「スポーツの秋が終わったら、次は芸術の秋なのですね」
納薙・真珠(高校生ラグナロク・dn0140)は先生から貰ったプリントを見ていた。
マラソン大会が終わると、武蔵坂学園は『芸術の秋』に染まる。なぜなら11月22日に学園行事のひとつ『芸術発表会』があるからだ。
芸術関係の科目を筆頭に、さまざまな時間割が芸術発表会に向けての準備時間に変わっていく。ホームルーム、更には放課後の部活動の時間まで、芸術発表会ありきで動くというのだから、芸術発表会がどれだけ大きなイベントなのか、学校というものに通うようになって僅か半年の真珠でも、よくわかる。
(「そういえば、入学した時にいただいたパンフレットでも、芸術発表会は大きく紹介されていましたわ」)
思い返してみれば、と真珠は納得する。
生徒の中には、準備時間を上手く利用して、エスケープしたりする者もいるらしい……という噂だが、真珠はそんな事を考えもせず、真剣な顔でプリントとにらめっこしていた。
「あ、ダンス部門がありますね」
ダンス、というより日本舞踊ではあるものの、それなら多少教わった事がある。しかし真珠は首をかしげた。部門名は、正確には『創作コスチュームダンス』となっていたからだ。
「どういうことでしょう……?」
「ああ、それはね」
詳しい説明を探そうとする真珠を見て、通りすがりの生徒が教えてくれた。
「オリジナルのコスチュームに身を包み、とっておきのダンスを披露する。それがこの創作コスチュームダンス部門だよ」
エントリーした生徒はコスチュームを事前に製作し、ダンスの練習を繰り返し、そうして本番へと挑むのだ。
「えっ、両方やらないといけないんですか!?」
通りすがった他の生徒が、それを聞いて目を丸くしている。真珠も内心は同じ気持ちだ。とても大変そうである。
「そうだね。さまざまなセンスや芸術性、総合力が問われる挑戦になると思う」
創作コスチュームダンス部門では、詳細なジャンルは一切不問。和服でジャズダンスを踊るとか何でもありだ。ただ、衣装とダンスの調和はしっかり検討すべきだろう。衣装は演技時間までに完成すればよく、当日の持ち時間は1分。この時間内でなにをどう踊るか、プログラムを決めるのも生徒自身だ。
「コンビ参加もOKなんでしょう? 服飾係と踊り手でのペア参加もできるって聞いたわ」
「その方が正直助かる……」
「けど、コンビを組む場合は衣装と踊り、それぞれの評価のうち、より『低い方の得点』が総合評価になるんでしょう?」
「え、じゃあ、失敗したら相手の足を引っ張る事に……」
「2人の方が心強いけど、どちらも高い評価が必要になるのは同じということですね」
「でも逆に、コンビだからこそ助け合って、普段以上の力を発揮できるかも!」
皆の話を聞き、なるほど悩ましい話ですね……と真珠は思う。
(「でも……楽しそうですわ」)
参加するからには、上位入選を目指したい。それは確かにそうだ。
上位者は全校生徒を代表し、芸術発表会の当日に大勢の来賓や父兄の前で、あらためてそのコスチュームとダンスを披露する事になる。家族にいいところを見せるためにも、それを目標にする生徒は多いだろう。
しかし、ソロ参加だろうとコンビ参加だろうと、和気藹々と準備をして、あるいはライバルと互いに励ましあいながら――その腕を競い合うのは、きっと楽しいはず。
だから、真珠は気合の入った表情で告げた。
「私、この部門に参加してみます。皆さんは、どうしますか?」
生徒達は着々と準備を進めていた。特にコンビ参加する者はあちこちで熱心に打ち合わせを進めている。
「あ。衣装に入れたい模様とかある?」
「えっと、十字の模様かな」
デザインを練っていた梓は朝乃の希望を聞くと、さりげなくモチーフを織り交ぜていく。
「え、えと、もう少し、布地増やして、ほしい~……」
命の要望に機能性が落ちる事を気にするレナータだが、それでも、という命の要望に調整を加えた。
「真珠、ご無沙汰ーっ」
ミカエラたち文月探偵倶楽部の面々は、真珠を囲み和気藹々と準備を進める。本番ではライバル同士でも準備や練習は一緒に楽しみたい。団長の直哉を筆頭に皆がそう思っている。
「この人が……」
真珠をじっと見つめた悠花は、にぱっと笑いかける。
「もふもふ好きに悪い人はいません! 一緒にがんばりましょーね!」
「は、はい……!」
はにかむ真珠の視線がちらりと足元へ向かったのは、悠花の霊犬コセイが気になるからだろうか。
「うーんうーん。皆、試しに踊ってみないっすか?」
曲はやっぱりタンバリンっすかねー? と色々鳴らすレミの誘いで辺りに踊りの輪ができていく。
「おおっ♪ 今のステップいいかもだよー♪」
着ぐるみ姿で楽しいステップを踏んでいた毬衣は、早速何かを掴んだようだ。
「いよいよ勝負の時ね……」
真剣な表情の雛、エステル、直司は一斉に衣装を取り出した。
「むしゅーさん、ちゃんとふつーのにしたですよ」
エステルは紳士風の白い燕尾服。
「可愛い服はダメって言うんだもん。あ、素肌の上に着てね」
直司はヴィジュアル系バンドボーカル風。
「やるわね……でもヒナの衣装が一番ムッシュー・孤影に似合うんだから!」
そして雛はゴシック風だ!
(「なぜ揃いも揃って私に着せたいんだ?」)
孤影はとにかくそれが疑問だった。そう、3人はいつしか『誰が孤影の衣装に採用されるか勝負』を始めていたのである。
孤影は最終的に、自分の好きな黒色が多用された雛の衣装を選ぶ。が、
「……動きにくいな」
着てから気付いた。
「やだ、こういうのに動きやすさを求めちゃダメよ」
そんな孤影にばっさり言い放つ雛。その隣で直司がエステルに仕立ててもらったメイド服を試着するのを見て……孤影はそれ以上突っ込むのを諦めた。
ある時は血の滲むような努力や特訓を、ある時は楽しい打ち合わせを繰り広げ……いよいよ、生徒達が仕上げた『作品』を披露する時を迎えようとしていた。
「先輩、顔動かさないで下さい。アイライナーが目に入りますっ」
「わ、わかった」
動きを止めた優夜に、唯は丁寧にメイクを施していく。
唯が努力の限りを尽くした衣装やメイクは見事な仕上がり。それに負けない踊りをしなければ、と優夜は剣を取った。
「――おっしゃ!」
ステップの最終確認をした葉月は、頬を叩いて気合を入れる。黒と赤にスパンコールを散らした衣装は、まるでマタドールのよう。歩き出せばタップシューズが軽やかに鳴った。
「レミ! どういうことですの!?」
「まぁまぁお姉様落ち着いて」
衣装を見て叫ぶ桐香をレミはとりなす。まさかのコアラ着ぐるみに固まる桐香だが、もう他の衣装を用意する暇は無い。仕方なくそれに着替えていく。
「ちょっとノリで突っ走りすぎたかもしれませんね……」
「そうですか? とてもインパクトがあるので私は良いと思うのですが!」
ぽつり呟く彩歌だが、セレスティはすっかりノリノリだ。さすがアルパカダンスをしようと提案した張本人なだけある。
(「……衣装係だけのつもりだったのですが」)
自分の分まで衣装があるのに気付いた亜梳名は遠い目をしつつ、やがて覚悟を決めた。
「さようなら、今までのアルパカ着ぐるみ」
螢は色あせた着ぐるみを脱ぎ捨て、新しい着ぐるみに姿を変える。お別れの時を惜しむのは一瞬。その目はすぐ未来、ステージへと向けられる。
「あとは楽しむだけねー♪」
昨日のうちにバッチリ仕上げた衣装へ着替えた夜宵は、そのフィット感を確認しつつ何事も楽しむのが一番だと陽気に体を揺らす。すっかり本番が待ちきれないようだ。
(「ジャパンのアートプレゼンテーションはバリエーション豊かね」)
チラリと皆の様子を見たトレイシーは緊張を解きほぐすようにストレッチしていく。深呼吸しながら目を閉じて、そのままイメージトレーニングだ。
「緊張するか? 大丈夫、観客は鯛焼きとでも思えばいいさ」
「鯛焼き……ですか?」
緊張気味だった真珠は、咲哉の言葉にくすりと笑う。それでいいとエールを贈り、自分は観客席でサボる気満々の咲哉だったが……。
「兄貴、サボりはよくないな!」
「そうそうリア充の癖に生意気な」
「りあじゅう、爆発しれーっ♪」
「咲哉さん爆発しろなんだよ」
直哉達が足止めした所にイガイガが飛び――謎の爆発に襲われた咲哉は、ダンスさながらのステップで逃げ回る羽目になった(協力:RB団有志)。
「さぁいよいよコンテストが始まろうとしています。実況は去年に引き続き放課後創作部より来栖がお送りいたします」
会場では清和のアナウンスが響く。隣では解説役に呼ばれた先生が「こういうの得意じゃないから緊張するなあ」と、もじもじ座る。
「さあ、KJJが今日も世界に笑顔をばら撒くわ!」
トップバッターはアイドルグループKJJのダンス担当・悪魔だ。いつも人知れず練習している自分のように、目立つわけじゃないけど頑張っている人達に勇気を……そんな想いを込めて踊る!
続けて現れたアシュは黒スーツに仮面。ロボットダンスで影の魔物を表現したかと思えば次は魔女、そこから仮面を外して一気に若々しい魔族の動きを演出していく。それらの動きのギャップにはどよめきが起きた。
アナスタシアは自分のルーツ、ロシアと群馬を組み合わせた八木節コサックに挑む!
「ほいっほいっほいっほいっほいっほいっ……!」
超高速ダンスの末、最後には足をもつれさせたアナスタシアだが惜しみない拍手が飛ぶ。
一転して穏やかな響きは恵理のもの。彼女のダンスは魔法的な演出を加えたものだ。
(「呪文の要素とは韻律と旋律と形……呪文は、歌だもの」)
独特な世界観を作り上げた恵理は、最後に祝福の呪文を模して花の香りを散らす。
「武蔵坂学園の未来のために……ベストを尽くす!」
テクノポップ調の宇宙的サウンドと共に飛び出したクランズは、皆の明るい未来を、希望を照らすよう願いを込めて踊ると、とっておきのヘッドスピンをキメた。
多種多様で完成度の高いダンスに、会場はどんどん盛り上がる。
次は一転してクラシックなメロディが流れる中、色々な童話のモチーフをふんだんにあしらった衣装で香が現れ、ジャズダンスでハッピーエンドを演出していく。その笑顔が、更に皆を舞台へ引き込んだ。
「歌ってぇ、踊れぇる……と思う~、着ぐるみあいどるぅ、あいどるぅ・らぶりんちゅたーちゃん☆でぇす」
注目を集めたのはラブリンスターちっくな着ぐるみのめぐみだろう。実物よりもコミカルな動きが笑いを誘う。
「アイドルならうちも負けん。穿って脅してH(破壊)もできる、スーパー釘バアイドル泉明寺・綾……いざ、出陣!」
ばさっと脱ぎ捨てた特攻服が舞い、下から現れたのはロリータドレス。そのまま、かわかっこいいダンスへ突入だ!
「RB団……それは爆発と散り際が真骨頂……!」
和太鼓の連打から始まるメロディにあわせ和弥は死力を尽くした。実体験を踏まえた豪快な爆発と真っ白な燃え尽き様は、一部の涙を誘ったという。
「至高の衣装を堪能いただくためのプログラム……今こそ、披露する時でございマァス」
普段着姿の蕪郎は両足と頭に至高の靴下を装着! 靴下を魅せることに特化したダンスを披露する。客席からの悲鳴はそのエッセンスになった……かもしれない。
武流はレトロゲームのアレンジにあわせて、その主人公をイメージした衣装で踊る。
「あっ。今の動きは……!」
なんと作中の名場面再現つきだ。ゲームに詳しい先生が解説を入れるが、知らない人でも十分に楽しめるよう工夫されている。
「ゲームはゲームでもあたしは踊り子だよ!」
RPGゲームの画面から飛び出してきたかのようなスタイルで、新乃は鈴を鳴らして踊る。生地がひらひら、くるくる舞う姿は、ほうっと観客の溜息を誘う。
「さあ行くよペテっちゃん」
ビハインドと舞台に上がった聖はアップテンポなハードロックダンスを踊る。しかし、その途中でソウルペテルの手を借りて早着替え。ダンスをどんどん切り替えて魅せる。
一転して穏やかな鳥の声から始まるのは紅のダンス。1日をコンセプトに、紅はそれを1分間で表現していく。朝日、日没、夜の星――時の流れを詰め込んだダンスは密度が濃い。
エピソード数なら織緒も負けない。猫を被った執事に扮した織緒は、めまぐるしくパーティ会場を巡る執事の様子をミュージカル風に仕上げ、皆の目を引いた。
「ヘーィ! 元気ですかカー!」
チアリーダーに扮して現れたウルスラはダイナミックにダンス! パワフルに笑顔と元気を振りまく姿に、客席からは自然と手拍子が鳴る。
元気さなら毬衣も負けない。所狭しとステージを跳び回る!
「去年は情熱が足りませんでしたわ……でも、これなら!」
情熱を追求した桜花は、ねじり鉢巻にお祭りはっぴ姿で太鼓のばちに見立てた2本のハンマーを振り回し、お祭りさながらの熱気を観客に与えていく。
「ハッ!」
気合をこめた咆哮と共に舞う空のダンスは、ヒップホップに中国武術の動きを取り入れた物だ。龍をイメージした動きと共に、小道具の青竜刀を威勢よく振って力強さを、ゆったりとした動作で神秘性を表現し、最後は跳び上がって天を舞う龍の姿を魅せた。
「今年のあたいは、ミノムシスーツで上位を……!」
糸でぶら下がりながら登場したミカエラは、そのままくるくる回り……回っている間に無情の時間切れ。暗転からの退場となった。
再びライトが灯ると、そこには大輔の姿。女物の着物と黒髪のウィッグで女性に扮した、その顔には般若面。大輔は人間に恋をしてしまった鬼姫の悲哀を、情感たっぷりに演じながら舞う。
三味線と鈴が織り成す旋律の中、面を外した大輔が涙を流して小道具の剣を己の喉に――そして暗転する舞台に、観客は思わず息を呑み、一瞬の静寂を置いて拍手が広がった。
(「練習の成果を見せるんだ」)
リーンハルトは集中すると、ダークネスの誘惑をテーマに小さな頃から慣れ親しんだバレエを踊る。クライマックスは激しく妖しく、そして巧みに連続フェッテだ!
「アタシの踊りは、勿論これで決まりだべ!」
山形のご当地ヒーローである紅華が踊るのは、現在風にアレンジした花笠音頭。赤い花のついた花笠をくるくる回しながら元気に笑顔で踊る紅華に、観客も思わず頬を緩める。
(「丁寧に、心を込めて……」)
律希はアカペラで優雅なアリアを奏でると、衣装の仕掛けを生かし、姫姿から一気に剣士へ姿を変える。そこからは凛々しく激しい剣の舞で、一気に観客の目を奪う。
睦月は秋の終わりと冬の始まりをイメージした衣装だ。ダンスは不慣れだが、雅さを失わないよう懸命に踊る。
「わっ、とっと……!」
慣れない和装に足を取られそうになるも、なんとか持ち直して。踊りきった睦月に賞賛が贈られた。
優那は複雑な顔で衣装を見下ろす。どこからどう見ても女の子――女装ネットアイドルとして活動する優那が、ネットで皆に意見を聞けば、こうなるのは必然だっただろう。
「……がんばろ」
とにかく、それしかない。優那はいつも通りの踊りを披露していく。
「遂にこの時が来たわね」
金糸雀の瞳は真剣そのもの。鏡の前で最終チェックをすると頭にティアラを載せて、一つ深呼吸をして舞台へ向かう。
ふんわりとしたドレスでゆったり踊る金糸雀は、やがて舞台の中央へ辿り着くとその動きを一気に加速。勢いよく回りながらスカートを外してチュチュ姿にチェンジすると、仕込んでおいた白い花びらを散らし、軽やかに舞う。
それはまるで、蕾が花開くように。
花開いたばかりの少女が夜空を照らすほど鮮やかに舞うと、優雅な動作で動きを止める。
一呼吸置いて、一礼する金糸雀に歓声が飛んだ。
「次はコンビ部門が始まります!」
アナウンスに詠はそっと結月の背中を押した。彼女の衣装は二人で決めたイメージを元に詠が作り上げた物だ。
「いってらっしゃい、結月」
「うん!」
結月はリボンをなびかせて舞台に上がる。バレエの基礎を押さえた動きでくるくる回り、重さを感じさせないほどふわりと。それはまるでオーロラの下を流れる星のようだ。
(「悩める人の希望の星になって、あなたの願い事に寄り添えますように――」)
同じ想いを詠は衣装に込めた。だから結月は二人分の想いを乗せて精一杯踊る。
「さ」
「行こうか」
紅子と優輝はトールフラッグを手にスタンバイ。軍服をイメージした衣装に、タッグ名でもある星と桜をあしらった腕章を装着した2人は、曲が始まるとキビキビと、互いの動きを上手くシンクロさせながら巧みに動く。
フラッグを投げて交換しながらもブレない演技のクライマックスは、優輝の手を足場に跳び上がった紅子のムーンサルト。ダイナミックに美しく演技を終えた2人を、たちまち拍手が包む。
しゃん。
揺れた鈴の音から始まるのはフォルケと瑠璃のダンスだ。お揃いの千早をまとった装束姿の2人は、対になるよう組み合わせた動きで舞う。
ゆったりとしたリズムで、やがて2人はすれ違い――転調したメロディが加速する中、鈴つきの刀を振るいながら舞は続き、1分ちょうどでピタリと、美しく演舞を終える。
「ダンケシェーン」
「こちらこそー」
舞台袖へ引きながらのフォルケの声に、瑠璃もまた微笑んだ。
「観客席から応援しているわ」
「頑張ってくるっす」
フィオレンツィアと拳をぶつけ合った晴夜は、ピーターパン風の衣装で舞台に立つ。恐れることなく敵に立ち向かう――そんな姿をイメージした疾風のようなステップに、少し悪そうな笑みや仕草を混ぜながらのブレイクダンスで観客を魅せる。
「いいじゃない」
カメラのシャッターを切りながらフィオレンツィアは呟く。不慣れな針仕事を、頑張った甲斐があったかしらと、少しだけ頬を緩めた。
千草は宝物のでんでん太鼓を手に、舞台へ向かう。
披露するのは、家庭科クラブで優歌と何度も打ち合わせと練習を重ねて作り上げたプログラム。優歌のアドバイスを反芻しながら、千草は踊りだす。
繰り返す日々への感謝を……大切な人への気持ちを込めて、笑顔で!
「素敵です、薛さん」
まるで花のような笑顔を浮かべる千草を見て、優歌は微笑みながら声援を送る。
梓から模造剣を受け取った朝乃は、日舞とブレイクダンスをミックスした斬新なダンスを披露。最後は宙返りと共にバッチリ決めた。
緊張でかちこち震えていた命は、レターナの温もりに目を丸くしながらも、すっかり緊張を解きほぐして。ストリートダンスに新体操を組み合わせたダンスにあわせて衣装の仕掛けを動かし、スタイルを変えながらどんどんダンスを加速させる。
「ぱ、ぱかー……」
「ダメよ、こういうのは中途半端が1番恥ずかしいの。堂々と踊るパカァ」
赤くなる亜梳名を螢が叱咤する。そう、舞台へ飛び出したのは4人のアルパカ! セレスティと彩歌が踊るのに意を決して亜梳名もついていき――最後は、見る者をイラッとさせるほどアルパカ度の高いポーズで揃える。これも一種の芸術性……かもしれない。
「くるみ、いーアルか?」
「マハルさん、OKアルよ♪」
頑張ろうと声を掛け合ってステージに上がったマハルとくるみは、コミカルな曲に合わせてカンフーダンス。線対称の動きは、息がピッタリだ。
フードのパンダを揺らして可愛らしく踊りながらも、クライマックスにはアクションスターのように格好良く。緩急つけて1分を踊りきる。
「さあ、釘付けにするわよ奏音?」
「うんっ、やっちゃおう成美ちゃん!」
見つめ合った後、飛び出したのは成美と奏音のコンビff(フェアリッシモ)! 徹底的にあざとく構成された彼女達のダンスは……、
「悪いけど、今からみんなの視線を奪っちゃうからね?」
歌、コスチュームそしてダンス! どれも魅力的で、最後の投げキッスには思わず低い声の波が沸いた。
一転、静寂を呼ぶのは優夜の演舞だ。あえてBGM無しでの参加を選んだ優夜は、力強く床を踏む。
剣を振るい、高く高く跳ぶ姿はまるで衣装に刺繍された不死鳥のよう。その演舞は微かな動きが発する物音、息遣いまで聞こえてそうな程に観客達を引き込み、まるで本当に優夜が炎に包まれ燃えているかのごとく錯覚させていく。
「いよいよかぁ。おねえちゃんとのステージ、少し緊張しちゃうな」
深呼吸する奏を見た恋は、胸が高鳴るのを感じながらも、ぎゅっと拳を握り締めた。
「だ、だいじょーぶりゃからね! わ、わたしが、ついてる、から……!」
そう励まそうとする恋の方がよっぽどガチガチだ。奏はふんわり笑うと、恋にカッコ悪い所は見せられないし、と意気込みながら舞台へ向かう。
恋人同士、舞台へ上がったのは寛子と藍。お互いに相手を思ってデコレートしたレオタードは、雪の結晶と雪の妖精をそれぞれイメージしている。
オーロラを舞う雪をイメージして、並んだ二人が踊るのはエキゾチックなベリーダンスだ。2人の体が揺れるたび、虹色のスカーフや雪のようなネックレスが、キラキラ光を反射して輝く。
一転して、序盤から緊張感を漂わせる剣戟の応酬は立夏と徹也だ。アラブ風の装束に身を包んだ2人が扮するのは赤い強盗と青い商人。
舞いながら戦う2人は、互いの動きだけを見ながら全身を躍動させる。やがて渾身の一撃がぶつかり合えば、互いの剣が弾け跳ぶ。
そして戦いを通じて認め合った2人の姿を巧みに表現し、最後は息のあった動きでポーズを決めた。
「――演りきったな」
「ああ!」
最善は尽くした。並んで控え室へ戻っていく2人への拍手が落ち着くと、会場にアナウンスが流れ、優秀者の選考へと移る。
多くの生徒の素晴らしい『作品』に意見は割れ、結果が出るまでには、予想以上に長い時間が掛かるが――。
「発表します!」
やがて、最終結果が読み上げられる時が来た。
「コンビ部門最優秀賞は『黒炎躍動』、枝折・優夜&中川・唯!」
「僕達が?」
「すごい! 先輩、最高にかっこよかったですもん!」
目を丸くする優夜に、唯が大歓声を上げる。
「ソロ部門最優秀賞は『夜、花開くもの』。蓬莱・金糸雀!」
そのコールに金糸雀はクールな表情こそ崩さなかったものの、達成感に大きく息を吐き出した。もっとも、それはすぐ倶楽部の仲間達からの祝福にかき消されたのだが。
更に、ダンスという枠に収まらないほどの芸術性を見せた大輔に特別賞が贈られ、表彰式は幕を下ろす。
「残念……けど、楽しかったな!」
「衣装について色々やったのもいい思い出だな」
「全力は尽くしたし悔いは無いっス!」
「さあ、それじゃあ……」
「アンコールいくわよー♪」
わっと舞台へ飛び出した生徒達が次々と踊り出す。中には、衣装係だからと口ごもるコンビ相手を引っ張り出した者達も少なくない。
「ふふっ、ほら真珠さんも。楽しまないと損ですわよ」
「……ええ。おっしゃる通りですわね」
今日も明日もその先も、学園生活は楽しいことが沢山あるに違いないのだから――と笑みをこぼす桐香に、真珠も頬を緩めて頷き返す。
そうして、最後には観客席まで巻き込んで盛り上がりながら、2013年度の創作コスチュームダンス部門は、賑やかに幕を下ろしたのだった。
作者:七海真砂 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年11月22日
難度:簡単
参加:70人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 18/キャラが大事にされていた 5
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