ぼくの、わたしの、やさしいせんせい

    作者:篁みゆ

    ●現れたのは……
     その日学園を尋ねてきたのは、サングラスを掛けた黒衣の男――イフリートのクロキバだった。
    「シロノ王セイメイノアラタナ企ミガ確認サレタ。死体ヲアンデッドニスル儀式ノヨウダ」
     夕闇の中に浮かび上がるクロキバは、表情を変えずにそう告げると、こちらの返答を待たずに続けた。
    「申シ訳ナイノダガ、コレヲ知ッタ若イイフリートガ、事件ノ起コル場所ニ向カッテシマッテイル」
     血気盛んな若者達は自分がたかがアンデッドに負けることはないと思っているのだろう。
    「彼ラガ暴レレバ、周囲ニ被害ガ出テシマウノデ、済マナイガ彼ラヲ止メルカ、彼ラガ来ル前ニ、セイメイノ企ミヲ砕イテクレナイダロウカ」
     エクスブレインへとまっすぐ顔を向けて、クロキバは短く付け加えた。
    「ヨロシク頼ム」
     

    「……というわけでね、クロキバが学園に来たよ」
     神童・瀞真(高校生エクスブレイン・dn0069)はいつもと変わらぬ柔和な表情でそう言うと、ゆっくりと和綴じのノートをめくる。
    「クロキバの言うとおり、全国各地で死体がアンデッド化する事件が起こることがわかったよ。だから君たちにはその現場へ向かってもらいたい」
     学園でもすでに事態の収束に向けて動いている者達も多い。
    「僕が予知したのは若い女性の通夜の席での出来事だよ。生前幼稚園の先生をしていた彼女の通夜には、大人だけでなく多くの子どもも参列する。そこで新たに生まれたアンデッドが暴れ出せばどうなるか……想像に難くないよね?」
     その想像が現実にならないように事件を解決して欲しい、瀞真は言った。
    「通夜が行われるのは中規模の道路と住宅街に面したお寺だよ。門を入ると砂利の敷かれた広い空間があって、お通夜に訪れた人達はそこで待機しているよ。近くにある建物に祭壇が作られていて、棺桶がおかれているんだ」
     慕われていたのだろう、園児を連れた親たちや卒園生を連れた親たちが多数訪れている。小さな子供を連れているから早い時間のほうが好ましいのだろう、通夜の始まる前から親子連れが多数敷地内に集まり、故人を偲んでいる。
    「祭壇のある建物内にはあまり沢山の人が待機する場所がないんだ。だから参列客は建物の外で通夜が始まるのを待っているよ。アンデッドが目覚めるのは通夜が始まる少し前。それでももうすでに沢山の親子連れが集まっているから、避難させないとアンデッドは彼らを狙うよ」
     アンデッドとなった女性は子どもが大好きで、幼稚園の先生が天職だと思っていたらしい。お遊戯、お歌、工作など子供達と過ごした日々を思わせるような攻撃をしてくるようだ。
    「小さな子どもがパニックになったらけが人が出るかもしれない。園児だけでなく下の子を連れているお母さんもいるだろうね。子どもを連れての避難は大変だから、なんとか上手く誘導してあげてほしい」
     そこまで言って瀞真はひとつ、息をついた。
    「ここで一つ問題があるんだけど……実は、血気盛んな若手イフリートがすでにこの事件を嗅ぎ分けてお寺の近くまで来ているよ。彼らに僕らエクスブレインの予知はないから、セイメイの悪事の匂いを嗅ぎつけて周囲をうろついている状態だけれど、事件が発生すればその場に駆けつけてきてしまうだろうね」
     人が多い場所でイフリートが暴れまわればアンデッドと戦う以上に被害が出てしまうだろうし、場合によっては死人が出ないとも限らない。これを防ぐためには、周囲を徘徊していると思われるイフリートを探し出して、説得して引き返してもらうか、或いは、被害を出さないように協力して事件を解決してもらうかが必要になるだろう。
    「状況によってはイフリートを足止めするなどしている間に、先に解決して引き返してきてもらう事もあるかもしれない」
     頼むよ、瀞真は言う。
    「女性は道路に飛び出した子どもを助けて交通事故で亡くなったんだ。そんな最後まで子どものために体を張った彼女に、子供達を襲わせるなんて哀しいことはさせてほしくないなと僕は思うよ。だから、イフリートのことも含めてよろしく頼む」
     瀞真はゆっくりと灼滅者達を見回し、頭を下げた。


    参加者
    夕凪・千歳(黄昏の境界線・d02512)
    殺雨・音音(Love Beat!・d02611)
    逆霧・夜兎(深闇・d02876)
    倉科・慎悟朗(昼行燈の体現者・d04007)
    新沢・冬舞(夢綴・d12822)
    王・龍(変態セミプロ・d14969)
    御剣・譲治(デモニックストレンジャー・d16808)
    唯空・ミユ(藍玉・d18796)

    ■リプレイ

    ●探して
     暗くなった寺の敷地に提灯の明かりが灯る。照らしだされた祭壇のある建物に向かい、集まった人々は故人を偲びながら通夜の開始を待っていた。時折聞こえてくる子ども達の無邪気な声は死を理解できていないのだろう。いつもと違う時間に外に出られて、そして友達と出会えたことで気分が高まっているようだ。
     そんな中に響く赤子の泣き声は何かを感じ取ったのか連鎖して。必死であやす母親達を責める者はこの場にはいない。
     ざわめきを寺の外塀を隔てて聞きながら、五人の灼滅者達は手分けしてイフリートのリシュを探していた。親に連れられて寺を目指す親子連れがちらほら見える中、不審な少女を探す。
    (「子供を守って亡くなった、優しくて強い先生。そんな人に子供を殺させるなんて、絶対に嫌です」)
     先生に会えるの? そんな無邪気な問いで母親を困らせながら寺へ向かう親子とすれ違った唯空・ミユ(藍玉・d18796)は胸元できゅっと手を握り、強く思う。
    「きっと優しい先生だったんだろうね……こんなに沢山の子達が悲しんでいるんだから。絶対に襲わせちゃ駄目だ、そんな事絶対望んでいない」
    「……!」
     隣を歩いていた夕凪・千歳(黄昏の境界線・d02512)が零した言葉にミユははっと顔を上げて「私も、そう思っていました」と告げる。
    「そっか。じゃあ早く解決しないとね」
     頷き合い、二人は視線を動かしながら小走りで道をゆく。
    (「話に聞いても、良い先生。その生き様を汚す事は、絶対にさせない」)
     今回の事件に強い怒りを感じている御剣・譲治(デモニックストレンジャー・d16808)は心中に強い決意を抱き、素早く視線を走らせる。
    「あの家の影に今、子供の姿が見えたような気がするんだが」
    「イフリートちゃんかな?」
     逆霧・夜兎(深闇・d02876)の指さした方向に目を凝らす殺雨・音音(Love Beat!・d02611)。そこは寺とは道路を挟んだ向かい側だった。
    「行ってみるか」
     譲治を先頭に三人は近くの信号のない横断歩道を注意して渡って目的の家へと近づく。
    「ここに――きゃっ!」
    「ギャッ」
     外塀の影から玄関を覗き込もうとした音音の下半身に突然何かがぶつかってきた。それはぶつかった反動で尻餅をつき、少しばかりコロンと転がって。
    「大丈夫~?」
     音音が慌ててしゃがみこむと背中の中ほどまでの髪を揺らしてそれは起き上がった。少女だった。
    「ウン。リシュ強イ、泣カナイ、大丈夫!」
    「!」
     それが目的の少女であったことが本人の言によって判明し、三人は顔を見合わせた。急ぎ、夜兎が携帯電話で千歳達へと連絡を取る。彼らが到着するまで彼女をこの場に留めておくべく、譲治は話を切り出した。
    「俺達は、クロキバから話を聞いた灼滅者だ」

    ●守って
     警察官風の服装に身を固めた新沢・冬舞(夢綴・d12822)と王・龍(変態セミプロ・d14969)はプラチナチケットを使用して、本物の警察関係者だと思ってもらえるよう堂々と動く。紺のスーツに身を包んだ倉科・慎悟朗(昼行燈の体現者・d04007)は二人と一緒に行動していれば、協力者と認識してもらえるだろうという期待をもって、二人と共に動いた。
     寺の敷地内に入ると目ざとい子ども達が「あ、おまわりさんだー」と声を上げた。夜の帳のおかげもあってか視覚的効果は抜群で、更に子供たちの上げた声がそれを後押ししてくれていた。
     ざわめきが広がる。人々の視線が三人へと集まったところで、冬舞が声をあげる。
    「つい先程、この近くの住宅街の道で子連れの猪の姿を見たとの通報がありました。安全の為に、至急、寺の中に避難していただけますか?」
     ざわざわ、ざわざわ。
    「猪が出没しました。現在この辺りを逃走しているようなので近くのお寺の中へ避難してください」
     龍も同じように声を張り、人々を促す。慌てて本堂から出てきた僧侶達に冬舞が事情を説明している間に、慎悟朗も穏やかに声をかけていた。
    「念の為の避難ですので、落ち着いて移動してください」
     人々は不安を漏らしながらも子どもに何かあっては大変だという思いからか、親子連れほど素直に指示に従ってくれた。事情を把握した僧侶達が誘導を手伝ってくれたのも大きいだろう。幼子を連れた移動は重労働であるからして、移動がややゆっくり目なのは致し方あるまい。下手に急がせて怪我人でもでたら本末転倒だ。
    「子連れの猪は気が立っていますので、安全が確認されるまでの間、避難をお願いします」
    「私がお手伝いしますので」
     避難を渋る老人につき従うようにして龍も寺の中へと向かう。
    「大切なお通夜の前に申し訳ありません」
    「あなた達が悪いんじゃないわよ。万が一怪我人でもでたら、彼女が悲しむでしょうし」
     避難する人々に謝罪する慎悟朗に、老人に付きそう中年女性が優しく声を掛けてくれた。そうだ、亡くなった先生だって望んでいない。
    (「さらなる不幸が起きない為にも死者を悼む人に気づかれることなく、もう一度永遠の眠りについてもらいます」)
     慎悟朗はゆっくりと遺体の安置されている建物へと視線をやった。冬舞は避難しそびれている人がいないかくまなく視線を動かして確認する。まだ建物入口には避難の最後列が見えているが、全員が建物へ入った後は龍が集まった参列客達を眠らせてくれることになっていた。
    (「誰かを守る為に亡くなった人を狙うとは、白の王の性格がよく分かるな……しかし、なぜ彼女が狙われたのだろう」)
     無念さが強く残る骸程、操りやすいのだろうかと冬舞は考える。そうでなくてもなにか理由があるだろう、とも。
     人がはけてがらんとした敷地内の所々に灯る提灯。時折車の音が聞こえるものの静かな中で、遺体の安置されている建物だけが煌々と光を放っている光景は、なんとも寂しく、そしてこれから起こることがわかっているだけに不気味にも見えた。

    ●懐柔して
    「これから戦うアンデッドの近くに、良いやつが一杯いるから、巻き込まないようにしたい」
    「リシュ、戦ウ、ダメ、クロキバ、言ッタ?」
    「そうじゃない。できれば一緒に戦って欲しい」
     譲治の言葉に首を傾げるリシュに夜兎が言葉を添える。
    「ああ、巻き込まないために一緒に戦って欲しい」
     譲治が同意を示すとリシュの表情がパァッと明るくなった。「リシュ、戦ウ!」嬉しそうにピョンピョン跳ねる彼女の元に駆けつけたばかりの千歳とミユも、視線の高さを合わせて落ち着いてと声を掛けた。彼女に全力で戦われては困るのだ。
    「僕らは灼滅者であり、仲間だってことはわかってくれているみたいだね? リシュはどうしてここに来たの?」
     僕も同じことが出来るんだ、と手首を軽く切ってクリエイトファイアの炎を見せる千歳。リシュはその炎を見て更に警戒を解いたのか、「悪イ奴、ヤッツケニ来タ!」と無邪気に笑った。
    「そうだね、僕達も同じだよ。でもね、リシュが全力で頑張っちゃうといい奴も、小さい奴も巻き添えになってしまうんだ。それだとみんなにありがとうってしてもらえないよ?」
    「ウ?」
    「リシュさんにお願いです。あの建物の中には、あなたより小さくて、弱い人たちがいるんです。あなたが少し力を使うだけで、死んでしまう。建物だけは、傷つけないでくれませんか」
     ミユも千歳の言葉を後押しするように重ねる。リシュは首を傾げてしばし考え込んだ。
    「イイ奴、敵、違ウ。弱イ奴、守ル。傷ツケル、ダメ!」
    「そうそう~。ネオン達も今から悪い奴をやっつけに行くの。だって弱い人や悪くない人が困ってるから、放っておけない。おんなじだね。でもはしゃぎすぎると弱い人達も困らせちゃうから気を付けてね」
    「分カッタ!」
     音音の言葉にこくこくと頷くリシュは、音音の持っている袋を気にしている。中にはハンバーガーやチキンにカラフルなお菓子が入っているから、匂いがするのだろう。
    「上手く行ったら美味しい物あげるよ」
    「今クレナイノ?」
    「良かったらこれ、どうぞ。私の好きなお菓子です。戦いの合図があるまで、これを食べて待っていましょう」
    「!」
     ミユが差し出したクッキーの小袋に嬉しそうに手を伸ばすリシュ。お菓子を与えるのは、避難完了まで気を引くという意味もあった。
    「ん、冬舞くんだ」
     ちょうどリシュがクッキーを食べ終わった所に千歳の携帯が震える。避難が完了したという知らせを受けて、五人と一匹は急いで寺の敷地内へと向かった。

    ●眠らせて
     祭壇に飾られた写真の中の先生は笑顔だった。この明るく可愛らしい笑顔が誰からも好かれたのだと思うと、祭壇の前で起き上がった、アンデッドと化した顔色の悪い先生を見るにつけ、ただただ悲しみと怒りしか湧いてこない。
    「眠りについた人を、再び起こそうなんて。許さない」
     静かに、それでいて強く、譲治の怒りが言葉となって現れる。
    「起きる必要はない。もう一度、休んで」
     短く告げて『Ouga arm』を構え、距離を詰めて振るう。
    「出来れば、顔とかは、避けよう」
     お通夜が始まった時、傷ついていたらきっと悲しいから。そう仲間に告げ、譲治は顔を避けた一撃を。
     今回の任務は敵さえ倒せばいい。けれどもやはり願うのは皆の無事だ。音音は皆が避難している建物を背にするようにして影を放つ。縛り上げられた先生を襲うのは夜兎の出現させた音波。ナノナノのユキもシャボン玉を飛ばす。
    「……」
     小さく、声にならないため息をついたのは、余分な感情を捨て、目的を果たすだけのモノになる為の儀式。サウンドシャッターを使用している為、避難した参列客達には戦闘音は届いていないだろう。殺界形成も使用されている為、新たに近づいて来る者もいないはずだ。このまま気づかれないで事を終えられれば――慎悟朗は先生の懐に入り、拳を何度も突き出す。
    「俺も余裕があるなら顔は傷つけたくないと思うが……難しいだろうか。最後のお別れはさせてあげたいが」
     冬舞は先生の死角に入り、思い切り斬りつける。合わせるようにして千歳は盾を広げて前衛の守りを固めた。
    「これ以上死者を辱めるな……!」
     冷徹な眼差しを先生に向けつつ、怒りを抑えない千歳。
    (「きっとご本人は、自分のせいで子供達が怯えることすらもつらいはず」)
     先生の気持ちを思うとミユの胸もちくんと痛んだ。先生、呼びかけてまっすぐに見据える。
    「せめてこの戦いを、最後のお仕事だと思って。いつものように、私たちと遊んで下さい」
     異形巨大化させた片腕で全力で先生に向かうミユ。合わせるようにして龍も異形化した肩腕をふるった。リシュが激しい炎を纏った爪で先生をひっかく。一応約束通り威力は抑えてくれているようだ。
     ゆらりゆらり、先生が身体を揺らす。その身体が紡ぎだす音はまだ温かみのある童謡で、龍の心を惑わそうとする。
     譲治の、高い毒性を持つ死の光線が先生の胸を穿った。苦しそうに数歩後ずさるその姿は見ている方も辛いが、ここで手を緩める訳にはいかない。音音が龍へ裁きの光条で癒やしを与えている間に、夜兎が影の刃を放つ。これは惜しくも避けられてしまったが、続く慎悟朗の影を宿した打撃が深く先生の身体に食い込んだ。ユキはシャボン玉を飛ばし続ける。
     冬舞が高速の動きで回り込んだ死角で刃を振るったが、上手く避けられてしまった。しかし先生が避けた先に千歳が踏み込んで振るった、炎宿した刃が深く彼女を斬りつけた。奇しくも避けさせて上手く追い込んだ形になったというべきか。
    「冬舞くんありがとう」
    「いや、礼を言うのはこっちだ」
     笑顔を交わし合う二人。千歳は以前闇堕ちから救った冬舞と背中を預け、共に戦えるのを嬉しく思っていた。それは冬舞も同じ。
    「皆は知らないままでいい。皆の大好きな先生は、沢山の人に悼まれて安らかに天へと昇るんです」
     小さく呟きながら彼我の距離を詰めたミユは、先生の身体へと拳を浴びせかける。龍は再び異形化した腕をふるった。リシュが激しい炎を放つ。
    「イフリートちゃん、建物傷つけないでね♪」
    「ソウダッタ!」
     音音の注意にはっとしたようにリシュは火力を弱めた。
     先生は軽やかなステップで踊りながら、前衛へと傷を負わせていく。それは過ぎ去りし日々を惜しんでいるようにも見えた。

    ●永遠に眠って
     慎悟朗の一撃が深く深く入った。見るからに先生の動きが鈍くなっている。先生の攻撃で傷つきながらも彼女と対峙した灼滅者達の努力ゆえだ。
     冬舞が死角に滑りこむ。千歳がそれを追った。
    「ここで通行止めだ。その体、返して貰うよ」
     炎を纏った刃が先生の傷口を更に抉って。
    「先生、そろそろ閉園時間みたいです。私達、帰らないといけません。だから」
     ミユは杖の先端を叩きつけるようにし、魔力を注ぎ込む。体内で爆発した魔力にその身体が大きく揺れたのを見て、龍が影の刃を放った。その刃はすべてのものを断ち切るように鋭く研ぎ澄まされていて、先生の仮りそめの命もそこで断ち切った。
     糸が切れたように崩れ落ちるその身体を譲治が受け止める。これ以上、傷は付けたくなかったから。

     そっと遺体を棺に戻し、なるべく元通りになるようにと整えていく。慎悟朗と夜兎は外れた鯨幕を直し、ミユや龍は落ちた供物を拾う。リシュは音音を真似して倒れた花を元に戻していた。
     冬舞は遺体の着衣を直しながら身体を見てみたが、特に気になるものは見つけられなかった。そもそも女性の身体。見ると言っても限界はあるのだ。
    「リシュさん、お願い聞いてくれてありがとうございます」
    「これ、あげるね♪」
    「ワーイ!」
     ミユと音音から食べ物を沢山もらって、リシュはご機嫌だ。
    「リシュちゃんはどうしてクロキバさんはセイメイさんを敵視しているのか……その辺の事情を知ってたりしますか?」
     龍の問いにリシュは首を傾げて。
    「セイメイ、クロキバノ敵。ソレダケジャダメカ?」
     どうやらあまり良くわかっていないようである。蒼の王……うーん、これは別の問題ですかね、なんてひとりごちる龍。お餅はお醤油派かきなこ派かというセイメイ宛の質問の手紙も用意したが、通夜でいらぬ混乱を起こすのは本意ではないため、持ち帰ることにする。
     譲治と千歳は棺の蓋を閉めて、そして祈る。
    「今度こそ、安らかに」
    「先生は誰も傷つけなかったよ」
     現場があらかた片付いた様子を見て、慎悟朗はそっとその場を後にした。
    「もっと強くならないといけないですね……」
     独り言のように呟いて。

     死は、覆せない。泣いても、笑っても、永遠の眠りからは目覚めない。
     灼滅者達のお陰で再び眠りにつくことが出来た先生は、沢山の人に惜しまれながら眠りの道をゆくのだろう。
     願わくば、彼女が虹の橋の向こうでも笑顔で子供たちと遊ぶことが出来ますように。

    作者:篁みゆ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年11月19日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 6
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