木更津デモノイド事件~蒼い災厄

    作者:泰月

    ●破壊者
    「な……んなんだ、あの……化物は……」
     タクシーの運転手は、愛車が破壊されていくのを呆然と眺めることしかできなかった。
     急ブレーキを踏む間もなく、目の前に飛び出してきた何か。
     ぶつかる! と思った次の瞬間、衝撃が車内を揺らし、エアバッグが膨らんだ。
     ふらつく頭で何とか車内から這い出た所に、ソレはいた。
     何事もなかったかのように起き上がって、タクシーに向かって大きな拳を振りかぶる蒼い巨体の化物が。
     その化物は彼の見ている前で、何度も何度も拳を叩きつけた。
     タクシーは、もう車の形を留めていない。
     あれが、ただの残骸になった後、この化物が自分を標的にしたら一溜りもないだろう。
     それだけは理解しつつも、腰が抜けた運転手はその場から動く事が出来ずにいた。

    ●木更津へ
    「木更津に、デモノイドが現れるわ」
     集まった灼滅者達に、夏月・柊子(中学生エクスブレイン・dn0090)はそう単刀直入に告げた。
     今は、前置きを言うのも惜しい。
    「ハルファスってソロモンの悪魔勢が、木更津市にデモノイド工場を作ってたみたい」
     工場自体は、既に朱雀門高校のヴァンパイアの一派によって破壊されたのだが、その結果、多くのデモノイドが街に放たれる事になってしまった。
     どうやら、ソロモンの悪魔がヴァンパイアを探すように命令したらしいのだが、既に朱雀門の一味は木更津から撤退している上に、知能の低いデモノイドだ。
    「デモノイドは見つからない敵をいつまでも探しはしないわ。いずれ目的を見失って、好き勝手に暴れ始めるってわけ」
     それを放っておけば木更津の街に大きな被害が出る。
     相手がデモノイドである以上、止められるのは、灼滅者だけだ。
    「皆に向かって欲しいのは、木更津市の東側にある道路よ」
     特に夜間となれば交通量の殆どない、片側一車線の道路だ。
     そこで、1体のデモノイドが車を標的に破壊活動を始める。
    「デモノイドが飛び出してタクシーと衝突するのよ。で、それがきっかけで車を壊す事に目覚めちゃったみたいね」
     タクシーを壊し尽くした後は、違う車を壊しに向かう。
    「その道路、高速道路の出入り口と駅に通じてる大きな道路に近くてね。放っておけばそっちに出ちゃうわ」
     そうなる前に、デモノイドを止めなければならない。
    「サイキックはデモノイドヒューマンに似たものに加えて、拳を使ったのもあるわ。力で押してくるタイプよ」
     理性がないとは言え、戦闘能力は低くない。油断出来る相手ではない。
    「被害をゼロにするのは間に合わないけれど、最小限に抑える事はまだ間に合うわ。その為にも、デモノイドを倒してきて。皆なら、出来る筈よ」
     そう言って、柊子は灼滅者達を見送った。


    参加者
    白・彰二(目隠しの安常処順・d00942)
    黒鐘・蓮司(狂冥縛鎖・d02213)
    黒沢・焦(ゴースト・d08129)
    キング・ミゼリア(ヴァカチンの至宝・d14144)
    綺堂・ライ(狂獣・d16828)
    空本・朔羅(うぃず師匠・d17395)
    シュウ・サイカ(悪戯好きな夜の貴族・d18126)
    成宮・胡瑠(手裏剣三倍段・d22080)

    ■リプレイ

    ●夜を駆ける
    「グ……ググ……」
     デモノイドは探していた。
     木更津の街に放たれた当初は、探せと命令された敵を。
     今は、破壊すべきもの――少し前に己とぶつかった何かと同じモノを、だ。
     最初にぶつかったソレは、既にバラバラの残骸と成り果てた。
     他に同じモノはないだろうかと探すデモノイドは、やがて遠くに輝く明かりと通りゆく車の音に気づいて、大通りへと足を向け――。
    「これ以上行かせる訳にはいかないっす!」
     そこに、空本・朔羅(うぃず師匠・d17395)の声が響いた。
     直後、その辺り一帯の世界の空気が一気に張り詰めたものに変わる。
    「師匠、頼むっす!」
     放たれた殺気にデモノイドが反応するよりも早く、朔羅の声に答えて霊犬の師匠が加えた刃で斬りつける。
    「さぁて、始めよーじゃねーの!」
    「こっから先は食い止めねぇと……まずは、抉る」
     更に、勢い良く飛び出した白・彰二(目隠しの安常処順・d00942)と、するりと間合いに滑り込んだ黒鐘・蓮司(狂冥縛鎖・d02213)、2人の槍が螺旋の捻りを持ってデモノイドの蒼い体を穿つ。
    「オーッホッホッホ!」
     2人の攻撃によりデモノイドの動きが止まった所を、キング・ミゼリア(ヴァカチンの至宝・d14144)が自信に満ち溢れた高笑いを響かせながら駆ける。
    「アタシが戻るまで、こっちは少し任せたわよっ」
    「任されますよ」
     デモノイドの横を駆け抜け、運転手を目指し走るキングに応えて、黒沢・焦(ゴースト・d08129)が剣を掲げる。
     破邪の光を放つ焦の刃が、闇夜を照らしデモノイドを斬りつける。
    「悪戯好きな夜の貴族の生命遊戯」
     低く呟きながら、シュウ・サイカ(悪戯好きな夜の貴族・d18126)も間合いを詰めた。その手に現れるは漆黒の騎士剣。
     すぐにシュウが掲げた刃もまた、破邪の白光に包まれた。
    「堕ちた天は狂い嗤う」
     光りを放つ黒刃を上段から振り下ろし、真っ直ぐに斬りつける。
     立て続けに放たれた光を伴う斬撃がデモノイドの視界を灼くと同時、焦とシュウに聖なる加護を与える。
    「……あんたも犠牲者なんだろうが……誰かに使われ、利用されるのはきちぃだろ?」
     綺堂・ライ(狂獣・d16828)の、サングラスの奥の瞳がデモノイドを見据える。
    「今、解放してやるよ!」
     その言葉と同時にライの体内から放たれた強酸が、デモノイドの体の表面を溶かす音がジュゥと鳴る。
    「ソロモンだのヴァンパイアだの、人に迷惑をかけてはいけないと父上や母上から教わらなかったのか、馬鹿共め!」
     苦無に似た形のナイフの刃を複雑な形に変形させ、成宮・胡瑠(手裏剣三倍段・d22080)が跳ぶ。
     道路脇の壁を蹴って頭上を取った胡瑠は、振るう刃で仲間の攻撃で傷んだ箇所を狙い、デモノイドの傷を深めていく。
    「グッ……ガァァァァァッ!」
     夜の静寂を割いて響く、デモノイドの咆哮。蒼い巨体に力が篭もり、いくつかの傷が塞がって行く。
     既に、デモノイドの頭の中には車の事は残っていない。
     勿論、当初の命令を思い出した訳でもない。
     前に立ちはだかる灼滅者達を、車以上の脅威として認識したのだ。
    「うん、向こうも本気になったみたいだね。がんばる」
    「これ以上のでっかい被害が出る前に、ぜってーここで食い止めないと、な……!」
     デモノイドのその様子に、焦と彰二が手にした得物を握り直す。

    ●境界線
    「駅の方には行かないように、此処から離れなさい」
     担いで運んだ運転手をそっと降ろしながら、キングが告げる。
     サイキックを駆使すれば、大人1人を抱えて走る程の膂力を発揮する事は難しくない。
    「き、君達は一体……?」
    「……アタシは王族よ」
     震える声で尋ねてくる運転手に背中を向けて、キングが答える。
    「王族とは民を守る存在。アナタも、この付近の家の人も、全てアタシ達が守ってみせるわ」
     言葉は、時に外見以上に強く影響を与える。キングの自信に満ちた堂々とした言葉は、運転手に、僅かな気力を取り戻させた。この場から逃げる気力を。
     遠ざかる足音を聞きながら、キングは仲間達のいる戦場へ戻るべく、来た道を急ぎ戻り始めた。

     一方、デモノイドの前に残った灼滅者達は、駅と高速道路に通じる大通り方面を封じる形で、戦いを続けていた
    「ゴァアァァァア!」
     振り下ろされる、デモノイドの腕から生えた異形の蒼い刃。
     その前に立つ朔羅は、手の甲から展開した障壁で振り下ろされる刃を迎え撃つ。
    「っ!?」
     しかし、巨体を活かした一撃は、彼女の予想を上回る重さを持っていた。
     一度は刃を止めたかと思えたが、すぐに力で押し込まれる。膝が沈み、障壁を越えて押し込まれた蒼い刃が、朔羅の肩を赤く染める。
    「させないのだ!」
     そこに、電柱を蹴って躍り出た胡瑠が、すれ違い様にチェーンソーで傷口を広げるように斬りつける。
    「おりゃおりゃ! 燃えろー!」
     更に、その後ろから飛び出した彰二が、炎を纏わせた槍を振るいデモノイドの横面を思い切りぶっ叩く。
    「ふっ!」
     続くシュウは、短い呼気と共にオーラを込めた両拳を連続で叩き込む。
    「大丈夫ですか?」
     朔羅の肩に置かれる焦の掌。癒しのオーラが傷の痛みを和らげ、更に霊犬の師匠が向ける魂を癒す眼差しが、精神の披露を癒していく。
    「このくらいへっちゃらっすよ」
     応えて頷いて、朔羅は障壁を乗せた拳を叩き込む。
     グルル、と怒ったように唸りを上げて、デモノイドの顔が朔羅へ向けられる。
    「なぁ……教えてくれ。そいつが、そんな風に戦うのがあんたの望みか?」
     鋭い眼光とは裏腹に、語りかけるような、どこか穏やかにライが声をかける。
    「訳のわからない奴らに使われるままに戦うのが、本当に正しいのか?」
     せめて、願いがあるなら聞かせて欲しい。
     それが、デモノイドだった誰かへの手向けとなるのなら。
     そんな想いで向けたライの言葉に対する返答は、砲身に変化させた腕を向けてくるデモノイドの姿。
    「ちぃっ!」
     舌打ちしながら、ライも己の内にある寄生体と殲術道具を融合させた砲身を作り出す。
     2人の間で、死の光線がぶつかり合い――ライの腕から放たれた2発目の光線が、デモノイドを撃ち抜いた。死の光線の持つ毒素が、デモノイドの体を蝕んでいく。
    (「もう理性はないみたいだな……」)
     そのやり取りをどこかぼんやりと見ていた蓮司は、その様子からデモノイドにもう理性はなさそうだと判断した。
    「……止めに来たっすよ。アンタが血で染まらねぇようにな」
     理不尽に変貌『させられた』犠牲者に小さくそう呟いて、蓮司が地を蹴る。
    「中から……ブッ潰す」
     トン、とロッドを軽く当てる。
     攻撃に見えない静かな蓮司の動作だが、直後にロッドから流し込んだ魔力が、デモノイドの内側で爆ぜた。
    「うっし! どんどん行くぜっ」
     内部からの衝撃にデモノイドの体が揺らいだ。チャンスと見た彰二が、槍をチェーンソーに持ち替えて飛びかかる。
    「グガァァァッ!」
     しかし、デモノイドは彼の予想を上回る早さで体勢を立て直した。
    「彰二!」
    「げっ! やべっ!?」
     気づいた胡瑠が声を上げ、かばおうと飛び出すも少し遠い。
     既にデモノイドの腕が変異した砲身が、ピタリと彼に狙いを定めている。
     避けるのは間に合わないタイミング。
     砲身から死の光線が放たれ――当たる直前、別の光が割り込んだ。
     幾つかの小さな光輪が光線を遮り、ダメージを緩和する。
    「アタシが戻ったからには、誰一人として倒れさせないわッ!」
    「あっぶねー。助かったぜ」
     彰二が振り向くと、後方には自信たっぷりに言い放つキングの姿があった。

    ●災厄の末路
    「せいっ!」
     短い気合と共に、シュウが刃を振り下ろす。
     しかし、直後に返って来た硬い手応えに、シュウが眉をしかめる。
    「くっ……」
     鮮血の如き紅を纏った黒い刃は、蒼い刃に食い止められていた。
     デモノイドがもう片方の腕で拳を握り、振りかぶる。
    「させないのだ!」
     シュウに当たる直前、胡瑠が割り込んだ。
     しかし、直接狙われた時のようにクナイで受け流す事は出来ず、胡瑠の体が道路脇の外壁に激突する。
    「ガァァァァッ!」
    「行かせない。足をちょん切るからねー」
     デモノイドが追い討ちをかけるよりも早く、低い体勢を取った焦が、デモノイドの足元の死角を突いて斬りつける。
    「……そして刻んで、と」
     更に素早く背後に回り込んだ蓮司が、まだ硬いデモノイドの外皮を斬り裂いた。
    「大丈夫? まだ倒れるには早いわよッ」
     キングが胡瑠を癒すのを視界の端に捉えながら、ライはガトリングガンの引鉄を引いた。
    「本当にもう意識はないのか? ……あんたに何があった。あんたは何をされた? ……あんたをそうした奴らを、許せるのかい?
     目の前のデモノイドに、もう人としての意識が残っていないであろう事は、これまでの戦いで判っていた。
     だから、攻撃を躊躇う事もない。
     それでも、せめて最期の言葉があるなら聞き届けたいと、ライは声をかけ続ける。
     立て続けに響いていた銃声が止む頃には、胡瑠の意識もはっきりと戻っていた。
    (「これがダークネスなんだな」)
     胡瑠が経験する、初めてのダークネスとの戦い。
     ダークネスの強さを、胡瑠は今の一撃で身を以て味わった。
    「大丈夫なのだ」
     だが、隙を埋めて、癒してくれる心強い仲間達もいるのだ。かけられた声の通り、まだ倒れるには早い。
    「デモノイドだろうとなんだろうと絶対に止めてみせるぞ!」
     ニンジャらしく、勇ましくあれ。
     震えそうな膝に力を入れて、敵を見据えて再び得物を構える。
    「その意気だ。まだまだ、こっからだぜっ!」
     壁を蹴って、更に電柱を蹴って。身軽に辺りを跳び回って、彰二は至近距離から槍の穂先に集めた冷気の牙を突き立てる。
    「……どんどんブチ込みますか」
     音もなく忍び寄った蓮司は、鬼哭をも立つ闘気を込めた両の拳を僅かな間で何度も叩きつける。
    「グガァァァッ!」
     お返しとばかりに、咆哮と共にデモノイドの体内で作られた大量の強酸が一気に放出される。
    「仲間に手出しはさせないっすよ!」
     その前に、朔羅が割り込んだ。
     障壁を全力で展開するが、全てを遮切るには強酸は多過ぎる。防具に穴をあけてなお断続的に襲い来る肌が灼ける痛みに、しかし、倒れる事なく歯を食いしばり耐える。
     仲間と、戦う力のない人を守ると言う、己に課した役目を果たす為なら怪我に恐れなどない。
     その意思が、朔羅が限界を越えて立つ力へと繋がっていた。
    「グ……ゥウゥゥ」
     誰一人倒れない灼滅者達に半ば取り囲まれ続けたデモノイドの足が、僅かに後ずさった。
     理性ではなく本能で感じた、脅威が引き起こした半ば無意識の行動。
     それは即ち、気力の面で灼滅者達がデモノイドを上回っている事に他ならない。
    「ふぅん。今、少し下がったかな」
    「みたいだね……ソロソロ覚悟して貰いましょーか」
     そしてそれを見逃す灼滅者達ではない。
     目線をデモノイドから逸らさぬまま、焦と蓮司が頷き合い、同時に駆ける。
     光を纏った刃が斬り裂き、オーラを纏った拳の連打が襲う。
    「今宵の遊戯、そろそろ終わらせるとしよう」
     シュウの構える漆黒の刃が、再び白銀の輝きに包まれ、振り下ろされる。
    「うっし。どんどん行くぜ!」
     傷口から炎を吹き上げながら、彰二も一気に間合いを詰める。
     一度迎撃された事を気にするでもなく、闘志を乗せて燃える炎が夜を照らし、炎を纏った槍がデモノイドを貫く。
    「足元に注意だぞ!」
     胡瑠の足元から伸びた影が膨れ上がり、デモノイドを飲み込む。
    「はっさくの力を食らえっす!」
     朔羅のご当地の八朔の力を宿したビームが、デモノイドを撃ち抜く。
    「グ……ガァァァァッ!」
    「やれやれ、しぶといですよ」
     立て続けに叩き込まれた攻撃にふらついて膝を付きながらも、まだ倒れないデモノイドの前に焦が立つ。
     デモノイドの攻撃は全て単体だ。こうして前に立てば、攻撃は彼に向くだろう。そう思って進み出た焦の横を、なんとキングが駆け抜けた。
    「アタシたちの前では、You are not eye――アナタなんて目じゃないわッ! うらぁっ!」
     突如、漢気を垣間見せつつ、ヴァカチン王族の気品という名のオーラを纏った拳をデモノイドの顔面に連続で叩き込む。
    「結局何も聞けなかったが……必ず仇は取ってやる。だから……安心して、眠ってくれ」
     こうする事が手向けになると願って。
     間合いを詰めたライが、デモノイドの巨体を抱え上げて頭から地に叩きつける。ズガンッと響いた衝撃が全員の足から伝わった。
     どうっ、と背中から倒れたデモノイドが立ち上がる事も唸りを上げる事もなかった。

    ●守ったものは
    「勝った……のだな?」
    「うん。なんとか皆、無事……勝てたね」
     ほぅと息を吐く胡瑠に、蓮司が頷いて答える。
    「お疲れ様っした! お怪我は大丈夫っすか?」
    「アナタが一番怪我してるじゃない。ちょっと来なさいッ」
     少し間があったのは、周りを気遣う朔羅の腕を掴んで止めて、有無を言わさぬ調子でキングが応急手当にかかっていたりするからだ。
    「被害は壊されたタクシーくらいか……」
    「でっかい被害は出なかったけど、タクシーの運ちゃんも災難だよなぁ……車」
     戦闘の余波をみるシュウの横で、破壊し尽くされたタクシーの、恐らくバンパーだった物を手に彰二が呟く。
    「くそが……あの悪夢を繰り返させてたまるかよ……ソロモンの悪魔野郎も、吸血鬼のやぶ蚊野郎も、ただじゃすまさねぇ」
    「そうね。デモノイドを使ってる「本体」の方、どうにかしなくちゃね」
     デモノイドが最期にいた場所を見下ろし、きつく拳を握るライの言葉に、仲間の手当てをしながらキングが頷く。
     と、戦いの余韻の中に「にゃー」と猫の鳴き声が響いた。
    「……猫の声?」
    「ヘカテか」
     聞こえた方に蓮司が視線を向ければ、どこにいたのかライの体をよじよじ登っていく黒猫の姿が。
     肩まで登ると、ライを気遣うように頬をたしたしと肉球で叩く。
     その仕草は、共に戦った仲間達も和ませるものだった。
    「……取り敢えず、ソロソロ帰りましょーか」
    「そうですね。ソロモンにせよ吸血鬼にせよ、もうこの辺りからは撤退したとのことですし」
    「うっし。帰ろうぜっ」
     蓮司の言葉に焦が頷き、彰二もタクシーの残骸を置いて立ち上がる。
     こうして、木更津の街に放たれた蒼い災厄の一角は灼滅者達の手で食い止められ、静かな夜が取り戻されたのだった。

    作者:泰月 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年11月22日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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