スパッツ幼女が殺せない

    作者:雪神あゆた

     その部屋は、散らかっていた。空になったインク瓶が転がり、筆や原稿用紙が散らばっている。机の上には新品のスパッツが三枚、何故か置かれていた。
     そんな部屋の中央に布団が敷かれ、一人の少女――ミユウが眠っていた。
     彼女の頭の横に、四角い機械。機械の上でランプが点滅している。
     少女は夢を見ていた。
     夢の舞台はどこまでも続く荒野。そこにミユウが立つ。彼女は斧を持っている。
     彼女の前には、銃を持った兵士数人が立っている。銃口は少女に向けられているが、少女は怯まない。
     彼女は怒鳴る。
    「人間なんて滅んでしまえ!
     皆、ボクのことを気持ち悪いとか、変だとか言うんだ!
     ノートにつけてた漫画を勝手に見て、キモチワルイっていったクラスメートみたいに!
     だから、死んでしまえばいい!」
     ミユウは疾走。兵士が引き金を引くより早く、斧を叩き込む。飛び散る血。
     兵士を全滅させたミユウ。彼女の前方に、新たな人影が現れた。
    「どんな奴でも殺すんだ!」
     現れたのは、幼女。体操服を着た幼女が三人。下半身につけているのは――。
    「スパッツ?!」
     彼女はスパッツを履いた幼女が好きだ。
     去年、たまたま見に行った小学校の運動会でスパッツ姿の幼女を見、愛らしさに感激した。そして、その感激を人に伝えたい、表現したい、そう思ったのが、イラストや漫画を描き始めたきっかけ。
     結果、ミユウは気持ち悪い人扱いされてしまったのだが。
     スパッツ姿の幼女らは敵意を瞳に宿し、近づいてくる。
     ミユウは斧を構えない。
    「できない。スパッツの幼女に攻撃なんてできないよ!」
     
     教室で。火伏・狩羅(砂糖菓子の弾丸・d17424)が苦い笑いをうかべていた。
    「あはは……スパッツ好きが本当に事件に……」
     狩羅に、姫子が頷く。
    「はい。狩羅さんの推測を基に調査したところ、スパッツ好きの一般人が関わる事件を発見しました」
     その一般人の名前はミユウ。博多在住の、高校二年生の女子。
    「彼女がHKT六六六人衆の研修生となって、謎の機械を受け取り悪夢に囚われているのです。
     事件を起こしているのは、シャドウの協力を得た六六六人衆。悪夢を見ているミユウさんを、新たな六六六人衆として闇堕ちさせようともくろんでいるようなのです」
     ミユウは、自ら望んで悪夢を見ているようだ。だが、一般人が闇堕ちさせられようとしているのを黙ってみているべきではない。
    「ミユウさんが夢の中で、殺戮ゲームを行っています。その夢に入り、殺戮ゲームを食い止めてください」
     
     ミユウの夢の中には、ミユウの枕元にある『謎の機械を媒介』にして入ることが出来る。
     ミユウは現在、スパッツを履いた幼女達の前で、戦意を喪失している。
    「戦意を喪失したミユウさんを護り、スパッツ幼女たちを倒してください。」
     スパッツ幼女はとてもリアルだが、強い敵ではない。
    「ですが、簡単に撃破してしまうと、ミユウさんは『助っ人キャラが自分の代わりに苦手な敵を倒してくれた』と、ゲームを再開させ、次の敵を呼び出してしまいます。
     それを防ぐために、敵を倒す前に、これ以上ゲームをしないように説得する事が必要です。
     ミユウさんが殺戮ゲームにのめり込んだのは、漫画をクラスメートにバカにされ、人間嫌いになったから。
     ミユウさんが今回戦意をなくしているのは、彼女が無類のスパッツ好きだから。スパッツへの愛を表現したくて漫画を描き始めた程。
     だから、スパッツ少女たちが敵となって、戦意を喪失してしまったようですね。
     以上を踏まえて説得してみて下さい」
     可能ならば、彼女が二度とHKT六六六人衆の誘惑に乗らないように更生させてあげられれば、なお良いだろう。
    「後、確率は高くありませんが。一般人を目覚めさせると、察知した六六六人衆がソウルボード内に現れるかもしれません。
     その場合、六六六人衆が現れた時点で目的は既に達しているので、戦わずに悪夢から撤退して問題ありません」
     説明を終えた姫子は灼滅者達を見る。
    「何かを好きになる事って決して悪くないことのはず。
     どうかミユウさんを助けてあげて下さい。よろしくお願いしますね!」


    参加者
    泉二・虚(月待燈・d00052)
    水瀬・瑠音(改竄四連続失敗中・d00982)
    天衣・恵(無縫・d01159)
    殺雨・音音(Love Beat!・d02611)
    楯守・盾衛(シールドスパイカ・d03757)
    斎賀・芥(漆黒・d10320)
    天野・白蓮(斬魔の継承者・d12848)
    月姫・舞(月夜に舞う殺人姫・d20689)

    ■リプレイ

    ●行こう、スパッツの夢へ
     足の踏み場もないほど、インク瓶や紙が散らばっていた。スパッツもある。部屋の中央では、すぅすぅ、寝息を立てるミユウ。ここはミユウの部屋だ。
     泉二・虚(月待燈・d00052)は床に落ちた紙の一枚を拾い上げる
    「ふむ。これが、彼女の漫画原稿か」
     出てくる登場人物は全員スパッツの幼女。ストーリーもほとんどなく、とにかくスパッツ幼女が動き回るだけの、内容だ。
     楯守・盾衛(シールドスパイカ・d03757)は原稿を覗き見、大きく肩をすくめた。
    「嫌ンなる程スパッツしか書いてねェ……闇堕ちすンの待ッて、灼滅しちャ駄目なンですかねぇ」
     殺雨・音音(Love Beat!・d02611)は頬をぷくうと膨らませ、盾衛に抗議する。
    「盾衛ちゃんったら~。そんなこと言っちゃ駄目っ。ミユウちゃんがスパッツ好きなおかげで、闇落ちが止められるんだもの☆」。
     天衣・恵(無縫・d01159)は音音に、うんうんと頷きつつ、自分の荷物を漁りだす。
    「そうそう、闇落ちは阻止しなきゃ! だからコレ持って来たよ! 準備はバッチリ。みんな穿こ、穿いちゃお!」
     そして。じゃーん♪ とソレを取り出した。ソレは、スパッツ。

     しばらくの後。灼滅者は、夢に入り込む。
    「こ、こないでっ」
     悲鳴。見れば、鎧をつけた女子、ミユウが大慌てで走っている。彼女を追うのは、三人の幼女。小学生低学年くらいのスパッツ幼女。
     幼女とミユウの間に、水瀬・瑠音(改竄四連続失敗中・d00982)は割り込んだ。
    「ミユウ、助けに来たぜ。安心しろ、私はスパッツ愛用家だ」
     自分のスパッツを掌で軽く叩き、ミユウに笑いかける。そして幼女に向き直った。
     虚ろな目で近づく、スパッツ幼女。灼滅者は彼女らの前に陣取る。
    「どいて……」
    「そのお姉ちゃんは殺すの……」
     呟く彼女らに、月姫・舞(月夜に舞う殺人姫・d20689)はうっすらと笑む。天野・白蓮(斬魔の継承者・d12848)は、目に闘志を満たしていた。
    「貴方は私を殺してくれる? それとも、殺されるのかしら?」
    「刀匠・天野の名において命じる、胎動せよ……金剛の刃牙!」
     舞と白蓮は封印を解く。他の者も二人に続いた。
     斎賀・芥(漆黒・d10320)は迫りくる敵を見ながらぽつり、呟く。
    「(男のスパッツなら……いや、そんな事より、今は戦いだ)」
     首を振ると、クルセイドソードとサイキックソード、二振りを構えた。

    ●スパッツについて語りあかす時
     幼女たちは走りだす。
    「どいて……」
    「誰がどくものか!」
     芥は両手を広げ立ちはだかる。幼女の一人が跳んだ。膝が芥の顔にあたる。さらに別の一人の拳が、腹へ刺さる。
     芥は涼しい顔を崩さない。気で体内を満たし、治療する。
     芥は幼女の攻撃に耐えながら、ミユウを振りかえる。
    「殺戮ゲームをしても、スパッツを愛する人は喜ばないぞ! ここにいるスパッツ好きに聞くと良い」
     ミユウは呆然とした顔をしていたが、芥の言葉に灼滅者たちをまじまじと見る。あらためて女性陣の腰に目を止めた。舞も、恵も、音音も、瑠音も皆、スパッツを穿いている。
    「スパッツ好き?」
     瑠音が力強く頷いた。そうだ、スパッツはいいものだと。
    「そういや、スパッツ愛で漫画を描いてるんだってな。すげぇじゃねぇか。私も読んでみてぇ」
     瑠音はミユウに近づき、彼女の手を握る。ミユウは手を振りほどこうとしない。
     瑠音は彼女の目を見、
    「同じスパッツ好きとして言わせてくれ。このゲームは今日で終いにしよう。リアルにゃ、もっと面白れぇゲームがあるぞぉ。教えてやる」
    「リアル……現実……? やだ、戻りたくない」
     リアルの単語を口にした途端、ミユウの表情が変わる。そこには、嫌悪感、怒り、怯え……。
    「現実じゃ皆、ボクをバカにするっ」
     虚は首を左右し、冷静ながらも厳しい口調で問う。
    「認めない者がいたら、それで現実から逃げるのか? 逃げる程度しか、スパッツを好いていないのか? 違うであろう。私はお前の漫画を読んだが――」
    「勝手に読んだの?!」
     ミユウは反射的に怒鳴り返してくる。それでも、虚は続けた。
    「そこには、スパッツへの愛が確かにあった。愛を知るお前なれば、現実を見据えられる。逃げる必要も誰かを傷つける必要もない」
     ミユウはさらに怒鳴ろうとしていたが、口ごもる。やがて、ぼそり言葉を紡ぐ。
    「スパッツへの愛があれば、現実から逃げるべきじゃない……?」
     その呟きから、芥、瑠音、虚の説得が彼女の胸に届いていることが、分かる。

     一方、
    「スパッツを活かした、スパッツキックだよ……」
     幼女のとび蹴りが、舞を襲っていた。足裏で顔面を蹴られた舞は、半歩後ろにさがる
    「なるほど……では、今度は此方の番」
     舞はギターの弦の上で指を動かす。紡がれるのは妖しい音色。幼女が耳を押さえうずくまる。音波が効いているのだ。
     敵の攻撃がやんだ頃合いを見計らい、舞は指を止め、ミユウに言う。
    「スパッツ好きに悪い人はいません。本当にスパッツ好きなら、これ以上悪いことをするのをやめなさいな」
     白蓮が舞の言を引き取った。
    「そうだ、やめちまおう。お嬢は殺人ゲームを心から楽しめてないだろ? 好きな物を殺すことに躊躇してるんだから」
     幼女たちを眼で示し、白蓮は続けて問う。
    「ゲームを続けるのは、好きな物を捨て、自分の想いすら否定しちまうってことだ。嫌だろ、そんなの?
     だから、もうこのゲームの電源を切っちまおうぜ」
     今度は、音音と恵がミユウの前に立つ。
    「このまま先に進めば、もっといっぱいスパッツようじょちゃんが出てくるよ~。出てくるだけじゃなくて、殺されちゃうかも~」
     大げさに身を震わせる音音。
    「殺されなくたって、ゲームを続けていって人を滅ぼしたら、スパッツ穿く人がいなくなっちゃうよ!」
     恵は声を張りあげてゲームがもたらす悲劇を訴える。
    「負けて殺されても、勝って人を滅ぼしても、未来に出会う沢山のスパッツようじょちゃんと巡りあえないっ! そんなの勿体ないよっ」
     音音は悲しそうに表情をゆがませる。
    「スパッツの素晴らしさを広めたいなら、心ない人の言葉にくじけちゃダメだよ!
     やるべきは人を殺すことじゃない――スパッツを穿かせることだ!」
     強く握りしめた拳を突きあげる恵。
     ミユウは二人の言葉に反発しない。小声で灼滅者の言葉を反芻しながら、考え続けている。
    「このゲームは悪い事? ボクはそれを楽しめてない? ……成功しても失敗してもスパッツ幼女に会えなくなる?」
     盾衛は、普段とは異なる、真剣な目をミユウに向けた。
    「人にキモいって言われたくれェで落ち込むな、まッすぐ愛を貫け!」
     盾衛は両手を広げ、庶民を扇動する独裁者のように、熱く語りだす
    「そして他人には、テメェのスパッツの様に、ブルマやスク水を愛する奴がいるかもしれねェ。それをテメェのスパッツ愛で殺めていいか? よくない!
     愛を貫け。他人を傷つけンな、脇目も振ンな。ジークスッパツ!」
     ミユウはしばらく黙る。こくこくと首を縦に振った。
    「そうだよね。バカにされたくらいで人を殺しちゃ、駄目なんだ」
     感極まったのか、目が潤んでいた。
    「スパッツへの愛、スパッツにめぐり合い、スパッツを穿かせる……ジークスパッツ……っ!」
     ミユウが踏み出したのは、それは常人が踏み入ろうとしない、むしろ嫌悪する道かもしれない。
     それでも。ミユウの心から人への復讐心や殺意が薄れたのは、間違いがなかった。

    ●ようじょとの対決
    「ミユウちゃん。後ろ向いて耳ギュッとしててっ!」
     音音はふりかえらずにミユウに声をかける。
     目の前ではスパッツ幼女がうつろな眼のまま、拳を振り上げていた
     音音は指輪を嵌めた指を幼女に向ける。弾丸を生み出し、少女の肩を撃ち抜く!
     さらに盾衛が畳み掛ける。まじっくはんどをつけた拳で地面に触れた。
    「――コイツでシビれるスパッツ姿になりやがれェ!」
     盾衛の周囲に結界が発生、結界に触れた幼女三人組が悲鳴を上げた。
    「「……ゆるさない」」
     幼女の動きは鈍っている。だが攻撃はやまない。幼女の拳が恵を打ち、足が虚の脛を蹴る。
    「やるねっ。お返しにとっておきの一撃だよっ!」
     恵は剣を振りあげる。剣が白く光った。自分を殴ったばかりの相手へ、恵は光の刃を叩きつける!
     斬られて顔をしかめる幼女、その背後に虚は回り込んでいた。腕を振る。
    「痛みに気を取られるなら、こちらの好機だ」
     次の瞬間には、少女の足に深い傷ができる。黒死斬だ。
     白蓮は青い桜が描かれた着流しの裾を揺らしながら、荒野を疾走していた。幼女に体をぶつける。体勢を崩させた上で、白蓮は上段に構えた木刀を叩きつける!
     どう。音を立て、倒れ伏す少女。血が大地に広がっていく。
    「後二人だな……」
     白蓮は木刀の先を再び持ち上げた。

     二体に減った敵の体力を、灼滅者たちは着実に削る。
     だが、芥の顔面に、幼女の拳が直撃した。
     もう一人の幼女が芥に接近し蹴ろうと構えるが――。
     舞は指輪を嵌めた手を動かす。何かを投げる仕草。次の瞬間、舞の『力』が幼女の足を貫き、影に突き刺さる。
     幼女は蹴ろうとした体勢のまま固まる。
    「後一撃……斎賀さん、お願いできますか?」
    「了解だ。任せろ」
     芥は手短に応える。彼の足元で影が動く。影は刃の形となり、一閃。
     芥の影が幼女を切り裂き終わらせた。
     そして、一分後。
     瑠音は幼女の前に立っていた。幼女は殴りかかるが、後ろに跳んで回避。
     瑠音は140センチを超える刀を振りあげる。
    「幼女をブチのめすのはやるせねぇが、悪く思うなよ!」
     少女の脳天に黒の刃が迫り――そして、戦いが終わる。

    ●戻っても、忘れないでね。スパッツを。
     敵が倒れたのを確認し、白蓮はミユウや仲間に声をかける。
    「終わりの夢はさっさと退散、電源切ってゲーム終了っと! 帰ろうぜ!」
    「うん……こんなところにいちゃ、駄目だよね。好きな物のために、頑張らないと。……助けてくれて、本当に……ありがとう」
     ミユウは頷く。出口への道を、ミユウは歩きだした。
     彼女の隣を、瑠音が歩く。
    「今度一緒にゲーセンに行かないか。もちろんスパッツ姿で、だ」
     話しかける瑠音に、ミユウはくったくなく笑う。
     盾衛と舞は二人の背中を見ながら、ごく小さな声でやりとりする。
    「(完全なるスパッツ廃人がデキちまったかァ?)」
    「(まぁ、人の嗜好は様々ですからね)」
     くつくつ笑う盾衛。舞はおっとり彼に応える。
     虚は最後尾を歩いていた。辺りを見回すが、六六六人衆の気配や死体などはないようだ。
    「皆は帰るようだが……一人残り散策をするべきであろうか……」
     虚の近くを歩いていた芥は、虚の呟きを聞いた。
    「もし残るなら、気をつけて帰ってくれよ。危険はないとは思うが」
     仲間を気遣う芥。
     一行は歩き続ける。
     恵は前方を指差した。ソウルボードの出口が見えてきている。
    「出口だね! そだそだ、戻ったら機械をぱくらなくっちゃっ!」
     一行が出口を潜る瞬間、音音はとびきり明るい声を出す。
    「現実にお帰りなさ~い♪」
     灼滅者たちは夢の世界を脱出する。自分達が救った少女とともに。

    作者:雪神あゆた 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年11月30日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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