またおもちか

    作者:聖山葵

    「でね、これがお土産。実家に帰っていただけだから、いつものだけど」
     笑顔で少女が取り出したのは、一つの紙袋だった。わざわざお土産を持ってきたのは、相手の喜ぶ顔が見たいからこそ。
    「えっ」
     だが、気持ちがすれ違っていることに気づいていなかったのが一番の不幸だったのだろう。
    「またおもちかぁ」
    「え」
     小さな呟きであったが、友人の一言に少女の笑顔が固まった。まぁ、「いつも」のときて「また」と呟かれる辺り、よほど繰り返されたものだったと思われる。まして、その友人は――。
    「あたし、ダイエット中なんだけど」
     むしろ甘い物は禁物であったらしく。
    「う……うるさーいっ!」
     気まずげな空気に一瞬呻いた少女はじわりと目尻に涙を浮かべると、感情を爆発させて叫んだ。
    「何でそんなこと言うのよ! だいたいどこをダイエットする気? 胸? 胸なの?!」
     キッと睨んだ友人の胸はほのかに存在を主張する少女のものと比べると大きすぎ。
    「もういいっ、そう言うつもりなら無理にでも……」
    「ちょ、な、何」
     柔らかそうな二つの怨敵を睨んだまま少女の姿が変貌して行く。そう、何というか今から入浴でもするかのようなバスタオルを巻いて頭に手ぬぐいを乗っけただけの姿に。
    「無理にでもたべさせてやるもっちぃぃぃ!」
     最終的に目の前の友人に負けず劣らずのスタイルになったのは、そう言う願望があったのか。ともあれご当地怪人と化した少女は持ってきたお土産を片手に友人へ襲いかかったのだった。
     
    「一般人が闇堕ちしてダークネスになる事件が発生しようとしている。今回は温泉餅だな」
     座本・はるひ(高校生エクスブレイン・dn0088)が付け加えた一言で、聡い者と以前似通った相手と対峙した事がある者は、相手がご当地怪人であろう事を悟る。
    「通常ならば闇堕ちした時点で人間の意識はかき消えてしまうのだが、今回のケースでは元の意識を残している」
     いわばダークネスの力を持ちつつもダークネスになりきっていない状況なのだとか。
    「これはチャンスだ。故にもし少女が灼滅者の素質を持つのであれば、闇堕ちから救い出すことを私は望む」
     完全なダークネスになってしまうようであれば、その前に灼滅を。
    「防げる犠牲ならない方が良いのだよ」
     故に、はるひは君達を呼んだのだ。
    「今回闇堕ちしかけている少女の名は、湯乃郷・翠(ゆのさと・みどり)、中学二年生だ」
     友人とのすれ違いに傷ついた翠は、結果としてご当地怪人温泉モッチアと化す。
    「実際の温泉餅は刻んだ羊羹を入れたお餅らしいが、温泉というイメージを強調したのだろうな」
     ご当地怪人に変貌した少女の姿は、今から入浴しますと言わんがばかりな格好。「スタイルも若干というかかなり変化しているが、説得するなら触れないのが賢明だ」
     はるひの言う説得とは、闇堕ち一般人に接触し人間の心に呼びかけることで戦闘力を下げられることについてなのだろうが、闇堕ちに一役買っているのは明らかなのだからわざわざ取り上げるまでもなかったかもしれない。
    「それで、バベルの鎖によって翠に悟られず接触出来るタイミングは、少女がご当地怪人に変貌した直後しかない」
     まさに翠が友人に襲いかかる直前だが、場にディフェンダーの灼滅者がいれば庇うのは不可能でもなく。
    「最初の一撃はサイキック攻撃でもないのだよ」
     庇ったところで口にお餅を詰め込まれるだけで済むだろう。
    「襲撃を防いだなら、後はご当地怪人の気を惹きつつ翠の友人を逃がせばいい」
     戦場になるのは、その友人の家なのだが命には代えられない。
    「翠が友人と会っている部屋は庭に面している。故に誘導すれば実際の戦場を庭にすることも難しくはないが」
     庭には池と庭木があり、被害を無視するなら屋内の方が戦いには適しているが、どちらにしても少女を救うには戦ってKOする必要があり、どのみち戦いは避けられない。
    「戦闘になれば温泉モッチアはご当地ヒーローのサイキックに似た攻撃で応戦してくる」
     闇堕ちしかけとはいえダークネス相当の力があるのだ。侮れるはずもないが、説得が上手くいったなら話は違ってくる。
    「落ち着いたなら、翠も自分の言を後悔するはずだ」
     もともとお土産をいつも買ってくるほど仲の良い友人なのだ。宥めた上で、そこをついて「謝って、仲直りしよう」などと呼びかけたなら、きっと。
    「健闘を祈るよ」
     短く続けるはるひに見送られ、君達は教室を後にした。
     


    参加者
    鬼城・蒼香(青にして蒼雷・d00932)
    仰木・瞭(朔夜の月影・d00999)
    秋風・紅葉(大人への階段昇りかけ・d03937)
    藤原・広樹(過ぎる窮月来たる麗月・d05445)
    ミツキ・ブランシュフォード(サンクチュアリ・d18296)
    オリシア・シエラ(桜花絢爛・d20189)
    ホテルス・アムレティア(騎士たらんとする者・d20988)
    六条・深々見(狂楽遊戯・d21623)

    ■リプレイ

    ●招かれざる来客は
    「友達に良かれと選んだ贈り物が、相手にとって嬉しくないだなんて悲しいですよね」
    「ええ、善意のすれ違いは」
     オレンジ色の景色の中で呟いたオリシア・シエラ(桜花絢爛・d20189)に頷きながら仰木・瞭(朔夜の月影・d00999)は門をくぐった。広い庭と武家屋敷を思わせる古い家屋、それが灼滅者達の目的地だった。
    「そうですね、一瞬の怒りで友達を失くすのも悲しいですし、悲劇を防ぐ為にも頑張りましょう!」
    「はい、必ず救って見せます!」
     そう続けた鬼城・蒼香(青にして蒼雷・d00932)の声に応じて首を縦に振りつつホテルス・アムレティア(騎士たらんとする者・d20988)は一瞬だけ此処ではない何処かを見た眼差しを紅葉と夕日によって鮮やかに彩られた庭先へ向ける。
    (「我輩みたいに失ってどれだけ大切だったか気付くなんて事には、決して――」)
     迫りつつある破局も、同じ庭に面した一室にあるはず。
    「しかし温泉餅のお土産って事は実家は箱根でしょうか?」
    「温泉餅……いらないなら私が欲しいなー」
     高まる緊張をほぐす為か、蒼香が話題を転じれば、黙していたミツキ・ブランシュフォード(サンクチュアリ・d18296)も口を開いて。
    「胸の大きさとか、正直需要と供給の問題じゃないのか、なー……?」
     ちらりと蒼香の胸を見たのは、お餅というかメロンのような大きさの何かがそこにあったからだろう。
    「いっぱいのヒトにモテたいなら大きい方がいいのかも、だけど、自分のスキなヒトが、小さい方がスキだったら、それでいいと思うのに、ね」
     同意を求めるように、ういろと霊犬の名を短く呼んで抱き上げると、ミツキは嘆息した。
    「女の子って、難しい、の」
     だが、それでも少女を救う為に灼滅者達はこの場にいるのだ。
    (「ご当地怪人とは初めて戦うねー。ふふふー、どんな感じなのか楽しみだよー♪ 観察し甲斐があるって感じかなー♪」)
     六条・深々見(狂楽遊戯・d21623)は胸にメモ帳を押し抱き、楽しげな笑みを浮かべ……うん。皆、少女を救う為にこの場にいるのだ、そうに違いない。
    「あたし、ダイエット中なんだけど」
    「う……うるさーいっ!」
    (「あんな些細な事で闇墜ちさせるわけにはいかない。なんとしても彼女達を助けるぞ」)
     やがて、聞こえ始めた少女達の声に藤原・広樹(過ぎる窮月来たる麗月・d05445)はウロボロスブレイドの柄を握りしめつつ走り出す。
    「もういいっ、そう言うつもりなら無理にでも……」
    (「凄い……ばいんばいん揺れてる。あれが温泉餅……っ!?」)
     変貌する少女の姿を認め、戦慄する秋風・紅葉(大人への階段昇りかけ・d03937)の視界で、ご当地怪人へ変わりつつある少女、こと湯乃郷・翠はお土産の包みを開封すると中身を鷲掴みに持ちかえる。
    「無理にでもたべさせてやるもっちぃぃぃ!」
     吼えながらテーブルを踏み台に飛ぶバスタオル姿の少女もとい温泉モッチア。驚き、ポカンと開けた友人の口にねじり込むはずの右手は、次の瞬間。
    「んぐっ」
    「もちぃ?!」
     モッチアからすると見知らぬ男性、ホテルスの口に突っ込まれていた。

    ●説得してみよう
    「えっ」
    「だ、誰もちぃ?!」
     一人の少女とご当地怪人、どちらも状況を理解出来ていなかった。翠の友人からすれば、翠の変貌の時点で理解の範疇を越えていたと思う。
    「そこまでです翠さん、あなたの好きなお餅と友情を汚してはいけません!」
     ただし、驚きのあまり動きの止まった瞬間は灼滅者達にとっての好機であった。驚きのあまり友人から注意が逸れた瞬間を見計らって蒼香が声をかけ。
    「こっちに」
    「えっと、あなたは?」
     状況がまだ呑み込めていない少女の手を引いて紅葉が戸を開け、部屋の外に消える。
    「翠ちゃんも悪気があったわけじゃないの。だから嫌いにならないで欲しいんだ」
    「悪気……そもそも、何がどうなってるんですか、あれ?」
     開きっぱなしの戸の奥から声は漏れるが、この時温泉モッチアは既に友人を気にしている状況にない。
    「これを」
    「も、もちぃ?」
     温泉餅を食し終えたホテルスから一本の花を差し出されていたのだから。
    「この花の花言葉は『真の友情』『決意』『君ありて幸福』と申します」
    「真の友情? 決意?」
     花言葉を説明されてもまだピンと来ないのか、花を見つめたままご当地怪人は首を傾げるがホテルスは構わず続けた。
    「其れはお二人の友情を守る為の我輩の決意の証。傍に居てくれた事がどれだけ幸せだったか、我輩のように失ってから気付く事のないよう必ずや御身を止めて見せましょう」
     花言葉に絡めてホテルス自身も語ったのだ。
    「とりあえず、落ち着いて落ち着いて」
    「そうそう、先程の温泉餅は美味しかった」
    「そ、そんな褒めてもおかわりしか出せないもっちぃよ?」
     宥める深々見を挟み、そのまま温泉餅の賞賛に繋げたのは、如才ないと言うか当初の予定であったからだろうけれども。
    「温泉餅か……美味そうだな。後で頂くとするか」
     外野で広樹が呟き、見つめる先には頬を染めつつ有言実行する温泉モッチアが居て。
    「何、あんたも食べ……なべもっ!」
     広樹の方を振り返りごそごそと豊かな胸元を漁って追加の温泉餅を取り出そうとした時だった、蒼香の撃ち出した光線的なものがご当地怪人の頭を叩いたのは。
    「い、いきなり何をするもちぃっ!」
     何をするかと問われれば、友人の避難が終了したので作戦通り攻撃に移ったのだろう。
    「大事な友達だから、自分が美味しいって思うモノ、お土産にしてたんだよ、ね?」
    「もちぃ? な、何を……」
     だが、なし崩しに始まりかけた温泉餅振る舞いタイムを終了させ、説得を始めるには丁度良かった。
    「これが温泉餅……とても美味しいですね。でも皆で食べればもっと美味しいです」
     オリシアはまだお餅を食べているが、そこは敢えてスルーで。
    「それをあんな言い方されたら、私でも悲しいと思うの。怒っても仕方ないと思う」
    「善意が嘲笑われた様に感じて、辛かったと思います」
    「え」
     ミツキの言葉に瞭が続き、同意や慰めに温泉モッチアの動きが止まる。
    「喜んでもらおうとお土産を渡そうとする気持ちはオレにも解る。だが、今のお前は自分の事しか見えていない」
    「自分の、ことしか?」
     ただ、灼滅者達の言葉は同意と慰めだけでは終わらなかった。
    「あの子、大切なお友達なんでしょー?」
    「も、もち……」
     問いかけにビクッと震えつつも温泉モッチア、いや翠は頷いて。
    「お前は自分がお土産を渡したいから渡すのか? そうじゃないよな。友人の喜ぶ顔が見たいから渡すんだろ?」
    「無理矢理お餅を食べさせても美味しいと思える人はいませんよ」
    「そーそー、温泉餅は美味しいけど、無理やりに食べさせようなんてしたらダメだよー」
     広樹と深々見が交互にかけるところに瞭が加わり、三人がかりでご当地怪人を諭す。
    「美味しい物を美味しく食べて貰うやり方を、貴方は知っていた筈です」
    「自分の気持ちを押し付けるな。相手が何を受け取ったら喜ぶか。相手の事を考え、選び……そして渡すべきではないか?」
    「も、もちぃ……」
     温泉モッチアは項垂れた。むろん、戦って倒した訳ではないのだから元の姿に戻ることはないが、ご当地怪人の身体が発する威圧感は明らかに衰えていた。こっそり、深々見がメモにペンを走らせる程度には顕著に。

    ●二人の為に
    「私達が翠ちゃんを元に戻すって約束するから。そしたら翠ちゃんと仲直りしてね」
     少し離れた部屋まで連れてきた少女へ言い聞かせると、紅葉はちょこんと座って主人を見上げている霊犬のマカロに視線を移した。
    (「戦闘はもう始まってる、かな? 自分のせいで友達傷つけちゃったら翠ちゃん自分が許せなくなるもんね」)
     マカロへ仲間と合流するように指示を出しつつも、紅葉はそこから動かない。ただ、味方を信じて部屋を飛び出した霊犬の背を見送り、マカロは廊下を走って先程の部屋に向かう。
    「一時の激情で大切な人を傷つけ、失ってしまったら絶対後悔します。暴力に走らず、一旦冷静になってお互いの本音を話し合った方が良いと思いますよ」
    「もちぃ……」
     辿り着いた時、翠への説得は終盤にさしかかっており、言い含めるホテルスの言葉に入浴姿をした少女の瞳は揺れていた。
    (「まさか此処まで顕著に効果がある何てねー」)
     深々見はひたすらペンをメモに走らせる。
    「どっちが悪いワケでもない、から、最初に怒っちゃったほうから謝ろ?」
    「多少のすれ違いなどもあるでしょう、しかし長い付き合いならばそういう時もあります。喧嘩しても今ならば仲直りできますよ!」
     促すミツキの言葉を援護するように蒼香が言葉を重ね。
    「きちんと謝って、許してもらおう? もし気まずくて顔を合わせ辛いなら、私も横にいてあげるから……ね?」
     ペンを止めた深々見も申し出る。言葉の雰囲気とは裏腹に、もう庭は戦場と化しているのだが。地面からは飛び出す影が温泉モッチアを飲み込もうとし、撃ち出された魔法の鋼線が庭木の間を縫って空へと消える中、メモが出来るのはある意味凄いかも知れない。
    「仲直りしたあとに食べるお餅は、きっと今までで一番美味しいですよ」
    「うぐっ」
     瞭が微笑みかけた瞬間、動きが止まったモッチアを見て。
    「ういろ」
    「わうっ」
     影を手繰ってけしかけていたミツキは霊犬の名を呼ぶ。
    「ありがとうございます」
     味方の盾になることを優先していたホテルスは礼の言葉を口にしながら片腕を異形化させる。
    「もぢっ」
    「チャンスです、一気に――」
     叩き付けられた巨大な腕に土埃が舞い上がり、指示を出しつつオリシアは詠唱圧縮した魔法の矢を撃ち込む。
    「ぐっ」
     説得で弱体化したご当地怪人に連続で襲いかかる攻撃をさばく余裕などなく。
    「あ」
     突き刺さる一撃に顔をしかめて傷口を押さえた直後だった、少女のバスタオルがはらりと解けたのは。
    「嫌ぁぁぁぁぁぁっ」
     微笑んだ直後、死角に回り込んだ瞭がバスタオルごと身体を切り裂いていたからだろうか。
    「殲術道具なみに頑丈だが、服破りされれば敗れる、っと……じゃあわたしは黒死斬でいいかなー」
    「……さっさと終わらせるぞ」
     暢気に考察すると違って広樹は異性な訳だが、服装や胸の大きさを気にしないことは最初に決めていたから、務めて平静に言い放つと拳を握り込み地面を蹴った。死角に回り込む仲間の動きが、見えていたのだ。
    「がるるぅ」
     ちらりと視界に入った霊犬とは別に。
    (「……ここで友人を殺してしまったら、アンタはお土産を渡す相手がいなくなる。だが」)
     六文銭を援護射撃にしながら、握り込んだ拳で守りごと撃ち抜くように胴を。
    「そんな事にはさせない」
    「がっ」
     足への斬撃とほぼ同じタイミングで突き刺さった一撃によって身体をくの字に折った少女はくたりと崩れると池の縁に倒れ込んだ。戦いは終わったのだ。

    ●仲直り
    「ほらほら。お互い意地を張らないの」
    「べ、別に意地なんて……うぅ」
     紅葉の言葉に反応しつつも、ばつが悪いのだろう。ホテルスに掛けられた上着を羽織りつつ、恐る恐ると言った態で翠は友人の顔を盗み見る。
    「えっと、その……」
     言葉を探す少女の脇に深々見が居るのは、横にいてあげると自分から言っていたからだろう。
    「(謝れれば、大丈夫。きっとまた、仲良く過ごせるはずだよー)」
     なかなか切り出せない翠にそっと耳打ちすることで背中を押して。
    「アンタも悪かったと思っているんだろ? さぁ、仲直りしてくるといい」
     広樹も翠にチラチラ見られている少女を促す。
    「あ、うん……えーっと、翠」
    「な、なに?」
     声をかけられた少女とかけた少女がお互いを見つめる。
    「ごめんね」
    「あ、ううん。わ、私の方こそ……」
     行動力は友人の方があったのだろう、先を越されてはしまったものの、翠も謝罪の言葉を返して。
    「んっ、美味しい♪ ははーん……これを食べすぎてダイエットしてるんだな?」
    「あー、そうなんですよね。ダイエットしようと思っても美味しいから側にあると手が出ちゃって……」
    「えっ」
     放り出されたままだった温泉餅を口にした紅葉へ、相づちを打った少女の顔を翠は驚いた顔で見返す。蒸し返すのを避けたのか、最初から飽きたのではなくダイエットにならない事が問題だったのか。
    「良かったな」
    「ちゃんと翠ちゃんの気持ちは伝わってるってことだよ?」
    「う、うん……」
     広樹と紅葉に肩を軽く叩かれ、涙目の翠は頷く。
    「次は友人に喜んでもらえるお土産を渡そうじゃないか。アンタならできるさ」
    「そ、そうね……やってみる」
     壊れかけた友情は元に戻り、一人の少女が救われた。目尻に涙を浮かべつつも持ち直して笑顔を浮かべた翠へオリシアは歩み寄り。
    「とても、つらい経験をしましたね……でも! だからこそあなたは灼滅者としての正しい心と、温泉餅に対する深い愛を手に入れる事が出来た筈です」
     優しく言葉をかけながら、空を指さし。
    「そう、今日からからあなたは正しいご当地ヒーローとなるのです!」
     更に口を翠の耳元へ持って行く。
    「ちょ、そんなの……」
    「え? 恥ずかしい? まあまあ、そんな事言わずに」
     何やら耳打ちしたのだろう、顔を真っ赤にする翠を宥めつつ、オリシアはカメラ目線で振り返った。
    「モニターの前のあなたも、さあ! ご一緒に!」
    「モニターって何よ!」
     思わず翠がツッコむが、敢えてスルーし、ポーズをとる。
    「優しいお餅であなたのお肌と心をモッチモチ♪」
    「や、優しいお餅で……」
     何だかんだ言って照れながらも従う辺りは翠も律儀なのかも知れない、ただ。
    「「我こそは! ご当地超人オンセーン・モッチア! きらっ★」」
     ポーズも台詞もあわせても、控えめサイズに戻ってしまった翠の胸がオリシアのそれのようにぶるんと揺れることはなく。
    「って、何やらせるのよ!」
     はずかしさとなにかのかくさによるりふじんさにおこるひとりのしょうじょはたぶんつっこみぞくせいもちなのだろう。
    「あ、あと灼滅者目覚めた翠さんには武蔵坂学園のパンフレットを差し上げます♪」
    「っ、今取り込みちゅ……ううん、ありがとう。いただくわ」
     口を挟んだ蒼香にまで噛み付きかけた翠は、頭を振ると笑顔でパンフレットを受け取って、筒状に丸めた。
    「え」
    「ふふふ……乙女を弄んだらどうなるか思い知ると良いわ」
     即席の凶器を手に笑顔の翠がオリシアを追いかけ始めるまで、あと五秒。カウントダウンは始まっていた。
     

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年11月24日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 9/キャラが大事にされていた 4
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ