その男は太陽が地平線に沈むと同時に行動を開始した。
最初に訪れたのは暗闇の下水道。ふつうの人間は決して足を踏み入れない場所。
「因果は車の輪の如し……その因果もこれで最後に。それでは賭けを始めましょう」
色メガネに上等なスーツを着たその男は、下水道を後にしてとある森を訪れる。
やがて木々の向こうに墓石が見えてくると、男は暗い森の中で足を止め。
「そう言えば、この刀は人を護る為の神様の名でしたが……ずいぶんとたくさん人を斬ったものです」
男は嬉しそうにそう呟くと即座に方向転換する。
次にやってきたのは都内某所にある高層ビル、その17階だった。
「先の事など所詮泡沫……とはいえ、そろそろ1年。きれいサッパリ生まれ変わるには良い頃合いでしょう?」
17階の窓から都内を睥睨すると、すぐに踵を返す男。
そろそろ時刻は深夜12時、ネオンの灯りに照らされた路上はバラバラになったタバコや得体の知れない汚れがこびりついている。男はブランド物の革靴でその路上から一本入った裏道へとやって来ていた。
「次に見えた時は、容赦せず斬り捨ててくれ……想い届かず、でしたね」
男は路地裏でつぶやくと即座に歩みを再開させる。
「因縁の場所は残り3カ所、そろそろ、彼らが現れそうな気がしますね……次は、あの鉄橋ですか……まったく、今思い出しても忌々しい」
「みんな、覚悟は良い?」
いつにも増して真剣な表情で鈴懸・珠希(中学生エクスブレイン・dn0064)がみなの顔を見回して聞く。
その雰囲気を察して教室に集まったうちの1人、万事・錠(ハートロッカー・d01615)が苦々しく呟く。
「そろそろ動き出すかもしれねぇって調べて貰ってたが……嫌な予感が当たっちまったか……」
珠希は錠に頷くと、教室に集まった灼滅者たちに向き直る。
「私が視た未来予測を伝えるわ。……闇堕ちした元武蔵坂の生徒、石英・ユウマを……灼滅できるかもしれないの」
珠希は一度言葉を切り、グッと唇を噛む。
今まで以上に具体的な予測だったのだろう。同じ年頃の仲間たちに、人を殺して来いと言わなければならず珠希は何度か言葉に詰まりながら説明を開始する。
珠希が視た未来予測では、石英ユウマは3つの目的地を順番に回ろうとしているらしい。
すでにユウマはその日の日没から下水道、墓の見える森、高層ビル、路地裏と回っており、灼滅者が向かうのは5カ所目からだと言う。
ユウマは5カ所目、6カ所目、7カ所目と周る事を目的としており、その目的は不明との事だ。
ただし、途中途中で戦闘が行われても、傷の回復より次の目的地に着く事を優先する為、ユウマは傷を回復させずに次の目的地へと向かい続けるらしい。まるでソレが自分に科した枷かのように……。
問題は灼滅する為には最後の7カ所目でしか行えないという事だ。
それともう1つ、7カ所目には一般人が4人ほど存在するらしい。放っておけばユウマは一般人を殺すだろうとの事だ。一般人の生死は依頼の成否に関わらないとの事だが……厄介な事にかわりは無い。
5カ所目や6カ所目で戦闘を行った際、自分が不利だと感じるとユウマは6カ所目や7カ所目に向かわず姿を消すと言う。
ユウマに不利だと感じさせず、少しずつダメージを与え、7カ所目の目的地で一気に灼滅する。それが今回、珠希が視た唯一の灼滅ルートだった。
「ただ、5、6、7カ所目がどこのどんな場所か、それだけはわからなかったの……5カ所目だけは『鉄橋』っていうキーワードが拾えたんだけど……」
珠希が申し訳無さそうに言う。
ただし、石英ユウマのあとを追えば、ユウマが目的地に到着後にほぼロスタイム無く、その場所へ到着できるらしい。5カ所目の場所さえ解れば、6カ所目と7カ所目は追跡すれば大丈夫という事だ。もっとも、ユウマと同じく傷を治す暇は無いのが懸念事項ではあるが……。
もしユウマを追跡せずに、6カ所目と7カ所目の場所を自分たちで見当を付けて向かい、それが正しかった場合。その灼滅者たちはユウマより10分だけ遅れて出発しても同じタイミングで目的地へ到着できるらしい。
「目的地を先読みする場合は1つだけ注意して。目的地へユウマより先に到着した場合は、バベルの鎖によって予知されるわ、その結果どうなるか……それは私にも解らない」
珠希はそこまで一気に説明すると、戦闘時のユウマの戦い方を復習する。
「彼は日本刀とWOKシールド、そして殺人鬼のサイキックに似たものを使ってくるわ。しかも全力で1人ずつ潰しにくると思う。トドメも狙ってくるから絶対に油断しないで」
戦闘は5カ所目、6カ所目、7カ所目で発生し、各場所での戦闘開始時にポジションは変える事はできる。ただし、サイキックの活性化は最初に指定したまま途中で変える暇は無いから注意して欲しいと、基本的な事を珠希は念押しで説明する。
そして、みなが自分の武器やスレイヤーカードを確認し始めるのを見て、珠希は申し訳なさそうに頭を下げる。
「目的地が解らないままでみなに依頼する事になって、ごめんなさい。ただ、私にも結末がどうなるかは解らないの……灼滅できる可能性は高いわ。けど、それ以外のエンディングがあるのか無いのか……私には……」
どんな結末に繋がるかは灼滅者次第、不安要素も多く、さらに珠希にとってはもう1つ引っかかる点があり、故に顔を上げたその瞳に涙を浮かべ、珠希は集まった灼滅者たちの顔を見回し。
「友達だったかも、クラスメートだったかも、そんな学園の仲間だった彼を……殺して欲しいなんて……非道い依頼をしているってわかっている。でもお願い、灼滅者として、この依頼を……受けて、欲しいの」
参加者 | |
---|---|
ミレーヌ・ルリエーブル(首刈り兎・d00464) |
万事・錠(ハートロッカー・d01615) |
式守・太郎(ニュートラル・d04726) |
葵璃・夢乃(ノワールレーヌ・d06943) |
鏡・エール(黒烏焔舞・d10774) |
マリナ・ガーラント(兵器少女・d11401) |
楓・十六夜(蒼咎罪華・d11790) |
蛇原・銀嶺(ブロークンエコー・d14175) |
●疑惑を盛った場所
「ここであなたと戦うのは二度目ですね」
因縁の鉄橋へ皆を連れてきた式守・太郎(ニュートラル・d04726)がダークネスへ声をかける。
「灼滅者、ですか……一応聞いておきましょう、何をしに来たんです?」
8人全員の意志を確認するかのようにダークネスが問う。
「あなたと決着を付けに」
そのまま太郎が即答する。それは8人全員の想い。
「悪くない答えです。これで……ゲームを始められる」
鞘を捨て日本刀を引き抜くと、一気に殺気をほどばしらせるダークネス。十分な距離を取っている現状でも薄皮を1枚ずつ剥がされるような痛みを感じる。
皆がその重圧に耐える中、逆に突き進む陰1つ。
ギンッ!
楓・十六夜(蒼咎罪華・d11790)の西洋剣、黒刃の蒼剣・蒼魔墜葬<Alondite>とダークネスの日本刀・摩利支天刀が火花を散らす。
それは破邪の白光を纏った容赦の無い一撃。
同時、十六夜と斬り結ぶダークネスの足下で闇が揺れる。
「相変わらず油断も隙も無い」
跳躍し回避したダークネスが、影縛りを放った葵璃・夢乃(ノワールレーヌ・d06943)を睨みつけるが、夢乃はその目を見返し。
「死ぬことが救い……って言ってるみたいね。だけど、私はそんなもの認めない」
面白そうにダークネスが笑みを浮かべる。
「生きるってことは戦うってこと。悲しい思いや辛い思いをするかもしれない。だけどそこから立ち上がる度に、少しずつだけど前に進める……私は、進めた気がする」
強い信念に裏付けられた言葉、しかしダークネスは。
「認めなくて結構、否定してくれて結構、それでも私は言います。死こそ救いだと!」
その言葉とともにダークネスが刀を振るう。殺気を乗せた斬撃が三日月の弧を描くように夢乃たち後衛に襲いかかる。
だが、太郎と十六夜、そしてミレーヌ・ルリエーブル(首刈り兎・d00464)が後衛3人の前に立ちふさがり、見事その斬撃を受け止める。
苛立つようにダークネスの笑みが消える……だが、即座に襲いかかってきた万事・錠(ハートロッカー・d01615)の金色の光剣を打ち払い、打ち合う事に。
「なぁ、一つ聞いていいか?」
大上段からの一撃を、頭上で交差させた二刀で受け止めた錠が言う。
「救いの在処は人それぞれ。けど死が救済ってのは生きてる側が死んだ側に甘えてるだけなんじゃねェの?」
ザッ!
両手で強引に斬り降ろし、錠の体制が崩れたところを蹴り飛ばしたダークネスは、しかし驚いたように錠を見る。
「かつて、無知ゆえに人を殺しまくった男がいました。その男は無意識にこう思っていたんです……『死は救済だ』と」
ダークネスの言う『男』が誰かは明白だった。
「だから私は言い続けているんです。ただの、嫌がらせ、でね」
錠は震えるほどに剣を強く握る。
「前を見ろ。戦いは終わってないぞ」
ハッとする錠。
声かけと共に蛇原・銀嶺(ブロークンエコー・d14175)が制約の弾丸を飛ばす。意識のそれた錠を狙って地を蹴ろうとしたダークネスを牽制する。
「それにまだ、誰も諦めてはいない……もちろん、自分もその1人だ」
銀嶺の言葉にこくりとうなずき、錠も再び戦線に復帰する。
ダークネスとの戦いは続く。
「あの時は助けられなかったんだお……」
マリナ・ガーラント(兵器少女・d11401)がぽつりと呟く。
「だから、今度こそ、絶対、ここで終わらせるんだおっ」
何かを振り払うように一度首を振ると神秘的な歌声を奏で始める。
マリナの歌にダークネスの意識がブレ、それを狙っていたかのようにミレーヌが上空から飛びかかる。
「これでお仕舞いにしましょう。願わくば、ハッピーエンドになりますように」
ダークネスが強引に刃ごとミレーヌを押し返すと。
「ふっ、ハッピーエンドとはお笑いですね」
「お笑いかどうかは、お前が決めることでは無い」
押され吹き飛ばされたミレーヌに入れ替わるように飛び込んできた鏡・エール(黒烏焔舞・d10774)が言う。
頭狙いのその一撃を、ダークネスは首を傾け回避するが、その頬からは鮮血が飛び散る。
「少なくとも……、貴方の抱えたものが全て吐き出されるまで。私達は絶対に諦めません」
エールの言葉にダークネスは目を細めると。
そのまま橋から川へと飛び込み……そして姿を消したのだった。
●絶望した場所
先に追跡していた4人と合流したのは件の火葬場が目前へ迫った位置だった。8人揃って足早に進むと、火葬場前の駐車場を歩くダークネスの姿をとらえた。
弾丸のように飛び出す銀髪と黒髪。
「……蒼咎・煌魔廻葬」
銀髪の十六夜が振るうは裏切りの刃、魔力を溜めた剣が幾度と突き込まれ、動きが止まった所に黒髪の銀嶺が放った魔法弾がダークネスを捕らえる。
「ちっ」
とっさに左手で叩き落とすも、その手に痺れを感じ舌打ちするダークネス。
「……お前を殺した罪は……俺が担おう」
「罪はかぶる……か。なら、ここはちょうど良い場所ですね……なんせ、一般人を見捨てた記念すべき場所ですから!」
ダークネスの顔が嗜虐に歪む。
「おかげで彼は……」
にんまりと続けるダークネスの言葉が遮られる。
「なにもかも諦めたまま消えんなよ!」
おもしろくなさそうに錠を睨むダークネス。
「前にダチが闇堕ちして俺が取り乱した時、石英さんは救ってくれたじゃねェか!」
「そうだおっ!」
錠に続くようにマリナが自身を聖戦士化させつつ刃を振るう。
「ユウマお兄ちゃんは、弱くなんかなかったんだおっ。だって、そいつと戦って、押さえ込んで、マリナたち、助けてくれたから」
さすがに右手一本では力負けするのか、マリナの攻撃で細かい傷を作りながらもダークネスは言う。
「ずいぶんと慕われていますね、彼は」
「あたりまえだおっ!」
「まぁ、私も嫌いじゃありませんよ?……道化的な意味で、ね」
左拳がマリナを殴りつけ、火葬場の駐車場をバウンドしながら吹き飛ぶマリナ。
見ればいつの間にかダークネスの左手にはコインが握られ、不可視のシールドが展開されていた。
火葬場での戦いは、鉄橋でのそれより厳しいものと化していた。
主に鉄橋では4人いたディフェンダーが3人に減ってしまったせいなのだが……。
「私の話を聞いてほしい」
動きを止めダークネスを見据えるミレーヌ。
「ここで私達が一般人を見捨て、ユウマくんの想いを裏切った事を……謝らせて欲しいの」
ぴくり。
「その上で、もう一度チャンスをもらえないかしら」
「一般人を救えなかったこと……本当にごめんなさい。その上で言わせて……あなたはそれでも人として生きるべき」
なぜか動きを止めていたダークネスだったが、ぐるんと直立のまま首だけ回すと。
「今更気付いたのか? だが、もう遅い」
「遅くなんてありません」
ダークネスを即座に否定したのは太郎。
光の刃をダークネスに撃ち放ちながら言う。
「証明してみせます。一般人を必ず、守ってみせることで」
太郎にダークネスの意識が向いている隙に、地を這うように一気に近づいたエールがダークネスの足元から逆袈裟に刃を振り上げる。
「闇をそぎ落とせ、鳴饗屍吸!」
「……み、んな……」
その時、ダークネスの目が虚ろに揺れた。
だが――。
「ちっ」
舌打ちと共にダークネスは大きく後方に跳躍、そのまま逃走したのだった。
●別離の湖
『逃げて! 今すぐ!』
大きな声が湖に響き、波打ち際を歩く学生4人がパニックに陥る。
だが――。
「動くな!」
4人の前に現れたダークネスの恫喝が4人を一気に委縮させる。
その僅かなやりとりの間に、即座に割って入って来たのはエールと銀嶺の2人。
「一般人を守りながら戦いますか? それは無謀と言うものです」
くくく、と笑うダークネス。
「ああ、だから逃がさせてもらう」
銀嶺の言葉と共に、4人に向かって走る夢乃と十六夜。
2人は怪力無双を発動させ、それぞれ2人ずつ両脇に抱えるとそのままダークネスに背を向け走り去る。
ダークネスが後を追おうするが、銀嶺やエールが立ち塞がる。
「まぁいい、どうせ最終ステージです……あなた達を全滅させるのも悪くない」
湖の波打ち際で激戦を繰り広げる灼滅者達。
だが、ここに来てダークネスの戦法が1人ずつ確殺する作戦へと代わる。
最初に狙われたのはミレーヌだった。
「ユウマくん、灼滅者に絶望しないで」
ダークネスの刃を受け止めつつミレーヌは語りかける。
肉体はすでに限界を越え、今動けるのは魂の力。
「無駄な事を……」
「そんなことは無い。ユウマくん聞こえる? 私達が力を合わせれば、どんな闇もきっと打ち払える、打ち払ってみせる!」
ガッとダークネスを押し返すミレーヌ、その隙に仲間達が攻撃を殺到させ、僅かな隙にシャウトし回復を行う。
しかし仲間達の合間を抜けるようにダークネスが再びミレーヌへ迫る。
一瞬の交錯。
そして……。
「ユウマくんお願い、もう一度、私たちと一緒に……戦っ、て……」
その言葉を残してミレーヌが倒れる。
わずかに倒れたままのミレーヌを見つめるダークネス。
「させないんだおっ!」
「では、2人目はあなたにしましょう」
我に返ったようにダークネスが目を見開きマリナの剣を打ち払う。
容赦の無い斬撃がマリナを襲い、仲間達が少しでも負担を減らそうと庇い、行動を阻害するがダークネスの凶刃を止める事はできない。
「何が……おかしいのです?」
ダークネスの攻撃で今にも倒れそうなマリナは、しかし笑っていた。
「こ、今度は……ちゃーんと助けたんだおっ!」
声と共に打ち込まれたのは夢乃の魔法弾、日本刀を引き抜き慌てて飛び退くダークネス。
夢乃の帰還、それはつまり一般人の避難が成功したという事だ。
「お、お前なんかの好きに……さ、させなかったんだおっ!」
瞬間、動いたのはダークネス。
何かを感じ取ったのか、マリナから視線を外して倒れているミレーヌへ。
それはトドメの一撃。
「させん」
同時に動いていた十六夜の声、ミレーヌの身体が遥か後方へと投げ捨てられる。
それは正しい選択だった、目の前のダークネスの悔しそうな顔が好手であった事を裏付ける。
「証明はしてあげたわ! さぁ、闇に抗って生きること……それが傷つきながらも行う、本当の救済だって教えてあげる!」
夢乃の気迫に知らず1歩下がるダークネス。
主導権を握った灼滅者達が一斉に襲いかかり……そして。
「この一撃が俺の想いの全てです」
太郎が灼滅刀を振るいダークネスの胸を切り裂く。
「もう、目を背けるのは止めましょう、石英先輩」
「黙れ! この虫ケラどもがっ!」
絶叫と共に居合の構えで跳び込んでくるダークネス、狙いはマリナ。
「(間に……合わな……!?)」
――カッ!
●幻を見る
「……え?」
マリナは茫然と呟く。
目の前に立つ『もう1人の石英ユウマ』が、ダークネスの刃を受けているではないか。
「貴、様……!」
押し返され距離を取るダークネス。
自身を守るように立つユウマは色眼鏡をかけておらず……。
石英・ユウマがダークネスを牽制したまま、皆を見回すように言う。
「常に思っていた……微力でも仲間の力になりたいと」
「ユウマ、さん?」
エールが茫然と呟くと、それに頷くユウマ。
「今思うのは2回目の時、自分が弱いと卑下した事。それを受け入れたからこそ堕ちる覚悟を決めたというのに。悲運に酔い、本当に自分勝手な事をしたと思っている……すまない」
目だけ伏せエールに謝るユウマ。
そして視線は錠へ。
「死は救いではない。ただの終わりであり逃げだ。それに今更気付いても手遅れなのだろうが……今一度、『自分』として在るべく抗ってもいいだろうか?」
「俺はアンタのタダイマの一言で救われます。俺以外にもその言葉を聞きたいと想ってるヤツはたくさんいる」
錠は目頭に駆け上ってくる熱い物を我慢し言葉を伝える、それは彼の事を心配する友の言葉。
「感謝する……いや、それは帰ってからだな。皆が望むその言葉も」
「ああ」
「逃げるのは、もう終わりだ!」
愛刀・摩利支天刀を構えダークネスに対峙するユウマ、それに灼滅者達が並ぶ。
それはまさに奇跡。
見えなかった蜘蛛の糸を見つけ出し、ひたすらに闇の中を登り続けた仲間達が手繰り寄せた……ほんの僅かな可能性。
今、灼滅者達はその奇跡の扉の前にまでやって来ているのだ。
そして、目の前のダークネスが怒りの雄叫びをあげる──。
意識を失う刹那、マリナはそんなまぼろしを見ていた。
●決断
「撤退するぞ」
その声は無情に戦場に響き渡る。
声の主、十六夜に仲間達の視線が集まる。
十六夜の側には魂が肉体を凌駕する事無く倒れたマリナを抱える銀嶺がいた。
一方、ダークネスは自らシャウトを行う。
「撤退ですか、悪くない判断ですね」
ダークネスも無傷ではない。だが攻撃より倒れない事を重視したメンバーの多かった今回の戦いでは、現状で押し切れる程のダメージを与えられていないのも事実だった。
「ウソだろ!? このまま戦えば!」
「ああ、あと数人戦闘不能になっても良いならな……」
十六夜の読みは正しい、その気で戦えば行けるかもしれない……だが、何かあるか解らないのが戦いだ。事前に決めた条件を満たした今、イチかバチかに掛けて戦闘を継続するわけにはいかない。
太郎が、銀嶺が、そしてダークネスを牽制していたエールが頷く。
もちろん、頭では理解しても納得できないメンバーもいる。
「……世界は常に選択を問う。幾重にも分岐する網の目の様な選択を。その先に正解があるかは誰にもわからない。だが、この選択は……すでに、決めていたことだ」
十六夜の言葉に、誰もが頷く。
誰のせいでもない、皆で決めた事。
そして1人、また1人と戦場を離脱する灼滅者達を、ダークネスは追撃しなかった。解っているのだ、ここで追撃した場合、危ないのは自分の方だと……。
白昼夢なのか、湖の噂による幻覚か、それとも本当に奇跡が起ころうとしていたのか……それは、解らない。
ただ灼滅者達が戦場を後にする時、誰かの視線を背中に感じたのは気のせいではない……。それはまるで、置き去りにするような……。
静寂の訪れた湖畔に1人の男の声が響き渡る。
「本気で救いたかったなら、死ぬ気で来るべきでしたね……くくく、もっともあなた達が彼の命より自分の命を優先する方に、私はベットしていたんですがね……くくく、はははははは! 賭けは、私の勝ちだ、石英幽摩!」
石英ユウマは刀を放り投げると、手の平から生み出した黒刀で宙を舞う摩利支天刀を粉々に破壊する。
「特別に用意したボーナスステージはこれで終わり……いや、ゲームは終わりだ」
当てつけの為に使い続けていた摩利支天刀の欠片を踏みにじりユウマは笑う。
「俺はこれで……――」
――自由だっ!!!!!!!!!!!
作者:相原あきと |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年11月20日
難度:やや難
参加:8人
結果:失敗…
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得票:格好よかった 59/感動した 19/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 20
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