魂の渇望

    作者:佐伯都

     歌舞伎町の外れ、午前二時。
    「勘弁してくれよ。あんたらまだカタギじゃねえか」
     しばらくぶりに舎弟を連れ、良い気分でアルコールに浸れた帰り道。表通りから路地に入った所で、肩が触れたのどうのと若い酔客の一団に絡まれた。
     出た台詞とはまるで逆に、腹の底が煮えるようだ。ブルガリアのウォッカでもこうはいかない。
    「折角、気持ちよーく……酔ってたってのによおおお!」
     しかし腹の底よりも、この身に背負った仁王のほうがもっと熱い。
     額から後頭部にかけ、炎が噴き出したような錯覚。
     うち捨てられたネオンに黒い角をずらりと並べた鬼が見えた気がしたが、もうどうでもよかった。
     猛り狂う衝動が命じるまま次々に相手殴り飛ばす。向かいの道路の端まで吹っ飛んだ相手が身じろいだ気配はなかった。
    「足りない」
     血が足らない。いや、血よりも足りないものがある。
     力が足りていない。
    「……俺の、俺の力はどこだ、どこにある!」
     
    ●魂の渇望
     もう報告を聞いた人もいると思うけど、と成宮・樹(高校生エクスブレイン・dn0159)は軽く渋面をつくって切り出した。
    「どうも、刺青をもった人間が羅刹化する事件が起こってる。原因はまだわかっていないけど、力のある羅刹が裏で動いてる事は確かだ。さっそく一件ひっかかったよ」
     午前二時で歌舞伎町だけど、と樹はやや申し訳なさそうにつけ加える。
     概要としては、三名ほど舎弟を連れた暴力団の構成員、木之元・政文(きのもと・まさふみ)が、六名の酔客とトラブルになり羅刹化する、という流れだ。
     しかし政文の闇墜ちは、これまでのソレとは大いに異なる。
    「一回倒すと、復活する……んだよね、端的に言うと」
     樹としてもこれまでにない事象で困惑しているらしく、言葉を選ぶ間があった。
    「なので、完全な羅刹になる前にまず舎弟や一般人のいない場所まで連れていって、そこから戦闘って事になると思う」
     接触できるのは闇墜ちが始まってからになるので、政文にESPは効果がない。
     そのかわり、接触可能な時間まで周囲に戦闘可能な場所を捜しておく余裕は充分ある。
    「まあ深夜二時って時刻だからね、別の路地裏とか、色々あると思うよ」
     完全な羅刹になる前の政文は特にサイキックは使用せず、基本戦闘術のみで襲いかかってくるはずだ。倒すと羅刹として復活し、神薙使いのサイキックに酷似した能力と縛霊撃、除霊結界を行使する。
     どちらにしても、羅刹のイメージ通りに腕力は相当あるようだ。
     刺青と羅刹の関連性などは判明していないが、戦闘に時間をかけたり周囲の目を惹きすぎたりすると、思いもよらぬ強敵が現れるかもしれない。
    「最初にも言ったけど、どこかの羅刹が動いてる、ってのは確実だから。充分に注意してほしい」


    参加者
    灰音・メル(悪食カタルシス・d00089)
    藤柴・裕士(藍色花びら・d00459)
    ヴィントミューレ・シュトウルム(ジーザスシュラウド・d09689)
    樹・由乃(暗中慕裂・d12219)
    上土棚・美玖(中学生デモノイドヒューマン・d17317)
    鈍・脇差(ある雨の日の暗殺者・d17382)
    高柳・一葉(ビビッドダーク・d20301)
    三廻部・ケン(犬・d21887)

    ■リプレイ

    ●新宿歌舞伎町、某ビル跡地
     11月中旬の深夜ともなれば、都心の新宿とは言えけっこう冷え込んでくる。
     忘れ去られたようにぽかりと空いたビル跡地、ヴィントミューレ・シュトウルム(ジーザスシュラウド・d09689)は廃材に腰掛けて脚を遊ばせていた。
    「こんな時間に戦うなんて、夜更かしは大概にしてほしいものね」
    「まあ、何事も経験というやつじゃありませんか」
     樹・由乃(暗中慕裂・d12219)が鷹揚に首肯してみせると、ひゅうと冷たい風が吹きわたる。上土棚・美玖(中学生デモノイドヒューマン・d17317)は、『旅人の外套』と言うくらいなんだから夜風も凌げればいいのに、と深夜のビル風に多少恨めしそうな顔をした。
     一本向こうはこんな時間でも人通りの多い道路がある場所なのに、工事が始まる様子もなく残り物らしき廃材が隅にいくつか積み上がっている。携帯のナビでもまだ建物が存在している事になっており最近取り壊されただけなのかもしれないが、さて。
    「歌舞伎町は初めてだけど、こんな時間でもあんなに賑わっているのね」
     学生という立場も手伝い、深夜の歓楽街など美玖としても漫画やテレビでしか知らない世界だ。歩き回ればDSKノーズが反応しまくるが、法的に許される年齢になったら一度遊びに来てみたいと思う程度には酔っ払いは割と好きなほうでもある。
     それにこういう光景を見ていると、まだまだこの国は元気だと思えてきて心楽しいものがあった。
     不良の考えることはわからないけれど、と言いおいたヴィントミューレが軽く首をかたむける。
    「要らない争いはしないに限るのよね。得体の知れない羅刹もいるみたいだし……相手の素性がわからない以上、迂闊に手を出すのは避けたいわね」
    「大丈夫です。何の心配もない」
     闇纏いの効果は視覚化されないはずだが、ひんやり静かに笑う由乃にはどこか陰の香りが漂う。
    「ただヤクザがひとり、路地裏で死ぬだけ」

    ●同、某雑居ビル付近路地裏
     これだけ建物がすし詰めの界隈では少ないかもしれない空き地。
     あるいは何人か並んで戦闘が行われても問題なさそうな、人目の付かない路地裏。
     スマホの地図機能を駆使して、移動時に使えそうな細い裏道やもしもの時の逃走用としてピックアップしておいた道順。それらをじっと思い出しながら灰音・メル(悪食カタルシス・d00089)は高柳・一葉(ビビッドダーク・d20301)の背を追う。そろそろエクスブレインが示した予定の時間のはずだった。
     ここにいない三名は、申し合わせた場所で自分たちの到着を待っている。
    「しかし、刺青を奪い合う羅刹か……随分手の込んだ話だが、誰が手を引いてるんだか」
    「さあどうだか、ねーちゃんわかる?」
     ワカンナァイ、とばかりに桃色兎ぬいぐるみの両腕をふるふる揺らし、三廻部・ケン(犬・d21887)は鈍・脇差(ある雨の日の暗殺者・d17382)を見やった。
     文字通り、生皮を剥いで刺青を奪いあう羅刹。便宜上『刺青羅刹』とでも呼ぶべきか。
    「今回の件で、何か新しい事がわかればええんやけどね」
     柔らかいイントネーションで呟いた藤柴・裕士(藍色花びら・d00459)に、脇差は考えに沈む顔で、そうだなと短く返す。
     あでやかなはなやかな、大輪の花のようなあの女夜叉。彼女と邂逅した一件を思い出すと、脇差はどうしても考え出すのをやめられない。あまりにも謎が多すぎる。
     難しい顔で黙ってしまった脇差に持参したクッキーを差し出すべきかどうか、一葉もこれまた考え込んでしまった。
     危険な匂いのする案件にはどこかしら、抗いがたい魅力があるものだ。それこそ人が食欲に抵抗する事を難しく感じるように。
     やがて裕士達が目指す薄暗い路地を、幾人かの酔客が通りがかったのが見えた。男ばかり数名、見るからにべろんべろんで色々な意味で不安になる。
    「……オイコラァ、何だその態度はァ!!」
     穏やかではない怒声が聞こえてきて脇差は我に返った。暗い路地を走り抜けると、千鳥足どころか億鳥足くらいに足元がおぼつかない男たちがガンつけ真っ最中の現場に出くわす。
    「そこらへんでやめとけ、兄ちゃん。お互い警察の世話にゃなりたくねえだろ」
     ひときわ立派な体躯の男がずいぶん理性的なことを言うので、メルは思わず瞠目した。一番酔いが浅いだけなのかもしれないが、見るからにヤのつく自由業な外見なのでそれも手伝ったのだろう。
     手を出しかけていた若い男と舎弟の間に入り、木之元・政文は何とかこの場を収拾しようとしているようだ。
    「どけやコラァ! なめとんのかワレェ!!」
     突如妙に甲高い声がして舎弟が一人殴られる。それが何かのスイッチだったかのように、殴られよろめいた舎弟へいくつもの蹴りが飛んだ。
    「勘弁してくれよ。あんたらまだカタギじゃねえか」
     木之元は次々と若い酔客を引き剥がしてゆくが、何故か唐突に棒立ちになる。みしゃ、と肉が裂ける嫌な音をケンは聞いたような気がした。
    「折角、気持ちよーく……」
     遠いネオンサインからの逆光に浮かび上がる、肉厚の背中。その頭頂に頭皮を裂いて黒曜石の角がそそり立つ。
    「酔ってたってのによおおお!」
     瞬間、木之元の四肢が倍ほどにも膨れあがり衣服が裂けた。半端な長さになってしまった袖から、色鮮やかな炎紋が覗く。
     それを合図に裕士の口から、いつもより低くドスのきいた声が飛び出した。
    「な、ちょお、そこのおっちゃん! そうアンタや、話ええ?」
     いつもの京都寄りの関西弁は優しすぎるので広島風を意識しているが、そのわかりやすいガラの悪さに羅刹――木之元が首を巡らせた。
    「俺達はそこの木之元とかいうおっさんに用がある、他の奴らはとっとと失せろ」
    「きゃはっ! オッサン、ダッサイカッコしちゃって、それでカッコいいとでも思ってんの? まじうけるー!」
     脇差がすかさず王者の風で木之元以外の一般人を威圧すると、何か情けない悲鳴が上がって酔客がしりもちをつく。さきほどまでの威勢はどこへ投げ捨ててしまったのやら、一葉が木之元をあざ笑うのを意に介する風情もなく一目散に逃げていった。
    「あんたらに用はないねん。ごめんな?」
     なんとかその場にとどまろうとした舎弟を裕士が眠らせるも、木之元は眉一つ動かさない。
    「なんだお前ら」
     見ない顔だ、と言外に問う視線で木之元が灼滅者たちに向き直る。ここが頃合いとみたメルは、騒ぎが広がらぬようサウンドシャッターで会話を遮断した。
    「ガキに構ってる暇はねえ……俺は、こんなじゃ……」
    「暴れたいんだろう? だったら相手を――」
     してやる、と続けようとした脇差に木之元は両眼を剥いた。
    「そうだ!! 俺にはチカラがある、この程度じゃない――」
     もっと。もっとチカラがあるはず。それが欲しい。この程度ではないはず。
     ピンク兎のぬいぐるみを首元に押しあててケンはうすく笑う。
    「酒臭い男の人って嫌いなんすよねぇ……俺より強いのも気に食わない♪ その上もっと力が欲しいなんて……」
    「木之元、ここじゃカタギに迷惑がかかる、場所を変えよう。気兼ねなく戦える方がお互い都合がいいだろう?」
     脇差の低い声に、木之元はやや人外じみてきた風情でにやりと笑った。

    ●同、某ビル跡地
     気配を感じたのか、じっと目を閉じていた由乃が顔を上げる。邪魔にならぬようにとヴィントミューレと美玖もその場で一行が姿を現すのを待っていたが、どうやら誘導はうまく行ったようだ。
    「ヤクザっぽい知り合いはいますが、こうして本物を見てしまうとあいつはまだ可愛いものですね」
     その由乃のヤの字っぽい知り合いとやらに興味が湧くが、美玖は近づく業の匂いに思わず眉をしかめる。
     何かこう、両手の人数くらいはやってしまっていそうな気がしたのだ。
    「何だこっちもガキばっかりじゃねえか」
    「おっちゃんに恨みなんてこれっぽっちも無いんやけどな、しゃあないねん」
     いつのまにか裕士は木之元の背後、死神のようにひたりと咎人の大鎌を下段に据えている。肩越しにそれを見た木之元が喉の奥で笑った。
    「おいおい、女子供にゃ手出さねえのが俺のルールなのによお……」
     黒い角がこめかみへ一本増える。
    「ガキに殺られるワケにゃあいかねえな」
     それぞれが己の武器を手にし、木之元と対峙する。
    「喧嘩はね、先手必勝なのよ?」
     まずは軽いジャブとばかりにヴィントミューレがフリージングデス、美玖がソニックビートを見舞ったのを皮切りに、前衛の由乃と脇差、裕士がほぼ同時に躍りかかった。
     腕力にあかせて木之元は灼滅者たちを振り払い、獣のような雄叫びをあげる。破れた服の背中、炎をまとい睨みを利かせる仁王が覗いた。
    「仁王か、由来でもあるのか?」
    「さあなあ」
     あまり多彩なサイキックを行使しない、という点において今の木之元は文字通りただひたすら殴り合うスタイルだ。ヤクザの喧嘩といえばそれらしいと言えるかもしれない。
     まだダークネスとして覚醒したばかりという事もあるのか、多少回復手段があるとは言え微塵の容赦もない灼滅者たちに、木之元はみるみる削られていった。狙いすましたメルのバスタービームで空き地の奥まで吹き飛ばされる。
     派手に廃材を突き崩して倒れた木之元はぴくりともしない。やはりメルがサウンドシャッターで騒音を封じ込めているのでそこは問題ないが、エクスブレインの情報通りなら戦闘はむしろここからだ。なるたけ手早く済ませたい。
     そのまま油断なく木之元の様子を伺っていると、ごとり、と鉄筋入りのコンクリート塊を落として仁王を背負った体躯が起き上がった。裕士が見るかぎり、先の戦闘での余韻や影響が彼に残っているようには思えない。
    「……さぁ、鬼退治といこか」
    「おじさん、強いねぇ~! もっと遊んでよぉ。それとももうおねむの時間かな? うふふふふ!」
     手元のピンク兎を弄びながら挑発するケンを、もはや人間の意識などカケラも残してはいなそうな羅刹が見る。一声太く咆哮し、木之元であった羅刹――いや刺青羅刹は前衛めがけて襲いかかってきた。
    「オアァァァァァァアアッ」
    「ぼこぼこにされる覚悟はできましたか」
     銃と鉄パイプを構え迎え撃つ由乃は、傍から見ればそれだけでもう立派にカタギではない。
    「まあ、覚悟が無くてもしますけどね」
    「力任せに暴れるだけじゃ俺達は倒せないぜ」
     突進してくる羅刹。標的が自分であることを悟り自己強化を施して一撃目を耐えにいく由乃を、すかさず脇差がカバーに入る。異形化した腕に殴られた由乃を回復にまかせ、黒死斬で押し返した。
     さらにメルが雨あられとばかりにバスタービームを撃ち込む。ダークネスと言うよりも生きた暴風と化し、荒れ狂う刺青羅刹。
    「こうはなりたくないもんやね」
     目の前の敵は、闇に堕ちた自分の姿でもある。仲間を守るために力は必要だと理解しているが、灼滅者として生きる以上暗がりの底へ堕ちることが絶対にないとは言い切れない。絶対に堕ちないと決意している事と、決して堕ちないという事は、イコールではないのだ。

    ●同、某ビル跡地付近
     手が痛ぁい! と声をあげるケンを一瞥し、美玖は数歩を退いてリバイブメロディをとばす。さすが腕力について言及されていただけあって、一対多数でも気が抜けない。
     前衛がよく頑張っているが、一撃で体力を大量に削っていく膂力には目を瞠るものがあった。
     それでもまだ、一人でも多く範囲に巻き込んで回復をとばせる程度の気持ちの余裕は充分ある。互いが互いをカバーしあった上で、可能なかぎり迅速な灼滅を目指すという意志は統一されており揺るぎない。
     「殴った方が痛いってことはぁ、殴られた方はもぉっと痛いってことだよねぇ!? ――あはっ。あはは! あははははは!!」
     多少おかしなテンションではあるがケンの言う事は正しい。ヴィントミューレは羅刹の動きを一瞬たりとも見逃さぬよう目を凝らしながら、上がりかけてきた息を吐く。
     一葉が妖冷弾を放ちながら、大きく、美玖と反対側の位置へ回りこんだ。ジャマーとキャスターで前後を塞ぎ、さらに前衛へあがってきたメルを加えた五人で一気呵成に攻めこんでいく。
     攻撃は最大の防御と、果たして最初に語ったのは誰だったろうか。【片時雨】を手に勇猛に斬り込んでいく脇差の背には、矛かつ盾として仲間を庇いつつもダメージソースとなる矜持がにじむ。
    「刺青羅刹、ね……何とか元を断ちたい所だけれど」
     呟きながら、一葉との短いアイコンタクト。
     祭霊光でカバーに入った美玖と、完璧なタイミングで一葉の鏖殺領域が決まる。背後からの無視できぬダメージに、刺青羅刹は目の前の裕士に振りおろしかけていた拳をいったん引いた。
    「――しょうがないなあ」 
     ずっと言葉少なに様々なフォローをしてきたメルが、本当に、仕方ない、といった表情ですいと右手を持ち上げる。その手には漆黒の装丁の魔導書。
    「とっておき、だったけど。遊んであげる」
     不穏な発言は闇に隠れたもうひとりのメルの本音か、それともなかなか倒れない敵に立ち向かう己を奮い立たせるためのものか、それは彼女自身にしかわからない。
     ばらりと片手で開かれた魔導書が喚びこむ一条の光線。撃ちおろす、そんな苛烈さで刺青羅刹を貫き、焼け焦げた風穴を穿つ。
     さすがに動きの止まった瞬間を一葉が見逃すはずもない。至近距離からの縛霊撃で動きを止めに入り、すぐさまフォースブレイクで由乃が追い打ちをかけた。
    「ゴ、アア、ォォオオオオオア」
    「あなたの行いが正しかったのかどうか……今こそ裁きの時よ」
     ヴィントミューレと刺青羅刹。最年少の彼女が、まるで熊か何かのように立ちはだかる刺青羅刹へ裁きという言葉を言い放つのは、あまり似合いではなかったのかもしれない。
    「この洗礼、受けてみなさいっ」
     しかしその指先に凝った白光がジャッジメントレイとなって引導を渡した瞬間、それはそのまま彼にとっての断罪の瞬間になった。
     文字通り、雷に打たれたように微動しなくなる。まだ倒れないのかと脇差が一瞬息を詰めた刹那、びしりと音を立てて刺青羅刹の身体に亀裂が入る。
     まるで生木が裂けていくようだった。まっすぐ縦に入った亀裂から綺麗に二つに裂け、今さっきまで血肉を伴っていたはずの刺青羅刹は粉々に砕けていく。砂か灰のようなその残滓も、冷たいビル風に吹かれあっという間に消えてなくなっていった。
    「……行こう」
     すぐに我に返ったメルが、一行を促す。
     そう、由乃の言うとおり何の心配もない。
     ただヤクザがひとり路地裏で死んだだけ。
     なあんにも。それ以上、世の中に影響は何一つ残らない――。

    作者:佐伯都 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年11月18日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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