オフィスビル街から少し歩いた広場にて。
一日の仕事を終えた女性が三人、遅い夕食について相談していた。
「はー、残業疲れました」
「これからどうする? 軽くご飯食べようよ」
「私、パスタ食べたい。あと、飲みたい」
他愛ない普段通りの会話。明るい場所で相談しようと、三人は街灯のある場所まで移動する。
そして、光に誘われて出てきた大きな影に気がついたのだ。
「え、な、なんですか、アレ」
「は……きゃ、や」
「きゃぁぁぁぁぁ」
それは、大きく醜く膨らんだ、青い巨体だった。見たこともないようなモノに、彼女達は怯え、叫んだ。
それが始まりの合図になってしまったのだ。
彼女達の悲鳴は、当然青い巨体――デモノイドに届く。
「ッ、ァ、アァァァァァァァァ」
悲鳴の主に気がついたデモノイドは、一気に跳躍して彼女達の前に躍り出た。そして、何の躊躇もなく腕を思い切り振り下ろした。
●依頼
教室に現れた園川・槙奈(高校生エクスブレイン・dn0053)は、早速事件の説明を始めた。
「集まってくださって、ありがとうございます。……あの、アモンの遺産を手に入れたハルファス勢が、木更津市にデモノイド工場を作っていたらしいんです」
この工場は、朱雀門高校のヴァンパイアによって破壊された。しかし、その結果、多数のデモノイドが木更津市に解き放たれることとなってしまったのだ。
「このままでは、木更津市に多くの被害が出てしまいます。……だから、撃退してきてほしいんです」
一呼吸置き、槙奈が事件の詳細を語った。
「今回皆さんにお願いするのは、オフィスビル街から少し離れた広場で暴れるデモノイドの灼滅です」
広場の光に誘われて出てきたデモノイドが、偶然通りかかったOL三人組を襲うというのだ。
「接触できるのは、OLさん達が悲鳴を上げたタイミングです。悲鳴を聞いたデモノイドはすぐに暴れ始めるから、その場所での戦闘になるはず、です」
少し離れているとはいえ、オフィスビル街からはまだまだ仕事を終えた人が歩いてくる。人払い対策も、あればいいだろう。
「敵はデモノイドヒューマン相当のサイキックや殴打攻撃などを使ってきます。灼滅者八人分くらいの戦闘能力ですので、くれぐれも油断無きようお願いします」
最後に、と。槙奈が皆を見た。
「敵の戦闘力を侮ることはできません。皆さんで協力して、必ず帰ってきてください」
参加者 | |
---|---|
早鞍・清純(全力少年・d01135) |
神虎・闇沙耶(闇の塵を護る悪鬼獣・d01766) |
碓氷・爾夜(コウモリと月・d04041) |
高峰・緋月(全力で突撃娘・d09865) |
七六名・鞠音(戦闘妖精・d10504) |
深海・るるいえ(深海の秘姫・d15564) |
龍造・戒理(哭翔龍・d17171) |
城田・京(ワームグレー・d20676) |
●青い巨体
仕事を終えたOL三人組が広場で相談を始めた。
「デモノイド工場か……まるで物のようだな」
その様子を見守りながら、誰ともなしに龍造・戒理(哭翔龍・d17171)が呟く。
「捨て駒の排除、ですか……」
槙奈の語った依頼の内容を思い起こし七六名・鞠音(戦闘妖精・d10504)が言うと、その場にいた者の表情が一瞬こわばった。
デモノイドなど嫌な思い出しかない。特に城田・京(ワームグレー・d20676)は、普段と違いぴりぴりとしている。今誰かに声をかけられても、とげとげしい声になってしまうかもしれない。
「なんでソロモンの悪魔って、人を玩具みたいに……!」
高峰・緋月(全力で突撃娘・d09865)が思わず拳を握った。
灼滅者達の存在や思いに気づくはずもなく、OL達が灯りの元へ歩き始めた。
「さぁ、さて……どうしてやろうか」
聞いた通りならば、じきにデモノイドが現れるはずだ。碓氷・爾夜(コウモリと月・d04041)が淡々と語ると、鞠音がそっと頷いた。
「一般人の犠牲、は防がなくては、いけないそうです」
「今はデモノイドを止めないといけないよね。誰一人失うもんか!」
緋月は顔を上げ、まっすぐOL達を見つめた。
その時、光に誘われるように大きな影が茂みから姿を現した。OL達はまだ気づいていない。だが、すぐに気がつくだろう。一瞬早く灼滅者が気づいた、それだけのこと。
深海・るるいえ(深海の秘姫・d15564)は、ナノナノのてけり・りを伴い、じっとデモノイドを見据えた。
そもそも、町に適度な宇宙的恐怖を振り撒くのが、邪神系ご当地の仕事である。
「だから、ガチで町に恐怖を振り撒く連中は許せない」
キリッ、と表情を作っててけり・りを抱える。
「私、すごく正義の見方っぽい?」
「うんうん。美人OLさんのピンチもなんとかしないとな!」
答えるように早鞍・清純(全力少年・d01135)がそう言うと、沈みかけていた雰囲気が少しだけ上向いた。
「え、な、なんですか、アレ」
戸惑う、女性の声。息を呑む音。
ようやくOL達も、それに気がついたようだ。
「きゃぁぁぁぁぁ」
OLの一人が悲鳴を上げると、デモノイドははっきりと彼女達へ体を向けた。
「ッ、ァ、アァァァァァァァァ」
青い巨体が吼え、跳躍する。
「闇路に迷いし者。今ここで迎えよう、死を」
襲撃を確認し、神虎・闇沙耶(闇の塵を護る悪鬼獣・d01766)がOL達の前に飛び出した。
「この刃は守る為にある。俺の目の前で、奪えると思うな!」
戦いの姿――鎧姿を露にし、デモノイドの一撃に備える。
仲間達も次々戦場へと躍り出た。
デモノイドは、灼滅者達を前にしても攻撃を止めはしなかった。
目に付いた者を全て巻き込むような大振りで、薙ぎ払う。
受け止めた衝撃はすさまじく、足元で粉塵が舞うのが見えた。
●それぞれの役目
「死にたくなければさっさと逃げろ!」
一撃を食らった闇沙耶が叫ぶ。
何が起こったのか理解できていないOL達は、未だ凍りついたようにその場で固まっていた。
デモノイドが次の攻撃に移る前に、破邪の発光が煌いた。
「ほら、こっちからも行くぜ!」
清純の放ったスラッシュに、デモノイドが後ずさる。避難を誘導する仲間が安全に彼女達を退避させるまで、攻撃が向かわないよう引き付けなければ。
同じく、高速で走りこんできた京は、龍砕斧を大きく振るいデモノイドの足を薙ぎ払った。
「あちらに避難してください」
大丈夫だからと、声をかける。
「ゥ、ア、ガァアアア、ァ、アアアッ」
攻撃を邪魔されたこと、逆に攻撃を受けたことに対する怒りか、デモノイドが大きく吼える。
「ひ――ぃ」
その声に、OLの一人がかすれた声を上げた。
「早く逃げろ。後ろを振り向かず、まっすぐ走れ」
彼女達を守る壁になるように、爾夜が立ちはだかる。爾夜の初手は預言者の瞳。自らを覆うバベルの鎖を瞳に集中させ、狙いを高める。
ここで、敵とOL達との間にある程度距離ができた。
そこに鞠音が現れ、彼女達を魅了するように営業スマイルを浮かべた。
「皆さん、ここはいささか危のうございますから」
柔らかな口調で、手を差し伸べる。
「早くお逃げなさい、私が守ってあげますから」
「あ――!」
突然始まった戦いに混乱していたOL達にとって、それは正に救世主の救いの手だと感じたに違いない。彼女達は吸い寄せられるように鞠音へ近づいてその手を握り締めた。
「アッ、ヴァァァァァァ!」
背後に、デモノイドの咆哮が響く。
びくりと肩を震わせたOL達を励ますように、るるいえが退路を指し示した。
「さぁ、走れ!」
自身も誘導するように足を進める。OL達はようやく、灼滅者達が自分達を助けに来たのだと、納得したようだった。
よろよろと避難を始めたOLに、デモノイドが目をやる。
そうはさせまいと、緋月が手にしたチェーンソー剣を駆動させた。
「アナタの相手はこっち! 暴れたいのなら私たちが受け止める!」
射程距離まで一気に走りつめ、凄まじいモーター音をあげながら、敵を切り裂く。
「ァアアアアアア」
ダメージを受けながらも、デモノイドは出鱈目に腕を振り回した。動きは稚拙だが、当たれば厄介だと思う。踏み出した足に力を込め、緋月はすぐに一歩後退した。
それを見てデモノイドが腰を落とす。
だが、跳躍するより前に戒理が動いていた。
「もはや救えないのなら、せめて最期は看取ってやろう」
戒理に寄り添うようにして立っていたビハインドの蓮華が、ひらり舞う。その腕から発せられた霊障波がデモノイドの動きを止めた。間を置くことなく、流れるように自然にシールドを構えた戒理が飛び上がる。
デモノイド自身へも、思う所はある。そうなる意思があったのかどうかも分からない。ただ工場で作られ、物のように扱われ。
しかし、それでも、今はとにかく倒すことに集中しなければ。
勢いのまま殴りつけると、デモノイドがギチギチと歯を鳴らした。
戒理へ向けて、はっきりと怒りを露にしたようだった。デモノイドはすでにOLを見ていない。見ているのは、自分に攻撃を向ける灼滅者達だ。
OL達の背中が遠ざかっていく。
それを確認し、爾夜がサウンドシャッターを京が殺界形成を発動させた。戦場の音で一般人を呼び寄せる心配がなくなり、しかも殺気で遠ざけるようにしたのだ。
デモノイドとの間で壁になる、OLを避難させる、デモノイドの注意を引き付ける。
それぞれの役目ががっちりと噛み合い、ここまでは灼滅者達の思惑通りに事が運んだ。
●かける言葉は
できるだけ戦場から離れた場所へOL達を誘導し終えると、鞠音とるるいえは顔を見合わせた。戦場で戦う仲間の元へすぐにでも戻らなければ。
「ここまで、来れば、大丈夫です」
とはいえ、慣れない行動をしたものだ。鞠音が盛大にため息をついた。
「あ、ありがとう。あなた達は一体……?」
OL達は、すがるように二人を見た。
すでに戦場へと向かっていたるるいえが足を止める。顔だけで振り返り、胸を張った。
「通りすがりの邪神系ヒーロー」
きゅっと結んだ口が勇ましいような。
「は、はぁ……」
若干反応が芳しくなかった気がするが、それはそれこれはこれと言うことで。
今度こそ鞠音とるるいえは戦場へと舞い戻っていった。
戦場では、デモノイドを抑える仲間が奮闘していた。
目の前の敵が何をしてデモノイドになったのか知らない。しかし、一般人に害をなすものは始末する。爾夜は遠距離から狙いを定め、敵を見据えた。
「……もしかしたら、キミも被害者なのかも知れないがな」
練り上げた魔法の矢は、真っ直ぐデモノイドの腕を貫いた。
「それでも容赦はしない……全力でお相手しよう」
「ァアアアアアアア」
確実に攻撃は当たっている。だが、デモノイドはまだ揺るがない。
叫びながら、またフルスウィングの殴打を繰り出してくる。前列にいた仲間を巻き込みながら、デモノイドは腕を勢いよく振りぬいた。
威力は分散し、すぐに倒れるダメージなど受けない。けれど、至近距離で戦っている仲間が揃って巻き込まれるのは、厄介だった。受けた傷も、蓄積されていく。
デモノイドは咆哮を上げ、ただひたすらに攻撃を繰り返す。
その姿は、まさにダークネスの尖兵。けれど、と、清純は思う。デモノイドはもともと自分たちと同じ人間のはずだから。
(「可能性が0じゃないなら……こっち側に帰ってきて欲しい……」)
「なあ、おい、俺たちの言葉……届かないかな」
その言葉は、余りにも少ない、雲をつかむような可能性を探る祈りのようだ。
「こんな風に悲しいまま終わるのは悔しいだろ」
クルセイドソードが破壊するのは、霊魂と霊的防護。剣を振るいながら、清純は言う。お前にだって、大切な人が、家族が、いるはずなんだと。
「家に帰ろうぜ」
ダークネスに負けるなと、帰ってこいと。
「アアァァァァァァ」
デモノイドはまたひとつ吼え、腕を巨大な刀に変えた。清純のソードとデモノイドの刀がかち合い、火花を散らす。
返ってきたのは、容赦ない反撃だった。
「もう声が届かないのはわかってる。でも、それでも言わせて。アナタは人間! だから闇に飲まれないでください!」
清純を助けようと、緋月が飛び込んできた。思いをぶつける様に、クルセイドソードを振るう。
だが、何も返ってはこなかった。
ただデモノイドが傷を負い、さらに大きく吼えるだけだ。
人間らしい反応は、まったく返ってこなかった。灼滅者達は、それでも目をそらさず、攻撃の手を緩めない。
戒理が影を伸ばし、敵の足を止めにかかる。
「さっさと片付けて、朱雀門の本命を叩きに行かねばな」
自分の代わりに貧乏籤を引かせてしまった者達へ、借りを返すためにも。
「……ガ、ァ、アアアア」
デモノイドは身悶えして、暴れた。
「貴様を哀れとは思わん。だからこそ全力で救ってやる!」
飛び込んできた闇沙耶が、無敵斬艦刀・無【価値】を大きく構える。繰り出す一撃は、叩き壊して木っ端微塵に粉砕するような、激しいものだ。
続いて京が寄生体の肉片から生成した強酸性の液体を、鋭く飛ばしつけた。
「殺す、殺す、殺す……!」
普段は口にしない言葉が、腹の底からあふれ出す感覚。
まだデモノイドは倒れない。絶対に逃がさない。絶対に潰す。先ほど受けた傷も、気にならなかった。
京は走り、攻撃を続けた。
●最期
「ガ、ァ、アアアアアアアア」
腕を振り回すだけだったデモノイドの動きが、また違ったものへと変わった。
その巨体からは想像もつかないほど素早く走り始める。
「な――」
一番近くにいた京は、驚く間もなかった。デモノイドの刀に変わった腕が、容赦なく京を切り裂く。勢いで吹き飛ばされると、熱い痛みが体中を走った。
「少し待て、今回復する」
すぐに爾夜が裁きの光条を放つ。
「善なるものに癒しの光を……」
「あ、有難うございます。すいません」
癒しの光が京の傷を回復させた。
だが、そうしている間に、今度はデモノイドがその腕を巨大な砲台に変える。
「アァァァァァアアアアッ」
放たれた死の光線が戒理へ向かう。
「危ないっ」
その時、るるいえが戦線に戻ってきた。走りながらてけり・りを両手で掴み、迷いなく投げつけた。
「庇うんだーっ」
てけり・りは大きく弧を描いて飛んでいく。そして、その身を死の光線にぶつけ、戒理を庇いきった。
「ちなみに、回復もするよ」
てけり・りの様子を満足げに眺めた後、るるいえはいそいそと仲間の回復に符を飛ばした。
「叫んで、戦って、何を見ているのですか?」
同じく戻ってきた鞠音が、指輪から魔法の弾丸を放つ。
「ゥ、ア、ア、ァァァァアアアアア」
傷を負ったデモノイドは、ただ苦痛のうめき声をあげるだけだった。
「何を感じているのですか?」
更なる鞠音の問いかけに、返事はない。
デモノイドが再び腕を刀に変え、斬りつけてきた。
「もう、駄目なのかよっ」
何度も見た太刀筋だ。清純はクルセイドソードで右に左にと、攻撃をいなして見せた。
「……、終わりにしよう」
叫び声を上げ、ただ攻撃するだけの、獣のような敵。少し哀れにも感じるが、容赦はできない。爾夜は両手にオーラを集中させ、思い切りよくデモノイドへ放った。
「……!」
敵の身体が傾ぐ。
ここだと、一斉に仲間が畳み掛けた。
「潰すっ」
「さあ、行けっ!!」
京がシールドで殴りつけ、戒理が冷気のつららで貫く。
「悲しみの連鎖は絶対に止めるから、せめて安らかに眠ってください……」
絶対に、断ち切るからと。決意の言葉と共に、緋月が飛び込んだ。手にしたチェーンソー剣で、確実にデモノイドを切り刻んでいく。
「ァ、ア、ア、ァア」
デモノイドが断末魔のような悲鳴を上げた。
「我が剣。この者を葬らん!」
最後に闇沙耶が霊魂を破壊すると、デモノイドはもう何も声を発することはなかった。
「眠れ、闇の底で……な」
その声は届いたのだろうか。
青い巨体は、跡形もなく崩れ去った。
清純は辺りを見回す。人払いをした広場は、完全に沈黙していた。
「けが人は……いないな!」
よしよしと、腕を組む。
「OLさん達も、無事逃げられたようだね」
緋月は言いながら、デモノイドが消えた場所へ足を進めた。
アモンが消えて一段落したはずだったのに、また無理矢理デモノイドに変えられてしまう。
(「絶対にこの連鎖を断ち切ろう」)
決意を胸に、黙祷をささげた。
「元は何であれ、使われるだけの存在からは救えたのだろうか」
「……こんなものを増やして、ハルファス勢は何を考えているんだ……」
闇沙耶と爾夜の言葉は風に消え、答えは返ってこなかった。
その様子を黙って見ていた戒理の傍らで、蓮華が気遣うように身をかがめた。
「とにかく、終わったんだ。帰ろうか」
戒理が言うと、皆帰りの支度を始めた。
「考えすぎかもだけど……油断、よくない」
「大規模な、作戦である以上、当然です」
るるいえと鞠音は揃って周囲の警戒をする。だが、これ以上の伏兵の気配は感じられなかった。
それでもなお、京は敵を探し続ける。
”まだ他にもいるのではないか”
その強迫観念を消すことはできなかった。
作者:陵かなめ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年11月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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