませんよ。お母さんに化けたこわいお化けです」
    「ちがうもんっ! あれはおかーさんだもん!」
     遥はなだめようとするも、少年は泣き叫びながら母親へ求めるかのように手を伸ばす。
     その泣き声に惹かれるかのように、母親は少年の下へ向かう。……黒い薙刀を手に。
    「いけません、落着いて……!」
     そこへ村上・忍(龍眼の忍び・d01475)が母親だったモノを抑える。
     例え意思がなくなろうとも、生前の母親が愛する子を傷つける事を望む訳が無いと、躊躇いなく組み付くように抑えようとする。
     だが逆に忍の身体が抱きしめられ、アンデッドの冷たい体によって急速に体温が奪われる。
    「(ですが、密着の危険は覚悟の上!)」
     忍が組み付いたのは、少年へ近づくアンデッドを阻むだけが理由ではない。
     組み付いたことにより、一時母親の姿が少年の視界から隠れる。
    「一凶、披露仕る……」
     クラッシャーへと転じた叢雲・宗嗣(贖罪の殺人鬼・d01779)が、その隙にアンデッドの背後から闘気を纏わせた『無銘蒼・禍月』の連続突きを繰り出す。
     少年を戦場から退避させることができないならと、せめて母親だったモノが傷つけれられる光景を見せないようにと。
    「その命、神に還しなさい!」
     避難誘導を終えた燈が放った風の刃が、アンデッドを撫で斬る。
     神に仕える身として、この親子に起きる不幸は砕かなければならない。
     意に反し我が子を殺める不幸、母親に奪われる不幸。その二つを。


     イフリートには容易く出会うことが出来た。
     周囲を真っ赤に染め上げる炎を燃え上がらせている。
     その炎を恐れるかのように、犬猫や鳥だけでなく人も無意識のうちに遠ざかっているようだ。
     それがイフリートにとって意図的なものか否かはわからないが、好都合だ。
     バベルの鎖で察知しているのだろう、向こうからこちらへやってくるのが分かる。
     多少暴れても平気な広い場所へ誘導する。
    「燃え盛る豹とは実に綺麗だな」
     やがて目の前にゆっくりと現れた炎豹の姿を見て、ヘカテー・ガルゴノータス(深更の三叉路・d05022)が口にする。
     しなやかな身のこなしと、四肢と身体に纏わせる炎は一種の美しさを持っていた。
     イフリートは機嫌良く尻尾を一振りすると、『用件はなんだ』とでも言うかのようにじっと見つめる。
    「初めまして。僕は御剣・裕也っていいます」
    「俺は巨勢・冬崖だ」
     御剣・裕也(黒曜石の輝き・d01461)と巨勢・冬崖(蠁蛆・d01647)が次いで名乗る。
    「私はヘカテー、君の名前は?」
     ヘカテーの問いかけに、イフリートはぐるると喉を鳴らすと一際大きな炎に包まれる。
     ダークネスとしての炎豹の姿から、真っ赤な長い髪の幼い少女の姿へと変化したのだ。
    「わたし、キサキ! むーかし、呼ばれてた!」
    「キサキか、いい名前だな」 
     ヘカテーが明るく口にしたイフリート―――キサキの名を褒めると、キサキは笑顔を浮かべた。
    「クロキバから聞いてんよ」
     レナード・ノア(都忘れ・d21577)が本題の口火を開く。
    「ん~~……クロキバが言ってたムサシザカのスレイヤー?」
     『クロキバ』の名前に反応したのか、じっとレナードを見る。
    「わたし、クロキバキラーい。わたしに遊んじゃダメってゆーの。でもそんなのつまんない! だからアンデッドと遊ぶ!」
     キサキはむくれたようにそっぽを向く。
     クロキバの命に背いてここにいるのだ。あまり好い印象は持っていないらしい。
    「僕達と一緒に遊んでいいよ、ってクロキバさんが言ってました」
    「……ホント? ウソだったら、わたしおこっちゃうよ」
     裕也の言葉に、じっと上目遣いで聞く。
     その言葉にダークネスらしさが垣間見えた気がしたが、怖気づかずに肯定する。
    「ええ、本当です。だるまさんが転んだなんてどうでしょう?」
    「だるまさんが転んだ、か……なつかしいな。あれは実に楽しい。もちろんキサキも付き合ってくれるだろう?」
     裕也の提案に、示し合わせていた通りにヘカテーが援護する。
    「鬼ごっこでもだるまさんが転んだでも、なんでもいいぞ」
    「人間界の遊びもなかなか楽しいぜ?」
     更に冬崖とレナードが言葉を次ぐと、『遊ぶ』という言葉に目に見えて揺らいでいたキサキは―――
    「ん~~~……あそぶっ! アンデッドとは後で遊ぶことにするー。どういう遊び?」
     灼滅者達と遊ぶことを決めたようだ。ただし、あくまで保留らしい。
     遊び方を知らない様子のキサキに、裕也はポーズを交えてルールを分かりやすく説明する。
    「動かずにいるのって、難しいんですよね……!」
    「こぉんなかんじー?」
    「手も動かしちゃダメですよ」
     裕也の片足立ちを真似して、バランスをとるべく手をぱたぱたとしているキサキの姿は実に子供らしく、ダークネスと知らなければ純粋に微笑ましい光景だ。
    「(子どもっぽい言動でも油断はできないが……)」
     ヘカテーはその姿を見ながら考える。
     外見や言動は子供のそれだが、ダークネスには違いない。
    「んっ、わかった! かんぺき!」
    「そういう遊び、僕もあんまりやったことがないんで楽しみです」
     キサキがえへんと威張る姿に、裕也も楽しさを感じる。
     慣れ合いは好きじゃないと思っていたが、キサキはそうでもないらしい。
     誰とでも仲良くなれるのは、子供の特権だ。
    「……できれば仲良くなりたいものだ」
     たとえダークネスであっても。
     この光景を見ていると、そう思いたくなる。
    「ん~? へかてー、なにか言ったー?」
    「ん、楽しく遊べたらいいな、とね」
    「たのしーはうれしー! えへへ、楽しくあそぼー!」
     ヘカテーの口から漏れた言葉にキサキが反応するが、誤魔化す。
    「簡単に終わっちゃ時間稼ぎにならねぇし、本気でやってやろうじゃねぇの」
    「えっへへ~、わたしもホンキでいっちゃうよっ!」
     冬崖は落ち着き穏やかに佇みつつも、静かに意気込む。
    「それでは、まずはじゃんけんで鬼を……」
    「じゃんけんってなーにー?」
     まずはじゃんけんの説明から始まった。


     少年を説得する間も、アンデッドは止まらない。
     黒い薙刀が振るわれるたび増す闇を、燈の魔力の光線が貫き闇を払う。
     忍に代わって遥が少年を護りながら、自らの凍てついた体を癒していく。
    「お母さんはね、皆いつか必ず行かなければならない、長いお休みの場所へ呼ばれたんです」
     忍の穏やかな声に、少年はぐずりつつも耳を傾ける。
    「でも、貴方が心配過ぎて途中で戻ってしまった」
    「しん……ぱい?」
    「そう。そこは遠くて、戻るのは凄く辛い事。だからこんなに苦しそう……お母さんは、こんなに乱暴な人じゃなかったんでしょう?」
     話す間、護る遥がアンデッドの黒い薙刀をその身に受ける。
     忍の言葉とその光景に、少年は思い出の中の母親と照らし合わせる。
    「お母さんを安心させて逝かせてあげて……」
    「おかあ、さん……」
     泣き叫び求める声ではなく、呟いた少年の言葉は母への想いが滲んでいる。
    「おかあさんっ!」
     母を想って呼ぶ少年の声に、アンデッドの動きが一瞬止まった気がした。
     それは気のせいかもしれない。
     だがそれは契機となり、一斉に攻撃を仕掛ける。
    「これで、終わりにしてやるよ……!」
     燈の風の刃が鋭く切り裂き、アンデッドへ致命的な一撃となる。
    「黄泉路への先導はしよう……眠ってくれ」
     更によろめいたアンデッドの死角へ宗嗣が高速で回り込み、『禍月』をその身に突き刺した。
     不死の呪いがその身より灼滅され、倒れこむ母親の亡骸を宗嗣が抱きとめる。
    「……黄泉路へ案内する前に、少し寄り道させてもらおう」
     宗嗣は自らの手で再び死体へと戻した母親へと触れる。
     すると母親はゆっくりと瞼を開け、目を覚ました。
    「あれ……私は、車に轢かれて……」
    「おかぁ……さん?」
     母親は死んだ直後の記憶が呼び起こされたのだろう、ぼんやりとした目覚める。
     少年と母親が本来過ごすはずだった時間を、僅かばかりだが取り戻す。
    「神様が、最期に少しだけ時間をくれたらしい……話をしてくるといい」
     それは宗嗣の持つESPによって与えられた、仮初の命と時間だ。
    「……少し複雑ッスね」
     その光景を見た燈が複雑な顔で呟く。
     燈が信じる神の教えでは、仮初の命で動いている今の母親もグレーゾーンかもしれない。
    「突然奪われた命なんです。数日くらい、返すのが遅れても罰は当たらないと思います」
     遥が起き上がった母親を見ながら言う。
     自分の母親と重ね合わせた贔屓目もあるかもしれない。
     けれどこれでいいのだと、確信を持って。
     忍の言葉を胸に、少年は母親の前に立つ。
    「しんぱい、しないでね。ぼく、だいじょうぶだよ」
     幼い少年が、拙いながらも、精一杯母を想う言葉を伝える。
     少年に帰ってきたのは死者の冷たい抱擁ではなく、母親の確かな温もり。
     自らの遺影を見て状況を察した母親の目からぽろぽろと流れる、熱い涙。
     数日後には、今度こそ母親は永い眠りに付くだろう。
     それでも、その時間は少年にとって尊い時間となるはずだ。
    「どうか強く、優しく生きて……いつか胸を張ってまた会える様に」
     母の腕に抱かれる少年に、忍が言葉を投げかける。
    「ありがとう、おねえちゃん、おにいちゃん……」
     少年は涙を拭って笑みを浮かべ、力強くと頷いた。


    「がーおーっ!」
    「むっ……!」
     炎を纏った豹が持ち前の瞬発力でフェイントを交えながら駆けてヘカテーに飛びつき、のしかかる。
    「つーかまえた! 次はへかてーがおにー!」
     キサキが5、6分ほどでだるまさんが転んだに飽いてしまったため、鬼ごっこに遊びを変えていたのだ。
    「本場の動物すげぇ」
     レナードは炎豹姿となったキサキを褒める。煽てる意味もあるが、事実感嘆もしていた。
     筋力としなやかな動きによって生まれる瞬発力は、灼滅者の身体能力を持っても捉えるのは難しい。
    「さすがはダークネス……いや、豹か。だがこうして全力で遊びに興じるのも楽しいな」
     ヘカテーは全力で走り回り続けたせいで肩で息をしているが、頬を伝う汗と共に笑みを浮かべる。
    「少しズルいですが、協力して捕まえましょう」
     裕也達は、鬼のヘカテーと協力して追う。
     獣の脚で走られると灼滅者の脚力でもかなり苦戦したが、注意を引きつけたり、共同で捕まえたりしてワンサイドゲームにならないよう注意を払い、時間を稼ぐ。
     鬼ごっこの鬼として全力で追いかけていたキサキだったが―――
    「あっ」
     思い出したかのように振り返り、遠くを見る。それは葬式会場のある方角だ。
     バベルの鎖によってアンデッドの異変を察知したらしい。
     そろそろアンデッドを倒した頃合いだろう。
     だが倒しただけでは一手足りない。冬崖達四人は、そんな『予感』がした。
    「キサキ、力比べだ」
    「あぅっ!?」
     冬崖はそういうと炎豹へと組み付き、キサキは驚きの声をあげる。
     キサキの身体は変わらず炎を纏っているが、その炎は冬崖を焼くことはなかった。
    「ん~~……いーよ! まっけないよーっ!」
     少し逡巡を見せたが、すぐに力を込め、押し返す。
     冬崖の持つ全力で押し返そうとするも、脚が地面を削りつつ止まらない。
    「(この身がどうなろうと、成功させねばならない)」
     自分の後ろには守るべき味方も一般人や子供たちもいるのだ。
     だがそんな思いと同時に。
    「(これがダークネス……俺達よりも遥かに強い個体か)」
     ストリートファイターの本能が、強者との闘いを求めた結果でもあった。
     後ろに押されるだけだった冬崖が、踏み留まる。
     冬崖とキサキの力が拮抗した瞬間だった。
     が、走り回って体力を消耗していた冬崖は、その力を維持できず膝を付いてしまった。
    「やった、わたしのかちっ!」
     えへん、と威張るキサキ。
    「けど、アンデッド、消えちゃった」
     炎に包まれ、少女の姿へと戻ったキサキはぽつりと呟いた。
     どういう反応を見せるかと、身構えた四人だったが。
    「ん~~~……まっ、いっか!」
     伸びをしてにぱっと笑みを浮かべたキサキの姿を見て、警戒を解く。
     丁度其処へ、アンデッド灼滅完了の知らせが入った。
    「こっちの都合で邪魔して悪かったな」
     レナードが言うも、キサキはにこにこと笑顔で返えした。
    「んーん、ぜーんぜんっ! アンデッドと遊ぶより楽しかったし、わたしだいまんぞく!」
    「よかった、でしたら僕もとっても嬉しいです」
     裕也は無邪気な笑みを浮かべて喜んでいるキサキの姿を見て、同じように笑顔を浮かべて喜びを共にする。
    「クロキバにとってのあんたみてーに、オレらにも守りたいものがあるんだわ」
    「んぅー……クロキバはキラいっ!」
     ぷいっとそっぽを向くキサキに、反抗期の娘みたいだな、とレナードは思った。
    「けど、クロキバ、言ってた。ニンゲン、スレイヤーが守るからキズつけちゃダメって。キズつけたらシャクメツされちゃうって。そーゆーの、気にしてなかったし、シャクメツしに来てもカエリウチにしちゃえばいーって思ってた」
     『返り討ち』。
     キサキの不穏な言葉に、灼滅者達は少し身構える。
    「でも、へかてーやれなーどたちと戦うのはやー、かも。だからこれからは気にしてもいーよ!」
     キサキはにぱっと無邪気に笑顔を投げかけた。
    「あっ、もうこんな時間! れなーど、へかてー、ゆーや、とーがん。また遊ぼーねー!」
     夕陽が赤く染まったのを見て、キサキは駆け去っていった。
    「……あれだけ走り回ったというのに、元気なものだな」
     最初にだるまさんが転んだをしていなければ、途中で体力の限界にきていたかもしれない。
     疲労でクタクタになった灼滅者達は、暫し休み見送った。

    作者:白黒茶猫 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年11月20日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 1/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 0
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