●雄々しく
ケロイド状の傷跡は、その男の背に彫られた龍の隻眼として描かれていた。
詳しい経緯は知らない。
なぜそんな凄惨な傷跡があるのか、刺傷なのか、銃創なのか、誰がつけたのか、いつからあるのか。
だが容易に想像はできた。
抗争があったのだろう。胸側の同じ位置に傷跡がないことから、背中から攻撃された。背中からということは、この男は油断していた。もしくは誰かを庇った。
油断していたのなら、腹心の裏切りがあった。
庇ったのなら、近くに彼の大切な人がいた。組長さん、おじさんの誰か、姐さんの誰か――恋人かも?
そういきついたとき、心の中でどす黒い何かが蠢いた。
白のシャツを着込もうとする男の背に――隻眼の龍にしだれかかって、嫉妬心を巧妙に隠した好奇心を吐露した。
「ねえ、この傷、どうしたの?」
甘ったるい声で尋ねれば、彼はきっと教えてくれる。この声音でお願いすれば応えてくれることは、すでに知っているのだ。
だから、教えてくれる。この好奇心を満たしてくれる。
「――…………っ」
はずだった。
「近藤さん?」
女は焦って男の名を呼んだ。ついぞ聞いたことのない絶叫を上げたからだ。
触れていた背中から離れても、龍の咆哮は耳を劈く。
「傷に、オレの傷に触るな……!」
振り回された剛腕を避ける間もなく、激しい揺さぶりを感じ、一瞬遅れて烈火のごとき痛みが襲ってきた。
「こんどう、さ……」
人間とはかくも簡単に意識を失う生き物なのか――女は、脳裡でそう呟く。
最後に見た男の顔は、鬼の形相。否、黒光りする角を生やした鬼そのものだった。
●淡々とした
エクスブレインの少年は、淡々とした口調を保って話している。
未来予測に一人の羅刹が引っ掛かったという。
名を近藤・芳貴。とある暴力団の構成員の一人だ。
「最近こういった人が頻繁に羅刹化しているんだ」
少年は言う。
このごろ未来予測される羅刹は、これまでのダークネスとは少し違い、凶悪な刺青を持っているのだという。原因は未だ謎、しかし強力な羅刹が暗躍しているらしい。
「なにはともあれ、羅刹による被害は食い止めないといけないからな。ここにいるってことは、この事件を引き受けてくれるってことだろう?」
エクスブレインは言って目を細めた。
大事なことから順番に説明していこう、と彼は続ける。
刺青を持つ近藤は少し特殊だ。完全なダークネスとなる前に倒すと、強力な力を有した刺青羅刹として復活する。
「そのため完全な羅刹となる前に近藤に接触し、戦闘に有利な場所へと誘導、そこで一度KOし、刺青羅刹として復活させた後に討伐――これが今回の事件を解決するに一番だ」
万が一にも近藤の闇堕ちを食い止めることはできない。止める方法はただひとつ、灼滅するしかない。
そうするためにもまずは近藤を屋外に誘き出さねばならない。
「やつは交際中の女のアパートに潜伏している。潜伏先の部屋は一階の角部屋だ。一間の掃き出し窓にワインレッドのカーテンがかかっている。それは細い用水路――ああ、飛び越える必要はないぞ、転落防止用の鉄板で塞がれている――を挟んで、手入れされていない空き地から丸見えだから否が応にも判るだろう」
その空き地は枯れかけの雑草が生えているだけで目立った障害物のない、戦闘を行うにはうってつけの場所だ。
ただし、空き地のすぐそばには車が多く行き交う県道、そして私鉄線路も走っている。
空き地は戦闘にはもってこいだが、沿線の目があることは否定できない。
「もうひとつ、やつの傍にはこの部屋の住人の女がいる。近藤はまだ完全に羅刹と化していないため、この女はただの一般人で、他に配下となる強化一般人はいない。
そのため彼女にはESPが効く。有効なそれを準備しておけば戦闘の障害になることはないだろう。
しかし近藤はすでにESPは効かなくなっている。屋外に誘導する方法は、各自頭をひねってもらって構わないが、近藤は背中の傷のことを詮索されると食ってかかってくる。
どうにも触れられたくない過去らしいし、その傷をつけた者にかなりの恨みがあるんだろう。それを利用すれば簡単にお前たちに注意を向け、襲ってくるはずだ」
ただ詳しいことは一切分からないため、下手に煽りすぎるとぼろが出るからやりすぎないように、と少年は注意を言い添えた。そして一息いれて、灼滅者たちを見つめてから手元の資料をはらりとめくった。
「近藤の使用するサイキックは神薙使いとバトルオーラのそれに酷似したもの。頭に血は上っているもののむやみやたらに突っ込んでくるでもない、どこか冷静な部分がある。ポジション的にはディフェンダーに相当するだろう」
そのほか、刃物や鈍器の類は持っていない。
「最初にちらりと話したが、この刺青羅刹を巡って強大な羅刹が動いている可能性がある。討伐に時間をかけすぎたり、派手に戦って沿線の住人の耳目を集めすぎれば――俺たちエクスブレインの未来予測から外れる。意味は解っているよな」
彼は注意をし、視線を巡らせる。
「全力で解決してきてくれ、頼んだぞ」
参加者 | |
---|---|
畷・唯(血祭御前・d00393) |
東当・悟(紅蓮の翼・d00662) |
トランド・オルフェム(闇の従者・d07762) |
アストル・シュテラート(星の柩・d08011) |
雨霧・直人(はらぺこダンピール・d11574) |
塚地・京介(タンパク質・d17819) |
久瀬・隼人(反英雄・d19457) |
来珠・祈(高校生サウンドソルジャー・d21237) |
●
カメラのついていないインターホンを押せば、大きめの音でピンポンと鳴った。
次いで、女のよそ行きの高い声で返事があり、ややあって玄関が開いた。覗き穴の前に立っていたのはプラチナチケットの効果をいかんなく発揮している東当・悟(紅蓮の翼・d00662)だ。彼の後ろには雨霧・直人(はらぺこダンピール・d11574)が控えている。彼もまた女を錯覚させようとプラチナチケットを発動させていた。
結果、己らが身を置く組の構成員と錯覚したのだろう、突然の訪問に驚き訝った女は、用向きを尋ねた。
「突然すみません、近藤芳貴さんに話があるんですが、呼んでいただいてもよろしいですか?」
最初に口を開いたのはトランド・オルフェム(闇の従者・d07762)だ。にっこりと人当たりの良い笑みを浮かべ、物腰柔らかに申し出れば、彼女は四人の顔を見回して、小さく頷き屋内へと引っ込んでいった。
ふうっと直人がため息をつく。ここからが本番だ。近藤をうまく裏の空地まで連れ出さねばならないのだから。
久瀬・隼人(反英雄・d19457)はじっと黙して、ことの成行きを最後列から見守る。そして、直人もまたすっと身を引いて、悟とトランドに場所を譲った。
「――ガキがオレになんの用だ」
玄関が開いて、果たして出てきたのは男だった。
均整のとれた中肉、後ろへ撫でつけられた長めの前髪がひと房、鋭い眼光にかかって、こちらを値踏みするように口を開いた。
まさしく、近藤芳貴だ。
悟はすぅっと息を吸って、
「年は関係ないやろ。俺ら、龍の刺青のある男を捜してるんやけど」
「ごまんといるぜ、そんなやつ」
眉間に深い皺を刻み、声を低くして悟を睨みつける。これが本物の極道の眼力かと彼は一瞬怯む――しかし、
「では、単刀直入に申し上げます」
口を挟んだのはトランドだった。柔らかくにっこりを笑んでいるトランドだが、その眼鏡の奥の双眸は鋭利に尖り、近藤を射る。ぎろりと眼だけで威嚇されたが、それをどこ吹く風と受け流し、
「貴方の背中、傷跡がございますよね」
近藤が一瞬で気色ばむ。直人は思わず言葉を重ねようかと口を開きかけたが、トランドが続ける方が早かった。
「どうか落ち着いてください。なぜ私たちがそのことを知っているのか不思議なのでしょう? 詳しいことをお話します――そうですね、裏の空地までご一緒いただけませんか?」
一瞬の逡巡――その迷いは、完全に近藤は頭に血をのぼらせきっていないということか。
「ここやったら、さっきの女にも聞かれるかもしれんやろ」
悟がもうひと押しして、近藤は眉間の皺をぴくりを動かした。その下の眼は、悟、トランドと滑り、直人、隼人へと移っていく。
誰もが強く近藤を睨み返し、折れぬ意志を示した。
「ふん、良いだろう。聞き出してから、殺してやる」
「お手柔らかに」
にこりと笑んだトランドが先に歩き出せば、その後を近藤がついていく。そして、隼人は魂鎮めの風を屋内へ送り込んだ。
恋人の後を追ってこないように、しばらく寝ていてくれ――そんな思いを込めて。
そのまま隼人は殿を務め、四人の後をついていく。
近藤のその精悍な背には、どんな過去が詰まっているのか。それはもう永遠に知り得ることのできない、一つの物語だろう。
近藤は、今日、灼滅されて消えゆく運命にあるのだから。
●
「大丈夫かな?」
塚地・京介(タンパク質・d17819)はぶらぶらと空地を歩き回りながら、アパートの方を見やる。さっきから特段変化はない。
接触は出来たのだろうか。
交渉は決裂していないだろうか。
よもやあちらで戦闘が始まっているのではないか――そういった不安の一切を振り切って、京介は四人を信じて待つしかなかった。
ほどなくして、仲間の連絡を待つ四人の携帯電話が、メールをほぼ同時に受信した。マナーモードのそれぞれのものが一斉に震える。
悟からだ。内容は実に簡潔――誘導成功、今から向かう、準備よろしく!
各々スレイヤーカードを取り出して解放する。手に馴染む武器の感触に、否応なく緊張が高まった。
近藤がどれほどの力を持っているのか、刺青をめぐる謎とはなんなのか、暗躍する羅刹の正体はいかなるものなのか――考えても想像の域を出ない詮ないことだ。
それよりも目の前の敵に集中する。来珠・祈(高校生サウンドソルジャー・d21237) は込み上げてくる不安を押し止め、白とピンクの薔薇のバレッタで髪を留めた。
アストル・シュテラート(星の柩・d08011)はサウンドシャッターを展開させて、空地を防音地帯に変える。戦闘の音はこれで漏れなくなった。そして、猛烈な殺気を放った畷・唯(血祭御前・d00393)が、沿線の住人たちの意識を他へと遠ざける。
「これでなんとかなりそうだね」
「そうね。あとは倒すだけね」
アストルと唯が言葉を交わす。それを聞いた京介は仕方ないと腹をくくる。本当は灼滅なんぞしたくないが、だれかが止めなければ被害は広がるだけだ。ならばそれだけの力を有した己らが動くしかない。
「来たようね」
準備を整えて待っていた唯らの前に現れたのは、仲間と初めて見る成人男性――あれが近藤だ。
「なんだ? ガキばっかり、集めやがって、なめてんのか!?」
「なめてなんかいません。お気に障ったなら申し訳ございません――」
英国紳士然とトランドが声を上げる。
「ただ、貴方の刺青に興味があるだけです」
「せや、その傷、ちょっと見せてぇや!」
ひゅっと息を吐いた悟が影業を閃かせる。近藤がこちらを向いた瞬間に叩き込まれた漆黒の刃が、袈裟がけに胸を斬り裂いた。
「我が名は畷・唯。人に害をなすものを絶つ者だ!」
厳然と名乗りを上げて、強烈な殺気を噴き上げ、《月刀【紅】》を抜刀。真っ赤な刀身は、背から胸へと一突きにした。
「なっ!?」
喀血した近藤は瞠目して、振り返って唯を見る。刀を引き抜いた彼女は、きゅっと唇を引き結んでいる。
そして、京介は影業をざわつかせて、「よろしくっス、近藤さん。でも、ごめんなさい」と謝って、血にまみれた犬歯を剥き出しにした近藤へ、鋼鉄のごとき拳を叩き込んだ。
「悪く、どうか、悪く思わないで……」
祈の囁くような声――近藤を止める方法はこれしかない。もはや己らにできることは、害悪を振りまく前に、その生を終わらせることしかないのだ。
この惨劇を周囲から隠そうと直人はヴァンパイアミストを展開させる。しかし、それは仲間たちを淡く包んで力を与えた後、霧散して消えた。やはり目眩ましとしての効果はない。
「こんな、ガキ、相手に……! く、そ……」
近藤の白いシャツは見る間に朱に染まっていく。体は膝から崩れ落ち、背を天に向けたまま、呆気ないほど簡単に事切れた。
否、羅刹として、生まれ変わった。
●
「うう…ぐああああっ!」
理性を振り切ったような絶叫を上げた近藤は四つん這いなって、ぜいぜいと苦しげに喘ぐ。よだれをだらだらと垂らし、割れんばかりの凄惨な叫び声を上げて、のたうちまわった。
だがそれは間もなくして終わった。転瞬、訪れた恐怖すら感じる静寂――それを破るように電車が通り過ぎた。
「おかしい……、なんだ? オレの……、オレの力はどこだ……?」
しゃがれた声で近藤が誰にともなく訊く。
「力?」
唯は訝って聞き返したが、奴は答えない。
「力が足りない…! オレの力が、全然、足りない!!」
双眸が爛々と光り、力を求めて暴走する近藤の異様な様子に、アストルははっきりと眉根を寄せた。
「倒さしてもらうで!」
羅刹として覚醒した近藤を救える方法は、灼滅のみ。それは灼滅者であれば骨の髄まで理解している。だから八人は全力で近藤に向き合った。
迅速に布陣を終え、各々の手には使い慣れた武器が握られている。
エクスブレインは言った――戦闘を長引かせる、または、周囲の耳目を集め過ぎれば、より強力な羅刹が現れる、と。
そんな不測の事態は何としても回避したい。
ならばどうすればいいか――答えは単純明快。さっさと倒してしまえば良い。
鬼神変を叩き込むアストルと隼人。二人の攻撃を受けてぐらつく近藤は真っ赤なシャツを脱ぎ捨て、背の壮絶な刺青を露わにさせた。
隻眼の昇り龍。
凄惨に潰された片目でこちらを睨みつけてきている。直人は龍の発する無言の圧力を振り払い、《静寂の聖書》を煌めかせた。小さな光輪が悟の眼前でまばゆく輝く。
(「みんなの足を引っ張らないように、しゃんとしないと…!」)
祈は自分に喝を入れて、まだ誰も傷を負っていないので、近藤へ咎人の大鎌を振り下ろす!
断罪の斬撃をくらって、呪いを受けた。
次いでトランドが躍り出る。アヌビスの頭が象られた黒いマテリアルロッドに神秘の力を発露させ、強靭な肉体へと叩き込めば、力の奔流に抗うこともできず、彼は苦悶の声を漏らした。
その隙を見逃さず、悟がロケットスマッシュを見舞い、唯の真紅の刃が閃く。
「力が足りないってどういうことっスか?」
京介が尋ねるも、近藤は喉の奥を低く唸らせるだけで、答えは返ってこない。ともあれ最初から期待していたわけではない。京介の足元から影が伸びて近藤に絡みついた。
だがそれを物ともせず、近藤は鋼の如く強化した拳を京介に叩き込む!
ずどんと強烈な衝撃に視界がぶれた。
「つうッ…! さ、すがっスね!」
イテぇと口をつくも、「京介先輩、大丈夫?」とアストルが声をかけ、近藤へ肉薄し、《砂蛍》を振り下ろした。
「だいじょぶ、だいじょぶ……おお、イテぇ」
アストルの続く攻撃を見やりながら、京介は返事をした。
「今、癒すね」
刹那、祈のエンジェリックボイスが戦場に響き渡る。その声に秘められた治癒の力が京介から痛みを少し取り除いていく。そして、直人のシールドリングが京介の目の前に現れた。
瞬間、目の端を氷柱が飛翔した。隼人だ。妖の槍が放つ妖気が氷点下の怨念を解き放ったのだ。
「凍っておけよ」
冷徹に黒瞳を細めて隼人。
「糞ガキどもが! 粋がってんじゃねえぞ!」
「おや、氷漬けもなかなかお似合いですよ」
ぜいぜいと苦しそうに息をする近藤へ、トランドはにこりとしたまま言い捨てた。そしてその姿が消える。
「糞ガキに死角をとられるなんて、案外お間抜けさんなのでしょうか」
一切の容赦ない斬撃がトランドがら繰り出される。ずたずたに引き裂かれ、防御が薄れた近藤は憎々しげにトランドを睨みつけた。
「よそ見をしている暇はないぞ!」
唯の疾駆――真っ直ぐに振り下ろされた真紅の刀は、ひどく重い斬撃だ。確かな手応えを感じ、唯は一足飛びに退り間合いを取れば、今度は悟が疾駆――近藤の死角に入りこんで黒死斬を食らわせる。
「さっきはよくもやってくれたっスね! けっこー痛かったっスよ!」
京介が仕返しとばかりに鋼鉄拳を、真っ向からねじ込んだ。後ろによろめきながら、近藤はぐうと唸る。
しゅうしゅうとオーラが近藤の周りを渦巻いている。それは明らかに近藤の体力を回復させるものだった。
攻撃よりも回復するとこを優先させた――たたみかけるなら今しかない。灼滅者としての勘が働く。
躍り出たアストルは、《箒星》から溢れ出るオーラを両拳に集中させて目にも留まらぬ拳打を繰り出し、その猛ラッシュが終わった瞬間、トランドの閃光百裂拳が鮮やかに極まった。
「悟先輩、やるっスよー!」
「まかしとき!」
ガトリングガンを構えた悟と京介が解き放った爆炎は雨あられと降り注ぎ、次いで襲うのは無数の刃――咎人の大鎌を一閃した祈だ。虚の力を召喚させ、そのすべてを降り注がせる。
隼人の足元から伸びる漆黒の影が鋭利な刃となって近藤を斬り裂いて、それに続くように直人も斬影刃で攻撃する。
息もつかせない怒涛の攻撃に堪らずよろめいたところへ、唯の影が疾った。疾風の如き速さで抜刀された真紅の刀は近藤の最後の力を奪う。
凛呼たる声明。
「我が月刀に断てぬものなし!」
●
どうっと倒れた羅刹の肢体は、間もなくして、急速に風化するように砂へと変じていった。そして吹いた風に流されていく。
初めからそこに誰もいなかった、何事もなかったかのように。
その様子を見た祈は、その場に崩れ落ちた。心臓が痛い。鼓動が速くて、息をすることも辛い。祈は口元を押さえ、小さく震えていた。
「ありゃ、消えたか……刺青、調べられなかったな」
京介のどこ吹く風然としたあっけらかんな声が小さく聞こえた。
「彼女さんは、こんなお別れ……嫌だよね」
アストルは近藤の恋人が眠っているはずのアパートを振り返り、ぽつりと呟けば、直人が頷いた。
「うん……そうだな、寂しく思うだろうな」
あのまま放置していれば近藤に殺されていただろう女の命は救った。しかし、そこにはやりきれない思いが確かにあった。
「それは、もう、俺らには分からんけど――嫌なことも良いこともひっくるめて背負っていかななぁ」
悟もまたアパートを振り返り、呟く。その心に宿る大きな信念が言葉を紡がせる。そう言ってのける後輩に、直人は感嘆した。
「そうなんだが……悟はすごいな」
「すごないよ、全然……俺もダークネスらとおんなじように逝ってもても、好いた女には覚えといてほしいやん――なーんて♪」
神妙な表情をさっと隠した悟は、直人を振り仰ぎにかっと笑う。その笑顔に面食らって、つられて曖昧な笑みを浮かべた。
「そろそろ帰ろうか、いつまでもここにいると目立つかもしれないし」
唯が進言すれば、「そうだね、賛成」とアストル。
「ではみなさん、お疲れさまでした」
にこりと柔く笑みを浮かべたトランドに、異口同音で返す。
「うん、お疲れさま」
作者:藤野キワミ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年11月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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