学校を良いものにしたかった。いじめもなくて、嫌な思いをする事もなくて、毎日皆が楽しく通ってくる場所に。
ボクは色々考えたり行動に移してみたりしたけどうまくいかなくて悩んで悩んで。
でも、ある日、全部がうまくいくようになった。ボクの言葉を皆聞き入れてくれる。同じ考えの人が増えて、ボクの言う事を全部聞いてくれる。
休み時間に高田先生が声をかけてきた。
「古城君、6組の宗田が君の事を良く思ってないようだ、シメてやるとまで言っている」
「ふぅん、でも、先生なら上手くやっておいてくれるよね。頼んだよ」
ポンと肩を叩くと先生は嬉しそうに笑みを見せて答える。
「任せてください」
すべては順調に行っている。
古城ユウタ君は現在千葉の中学に通う少年だ。中学一年だな。彼は理想を抱いていた。だが、それを叶えようとした時、道を誤ってしまった。
今は自分のクラスをほぼ支配しているという程度だが、ダークネスの力を使えばやがて彼が学校全てを自分の思うままにする事もできるようになるだろう。
彼は今や闇落ちして、ダークネスになりつつある。ただ完全にではない。まだ、人としての意識を保っている。
もっとも放っておけば、いずれ完全なソロモンの悪魔となってしまうだろうけどな。皆にはその前に間に合うなら救いを、間に合わないなら灼滅をお願いしたい。
ユウタ君に接触するチャンスは放課後、彼は大体6時半ごろ下校する。人通りの少ない道で途中さびれた公園を通る。説得も戦闘もしやすいだろう。
説得方法は任せる。まるきり聞き耳を持たないって訳ではないから、君たちが話す内容次第では彼らの戦闘力を下げることが出来るだろう。
あ、今、彼らって言ったのはユウタ君は下校時は一人じゃなくて、いつも取り巻きを連れているんだ。
担任で剣道部の顧問をしている高田先生とユウタ君と同じクラスでやはり剣道部の大内君、山根君、彼ら3人は戦闘となると日本刀を持って戦う事になる。
そしてユウタ君はソロモンの悪魔の力と影業を持つ。
つまり戦闘となれば皆はこの4人と戦ってもらう事になる。覚悟しておいてもらいたい。
この任務も油断さえしなければ、皆ならきっとやり遂げられるだろう、吉報を待っているよ。
参加者 | |
---|---|
アリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814) |
各務・樹(コルドゥアジュール・d02313) |
霈町・刑一(本日の隔離枠 存在が論外・d02621) |
五十里・香(魔弾幕の射手・d04239) |
日凪・真弓(戦巫女・d16325) |
鬼追・智美(メイドのような何か・d17614) |
久瀬・雛菊(蒼穹のシーアクオン・d21285) |
ラツェイル・ガリズール(真理を求めし旅人・d22108) |
●接触
「こんばんは、小さなビッグブラザー」
アリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814)の声掛けに、ユウタは眉を顰め振り返った。独裁者を意味するビッグブラザーという単語に反応したかは定かではないが、何かしら不穏な響きを感じたのだろう。
「お話があるから、そこの公園まで来てくれるかしら?」
続く言葉にしかし彼は余裕のある様子で、
「いいですよ」
彼が取り巻きの三人を振り返ると彼らも無言で頷いた。
少々火の粉が降りかかるような目にあっても、今の自分なら軽く振り払える、そんな風にユウタは考えていたのだろう。
「学校生活は楽しい?」
公園の中央の広場まで辿り着くと不意にアリスが尋ねた。
「ええ、まぁ」
「そうでしょうね。全てが思い通りになるんだから。あなたがしていることは、他の人の心を塗りつぶして、自分の色に染め上げているに過ぎないわ」
「何が言いたいんですか」
「社会は単色じゃない。色んな考えの人が、折り合いを付けながら共存しているもの。学校は、そうした社会に出て行くための準備の場所よ。それを人形だけの箱庭にしてしまっては意味がない」
「理想を形にするのが大変なのはわかります、でも、」
ラツェイル・ガリズール(真理を求めし旅人・d22108)が呟くように、続ける。」
けれどそれで安易な道を選んでしまう事は“悪魔の囁き”に従ってしまう事は……それが本当の悪魔の力であればなおの事問題だ。
「そう、現実はおいそれとは理想に近付かない折り合いをつけて妥協点を見出すのが関の山」
五十里・香(魔弾幕の射手・d04239)が彼を真正面から見据え、言う。
「人によると思います」
ユウタは口の端に笑みさえ浮かべ、そう返す。
彼の中に理想はまだある。しかし、その土台が邪な力によるものならば、いずれ道を踏み外すだろう。そうなってしまう前に。香が構える。
「お前の覚悟の程を確かめさせてもらう」
「ふぅん……僕も力を使わせてもらいます」
ユウタがうっすら笑い、後ろに退くと彼を守るように取り巻きらが日本刀を持ち、前に立ち塞がる。
「それじゃ、こちらも行くとしますか。みんな、準備はOK?」
アリスの声かけに合わせ、それぞれがカードを掲げた。
●戦闘
「Bienvenu au parti d'un magicien!」
各務・樹(コルドゥアジュール・d02313)がオーラを身に纏い、魔導書を胸に抱き、魔法使いの姿となる。
「変身!」
久瀬・雛菊(蒼穹のシーアクオン・d21285)がフルアーマー姿のご当地ヒーロー『シーアクオン』となる。
(「自分の無力に抗おうと願った末の結末が滅びだなんて認めたくないから……行くよ蒼穹、イカスミちゃん」)
そしてアリスが、
「Slayer Card Awaken! 凍てつく天の果てより降り来たれ、魔狼の息吹」
前に出た三人をフリージングデスで氷のダメージを与える。
公園の明かりとそれぞれが持ち寄ったランプの光があれば光源に問題は無い。
アリスの殺界形成、香のサウンドシャッターが起動し、現場に人が来ることもない。只全力を尽くすのみ。
「あんまり仲のいい人たちまで利用しちゃ駄目ですよっと」
霈町・刑一(本日の隔離枠 存在が論外・d02621)は鏖殺領域を取り巻きに向け放ち、自身の能力値も上げていく。
「利用じゃない、彼らは喜んで僕に協力してるんだ!」
チッチッチッ、ユウタの言葉に人差し指を振り、それは違うとジェスチャーする。
「今のユウタはちょいと人ならざる力で独裁してるに過ぎないんですよね。そんなんじゃユウタが目指してる楽しい学生生活も偽物になっちゃいますよ。簡単なことじゃないですけどやるなら真っ当な手でやりましょう!」
「真っ当だって? こんな世の中でそんなのどうやってするのさ?」
皮肉気に返すユウタに、刑一はちらりとアリスに目を向け、
「さっき彼女と話してたじゃないですか、学校なんですからそれを皆で学ぶのですよ~」
灼滅者らは冷静に前に出ている取り巻きらの体力を確実に奪い、バッドステータスを彼らに与えていく。
「……3人ともやられっぱなしでいるな、行け!」
「はっ!」
ユウタが取り巻きをけしかければ、彼らがそれぞれ横薙ぎのの衝撃波を飛ばし、灼滅者ら全体にダメージとこちらのエンチャントを崩そうと図ってくる。
彼らとて黙って攻撃を受けているわけではない。
アリスは光剣、雛菊は蒼穹のアナゴストライクで彼らの攻撃をいなす。それでも浅くないダメージを受けた者はやはりいて、ユウタが見まわし、嬉しそうに声を上げる。
「さぁ一番弱ってるのは誰かな、お前か!」
ユウタの漆黒の矢が木梨・凛平(小学生神薙使い・dn0081)に狙いをつけ、放たれる。
「イカスミ、あなたに任せるんよ!」
「お願いしますね!」
雛菊と鬼追・智美(メイドのような何か・d17614)がそれぞれの霊犬とライドキャリバーに命じ、両者が矢の動線を遮り、霊犬がその矢をまともに受ける。
「大丈夫ですか、今、治します」
知美が間髪をいれず、癒しを施す。
チッ、ユウタは小さく舌打ちする。だが、まぁいい。これぐらい何とでも。
「どうだ、彼らの統制力! 僕の力があってこそさ」
「あなたは気付いているのだけれど、あえて目を逸らしているのでしょうか」
「何?」
日凪・真弓(戦巫女・d16325)は彼を追いつめたいわけではない。彼の理想の崇高さを彼女は素晴らしく思う。だがそれだけに今の堕ち掛けている姿はなお痛ましい。彼が再び理想を求めていく姿を見たいと彼女は思ったから。あえて言う。
真弓は日本刀を改めて構え、剣を目の前の学生に向け迷いなく下す。雲耀剣の一撃にその男は倒れ伏す。
「皆がこの人たちのように貴方だけの言葉を聞き、貴方の言う事に逆らわない……それは支配って言うんですよ」
残ると取り巻きは、教師に大内。
「貴方がたに罪はないのかもしれませんが……申し訳ありません、少々お休みください」
ラツェイルの雷撃がもう一人の学生に直撃し、動きを止める。
ユウタが明らかにいらだった様子を見せる。
「何故邪魔をするんだ、僕の気持なんかわかるはずもないのに」
「わかる!」
雛菊が勢い込んで返す。自分が守れなかった者たちの姿を思い出しながら、彼女はユウタに語りかける。
「力が足りなくて無力感を味わったんも、それで挫折しかけたんも、わたしも同じだったから……けどな、その力でしてるのが理想と外れた支配なんて、それじゃ本当に願った事は叶わないんよ、思い出して……貴方の願った事を!」
「願い、なんてそんなの……」
自分はただ理想的な……理想って何だっけ。
「たーっ!」
と、残っていた教師が刑一に不意に躍り掛かった。
「なんの! 面! 胴! 小手!」
刑一がカウンターのようにトラウナックルを食らわせた。
「ぐっ」
教師が前のめりに倒れ伏す。
ユウタだけが取り残される。
「くそっ、お前らよくも先生たちを」
と、智美が首を横に振り、
「違いますよ、ユウタさん、これは貴方が望んだ結果。異を唱える事なく、貴方の命令に従うだけの人達に囲まれて『心無い』ロボットに命令を下していただけのあなたが生み出した現実」
「違う、こんなの、僕が目指すのは」
ラツェイルが彼に訴える。
「理想の実現の為の手段が、その理想を破綻させているんですよ。その事に気づいて下さい!」
「うるさい、うるさい!」
苛立ちをぶつけるように手を払えば灼滅者らは突然の凍てつきを覚える。ただ寒いだけでなく、体力を根こそぎ奪いそうなほどの。
「大丈夫ですか」
「今、治すぜ、待ってな!」
凛平とヘキサがそれぞれ癒しの風を皆の間に吹かせる。
如何にソロモンの悪魔が強力と言えども一人だけで戦う彼の先はもう見えていた。だが彼は吠える。
「見ろよ! 僕はこんなに強い。そうさ、先生たちがもう無理でも」
樹は浄化の風を仲間に施しながらユウタをまっすぐ見据え、問う。
「今、ユウタくんのやっていることといじめと何が違うのかしら?」
「君らが弱いって話かい?」
「違う」
樹は首を振り、否定し、
「自分と意見の違う子、気に入らない行動をした子、丁度今の私たちみたいにしてた人たちにユウタくんは何をしてたか思い出してみて。するのもされるのも嫌だって思わない? 今ならまだ間に合うわ」
「間に合うはずなんて……うっ!」
香が魔法の矢を放てば容赦なくユウタに突き刺さる。
「つらいか。ダークネスに堕ちようとしている身ならばなおの事かもな、だが、道を違える前の自分を思い出せれば」
「前の自分……でも、そんな事したらきっと今の、力を失……」
「理想の重みに潰されそうだというなら諦めたっていい」
香の言葉にユウタは嫌だと首を振る。
「なら耐えきれ、乗り越えろ。自分自身がそう願うのだろ」
「自分が……ぐぁっ!」
智美の放つ、神薙刃、風の刃が激しく彼を切り刻む。
「ごめんなさい、でも、私……ううん、私たちは本当の貴方に戻ってほしいんです」
「本当の、僕……」
そうしてソロモンの悪魔としてのユウタは倒された。
●戦闘を終え
「僕は間違ってたのかな」
地面にしゃがみ込んで項垂れるユウタにアリスが尋ねる。
「目は覚めた?」
「え?」
「世の中は広いし、あなたの思ってるほど甘くもないのよ。今は学ぶ時、皆と手を取り合って考えなきゃいけない時間なのよ」
脇から智美も彼を覗き込み、
「私は改めさせたいなんて傲慢な事は言うつもりではないんです。ただ本当に望んでいる事には借り物ではない自分自身の力で臨んで頂きたいのです」
「それは……でも……もう、今の学校じゃ」
俯く彼の頭に、ぽむ、誰かの手が載せられ、優しく優しく撫ぜられる。
「ほんなら、私らの学園に来る? 君と同じような思いを抱えた子たち、きっと、おるよ」
頭を撫でられてたんだと気付いてユウタは慌てて立ち上がる。
「僕は!」
恥ずかしさと嬉しさのないまぜになったような複雑な顔。
「あの、僕は……」
最後まで言い切る前に、ユウタは気が抜けたように倒れ込む。
「おっと」
雛菊は彼をそのまま抱きかかえるように支えてやり、
「この子来てくれるて言うてくれるかな、そうしたらいいんやけど」
そう呟いた。
作者:八雲秋 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年12月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 6
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