芸術発表会2013~芸術は大爆発だ!

    作者:池田コント

     芸術の秋。
     武蔵坂学園の秋を彩る芸術発表会に向けた準備が始まろうとしてた。
     全6部門で芸術のなんたるかを競う芸術発表会は、対外的にも高い評価を得ており、武蔵坂学園のPTA向けパンフレットにも大きく紹介された一大イベントである。

     この一大イベントのために、11月の学園の時間割は大きく変化している。
     11月初頭から芸術発表会までの間、芸術科目の授業の全てと、特別学習の授業の多くが芸術発表会の準備にあてられ、ホームルームや部活動でも芸術発表会向けの特別活動に変更されているのだ。

     ……自習の授業が増えて教師が楽だとか、出席を取らない授業が多くて、いろいろごまかせて便利とか、そう考える不届き者もいないでは無いが、多くの学生は、芸術の秋に青春の全てを捧げることだろう。
     少なくとも、表向きは、そういうことになっている。

     芸術発表会の部門は『創作料理』『詩(ポエム)』『創作コスチュームダンス』『絵書筆展示』『器楽演奏』『総合芸術』の6つ。
     芸術発表会に参加する学生は、それぞれ、自分の得意とする種目を選び、その芸術を磨き上げ、一つの作品を作りあげるのだ。

     芸術発表会の優秀者を決定する、11月22日に向け、学生達は、それぞれの種目毎に、それぞれの方法で、芸術の火花を散らす。

     それは、武蔵坂学園の秋の風物詩であった。


     ちゅどぉぉおおおおぅううん!
     大爆発!
     驚き振り返れば、とげのように咲いた煙の中から、メタリックな装甲に身を包んだ男が歩み出てきた。
    「芸術は……爆発だ!」
     ゴージャスモード発動!
     光り輝く決めポーズ。
    「そして、爆発だ!」
     ちゅどどおおおおぉおぉおおおおぅうんん!
     更なる大爆発が彼の背後で炸裂し、その爆発が落ち着いたとき、周囲から盛大な拍手が湧き起こった。

    「な、なんだ、なんだ!?」
    「ふっふっふ、芸術発表会は初めてかい?」
     そんな事態に遭遇した落合・文語ことラクゴに声をかけたのは、藁で髪を縛った快活そうな少女、久米・夏虎であった。
    「お前は……」
    「私が誰か、ということよりも、あなたは先に知らなきゃいけないことがある! それは!」

     芸術は爆発だ!
     これは今は亡き、偉大なる芸術家先生の言葉である!
     芸術とはなんだ? 作品とはなんだ?
     それはすなわちあなた自身! あなたの生き様! あなたの在り方!
     本来芸術に垣根などない!
     自由に、自らが信ずるもの、個性。
     それらを表現するんだ!

    「……というわけでなにがいいたいかと言うと、もうすぐ芸術発表会という学校行事があるから、あの先輩は爆発の練習をしているのですよ」
    「いや、正直さっぱり意味がわからねぇが、え、なんだ、あれが芸術? 爆発の練習?」
    「そう! この武蔵坂学園では、あの爆発を芸術として発表する機会があるんだよ」
     夏虎はラクゴを案内する。
    「ちなみに前回総合芸術部門で受賞したのはあちらに展示されています!」
     三上・文(アンリミテッドアンロッカー・d04057)さんの大作パラパラ漫画!
    「おー、こいつは見事なもんだ。躍動感があって、まるで絵が生きてるみたいじゃねぇか」
     黒鉄伝斗(電脳遊戯パラノイア・d02716)さんの『パズルゲームを一人で左右同時操作し、積んだブロックでドット絵を描く』その成功するまでの映像。
    「おー! こいつはすげえ。一体何千回挑戦したんだよ。早回しとかで編集されてるが、最後ちょっと感動したわ」
     日向・和志(中学生ファイアブラッド・d01496)さんと他9名による【和志危機一髪】!
    「……こいつはなんの罰で飛ばされてんだ……?」

    「総合部門はグループ発表も多いからね。この時期は夜遅くまで残ってダンスの練習したり、ヒーローの登場や劇の練習したり、ドミノを並べたり、人間を大砲で打ち上げたり、なかなか楽しいんだよ」
    「……人間大砲をそこに混ぜるなよ」
    「もちろん個人参加もOKだし、芸術って言っても運動する人もいるよ。自分自身の筋肉が芸術って人や、テニスの必殺ショット、ボクシングでアートしたり」
    「へぇ、そういうのもあんのか」
    「写真や、鉱物の展示もあったなぁ! 作品制作も色々で、ビックリ箱作ったり、巨大こたつ作ったり、そばうったり、編み物したり、洗濯したり、爆破装置作ったり。校舎の壁に彫刻したり、校舎破壊しようとした人達は怒られてたかなー? 彫刻すごかったけどね!」
    「なんかちょいちょい爆発とか言ってねぇか……?」
    「お馬さんやサーバントさん達と参加してる人もいたねー! んでぇ、発表会前日には、学生だけで前夜祭をやるんだよ! バンドや一発芸な人達。太鼓叩く人や、アイドルやる人、瓦割りする人。これが盛り上がるんだぁ! あと、噂では前夜祭の日に告白した人がいるんだって! うひゃー! 去年は花火も上がってたし、あー私も花火の下で告白されたりとかしてみたーい!」
    「ははぁ、そいつはロマンチックってもんだなぁ。女は好きだねぇ、そういうの」

    「……まぁ! そういうわけなんだよ! 人に理解なんて求めなくていい! 爆弾作りたい人は爆弾作ればいいし、踊りたい人は踊りまくればいい! バンジージャンプしてもいいし、バニー服着てもいいし、女顔な子はバレるギリギリまで女装に挑戦してもいいし、我慢強い子は準備期間中ずっと右手を上げ続けてもいい!」
    「最後の苦行だろ」
    「それじゃ、私はこの辺でー! お兄さん、芸術しようぜ!」
     ラクゴは夏虎を見送って、
    「よくしゃべるやつだったな……さて、俺はどうしたもんか……」
     落語でもやるか、適当にサボるか。
     そんな思考を遮るように、響いてくる爆発音。振動。
    「……とりあえず吹き飛ばされないように気をつけるか」
     ラクゴは隠した口元に苦笑いを浮かべたのだった。


    ■リプレイ

     2013年11月22日、武蔵坂学園にて芸術発表会が行われた。これはそのうち総合芸術部門に関しての記録である。
     栗原嘉哉記。

    「こんなところか……」
     ヴェルグは一息つく。
     低融点合金をクリエイトファイアで加工した鳥。溝に血を垂らせば火の鳥になる。
     休憩をとろうと技術室を出ると、延々とジャンプし、延々とスクワットし、延々とタオルを振り回し続ける空がいた。
     かなりシュール。
    「野球の応援……のパントマイム、か……?」
     一瞬コクリと頷く空。
     涼しい風がどこからか爆音を乗せて吹いてくる。

     早々に芸術に挫折して帰宅を決意した登は校門前で遥香にあった。
     遥香のはず。
     動かないけど。
    「なにしてるの?」
    「え、あ、私の等身大像を展示しようと思ったんですけど、壊されたら困るので代わりに私が立ってるんです」
     ……。
     彼女は想像の上を行く。
     そんな二人に、声をかける者がいた。
    「あれ、もしかして暇? じゃー俺らと一緒に風船膨らますとかどースか?」
     麦に誘われついていった先では、ウララと慧梨香がハートや猫型の紙吹雪とメモを用意していた。
    『ご愁傷様』『お幸せに』『見てるよ』
    「笹井先生なんだって?」
    「OKだって」
     芸術は、紙吹雪入り風船と大量の風船リリース。
     きっと明日の空は、学園中がカラフルに染まる。
    「よーしがんがん膨らませるよ!」
    「めっちゃたくさん飛ばしてやろー!」

     reinforceの面々は、発泡スチロールやペットボトルでジオラマを制作中。
    「あ、そろそろ休憩の……時間、です。インターバル、取りましょう」
     割り込みヴォイスで最中の声。
    「すこし、憧れていた情景かも知れないな……」
     水華はつぶやく。仲間達との共同作業。
    「ねぇ、最中さん。この作品、修道院のどこかに飾りません?」
     感謝の気持ちを伝えるために。
     十三はグルーガンを置いて提案する。
     爆発のような派手さはないけれど。
    「周りは周り、です。自分達にできる、一番いい仕事をするのが、大事。見た人が、喜んでくれるような物。頑張って、作りましょう」
    「……あぁ、そうだな」

     LittleSlayersでチームダンス。
     全員スーツをビシッと着込み、スタイリッシュに。
    「統一感もあって格好いい感じになるね」
    「眼福です眼福げふんげふん」
    「ホストクラブ……こほん」
     透夜のつぶやきや、リオンの荷物の中のアフロとサングラスには気づかない振り。
     練習練習。
    「ってあれ、滅茶苦茶タイミングずれた!?」
     春人に冬人、透夜はダンス初心者。ずれてしまうが当たり前。
    「まぁ、練習すりゃそれなりの形にゃなるって。音を楽しむつもりで、気軽にいこーぜー」
     空哉の言葉で肩の力を抜いて、やがて成果が実る時。
    「お! 今のなかなかだったよな!?」
    「うまく揃いましたね」
     努力は形になる。友情は友を支える。
     それが春人達の爆発、芸術。
     最初から通して、できた!
    「といったところで、ぽちっとな」
     どっかーん!
    「あれ……? やりすぎちゃいましたか?」
     白煙の中でおっとりリオン。
    「リオン先輩って、大胆ですね……」
    「すごいと思います……」
    「侮れないな……」

     緑色の瞳が六つ。
     希沙、千佳、小太郎の緑目トリオは思い出をコラージュ。
     秘蔵絵の具に写真に刺繍。それぞれ素材を持ち寄って、しゃくなげ怪人や水族館で親子サンド、大きなマンタ、三人のこれまでを形にしていく。
     千佳が手形をつけてると。
    「張り手ー! きさもー!」
    「オレも混ーぜーてー」
     手形足跡ぺったんぺったん。
     大きな足形小太郎ドヤ顔。
    「ぐぬぬ男子め」
    「隙あり」
    「ふぉっ!? 何? 何?」
     ほっぺたカラフル希沙に笑い。
    「ふぬぬ、千佳ちゃん回り込め! 挟み撃ちなり」
    「らじゃー……あ」
     どーん。
     遠くの爆発音に驚いて、すべって転んで花澤型。そしてお揃いトリオ型。
     絵の具まみれの新しい思い出。

     intermezzoの芸術は天まで届くよケーキタワー。
     スポンジを積み重ねてクリームを塗って土台完成。個性を出すのは飾り付け。
    「さて、あたしは何を乗せようかな……やっぱりフルーツは欲しいわよね」
     苺にブルーベリー。美夜、目移り。
    「そうですね。男の子としてはやっぱりおっぱ……プリンが良いと思います。冗談なのでそんな目で見ないでください」
     司は冷たい視線を避けて、マカロン、苺大福、栗きんとん。
    「ちょっとつまみ食いしてないで手伝いなさい。はたらかざるもの食うべからず、よ?」
     優華に見咎められる日向だが、その実彼の手際はかなり良い。
    「ちゃんとやってるぜ? ……うっぷ」
    「むねやけしてるじゃない」
     完成したら写真を撮って皆で食事。
     食べ終わるまでが芸術です。
    「自分達で作っておいてなんだけど……これ食べきれるかしら……?」
    「うっぷ」

     ラクゴの猫の皿という噺を聞いて、休憩しようと共に出た実。
     ラクゴの着物の袂には仔猫が納まっている。やんちゃそうな子だ。
     道すがら見覚えのない建物を見つけて近づくと、コルトが建設中の偽校舎。
     成程壮大な企画だが一人でやるには荷が重すぎたか。ぐったりしているコルトを見かねて飲み物を買ってきてやり一休み。
    「……なんで口元隠してるの?」
     実の問い。
    「知り合いの手拭いなんだよ。馬鹿がつく落語好きでな」
     そこへ、校内アナウンスが響く。
    「アー、アー、マイクテス……これから三十分後、アイドル四人によるライブがあります! 四人とも可愛いから是非見てあげてね!」

    「皆、乗ってるかぁあああい!」
     修李の叫びに歓声が湧く。
     仮設ステージには四人。
     ヘソ出し女装アイドル雨霧心ことミスト。
     キーボード担当、央姫こと央。
     ベース兼ボーカル、メイド服のナナミちゃんこと虚空。
     ドラム担当、日田里之子ことウェディングドレスの優太朗。
    (「……解せぬ」)
    (「なんでこんな……」)
    (「どうして俺たちは女装してステージの上に立っているんだ……」)
     なんの流れか勢いか大変可愛らしい恥辱に晒される4人に向けて黄色い声。
    「こころちゃーーん! かわいいー!」
    「愛してるー!」
    「心ちゃーん、ナナミちゃーん!」
    「えるおーぶいいー! らぶりー! こころーっ!」
     椿姫、エリ、花梨、アルクレイン。
     クラッカー鳴らしペンライト振って熱狂してるけど、普通立場逆じゃない?
    (「観客いるし、これなんて羞恥プレイ!? 誰だよ放送入れた奴!」)
     修李です。
    「もうこうなったら恥も何も捨てて、思いっきり弾けますわよー!」
    (「捨てちゃうのか、優太朗!?」)
    「みんなに女装姿見られちゃって……さっさと始めて、終わらせちゃいますよもうっ!」
     ヤケになった四人の演奏はしかし素晴らしく、盛り上がる観客。駆け上がる興奮。投げつけられる珈琲豆。豆?
    「私からの茶葉束も受け取ってー! 央姫ー!」
     そして紅茶の茶葉。
     演奏が終わる頃にはすっかりいい匂い。
    「みんな今日は来てくれてありがとう! とっても楽しかっ……☆」
     ぽち。
     ちゅどおぉぉぉおおうん!?
     なぜか爆発。
     観客驚愕。
     そんな中、宙を舞うミストをエリがキャッチ!
    「他の子には渡しません」
     虚空は央がお姫様だっこ。オンザ空飛ぶ箒。
    「ちょっ、は、早く下ろしてくださいっ……」
     心ちゃんライブは爆音と共に幕を閉じるのだった。
    「あれ? 優太朗さんは……?」
     風船破裂『ご愁傷様』

     頭から地面にめり込んだ優太朗。
    「丑の刻参りで祟るぞ、あぁんっ!?」
     自分だけ助けてもらえなかった苛立ちを吐き出すと、そこにいた大型秋田犬と目が合った。
     ワン!
    (「祟らないでください」)
    「……うん、なんか、ごめん」
     突然の女装花嫁の乱入。
    「どーだ! ぴょん!」
    「へ……?」
    「ウチの手にかかればこーなるんだぴょん! 花嫁さんだよ! 桜香ちゃんが祟られて犬になったよ!」
    「なんか組み込まれた!?」
     怪人役のウサギが叫ぶと、謎のダークヒーロリンネ役の彩喜が無念の声。
    「むぅ……わかりました。闇堕ち、します」
    「闇堕ちしちゃった!?」
    「待てー!」
     扇風機でマフラーをなびかせ、颯爽登場ヒーロー大牙。
    「闇堕ちはよくない! 戻るんだぜ!」
    「戻りました」
    「戻っちゃうんだ!?」
     ヒーローの心を胸に、今放つ合体技黒風!
    「わー、やられたー」
     可愛いポーズで倒れるウサギ。
     そこへウサギを見つけたラーズイールがやってきた。その手には座ると死ぬイスなど胡散臭い品物がどっさり。
    「Oh! 助けて欲しいデース! 学校中Bombだらけで、ボクの宝物が、タイヘンなことになってマース!?」
    「わ、来ちゃだめー!」
     どっかぁーん!
     こうして吉祥寺キャンパス六年蘭組の悪は滅んだのだった。

     美少女エデは進歩した。
     風に舞う洗濯物はまるで生きているかのようで。
     もしかしたら干す過程も含めて芸術なのかも!
     だからワルツを踊るようにくるくる回りダブルジャンプ。木の枝にハンガーごとワンピースを干す。
     題して『木登りと白いワンピース』!
     ちゅどぉおおん!
    「きゃあ、また飛ばされちゃった!」
     その爆風の主、小次郎はみすぼらしい姿で部屋から登場。
     歩きながらタトゥーの図案を描き続ける文は、爆風にひっくり返りながらも責めるでもなく。
    「なにを爆発させたんです?」
    「いえ、少々植物の栽培に失敗しまして」
     植物!
     今の爆発で石像が砕けた流希は仕方なく残骸をリサイクルし始め、隣の部屋に問題はないかと覗いてみると、リアがビハインドと口論中。
    「……星人……鶴の恩返しに、男の家を爆破して去る場面とか、ないよ……? ねぇ、みんな?」
     人間はリア一人。だけど空想のお友達が他にもいるらしい。
     そっとしておこう……。

    「ブラッシング程度ならともかく、飾るとなるとさっぱり分からんのよな?」
     鐐がつぶやく。
     今年の武蔵坂HCは着飾った馬のお披露目。
    「好弥ちゃん、これでたてがみ編んであげて。うん、人につけるのと同じ要領で。鐐さん、この型紙トモに当てて……そうそう、それでOK~」
     織姫の指示のもと、支度をしていると。
     どっかーん!
     割と近くで爆発音。
    「お馬さんがビックリしてます! ど、どうすれば……」
    「落ち着いて。不安が伝わっちゃう。鼻先や首筋を撫でてあげて。怖くないよって」
     好弥の気持ちが伝わったのか、やがて馬は落ち着いた。
    「お馬さんが大人しい動物でよかった。これがカバだったら頭から噛まれていたかも知れません」
    「いや、さすがにカバと比べるのは……」

     糸括は映画制作中。
    「俺、何で再びこれ着てるんだろうな」
     メイドバニーズ脇差はウサミミメイド姿で遠い眼差し。
    「鈍さん、こういうのは恥ずかしがるから恥ずかしーのだ」
     サイズぴったりのバニーになって、ナディア司令の仁王立ち。
     でも、恥ずかしがる今の自分を大切にしたい脇差である。
     ちらり。
     目が合えば。
    「さて、皆の衆。今ここに愛と希望の感動巨編を撮影する運びとなり部長は誠に嬉しいきゅるん☆」
     スカートくるりん。口元に指を揃えてハイポーズ。
     脇差の目、更に遠くへ。
    「あかりん、かわいいよー」
    「あーりがとサンクス☆」
     そこにいるのは愛と正義のUSAMIMIメイドだけだった。
    (「目の色が変わってる……」)
     明莉に限らず皆もノリノリ。
    「貴様らに伝説のハイヒールは渡さないぜ!」
     敵役の和装狼、夜斗。
    「……やった、俺、衣装マシな方だ……」
     ウサミミ執事役、マキシミン。
    「あと必要なのはあれとそれとこれと……あ、バニーとメイドは三着ずつ用意しといたよ!」
     舞台設営美術係、朱。
    「とてとてとて……ざしゅ! でんでんででんでーん♪」
     BGM効果音担当、心桜。
    「このカメラの機能がまだよくわかってないんだが……」
     カメラ・大道具、直哉。
    (「ふみゅ、ナディアせんぱいのお足、けっこーセクシィなの」)
     小道具・道案内の猫役、杏子。
    「そしてあたいがこの映画の監督、ミカエラであーる! では、監督よりストーリーを説明しよう!」
     監督自ら熱血の演技指導。制作総指揮。
    「まじかるミラクル☆バニースラーッシュ! いけないあなたを悩殺きゅるん☆」
    「はい、あかりんいいよいいよー! 可愛いよー! ナディア、脇差、声出てないよーまじめにやるー」
    「……ありえねー、絶対ありえねー……変身って聞いてないし」
    「振り返るな振り絞れ、俺……中途半端が一番辛いぞ……」
     主演三人をよそにメンバーは盛り上がり。
    「鈍殿、笑顔引きつっておるぞ。明莉先輩見習ってー!」
    「なおやせんぱい、このアングルのバニーのおみ足、きれいだよー?」
    「木元の脚って、誰得だよ……撮っておくけど」
     撮るんかい。
    「なおやん、綺麗に撮ってね!」
    「一緒に塗るよーっ!」
    「ありがとキョン。木の板切るのは秀星ガンバ!」
    「あ、よかったらウサミミ執事が手伝うよー」
    「おお、なんか燃えてきたぞ! バニーズには負けないぜ!」
    「ワン!」
    「その気持ちいいね! だけどお菓子投げつけられたら負けるよー! あ、三人はその前にウサギ跳びマラソン3キロのシーン!」
    「ありえねー!?」
     力作の予感。

     睦月は昨年新必殺技を会得するに至らなかった。
     なにがいけなかったのか考え、そして気づいた。重大な過ちに。
    「そういえば私、槍使いでした~」
     今年もまた秘伝書を紐解く。
     灼極流奥義氷峰塵。
     琥珀が投げたパチンコ玉を槍で突く特訓。とはいえ早々上手く行くはずもなく。
    「だんだん暗くなってきたのよ」
    「まだまだですよ~。私の心眼は暗闇でも見通すのですよ~」
    「……なんかいろいろ手遅れな感じなのよ」
     バチン!
     奇跡的に命中した玉が飛び、通りすがりの絹代へ。
     危ない!
     瞬間、絹代は玉をボレーで蹴り飛ばし、一言。
    「カポエイラって芸術って言っても過言じゃねえ!」
     おーぱちぱち。つい拍手する二人。

     和志は星空の写真を眺めていた。
     秋冬の星座。ペルセウス座流星群。
     諒の、神秘的な輝く星の展示。
    「あの……よかったら俺と」
    「ここにいたね」
     にこり。
     笑う宥氣。
     なんでもない態度、仕草。
     けれど和志の本能が告げていた。嫌な予感がする!
     よってダッシュ。
    「逃がさないよ」
     パチン!
     その音を合図に和志を襲うトラップ、トラップ、トラップ!
    「……杉凪ぃ!? あ、一条橋! レイン! 助けてぇぇ!」
     ボロボロになった和志を、なぜかバニー姿のレインが羽交い締め。
    「って、なんで俺を捕まえる!?」
    「一条橋さん、あとはよろしくお願いします」
     宥氣の敬礼。
    「お疲れさまどした。あとは……せいっ!」
    「はぐふぅ!?」
    「……あとは任せておくれやす♪」
     和志を陽光とレインが連行した先は、有栖とセレナが交渉し確保した人間大砲専用スペース。
    「陽光お姉ちゃん、ここに置けばええの?」
    「そうそこに。レイン楽しそうどすなあ。うちも気張った甲斐がありましたわ」
     目を覚ました和志が見たのは、縛り上げられた相棒、紫桜。
    「どうしてこうなったのかと問いただしたいのだが……逃げるつもりが既に朝から拘束されていたのだよ」
     遙の仕業。
    「相棒がいるということは、まさか……」
     答えは簡単。
     人間大砲。
     二人の顔が曇る。
    「それでは空に舞う晴れの舞台。昨年よりも気合いを入れて飾らせてもらいますね」
     とってもいい笑顔の静香。
    「それでなんでバニースーツなんだよ、しかもきわどい! 言っとくが、今年こそ俺は」
    「先に唇を針と糸で縫う飾り付けをしましょうか? 騒いだら許しませんよ?」
    「……なんでもないです」
     バニーに加えてウサギのかぶりものと包丁刺さったオムライス。
    「シュールすぎるだろ……」
    「黒崎さん、蒼桜の代表たるあなたが見栄えで負けてはいけません。ここに網タイツと肉級手袋があります。あと首輪に鈴をつけたら完璧でしょう」
    「待て待て待て。キャットスーツを着てる時点でかなり限界だと思うのだが!」
     ユイは言う。
    「決めポーズはこう、ぶりっ子のような感じでニャン♪ です。上空でやってください」
    「無茶ぶりと言わざるを得ない……!」
     着替え終えた二人が逃げ出さないよう、和真が目を光らせる。
    「こんな面白……げふんげふん。こんな大事な行事に主催に逃げられたら困るからね」
     大砲前に移動。
     整地された現場では梓がCADで作った図面を元に大砲の制作が進められていた。
    「よ~し、固定」
     力仕事は烈也が怪力無双。アンカーボルトを打ち込んで安心の砲台。
    「コノ企画ノタメニ1年カケテ募金ヲ募リ、ソノ作成費ヲ全テツギ込ミ、パーツモ高性能ナ物ヲ集メマシタ!」
     ダーヅが笑う。
    「……なんでお前らの所はこんなに積極的なんだよ!?」
    「マジパネェっす」
     紫桜に言われ和志の目が泳ぐ。
    「こんなに生き生きしている梓さんは久々に見ました」
     手伝いの藤恵は語った。
     俺達があいつらを飛ばすんだ。
     そんな気合いが伝わってくるかのよう。
    「いや、そんな気合いいらんのだが」
    「着地用マットハ買エマセンデシター」
    「まずそれを買えよ!?」
    「既に砲弾……ではなく薬莢……でもなく保護ケース? まぁそういったものも用意済みですわ」
     とセレナ。
    「物騒な単語だよ!?」
     天候と弾道シミュレーションはセリルにお任せ。緻密に計算していく。
     ブースターの起爆プログラムは御凛が作成。
    「人間1人を高度3万mまで打ち上げる為の方法をシミュレートした結果、8092基のブースターを1000分の1秒の精度で起爆させていけば理論上可能であるとの事なのよ」
    「お前らは俺達をどうしたいんだ!?」
    「まだ調整中だけどきっちり仕上げるわ。任せといて」
    「これぞ1年間設計に設計を繰り返して生まれた全長10m、3人同時発射可能の新まんぷく砲」
     皆の想いの詰まった夢のマシン。
     試射会には観客も集まる。
     パシャ!
    「え、その写真どうするんだよ」
     有栖はにっこり黒い笑み。
    「現像、コピーしたものをロケットに仕込みます。たくさんの人に見ていただこうと思って」
    「バニーとキャットだよ!?」
    「よーし、逝ってこい」
    「さて覚悟はできてるな紫桜。いっちょ派手に飛んでいけ」
     烈也、遙に促され、装弾される和志、紫桜、レイン。
    「遠く、遠くまで飛んでくださいませ。蒼穹の彼方まで、その身に得た翼で」
     充の天使のようなボーイソプラノに送られて。
    「さぁ、行こうぜ相棒、無限の彼方へ」
    「ああ、相棒! それにこんなの夢に決まってるしな……」
     三、二、一、発射!
    「……って夢じゃなかったよ、畜生ぉぉぉおおおおおお!?」
     空高く打ち出される三人。
     ぽち。

     ちゅどおおおおおおぅうぬん!?

     爆発したロケットに歓声が上がった。
    「たーまやー!」

    「さすが前年度受賞者侮れません。しかしセプテントリオンも人間大砲を有するクラブとして負けられません。しっかり成功させましょう! どんな犠牲を払ってでも!」
     蒼香はカメラ付きヘルメットなども用意し空撮準備OK。
     胸にボールを詰めたバニー姿の霧夜が盛り上げる。
    「翼を持たないのに人は何故空へ挑戦し続けるのか……その答えは、彼らが教えてくれる事でしょう!」
    「ばくはつがげいじゅつならたいほうもげいじゅつですよね」
     一番槍ならぬ一番大砲。七波は大砲に乗り込み、発射。空へ舞い空中で花火に点火。
    「大砲こそ至高の芸術! バベルの鎖万歳っ!」
     ちゅどおおん! パラパラ……。
    「わー火薬量絶対間違えてるー……さて気を取り直して次はアンディさんです」
    「HAHAHA! 今こそ日頃の成果を試す時! レッツスカイ!」
     グレート忍者が空を舞う。予測進路を大きく逸れてどこか遠くへ。
    「……あー。なるほど。セプテントリオンでした」

    「よーうし、芸術全開でいくぞーっ!」
     西久保キャンパス中学2年C組が作るは観光地にあるような顔出しパネル。
     担任辻本孝平ことつじもっちをモデルにヴィーナスの誕生を描く八千華。胸筋がヤバイ。
    「ちょ、もうこの段階で噴くッ!? やっちーマジパネエッス!」
     貝をラメ入りの絵の具で塗っている陽哉。
    「可愛いのう~可愛いのう~! この可愛らしさ、皆悶えるに違いない……!」
     ナノナノひまりをガン見しながら梓縞がナノナノを描く。出来はともかく迫力すげえ。
    「ノリノリだな、こいつら」
     色塗りを手伝いながら、鴇臣が苦笑。
    「ま、これはこれで面白いか」
    「出来ていく様が壮観でござるなぁ! ……あ!」
    「どしたーブレイブ?」
    「な、なんでもないでござるから……間違って塗ったとかあるわけないでござるからー!」
    「キャー!? わかったから落ち着いて! それ以上は先生の体毛がギャランドゥ!?」
     てんやわんやでいよいよ完成。
     仲間達皆でハイタッチ!
    「やーったぁ、すごいなーこれっ! あはははっ!」
    「完成記念に写真撮るッスよー!」
     水面がカメラの用意して、全員で記念撮影。
     はいチー……どがしゃあぁ!
     窓を突き破ってきた忍者アンディがパネルの顔にジャストフィット。
     辻本とアンディの悪魔合体。ヴィーナス爆誕!
    「誰だお前はぁぁ!?」
    「と、撮り直すッスか……」

    「世界に釘バットの魅力を知らしめる良い機会やんけ。なんで逃げるんや」
    「い、いや! エアライド無しでは拙者でもきついでござるって! 死なないけど死ぬでござるって!」
    「……今回は仕方なく飛びますが、あとで覚えてくださいよ?」
     次々と乗り込んでく仲間達。
    「まぁ、オレも一応は夢幻の一員だしなぁ……覚悟決めて往くとするか」
     こちょこちょこちょ。
     なぜかフェリスにくすぐられ、まもなく発射準備OK。
     三、二、一、爆発!
     飛んでいく友へフェリスは歌う。雄大に華やかに、ほんのちょっぴりの絶望とわくわくをスパイスに添えて。
    「って、なんか落ちてきましたですよ!?」
     アイスバーンのナイアガラ花火。
     逃げ惑う先には、亜理栖の和洋折衷お茶会。
    「わわ、置いといた花火に火が! 月餅が! 紅茶が! ウサギさんのぬいぐるみが燃えちゃうよー!」
     ファイアティーパーティ!
     飛ばず火に入るフェリスちゃん。
     その頃空では人が肉体美を魅せつける舞いを踊り、アヅマが紙吹雪を吹き散らし、夏蓮が華麗に大車輪。
    「出たー! 夢幻名物、人間紙吹雪ー!」
     そして空飛ぶ箒を落っことす。
    「あっ! 箒ー! だれかたすけてー!」
    「うおおお!」
     蓮次が夏蓮を空中で抱き抱えてドカンと着地。
    「あっぶねえ! 大丈夫?」
    「えへへーさすがだね! 私信じてた」
     ぎゅっと抱きつく、そんな二人を。
    「リア充はっけーん!」
     屋上から舞い降りた六玖の爆弾がちゅどーん!
    「皆ばぁーくはつしろぉぉ! あはははは!」
     飛んできた誰かの白いワンピースをなんとなくエプロンのように装着し、南斗水鳥のごとく降臨なされまし人を猛ダッシュしてきたオリキアが豪快にお姫様キャッチ!
    「ふぬおおおおおお……っしゃあああ!」
     六玖の爆弾を愛のパワーで蹴り飛ばす。
     風船が割れて二人を祝福するかのような紙吹雪『お幸せに』
    「なん、だと……!?」
    「ど、どいてくれぇぇ!?」
     そこへ落ちてくる紫廉。
     バトルオーラをたなびかせアルティメットモード彗星のごとし。彗星急には止まれない。
     六玖と激突。

     ジュッテ~ム☆(注:唇が触れ合ったときの効果音です)

    「まあ! 男性同士でらっしゃるのに」
    「わぁ、大変なことになっちゃってるね~」
     セレナ律も笑ってる。
     風船破裂『おめでとう』六玖さん~♪
    「あはははは、めでたかねえわああああ」

     発表会が終わる頃には『ブレイジングスター・シレン』か『赤い彗星の紫廉』になっている。
     その思いは、露と消え。
    「うん、上手く描けた!」
     良太の絵には先程のワンシーンが素晴らしいクオリティ。
    「お願いだから消して下さい!」
     紫廉は頭を下げた。

    「LIFE PAINTERSの諸君! 我らの芸術は1枚のキャンパスに理想の秘密基地を描き上げるライブペイントだ! 真の芸術を見せてやるよ!」
    「おー!」
     煉火の号令。ペイント開始。
     筆を取った煉火の横から結月が蛍光塗料をぶちまけた。
    「ギャー!?」
    「えっとねー、ここに落とし穴があって、ここは網が落ちてきて~……」
     おかしいな。
     どんどん罠が増えていく。
     次いで狸姫がプリンセスモード発動。巨大な桃缶オブジェを作成。
    「桃色ドレスのプリンセス・ピーチと呼んでくれたまえ!」
     不思議だな。
     どちらを見ても桃ばかり。
    「いつの間に罠と桃だらけに……否、これも芸術だな!」
     自身を納得。
    「うわぁああっ!?」
     落ちてきた紙吹雪と木莬、人間大砲やってきた。
    「おおっとうっかりふりまわしてしまったー!」
     煉火のペンキ缶カウンター! 木莬を撃退。飛び散ったペンキが譲に。
    「……おっオレにペンキかけんなよ、巻き込むなよ、ノーコン!」
    「あー……」
    「あーじゃねえよ」
     言ってるそばから空飛ぶペンキ缶。譲カラフル、頭から。
    「あっちゃー事故事故。ごめんね?」
    「……そっかー事故かー。そのわざとらしいウィンク!」
     ちゅっどーん!
     爆発に飛ばされた魔法忍者絢花と迷子の雪音がべちゃり激突。
    「うむ。芸術だな!」
    「基地にはもっと人が必要ですよね」
     飛んできた釘バット綾を、エミリィが空中キャッチ。ペンキをかけて人拓をとる。
    「これはこれで芸術だな!」
     制作という名のバカ騒ぎ。

     救護班和真と充に運び込まれた和志、紫桜、レイン。
     優歌は我が身を省みず芸術に打ち込む人達のために臨時に保健室をお手伝い。
    「いや、ライドキャリバーのイカスミにボケを突っ込ませる練習してたら、気づいてたら轢かれてて」
    「気をつけてくださいね」
     雛菊に手当する。芸術を爆発させる友の笑顔こそが優歌の芸術。


     霧夜と修李の仕切りで前夜祭が進行中。
    「あれ? ここはラブリンスターなりきりコンテストの会場ではないんですか~?」
     ラブリンコスを決めた明登場。わざわざ防具を改造した力の入りようだ。
    「えっと、とりあえず歌います。歌はもちろんドキドキ☆ハートLOVE!」

     男装漫才コンビ、リタと翡桜。
    「どうもチェリータでーす。初舞台なのにこんなにお客さんですねぇ」
    「右から灼滅者、灼滅者、灼滅者、一人飛ばしてダークネス」
    「飛ばさないで下さいよ、しかもダークネスいるとか洒落になりませんから!」
    「ほら、ラブリンいるじゃない」
    「あれはコスプレです」
    「ところで翡桜君、クリスマスも近いし彼女欲しいなと思うだろ。今から僕の考えた最高の口説き文句を教えてあげるよ」
    「え、本当に? これは聞き逃せませんよ」
    「いいかい? ……綺麗な夜空だね。でもあの幾千の星々よりもずっと君の方が綺麗だよ」
    「えーベタすぎるんじゃ……」
    「……と言いつつラブフェロモン」
    「そこは自分の力でがんばりましょうって!?」
     芸人談義に夢中になりつつ練習した成果。
     漫才は生物。完全版は本人へ。

    「みなさん、盛り上がっていらっしゃいますか? レンです」
    「さ、沙雪です」
    「エミーリアです~」
    「三人合わせてcolorfulです! よろしくお願いしまーす」
     黒白黄色のショートラインドレスにネコミミ尻尾をつけた、本日限定アイドルユニット。
     エミーリアの歌に合わせてくるくるダンス。
     笑顔を絶やさずいちにっ♪ いちにっ♪
     中学一年の沙雪が小学四年の二人をリード。
    「レンちゃんも、歌ってうたって☆」
     腕を組んで歌ってフィニッシュ!

     ちゅどーん!

    「な、なんで~!?」
    「アフロヘアーなアイドルはイヤ~!」
     風船破裂『見てるよ』

    作者:池田コント 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年11月22日
    難度:簡単
    参加:118人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 2/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 18
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