芸術発表会2013~筆に込めた芸術の秋

    作者:相原きさ

    「芸術の秋、だよーっ!!」
     須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)は、にこやかにそう告げた。
    「というわけで、もうすぐ、芸術発表会なんだよね」
     全6部門で芸術のなんたるかを競う芸術発表会は、対外的にも高い評価を得ており、武蔵坂学園のPTA向けパンフレットにも大きく紹介された一大イベントである。
     その準備が今、これから始まろうとしているのだ。
    「去年参加したみんななら、内容は分かってるよね? あ、そこ。授業がサボれるなって思ってなかった? ダメだよそんなこと思っちゃー」
     とにかく、この一大イベントのために、11月の学園の時間割は大きく変化している。
     11月初頭から芸術発表会までの間、芸術科目の授業の全てと、特別学習の授業の多くが芸術発表会の準備にあてられ、ホームルームや部活動でも芸術発表会向けの特別活動に変更されているのだ。

    「そういえば、今回の部門の発表してなかったね。今年はね……」
     芸術発表会の部門は『創作料理』『詩(ポエム)』『創作コスチュームダンス』『器楽演奏』『絵書筆展示』『総合芸術』の6つ。
     芸術発表会に参加する学生は、これらの芸術を磨き上げ、一つの作品を作りあげるのだ。
    「11月22日に優秀者を決定するから、それまでに作品を完成させないとね!」
     そう、それは武蔵坂学園の秋の風物詩の始まりでもあった。
     
    ●絵筆と書道筆、どっちを取る?
     まりんは説明を続ける。
    「さてっと、ここでは絵書筆展示について説明するよ。準備はいいかな?」
     今回、人物画を描く部門と、書道部門がドッキングした部門となる。
    「まずは、人物画から説明するね。誰か一人を選んで、その人を描く。それがルールだよ。ただしっ!!」
     まりんはそういって、説明用のプリントを裏返した。
     そこにある一文はこれ。
    『人物がコンテストの作品は、恋人の肖像画でなければならない』
     その一文に、やっぱりという学生もいれば、いやーと悲鳴を上げる者もいるようだ。
    「とにかく、そういうことになってるので、皆さん、いろいろがんばってくださいね?」
     にこっと微笑んで、次の説明に入るまりん。

    「次は書道部門。こちらは好きな文字を選んで、作品を作成することになるよ」
     要は、好きな文字や文章を決めて、筆でしたためるという、オーソドックスな部門だ。ただし、個人競技となるため、グループで一つの作品を作成するというのは、NGだ。
    「一人1作品。これがルールだけど、書くときの環境はみんなにお任せだよ。クラスやクラブごとに集って、楽しく書くのも良い作品が生まれそうだよね」
     つまりはそういうことだ。

    「というわけで、期日まで作品を仕上げてね!」
     健闘を祈るっと、びしっと敬礼して、まりんはにこっと説明を終えたのだった。


    ■リプレイ

    ●さあ、書くぞー!
     もうすぐ、芸術発表会。こちらは書道を選んで、教室に集まった者達である。
     うーんうーんと悩みながら、クラレット(d01548)が選んだ文字は『球』。学園を地球になぞらえて選んだ一文字だ。
    「想いを込めて書くわよ、そりゃーっ!!」
     かなりダイナミックな文字になっている様子。
     一度、大きく深呼吸をして、その一文字に込めるのは生鏡(d14266)。
    「完璧は目指しません。……ただ、信じる道、心のままを顕すのみです」
     そういって、画いた文字は『煌』。
    「何か墨べっちょりでよく文字読めンけど、ま、いっか。芋版で名前を押して、っと……完成っ!」
     『愛故に』と書いた隣(d20702)は、最後に芋版をつけて、作品を完成させていた。
     一方、ミキ(d08258)が選んだ文字は『あ』。その心は初心に帰れである。
    「……むう、思ったよりも丸い」
     もう一度、書き直すかどうか迷っている様子。
     悠花(d16425)は、精神統一させて、書に向かう。一文字目は我ながら綺麗に書けたが、二文字目は、ちょっとしたハプニングにより、少しゆがんでしまった。出来た文字は『幸福』。
    「なんか色々考えすぎだったかもしれない。失敗したけど、これはこれで気に入ったからこれを出そう」
     抱えるような大きな筆を持って、ちから(d02734)は、大きく振りかぶる。
    「ふふふ、ウチの溢れる想いをその肌で感じるがいいのです!」
     紙からはみ出すくらいダイナミックな『力』を書ききった。
     一方、誰も居ない教室で書に向かうのは、ハリー(d18314)。
    「やはり書くのは、『忍』でござるな」
     うんと決めて筆を執った瞬間、邪念が邪魔をし……。
    「……こんなはずではなかったでござるが、なんとも気持ちがこもった良い字に仕上がったでござるな」
     何故か妙に魂(?)が込められた『爆発』と書かれた作品を提出することになる。
    「うん、とりあえず必殺技っぽい響きのコレでいいか」
     そういって、書いた文字は『鬼槍天外』と書いてきそうてんがいと読む。ディーン(d03180)は完成した作品に満足げな笑みを浮かべた。
     ゼロス(d21853)は、なかなか思うとおりに書けない文字に苛立ちを感じ始めていた。選んだ文字は『猫』。
    「……よし、ここはこうだ! 俺は今から猫になるっ!! にゃああああ!!」
     猫になったことで猫の気持ちを掴んだらしいゼロスは、何とか作品を仕上げることができたようだ。
    「芸術発表……という趣旨からは逸脱している様でお恥ずかしいのですが……」
     セカイ(d03014)は、黙々と長い文章……いや、名前?
     よく見ると、武蔵坂学園の全生徒の名前が連ねられている。しかも、完成した暁には、発表終了後、神社に奉納して皆の安全を祈願するようだ。
     こちらもまた、変わった書道をしている。正方形の形の布に、黒のアクリル絵の具で書を認めている。
    「うーん、悩みますけど、こちらでしょうか?」
     真琴(d00740)が書いて選んだ文字は、『勝』。しかも、できた作品はゲートフラッグとなる。
    「ウム! 満足する字が書けた。……実際に上手いかはまた別だがな!!」
     クラリーベル(d02377)が、心のまま書いた文字は『烈火』。ちょっとだけ個性的な筆運びだ。
     聖人(d21427)は、和室の自室で、硯で墨をするところから始めていた。
    「これだ……!」
     閃いた文章を躍動感ある端麗な文字で示したのは、『精神一到 何事か成らざらん』。その出来に満足し、聖人は筆を置いた。
    (「絵筆に自信がやれば、彼を説得して絵画部門に出たかった……」)
     そう思いながら書に向かうのは、小町(d15372)。流石に恋愛成就と書くのは気が引けたので、小町は『大願成就』と書いて、作品にしていた。
     夕月(d13800)は、左利きなので書道は苦手なのだが、何とか提出用の『爆発』という作品を仕上げていた。しかし、彼女がやりたいのは、もう一つあった。
    「ちょっとやってみたかったんですよね、これ」
     猫変身して、尻尾に墨を含ませる。書いた文字はひらがなの『ねこ』。凄い文字になったが、やりたかったことが出来たので、夕月は満足げだ。
     畳一畳の半紙を前に、葵(d11424)は、ライドキャリバーに跨り、巨大な筆を使って、一気に書き上げる。
    「うん、こんなもんかな」
     ライドキャリバーを撫でながら、葵は『魂』と書いた作品を眺めていた。
     しゅりしゅりと墨をする音が響く。七(d00989)は、やっとできた墨を筆に含ませ、まずは名前を書こうとしたのだが。
    「あ! やだー墨垂れちゃっ……ん? なんかこれ……こうしてこの染みと染みをこう繋げて……ほら、トケイソウ!」
     そして書きあがったのは文字ではなく、墨で描かれた見事な花達だった。
    「跡取りの意地に賭けて、この渾身、この一字にブッ込んでやりまさァ!」
     バケツに入った墨をめいっぱい染み込ませた巨大な筆を振り上げ、娑婆蔵(d10859)は、ダイナミックな文字を書ききった。娑婆蔵が書いた文字は『仁義』。気合いがめいっぱい入っている。
     正座してしっかり背筋を伸ばして、書に当たるのは優歌(d20897)。
    「そうですね……やはりこれでしょうか」
     何枚もの作品から、一枚を選び出した。そこに記された文字は『灯』。
     去年に引き続き、2度目の書道に挑むのは、松庵(d03055)。
    「うむ、我ながらとても見事な出来の……」
     出来た作品は、繊細な、そして大胆な筆遣いの『へのへのもへじ』だった。
    「は、はあ……で、出来、ましたぁ……」
     うっとりと熱っぽい声を上げるのは、龍(d14969)。一画一画、愛でるように、そして思い浮かべる相手の性感帯をねっとりと舐めるかのように払いながら仕上げた作品は、セクハラ書道。いや、『エロティック』の文字。
     敬厳(d03965)は、道着と袴に着替えてきた。
    「実家では何を鍛練するにもこの姿でしたので、背筋が伸びますねっ」
     どうやら、その格好で書道をするようだ。力強く丁寧に、納得がいくまで練習し、出来た作品は、『一意専心』だ。
     こちらも納得がいくまで、何度も書いている。琳(d21317)は、携帯プレイヤーから流れる音楽で手が震えぬようリラックスさせる。
    「手首は柔らかく」
     そう呟きながら書いた文字は『生きる』。
    (「……生きる、ってすごく当たり前で……でも大切なこと。『生きる』って、本当はすごいことだと思うから……」)
     そんな気持ちを込めて。
     躊躇いながらも、煉(d04035)は筆を手にする。
    (「皆みたいにあれこれ発想も浮かんで来ないしって、内容発表までうじうじしてたけど。……これなら、私も」)
     今まで歩んできた来た道を想いながら、煉が記した文字は『生』。墨で滲んでもかまわないと筆を動かしている。
     雛菊(d21285)は、文字のバランスに気をつけながら、気合いを入れて書き上げる。
    「よし……用紙ギリギリな気がするんやけど、これで完成なんよ。それにしても……」
     作品から目を離し、思わず羨ましげに肖像画を描いているグループを眺めてしまう。
    「うなぁー……来年はあそこに混ざりたいなぁ」
     ついでに雛菊が書いた作品は『ご当地は笑顔を生む物』だ。
    「去年もやりましたし、今年もお習字ですね! 今年の文字は……そうですねぇ、『太陽』にしましょう!」
     縁樹(d00354)は、良い年になるよう願いを込めて作品を完成させた。
    「さて、何を書こうかな?」
     長文を書こうと思って、長めの半紙をもらっていたが、在雛(d16389)はなかなか書く文字が決められない。
    「えっ、もうそんだけ!? マジかよ!?」
     と、制限時間があと僅かとなって、焦って書いたのは。
    『ヒーハー!! 置き石集団ネジチェック』
     ミミズがのたくったみたいな文字だが、まあいいかと出来た作品を提出したのだった。

    ●大切な人と想いを込めて
     書道に一生懸命な彼らと同じく、肖像画を描く彼らもまた、一生懸命に作品を描いている。
     抱えたスケッチブックを落ちないよう、膝を抱えるようにしっかり持っているのは、エイダ(d11931)。そんな真剣な眼差しを見せるエイダに、青士郎(d12903)は思わず見惚れてしまう。
     無機質なけれど、形をそのままに写し取る青士郎の絵に、恐らく大部分が賞賛するだろう。だが、青士郎は思う。
    「……えと……でき、ました……」
     見せてくれた絵は、あまり上手とは言えないが、温かみのある絵。その絵を見て、青士郎は告げる。
    「君の暖かい絵には敵わないな」
     こちらは幸せそうに二人、向かい合いながら作品を描いている。
    「……ね、描き終えたら、何食べたい? 作るから一緒に食べよう?」
     と、思い出したかのように緋織(d02007)が尋ねる。
    「へへ、そだなぁ……卵焼き、食いてェかな。緋織の作ってくれる飯は全部格別なんだけど!」
     笑顔でそういう眞白(d03845)の言葉に、緋織も思わず顔を綻ばせた。
     稲葉(d14271)にスケッチして良いかなんて、誘われた直人(d11574)。最初は正面を見て、ちゃんとモデルをしていたのだが、途中で居心地悪そうに横を向いていた。
    (「あー……でもやっぱ、真剣な表情かっこいーよなぁ。直人。うん」)
     稲葉はそう思いながら、途中赤くなったりしながらも、一生懸命スケッチをしている様子。
    (「不本意だが、まあ視線を感じるのは悪くない…かな?」)
     彼女の百面相を盗み見ながら直人はそう、思っていた。
     こちらのペアは、猫カフェで猫と戯れながら、絵を描いている。
     最初にカイ(d18504)がヴィルクス(d08235)を書いていたが、そろそろ交代のようだ。次はヴィルクスがカイを描いている。真っ直ぐな気持ちで書いているうちに思わず零れた言葉。
    「好きだな……」
    「って、ん? 今、なんと?」
     本当は聞こえていたのだが、それでもカイは尋ねていた。
    「……え、いや、な、何も言ってない! 言っていないぞ!」
     ヴィルクスは必死にそう訴えていた。
     絵筆を運びながら、かごめ(d12900)は口を開く。
    「んーとね、先輩。ありがとう、その腕で僕を引き寄せてくれて。ありがとう、その眼で僕を見つけてくれて。ありがとう、その唇から出る言葉で、僕を呼んでくれて」
     頬を染めながら、そう告げると。
    「ありがと。全部受け止めてくれて」
     めいっぱいの想いを込めて、ナディア(d09015)は応えたのだった。
     こちらは二人寄り添いながら、着色を始めている。綾鷹(d10144)は軽くふにふにとスキンシップを交えながら。
    「いつもより頬が赤いけど、そこも書き足す?」
    「好きにしたらいいんです」
     頬が赤いのを茶化されて、眞沙希(d11577)はムッとむくれている。
    「こうしてみると、やっぱりイケメンですね……」
    「ん、良い感じにできましたね。眞沙希も上手ですよ?」
     そういわれながら、綾鷹にキスされて眞沙希の頬が更に赤くなったのは言うまでもなく。
     一生懸命描くからこそ……その分、筆が止まってしまう。
    「ん、この角度? ……おーい?」
     それが、雪緒(d06823)と清十郎(d04169)のスケッチだった。
    「……はっ……! 何と言うトラップ……! こ、これは難関なのです……! えと……えと、清十郎、ちょっとその角度のままで」
     慌てる雪緒を微笑ましく見る清十郎は。
    (「何か一人でバタバタしてる雪緒、可愛いなぁ……」)
     と思っていたり。
     恋人達と一緒に書いている者が多い中、京介(d20021)は、一人で黙々と作品を完成させている。
    「いいね、笑顔が素敵だ。分かってるよ。花を添えて欲しいんだよね。ほら、お花畑で微笑み、俺に手を差し伸べる夢子ちゃんの出来上がりだ」
     脳内だけで存在している架空の恋人、夢子ちゃんを見事に完成させていた。ただし、同人誌的な凄まじいクオリティで。
    「ねぇ、ゲイル。ボクと『イイコト』しに行かない? えーっと、ココじゃちょっと……。ね?」
     恥らう素振りで誘うのは千尋(d04249)。
    「はいはい、どんないーことするんでしょーか」
     一方、ゲイル(d05576)は期待せずについていって、正解だったと感じていた。なぜならそこは絵画を描く場所だったのだから。ならばとゲイルは懲りずに千尋を膝上に乗せて、絵を描かせている。
    「ねぇ、可愛く描いてくれた?」
    「その前に糖分はいかがですか?」
     そう、ゲイルは意地悪そうに咥えていた棒状の菓子をチラつかせるのであった。
     創作ダンスのコスチュームを作っていた彩歌(d02980)の元に、そっと悠一(d02499)がやってきた。
    「…なぁ、彩歌。その…余裕があったらでいいんだ。俺にお前の絵、描かせてくれないか?」
    「え……あ、その。本当に、いいんですか? ……嬉しいです」
     本当は肖像画を描いて欲しいと思っていた彩歌は、その誘いに嬉しそうに応じたのだった。

    ●みんなで書けば怖くない?
     場所を戻って、書道をしている教室。
     今度はグループで、思い思いの作品を書いている。
     書道に慣れていない貴音(d21138)の手に自らの手を重ねながら、すせり(d21328)は、筆運びを指導している。
    「すせりさん、顔が赤いように見えたけれど……」
    「い、いや、私のことは気にしなくていいの。そう、ゆっくり引いて、筆を広げるように払う」
     筆を動かしながら、手に伝う感触に酔いそうになるすせり。貴音が書いたのは『家族』で、すせりが書いたのは『綺麗』。
     一方、こちらは、ここでの顔合わせが初というメール友達である。
    「クソガキ……間違えた。天里。今お互いが思っていることを書いて、さっさと終わらせるぞ」
     八重華(d00337)がそういうと。
    「にゃるほど、やえくんは僕へのラブレターを書くんですねえ。でも僕は皆のアイドルだから……じょ、冗談です。真面目に書きますう」
     八重華に睨まれて、寵(d17789)もまた、真面目に書に取り組む。
     出来た作品は、二人揃って『帰りたい』。
    「きりん、本題の字より、名前を書くのが大変なの……」
     そういう麒麟(d14035)に、司(d13919)は。
    「確かにきりんさんの漢字すごいよね……でも、カッコいいっていうか綺麗な文字だと思うけど」
     そう声をかけた。
    「……ありがとう、じゃあ、頑張ってきれいに書くね」
     司の書いた文字は、楽しいの『楽』。麒麟は、恋の『こい』。
     こちらはライバルとの勝負をつけるため、折原・神音(鬼神演舞・d09287)は熱い気持ちで書に向かっていた。
    「さあ、思いっきり書きましょう」
     のびのびと、ズバっと思い切りのある文字で書いたのは。
    「ん…………これ、ですね」
     『勝利』という文字。
     二人、振袖姿で筆を持つのは、エデ(d08814)とシズク(d11222)。
    「私は何を書こうかな……う~ん、考えちゃう!」
     そういうエデにシズクはこう助言する。
    「何でもいいのよ。好きな物とか、やりたい事とか」
     その助言でぴんと来たエデの書いたのは、『抱擁』。ついでにシズクの書いたのは『心のダム』だったりする。文字を選んだ理由を聞き、シズクは思わずエデを抱きしめた。
     興味なさそうに見せても、実はやる気マンマンの空真(d19702)。
    「ううう……」
     だが、仲良く書を書いているグループを見てしまうと、思わず羨ましく感じてしまう。それでも空真は見事な『不如帰』を完成。
     こちらは向かい合わせに座り、背筋を伸ばして精神統一する二人。
    「まずは俺から」
     先行して筆を取るのは十織(d05764)。熱い想いを込めて、力強く一気に書き上げた文字は、なぜか『マダム』。
    「……どうした、キョウ。感動で言葉も出んか?」
     迫力あるその作品と十織を見比べつつ、向かいに座る喬市(d03131)は、ため息交じりに。
    「良縁があることを祈っているよ」
     そういって書き上げた喬市の作品は『武運長久』。
     こちらは背中合わせで書く二人。
    「出来たかー?」
     と南守(d02146)が尋ねれば。
    「うん。それじゃあ一緒に、せーので見せ合うよ」
     梗花(d02901)が楽しそうに声をあげる。
    「「せーのっ……」」
     南守の書いたのは『リボン』。そして、梗花の書いた文字は『おかえり』。お互い、暖かい気持ちが伝わる作品に仕上がったようだ。
     張り切るアッシュ(d00157)に書道を教えるのは、登(d13258)。
    「そうそう、そんな感じ、上手いじゃない……か」
     自分の文字よりもアッシュの方が上手なのに、登は思わず凹んでいた。そんな彼が書いたのは『土下座』。前かがみになってたら、いつの間にかそう書いてしまったようだ。
    「できたーっ! ジャパーン!! ニホンの書道は楽しいのだっ!」
     一方、アッシュはご満悦な表情で、『日本最高』と完成させたのだった。

    ●一緒に描くもの
     さて、肖像画を描く者達も負けてはいない。
    「ごめんね。付き合わせちゃって」
    「謝ることなんてないっすよ。むしろ、絵のモデルを頼まれるなんて、光栄っす!」
     そんな風に言う菜々(d12340)に、式(d13169)はホッとしたような顔を見せた。
     その後、二人は会話しながら絵を完成。最後に式がお詫びと言って、キスを奈々に贈るのだが、それはまた別の話。
     ディアナ(d05023)は、じっと翼(d02688)を見つめながら、絵を描いている。
    「できたのか、じゃあ俺にも見せてくれ」
    「待って! これは翼じゃなくて、翼を描こうとして違うものになった何かって言うか……」
     その出来に思わずディアナは顔を覆うが、翼は気に入った様子で、そんなディアナの頭を優しく撫でてやるのであった。
     シーゼル(d09717)はいつものへらへら顔とは一変し、真面目な顔で絵に向かってる。
    「俺、今日までずっとお前と恋人で幸せだったぜ」
    「幸せだった、じゃない。幸せなんだろう。今も」
     そんなシーゼルの言葉に、すぐさま突っ込みを入れるのは、キース(d03557)。良い時間を過ごせたのだが……出来た作品は、どちらもちょっと斬新過ぎたようだ。
     人気のない大きな鏡のある一室で、七狼(d06019)とシェリー(d02452)の二人は絵を描いている。鏡に向かい自分を見せながら、だ。時折、振り返りながら相手の方を見ていたりするのだが。
    「スマナイ、上手く出来無かった」
     そういって見せた絵は。
    「わあ、七狼の絵とても素敵。モノクロの中の碧、綺麗だね。有難う、優しい肖像が愛しいよ」
    「……君は上手だな。素敵な王子様に描いてクレるなんて。……有難う」
     最後は耳元で囁くように。いや、シェリーだけに届くよう囁いた。
     こちらは仲良く、横に並んで絵を描いているゾルタン(d02096)と都々(d01729)。
    「お前とこれからもずっと歩んでいければ、って思ってるゼ?」
    「これからも末ながくお願いしますっ」
     突然のキスにゾルタンは驚いている様子。
    「アルヴァ君、もっとカッコイイ……のに」
     そんなユエファ(d02758)の言葉に、少しおろおろしながらも、アルヴァレス(d02160)は言う。
    「充分良く描けてますよ?」
     その言葉にユエファは嬉しそうな笑みを浮かべた。
    「今日は、お顔近くで……一杯見れて、何だか嬉し……ね」
     アルヴァレスも頷き、大好きという気持ちを込めて作品を仕上げていく。
     恥ずかしがりながらも、モデルを務めるのは樹(d02313)。描く拓馬(d10401)は、楽しげだ。
    「よし、完成! 題して『ラブリーマイエンジェルいつきたん!』。俺の自信作だよ」
     そう言って見せた拓馬の絵は神話に出てくるような天使な樹だった。
    「これが、わたし?」
     完成した作品に驚きながらも樹は、拓馬に抱きつき耳元で囁く。ありがとうの一言を。
    「絵具まみれの心桜の顔描くのも一興な気もするけどね」
     そういって、クレヨンと色鉛筆で絵を描くのは、明莉(d14267)。
    「絵の具まみれなんて見せられんのじゃよ」
     そう言いながら、心桜(d02434)は色を塗り始める。と、肌色かと思ってたら、何故か青を顔に塗ってしまった。覗き込む明莉に心桜は、慌てながら絵を隠すのであった。
     出会った時の思い出話に花を咲かせながら、晶子(d00352)と楽多(d03773)は絵を描いている。
    「あんまり上手くはないけど……」
    「な、なんか、その……え、えへへ、えっと、あ、ありがとう……」
     楽多の見せる絵と彼を交互に見ながら、晶子は嬉しそうにお礼を述べた。
    「その、実は……」
     どうやら、晶子も絵を描いていたようだ。丁寧なタッチの絵に楽多も嬉しそうな笑みを浮かべた。
     こちらは……その、ある意味、何処よりも熱いカップル、いやペアだ。
    「桃地の思う格好良いポーズで一つ頼む」
    「おう、任せろっ!!」
     ジャック(d00663)に乞われて、羅生丸(d05045)は、上半身を脱ぎポーズを決めていた。
    (「あいつの燃えるような眼差しが、俺の大胸筋に伝わってくるぜ!」)
     熱く筋肉について語り合いつつ、ジャックの絵が徐々に完成されてゆく。
     美夜(d10062)は楽しげに、渡されたアルバムをシェパードのマディと一緒に眺めていた。
    「この写真ではこーんなに可愛いのに……ね?」
     真剣にその様子を描く優志(d01249)には、その声は届かなかった様子。気づけば、かなり時間が掛かっていた。美夜、描けたよと尋ねかけて、手を止める。
    「内緒だぜ、マディ?」
     可愛い寝顔は、出品用ではなく自分の為だけに。
     恥ずかしそうな顔を互いに浮かべながら、藍(d02826)と寛子(d12998)は、やっと絵を完成させた。
    「……できたの! 結構萌えアニメ調だけどかわいくかけたの! えへへ、寛子漫画家さんかギャルゲーの原画家さんになれるかな~?」
    「うん、とっても素敵だよ。ボクは、こんな髪型とか服装似合うよねって想像して描いてみたよ」
     完成した絵を見せ合って、二人は嬉しそうに笑みを浮かべた。
     ラグビーウェアでストレッチをするのは、冬崖(d01647)。これでも絵のモデルで、いつもの練習風景を再現してもらっているのだ。
    「冬崖、何時も通り練習後のクールダウンしててくれればいいから」
     変顔をしていたら、絵を描いている櫂(d10945)にそう指摘されてしまった。
    「ところでさ、俺の絵、ちょっとだけでもいいから見せてくれないか?」
     そう冬崖に言われて、櫂はあたふたと慌てふためくのであった。
     こちらは……二人ではなく、なんと3人!
    「恋人が一人とだれが決めた?」
     どこか虚空を見ながら、虎鉄(d00703)は告げる。と、そのとき。
    「こてちゅ~、絵を描くにはまずしっかりイメージ出来るようにせなアカンと思うんや♪」
     澪(d05738)が感触を確かめるように抱きついてきた。もちろん、迎える虎鉄もしっかり澪のうなじとかを撫で回している。
    「ん~……む、難しい」
     そんな中、慣れない筆を走らせるのは、虎鉄の許婚の赤兎(d18802)。三人で今日もまたピンクな空気の中、作品を描いているようだ。
     早朝の中庭で、二人は鉛筆デッサンで作品を作り上げていく。
    「……暖かい大好きな光や。想希に無茶させへん様一層踏張れる」
     悟(d00662)は、想希(d01722)の輝く瞳を眺めながら、そう告げた。
    「ちょっ君、ほめ過ぎです…」
     照れながら想希は、瞳を隠すかのように眼鏡を外し、悟に手渡した。
     暖かい陽の光を浴びながら、唇を重ねる。重ねられた手にはペアのリングが光り輝いていた。

    ●そして、選ばれたのは?
     全ての作品が掲示板に揃う。どの作品も個性と想いがたくさん詰まっている素晴らしいものであった。
    「ちょっと変わった作品だが『勝』がいい」
    「あら、わたくしはこの『大願成就』も捨てがたいと思いますわ」
    「待ってくれ、この『エロティック』もなかなか良いぞ」
    「この名前ばかりの巻物も、かなりの迫力……」
    「この俺のハートを震わせるとはな、気に入ったぜ、『魂』!」
     いくつもの候補を挙げていく。
     もちろん、絵画でも力作揃いだ。
    「この筋肉美は素晴らしいですなっ!」
    「まあ、このねこさん、可愛らしいですわね」
    「この夢子ちゃんも漫画チックではあるが、存在感があるな……」
    「ゆるキャラのような絵もいい味が出ています」
    「この斬新なデザインは、ピカソを彷彿させますなぁ」
     かなり審査側でも誰を選ぶかで、白熱する場面もあったが、最終的には。
     書道では、琳の書いた『生きる』に。
     絵画では、藍の描いた寛子の絵に決定したのだった。

    作者:相原きさ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年11月22日
    難度:簡単
    参加:94人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 12/キャラが大事にされていた 15
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