木更津デモノイド事件~Indigo Spires

    作者:那珂川未来

     すっかり夜の更けた木更津市に――突如異変は起きた。
     それは閉店間際のガソリンスタンド。慌てるように、半ば暴走気味で入って行った車の、真っ赤なテールライトを追うように、巨大な何かがアスファルトの上を駆けだして。
    『グアアアア!』
     咆哮上げ、地面に軋みを入れるそれは、両腕が槍のように尖った、藍の化け物だった。
    「な、なんだあれ……!?」
    「わ、わわわっ!?」
     閉めようとしたところへやってきた車にいらついていた店員も、そして時間内なのにそんな態度の店員に腹立たしさを覚えた運転手も、その存在に気付くなり一気に青ざめ、言うこと聞かない足を必死に動かし逃げだそうと。
     一瞬にしてひしゃげる車。そして逃げ出す人間へと、機関銃のように放たれる弾丸、ハチの巣にされ、見るも無残な肉片と化してゆく。そしてどぼどぼと給油口から零れ落ちるガソリン、地面を跳ねる火花によって引火した。
     ガソリンスタンドが爆発し、火柱を上げる。
     炎の中、咆哮上げるそれ――デモノイドは、破壊の臭いに更なる闘争本能を刺激され、ところ構わず破壊しはじめる。
     それは、この木更津市が、戦場と化す烽火でもあった。
     
      
     相変わらず机に腰掛た状態で出迎え、仙景・沙汰(高校生エクスブレイン・dn0101)は解析資料を机の上に点在させて。サングラスの向こうから、灼滅者たちへ好意的な視線を向けた。
    「すぐに解析の結果へ入らせてもらうよ」
     そう言って木更津市の地図を広げながら、
    「実は、アモンの遺産を手に入れたハルファス勢力が、木更津市にデモノイド工場を持っていたらしいんだけど……この工場、朱雀門高校のヴァンパイアによって破壊されたようなんだ。結果、多数のデモノイドが木更津市に解き放たれることになるっていう最悪の事件が起こる」
     阿佐ヶ谷の惨劇が頭をよぎった者もいただろう。沙汰も、自身の初依頼が阿佐ヶ谷の事件だったためか、非常に苦しげな色をちらつかせている。あの時のことを思い出しているのだろうか。
    「このままでは、木更津市に多くの被害が出てしまうので、すぐに灼滅に向かってほしい」
     沙汰は次に、蛍光ペンで印などが付いた地図を全員に手渡し、
    「この丸の付いたガソリンスタンドが、皆に担当してもらうデモノイドの所在地。最短ルートはこのマーカー通りを辿ってくれればいい。ここならデモノイドのバベルの鎖にも引っ掛かる事はないよ。皆が辿りつけるのは、もうすでにガソリンスタンドが爆発した後。周囲の人たちはこの爆発によって異変を知り、独自に避難を始めているから、デモノイドがここから移動する前に倒してほしい」
     わき道からスタンドへと辿り着いた結果、デモノイドの進行方向へと躍り出る形となるので、即戦闘となる。一般人の心配もひとまずない。
    「デモノイドは、両腕が槍のように尖った形をしている。使用サイキックは、DCPキャノン、シャウトのほか、螺穿槍、月光衝、ガドリング連射に酷似したものを使う」
     個体そのものが灼滅者八人分程度の能力。それなりの作戦が要求される。
     デモノイドは、KOさせれば灼滅することができるので、凌駕もしない。
    「そしてね」
     広さや明りなどは問題ないんだけれどと沙汰は言い、
    「今回の戦場の厄介な部分がある。ガソリンの爆発によって視界が一分間悪くなることがある」
     大体四分おきに爆発し、黒煙が周囲を覆う。それによって互いに相手の位置が見えなくなり、命中率が一分間半減するという。
    「厄介なのはデモノイドのDSKノーズ。これでこちらの位置を把握してくるから、普段と遜色ない精度で当ててくるだろう」
     だから、こちらもデモノイドヒューマンのDSKノーズを使うなり、その一分で体勢を整える時間にするなり、対策が必要になる。デモノイドヒューマンの人と攻撃を合わせれば、立ち位置予測がしやすくなり、精度が上がるかもしれない。
    「どうかデモノイドを灼滅して、これ以上の被害を防いでほしい。周囲の民家の人たちが生きて逃げ切るためにも」
     全て、君達の力に掛かっている。
     そして。
    「必ず生きて、此処に戻ってきて欲しい」
     待ってるから。


    参加者
    遠藤・彩花(純情可憐な風紀委員・d00221)
    両角・式夜(黒猫カプリッツィオ・d00319)
    立見・尚竹(貫天誠義・d02550)
    西院鬼・織久(西院鬼一門・d08504)
    結城・麻琴(陽烏の娘・d13716)
    三和・悠仁(嘘弱者・d17133)
    エミリィ・ウォーヘッド(切断鬼・d20417)
    一之瀬・春人(花になれないパラリソス・d20925)

    ■リプレイ

     鼻を突く臭いと、大気を揺るがす轟音。
     連なる住宅の陰影の向こう、闇夜ですら映える黒煙。赤々と燃える火炎に照らされて。
     悲惨な現地を目の当たりにして、遠藤・彩花(純情可憐な風紀委員・d00221)は静かな怒りを胸に。
    「デモノイド工場。……嫌な感じね、あたし、そういう場所嫌いだわ」
    「工場壊すのはいいんですけど、後始末まできちんとしてくれないかな……」
     人の魂を弄り、思考すら改悪する。まるで魂そのものを物扱いする施設に、嫌悪感を拭いされない結城・麻琴(陽烏の娘・d13716)。そんな背徳の施設を破壊するのはいいけれど、それなら最後までやり通すのが筋じゃないかなと三和・悠仁(嘘弱者・d17133)。
     デモノイドにされた人も、木更津の住人も、無意味に巻きこまれたことを思えば、必然と胸の軋む思いだ。
     だから、せめて生きている人たちが、どうか安全地帯へと逃げ延びることを切に願うばかりである。
    (「……自ら志願したとはいえ、デモノイド、か」)
     自身も寄生体を宿す身として、一之瀬・春人(花になれないパラリソス・d20925)には思うところがたくさんあった。
     あの時と同じ腕が、宿敵に反応しているかのように疼く。それは、否が応にも闇堕ちし、恋人の命を奪ってしまったあの瞬間を思い起こさせる。
     正直、辛いし、怖い。
     けど――。
     春人は紅水晶の剣を握りしめ、決意新たに。
     そんな春人の心の内を、知ってか知らずか――。しかし同じ学園にいる者ならば、一つや二つ背負っていてもおかしくはない業を感じたのか。立見・尚竹(貫天誠義・d02550)は気張りすぎているように見受けられた春人へ、
    「一之瀬先輩。この依頼、無事に成功させましょう」
     尚竹は拳を握って見せ、小さく微笑を浮かべて見せた。
    「ああ、必ず」
     そう、自分は、この学園の灼滅者に助けられたのだ。春人は誓い新たに。あんな悲劇を繰り返さないためにも。『自分』と一緒に『大事なもの』を壊してしまわぬ為にも。
    「敵性発見(エネミー・スポッテッド)ッ!」
     路地を先導していたエミリィ・ウォーヘッド(切断鬼・d20417)は、その火災独特の異臭の中に、敵の存在を色濃く感じて。
    「ご自慢の鼻、ちゃうか、腕ッ柱! ヘシ切ってやりましょう!」
     まぁヤツの出鼻も挫いてやるつもりですけれどねと、エミリィはウインクしつつ、
    「皆さん準備O.K.?」
    「大丈夫です」
     目の前に見えた市道。めらめらと炎に飲まれる家屋を見据え、西院鬼・織久(西院鬼一門・d08504)は静かに頷き、両角・式夜(黒猫カプリッツィオ・d00319)は不敵な笑みを零すと、霊犬お藤にちらと視線を送って。
     デモノイドの咆哮が、混沌とした世界に鮮明に響いた。更なる破壊に身を投じようと駆け出したデモノイドの瞳に、最初に写ったのは――尚竹。
    「兵は神速を貴ぶ。我が神速の剣技により、貴様を討つ!」
     滑る様にデモノイドの懐へと入りこむと、捻りを加え突き刺す矛先。燕の様に翻した尚竹に次いで、跳ねる様に飛び込んでゆくエミリィ。炎吹く円環が、上から一文字に切り裂いて。
    『グオオ!』
     傷口を舐める様に走る炎。自慢のノーズとバベルの鎖を掻い潜り、突如現れた灼滅者に、デモノイドは一瞬虚を突かれたものの、立ち直りは早い。鋭い槍の様な両腕で、尚竹を大破した車ごと薙ぎ払ってやろうと。
    「させないわよ」
     風圧に、ひしゃげた車が路面へとずれ込むほど。しかし麻琴は腕の一撃に踏ん張り抜く。
     彼女が間合いを計るのを手助けする様に、織久がしたたかに繰り出す深緋の斬撃。エミリィが与えた炎と相乗して。
    「始末してやるから、じっとしてろ」
     じとりとデモノイドを睨めつけながら悠仁が槍を翻し、太い腱を切断すれば、鬱陶しいとばかりにデモノイドは顎を広げ、毒々しい砲弾を解き放つ。
     咄嗟にお藤が割って入る。猛毒に吐く息が濁ろうとも、式夜がすぐに癒しをくれるから。着地するなり、斬魔刀で切りつけて。
    「絶対ここは通さないわよ!」
    「風紀が乱れまくってます。見過ごすわけにはいきません」
     予測されている爆発対策、少しでもカバーに入る効率を上げるため。危険を承知で近接する麻琴。戦い好きの血が騒ぐけれど、お楽しみは後に取っておいて。まずは誰も膝を尽かさないために防護符による強化を徹底して。彩花はシールドをお藤へと展開し、次なる攻撃に備えようと。
    『グガゥ!』
     デモノイドより放たれた三日月の弧の様な斬撃が、前衛陣を切り裂いてゆく。彩花は咄嗟に庇いに入るものの、衝撃と共に、吹っ飛ぶシールド。粉塵と火の粉が、飛沫の様に弾け飛ぶ。
    「なんかまさに手綱を放された猛犬って感じの暴れっぷりだなぁ……こりゃ、躾のし甲斐があるな!」
     見た目通りの破壊力を前にしても、式夜は口元に笑みを浮かべ、無造作に弦を弾く。
    「ほーれ、チクッとすんぜー」
    「有難う御座います!」
     彩花は礼を忘れずに。そしてWOKシールドの出力をめいっぱいに維持させながら、とにかく障壁を各個へとまわして。
    「そろそろ予測された爆発が来るぜ」
     春人が注意喚起。自分の位置が何処であるか、そして基点となるデモノイドの位置を目視で確認を促して。同時に、ガソリンスタンドの一角から、膨らむように 火炎が吹きあがり、次いで濃厚な黒煙が世界を覆う。
     激しい粉塵と、爆発による世界の軋み。五感のほとんどが麻痺しているも同じ。
     エミリィはが広げた両手に円環を浮かべる。同時に吹き上がる、黄金色の炎。
    (「これが皆さんの指標(ガイド)になればよし! ヤツがその場に釘付けになればなおよし!」)
     今一番、先行しているのは自分。
     つまり的になるのも自分の可能性が高い。
     だけれども。
     業を頼りに、その巨躯へと果敢に攻めるエミリィ。リングスラッシャーが高速回転してゆく――。
    「二時の方向へ移動中。――っ!」
     春人の声が、ESPの力で轟音の中ですら鮮明に届く。目まぐるしく動く敵の位置を、言葉で追うだけでは正確性が高いとは言えないが。
    (「瞬間的な動きの停滞を見つけ狙撃すれば――!」)
     頭の中で位置を的確に描きながら、春人は好機を狙うため、意識を集中。
     そして、だからこそわかるその瞬間――デモノイドとエミリィの位置が完全に重なったことが意味するもの。
    「エミリィ!」
     春人が声を上げる。
    「NO PROBLEM!!」
     鋭い一撃に完全に左足を抉られたが、エミリィは軽い口調で返す。そして黒煙を、デモノイドを、はたき付ける様に両腕を振り下ろした。
    「皆さんココですっ!」
     デモノイドの脇を切り裂けば、瞬間的に吹き上がる爆炎。
     尚竹が、出来る限り彼女との連携を意識していたこともそうだが、武器なりサイキックなりを駆使して目印にしようとしたエミリィのチャレンジ精神も、多少の効果を上げたと言っていい。
     さすがに濃密な黒煙の中、全員の目に届かせるには至らずとも。少なくても、同時攻撃を繰り出すため彼女の動きを追った尚竹だけには、デモノイドの位置が鮮明にわかった。
    「破ぁ!!」
     冷気を収束させた矛先を、渾身の力で押し込む尚竹。
     びきり――凍気食い込み、瞬間的に身を折るデモノイド。前衛陣が横へ跳びのき、そして待っていた好機逃さぬよう、春人は声を張り上げる。
    「基点より二時の方向、15mの地点!」
     言うなり、織久と悠仁が駆けた。
     視界1mあるかないかの状況。しかし二人は躊躇いなく。春人の言葉を信じて振るう、螺旋の一閃と暗黒の斬撃。
     エイミィのナイスな踏ん張りに式夜も笑み零し、そしてずっと鮮明に届いている春人の声に、このような状況下でも、上手く攻撃が当たったことを喜びつつ。
    「よっし、サポートはどーんと任せとけよ」
     エミリィの傷口を塞ぐべく放たれた矢の輝き。お藤も式夜の意志を感じ取り、除霊眼でその痛みを取り除く。
     視界不良という制限の中、敵の位置を正確につかめなかった場合においてどうするか。個々がそれぞれの役割に適切なものを選んでいるともいえて。
     横に広がっていた黒煙がひとまず落ち着くものの、デモノイドの闘志はまだまだ健在。
     したたかにエミリィを狙い打ってくる毒の弾丸を、彩花が再び庇いに入る。
    「私の目が黒いうちは、風紀を乱すことは許しませんから」
     とにかく、クラッシャーを重点的に庇おうと気遣う彩花。当然の様に疲弊も激しい。しかしだからこそ、そんな彼女を支える様に、麻琴ば気を溜め毒の浄化を助け、お藤がデモノイドの気を反らすように六文銭を乱射する。
    「みんなのこと、絶対、守ってみせる。誰も膝をつかせなんてしないわよ!」
     易々と攻撃が通したりすると思わないでよと、麻琴が次の攻撃を見定めて。デモノイドの鋭い一撃を受け止める。
    「そろそろ爆発が来る。立ち位置見失うんじゃないぜ?」
     皆に声をかける式夜が、デモノイドの位置をしかと見届けた瞬間、爆音が轟いた。
     瞬く間に膨れ上がる黒煙、異臭が鼻を突く。
    『グオォォォォ!!』
     とめどなく溢れる、制御不能の破壊衝動。いい加減どけろ潰れろと言わんばかりに、デモノイドが両腕で大きく薙ぎ払う。
     前衛陣へと、等しく降りかかる衝撃。ほとんどの加護を砕かれて。
    (「異形の力を振るおうと、二度と心まで異形に染まってなるものか――!」)
     再び業の関知に全力を尽くす春人。
    「タツミさん!」
    「次も斬る」
     再びエミリィと尚竹が連携して。中後衛陣が狙い打つ、二段構えの戦法。
    『グガガガアァーッ!!』
     さすがに二度目は警戒したのか――一部攻撃がかわされたものの、氷や火炎の食い込みは無視できないほどで。
     顔の筋が引き千切れそうなほど顎を開き、咆哮上げるデモノイド。刻まれた腱を治し、肉片を生み出し、そして全力で自身を囲む者たちへと砲弾を浴びせて。
     振るう腕は、植え付けられた闘争本能の現れなのか。
     それとも――死にたくないという、生命ならば持っていて当然の生存本能の現れなのか。
     再生と攻撃を繰り返すさまに、そして嘆きのような咆哮に。悠仁はただベールで覆った様に光沢の薄い瞳でその巨躯を見つめ、
    (「自分を殺したいけれど――死にたくない……」)
     うっすらと重なった、抱えた自己矛盾と消えそうな魂――だからと言って高尚な感情など持ち合わせていないけれど――。
     デモノイドが回復にも自身の力をまわしたことで、麻琴にも攻撃に転じる余裕も生まれて。彼女の動きに合わせる様に、悠仁は槍の尖端に冷気を収束させて。
     麻琴が力強く地面を蹴る。
    「さーて、どっちの拳が強いか比べましょ!」
     知性なきデモノイドだが、まるで応と告げる様に両腕を突き出してきた。
     空が裂けるほど鋭い突き。
     しかしそれはが突き刺したのは、人の肉ではなく、黒く溜まったアスファルト。
     繊維の詰まった腕を足場にして高く跳躍し、麻琴は拳をきつく握りしめる。
    「あなたよりあたしはずっと小さいけど、でも、負けないんだから!」
     鋼を打ち砕くほどの衝撃に、ごぱりと血を吐くデモノイド。
    「爆発で熱いだろ、少し冷やしてやるよ」
     淡々と告げ、悠仁が解き放つのは魔氷の弾丸。春人は狙い定めながら、
    「こんな生は不本意だろう」
     自分は早々の救出で助かった。けれど、今目の前にいる『人』は――。
    「……助けてやれないのなら、止めてやるだけだ」
     それが救いと安易に当てはめていいものかわからないけれど、せめて望まない生に縛られる運命を断ちきってあげたいと。
     思い。誓い。DCPキャノンへ様々なものを乗せ、春人が吠える。
     空を劈く光。
     それはその清さを表すように真っ直ぐに。
    『ガッ、グガガガガァァァァッ――!』
     完全に左肩が砕け散り、でろりと肉の筋だけでぶら下がる左腕。織久が容赦なく闇焔を振り抜き切り落とす。
     間近に感じた死の足音。デモノイドは決死の形相で、最後に攻撃を解き放った織久をギロリと睨みつけるなり吠えた。
     どがっ。
     牡丹が咲いたような、血の塊を吐きだすほどに。集中的に打ち出された弾丸が、織久の胸元を窪ませるほどの強打。
    「ヒ――」
     時が刻々と進むように、戦の中に身を投じれば進む織久の中にある狂気。
     その紅の瞳の輝きが増せば、浮き上がるのは燻る闇の表層。
    「ヒハハハハハ!!」
     それでも、この狂気はほんの一部。織久という正気に繋がれているもの。赤く染まった口からけたたましいほどの笑い声をあげて。織久は殺意の黒炎を漲らせ、指をめり込ませ抉り取るほどの勢いで拳を連続で叩きこむ。
    「あんま荒ぶりすぎんなよ」
     同じルーツゆえか、それは闇ではなく血筋の中の怨念故なのだと理解し、式夜は悪戯っぽく笑み零し、冷静さを呼び起こしてあげるように夜霧を展開させて。
     隼の様に懐へ詰め、尚竹はここぞという時まで隠しておいた、必殺の剣技を。
    「我が刃に悪を貫く雷を 居合斬り 雷光絶影!」
     鞘を走る刀身、神速を以て。
     刹那の閃きは、暗雲すら打ち払うほどに。
    『ギガッ!?』
     毬の様に、溶けたアスファルトの上を跳ねる腕。デモノイドは、咆哮をあげながらその両腕を再生しようとするけれど。
     もう、生命力が追い付かないのだろう。鈍く蠢く切り口から生えたものは、腕の一本すらまともな形ではなく。
    「悪いな。力だけじゃ殺れないものもあるんだぜ?」
     最終的に技術で差が出るんだよ。そう言わんとするような、勝利を確信した表情を浮かべる式夜。彼がふわりと猫の様に懐に落ちれば桜東風が闇夜を踊り、そして――交差する様に、麻琴の稲光を纏う拳が、デモノイドの心の臓を的確に捉えて――。
     ごめんね。けれど、どうか安らかに。
     肉弾け、血飛沫が、彼岸の花のようにしなだれ落ちてゆく。
     微かに残った一筋の閃光が、哀れな魂を導くように、空を走っていった――。
    「終わりましたね」
     彩花は灰と化してゆくデモノイドの亡骸を見送ったあと、他のチームを心配する様に、住宅街へと振り返って。
     尚竹は鞘に刀を収めながら、「この場はこれにて一件落着か……しかしこうなると武蔵坂が心配だ」
     敵の陽動と受け取っている尚竹は、すぐにダークネス勢力の動きがあるのではないかと気が気ではなくて。
    「ここは、どうしましょうか」
     やはり街の風紀を少しでも早く改善されたらいいと願う彩花としては、危険物を放置したまま帰るのは気が引けるらしい。だからといって、サイキックでどうにかなる様な規模でもない。
    「じきに消防車も来るだろうし、大丈夫よ。すぐにここを離れましょ」
     一般人の目も心配な麻琴は、消防隊に任せて帰還を促して。
    「……あんたも、お疲れ。ゆっくり休みな」
     亡骸さえ残らぬ、まるで元からそこになかったかのような存在になり果てる、物の如く扱われた哀れな魂へ。
     ぽつり、悠仁はデモノイドの居た方を見て呟いたあと、静かに身を翻した。

    作者:那珂川未来 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年11月22日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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