芸術発表会2013~究極の料理

    作者:天木一

     芸術の秋。豊かな実りをもたらす季節が今年もやって来た。
     武蔵坂学園の秋を彩る芸術発表会に向けた準備が始まろうとしてた。
     全6部門で芸術のなんたるかを競う芸術発表会は、対外的にも高い評価を得ており、武蔵坂学園のPTA向けパンフレットにも大きく紹介された一大イベントである。
     この一大イベントのために、11月の学園の時間割は大きく変化している。
     11月初頭から芸術発表会までの間、芸術科目の授業の全てと、特別学習の授業の多くが芸術発表会の準備にあてられ、ホームルームや部活動でも芸術発表会向けの特別活動に変更されているのだ。
     ……自習の授業が増えて教師が楽だとか、出席を取らない授業が多くて、いろいろ誤魔化せて便利とか、そう考える不届き者もいないでは無いが、多くの学生は、芸術の秋に青春の全てを捧げることだろう。
     少なくとも、表向きは、そういうことになっている。
     芸術発表会の部門は『創作料理』『詩(ポエム)』『創作コスチュームダンス』『器楽演奏』『絵書筆展示』『総合芸術』の6つ。
     芸術発表会に参加する学生は、これらの芸術を磨き上げ、一つの作品を作りあげるのだ。
     芸術発表会の優秀者を決定する、11月22日に向け、学生達は、それぞれの種目毎に、それぞれの方法で、芸術の火花を散らす。
     それは、武蔵坂学園の秋の風物詩であった。
     
    「う……うーまーいーぞー!」
     教室から叫び声が聞こえる。何事かと中を覗いてみると、そこにはマンガを読む貴堂・イルマ(小学生殺人鬼・dn0093)の姿があった。
     机の上にはマンガが重ねられ、何故かその横には黄色いパプリカがあった。
     ふと顔を上げたイルマと視線が合う。
    「……っ!?」
     イルマは口を開けて声にならない声を出して顔を真っ赤に染めた。
    「こ、これは違うんだ!」
     赤い顔を隠すように俯いて帽子で顔を隠す。そんなイルマに何が違うのかと尋ねる。
    「もうすぐ芸術発表会があるのは知っているだろうか? その中の創作料理コンテストの司会進行役をすることになったんだ」
     料理コンテストの司会とはどうすれば良いのかを能登・誠一郎に相談したところ、このマンガを手渡されたという。
    「このマンガを参考にすれば大丈夫だと言われたんだ。料理のコメントなんて何と言えばいいのか分からないから練習していただけなんだ……」
     顔を逸らしたイルマは大きく深呼吸して振り向く。
    「こほん……。みんなは創作料理コンテストの話を聞きにきたのだろう?」
     咳払い一つで誤魔化し、今までの出来事は無かったようにコンテストの説明を始める。
    「コンテストは各個人が料理を一品作り、それを品評会で食べて投票するというものだ」
     参加者が品評会で皆の料理を食べ投票をする。最も票の多かった作品は最優秀賞として後日、PTAの偉いさん方に振舞われる。
    「最優秀賞をとった料理を作った人は、みんなから尊敬の念を込めて『味王』と呼ばれるかもしれないな」
     うんうんとマンガを手にしたままのイルマは頷く。
    「料理は見た目、味、独創性で評価が決まるという。それらが優れたものが勝ち残るだろう」
     人が作った色々な料理を味わえるので、料理下手な人でも存分に楽しむ事が出来る。
    「皆で競い合えば、きっとすばらしい料理コンテストになるだろう。存分に腕を振るってほしい。みんなの美味しい料理を楽しみにしている」
     説明を終えて息を吐くと、ようやく顔の赤みがとれたイルマは微笑んだ。
    「しかし、司会は本当にこれをかじらないといけないのか?」
     そう言って、イルマは黄色いパプリカを手に取って首を傾げるのだった。


    ■リプレイ

    ●料理コンテスト開催
     会場には百名程の参加者が集まり、熱気に満ち溢れている。
    『ここに腕に自信のある者が集まった。この中から唯一人に学園一の料理人として『味王』の称号が与えられる。正々堂々腕を振るうといい。これより料理コンテストを開催する!』
     パプリカを齧るパフォーマンスを前座に、ヘッドマイクを着けたイルマの宣誓と共にドラが鳴らされ、人々が一斉に料理に取り掛かった。
    『それでは参加者に話を聞いていこう』
    「まずは下拵えです」
    「もう寒いから、シチューパイにしようと思うの! 一回で二回おいしく!」
     三成は鉄板に熱が入る間に手早く材料を切り、朝恵はカボチャの下拵えを始める。
    「俺は和食を作ってみようかな」
    「餃子の作り方を覚えましたので、作ってみたいと思いますの!」
     蛸を用意した沙雪は包丁を手に捌き始める。司は高級食材を使ってタネを作る。
    「究極の料理、それは派手な飾りつけは要らないもの。ズバリ、それは蕎麦だ。シンプルゆえウソは付けない」
    「テーマは大地、でしょうか」
     銀都は直球勝負に挑み。小次郎は地元の食材を使う。
    「去年は催涙麻婆作ったけど、普通に食されたのでとりあえず、今年も普通のを作ろうかな」
     舜は悪戯っぽく口の端を曲げる。
    「えーっと、お米は水を二回代えて砥いで、鰹節と昆布で採った出汁に浸して炊いておく……と」
    「……正直、そこまで凄い料理が作れる訳ではないのですが……」
     アイリスは早速調理を始める。京が作るのはマグロのステーキ。表面だけを焙ってレアに仕上げる。
    「川越イモの宣伝チャンス!」
    「さて、ハンバーグでも作ろうか」
     片喰はサツマイモを手に気合を入れ、流季は大き目のハンバーグを捏ねる。
    「よし、頑張るぞ!」
     鈴緒はエプロンを着けて料理に取り掛かる。
    「料理をするということは、食べる人に食材を美味しく食べていただくために努めるということじゃ」
     茜はそう心得を説く。
    『皆すごい意気込みだ。どんな料理ができるのか楽しみだ』

    「よっし、この人数で食えるもんとなるとー……やっぱ、カレーだな!」
     ラトリアは洗浄してぬめりけが無くなるまで米を研ぐ。
    「去年の反省を踏まえて、今年はちゃんと一品です」
     鞠藻はスーパーで購入した慣れた商品を使う。
    「リクエスト通りビーフシチューを作ってやる」
    「え、それ牛さんの――それから野菜まで全部手作りなんですか!?」
     八九三が用意した牛の胴体を見て、御理が目を丸くした。
    「龍一さんに家庭の味を味わってもらいましょう」
    「料理勝負となると気合いが入るね」
     紗里亜がライスボールコロッケ。龍一はフルーツタルトを作る。全く違う料理だが、相手を想う心は同じだった。
    「やるからには優勝目指して!」
    「エドの料理を食うためには作らねばならん……」
     やる気十分なエドアルドに対し、料理未経験のレナードは簡単そうなスープを作る。
    「今日は負けないからね?」
    「私も負けませんよ」
     いろはと舞は笑い合うと、料理を始める。
    「料理研究同好会の皆でがんばりますよー!」
    「太治くん、華月ちゃん、頑張ろうね!」
     華月と安寿が元気良く掛け声をあげる。
    「ああ、丁寧な仕事をすれば、料理も旨くなる」
     陽己は部長として手本となる仕事をしようと取り掛かる。
    「よーし! 料理対決だ。日ごろから学生たちで生活しているシェアハウスの我が部員達による特上のおもてなし料理を審査員に喰らわせてやれ!」
    「生まれてから料理した事無いんだけど、負けないからね」
    「冬ですし暖かいものがいいですよね。お鍋です! お鍋を作りましょう!」
     恭太朗の説明台詞に従い、紗生と火華が調理に取り掛かる。
    「きっと我が部から優勝がでる! 俺も得意料理を振舞お……まて、何か今家の部員が変な隠し味混ぜてなかった?」
    「普通の材料ですよ?」
     火華が見せたのは乳酸菌飲料。
    「そんなもん審査員に食わせられるかァァ! うちの部員は大丈夫なのか……」
     恭太朗のツッコミが入る。その横では真剣な表情で紗生が鶏を絞めていた。

    『む、甘い香りが、どうやらお菓子を作っているようだな』
    「去年は運営委員に評価されたけど去年は去年。今年は今年! 自惚れずに真剣スイーツ勝負だよ!」
     気合を入れて架乃はスイーツ作りに励む。
    「殊亜くん、どちらのドーナツが美味しいか勝負だよ!」
    「負けないよ紫さん」
     紫と殊亜はドーナツ勝負をする。
    「いも、くり、かぼちゃを使ったスイーツを作るのじゃ」
     シルビアは茹でたカボチャをくり抜く。
    「さぁ頑張って、つくりますよ! 目指すわ美味しいケーキ! がんばろーね!」
    「……うん……頑張ろう……ね」
     恋とフィアはえいえいおーと気合を入れた。
    「当クラブの名物、くまさんパンケーキをたくさんの方に食べてもらえたら嬉しいのです~」
     柚姫が真心込めて材料を混ぜる。
    「目指すは『お菓子の生る木』いやー、やっぱガキん時からの夢って大事だよな」
     智巳が壮大な夢を現実にする。
    「……お菓子の家……作ろう……ね」
    「それじゃあボクは家の庭を作るね」
     壱琉と統弥はお菓子の家を建て始めた。
    「ボクが作るのは安納芋のシフォンケーキ。今が美味しい季節だからね」
    「実はアップルパイはイギリス発祥なのです! イギリスのお菓子は美味しいですよ!」
     あるなは芋のケーキを、イシュテムはアップルパイを作る。
    「さぁーて、後は焼けるのを待ちますか」
    「完成が楽しみですねー」
     尋と蓮はオーブンに入れたクッキーが焼きあがるのを待つ。
     みんなが料理に対して真剣だった。

    ●もてなしの心
    『そろそろ料理ができたようだな。それでは皆で試食といこう』
     昼休み。完成した料理を前にお腹を減らした人々が待ち構える。チャイムの音と共に呼び込みが始まった。
    「こういうお祭りの雰囲気っていいよね! ワクワクしちゃうよね!」
    「うむ、壮観じゃのぅ」
     匡は目を輝かせ、王子も興味津々に並ぶ料理を見る。
    「ひたパンから発展させてみた」
     アインが作る創作クリームシチューパイはパイではなくパンだった。
    「パンを崩してひたパンでも、外してつけパンでもよし」
    「みんなー熱々のカボチャシチューパイなのよー!」
     朝恵は湯気の立つシチューを配る。
    「ヒャッハー!! これこそ燃える男の料理! 存分に味わえやぁ!!」
     強面にエプロンと三角巾姿の三成が鉄板の上の野菜や魚を焼く。バターが香り、豪快に炎が上がる演出に人々の目が奪われる。
    「お兄様は鶏肉とトマトが嫌いなので……あえてその素材で!」
     舞依が作ったのはクラブハウスサンド。
    「頑張って作ったから、必ず沢山食べてねっと」
     メールを送り、後は感想を待つだけだ。
    「そうですね、ポテーキとでも名付けましょうかっ!」
     ひらりがモナカの中にマッシュポテトとステーキを挟む創作料理を出す。
    「タイトルは武蔵野の大地です」
     小次郎が塩釜をハンマーで砕くと、蒸し焼きされた軍鶏が現われた。
    「シンプルイズベスト。うむ、完璧だ。これで最優秀賞はいただきだな。ハーハッハッハー!」
     ジュラルは自信満々にトマトジュースを並べた。
    「はいはーい、シンプルに究極の家庭料理を並べてみたわよー。お店では絶対味わえない日本のお袋の味を堪能して、涙を流しちゃってちょーだいっ!」
     由良の定食に外食の多い人が立ち止まる。
    「どうぞカレーなべです。食べていってください」
     カレーの香りが人を引き寄せ、鞠藻が次々と皿を配る。ラトリアは隣で怪しげなカレーを押し付けた。
    「諸君。私はカレーが好きだ。私はカレーが大好きだ。この世界で食するありとあらゆるカレーが大好きだ」
     寧美の演説が続く。
    「寸胴鍋の大量の海軍カレーで連中の胃を燃やし尽くしてやる。無論ラッキョウと福神漬けも忘れるな!」
     器にカレーを盛り、聴衆に配給する。
    「ヒャッハー! テメェらに世紀末的な美味さのカレーをお見舞いしてやるぜ~! 慄き震えなぁ!」
     ゴンザレスが繰り出すのは『必殺! 世紀末カレー』。ワイン漬けした肉がコクのある旨みを出す。
    「このカレーいけるぜ」
     光影が皿を空にした。

    「どうぞ唐揚げ弁当です」
     清美の料理はシンプルだが手間の掛かったお弁当だった。
    「俺が提供するB級グルメは、静岡県は富士市の吉原本町商店街で作られた、付けナポリタンだ!」
    「どこから食べるかで味が違うんだ。大勢で食ってくれ」
     テーブルには萬司のトマトスープ付きパスタと、百合のバカでかいピザ風ハンバーグが並ぶ。
    「マグロづくしのタルタルステーキよ」
     マグロの赤身を使ったステーキを神楽は並べ、食べる前に出汁のスープを飲むようにと促す。
    「寒いけんなぁ。暖かいのもごちそうやろ?」
    「熱くなっているので気をつけて下さい。あと隠し味の八角は食べる時に取り出して下さい。では召し上がれ。」
     宥氣は熱々のポトフをよそう。
    「鶏そぼろ餡かけとふわとろ玉子のせ天津飯風チャーハンだ」
     光影のチャーハンは絶妙な卵の柔らかさが人気だった。
    「キャラ弁を作ってみました」
     優歌はイフリートをモチーフにしたキャラ弁を見せる。
    「対話できるなら、親しみを持ちたいですからね」
    「秋の味覚盛り沢山なチラシ寿司だよう。皆に食べてもらいたいんだよう」
    「九里四里美味い十三里! 川越イモたっぷり炊き込みご飯だよ!」
     瀬那は具が一杯の寿司を、片喰は炊きたてのサツマイモ炊き込みご飯をよそっていく。
    「いらっしゃい、食べてって! 美味しい自信があるよ!」
    「良かったら食べてください」
     アイリスはチャーハンを、悠は牛と鶏の2種類のオムライスを並べ好みの方を食べてもらう。
    「パンケーキの間に富士リンゴジャムを挟み込んだ物を何層にも重ね富士山の形を形成しており中はくり抜いて富士林檎の蜜煮が埋め込まれており――」
     赤富士と名づけたスイーツを天嶺は披露する。
    「簡単そうに見えますが、これは飴細工が結構難しいんですよ」
     流希は手早く薔薇の形の飴細工を作り、ミルクムースの薔薇ジャム添えに飾り付けた。
    「四季を楽し見ながら食べれるデザートだよ」
     シュウのプリンアラモードは、イチゴ・メロン・ブドウ・みかんと飴細工で四季を表現していた。
    「ユンヨンチョコシフォンケーキだよ」
     チャイナ服のセリルザールはユンヨンを使った一風変わったケーキを作った。
    「珈琲も紅茶も香る、世にも珍しいチョコシフォンケーキはいかが?」
    「キャラ弁ならぬキャラ菓子! コンセプトはゲルマンシャークを食べて懲らしめよう!」
     來鯉は広島産のオレンジとチョコのムースや抹茶アイス等を使ってキャラを描く。
    「……完成」
    「可愛くできたね」
     壱琉と統弥の2人の前にお菓子の家が出来ていた。柿を使った飾りつけが秋を彩る。
     甘い香りが漂いクッキーが焼き上がる。
    「わー、部長ってば、なんていうか……大胆ですねー」
     クッキーを見て蓮が驚きの声をあげた。CSMとロゴの入った板のようなクッキー。インパクトに引かれて人が集まる。尋は泣く泣くこつんと割って集まった人に配る。
    「はぁーい、皆さんもどうぞ~。『CSM』をよろしくお願いします!」
    「私のクッキーもお一つどうぞ!」
     蓮もジンジャークッキーにアイシングで顔を書いたクッキーマンを配る。
    「たくさんの方に食べていただいて……そして笑顔になってくれれば嬉しいかな♪」
     林檎が作る虹プリンはフルーツで色を付けたプリンの層がカラフルに重なる。

    ●味わう
     イルマは品評をする為、順に巡る。
    「薬味はいらねぇ、麺汁と打ちたての蕎麦を召し上がれっ」
     自信に満ちた表情で銀都は言う。
    『ほう、蕎麦か。本格的だな……うむ、コシもあり、風味豊かだ。薬味がいらないというのも頷ける』
     ずるずるっと食べる音に惹かれたように蕎麦を求めに人が来る。
     沙雪は蛸の桜煮の小鉢を手渡す。
    「おあがりよ」
    『蛸の色が鮮やかで、ほくほくと柔らかい!』
    「小豆と一緒に煮てるんだよ」
    『なるほど、噛むほどに旨みが出るな』
     いろはの前には普茶料理の精進餡かけ御飯。隣には舞が作ったシジミの味噌汁が湯気を立てていた。
    「綺麗な字ね」
    「こう見えても去年の芸術発表会では書道部門で入賞してるからね」
     毛筆で書いた品書きが映える。舞も声を出す。
    「食べていってください、美味しいですよ」
    『では一杯いただこう』
     看板に目を引かれたイルマが手に取る。
    『出汁がよく出ているな。優しい味わいだ。こちらの餡かけもお焦げがうれしい。うむ、これは互いが引き立てあう料理だな』
     そのコメントに2人は顔を綻ばせた。
    「一回食べてみて? その一回で、三回満足させてあげる!」
     イタリア民謡を歌い客引きしていたエドアルドが、手作りしたピッツァを切り分ける。
    『……これは濃厚だ、モッツアレラとゴルゴンゾーラ、そしてゴーダチーズもか! なるほど、これ一枚で3種味わえるということか』
    「ホントうめぇよ、お前なら立派なシェフになれるぜ」
     自分の料理は適当に並べるだけで、早速ピッツァを食べているレナードが親指を立てる。

    「ボクの料理はこれ。お友達から教わった味噌パスタですっ」
     司は名古屋の赤味噌を使ったパスタを並べる。
    「何かクラブ内で料理対決、って流れになっちゃったー」
     自分は食料制限ありだけどと響斗がぼやく。
    「苛めだ……でもどんな事があっても部長の威厳は必ずまもーる!」
     出す料理はミルクリゾット。司はリゾットを食べて幸せそうに頬を緩めた。
    「うう、負けは認めるので、作り方教えてくださーい!」
     美味しい紅茶まで出され、完敗を認めるのだった。
    「笹川殿食べにきたのじゃ」
    「こんにちは!」
    「よく来てくれたのじゃ!」
     王子は匡と共に茜の元へ訪れ、海戦塩焼きそばを頬張る。
    「わたくしが作ったのは青カツ丼ですの。お肉はコルベイン濃度100%の国産デモ……モップロースを使っていますの」
     板前姿の永遠は自慢の肉で作ったカツ丼を紹介する。
    「茜もどうぞですの」
    「ではいただくのじゃ」
     笑顔で差し出され、茜は受け取った。
    「ほら召し上がれ」
    「これは……ダイナミックな作り方でどきどきしちゃいましたけど、とっても美味しいですよ、八九三さん!」
     八九三のビーフシチューを御理は満面の笑顔で食べる。
    「これは肉じゃがとご飯が入っているんだね。何だか懐かしい味だ」
    「龍一さんのタルトも美味しいです」
     龍一が食べている姿を見て、紗里亜は勝負の事など忘れて微笑む。
    「美味しいものを食べた時の皆さんの笑顔が見れたら、それで私は満足かな……」
     ノアはきのこご飯を美味しそうに食べる。鈴緒は食べてくれる人の笑顔だけで満足だった。

    「肉料理が沢山あるといいんだが、花厳はスイーツは良いのか?」
    「スイーツは別腹なので後でしっかり頂きます」
    「まずはお肉料理を食べにいきましょう」
     通、李、春香は香ばしい肉の香りに誘われる。
    「飯人君、肉食べに来たぞー!!」
    「よう水戸。今年も圧倒的肉だな」
     李と通が挨拶したのはクラスメイトの飯人だった。
    「お疲れ様水戸くん。私達も食べて良いかしら?」
    「おお! よく来たな! 食え食え!」
     飯人は早速バーベキューにした肉の塊を春香に渡す。
    「てめえら! 肉食えよ肉!」
     通と李も肉にかぶり付き、兎にも角にも肉だと飯人は肉を焼きまくる。
    「はらぺこダンピールとして、これは捨て置けん……!」
     グルメの直人も肉にかぶり付く。
    「未空ちゃん食べてみて、美味しいでしょう」
    「美味しいです。でも、これ材料だけで高くついたのでは?」
     イリスは海鮮丼を置く。未空は豪華な見た目に値段を気にする。
    「イリス特製海鮮丼の凄い所は、食材を近くのスーパーで安く買ったところだよ」
    「スーパーで安く仕入れた……特製海鮮丼がハンバーガーと同程度に感じて来たぞ」
     スーパーの特売と聞くとありがたみが薄れてしまうと思う未空だった。
    「……一緒に回れるの……楽しみ……だなぁ………」
    「ご期待に沿えるよう、しっかりエスコートするね」
     統弥は緊張する手を差し出し、壱琉と逸れないよう手を取った。

    「いいか、オレは鶏肉とトマトが嫌いだからその食材だけは使っちゃダメだからな。絶対だぞ!」
     そう宣言した熾の前に、じゃじゃーんと夏蓮がケーキを置く。
    「その名も、巫女服よ永遠なれ! どんなに邪魔されても愛があれば何とかなるよねデコレーションケーキ!」
    「ナーレのデコケーキすげえ! しかもフランベとかプロいねーでもそれ絶対火力強すgあああ……」
     人参とトマトのペーストで緋袴を表現したケーキだった。蓮次は再現力に驚く。そして最後のフランベで呆然とした。
     熾は現実から逃げるように目を背けた。
    「と言う訳であっしは見た目普通に旨そうな肉汁の滴るステーキを――」
    「えっと、これ何のお肉使ってるの?」
     爽子の話を遮り尋ねる。
    「え、その肉は何の肉かって? いや、肉だけはどうにも手に入んなかったから近くの牧場で家畜の血を吸ってた珍奇な生命体を一狩りして手に入れマシタ」
    「……鶏肉じゃねーか!」
     一口食べてみると、それは鶏肉だった。
    「頑張れ。普通の塩おにぎり作っとくから」
     蓮次から渡された水で流し込む。次の料理は赤い物がはみ出るサンドイッチ。
    「これトマ……あ、舞依からメールが……」
     メールを読む。兄として完食せねばならない。一口、口の中で赤が爆発した。
    「く、口直し、誰か口直しを!」
     近くにあったものを口にする。消し炭と書いたダイイングメッセージを残して、熾は倒れた。
    「えへへ……フランベに失敗しちゃった」
     夏蓮は舌を出す。
    「ぐっふっふ。今日のボクはお腹を空かせたサーベルタイガーなんだよっ」
     オリキアは倒れてる熾に驚きつつ、視線を料理に向ける。
    「舞依が作ったのー? もらっちゃおうー♪ わっ、なんだか黒っぽいのは夏蓮作ー?」
     サンドイッチを平らげ、黒いケーキも不味いと言いながらも食べてしまう。
    「オムライス風五目おこわです」
    「花の巻き寿司、出来ました!」
     華月と安寿の料理が並ぶ。
    『ほう、おこわか。もちっとした食感がいい。こちらの巻き寿司は見た目が花になっているのか! ふむ、桜でんぶの甘さが程よい塩梅だ』
     陽己が鍋をよそって差し出す。
    『白味噌の鱈鍋か、いただこう……これは!? 鱈の身、白子、肝。それだけではない、これは皮と……』
    「内臓を使った、まぁ、和風ソーセージと言った所だな」
    『う、うーまーいーぞー! まさに鱈づくしとはこの事だ!』
     陽己は頷いた。華月と安寿も鍋をつつき、寿司とおこわを美味しそうに食べる。
    「勉強になるね」
     流季は今度皆に作ってあげようとメモを取る。
    「よし、メイニーに教わった料理の腕を披露するときがきたぜ!」
     武流が作ったのは二色あんかけ焼きそば。
    「食べやすく、飽きの来ない味。とても美味しかった。ごちそうさま」
     じっくりと食べ終えたメイニーヒルトが笑顔で太鼓判を押す。
    「やったぜ!」
     喜ぶ武流の姿を見て、メイニーヒルトはほっこりと心を和ませるのだった。
    「ふう、何とかなったかな。家の料理長に習った甲斐があったよ。」
     やり遂げた感のある紗生が出したのは、下処理を済ませた食材の盛り合わせ。
    「よしできた! 名付けて妄想鍋~まろやか仕立て~!」
     そして火華が完成させたのはお腹にいい? 鍋だった。
    「大丈夫じゃなかったーー!」 
     恭太朗は前に並べられた料理を前に冷や汗を流す。2人の期待する目を見て、覚悟を決めた。
    「被害は……俺だけでいい!」

    「うん、完成したよ」
    「こっちも、もっちりみたらし餡ドーナツの出来上がり!」
     殊亜が2種類のドーナツとパイを、紫が一口サイズに揚げたもっちりドーナツを並べる。
    『これは柿、栗と旬の物を使っているのだな、季節感があっていいな。こちらのもっちりしたドーナツは……中にみたらしのたれが入っているのか!』
    「わたしは大福焼きパフェを作ったんよ」
     雛菊の出したのはたこ焼きのような食べ物。
    「たこ焼きの生地と甘い物とか案外合うんよ、皆も如何かな?」
     食べてみると中には苺と餡子等の甘い物が入っている。一風変わった料理に通る人が摘んでいく。
    「レンちゃんの好きな人に渡してきたらどーかな」
    「……うん」
     お揃いのハート形のケーキをラッピングしながら、恋はフィアの顔を見た。
    「……恋も……好きな人に……渡すの……?」
    「ふぇう!? う、うん。おくるよ…?」
     恋は驚きながらも答える。2人の視線が合わさると、顔を赤くして逸らすのだった。
    「天然の甘みだけの優しい味わいを楽しんだら、餡子や生クリームを乗せて食べるといいのじゃ」
     シルビアがスイカのように切り分けたカボチャを手渡す。
    『ほう、中に入っているのは裏ごしした芋か。む、栗まで入っているのか」
    「ん、アップルパイ美味しー☆」
    「あるなちゃんのシフォンケーキも美味しいです~!」
     あるなとイシュテムはお互いの作ったお菓子を食べて頬を緩めていた。
    「甘い物ないかなー…アップルパイがあったら最高なんだけど……お!」
     アップルパイを見つけたラトリアの目が輝く。
    「お菓子のなる木の伝説……あれは本当だったのさ……」
     魔女の格好をした智巳が大きな木のお菓子を公開した。
    『これはすごい! この木はクッキーか。飴細工の果実の中にまたお菓子が入っている。これは楽しいな!』
     ほうほうと皆の手が伸びる。
    「ふんわりしっとりとしたくまさんパンケーキは如何でしょうか~*」
     柚姫はうさ耳をつけ薄い桃色のメイド衣装でパンケーキを配る。
    『クマさん……だと。アイスが乗っているのか、しっとりした生地に合うな』
    「……『Quadrifoglio』と名づけたよ。食べてみて」
     真魔が四葉のクローバーをイメージしたケーキを並べる。
    「美味いな」
     マイフォークとナイフを持って百合が食べ始める。華やかなケーキは多くの女性が求めに来る。
    「ケーキいかがですかー。今が旬のサツマイモ使用だよ!」
     秋らしいブースで架乃が呼びかける。
    『サツマイモのケーキか……これはビターチョコか、サツマイモのグラッセがまた美味いな』
    「新潟の! 魚沼産! お米の良さを! 広めるわよ!!」
     舞子の味覚釣りお餅は、一口大の餅に好みのタレをつけて食べる。
    「さあ、皆、お餅で味覚を釣ってってー!」
    『わたしはシンプルにきな粉でいただこう』

     人ごみ離れた所に、怪しげな料理が並ぶ一角。
     舜はラパンのソテーを提供する。何の肉かは分からぬまま食べる人々。
    「フランス料理だよ。美味しかったでしょ? 脂肪が少ないけどしっとりしてて」
    「禁断のキノコ鍋 りたーんず!」
     煉は流石に去年で懲りたのか、禁断風にアレンジを行なう。
    「さあ、キノコ鍋だ。食べてくれ」
     一見毒茸に似た食用茸を使った怪しさ溢れる鍋だった。恐れを知らぬチャレンジャーが鍋に挑む。
     咲楽が作ったのは謎の炒め物。ダークマターやら何やら、もはやこの世のものではない謎の物体。
    「バベルの鎖に頼りまくった逸品になっております」
    「ツチノコの香草焼きの完成だ」
     翔也の皿には香草に包まれて焼き上がった蛇が現われた。
    「……それでは、焼きあがりましたので誰か御試食して下さいまし?」
     司の餃子は見た目はまともだった。通った人が1つ摘む。すると口を押さえて走り去った。
     真神はスープを、みくるは激辛ベーコンレタスバーガーを配る。
    「激辛がお好きな方はどうぞ御賞味下さいませ」
    『げほっぐっ』
     スープの香りだけでイルマは涙目で咽た。
     『空きっ腹はキケン!』『激辛注意!』の看板がかかり、辛党御用達のエリアとなっていた。

    ●味王
     投票が終り集計が行なわれ、上位以外は順次発表されていく。
    「だいぶ腹がくちくなって来たな。一応、今日は腹減らして来たというのに……ああ、熱いお茶が欲しい」
     存分に食べた十四行は一息吐く。
    「カフェラテいかがでしょう」
    「おお、ナイスタイミングだ。一杯もらおう」
     花梨はラテアートを描いていく。
    「お待たせしました、ごゆっくりどうぞ」
     珈琲の香りと共にゆっくりと食後のひと時が流れる。
    「私の勝ちだね!」
    「参りました」
     票数で勝ち無邪気に喜ぶ紫を見て、降参のポーズをとった殊亜も笑顔になった。
    「お兄様、感想まだかな?」
     舞依が返事を待ってる頃、熾は夢の中で赤い悪魔と戦っていた。
     皆が品評したり、残った食事を平らげていると、部屋が暗くなる。
    『それでは最優秀賞を発表する!』
     登場したイルマが声を響かせ、ドラムロールと共にスポットライトが動き回る。
    『優勝は……』
     固唾を呑んで見守る参加者達。
    『鱈の美味しさを存分に引き出した『鱈鍋』に決まった!』
     周囲から賛辞の声と悔しそうな声とが混じり合う。
    『太治陽己さんには『味王』の称号が贈られる。おめでとう!』
    「「おめでとー!」」
     陽己は皆の祝辞に頭を下げた。
    「これからも精進するつもりだ。また俺の料理を食べてくれ。ありがとう」
     拍手が鳴り響き。料理コンテストは大成功に終わった。

    作者:天木一 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年11月22日
    難度:簡単
    参加:95人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 12/キャラが大事にされていた 12
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