白き稲妻のライザー

    作者:志稲愛海

     富士の樹海にて、アンデッドを作り出し暗躍していた白き王。
     そんなセイメイの次なる動きを武蔵坂学園に伝えたのは、イフリート・クロキバであった。
    「シロノ王セイメイノアラタナ企ミガ確認サレタ。死体ヲアンデッドニスル儀式ノヨウダ」
     クロキバの話によれば、やはりセイメイが行なっているのは樹海の時と同じく、死体をアンデッドと化す儀式だという。
     だが前回と違うのは……アンデッドが生み出される場所が、街にある病院や葬儀場や火葬場であるというのだ。
     さらに、今回対処すべきなのは、アンデッドだけでない。
    「申シ訳ナイノダガ、コレヲ知ッタ若イイフリートガ、事件ノ起コル場所ニ向カッテシマッテイル」
     クロキバが武蔵坂学園に依頼を持って来た理由。
     若いイフリートが、事件現場へと赴こうとしているのだという。
    「彼ラガ暴レレバ、周囲ニ被害ガ出テシマウノデ、済マナイガ彼ラヲ止メルカ、彼ラガ来ル前ニ、セイメイノ企ミヲ砕イテクレナイダロウカ」
     セイメイの目論見を止めるべく動くという若いイフリート達は、まだ子供。
     だが子供でも、イフリートである彼らが見境なく暴れれば、周囲や一般人に大きな被害が出てしまうのは必至だ。
     なので何とか対策を練って、被害が出ることを防いで欲しいというわけである。
     そして、灼滅者達を見回したクロキバは改めて。
    「ヨロシク頼ム」
     再び武蔵坂学園の皆に、『お願い』するのだった。
     

    「……大切な人とのおわかれはさ、やっぱりいつ思い出しても寂しいよね」
     飛鳥井・遥河(中学生エクスブレイン・dn0040)は、そうふとモーヴの瞳を細めた後。
     集まってくれてありがとーと、灼滅者達を見回して。
     クロキバから依頼され、そして察知した、事件の概要を語り始める。
    「イフリートのクロキバからね、白の王セイメイが新たなアンデッドを生み出そうとしてるっていう報告があったんだけど。調べてみたらさ、全国の病院や葬式の席や火葬場とかで、死体がアンデッド化する事件が起こる事がわかったんだ。新たに生まれたアンデッドが暴れ出したら、一般人に襲い掛かったりとか大きな悲劇になっちゃうから……そうならないように、アンデッドを倒して事件の解決をお願いするね」
     そして今回アンデッドが新たに生み出されるのは、地方にある火葬場なのだという。
    「この火葬場でアンデッドになるのは、小田・雄介(おだ・ゆうすけ)っていう高校生の少年だよ。雄介は先日、交通事故で亡くなったんだ」
     不慮の事故で失われた、若い命。
     それを弄びアンデッドとして蘇らせるセイメイの所業を、見逃すわけにはいかない。
    「火葬場にはね、雄介の家族や特に親しかった友人が20名くらい来ているよ。火葬炉の前で行なわれる納めの式……最後のおわかれだね、その最中に雄介がアンデッドになって蘇るから。最後のおわかれが始まる前に、何らかの理由をつけて、一般人の皆を火葬炉のところから、控え室とか外に誘導して欲しいんだ」
     誘導するには色々なやり方が考えられるかと思うが。
     雄介と彼にとって大事だった人達のわかれを、台無しには出来る限りしたくはないから。
     なるべく自然に、一般人に疑問を持たれないような理由ややり方で誘導できればベストだろう。
    「それで、アンデッドになった雄介だけど。生前、小さい頃から空手やってた名残か、拳や蹴りを使った攻撃を仕掛けてくるよ。彼がやってたのは伝統派空手で、雄介の放つ一撃は鋭かったから、『白い稲妻』って異名で呼ばれてたんだって。同じ様にアンデッドも、一撃必殺的な重い衝撃を叩き込んでくるからさ、くれぐれも油断しないように気をつけてね」
     そして遥河は、さらにこう続ける。
    「それでさ……実はね、血気盛んな若手のイフリートが、既にこの事件を嗅ぎ付けて近くまで来ているらしいんだ。彼らに、オレたちエクスブレインの予知のようなものとかは無いからさ、セイメイの悪事のにおいを嗅ぎ付けて周囲を嗅ぎまわっている状態なんだけど、事件が発生すれば、その場に駆けつけてきてしまうと思う」
     一般人が多い場所でイフリートが暴れてしまう自体になれば、アンデッドと戦う以上に被害が出る可能性も高く、場合によっては死人が出ないとも限らない。
    「だからそうなることを防ぐためにはさ、周囲を徘徊していると思われるイフリートを探し出して、説得して引き返してもらうとか、被害を出さないように協力して事件を解決してもらうとか。イフリートを足止めしている間に先に事件を解決して、イフリートに引きかえしてもらうとか……若いイフリートによる被害を出さないよう、何らかの対策を取って欲しいんだ」
     敵はアンデッド1体であるが、あのセイメイの力で生み出された敵。
     さらに一般人の避難やイフリートへの対応も必要で、考えることも多いだろうが。
     悲劇が起こらぬよう、事件を解決してきて欲しい。
    「雄介にもさ、静かに天に還って貰いたいし……色々やることも多くて大変な依頼だけど。みんななら大丈夫って、オレ信じて待ってるから」
     遥河はそういつも通り、へらりと笑んだ後。
     いってらっしゃい、と灼滅者達を見送るのだった。


    参加者
    御子柴・天嶺(碧き蝶を求めし者・d00919)
    迫水・優志(秋霜烈日・d01249)
    紗守・殊亜(幻影の真紅・d01358)
    蓬莱・烏衣(スワロー・d07027)
    黒崎・白(白黒・d11436)
    霧野・充(月夜の子猫・d11585)
    木元・明莉(楽天陽和・d14267)
    黒金・鋼兵(崩落のディストピア・d19061)

    ■リプレイ

    ●死者への冒涜
     母親の胸に抱かれた遺影の雄介は、屈託なく笑っていた。
     そしてそれを火葬炉の仮祭壇に飾って。
     近くにいた学生服姿の御子柴・天嶺(碧き蝶を求めし者・d00919)に、貴方も雄介のお友達? と訊ねた母親は。
    「空手を習っていた際の良い先輩でした……」
    「あの子は、良い先輩だったのね」
     零れた涙を、ごめんなさいねと慌てて拭った。
     だが……雄介がゆっくりと眠りにつく事、それすらも。
     今のままでは叶わないのだ。
    (「白のセイメイ……死者を蘇らせ暴れさせようとは、断じて許せません!」)
     このままでは雄介はアンデッドとして蘇り、セイメイの勢力拡大の駒とされてしまうのだから。
    (「やる事がえげつないんだよ、あの野郎……」)
     愛する家族に突然置いていかれた母親の涙を、優しい瞳でそっと見守りつつも。
     胸元に咲く六花に無意識に触れながら、迫水・優志(秋霜烈日・d01249)もセイメイへ憤りを感じて。
    (「今度は死んだ奴蘇らせてそれ手下にするって、何かいけすかねぇ」)
     今日は印象的なメッシュも濡羽色に染め、依頼に臨む蓬莱・烏衣(スワロー・d07027)も。以前、樹海に赴いた時も抱いた感情を、再びその胸に宿す。
     そして。
    「火葬について再度説明がありますので、急ぎ控室に移動をお願いいたします」
     申し訳ありませんと頭を下げつつも、ふと響いたのは。
     プラチナチケットを纏い火葬場の職員に扮した、木元・明莉(楽天陽和・d14267)の声。
    (「セイメイが何を企んでるかは置いといて。大切な人との最期の別れの場所を滅茶苦茶にするような事は絶対に許せない」)
     参列者に紛れた天嶺も、さり気なく出口へと一般人達を誘導して。
    「納めの式の方法や火葬に関しての説明を再度行ないますので」
     棺の様子を警戒しつつ、烏衣や優志も、早急に避難が完了するよう指示を出す。
     だが、その時だった。
    「これは……?」
     火葬炉に現われたのは、火葬場の職員であった。
     一般人は雄介の遺族や友人だけでなく、火葬場の職員もいるのだ。
     だがプラチナチケットを用い、火葬場に着いてすぐ情報収集をした黒金・鋼兵(崩落のディストピア・d19061)は動じる事なく。
    「火葬炉にトラブルがあった、時間稼ぎに控え室のお客様の対応を頼む」
     さばさばとした口調で、そう火葬場の職員に言って。
    「トラブル? 君達は火葬炉の整備業者の人なのか?」
    「はい。火葬炉の扉が故障したようで、確認している最中です。終わり次第、連絡しますから」
     本性を巧みに隠した柔らかな声と作り笑顔で、すかさず続いた黒崎・白(白黒・d11436)。
     そんな二人の言葉に頷いた職員は、慌てて遺族達を控え室へと案内し始める。
     鋼兵の情報によれば、この日の火葬は雄介だけで。
     人の数も幸い少なく、他の職員達にも火葬炉に暫く近づくなと言ってある。
     雄介が蘇るその前に……彼の遺族や友人達を、この場から遠ざけたい。
     危険が及ばぬようにというのは勿論だが、心情的な面でも。
     そして優志は、雑談に興じゆっくり歩く人々を控え室に急ぐよう促しながらも。
     先程から繋ぎっぱなしの携帯電話を、さり気なく確認したのだった。

    ●稲妻の子
    「……!」
     空に走る、白き稲妻の如き炎。
     それを目にしたのは、ダブルジャンプで高い位置から周囲を見回していた紗守・殊亜(幻影の真紅・d01358)だけでなく。
     ぐにゃりと開いた木々の小路を進む霧野・充(月夜の子猫・d11585)にも、はっきりと見えたのだった。
     火葬場の一般人対処等は仲間に任せて。
     二人が探しているのは――1体のイフリート。
     幸い周囲の風景は人の姿などない山の中。
     白き炎が上がった位置を再度確認した殊亜は、すかさず空から地へと降り立ってから。充の成した小路を、彼と共に駆け出した。
     探しているイフリート・ライザーと、一刻も早く接触する為に。
    「セイメイの企み潰しに行くんだよね。俺も混ぜてよ」
    「! セイメイ……!?」
     ふと掛けた殊亜の言葉に、そのもふもふした毛を靡かせながらも。
     ウォオオオッと空に吼えるのは、額に稲妻のような傷がある子供のイフリート。
     その特徴から、彼が探していたライザーである事に間違いはないようだ。
    (「イフリートも子供には手を煩わされるってことか。まあ10歳って遊び盛りだしなぁ……」)
     子供とはいえ、見上げる程の大きさを誇る炎獣。
     だがやはり血気盛んなその様を見れば、ヤンチャな子供っぽさが感じられる。
    (「まあ目的は一致してることだし、出来れば協力して穏便に済ませたいね」)
     そして殊亜は、ライザーにこう提案する。
     共闘してアンデッドを一緒に倒さないか――と。
    「……オマエラ、ナンダ?」
     警戒した様子でじっと自分達を見つめつつも、小さく首を傾けたライザーに。
    「上手く一緒に闘えると、クロキバ様がすごいと思われるかもです」
     充も、そう続けた。
     その言葉に、ピクリと反応するライザー。
    「クロキバ、オマエラ、シッテル……? トモダチ?」
    「俺達はクロキバに頼まれて来たんだよ」
    「一緒に、セイメイの作り出したアンデッドと闘っていただけませんか?」
     友達かと言われれば、何となく素直に頷いていいものか分からないが。
     クロキバから頼まれて此処にやって来たのは、事実。
     灼滅者達をじろじろと眺め、くんくん匂いを嗅ぐような仕草をしつつも。
     ライザーはどうするか、足りないながらもその頭で、一生懸命考えているようだ。
    「ライザー様、何かご心配なことがあるのでしょうか?」
     そんなライザーの様子に、遠くまで響くような優しい声でふと聞いてみる充。
     そんな充に、ライザーは警戒した視線を向けたままで。
     こう、答えを返したのだった。
    「……シラナイヒト二、ツイテイッチャダメ、イウシ」
     大きな体をしているにもかかわらず、言っている事はやはり10歳の子供だ。
     だがその気になれば、自分達を一蹴することも容易であろう相手に対して。
    「まぁ、確かに子供は知らない人に付いて行ったらいけないけど。でも、クロキバは知らない人じゃないよね?」
    「私達に付いていかなくてもよろしいのです。ですがライザー様の行く先も、セイメイの生み出したアンデッドの元ですよね? 目的は同じですし、一緒に共闘していただけませんか?」
     なるべく分かりやすい言葉で、もう一度お願いしてみる。
     そんな様子に、何度も左右に首を傾けて考えてみた後。
    「ヨクワカラナクナッタ……デモオレ、セイメイノアンデッド、オマエラトタオス!」
     どうやらこれ以上考えるのが面倒になったらしく、灼滅者達の提案にこくこくと頷いたライザー。
     聞いていた以上に頭が弱そうなライザーではあるが。
     とにかく自分達に敵意がない事は、分かってもらえたようだ。
     そして白きもふもふな炎獣と共に火葬場へと向かいながら。
     もうひとつ、充と殊亜は彼に言っておくのだった。
    「クロキバ様は周囲に被害が出るのは望まないそうです。被害が出たら悲しまれるかも。それに沢山暴れるとセイメイの企みどおりになります。ちょっと面白くないですよね?」
    「狙った獲物だけを狩る方がイフリートらしくてカッコイイだろ?」
     戦いの際、周囲に無駄な被害を出すことのないように、と。
     そんなライザーの無邪気さを利用したお願いの仕方が功を奏して。
    「オレ、カッコイイ……! テキダケ、カル!」
     鼻息荒く満足気に言ったライザーは、再び白き稲妻の如き炎を纏うと。
     勇ましく雄叫びを上げたのだった。

    ●走る雷光
     全ての一般人を無事誘導し終えて。
    「どうやらライザーの説得も上手くいったようだな」
     携帯に入った連絡を確認する明莉。
     そんな報告に、ほっと胸を撫で下ろす灼滅者達。
     だが――次の瞬間。
    「……!!」
     突如、棺が大きな音を立て、ガタガタと揺れ始めたかと思えば。棺の蓋が呆気なく吹き飛ぶ。
     そして身体を起こしたのは――雄介。
     いや、笑顔である遺影とは全く異なった、生気のない顔のアンデッド。
     だが生前鍛えたガタイの良い身体は健在だ。
     眷属とはいえ、セイメイの力で蘇ったアンデッドの力はダークネス並みだという。
     烏衣は、棺から出てきた雄介にニッと笑んでから。
    「空手、オレもやってたんだ。なぁ一勝負といこうぜ」
     スッと構えを取ると、声に反応し襲い掛かってきた鋭い拳に合わせ、螺旋を描く一撃を放つ。
     刹那、力と力がぶつかり合い、稲妻の如き轟音が鳴る。
     さらに戦場に響き渡るは、白がかき鳴らした音波の衝撃。黒子も主とタイミングを合わせ、勇ましく前へと躍り出て斬魔刀の一撃を見舞った。
     そして左手にだけ嵌めたフィンガーレスグローブを改めてきゅっと下げ、自らしたためた護符揃えを手に、サウンドシャッターを展開してから。
    「人の尊厳も何もかも奪うこんなやり方、認める訳にも負ける訳にもいかないだろうが……!」
    「槍よ、螺旋を描き敵を貫け……一閃!」
     優志は足元に寄り添っていた漆黒の大型犬を解き放ち、敵へと牙を剥けて。
     尊敬し慕う彼と同時に地を蹴った天嶺が繰り出すは、紫の組紐の薙刀。月の閃きを宿す刃が唸りを上げ、螺旋の突きが見舞われる。
    (「雄介の動きは俺と似てる分動作の予測もしやすそうか?」)
     明莉は上がり気味のガードの隙をつき、握る拳を雄介の腹部へと鋭く突き上げて。守りごと撃ち抜く拳撃にくの字になった雄介へと、暗の霊撃が放たれる。
     そして、大人しくもう一度殺されてくれなんて言わない……と。
     金の瞳にバベルの鎖の力を集結させながら、鋼兵は言い放つ。
    「空手が好きなんだってな。最期の死合いってのも悪くないだろう?」
     彼へのせめての手向けに、雄介をこの手で天へと葬送ってあげる為に。
     しかしセイメイの力で蘇り、これまで攻撃を受けつつも平然と構えるその姿をみれば、油断は大敵だ。
     イフリート探索の為に数人欠けた今の状態では、尚更。 
     だが――その時だった。
    「……!?」
     ゴウッと突如燃え上がったのは、激しく逆巻く白き炎。
    「……テキ、ツブス!!」
    「ライザー、敵はアンデッドだけで、あとは仲間だから!」
     全ての者を飲み込まんと轟く激しい炎に、ディープファイアに跨り駆けつけた殊亜はすかさずフォローに入って。
    「一緒に、ですよ。物を壊さず目標だけを倒すのがかっこいいです」
     ライザーの強烈な炎の一撃がアンデッドへ叩き込まれ、相手が体勢を崩した隙を見逃さずに。ライザーへ声掛けしつつも、敵を絡めとらんと充の影が伸びれば。殊亜の纏う炎が衝撃と化し、キャリバー突撃を受けたアンデッドの全身を駆け巡って燃え上がる。
     そしてライザーの炎の勢いに、一瞬だけ圧倒されるも。
    「クロキバさんが悲しまない様に回りに迷惑を掛けずに一緒にがんばろうね」
    「ライザーが一緒に闘ってくれんなら頼もしいな!」
     良い子にしてろよ、手柄立てたきゃな、と。天嶺に続き、烏衣も幼きイフリートへと声を掛けて。
    「テキダケ、ツブス! オレ、カッコイイ!!」
     えっへんとどや顔をするライザーは、ふわふわな毛を靡かせながら。
     勇ましく天に吼えるのだった。

     生前もそういうスタイルだったのだろうか。
     最初こそ、勢いと力のあるライザーに圧されていた雄介だが。
     次第に炎の攻撃を見切り、鋭き稲妻の拳や蹴りを炎獣へと打ち込んでいく巧者ぶりを発揮する。
     さらに素早い身のこなしが決定打を与えさせてくれない。
     だが勿論、ここで引き下がるわけはなく。
    「俺たちの方が獲物を先に仕留めちゃうよ?」
     殊亜は派手に燃え上がらせた炎をアンデッドへ叩きつけながら、ライザーに視線を向けて。けたたましいエンジン音を轟かせたディープファイアの弾丸の嵐が雄介の足を鈍らせれば、彼の機動力を続いて削ぐべく封縛の糸を張り巡らせる鋼兵。
     烏衣も動きの鈍ったアンデッドへと大きく振るった金属バットをめり込ませ、内側から爆破させて。
     白は黒子と共に仲間を癒しながらも、ムキになるライザーへと、すかさずこう声を掛ける。
    「カッコいいところ、みせてくださるんですよね?」
     その抜け目ない一言や表情に、オレカッコイイ! とライザーは再び奮い立って。
     幾分か冷静さを取り戻し、炎の翼で自らのダメージを癒した。
     セイメイの所業に怒りこそ感じるも。今、自分が何をすべきかを確りと自覚して。
    「これ以上の被害と勢力強化は、絶対に阻止させて貰う」
    「炎には浄化の力があるんだ……焼き尽くせ!」
     優志の成した冷気のつららが敵を貫き、今度は天嶺の燃え盛る炎がその身を激しく焦がす。
     そしてガードが緩んだ間隙を縫い、雷を纏った明莉の拳が雄介の顎を捉え、大きく跳ね上げれば。暗の霊障波が続け様に見舞われた。
     その連携に一瞬仰け反るも、すぐに体勢を立て直し構えを取る雄介に。
    「一度、生きてる間に手合せしたかったな」
     確かに手応えのあった拳を、改めて握りなおす明莉。
    「こういうやり方は、嫌いです」
     充は傷ついたライザーを歌声で優しく包みながらも、そう思いを零す。
     死者を利用すること自体好まないが、より悲しみが深くなるようなこの所業は。いくらセイメイにとって効率的なやり方でも……すごくむかつくから。
    「せっかく寝てる奴を利用しようなんざ気にくわねぇな」
     鋼兵も充と同じような気持ちをセイメイへと抱きながら、少し疲労感が見え始めた雄介へと、満を持して魔法の矢を撃ち出して。
     よろけた敵を強烈な炎の拳で殴りつけたのは、ライザー。
    「中々いい動きするね!」
     そんな殊亜の声に、ライザーは得意気に鼻を鳴らすが。
    「!!」
     折れかけた膝を必死に立て直した雄介は、目の前の烏衣へと。
     守りをも貫く拳を、ズンッと突き上げる。
    「……へぇ、流石白い稲妻。強いだけの事はあるな」
     その重い一撃に、一瞬意識が飛びそうになるも。
    「けど残念ながらオレのが一枚上手みてぇだ」
     足を踏みしめ持ち堪え、ぐっと拳を握った烏衣は。
     お返しに、飛交う鳥の如き拳の連打を、雄介へと叩き込んだのだった。
     そして拳の衝撃に耐えられなかったアンデッドが、地に崩れ落ちる。

    ●葬送の刻
     敵に止めを刺し損ね、拗ね気味のライザーに。
    「余りクロキバを困らせんなよ、お前」
    「やる気あるのはいいけどあまりクロキバ困らせるなよ?」
     優志と殊亜に同じ事を同時に言われ、コマラセテナイモン、と、ぷいっ。
     だが、もふもふ労ってくる灼滅者達とじゃれるように転がってから。
    「クロキバは力もあり、色々な状況を考えて判断するって聞くよ。視野を広めて、一歩でも近付けるようになれたらいいな」
    「クロキバミタイ、オレモナル!」
     明莉の言葉に、コクコク素直に頷くライザー。
     そして彼を先に帰して。今度こそ……最後のお別れができるようにと。
     火葬場を元の状態に戻した後、灼滅者達はそっと。
     笑顔を宿す雄介の遺影に背を向け、足早にこの場を後にするのだった。

    作者:志稲愛海 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年11月17日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 1
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