伝統の甘味! わらび餅怪人ボムワラビー!!

    作者:飛翔優

    ●わらび餅怪人ボムワラビーの野望!
     元慶の時、太夫の位を授けられたとも言われている甘味、わらび餅。
     数多くのわらび餅を生産している奈良県に、一人のご当地怪人が出現した!
     名を、わらび餅怪人ボムワラビー! わらび餅を強制的に喰わせるため、彼は今日も観光地を巡っていく。
    「わらびー、わらび餅を食べるんだビー。きっとほっぺがとろけるビー!」
     観光客に、そして日本中にわらび餅の魅力を伝え、ゆくゆくは世界征服を果たすのだ!

    「やはり、やり方がまずい……といったところか」
     教室でメモを眺めていた白鐘・衛(白銀の翼・d02693)が、静かなため息を吐いて行く。わずかに肩をすくめた後、軽快な動作で立ち上がる。
    「わらび餅が悪評として広がってしまうかもしれないし、止めなきゃな」
     早足で飛び出し、向かうはエクスブレインの居る教室。
     この噂を伝え、真実だと確定させ、解決法を導くのだ!

    ●放課後の教室にて
    「葉月、後をよろしく頼むな」
    「はい、衛さんありがとうございました! それでは早速、説明を始めさせていただきますね」
     衛に軽く頭を下げた後、倉科・葉月(高校生エクスブレイン・dn0020)は灼滅者たちへと向き直る。
    「奈良県の観光地にご当地怪人……わらび餅怪人ボムワラビーが出現しました」
     本来、ダークネスにはバベルの鎖による予知能力があるため、接触が困難。しかし、エクスブレインの予知に従えば、その力を掻い潜り迫ることができるのだ。
    「とはいえ、ダークネスは強敵。色々とあるご当地怪人であれど、です。なので油断せず、全力での戦いをお願いします」
     葉月は地図を広げ、奈良県の寺院周辺を指し示した。
    「観光客が行き交うお昼すぎ、ボムワラビーはこの辺りに出現します。観光客に、わらび餅を喰わせるため」
     食べさせることで美味しさを広げ、ゆくゆくは世界征服を果たす。それが、ボムワラビーの目的だ。
     もっとも、食べさせる方法は強制的、かつ強引。食べることを望まぬ者も少なくない。
    「わらび餅は確かに甘く美味ですが、強制的に食べさせるようなものでは決してありません。何より、それでは美味しくありませんから」
     故に、まずはボムワラビーの探索となる。
     もっとも、観光客っぽく振る舞っていれば向こうから接触を図ってくると思われるため、特に難しい事を考える必要はないだろう。
     姿は、わらび餅の頭に黒蜜チューブの右手、黄粉の入った器を携えた左手、と言った格好の人型。力量は八人を相手取れる程度で、妨害・強化能力に秀でている。
     技は、黄粉を周囲にばら撒くことにより攻撃力を削ぐダイズパウダー! 多量の黒蜜で一定範囲内の敵を絡めとり動きを封じるクロミツボム! そして、自らの攻撃能力を高めながらわらび餅の頭による頭突きをかますワラビーヘッドバット!
    「以上で説明を終了します」
     葉月は地図など必要な物を手渡し、締めくくりへと移行した。
    「わらび餅、程よい甘さと食感が心地よい甘味。どうか、誰も望まぬ悪評が広がらぬ内に、灼滅を。何よりも無事に帰ってきて下さいね? 約束ですよ?」


    参加者
    艶川・寵子(慾・d00025)
    一條・華丸(琴富伎屋・d02101)
    御神本・琴音(天国への階段・d02192)
    白鐘・衛(白銀の翼・d02693)
    新堂・辰人(夜闇の魔法戦士・d07100)
    輪廻・彩喜(小学生殺人鬼・d14059)
    白牛・黒子(とある白黒の地方餅菓・d19838)
    京真城・彩音(お嬢様ピアニスト・d21777)

    ■リプレイ

    ●わらび餅を探して
     わらび餅。
     要素に分解すれば、澱粉を練って餅にして、大豆の粉をかけただけ。
     ただそれだけのはずなのに、わらび餅と言われると途端に風情が出るのは何故だろう?
     昼下がり。三人の仲間と共に奈良県、寺院周辺の観光地を歩く中、新堂・辰人(夜闇の魔法戦士・d07100)は一人小首を傾げて行く。わらび餅は割と何処でも見るポピュラーな物だけど、ボムワラビーも各土地を回っているのか……? と、どことなく同情的な言葉も発していた。
     一方、御神本・琴音(天国への階段・d02192)はどこか弾んだ調子。
    「奈良って何がおいしいのかな? 京都の八ッ橋みたいにパッと浮かばないよね」
     京都と並び、寺院などの名所が多い奈良。
     名物としては鹿などが挙がると思われるが、こと食べ物に関してはあまり思い浮かばないのかもしれない。
     事実、同道する三人の中に答えを持つものはいない。
     だからだろう。再びガイドブックとにらめっこ。
    「うーん」
     店の一軒一軒を指で辿り、奈良において特別な意味を持ちそうな食べ物屋を探していく。
     白牛・黒子(とある白黒の地方餅菓・d19838)が横から覗く中、艶川・寵子(慾・d00025)は少し離れた場所で観光客に声をかけていた。
    「ごめんなさい、ここは私達がちょっと使わせてもらうから、みんなは暫くの間別の場所を楽しんでね?」
     力を用いて、一般人を別の観光地へと散らしていく。
     わらび餅を広めるためにやって来るというわらび餅怪人ボムワラビーを、万全の体制で迎えるために……。

     一方、彼女たちとは別れてボムワラビーを探している四人。
    「奈良県は、わらび餅が有名とききました。わらび餅は、どこでしょう?」
     きょろきょろ周囲を見回して、土産物屋を見つけるたびに中を覗きこんでいるのは輪廻・彩喜(小学生殺人鬼・d14059)。
     わらび餅を食べに来たと豪語してきた彼の優先順位は、やはりボムワラビーよりも上なのだろうか?
    「わらび~もち、わらびーもち……」
     素か、演技か。
     いずれにせよ、無表情ながらも弾んだ調子で周囲をちょろちょろ駆け回り、一際目立つ存在として周囲の視線を引き付ける。
     迷子にならないよう目で追う白鐘・衛(白銀の翼・d02693)は、土産物屋の一軒一軒を頭の中に並べたのか感心した調子で呟いた。
    「結構わらび餅普通に美味しそうな所あるみたいだなぁ……」
    「個人的には奈良っつーと鹿と古墳と万葉のイメージだな。残念ながらわらび餅イメージはねぇ。京都行ったら色んな料理屋で自家製わらび餅作ってて驚くが、奈良もそうだったりすんのかな?」
     一條・華丸(琴富伎屋・d02101)も目を細め、はしゃぐ彩喜を眺めていく。
     きちんと三人からは離れないように動きまわっていた彩喜は、突然視界を塞がれ立ち止まった。
    「あれ?」
    「走り回ってると危ないビー」
     どこか歪な両手に掴まれ、後方へと下がらされた彩喜。
     感情なく開かれた瞳に映り込むは、黒蜜チューブの右手に黄粉の入った器を携えている左手。そして、ボムワラビーの明かしたるわらび餅の頭!
     素早く仲間たちが駆け寄ってくる中、彩喜は弾んだ調子で声を上げる。
    「えと、ありがとうございます。わらび餅も……いいですか?」
    「もちろんビー!」
     快く受け入れたボムワラビーが、荷物からわらび餅を取り出していく。
     彩喜は丁寧に受け取り、パクパク食し、おかわりをいっぱい要求した。
    「ほほう、良い子供ビー。ほれ、たーんとお食べビー」
    「わーい」
     断る理由など無いのだろう。ボムワラビーは新たなわらび餅を取り出して、彩喜に与えていく。
     さなかに駆け寄ってきた京真城・彩音(お嬢様ピアニスト・d21777)もまたわらび餅に口をつけ、小さく頷いた上で提案する。
    「貴方のわらび餅は本当に美味しいですわ。でもやり方が間違っています。わらび餅を広めたいのならネット通販すべきです。京真城グループのモールに出店するなら全力でサポート致しますわ」
    「ビー?」
     小首を傾げるボムワラビーに、彩音は更に言い募る。
     全国に広めるため、様々な場所に出店する。これほどの美味しさを誇るのならばみるみるうちに人が集まり、今度は自分の店も立てていこう。
     そうして増やしていった果て、億万長者になれば世界征服も容易くなる。
    「大丈夫、全てお任せなさい。決して悪いようにはしませんから。わたくしは京真城・彩音ですよ?」
    「ビー?」
     しかし、どうも商売に疎いのか、ボムワラビーからの反応は鈍い。
     問題はない。元より真面目に持ちかけているわけではないのだから。
    「貴方の取り分は利益の五パーセントです……と、色々考えてみましたがどうも無理みたいですね?」
    「ビー……」
     何かがダメになったことは伝わったのか、ボムワラビーがひどく肩を落としていく。
     一方、彩音はボムワラビーと距離を取り、別の場所で捜索していた黒子たちと合流した。
     合流の果ての不穏な空気に気付いたのだろう。ボムワラビーもまた距離を取り、静かな声音を発していく。
    「もしや、お前たちはビー」
     返答は、彩音の変身から。
     箒で一気に距離を取ることにより。
    「ビー……灼滅者ビーね。いいビー、お相手するビー! お前たちにも、わらび餅の美味しさをもっと、もっと知ってもらうビー!!」
     宣戦布告は交わされた。
     後は、黒蜜の香りが仄かに漂う寺院前の広場にて決着をつけるだけ。
     見守る者など一人もいない。平和を守るための戦いが、風が紅葉を運び去ると共に開幕した……。

    ●わらび餅怪人ボムワラビー!
     オーラを巡らせ、右の腕を肥大化させ、寵子は静かに語っていく。
    「わらび餅、とっても美味しいけれど、それだけじゃ満足できないオンナなの」
     わらび餅は美味しい、大好物!
     けれど一点至上主義じゃない。わらび餅も外郎も赤福もべったら餅も、みんなみんな愛している。
    「私、眼鏡ッコ委員長もピンクツインテ娘もほわわん巨乳娘もケモ耳娘もクールおっぱいちっぱいもみんなみんな大好物なのよ」
     みんな美味しくいただくため、甘い未来の為に、地を駆けボムワラビーに殴りかかった!
    「ビー! その思い、伝わるビー……けどビー!!」
     肩で受け、膝を曲げるも、ボムワラビーは屈しない。
     押し返しながら、周囲に視線を走らせていく。
     攻撃対象を選択しているのだろう光景を眺めながら、彩喜は最後のわらび餅を口の中へと放り込んだ。
    「ぱくぱく……それじゃ、行きます」
     抑揚のない調子でどす黒いオーラを左手のナイフへと集中させ、黒い刃を生み出すと共に精神を研ぎ澄まさせていく。
     先ほどまでの様子からは考えられないほど冷たい殺気を浴びせかけながら、ただの一跳躍だけでボムワラビーの懐へと入り込んだ。
     下から上へと切り上げて、守りをわずかに削いでいく。
     ボムワラビーは揺るがない。衛へと素早く向き直り、ヘッドバットをかましていく。
    「っと!」
     一枚の護符を展開し、盾代わりと成して受け止める。
     貫くような衝撃が足を落ち葉で満ちる地面に埋もれるも、問題無いと気合一つで押し返した。
    「備えあれば……ってね?」
     万全の状態で戦うため、まずは自身に浄化の加護を宿した。
     一方、跳ね除けられ後退するボムワラビーには黒子がビームを浴びせていく。
    「こちらも餅のヒーローですし、元怪人ですの! 過去の過ちは繰り返させないですの!」
    「そこです!」
     ビームをかわそうと大きく動いた隙を見逃さず、彩音は箒に乗ったまま近づいていく。
     さなかに舞い踊るような機動を描き、鋭い一撃を打ち込んだ。
     ひと通りの攻撃を受け、ボムワラビーはなお健在。
     まだまだこの程度では揺るがないと、黄粉の乗った皿を全面へと突き出した。

     前衛陣へと振りまかれる、霧にも似たダイスパウダー。
     吸い込んでしまったのか咳き込む様子を見せながらも、華丸は盾を掲げていく。
    「攻撃は頼んだ」
     浄化の加護を受け取りながら、鹿と紅葉と蕨柄の着物を纏うビハインドはボムワラビーに得物を打ち込んだ。
     地面へと押さえつけられ動けなくなった隙を見逃さず、辰人が虚空に刃を振り下ろす。
    「ビー!?」
     右肩を裂かれて後退するボムワラビー。
     逃さぬと、黒子が一歩前へと踏み込んだ。
    「ビー、クロミツボムを喰らうビー!」
     迎え撃たんと、ボムワラビーは仰け反ったままクロミツボムを空へと放つ!
    「わたくしにはたくさんの餅ヒーローの友達もいますの! 彼女たちの分まで頑張りますの!」
     クロミツを浴びながら、纏わりつく感触に邪魔されながらも、黒子の勢いは削がれない。
     友達には、わらび餅のヒーローがいる。
     自身もべこ餅のヒーロー、元は怪人べこモッチア……。
     同じ過ちは繰り返させない。強い意志で紡がれし斬撃は、誤ることなくボムワラビーを斜めに切り裂いた。
     直後に訪れた優しい風が、灼滅者たちの動きを阻害するクロミツを拭い去っていく。
    「大丈夫、支えるから。だから、みんな頑張って!」
    「……」
     呼応するかのごとく、辰人がボムワラビーの背後へと回り込んだ。
    「お前を、切り裂いてやる」
     わらび餅の名誉を守るためにドス黒い刃で不規則な軌跡を描き出し、ボムワラビーに宿した呪縛を増幅させた。
    「ビー……この程度でビー……」
     様々な力に阻害されたか、ボムワラビーに勢いはない。
     辰人は静かな眼差しを向けながら、己の位置へと戻っていく。
     討伐への勢いを増すために、刃に更なる力を込め始め……。

    ●甘くて美味しいわらび餅
     呪縛を引きちぎり放たれた、わらび餅の頭によるヘッドバット。
     再び護符で受け止めて、されど先ほどまでの勢いはないと衛は気合一つで押し返す。
    「さーて、まだまだこれからだぜ!」
     されど、積み重なっていたダメージを合わせれば危険域。
     安全策として気合を入れて、己の身を癒していく。
    「――♪」
     彩音もまた歌声を張り上げて、口元に笑みを浮かべる衛を治療する。
     全員が無事な状態を保つため、琴音と治療を分担する。
    「ビー……けど、ダイズパウダーなら、ビー……!」
     効果が薄いと悟ったか、ボムワラビーが再びダイズパウダーを広めてきた。
     されど、やはり勢いはない。受けたものこそいるものの、全体の被害そのものは減少している。
     更に……。
    「ビー……!」
    「よしっ、総攻撃だ」
     辰人が影でボムワラビーの手足を捉え、自由な動きを阻害した。
    「みんな、一気に決めて!」
     呼応した琴音が優しい風を起こし、皆が全力を出せる環境を整える。
     最初に動いたのは、彩喜。
    「……」
     キラリと瞳を輝かせ、ボムワラビーに飛びついた。
     かと思えばわらび餅の頭にかぶりつき……。
    「うぇ……」
     流石に食べるものではなかったのか、すぐさま口を話して飛び退いた。
     入れ替わるように、黒子が懐へと入り込む。
    「決めますの!」
    「あなた……ワラビもいいけどおっぱいも嫌いじゃないでしょう?」
     横に煌めく斬撃がボムワラビーの守りを暴く中、寵子が意味深な言葉と共に轟音響く雷を浴びせかけていく。
     されど動けぬボムワラビーに、飛び込んでいくは傷を癒せる分は全部癒やした衛!
    「行くぜ!」
     体をギリギリまで寄せた上で、顎に、胸に腹に拳を打ち込んだ。
     最後に蹴りで引き剥がし、ボムワラビーの様子を観察する。
    「ビー……わらび餅、わらび餅は美味しいビー!!!」
     ふらつき己を支えられなくなったボムワラビー。倒れ込むと共に爆散し、クロミツの香りだけを残して消滅した。
     灼滅者たちは静かな息を吐き、勝利の二文字を確かめ合う。各々の状態も確認し、治療の時間へと移行した。

     治療し、周囲の整備も終えた後、灼滅者たちは一路土産物屋へと繰り出した。
     目的はもちろん、わらび餅。
     わいわいがやがや楽しげな会話が交わされていく中、華丸もまた、わらび餅が収められている落ち着いた色合いの箱を手に取っていく。
    「きな粉に黒密、抹茶に白密……色んな味があるよな。春になったら桜わらび餅とかいいかも。やっぱ和菓子は日本の心に寄り添う印象だな」
     周囲に広がるわらび餅の数々に目を細めながら、ふとした調子で静かな息を吐く。
     小さく頷いた後、誰に語るでもなく新たな一首を口ずさんだ。
     ――万葉の光にとける甘味には遠い記憶と歴史が宿る。
     贈る予定の友人ならば、果たしてどんな解釈をするのだろう?
     わらび餅でも食べながら、それについて語り合おう。
     それこそきっとわらび餅を作った人々が、ボムワラビーすらも夢見ていた光景なのだから……。

    作者:飛翔優 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年11月16日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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