●黒き来訪者
武蔵坂学園にあらわれた、一人の男。それはまたしても、人間の姿をとったイフリートのクロキバであった。
「シロノ王セイメイノアラタナ企ミガ確認サレタ。死体ヲアンデッドニスル儀式ノヨウダ」
サングラスの奥に潜む瞳にすら感情を見せぬまま、彼はたどたどしく語り始める。
白の王といえばつい先日まで、富士の樹海にてアンデッドを創り出していた。
新たに動き出したというのなら、灼滅者達も見過ごすわけにはいかない。
「申シ訳ナイノダガ、コレヲ知ッタ若イイフリートガ、事件ノ起コル場所ニ向カッテシマッテイル」
その声音は淡々としたままだ。事件現場へ赴いているというイフリート達は、まだ年若い子供なのだという。
「彼ラガ暴レレバ、周囲ニ被害ガ出テシマウノデ、済マナイガ彼ラヲ止メルカ、彼ラガ来ル前ニ、セイメイノ企ミヲ砕イテクレナイダロウカ」
――ヨロシク頼ム。クロキバは最後にそう、言葉を添えた。
●予測者は斯く語る
クロキバの旦那も大変だねぇ――などと、何処か呑気な口ぶりでエクスブレインの少年は独りごちる。
しかしいざ灼滅者達が教室へ集結すると、彼は手元の資料を一旦置いて腕を広げながら出迎えた。
「やあ、親愛なる学友諸君! 待ってたぜ。どうか一つ、この俺様――白椛・花深の話を聞いてくれ」
少年もとい、白椛・花深(高校生エクスブレイン・dn0173)はそうへらりと笑った。
再び資料を手にして読み流した後、灼滅者達へ事件の概要を伝える。
「白の王・セイメイが、全国規模でアンデッドを生み出そうとしているらしい。
武蔵坂でも調べてみたんだが、ヤツらの狙いは死体が安置されている場所――例えば、病院の霊安室とか火葬場とかだな。
このまま放っておけば事件は多発し、必ず一般人に危害が及ぶだろうぜ。
そうならねぇよう、お前さん達にゃあアンデッドを倒して来て欲しい」
砕けた口調とは打って変わって、溶かしたショコラ色の眸は真っ直ぐに灼滅者達を見渡している。
その視線に応じて灼滅者達が頷けば、花深は「ありがとよ」と目を細め、説明を再開する。
「今回、アンデットとなってしまうのは……赤ん坊の男の子だ。ちなみに名前はない。
産まれてすぐ呼吸困難になって、そのまま亡くなっちまったからな」
母親に抱かれる温もりすら、知らずに。
花深はあっけらかんと語る。今は赤子の死を憐れむ余裕すらもない。
「赤ん坊は、病院の霊安室に眠っている。
時間は真夜中だが、室内には両親や担当医師が居るだろうさ。
だからESP等で、彼等を避難させる必要があるな」
霊安室の中は多少狭くはあるものの、戦闘の妨げにはならないだろう。
「で、アンデッドの特徴だ。
赤ん坊だから四つん這いで移動するんだが、動きは素早いから注意してくれ。
攻撃方法は『産声』のみ。バリエーションは幾つかあるから、よく聞き分けて対応して欲しい」
ああ、それと――と、花深は或る重要な問題を知らせた。
「クロキバの旦那が言ってた、若いイフリート。奴に予知能力は皆無だから、病院の周囲を徘徊してるんじゃねえかな」
探し出して説得し、撤退してもらうか。もしくは協力してアンデッドを倒すか。
――後者の場合は無論、周囲に被害を出さぬよう念を押す必要があるけれど。
若いイフリートへの対応も考えて欲しい、と花深は付け加えた。
「小さな子供が、白紙の未来を汚しちまうかもしれねえんだ。……見過ごせねえよな。
考えるべき点は沢山あるが――この仕事、お前さん達に託したいのさ」
どうか一つ、頼んだぜ。言葉を紡ぎ終えたエクスブレインは、灼滅者達を見送った。
参加者 | |
---|---|
水瀬・瑠音(改竄四連続失敗中・d00982) |
風音・瑠璃羽(散華・d01204) |
武野・織姫(桃色織女星・d02912) |
春日・和(胡蝶の夢・d05929) |
早乙女・ハナ(諷花・d07912) |
与倉・佐和(狐爪・d09955) |
暁・紫乃(殺括者・d10397) |
十六夜・深月紅(哀しみの復讐者・d14170) |
●しじまに消ゆ、音
――ごめんなさい。あなたをちゃんと産んであげられなくて。
――本当に、ごめんなさい……。
薄ぼんやりとした頼りない蛍光灯に照らされた、仄暗い病院内にて。
5人の灼滅者達が進む廊下の奥から、女性のか細い声が響いた。
恐らく霊安室に居る母親が、我が子の亡骸に泣き縋っているのだろう。
(「…………哀しい、けど、犠牲を、出す、わけには、いかない」)
その悲痛な泣き声を心に受け止め、十六夜・深月紅(哀しみの復讐者・d14170)は唇を引き結ぶ。
決意を宿した真紅の眸は、ただ前を見つめて。静かな足取りで、霊安室へと向かう。
(「真夜中の霊安室なんてすっごく怖いけど――放っておくと、もっと怖い事になるのよね……」)
現場へ近づくにつれて、春日・和(胡蝶の夢・d05929)の心臓が急速に逸る。
和は顔を上げて、すぐ隣を走る仲間達へちらりと視線を向けた。
皆と一緒なら――不安はきっと、拭えるはずだと信じて。
そして、灼滅者達の足音は或る地点に辿りついたのちに止む。
彼女等の眼前の扉には、『霊安室』と小さく標識が貼り付けられている。
それを確認し終え、頷き合い――戸を開いて中へと突入した。
部屋に満ちる線香の匂いが、鼻腔をつんと刺激する。
灼滅者達がすぐさま確認したのは、ベッドに横たわる赤子の状態だ。
幸いにも、真っ白な布に包まれた小さな骸はアンデッドとして目醒めてはいない。
――今は、未だ。
「あ、貴女達は、誰……!?」
ベッドのすぐ傍、冷たい床にへたり込む母親が声を上げ、泣き腫らした目を見開いた。
彼女の肩を心配そうに抱く夫も、産婦人科の担当医師も。見知らぬ少女達の乱入に、唖然とした様子でいる。
「速やかに逃げないと危険よ。さあ、行って!」
「赤ん坊の、事を、思って、いるなら、逃げて、欲しい」
今は亡き赤子が眠るベッドへと近づきながら、深月紅と和は一般人達に呼びかける。
それと同時、発揮されたのは与倉・佐和(狐爪・d09955)が宿すESPの効力。
二人の声に続き、佐和もその凛とした視線で目配せをすると、一般人3人は恐る恐る頷いて霊安室から立ち去って行く。
これで心配は無い。
一般人が巻き込まれ、大切な息子の変わり果てた姿を目の当たりにしてしまう恐れは、もう無い。
その直後だった。
ゆらりと起き上がった赤子が、自らの手で布を脱ぎ捨てたのは。
『ア……アァァァァ……!!』
赤子は青白い顔を歪ませ、小さな手を伸ばす。その方向は、霊安室の扉。
まるで、奥へ消えていった母親の背を追うように。赤子は涙を流さず、哭いていた。
(「生命が散ってもなお、お母さんを求めるなんて……。この子をダークネスなんかに利用させたくないわ」)
想いを馳せ、閉じた瞳をゆっくりと開く早乙女・ハナ(諷花・d07912)。
炯然たる星の如き虹彩には、ひたすらに真っ直ぐな決意が宿されていた。
あの小さな亡骸に刃を突き立てることになろうとも。せめて――わたしは、わたしにできることを。
部屋一帯に殺気を巡らせ、ハナは携帯のボタンを押した。現在は別行動となっているもう一つの班のメンバー、武野・織姫(桃色織女星・d02912)にアンデッドとの接触を知らせたのだ。
無機質なワンコールが鳴り終えたのち、再びボタンを押す。
「それでは、お仕事の時間です」
灼滅開始。黒い狐面を顔に嵌め、佐和は静かに宣す。
ベッドへ目掛けて肉薄しながら、無骨な鬼の左腕を振るった。
――ぐしゃり。赤子はその膂力に押し負け、室内の壁へ音を立てて潰れる。
そしてどろどろと、緩やかに赤子は床へと落下した。部屋を汚す黒ずんだ液体は彼の血だろう。
「取り敢えず……このアンデッドをなんとかしなきゃなの!」
生々しい物音は聞こえなかった事にしようと脳内変換し、暁・紫乃(殺括者・d10397)は小さなステップを踏んで飛び出した。
両の手に握られた禍々しいチェーンソー剣――百足と蜘蛛足の廻る刃が、赤子の皮膚を問答無用で斬り裂く。
『イ゛ア゛アアアアッッ!!』
脳天から吐き出したような金切り声。アンデッドは果たして、痛みを感じるのか。それとも、ただの咆哮か。
否、これは『産声』。破壊を伴う泣き喚きは、前衛に属す4人の少女達の耳を劈いた。
「ッ――!! み、みんな、どうか耐えて! ……向こうも、大丈夫かしら」
頭を抑えながらも、ハナが皆へ声を掛ける。接触班として行動している3人の無事を、脳裏で祈りながら。
彼女等は今、件のイフリートと接触しているのだろうか? 胸騒ぎを無理やり鎮めさせ、ハナは再び前を見据えた。
飛び交う金属音。肉が断たれる粘ついた音。時折り響くは、赤子の産声。
非日常で繰り広げられる音は人避けの殺界に掻き消され、誰にも知られぬまま熔けてゆく。
それが幾度か続いた――その時。
イフリート接触班からのワンコールが、部屋中に鳴り響いた。
●熔けぬ、焔の雪
時刻は、霊安室班が戦闘を始める少し前に遡る。
3人の灼滅者達は雪豹のイフリートを発見していた。
イフリートの身体から漏れる炎は、産婦人科病棟の裏道――それも、夜闇の中ではよく映える。
「そんなに張り切ってドコ行くんだ」
走る炎獣の背中に声を投げたのは、水瀬・瑠音(改竄四連続失敗中・d00982)だ。
ゆらり、と瑠音達の方へ振り向くイフリート。子供だとは聞かされていたが、その鋭い眼光は猛獣のそれに違いない。
然れど、彼女はそれに動じることなく「道はそっちじゃねえぜ」と気さくに言葉を続けた。
『……アンタタチ、ダアレ?』
牙が生え揃った大きな口から、舌足らずな幼い少女の声が発せられる。
子供であれど、この炎獣も察したのだろう。彼女等が『超常なる力』を持つ者達であるということに。
「わたしたち、武蔵坂学園だよ。セイメイさんの野望を食い止める為に着たんだ」
『ムサシ……ザカ……スレイ、ヤー……!』
にこやかに織姫が自分達の身分を明かすと、イフリートも理解できた様子でピンと尻尾を立てた。
灼滅者(スレイヤー)――彼等は紛れもない敵。
しかしセイメイの眷属を撃退し、仲間や縄張りを守ってくれた恩義がある。
まだ多少は警戒しているが、イフリートは攻撃や逃走を行おうとはしなかった。
「お名前……良ければ教えてくれたら嬉しいな。わたしは風音・瑠璃羽だよ、よろしくね!」
一歩、前へ出でた風音・瑠璃羽(散華・d01204)は明るく笑って名乗ってみせた。藍の髪を結いた真っ赤なリボンが、夜風に揺れる。
『ルリハ……ルネ、オリヒメ。ン、オボエタ。ジブン、ギンセンカ。トイウ』
3人がイフリートに名前を教えたのち、イフリート――ギンセンカも警戒を解いてゆっくりと近づいてきた。
「ギンセンカちゃん! クロキバさんやアカハガネさんみたいに、色の名前が入ってるんだね」
「お偉いさんリスペクトか……良い名前じゃねぇか」
織姫や瑠音がありのままに伝えれば、ギンセンカは至極嬉しそうに鼻を震わせた。
己の名に宿された誇りは、組織を率いる美しき強者達への羨望から来ているのだろう。
――その時、織姫の懐から携帯の着信音が鳴り響いた。
霊安室に赴いた、ハナからのシグナルに違いない。
「皆、赤ちゃんと接触したんだね……ギンセンカちゃん、今からアンデッドの元へ一緒に行こう!」
できることならば、早急に援軍として向かわなければ。瑠璃羽はギンセンカに共闘を提案した。
少女達が道案内も兼ねて先導すべきかを考えていた矢先――ギンセンカはちょんちょん、と尻尾で自分の背中を示す。
……背中に乗れ、ということだろうか?
しかし、この肌寒い季節だと快適に乗馬ならぬ、乗豹ができるかもしれない。
厚意を受け、イフリートに跨った3人は病院内の霊安室を目指す――!
●溢れる、最期の声
ワンコールが鳴り終わって数十秒後、勢い良く霊安室の戸が開かれた。
援軍として馳せ参じたのは、少女3人と――雪豹のイフリートだ。
「待たせたな。威勢のいい奴、連れてきたぜぇ……。そりゃもう、暑苦しい程にな」
ギンセンカの背から降りながら、瑠音は唇の端を釣り上げ不敵に笑う。
瑠音達の顔から幾度も流れる汗は、ギンセンカの炎が如何に熾烈であるかを物語っていた。
「ふふ、頼もしい援軍の到着ね~。力を合わせてやっちゃいましょう」
心を開いたイフリートや汗だくの少女3人を微笑ましく見つめる和。
正義の乙女達が勢揃い。これでもう、怖いものは無い。
あとは、そう――今もなお慟哭する哀れな赤子を眠らせるのみ。
しかし忘れず、織姫はギンセンカへ向けて注意を促した。
「どうか無茶はしちゃダメだよ!」
対するイフリートはふんす、と鼻息で応えてみせた。気合は充分のご様子。
『ガアアアアッ! ケンゾク、タオス――!!』
覇気を込めた咆哮と共に、さらなる炎で我が身を包んで駆け抜ける。
単純明快。一直線に赤子へ飛び込み、頭から激突したのだ。
重々しい一撃と燃え移る炎を直に受け、赤子の小さな腕は泥のように醜く爛れてゆく。
(「なんて苛烈な攻撃……。頼もしいけれど、少し怖いかも」)
思わず、ハナは息を呑む。その迫力、そして衝撃に。
大人のイフリートより一回り小さくとも、やはりあの子はダークネスであることには違いないのだ。
連携を途切れさせることなく、とん、とハナがつま先を軽く鳴らす。
まるで宿り主の指示に応えるように、刃へと変貌した影が赤子の柔肌を斬りつけた。
一閃――濁った赤黒き血の花が舞う。
「多少の怪我でダメージを与えられるなら本望! ――どうか、大人しく眠ってね」
ワンピースを花弁のように翻し、『黒龍雷刃剣』を構える瑠璃羽。
得物の刀身に刻まれた黒龍が、緋の光を帯びて禍々しくうねる。
振るわれた鮮血の一撃。身体を支える腕に受け、力なく床に倒れ伏す赤子。
しかし、容赦なく更なる連撃が待ち受ける。
――七色にきらめく焔は、深月紅が構える二挺のナイフを鮮烈に染め上げていた。
「苦しいよね。だけど、家族を傷付けたくはないんだよね」
深月紅は赤子へ迫る。普段の断続的な口調とは打って変わり、途切れる事なく言葉を紡いで。
その目に、その心に刻み込んでいた。
目醒めた直後、ただひたすらに母親を恋しがった赤子の姿を。
「私を怨んでもいいから、ゆっくりお休み」
告げたのち、真っ直ぐに引き裂く。深月紅が描いた二つの軌跡は深々と赤子の身体を断ち斬った。
『ア、ァァァ……!! マ……マ……ママァ……』
苦しみもがく赤子。産まれて間もなく息絶えたというのに、言葉を発し始めた。
きっと誰もが幼くして、すぐ覚えるだろう――『ママ』を。何度も、何度も。
(「……やり辛いですね。赤子の泣き声を聞きながらというのは」)
当然、佐和も覚悟はできていた。けれど間近で相対し、思いを募らせてしまっている。
白紙ですらない、人生を歩むことなく閉ざされた生命。
悪しき者に利用されてしまうくらいならば、せめて。
「……再び、安らかな眠りを」
佐和の得物に飾られたデコアートが煌びやかに宙を踊る。
振り下ろした杖の魔力によって爆ぜる赤子。ごぽ、と歯も無い未熟な口から涎のように血を吐いた。
「ちゃんと、天国に送ってあげるからね……!」
痛々しい赤子へ真摯に伝える織姫。彼女の掌に浮かぶのは、蹄鉄型のリングスラッシャーだ。
『Tachyon † ring』。超光速の粒子という意を冠した光輪を自在に操り、前衛の一人ひとりに守護の輪を飛ばす。
『ッ……ギィィ、アアァァァ……』
しかし、弱々しく啜り泣く赤子の声は瑠音の耳にまとわりつき、身体の内部から害を及ぼす。
派手に血を――否、クリエイトファイアによる炎を嘔吐く。
「っはは! 夜泣きするたぁ、悪い子だな」
しかし、彼女の奥底から沸き上がるのは、闘いに対する『熱』。
炎を拭い、瑠音は大きく飛び掛る。
身の丈を超える黒の斬艦刀――『EXUSIA』を最上段から真っ直ぐに!
「悪く思うなよ……テメェを利用した奴は絶対ぇぶちのめしてやるからな!」
振り下ろしたのは赤子の脳天。身体に残る血は最早、残り少ない。
閉ざされた目から音もなく、黒い涙が溢れ落ちる。
『マ……マァ……』
四つん這いからぐらりと崩れ落ちる骸。未だに震える赤子の喉を貫いたのは、紫乃の刃だ。
「これで、終わったの。……ううん、まだ」
終わっていない。暗躍する屍王を止めねば、きっと終わりはしない。
灼滅者達の中に残された、やり場のない感情が。
●熔ける、名も無き生命
灼滅された赤子の亡骸は、雪が解けるように跡形もなく消えた。
人の生命とはこうも呆気なく葬られて逝ってしまう。
和は複雑な想いが入り混じった溜め息を溢す。
(「こんな儀式、完全に終わらせなきゃ」)
セイメイだか屍王だか知らない――しかし、亡骸を操り人形にするなど、許されて良いはずがない。
赤子の末路をじっと見つめたギンセンカは、退屈そうに欠伸をしたのちに霊安室を後にする。
「ねえ。一緒に戦ってくれて――本当にありがとう」
その大きな背中へと、ハナが柔らかな笑みを向ける。
ギンセンカは振り返ることなく、尻尾をピンと揺らして病院の廊下を駆け抜けていった。
「背中に乗せてくれたのは……心を開いてくれた証なのかもね」
「だとしたら嬉しい! また一緒に、遊べたらいいな」
瑠璃羽と織姫はそう話しながら、イフリートの背を見送る。
一時は共闘できたものの、ダークネスはいつ牙を剥いてくるか定かではない。
また、あのイフリートと出逢える日は来るだろうか――?
「ごめん、ね」
せめてもの罪滅ぼしにと、胸に下げた十字架へ祈りを捧げる深月紅。
次に生まれてくる時があれば――誰よりも幸せになって欲しい。彼女は心から願い、目を伏せた。
灼滅者達が一人と一匹の子供を見送り終え、それぞれ霊安室から立ち去ってゆく。
扉を開く前。しん、と静まり返った霊安室へ振り向き、紫乃が誰にも聞こえないように小さな声で、呟く。
「今度生まれてくる頃には、きっとこんなことがないような世界にするの。だから……」
今はまだ、穏やかに眠ってね――。
紫乃の言葉は密閉された室内によく木霊した。
そっと、扉を締める。
赤子の為にあげられた線香は、病院を出てもなお鼻腔にこびりついていた。
作者:貴志まほろば |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年11月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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