彼女は、住み慣れたその部屋で1人静かに眠っていた。
整理整頓された部屋の本棚には、アルバムらしき分厚い本が背表紙の年月順にずらりと並び。
窓近くの棚には、本格的な一眼レフカメラから小型のデジカメ、望遠鏡に双眼鏡、いずれも使い込んであるが丁寧に手入れされて、よく使うのか埃1つなく置いてある。
クローゼットから覗くスーツと、きちっと置かれた通勤鞄から、どこかの会社員だろうと推測できる。
だが、それら以外に、彼女の個性を示すような物は、隠されているかのように見当たらない。
さらに綺麗に整えられすぎているせいもあり、少し殺風景に感じる部屋。
その一角のこれまたシンプルなベッドで、彼女は眠る。
胸に不可思議な機械を抱えたまま。
そして彼女は夢の中で、ある田舎町を蹂躙していた。
大抵の女性なら悲鳴を上げるだろう虫も、牙をむき出して襲ってくる野生動物も。
現実にはいるはずのないゴブリンやオークも、鎧で身を固めた兵士も。
ヤクザみたいな男達も、何故か襲い掛かってくるその町の大人達も。
片っ端から殺しながら、返り血の跳ねた顔に笑みを浮かべて進んで行く。
弾むような足取りで通りの角を曲がると、次は同年代の男が2人立っていて。
「うふふ。会社のヤツらみたい。
人のコト見て、ひそひそこそこそ、うっとおしいアイツら」
襲い掛かってくるより前に、1人に手にしたナイフを突き立て、抉る。
「あいつらもこうしてやりたかったのよ!」
引き抜いたナイフが血の筋を引くのを見てから、そのまま刃を返してもう1人へ切りつけた。
次の角の先には、学生服を着た男が3人。
部活を頑張る高校生らしいその相手にも、躊躇せず彼女は飛び掛っていく。
「汗臭くてバカっぽくて、乱暴なだけの男なんて大っ嫌い!」
倒した男達の1人の肩を蹴りつけてから、彼女は満足そうに肩にかかった髪を払う。
「さあ、次の相手は誰?」
そして、意気揚々と進んだ、次の角のその先で。
「……え?」
彼女は踏み出した足を止めた。
そこにいたのは、小学生くらいの男の子4人。
こちらに気付くと少し戸惑ったように、はにかんだように笑いかけてくる。
「ちょっと、待ってよ。この子達が、敵……なの?」
近づいてくる少年は皆、確かに手に手にナイフを持っていて。
笑顔のままだけれども、その細く華奢な腕ごと、凶悪な刃を振りかぶっている。
今までの相手に比べてスピードも遅く、力もないとはっきり分かる。
けれども。
「こんな……こんな可愛い子達を、殺せるわけないじゃない!!」
それまでとは一転して腰の引けた彼女を、だが少年達は笑顔のまま、刃をかざして追い詰める。
「で? 本当にいたの?」
不機嫌な表情で問いかけるイヴ・アメーティス(ナイトメアキャット・d11262)に、八鳩・秋羽(小学生エクスブレイン・dn0089)はこくんと頷いた。
はぁ、とイヴの口から重いため息が落ちる。
「でも、敵、じゃない」
「え?」
「助けて、ほしい」
「…………」
さらに複雑な表情で、イヴは黙り込んだ。
その光景を見ていた灼滅者達が、疑問符を大量発生させている。
もう1度、深くため息をついてから、イブは灼滅者達に向き直った。
「以前、ロリコンの都市伝説を倒したことがあってね。
それならショタコンもいるんじゃないか、って見てもらったら……」
「夢の中、殺人ゲーム」
「これをやってるショタコンが見つかったらしいの」
イヴの言葉に、幾つものため息が落ちた。
HKT六六六の研修生が謎の機械を媒介とした悪夢の中で殺人ゲームを行っている。
最近頻発しているその事件を、知っている者も多いだろう。
悪夢のゲームをクリアすると、六六六人衆として闇堕ちを果たすことになるらしい。
研修生は自ら望んで悪夢を見ているのだが、だからといって、一般人の闇堕ちを黙って見ているわけにはいかない。
悪夢に入り込んでの殺人ゲームの阻止。
それが今回の依頼になる。
「確か、シャドウハンターがいなくても夢には入れるのよね?」
「変な機械、あるから」
確かめるイヴに秋羽は頷いた。
夢の中で研修生は、倒せない敵と出会い、戦意を喪失している状態だ。
灼滅者達はそこに割り込み、研修生を助けるために、代わりに敵を倒すことになる。
だが、あっさり撃破してしまうと『助っ人キャラが自分の代わりに苦手な敵を倒してくれた』と考えて研修生はゲームを続けてしまうだろう。
そのため、敵を倒す前に、研修生がゲームをやめるように説得する必要があるのだ。
「できれば、もう二度と、六六六人衆の誘いに、乗らないように、して」
「そう、ね……」
ため息混じりに、だがイヴもその方がいいだろうと思い、頷く。
「それで、その人が倒せない相手ってやっぱり?」
「小学生、男の子4人」
「……ショタコンだものね」
解体ナイフを持ってはいるものの、見た目相応に弱い相手だ。
研修生もショタコンでさえなければ、簡単に撃破してゲームを進めていただろう。
こうなると、ショタコンでよかったのかも? とふと思って、でもすぐにイヴは首を横に振った。
そこに、秋羽が思い出したかのように顔を上げて。
「あと、上手くゲーム、やめさせられたら……」
「察知した六六六人衆がソウルボードに現れるかも、でしょ?」
「可能性、かなり低い……けど、もし会ったら、連戦になる……から、逃げて……」
だんだん俯きながら呟く秋羽の頭をぽんっと叩いて、イヴは大丈夫、と小さく笑った。
参加者 | |
---|---|
和瀬・山吹(エピックノート・d00017) |
華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389) |
唯済・光(空転する幸福機構・d01710) |
水之江・寅綺(薄刃影螂・d02622) |
イシュテム・ロード(天星爛漫・d07189) |
イヴ・アメーティス(ナイトメアキャット・d11262) |
十六夜・深月紅(哀しみの復讐者・d14170) |
唐都万・蓮爾(亡郷・d16912) |
●幼い君の紡ぐ夢
日中は騒がしい小学校そばの通学路も、夜ともなればひっそりと人通りもなく。
闇を照らす街灯の下でそのアパートを見上げたイヴ・アメーティス(ナイトメアキャット・d11262)は、小さくため息をついた。
「まさかあの予測からこんな事態が発覚するなんて……」
何がきっかけになるか分かったものではないと思いながら視線を移すと、アパートの一室に忍び込む幾つもの人影が見える。
「それでも、一般人が巻き込まれている以上、絶対に助けなければならないわね」
呟いたイヴは、その人影へと近づいていった。
「お邪魔しますですの」
人影の1つ、イシュテム・ロード(天星爛漫・d07189)は小さな声で呟きながら窓を潜る。
続く水之江・寅綺(薄刃影螂・d02622)も、脱いだ靴を脇に揃えて置いて、静かに侵入。
「窓あけっぱなしとは少々不用心ですね……」
イシュテムの呟きに、確かに自分達が泥棒でなくてよかったと思いながら、イヴも部屋へと入った。
そこには1人の女性が眠っている。
「シャドウハンターでもないくせに、ソウルボードに入り込んで人殺しの練習なんて、気にくわないですね。ともかく、さっさと止めにしてもらいましょう」
ベッドの横から覗き込み、彼女を起こさないように小声ではあるが、苛立ちを顕わにしているのは華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389)。
HKT六六六への怒りもさることながら、その誘いにほいほい乗って、現実の鬱憤を夢で晴らさんとするそのみみっちさに、さすがに腹が立っているようだ。
「……大丈夫?」
「ええ、大丈夫です。分かってます」
宥めるようにその肩を叩く唯済・光(空転する幸福機構・d01710)に、苛立ちを向ける相手は間違えないと頷いて見せる。
どこかぼんやりとした表情で頷き返した光も、内心では、一般人を引きずりこむダークネスの罠に対して怒りを感じていて。
「六六六人衆の、考えている、ことは、よく、わからない」
ぽつぽつと語る十六夜・深月紅(哀しみの復讐者・d14170)もまた然り。
「けど、一般人を、巻き込むのは、よくない、から……しっかり、止めないと、ね」
おっとりした所作の中に決意を秘めて呟けば、光が、ん、と頷いた。
その傍らに歩み寄った唐都万・蓮爾(亡郷・d16912)は、眠る彼女を改めて見つめて。
「ふむ、男性への偏見が強いとのこと。偏った方々にしか接して来られなかったのでしょうか」
「一部を見てそう言われるのはちょっと、哀しいかな」
嫌われた『男』として苦く笑いながら、和瀬・山吹(エピックノート・d00017)が肩をすくめる。
だからといって、小さい男の子が好き、という趣味も判らない。
否定をする気はないけれど、やっぱり山吹は苦笑するしかなかった。
それぞれに様々な思いを抱いて集まった灼滅者達。
だが、彼女を悪夢から呼び覚ます、その目的だけはしっかりと揃えて。
眠るその姿を覗き込んだ寅綺は、彼女が抱える機械へと目を留めた。
それこそが、彼女を悪夢へと誘うもの。
「奇怪な機械……人類の文明は進んだね」
不思議そうに見つめながら、どこかズレた感想を呟く寅綺を押しやって、
「こんなもの使わないで、私のソウルアクセスで夢に入りますよ」
紅緋が、シャドウハンターの意地と宣言し、皆を呼び集める。
かくして、灼滅者達は殺人ゲームへ足を踏み入れた。
●幼い子供、幼い君
どこか薄暗く古びた田舎町。
そこを通る細い道を、彼女は必死で逃げる。
後ろから追ってくる気配を感じながら、追いつかれたら殺すしかないとも確信して。
走ってその角を曲がった先で、彼女は誰かにぶつかった。
「こんにちは、お姉さん」
驚いて顔を上げると、そこにいたのは優しく微笑みかける山吹。
「お邪魔しております」
隣で、蓮爾も柔らかな物腰で挨拶する。
それまでのゲームになかった展開に、彼女は一瞬、あっけにとられて立ち尽くす。
その思考が再び回り始める前に、深月紅はスレイヤーカードを発動した。
「四肢を、掲げて、息、絶え、眠れ」
そのまま腕を掲げ、彼女を追い来る4人の少年の足元へ結界を展開する。
紅緋も掲げた指輪から制約の弾丸を撃ち放ち、飛び出したイシュテムが剣を振るう。
「ジン……今日は抑えめだよ。難しいけど……がんばろうか」
呟きながらカードを落とした寅綺は、そこに霊犬のジンジュツが現れ、見上げてくるのを感じて。
ビハインドのヤエモリ・ナオヒトを傍らに現した光は、くん、とその匂いを嗅ぎ取った。
(「……お腹空いたね」)
ダンピールとしての感覚がそう告げる。
それは普通のゲームでは感じるなどありえない、血の匂い。
限りなく現実に近づけられた悪夢の殺人ゲームを体感させるものだ。
「貴方達、は……?」
だが血やゲームにではなく、現れた灼滅者達に戸惑う彼女は、混乱の中でやっと声を出す。
紅緋は彼女へと振り向いて笑いかけ、
「こんにちはですよ、お姉さん。
自分の好きなものは殺せませんか?」
答えに詰まる彼女に、さらににこっと笑って見せる。
「それじゃ、この先に進むのは無理ですね。日常に帰りましょう」
「俺達は、貴女を先へと進ませないように、ここへ来たんだ」
続いて話し出した山吹を見て、彼女は反射的にナイフを構えた。
ふぅ、とため息をつき、山吹の傍らにイヴが進み出る。
「勘違いされないように言っておくと、私達は貴女の味方よ。男性も含めてね」
端的に説明するイブだが、彼女の山吹に対する警戒か怯えかは消えず。
蓮爾は彼女に近づくのをやめ、その場に膝をついて視線を低くし、柔和に微笑んだ。
「どうやら苦しまれているご様子。このような遊戯など、付き合う道理はございませんよ」
蓮爾を男と認識したらしい彼女は、山吹と同じ様にナイフの切っ先を向ける。
だが、柔らかく接してくる山吹や蓮爾に戸惑っているのも、次第に見えてきていた。
「例えこの子たちを一時的に凌いでも、ゆく先にはより多くの男児達が貴女を待ち受けるでしょう。
傷付けることなど、出来ないのでしょう?」
「今回は、相手は、4人、だけど、次からは、もっと、多くなって、酷いことに、なるよ」
深月紅も加わって、彼女が望まぬ先を告げる。
「それでも、続けるの?」
真っ直ぐに見つめてくる深月紅に、彼女はバツが悪そうに視線を反らした。
「それに、少年じゃなきゃ、殺してもいいんです? そうじゃないですよ」
殺しは良くない、と根本的なところをつくイシュテムの言葉に、彼女はさらに俯く。
「このゲームをプレイして、ゲーム中で死んだ人間は現実でも死んでるよ」
そこに、淡々と光が説明を加える。
「原因が不明で警察も動いていないから知らないだろうけど。
わたし達は、そういう人間を何人か知ってる」
光の推測でしかない部分があるけれども、彼女に信じさせるようにはっきりと言葉を紡いで。
「だからわたし達は、このゲームを中止させるために動いてるの」
彼女の行く手を阻む理由を、しっかと伝えた。
だが彼女は、未だ迷うように下を向いている。
説明を信じてもらえなかったわけではないし、灼滅者達の言葉が届いていないわけでもない。
重なる言葉に彼女の戸惑いがだんだんと大きくなっているのを誰もが感じていた。
それでも、彼女が踏み切れない理由は、何なのか。
黙る彼女に、深月紅は、ふと、最初から判らなかったその疑問を投げかけていた。
「……ショタコン、って、なに?」
途端に彼女の肩がびくっと大きく震える。
それを見たイシュテムは、手を広げて彼女へと堂々と笑いかけた。
「年下好みだっていいじゃないですか、恥かしい事じゃないですの」
「今の時代、インターネットとかあるんですから、同じ趣味の人同士での交流も容易ですよ」
紅緋も当たり前のことのように話しかける。
そうそう、と頷いたイシュテムはさらに重ねて、
「それに、大人になった男の人にも、それはそれで別の魅力がきっとあるですよ」
「もし同じ趣味の男の人に会えて結婚とかして、子供が出来たら、きっともっとかわいいですよ」
にっこり笑って言った紅緋は、直後、小声でぼそっと呟いた。
「……リアル小学生男子はそんなにかわいくないと思いますが」
「何か言いましたの?」
「いえいえ、何でもないです」
首を傾げるイシュテムに紅緋は笑顔で手を振った。
普通に話し続ける2人を、彼女はぽかんと見つめている。
説得が苦手と引いていた寅綺は、そんな仲間達と彼女をとそっと見て、
(「闇堕ちしそうなら、殺しちゃえば……って、この考えは良くないね」)
苦笑すると、嗜めるようにジンジュツに鼻先でつつかれた。
お返しにとその頭を撫でてから、寅綺は彼女へ近づかないまま声をかける。
「貴女はきっとこのまま行くと愛し方が変わっちゃうよ」
それは寅綺が危惧していたこと。
誰かを好きになる、ということが分からない寅綺でも、分かったこと。
「好きな物を見ると、きっと殺したくなる。それがいやなら、ここで帰った方がいい」
「貴女は、貴女の大事なモノを壊したいの?」
そこに山吹が問いを重ねる。
すぐさま横に首を振る彼女を見て、山吹はまた微笑んだ。
「だから俺は貴女を助けたい」
その言葉に、彼女の表情が泣き出しそうに歪む。
それを見て、イヴは静かに告げた。
「貴女は男性が嫌いなのかもしれない。けれど男性が貴女のことを嫌っているとは限らないわ」
向けられる戸惑いの視線をしっかりと受け止めて。
これだけは伝えたいと言葉を紡ぐ。
「私達の言うことが信じられなくてもいい。
でもせめて私の仲間、貴女の嫌いな男性が貴女のために命をかけたということを忘れないで」
そこで彼女は初めて、自分を追って来ていた敵へと振り返った。
灼滅者達は、彼女と向き合うその間、少年達の攻撃から彼女を守っていた。
話しながらもイヴの影が1人の少年を捉えて動きを止めて。
紅緋の風の刃が、イシュテムの聖剣が、牽制するように飛び行く。
だが灼滅者達はあくまでも彼女の説得を優先して。
彼女が決意するその時までは耐えようと、ディフェンダーばかりの守りの布陣を敷いていた。
そして彼女へと向かってしまう攻撃は、身体を張って庇っていく。
深月紅が夜霧を広げ、光はシールドを盾として飛ばし、仲間を癒しているが、傷つくこと自体がなくなるわけではない。
全然見えていなかった光景をやっと目の当たりにして立ち尽くす彼女の前に、静かに綺麗なハンカチが差し出された。
「……そんな血塗れじゃ、貴女の可愛い顔も見えないよ?」
言う山吹こそ、少年らの攻撃で小さいながらも傷を受けていて。
でもそれよりも彼女を気遣い、変わらぬ笑顔を向ける。
「もう1度、言うね。
貴女を壊すこのゲームから、貴女を救いたい」
真摯な言葉に押されるように、彼女が呆然とハンカチを受け取ると、山吹が嬉しそうに笑った。
そのまま背を向けて少年達へと向かう山吹を見送って。
「美しい貴女に、そのような武器は似合いません」
ゆっくりと近づいてきた蓮爾は、優しく手を伸ばした。
だが、手と手が触れた瞬間、彼女はさっとそれを引き戻して。
蓮爾は少し寂しそうに笑いながら、すみません、と頭を下げた。
反射的な動きだったのだろう、気まずそうな女性を見て、ビハインドのゐづみに視線を向ける。
意図を察したゐづみが、赤い服を翻して彼女へと向かい、蓮爾に変わってその繊手を優しく重ねて。
「今一度、現実を歩んでは頂けませんか」
蓮爾の言葉に、彼女の手から離れたナイフをゐづみが受け取る。
途端に零れ始めた涙を見て、光はこれが最後と声をかけて。
「貴女を心配する人がいる。だから、終わりにしよう」
彼女は灼滅者達が見つめる前で、涙に俯きながらもしっかりと頷いた。
●幼さを認める君でいて
「それじゃ、後片付けといきますか」
こんなゲームはさっさと終わらせようと、紅緋は腕を異型巨大化させて少年達へと飛び込んで行く。
「さて、覚悟はいいかな?」
山吹も冷気のつららを生み出し撃ち放つ。
彼女の心が決まったならば、躊躇う理由は何もない。
一気に攻勢に移った灼滅者達は、少年達を押して行く。
「うう、流石に何も言わないで笑ってる人を倒すのは……この人じゃなくても抵抗があるですの……」
それでもにこにこ笑ったままの少年達に、イシュテムは何となく良心を痛めて、
「小さい子供を殺すのは……気が引けるね」
寅綺も居合いで1人を切り伏せながら、複雑な表情を見せる。
例えこれが夢で、嘘の命であってさえ。
揺らぐ心を抱えながら、だがその揺らぎを忘れまいと、立ち向かう。
それまで守りに徹していても、つけなければならない決着のために、仲間へENを、相手にBSをつけ続けていた。その効果も感じながら、深月紅はここぞと炎を纏わせた刃を振り下ろし、蓮爾はDCPキャノンで撃ち抜く。
少年達は笑顔のまま、次々とその数を減じて。
最後の1人は、イヴと光が合わせて突き出した拳で宙を舞い、そのまま消えていった。
あっさりと終わった戦い。
灼滅者達は互いの負傷の程度を確認してから、長居は無用、と撤退の意で頷き合う。
山吹は、ふと仲間の輪から彼女へと顔を向けて。
「貴女も、怪我はない?」
「怪我、してたら、治す」
歩き出しかけた深月紅を止めるように、大丈夫、と慌てて答える彼女。
「……そう。よかった」
山吹は安堵の笑みを返した。
それを、つんつんと光がつついて、こっそりと。
「さっきから、口説いてるみたい」
「それくらいしないと、止められなかったでしょ?」
彼女に見えないように苦笑する山吹を、光はしばしじっと見て、くるりと背を向けた。
「それじゃお姉さん、二度と変な誘いに乗っちゃダメですからね」
これで終わりと紅緋は、名前すら知らされなかった彼女へ手を振って。
後は彼女自身の問題と踵を返す。
「好きな物を大切にできる貴女は、きっと優しい人なんだろうね」
好きになれるのは何であれ素敵なことだと、寅綺は少し眩しそうに彼女を見る。
守れたと思う、その感情を思って。
「大切にして、その気持ちを」
まだ寅綺が知らないそれを。
「おやすみなさい。いつかあなたの王子様に出会えますように」
イシュテムも、くすりと笑って別れを告げて。
夢から出るその時まで、イヴはこちらを見つめる彼女の視線を感じながら、願う。
助けられた彼女が、もう二度と悪夢に誘われることのないように。
作者:佐和 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年12月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 9
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