その名はブラックファルコン!

    作者:天木一

    「セェッ!」
    「ハッ!」
     対峙する2人は、気合の籠もった激しい声と共に拳が、蹴りが繰り出され、相手を打ちつける。
     深まる秋の寒気など関係ないように、選手達の熱気が室内を熱くする。
     総合体育館では大勢の人々が集まり、空手の大会が行なわれていた。
     鍛え抜かれた体を持つ者同士が、互いの力をぶつけ合う。
     だがそんな場所に、場違いなリングコスチュームを着た男女が現われた。
    「お遊びはそこまでだ!」
     緑の猛禽類のマスクをした女の方が、アナウンス席のマイクを奪うと怒鳴りつける。
    「本当の強さというものを見せてやる!」
     女が片手を挙げる。すると後ろに控えていた男が前に出る。
    「俺の名はブラックファルコン! プロレスの前では空手など児戯である事を教えてやる!」
     名乗った男は上半身裸に黒いロングタイツ姿。そして顔には鼻から上を覆い隠す黒いマスクを被っている。鳥をイメージしたものか、鼻の部分が突起していて嘴のようになっていた。
    「はっ! プロレスかよ、そっちこそショーじゃねぇか。ガチでやってる俺らに勝てると思ってんのか?」
     道衣を着た若い男が睨みながらレスラーに近づく。その男は今日の大会の優勝候補の一人だった。レスラーは指をくいくいっと曲げて挑発する。
    「ざけやがって……セィァ!」
     不意打ち気味に男の下段回し蹴りがレスラーに叩きつけられる。足、胴、頭と連続して蹴りが放たれる。レスラーは身動きせずにその攻撃を全て受けた。
    「どうした? ご自慢の空手とはその程度か?」
    「イイァ!」
     最後に大振りの後ろ回し蹴りが放たれる。だがその足は空を切った。蹴りが届くよりも速くレスラーは跳躍していた。そして蹴り足を踏み台にすると、膝を男の顎に叩き込んだ。シャイニング・ウィザードが炸裂する。
    「ぐべっ!」
     直撃を受けて派手に転がる胴着の男。
    「足技で私に挑もうなど、百年早かったな」
     空中で一回転して華麗に着地するレスラー。
    「てめぇ!」
    「よくもやりやがったな! やっちまえ!」
     その男の仲間達が怒りに任せ、殴り掛かってくる。
    「笑止、だからお遊びだというのだ!」
     レスラーは跳躍するとドロップキックを放った。一撃で吹き飛ばされる男達。
    「さあ、次の挑戦者は誰だ!」
     男が声を響かせる。だがその圧倒的な強さを見て動くものはいない。
     熱く激しく戦っていた者達は、まるでそれが幻であったかのように。寒さに震え、レスラー達を見ることしか出来なかった。
     
    「やあ、集まったみたいだね」
     資料に目を通していた能登・誠一郎(高校生エクスブレイン・dn0103)が、教室に集まった灼滅者に説明を始める。
    「ケツァールマスクという名を知ってるかな?」
     それはアンブレイカブルのプロレス団体を率いる、幹部級のアンブレイカブルの名前だった。
    「以前も事件を起こしたようだけど、今回もまた同じような騒動を起こすみたいでね」
     まるで道場破りのように、空手の大会に乱入して配下が暴れまわるのだという。
    「ケツァールマスクとその配下はギブアップした人は攻撃しないから、死者が出る最悪の事態にはならないよ。でも、やられた一般人はこの事件がトラウマとなって、殆どの人が武道の道を諦めてしまうんだ」
     長い年月を費やして頑張ってきた道が、ダークネスの為に断たれてしまう。
    「そんな事を放っておくわけにはいかないよね。だからみんなに敵の行動を阻止してもらいたいんだ」
     敵は体育館に昼過ぎに現われる。だが無抵抗な一般人を自分から襲う事はないので、周囲への被害はそれほど心配要らないだろう。
    「戦う相手はブラックファルコンと名乗った黒い覆面レスラーだよ」
     一体だがアンブレイカブルでレスラーを名乗っているのだ、タフな相手だと予測できる。
    「ケツァールマスクは配下の戦いを見ているだけで、自分から何かをすることはないよ」
     三つのルールの従って行動しているようだ。
     一つ、ギブアップした者を攻撃してはいけない。
     一つ、観客を傷つけてはいけない。
     一つ、プロレスとして、地味でつまらない試合をしてはいけない。
     以上のルールを守る限り戦いに介入してくることはない。
    「敵は勝とうが負けようが盛り上がれば満足して帰るみたいなんだ。だから相手に付き合って盛り上がる試合を演出して欲しい。ちょっといつもと毛色の違う依頼だけど、みんなならきっと出来ると思ってるよ。お願いするね」
     誠一郎がそう言って熱き戦いの場に向かう灼滅者を見送った。


    参加者
    凌神・明(英雄狩り・d00247)
    葛木・一(適応概念・d01791)
    東谷・円(ヤドリギの魔法使い・d02468)
    皇・銀静(銀月・d03673)
    海藤・俊輔(べひもす・d07111)
    閃光院・クリスティーナ(閃光淑女メイデンフラッシュ・d07122)
    森沢・心太(隠れ里の寵児・d10363)
    砂原・皐月(禁じられた爪・d12121)

    ■リプレイ

    ●第一試合
    「俺の名はブラックファルコン! プロレスの前では空手など児戯である事を教えてやる!」
     上半身裸に黒いロングタイツ姿の男が名乗る。黒い鳥のマスクから覗く眼光が鋭く獲物を探す。
    「はっ! プロレスかよ、そっちこそショーじゃねぇか。ガチでやってる俺らに勝てると思ってんのか?」
     道着の男が近づき、一触即発の雰囲気となる。
    「その勝負、オレ達が預かった! 苦情は後で聞こう!」
     葛木・一(適応概念・d01791)は声を張り上げて注意を引く。そこで一般人の目の前に突然少年が現われた。
    「俺達が勝負を申し込む」
     凌神・明(英雄狩り・d00247)が堂々とレスラーへと挑戦を叩きつけ、灼滅者達が揃って姿を見せる。
    「プロレスは見る専で十分だったんだが……ここまで来たら勢いだ」
     自分のキャラではないと思いながらも、東谷・円(ヤドリギの魔法使い・d02468)はヤケクソ気味にマイクを手に実況を始めた。
    『第一試合はシングルマッチだ! 明がリングに上る。今、戦いの火蓋が切られようとしている! 解説は東谷・円でお送りいたします』
     一は戦いが始まるまでに一般人に愛嬌を振りまいて魅了し、観客に仕立てる。
    「お前が最初の挑戦者か?」
    「強いんだろ? だったら挑むしかねぇさ」
     不敵な笑みを浮かべ明が前に出る。
    「1人でいいのか? 実力差が分からぬ訳でもあるまい」
     正面から睨み合う。二人の立つ場所はいつの間にか仮設のリングとなっている。
    「実力差も良く分かってはいるが、かといって負けてやる気もない。コレは、試合なんだろう?」
    「フッ……全力で掛かって来い」
     持ち込んだゴングを円が叩く。甲高い音と共に試合が始まった。
     明は開始と同時に大きく踏み込む。右拳に雷を宿らせ、腰を乗せた全力の一撃を打つ。
     レスラーはその一撃を胸で受けた。明の拳にまるでゴムタイヤでも殴ったような感触が伝わる。骨を砕く一撃が肉の壁に阻まれた。
    「なかなか気合の入った一撃だ。次はこちらから行くぞ!」
     太く筋肉質な足が持ち上がり、ミドルキックが放たれる。明はそれを右腕で受ける。みしりと嫌な音が響く。
     その痛みを無視して次はこちらの番だとばかりに蹴りを放つ。独楽のように体を回転させながら右の回し蹴りが連続で敵の体を打つ。
    『おおっと、明の連続蹴打が炸裂する!』
     最後に軸足を変え左の後ろ回し蹴りが放たれる。だが同時に敵もまたキックを放っていた。互いの顔を蹴りが打ち抜く。
     ぐらりとよろけそうになるのを明は踏み止まり笑みを浮かべる。
    「まどろっこしい、トドメくらい最高の技でこい。弱いからって遠慮すんなよ? 本気だからこそ価値がある」
    「フッ……ハッハッいいだろう! 俺のフィニッシュ・ホールドを見せてやる」
     レスラーは愉快そうに笑うと顔を引き締めた。閃光の如きローキックが放たれる。明はまともに喰らい脚の感覚を失って膝を突く。レスラーはその膝を踏み台にすると、膝を顔面に叩き込む。
    「ッオオ!」
     だがそれこそ明が待っていた瞬間だった。顔の前に右腕を差し込む。めきりと腕を折られながらも左腕を腰に差込み、裏投げへと持っていく。
    『強烈なシャイニング・ウィザード! だがそれを返して裏投げ……ああーっと!?』
     しかしレスラーは片腕のロックを振りほどき、明の体を蹴って宙に飛ぶ。
    「……惜しかったな」
     空中でバック転をするとそのままボディ・プレスで押し潰す。
    『ムーンサルトプレスが決まったあぁ!』
     明は地に叩きつけられた。
    「オオオォ!」
     レスラーが勝利の雄叫びを上げる。その背後で明がゆらりと起き上がった。レスラーは気配に振り向く、だが明は動かない。

    ●第二試合
    『立ったまま気絶している! 凄まじいガッツだ!』
     その闘志に会場から拍手が送られる。仲間が素早く明を連れ出し治療する。
    『第二戦はタッグマッチだ! 俊輔と銀静がリングを駆け上がる!』
    「鳥の中の鳥、エンペラーペンギン登場!」
     皇帝ペンギンのマスクを被った海藤・俊輔(べひもす・d07111)が空中で回転しながらレスラーの前に着地した。その隣で霧が発生する。白い靄が晴れると皇・銀静(銀月・d03673)の姿がリングに現われていた。
    「皇銀静と申します……我が全霊にて挑ませて頂きますね」
    「おう!」
     両腕を広げるレスラーに俊輔が仕掛ける。素早く突っ込むとスライディングで股下をすり抜け、背後から膝裏を蹴る。思わずバランスを崩してよろけた所へ、飛び上がってアッパーを放った。
     顔を打ち上げられるレスラー。そのまま続けて攻撃しようとした時、がしっと大きな手に両肩を掴まれた。
    「スピードのあるいい攻撃だ。だがレスラーにはタフさも必要だぞ」
    『ああーっと捕まってしまったぞ!』
     膝蹴りを腹に入れられる。くの字に曲がる体。俊輔は腕を払おうと暴れるがビクともしない。更に膝が叩き込まれる。肺から空気が押し出され息が止まる。
     そこに横手から銀静が踏み込み、雷を纏った腕で横っ面を殴りつけた。
    「不意打ちですが、貴方方の……プロレスの流儀に合せて頂きます……」
    「空手か、プロレスに通じるか試してみるか?」
     挑発にも動じず、銀静は静かに構える。
    「僕の唐手は未だ未熟なれど……それでもこの方々だけではなく貴方方も魅せたい……とはいえ僕には自分の持てる力を尽くすしかないのですよ」
     歩くように自然な動作で前蹴りを放ち、膝を蹴り動きを止める。そこへ真っ直ぐに右拳を突き出し、水月を突く。普通ならば呼吸を止め悶絶させる一撃だ。
    「ック、思ったよりも効いたぞ」
     僅かに表情を変えたレスラーは腕を掴む。そして右ハイキックでがら空きになった頭部を狙う。
    「やる時はペンギンだって空を飛べるんだぜっ!」
     ペンギンマスクが跳躍する。その姿が天井の照明と重なる。見上げたレスラーが一瞬姿を見失った隙に、膝を抱えて回転し獣爪の如きオーラを足に纏わせて頭を踏みつけた。
    『獣爪落襲撃が脳天に直撃したー!』
     よろめき足を下ろして踏み止まる。そして俊輔を掴まえようとした時、銀静が背後から組み付く。
    「ふふ……少しつれないです……よ!」
     持ち上げバックドロップの要領で後ろに投げた。倒れたレスラーに俊輔が跳んでプレスしながらフォールに入る。
    『ワン・ツー……』
     そこでレスラーの肩が跳ね、円のカウントも止まった。
    「まさか俺の肩をマットにつけるとはな。褒めてやるぞ!」
     闘気を全身から放ち、ブリッジするように起き上がり、俊輔へ向けて跳躍する。庇うように銀静が前に立った。
    『銀静がドロップキックに立ち向かう! だが止められないー!』
     巨体に2人とも吹き飛ばされ、場外まで転がり観客にぶつかってようやく止まった。
     円はゴングを鳴らし、KOによりレスラーの勝ちを宣言した。

    ●第三試合
    『第三戦は一と心太のタッグが挑む!』
     一は大きく跳躍して宙返りしながら着地すると、観客に向けて手を振る。
    「子供と思って舐めてたら痛い目見るぜ?」
    「空手はお遊びだと言うことですが、そんなことはありません。そのことを証明して見せましょう」
     森沢・心太(隠れ里の寵児・d10363)が対峙する。
    「期待しておこう、がっかりさせるなよ?」
     ゴングと同時に一が死角からレスラーに組み付き、抱え上げた。身長差が大人と子供程もある2人。まるで巨人を持ち上げる姿に歓声が沸く。
    「挨拶代わりだ、とっときなってね」
     にししと笑い、一は相手を背中から地面に投げ落とした。
    『これは凄い! 身長差をものともしないボディスラムが決まった!』
     だがレスラーは跳ねる様に起き上がると跳躍した。
    「ならお返ししよう、遠慮なく受け取れ!」
    『巨体が宙を舞うー! ドロップキックを……受けた! 受け止めたぞ!』
     そこに割り込んだ心太が体を締め丹田に力を入れ、三戦立ちでキックを受け止めた。吹き飛ばされそうになるのを堪え切り、反撃に手刀を振り下ろす。
    「ぷろれすの空手ちょっぷは手刀が源流です」
     左の鎖骨を打ち骨を折った。
    「まだまだ行くぜ!」
     一が蹴りを放つ。足元から伸びる狼のような影が、蹴り付けた場所を爪で裂いていく。更に心太が正拳中段突きを打ち、レスラーを吹き飛ばす。
    「これが空手です。あなた達の鍛錬は、拳は、決して劣ってなどいません!この拳は、あなた達の拳です!」
     滅多打ちにされ仰向けに倒れたレスラーが笑う。
    「フッハッハッハッ! いいコンビプレーだ。だがプロレスの醍醐味はここからだ!」
    『強い! ブラックファルコン強い!! ラッシュを受けてまだ起き上がるー!』
     体中を負傷しながらも、レスラーは当たり前のように立ち上がる。そして怒涛のキックの嵐が巻き起こる。心太の体をロー、ミドル、ハイと蹴り、最後にドロップキックで吹き飛ばした。
     背後から跳んで飛び蹴りを仕掛ける一よりも高く跳躍し、その足を踏み台にして膝蹴りを腹に叩き込み撃墜した。
     倒れていた心太が膝立ちでレスラーに組み付く。
    「そんな状態でやれるのか?」
     心太はバランスを崩しながらも何とか持ち上げる。だが投げられない。
    「この攻撃の主役は彼です」
    「くらええええ!」
     そこへ一が飛び込む。飛び蹴りを胸に当て、更に霊犬の鉄も体当たりを仕掛け、変則ツープラトン技となって地面に叩き付けた。そのままフォールへと持っていく。
    『ワン・ツー・ス……』
     2.5秒といった所でレスラーはブリッジで一を押し返す。
    「ここまで追い込まれるとは思わなかったぞ。侮っていた詫びに、奥の手をみせよう」
     まずは心太の太股を踏みつけ顔に膝蹴りを叩き込む。そこへ背後から攻撃しようと迫る一に対して、背中を向けたまま上体を倒し後ろ足を突き上げた。弾丸の如き鋭い蹴りが一の顎を打ち抜き、一瞬にして意識を刈り取られ崩れ落ちる。そしてレスラーがゆっくりフォールすると、3カウントと共にゴングが鳴らされた。
    『決まったー! 最後の技はトラース・キックだー!』
    「これが俺の必殺技だ、ファルコンアローと呼ぶがいい」


    『さあ、次が最後の試合だー! 女子2人のコンビ、フラッシュクロウの入ー場ーッ!』
     純白のリンコスを纏った閃光院・クリスティーナ(閃光淑女メイデンフラッシュ・d07122)と、コート姿の砂原・皐月(禁じられた爪・d12121)が現われる。
    「閃光ヒロイン、見参ですわ!」
    『閃光ヒロインはプロレス部所属の高校生だ!』
     円の説明に、男連中の声援が盛り上がる。
    「来い、相手になってやる」
     コートを脱ぎ捨て眼光鋭い皐月が挑発する。
    「トリの試合にレスラーを出すとは分かっているな。存分にプロレスを楽しもうではないか!」
     皐月向けてレスラーが突っ込む。放たれる右ミドルキックを左腕で受けると、雷を放つ右拳を腹に叩き込む。続けてクリスティーナが逆水平チョップを胸に叩き込んだ。
    「どうした? そんなものか?」
    「まだまだこれからですわ!」
     効いてないと胸を叩くジェスチャーを見せる。するとクリスティーナは一撃、二撃とチョップを繰り返す。
     5発目にしてようやくレスラーの体がよろめく。そこへ追い討ちを掛けようとした時、反撃のローキックがクリスティーナの足に入った。膝を突くとレスラーの膝蹴りが眼前に迫る。
    「その技は何度も見た!」
     皐月が左肩を捻じ込み受け止めると、持ち上げて投げ落とす。
    「同じ技が何度も通じると思うな」
     左腕の感覚を失いながらも、強気の表情を崩さない。
    「いきますわよ!」
     クリスティーナと皐月はレスラーに組み付き、持ち上げた。レスラーの体が逆さまに真っ直ぐに伸びた。
    『これはー! ツープラトンブレーンバスターだぁ!』
     後ろに倒れ込むように叩き付けた。レスラーは頭を振りながら起き上がる。そこへクリスティーナが跳び上がり足で頭を挟むと、そのままバック宙する動きでレスラーの頭を地面に叩き付ける。フランケンシュタイナーが決まった。
    『ライトニング・ラナ炸裂ぅ! これには流石のブラックファルコンもたまらないー!』
     頭を抱えるレスラー。クリスティーナは頭を引っ張って立たせると掌底を打ち込む。ふらふらとリングを歩くレスラーに、皐月も拳を追い打つ。
     クリスティーナがその背後に近づいた時、レスラーは目を猛禽のように鋭くし、後ろへ蹴りが放たれる。来ると分かっていても反応出来ない速度でクリスティーナの側頭部を打ち抜いた。
    『ファルコンアローが決まってしまったああ!?』
     膝を突くクリスティーナに止めのシャイニング・ウィザードを放とうとする。
    「させるかっての!」
     皐月がパイプ椅子を掴んでぶん殴る。衝撃で椅子が砕ける。だが蹴りの勢いは弱まり、皐月が組み付いて動きを止めた。その間にクリスティーナは立ち上がる。
    「プロレスの醍醐味はここからですわよ!」
     クリスティーナは相手の膝を踏み台にして膝蹴りを顔に叩き込む。
    『掟破りのシャイニング・ウィザード返しだぁーー!』
     顔が打ち上げられ体が伸びる。その勢いを利用し皐月が右手で頭を掴んで跳躍し、バスケットボールのように地面に叩き付けた。
    『月をも落とすさっちんダンクが決まったー! そしてそのまま……!』
     クリスティーナがフォールする。
    『ワン・ツー……』
     そこでレスラーが動こうとする、だが皐月が押さえつけ動きを止めた。
    『スリー!!』
     カンカンカンとゴングが鳴った。

    ●勝者
    『勝者フラッシュクロウー!』
     観客が興奮して叫ぶ。ケツァールマスクも満足そうに頷いていた。
    「負けたか……だがいい勝負だった」
    「楽しい戦いでした」
     立ち上がったレスラーに心太が近づき、がっちりと固い握手を交わす。
    「まぁ、プロレスもやってみれば結構面白かったかな」
     スポーツをやった後のような高揚と疲労に皐月も満足していた。
    「俺はまだまだ強くなる。プロレスの強さは無限だということを次のリングで証明してやろう!」
     胸を張ってレスラーは言い放つ。その目は純粋に真っ直ぐ前を見ていた。
    「いいや、次は俺が勝つ。最強を目指す以上お前よりも強くなる」
    「何度やったってオレ達が倒してやるぜ!」
     明と一は正面から見返す。
    「いずれその首、頂きにあがりますわ!」
     クリスティーナはコーナーの上から指差して宣言した。
    「そうか、楽しみにしているぞ!」
     笑いながらブラックファルコンとケツァールマスクは立ち去る。
    「次やる時は一戦交えよーぜー」
    「何時か貴女にも挑めるよう自らを磨きます」
     その去り際に俊輔と銀静はケツァールマスクへ向けて言葉を投げる。
     振り向いたケツァールマスクの口元が笑みを浮かべる。それは強敵を待つ強者の笑みに見えた。
    『プロレスの強さ、空手の強さ、格闘技の奥深さを垣間見れる試合でした。それではこれで本日の放送を終了させていただきます。実況は東谷・円でお送りいたしました!』
     円は何か吹っ切れたようにアナウンスを終える。会場は万雷の拍手に包まれた。

    作者:天木一 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年11月25日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 10/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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