「うわ、ちょっとさむ……」
薄手のパジャマに軽い上着を引っ掛けただけで家を出た少女は、その選択を少し後悔することになった。とはいえ、一旦部屋に戻ってきっちり着替えて来るのも、面倒と言えば面倒ではある。
目的の自動販売機は、近くの踏切を渡ってすぐの所にあるのだ。さっと行ってさっと帰ってくれば、それでいい。
人気の少ない道路を、突っ掛けの足音が通過する。先を急ぐ少女の目の前で、しかし無常にも、踏切は警報を流し始めた。
カン、カン、カン、カン……。
少女は大人しく、遮断機の手前で立ち止まった。数十秒後、二両編成の電車がゆっくりと踏切を横断していく。
(「息、白くなるかな」)
遮断機が上がるのを待ちながら、少女は掌に熱い息を放つ。無色透明の呼気が立ち上り、その向こうに、少女は何か奇怪な物体を見た気がした。
「――?」
その場所が視界に入っていなかったのは、電車が通り過ぎる間、五秒にも満たない時間のことだ。見間違いを疑い、目をこすって顔を上げたその時に、奇怪な物体は少女の目の前にあった。
「ひ」
短く吸った息が喉笛をかする。無意識に見上げた視線が、その怪物――デモノイドの顔とかち合ってしまった。
「あ……あ……!」
横隔膜が震えて、うまく声を出せない。おびえて震える少女を前に、デモノイドはサディスティックな笑みを浮かべた。
――グズン。
振り下ろされたデモノイドの拳が、アスファルトに達する。その打撃で圧縮された肉塊を、デモノイドは誇るように夜空へと突き出した。
「デモノイドに絡む事件ですわ」
と、説明を始めた鷹取・仁鴉(中学生エクスブレイン・dn0144)。いつになく真剣な面持ちで、仁鴉は集まってくれた灼滅者たちを見回す。
「……発端となったのは、アモンの遺産を手に入れたハルファスの勢力ですわ。彼らは千葉県木更津市にデモノイド工場を作っていたらしいのですが、それらの工場は、朱雀門高校のヴァンパイアたちによって破壊されました。その結果として、多くのデモノイドが木更津に解き放たれることとなってしまいましたの。
ご存知の通り、デモノイドに理性はありません。制御を失ったデモノイドたちは、やがてハルファス勢力の命令を忘れ、見境なく暴れ始めてしまうことでしょう。その被害の拡大を防ぐために、このデモノイドの撃退をお願いいたしますわ」
説明は続く。
「デモノイドにもバベルの鎖はあるため、無闇に木更津を動き回るのでは、発見すら難しいはずですわ。ただ、私が情報をアウトプットした個体に対しては、一箇所だけその予知を無効化できる場所がありますの。
それが、踏切を挟んで対面となるこの場所ですわ。午後九時三十六分、『遮断機の警報』に釣られたデモノイドが、電車の通過と同時に『北側』へ到着しますから、皆様は全員で『南側』に集合し、これと接触してくださいませ。くれぐれも、それ以外の方法・場所で接触を試みないようにお願いしますね」
言い終えた仁鴉は、黒板に説明内容を板書していく。横引きの二本線を挟んで、上に描かれた赤い丸に『デモノイド』、下の青い丸に『武蔵坂学園』と付け加えた。それらの中間地点には、通行止めを意味する道路標識が置かれる。
「幸運なことに、この路線はあまり頻繁には電車が通りませんの。この時間だと、通過してから一時間ほどは次の電車が来ませんから、一般人の出入りのコントロールは容易かと思いますわ。
戦闘となると、デモノイドは『デモノイドヒューマン』と『ロケットハンマー』に相当する効果のサイキックを使いますわ。学園の灼滅者で例えるならば、その8人分に匹敵する戦闘力を持っているようですから、……厳しい戦いとなるのを、覚悟してくださいませ、ね」
「これを逃せば、木更津はデモノイドの狩場となりますわ。力のない人々が虐げられることのないよう、皆様のお力をお貸しくださいませ。
守護の成功と皆様の無事を、お祈りしておりますわ」
参加者 | |
---|---|
周防・雛(少女グランギニョル・d00356) |
龍統・光明(千変万化の九頭龍刃・d07159) |
桐屋・綾鷹(和奏月鬼・d10144) |
埜渡・慶一(冬青・d12405) |
八神・菜月(徒花・d16592) |
六文字・カイ(死を招く六面の刃・d18504) |
時雨・翔(ろくでなし・d20588) |
夜川・宗悟(人間聞録・d21535) |
●闇のこちら側で
「運が良かっただけだよ」
夜川・宗悟(人間聞録・d21535)は、底意地の悪い笑みを浮かべてひとりごちた。携帯音楽プレイヤーのイヤホンを外し、通り過ぎた少女の後につく。
「お前が今夜、ここで死ななくてすんだのは」
少女の向かう踏み切りには、既にいくつかの光源が設置されていた。その物陰に隠れている者もいれば、カモフラージュに作業員や通行人を装う者もいる。
踏切の右手からは、柔術着を懐手に着崩した六文字・カイ(死を招く六面の刃・d18504)が現れ、足音を立てずに合流した。その反対側からは時雨・翔(ろくでなし・d20588)が接近し、少女のすぐ真横に立つ。
「――?」
少女がちらりと向けた視線に、翔はウィンクと手振りを返す。カイはそんな翔を、眉をひそめて睨み付けた。
(「先輩、こんな時に軟派な真似は……」)
(「おっと、いけね。集中しないとねー、しゅーちゅー」)
短いアイコンタクトを交わし、お互い自然体に戻る。すると、古びて音の歪んだ警報機が鳴り始めた。
赤い閃光灯の火がライトの光と交差し、この場に集った八名の灼滅者たちを照らし出す。線路の果てから電車の音が聞こえてくるまでの一分強を、彼らは粛々と待った。
警報機の一打ちごとに、己の意識が鋭く尖っていくのを、周防・雛(少女グランギニョル・d00356)は感じる。ノイズに似た電車の走行音が現れ、通過し、そして――去った。
雛の主観時間が、ぬるりと鈍化した。遮断機の棹を瞬時に切断し、電車の最後尾をかする様に走るのは、彼女の操る鋼糸。それらが張りつつある結界の奥で、青く膨れたダークネスが、どこか嬉しそうに牙を剥いた。
「ボンソワール……見つけたわ、仔猫ちゃん」
呟く雛の後方から、宗悟とカイとが駆け上がっていく。宗悟は肉眼で、カイは業の匂いを捕捉し、同じく突き進んでくるデモノイドに対向した。
「――やあ、悲劇の結晶君。あだな自由を手に入れたご感想はどうだい?」
「ゴオオオオオォォォォ!」
雛の結界を踏み荒らすデモノイドと、皮肉げに目を細めた宗悟が、それぞれの凶器で切り結ぶ。その火花が消えるよりも早く、カイがさらに光盾で殴りつけた。
「あの子は!?」
振り返ると、カイとデモノイドを繋ぐ直線上では、加えて翔もあの少女の前で構えていた。少女は唐突に起こった出来事の多さに反応しきれず、その場で目を見開いている。
「大丈夫。君をびっくりさせるようなわるーいものは、すぐ退場してもらうからね?」
「え、っと……?」
思わず一歩を下がった少女の手を、桐屋・綾鷹(和奏月鬼・d10144)が取った。
「横から失礼します。変な動物が線路で暴れているので、人が居たら安全な場所まで案内するよう上司に言われまして」
「動物? どこかから逃げてきたんですか?」
整備士の上着を重ね着した綾鷹は、少女の目を正面から見て話しかける。確かめようと線路奥を覗き込む少女を、綾鷹はさりげなく制した。
「あまり時間がありません。どうぞ、私についてきてくださいな?」
「あ、はい。わかり、ました……?」
綾鷹はそのまま腕を引き、少女に会わせた早足で戦域を脱出する。デモノイドがそちらへ意識を向けようとした矢先に、八神・菜月(徒花・d16592)が割り込み、立ちはだかった。
「あーはいはい、キミの相手はこっち。よそ見しない」
菜月の周囲には、既にいくつもの魔弾が展開している。最低限の身振りでそれらを射出すると、首元と手首に装着したライトがわずかに揺れた。
「めんどい事してくれるよね、朱雀門……」
「オオオオオオオ!」
着弾の爆炎を、デモノイドほとんど意に介さず振り払う。嘲るような吠声が、居並ぶ者の鼓膜をビリビリと震わせた。
「おー怖っ。こんなもん、あの子には聞かせられないねえ、まったく」
「後方避難……無事に完了したようですね」
その直前に『サウンドシャッター』を展開していた翔が、交戦中ながら軽口を叩く。龍統・光明(千変万化の九頭龍刃・d07159)は、少女が振り返らないことを確認すると、懐からスレイヤーカードを取り出した。
「『我九頭龍の顕現者也……来い絶、纏え応黄龍……』!」
カードの開封と同時に、光明の『殺界形成』が一気に拡大する。その中心で、彼の聖剣が冴え冴えとした輝きを放ち始めた。
「デモノイド……。貴方を、此処で!」
白光が閃き、デモノイドを夜気ごと斜に斬る。気がつけば踏切の内部が、灼滅者とデモノイドとの戦いの場となっていた。
あちらとこちら、その境界線上でのせめぎあいに、埜渡・慶一(冬青・d12405)もまた武装し、足を踏み入れていく。
「境界向こうの怪物、か」
足取りの重さを、慶一は自覚した。また今度もか、という思いもある。殺して救うことの後味の悪さは、身にしみて解っていた。
おそらく、仲間の多くが共有する思いだ。
「……とにかく、無関係の一般人に被害を出すわけにはいかないな」
慶一は粘る足裏を引き剥がす。彼から染み出した霧状の殺気が、戦場を包み込んだ。
●弄ぶ悪意と彼の怪物
「――あの、ちょっといいですか?」
と、待避途中の綾鷹を、少女が呼び止めた。はい、と応えてそちらを向くと、少女は家屋の一つを指差す。
「私の家、すぐそこなんですけど。家族も呼んできて避難……とか、したほうが」
「……それは」
綾鷹はしばし考えた。彼女を含めた一般人の安全は、灼滅者たちの戦いにかかっている。今ここで綾鷹にできるのは、それとは別のことだ。
「いえ、お家の中までは、動物は入ってきませんよ。もう大丈夫です。ご不便をおかけしたお詫びに、これを」
用意していたジュースを手渡すと、少女は納得したのか、小さく会釈して自宅へと入る。扉が閉まり、施錠されたのを確認すると、綾鷹は今来た道を全速力で駆け戻っていった。
「シッ! シッ! シイィィアアアァ!」
「よっ! はっ! ああああ危ねぇっ!」
サディスティックに笑うデモノイドが、何度も何度も力任せの斬撃を落としていた。その下であえぐ翔は、クルセイドソードで何とか直撃を妨げてはいるが、確実なダメージを絶えず負い続けている。
踏切内の攻防で、灼滅者たちは思わぬ苦戦を強いられていた。メディックの綾鷹がこの場にいない今は、他者回復の手数が不足しているのだ。翔の霊犬『一心』も絶えず浄霊眼を使い続けてはいるが、全快に至ることはない。
「ちっくしょ、これじゃあせっかくの機会なのに、試し斬りできないじゃないか!」
なんとかデモノイドの猛威から脱した翔は、シャウトで奮起を試みた。……それでも、傷は残る。
「時雨先輩、焦らないでください! その前に俺たちが――」
光明は翔の身を案じ、声を掛けた。そして、愉快そうにたたずむデモノイドを見やる。沸いた感情に心を乱される前に、光明は深呼吸を試みた。
「……苦しいのは、お前も同じだよな?」
「グッ、グフッ、グフフフフ」
デモノイドは笑う。光明は歯を食いしばり、地面を蹴り飛ばした。
「蹴り穿つ、九頭龍……斬蹴迅雷」
「ギュィイッ!」
光明の鋭い蹴りが、デモノイドの顎を突き上げる。身を翻しての追い打ちは防がれたが、デモノイドが姿勢を戻す瞬間を、雛が逃すことはない。
「ジュスイ・ラ!」
デモノイドの半身が、瞬きする間もなく冷凍された。雛は大様に手を広げ、蠢くデモノイドと視線を合わせる。
「檻に入って下さる気が無いのでしたら……ヒナ達と一緒ニ、アソビマショ!」
雛の微笑みが、仮面に隠された。さらに人形型の影業が踊り出て、彼女の周囲が劇場めいた様相を示す――。
ざぶ、と、宗悟のナイフがデモノイドの肉に沈んだ。
「見ようが見まいが、お代は命で支払えってさ?」
浅い手応えを、ナイフを捻ることで補う。暴れるデモノイドの腕をくぐり、宗悟は数度のステップで間合いを離した。
「グゥウウウウ!」
「しぶといんだね。こんな金になりそうにない仕事は、早く終わらせたいのに」
宗悟の言うように、デモノイドは息を荒げてこそいるものの、灼滅にまで追い込むにはまだまだ遠いと見える。傷を負った翔と同じく、一行の守りを担うカイの背に、冷たい汗が落ちた。
「気を抜けない戦いに、なりそうだぜ……」
カイは刀との同一化を解除し、かわりに己の闘気を練り上げる。それを癒しの波動に変換しながら、カイはデモノイドをのぞき込んだ。
道を違えさせられた、自分と同じ闇を抱える、哀れな被害者……。
(「いや、倒すまでは、敵だ」)
集気法を翔に分け与えたカイは、その気配をこれまでになく重くする。進行形で迷いを排除していくカイの横を、慶一の姿がするりと抜けていった。
慶一が逆手に持つサイキックソードが、駆動の要所で溜まったような光跡を描く。それらはデモノイドの正面から側面へと連鎖していき、死角となる後部下方でついに剣閃の形を成した。
「……フッ!」
止めていた息を鋭く吐き出し、慶一は己の仕事を検分する。殺すのではなく敵の足止めに特化した一撃は、果たしてその効力を十二分に発揮していた。
「ああ。木偶叩きならすこしはマシだね」
「イィイイィイイ――」
菜月の物憂げな声が、デモノイドの揺れる悲鳴と重なる。素人目には無造作と見えるだろう菜月の打撃が、しかし二重の圧力を持ってデモノイドにクリーンヒットしたのだ。
黙々と敵をうかがっていた菜月の観察と、デモノイドの動きの鈍化を引き出した慶一の布石。双方がここで作用しあい、デモノイドの体躯に極大の内部爆発を引き起こす!
「ィイア――バアアアアァァァァァッ!」
飛び散ったデモノイドの肉片を、菜月は嫌悪の表情で打ち払う。口から煙を吐き出す青の怪物が、そして翔の元へと、誰も間に合わない速さの突進を終えた。
「!」
全員が一斉に振り返り、その光景を見る。
衝撃に浮いた翔に、二発目の打撃が叩き込まれる瞬間を。
終わってみれば、唐突の出来事であった。
●傷跡
「一心……ッ」
主の命令に、忠犬は忠実に従う。翔の瞳から視線を外すと、一心は別の灼滅者の所へと駆けていった。
以心伝心を確かめた翔の意識が途切れる。そして一心は、彼の望みを叶える場所にたどり着いた。
ようやくと言うべきか。そこに、綾鷹がいる。一心は綾鷹を守るために踵を返し、低いうなり声を上げた。
「サクラ、優先順位を間違えないで下さい……」
「ナノナノッ!」
綾鷹の後ろから、ナノナノ・サクラが飛び出す。サクラは宗悟に、綾鷹はカイに、それぞれ回復サイキックを急ぎ飛ばした。
「ウゥウウウウ……」
その間も警戒を絶やさない一心にならい、綾鷹は己を奮い立たせた。
「巻き返しましょう! なんとしても、ここで止めるのです!」
「……ズィット。眷属達ヨ、正シキ狙イヲ過ツナカレ!」
雛は、刃物を持つ影業人形を己の手首に固定する。デモノイドの歪んだ笑みを見ないように、問答無用で敵を切り開きにいった。
刃先の僅かな抵抗を、一息に押し潰す。
「モン・プーヴァ……」
返り血の雨の中、雛は祈り呟いた。これから彼が受ける痛みが、最小限であることを。
「デモノイドオオォォッ!」
駆け抜けるカイの腕は、再度刀を飲み込んだ異形の武装を示している。動きを鈍らせたデモノイドの腹に、それは易々と沈み込んでいった。
「ヴォオ、オ、アアア」
うめき声を上げるデモノイドに、更に深く凶器を突き刺すカイ。
「この悲しみを、拡げさせるわけにはゆかぬ!」
「そのついでに、僕が君の魂を開放する。ご批判は甘んじるよ?」
宗悟のシニカルな笑みが、肩上からデモノイドの頚椎を衝いた。塗り潰すかのように、その箇所をナイフでえぐり抜く。
「酷く最低だというのは、自覚しているから言う必要はないけどね」
宗悟はデモノイドの背を蹴って離れ、とんぼを切って着地する。そちらに向き直るデモノイドに、菜月はまたしても好機を見出した。
「わたしがさっさと帰るには、やるしかないんだよね」
バランスを手放しよろめいた敵の側面に、菜月は己を滑り込ませる。非物質化した刀身を、計算づくの軌道で走らせた。
「そうすれば、ここで断てる」
それこそが、最善の最短距離。力を失い落ちていくデモノイドの頭を、慶一の縛霊手が捕らえる。
「ハァアッ、ハ、……ギギッ」
「――重たいな、デモノイドってのは」
言い捨てた慶一は、一旦デモノイドから手を離すと、思い切り拳を握りこんだ。
「知ってたけどさ」
鈍い音を立てて、慶一は縛霊撃で敵の横っ面を打ち据えた。同時に展開する霊力の網が、デモノイドの四肢を呑み、封じる。
「スマン……。これが貴方の可能性の全てだったとは、思わないでくれ」
光明の周囲で、黒白の龍が渦を巻いた。目に見える形となった彼のバトルオーラが、その顎を緩慢に開いていく。
「貴方を灼滅した業、総餓の名に於いて俺が担おう……。喰らえ、創破」
光明が突き出した掌を追うように、それらはデモノイドに殺到した。螺旋の軌道がデモノイドの生命を通過し、終止符を打つ。
哀れな怪物は、もう動かない。
「なあ……なあって……」
戦いを終えた灼滅者たちは、体勢を立て直すための休息を行っていた。その途中で目を開いた翔が、うわごとの様に綾鷹に問う。
「あの女の子、笑っていられてるかな……」
「彼女がそうしていられる理由の一つは、時雨さん、確実にあなたですよ」
「…………」
綾鷹の答えに満足して、翔は上体を起こす。がくがくと震えながらも体を支える腕を、慶一が颯爽と引き上げた。
「俺たちはここで撤収だな。これからどうなってしまうのかは、心配だが……」
慶一は木更津の夜を見る。彼方、陸に近い空が、炎の赤に炙られていた。
「事件が起こったのは、此処だけ・今だけというわけじゃない。……学園といえど、その全てにはとても手を届けられないか」
宗悟の意見は、おそらく正しい。それでも光明は、殺界形成に留まらない殺意を漲らせていた。
「ハルファス……俺は、貴様を許さない……」
この悲劇に責任を負うべきダークネスの名を、光明は魂に刻み付ける。カイもまた、昂ぶる感情を無為に爆発させないよう、奥歯を軋むほど噛み締めていた。
「そして、朱雀門……! てめぇらを必ずッ、止めてみせる──!」
朱雀門の名に、菜月が反応する。目を伏せて、忌々しげに呟いたのだ。
「偽善だらけの講釈たれてたくせに、結局利用するなんて。言葉に尽くせぬ下種だよ」
「その想い、業腹ですがもうしばらく抱えていきましょう。今夜だけでは晴らせられませんわ」
雛は溜息を隠して立ち上がると、デモノイドの死体に目を向ける。
「……オー・ルヴォワール、哀れな仔」
その輪郭は崩れてぐずぐずの汚汁と化し、しかし跡を残さず蒸発していった。
作者:君島世界 |
重傷:時雨・翔(貫く意志・d20588) 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年11月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 11/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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