桜吹雪に血の飛沫

    作者:相原あきと

    「東の兄貴、すいません! ヘタうっちまって……また匿っては貰えませんでしょうか」
     東山組の若頭である東に対し、低頭平身して頼んでくるのは、若い衆の中でもいまいちパッとしない藤吉という男だった。
     夜とはいえ場所は都内の繁華街で人通りも多い、こんなところで謝られても目立つばかりだ。
    「おい藤吉、顔を上げろ」
    「いいえ、あげません! 兄貴にうんと頷いてもらえるまでぇ、オレぁ……オレぁ…」
     東・四郎(あずま・しろう)は何度も修羅場を越えてきた漢であり、故にこんな世界だが人情の大切さを知っており、若い衆のことも出来るだけ助けてやってきた。
     人望も有り、漢気もあり、そして義侠心が強い。
     兄弟たちをバカにされれば烈火のごとく怒るのもまた人気で、昔、親分のすすめで背中に桜吹雪の刺青が彫ったのだが、それもまた若い衆には人気があった。
     ……だが、最近はこうやってすぐに頼ってくる若い輩が増えてきた気がする。
    「しょうがねぇ、おい藤吉、なにをしでかしたか言ってみろ」
     ため息混じりに話を聞いてやるが、どうにもイライラが収まらない。
     そして気がついた時、東四郎は異形の鬼へと変じており……泣いてすがる藤吉を貪り食っていた。
     繁華街の人々が悲鳴を上げ、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
     しかし、頭の中のイライラは収まらない。
     それは若い衆へのイライラから、何か力を求める渇望へと変わっていたが……羅刹と化した東にとっては、すでに些細な問題であった。

    「みんな、刺青をした人が羅刹になる事件が起きてるのは知ってる?」
     教室の集まった灼滅者達を見回しながら鈴懸・珠希(中学生エクスブレイン・dn0064)が言う。
     原因は不明だが、刺青を持つ者が羅刹化する事件がここ最近発生し始めていると言うのだ。事実、この事件の裏では強力な羅刹が動いていることも確認されている。
    「今回みんなに向かって貰うのは、ある町の繁華街よ。時刻は夜だけど夜の町だし人が多いのが問題なの」
     まぁバベルの鎖があるので、そこで戦ったとしてちゃんと取り囲んだり、攻撃目標を自分たちに引きつけておけば、一般人が逃げる時間は稼げそうではあるらしいのだが……。
    「そうだ、実は今回の羅刹なんだけど、完全な羅刹になる前にKOすれば、そこで羅刹として復活する特性があるみたいなの」
     つまり、羅刹になる前に誘導した先でKOすれば、羅刹と戦う場所をこちらでコントロール可能ということだ。
     ただし、復活時にバッドステータスやダメージは引き継がれないらしいので注意してほしい。
    「今回羅刹になる対象には、羅刹化前の状態であってもESPは利かないみたいだから、誘導するにしても簡単にはいかないかもしれない……だから、相手の特徴を教えておくわ」
     羅刹化するのは東・四郎(あずま・しろう)35才、東山組若頭で義侠心に厚く若い衆からも慕われている。ただ、なんでもかんでも頼ってくる若い衆には最近イライラしているみたいだと言う。
    「みなが繁華街に行くと、その対象が1人で歩いているわ。ただ、時間をかけ過ぎると、藤吉って若い人がやってきて、ヘタをすると面倒なことになるから気をつけて」
     東が羅刹となった場合、神薙使いとウロボロスブレイドに似たサイキックを使ってくるらしい。得意不得意な能力は無く、攻撃より防御を重視して戦うらしい。
    「そうそう、一応コレも言っておくわね」
     最後に珠希がみなを見回すとこう言った。
    「刺青と羅刹の関係は不明なんだけど、強力な羅刹が動いてる可能性があるの。時間をかけ過ぎたり、派手に周りの注目を集めたら……何かやってくる可能性もあるわ。一応、伝えておくわね」


    参加者
    江楠・マキナ(トーチカ・d01597)
    橘名・九里(喪失の太刀花・d02006)
    月雲・彩歌(幸運のめがみさま・d02980)
    村雨・嘉市(村時雨・d03146)
    月柱・雪月(冬空の光柱・d03432)
    北逆世・折花(暴君・d07375)
    日影・莉那(ハンター・d16285)
    ハリー・クリントン(ニンジャヒーロー・d18314)

    ■リプレイ


     そこは人気の無い路地だった。
     いくつもの脇道や路地で入り組んでおり、ここに来れば追っ手を巻いて逃げる事も可能だろうと解る。
    「ここで別れてしまえば追いかけてくるのは難しくなるかな」
     月雲・彩歌(幸運のめがみさま・d02980)が足を止めて来た道を戻りだす。
    「……後ろ向きではありますけれど、危険を冒す以上、少しでも保険は掛けておいた方が良いですからね」
     それはいざという時の自分達の逃走経路。
     そう、今回の依頼で彩歌たちがやろうとしているのは……リスクの伴う挑戦だった。

     ガヤガヤと人々が往来する夜の繁華街では、酔っ払いや酒場の店員などの声が響き、多様な人々が思い思いに行き来する。
     そんな通りの隅で、一輪型の武骨な黒いバイク――ライドキャリバーのダートに寄りかかり通りの人々を観察しながら、万一の事態に備えて警戒しているのは江楠・マキナ(トーチカ・d01597)だ。
     そしてマキナの視線の先……サングラスにリーゼントの壮年の男がおり、その男に声をかける2人の不良っぽい格好の青年たちがいた。
    「アンタが東山組の東四郎か?」
    「あ、誰だお前ぇらは」
     村雨・嘉市(村時雨・d03146)の質問に男――東四郎が不機嫌に聞き返す。
     最近の若い連中は言葉づかいがなっちゃいない。
    「失礼、ただ藤吉という方から東さんの名前を聞きまして、あなたを探していたのです」
     橘名・九里(喪失の太刀花・d02006)が礼儀正しくそう説明すると、東も「藤吉……ああ、ウチの若いもんが……どうかしたのか?」と話を聞いてくれそうな雰囲気となった。
     九里がちらりと嘉市を見ると、嘉市も頷き。
    「ああ、藤吉って奴がこっちの上役に迷惑をかけてな……ましてね。お前じゃ小物過ぎて話にならねえから上の奴を呼べと言っても『兄貴に迷惑は掛けられない、自分が責任を取る』と言って聞きゃあしねえ……んでさ。兄貴分のあんたに詫び入れてもらえりゃ丸く収まるんだが……」
    「俺に詫び入れろってぇのか」
     イラつく東を嘉市が睨む。
    「弟分が漢見せてんだぜ? 東山組の東四郎っていやあ、最近じゃぁ珍しい義侠心の厚い漢ってぇ聞いたんだがな」
     嘉市の挑戦的な物言いに、東はズンッと嘉市にガンを付け。
    「威勢が良い奴は嫌いじゃねぇ、良いだろう案内しな」
     ニヤリと笑い嘉市の肩を叩いて東が言う。
     その手はごつく重たく、嘉市は東の今までの武骨な生き方を垣間見た気がした。
    「ふぅ、こんな往来で騒ぎになるんじゃないかって焦りましたよ」
     ホッとするように九里が言うが、東は「堅気の衆に迷惑を掛けるわけにはいかねぇだろう」と。
     筋が通った漢だ……九里は丸眼鏡をずり上げ視線を隠しつつ、東を事前に決めていた場所へと案内するのだった。

     繁華街の近くにある公園。
     そこに4人の灼滅者が待機していた。
    「刺青を持つ者が羅刹化、か……刺青が羅刹化を進めているのか、宝探しをしている奴がいるのか……」
     日影・莉那(ハンター・d16285)が無表情に――。
    「どうせなら、是非ともお宝を引き当てたいところだ」
     ――しかしギリッと拳を握る。
    「周りに余計なもんは来てないようだな……」
     周囲の気配を探っていた月柱・雪月(冬空の光柱・d03432)の言葉に仲間達が頷く。
     すでに殺界形成で人払いもしてあり、付近に人影は無い。この状態なら騒ぎを起こしても一般人がやってくる事は無いだろう。
     と、横の北逆世・折花(暴君・d07375)がフードを被り呟く。
    「……来たか」
     見ればサングラスの男を連れて嘉市と九里がやってくるのが見えた。
     折花の体内でジワジワと闘気が練られていく。
     そして――。
    「おい、お前ぇら、これはどういう事だ。お遊戯会への招待状ってわけでも無いだろう」
     相手が少年少女とはいえ、人気の無い公園に連れて来られ囲まれている状況に、東がイラ立ちを隠そうとせず聞いて来る。
     嘉市と九里も東から距離を取り公園の入り口方向を塞いだ。
    「お遊戯会とは言ってくれるでござるな」
     忍者ルックのハリー・クリントン(ニンジャヒーロー・d18314)が一歩前に出て言う。
    「東殿。拙者らは……貴様を消しに来た刺客でござる」


    「ハロー、ワールド」
     最後まで警戒していたマキナがダートに乗ったまま公園へ乗り込み、殲術道具を解放する。
     また他の灼滅者たちも各々カードを解放し……。
    「おいガキども、遊びなら程々にしておきな」
     東がため息と共に言うが。
    「今は普通に見える人間を、これから灼滅するんだね……羅刹になれば、この人は生き延びられるのかな」
     無表情に言うマキナの言葉に、遊びとは違った感情を察し東が表情を引き締める。こいつらは頭のおかしいガキどもじゃない……少なくとも、それなりの修羅場を潜ってやがる。
    「東さん、一つ教えてくれますか?」
    「ああ?」
     こちらも先ほどとはガラっと雰囲気の冷たくなった九里が聞く。
    「貴方は見事な桜を背に御持ちとか……その刺青、最近何方かに御見せになられましたかね?」
    「はっ、夏の間はそういうこともあるだろうな……だが、それがどうした」
     東の言葉に九里は丸眼鏡をずり上げ……同時、鋼糸が煌めく。
     それは一瞬だった。九里に続き他の灼滅者も一斉に攻撃をたたき込み……東がどさりと倒れる。
    「生かさず殺さず……全く、我慢するのも一苦労に御座いますねぇ」
     僅かにしか付かなかった血糊を払い、九里が鋼糸を手に戻す。
     そして――。
    『ガアアアアアアッ!』
     東の体が内側から膨れ上がるように肥大化していく。爪は伸び、牙が生え、頭には黒曜石の角が突き出る。
     闇墜ち……東史郎は羅刹と化したのだ。
     新たに生まれ落ちた羅刹は、自らの体の感触を確かめるように拳を握ったり開いたりし……唐突に大地を殴りつけた。
     ドゴッ!
     公園の広場にクレーターが出来上がる。
     だが、羅刹は何か足りないのか不満そうに呟いた。
    『足りない……』
     即座に動き出したのは折花だった。
     距離を詰め一気に羅刹に切迫する。
     だが、羅刹も懐に飛び込んできた人間をただ見ているわけではない、豪腕と呼ぶに相応しい右拳を頭上から一気に打ち下ろす。
     ガッ、ズズン!
     同じく鬼化させた腕で受け止める折花。足下が陥没するが気にしない。
     その瞬間、羅刹の左腕が折花を狙って斜めに振り下ろされようとしているのが視界の端に移る。
     しかし、折花は慌てない。
     ズシャッと痛い音をたてて羅刹の左腕は防がれる――飛び込んできた彩歌が、日本刀の斬線によって防いだのだ。
    「指ぐらい落とすつもりだったのですが……」
     指から僅かに血を流す程度の羅刹を見て彩歌が呟く。
    「構わないよ……時間はまだある」
     羅刹と鬼の手で握り合いつつ折花が言い、羅刹が更に握力を込めて睨みつけてくる。
     しかし折花はその視線を真っ向から受け止め。
    「悪いけど、暫く付き合って貰うよ」

     羅刹との戦いは一進一退の進み方ではあったが、安定して守りながら戦う灼滅者側が頭一個分有利だろうか。すでに戦闘開始から15分、このまま押し込めば万全な勝利を得られる、それぐらい今回の戦い方はベターであった。
    『違う……力が、足りない!』
     何かへの渇望を呟く羅刹。
    「力を求めんのは結構だが、それは人を犠牲にして得るもんじゃねえんだよ!」
     刺青羅刹事件を知るきっかけとなった報告を思い出しつつ、嘉市が制約の戒めを込めた魔法弾を放つ。
     パリリッと魔力が浸透するも、羅刹は強引に飛び込み嘉市へ鬼の一撃を叩き込む。
     ドガッ、足下が再びクレーター化する……だが、そこに嘉市の姿は無い。嘉市の代わりに拳を受けとめたのは――。
    「……ったく、馬鹿力め」
     莉那だった。
     羅刹は一瞬だけ戸惑うも、すぐに切り替え莉那を押し潰そうと拳に力を込め始める。
     莉那は力をいなして脱出しようかと考えるが、すぐに羅刹を挑発するように力で対抗し始める。
     そして、莉那に拮抗されさらに力を込めた羅刹に……隙が生まれた。
    「ナイスでござる!」
     その声は羅刹と莉那の頭上から。
    「ふん……」
     莉那はハリーの姿を捕らえてとっさに羅刹の気を引いたのだ。そして――。
    「ニンジャケンポー・ジグザグスラッシュ!」
     上空から襲いかかったハリーの一撃が、羅刹を浸食する制約の戒めを倍加させる。
     このタイミングで一気に畳み込めば優勢のまま……。
     ふと、そう思った雪月だったが、ため息と共に骨のように白き槍の穂先をくるりと回転、石突を羅刹へ向ける。
    「まだ来やがらねぇのかよ……何がしたいのかわからねーけど、早く来やがれってーの」
     風を起こし戒めを解除していた羅刹に、雪月が石突にて手加減の攻撃を開始した。


    「ライラプス……すまんな、無理をさせて」
     自身を庇って倒れた霊犬に莉那が短く言葉を告げる。
     すでにライドキャリバーのダートも2分前から駆動音を聞かなくなっていた。さらに彩歌、雪月、そして莉那も今は魂の力でなんとか立ち上がっている状態だ。
     どうしてこうなったのか……ターニングポイントは20分前後だった。
     敵を倒さず手加減を開始した灼滅者側と違い、羅刹の勢いは止まらない。そこからは羅刹の無双状態が始まったとも言える。
     羅刹も灼滅者も守りに主眼を置いた戦術だったが、片方が攻撃して来ないのなら一方的な戦いになることは必須だった。本気で戦いを引き延ばしたかったのなら……クラッシャーやスナイパーでなく、臨機応変に対応できるキャスターか、または嘉市のようなジャマーを増やし、羅刹の自己キュアをおおきく上回る数の行動阻害と弱体化を叩き込むべきだっただろう。
     灼滅者たちの軽い攻撃をいなし、羅刹が再び莉那を狙って歩いてくる。
    「私は……勝つ。どんなことをしても……」
     最後の気力を漲らせ莉那が羅刹に拳を叩きつける。ズンと重たい衝撃が走り、羅刹を取り巻いていた風の攻性防壁を打ち払う。
     だが――。
     ドガッ!
     ……横殴りに振るわれた丸太のような腕に吹き飛ばされ、莉那が大地に転がり動かなくなる。
     羅刹のエンチャントは打ち消した……これなら、もう少し……。
    「25分でござる!」
     ハリーの声が響くが、目安の30分まであと5分。
     今はその5分が果てしなく長く感じる……。
     仲間たちの中に迷いが生じるが、決断はまだ無い。
     ならば――。
    「仕方、無いね」
     折花が羅刹の背後に回り込み、オーラを乗せない拳で数十発と羅刹の背を殴りつけ、更に回し蹴りを側頭部に叩き込む。
     ドゥと倒れる羅刹だが、たいして効いているようには見えない。
     折花は羅刹が倒れた隙に周囲を確認する。本当はもう少し派手に戦っても良かったが、周囲の被害を気にしたり、一般人を人払いした時点で派手さには限界がある。
    「折花」
     名を呼ばれると共に目の前に男の背中があった。
     その背が、折花を庇った雪月が、ゆっくりと倒れる。
     それはうつ伏せに倒れた羅刹が倒れたまま大地を転がるように放った拳の風圧だった、竜巻のようなその威力に羅刹の近くにいた者たち全てが斬り刻まれたのだ。
    「月雲さん……」
     同じく九里の声が響き、その目の前で彩歌が。
    「大きな流れを呼びそうな羅刹の動きですものね……できれば、情報を集めて……」
     とさり、と彩歌も倒れる。
     3人が倒れた、そして残った者達の雰囲気が変わる。
    「これ以上の狼藉は、ニンジャの名が廃るでござる」
     ハリーが腕時計をブチリと投げ捨てナイフと縛霊手を構えオーラを全開にする。
    「だな」
    「ええ、僕も我慢の限界です」
     ハリーの言葉に嘉市と九里が同意し、同じくバトルオーラを全力で放出。
     もちろんマキナと折花も同じ気持ちだ、表情に出さないだけで纏うオーラの輝きがその内心を否応無しに表していた。
     一気に攻勢へと打って出る灼滅者達。
     今までの手加減攻撃で油断していた羅刹が、突然の全力攻撃についていけずに1つも避けられずに攻撃を受け続ける。
     マキナと折花が連携して羅刹に飛び込むと、羅刹の纏う風をマキナが零距離からナイフで斬り裂き、折花が剣で霧散させる。
    『ガアアアアアッ!』
     叫びと共に2人は距離を取り、羅刹は狙いをハリーへ変えて突進。
     右の豪腕をハリーへ振るう。
     シャッ。
     だが、狙ったハリーは目の前におらず。
    「ニンジャケンポー・縛霊撃!」
     鬼の腕の上に立っていたハリーが、その腕へ手を乗せると一気に加重が掛かり、羅刹が腕ごと大地へと縫いつけられる。
     だが、羅刹は動く左腕を振りかぶり。
    「ちったあ大人しくしてろ!」
     さらに追い打ちをかけるよう嘉市が手を向けると、ピキピキと羅刹の左腕が石化していく。
    「背負われた桜の如く、貴方の命も散らさせて頂きましょう……」
     動けない羅刹の首にかけた鋼の糸。
     九里が歪んだ笑みを浮かべて濡烏を弾く。
    「おやすみなさいませ」
     ゴロリ……羅刹の首が転がり、僅かな後……その巨体もぐったりと動きを止めた。
    「桜の時期はまだ遠い。けど、冬に見る桜も一興だよね」
     転がった羅刹の首のところにしゃがんでマキナが言った。
    「私、貴方のこと忘れないよ」
     そして、東四郎は……死んだ。


    「なんで刺青限定なのか聞きたかったが……来なかったな」
     嘉市が呟く。
    「ええ、でも今は……大丈夫ですか?」
     九里が優しき書生に戻り倒れた仲間たちを気遣う。
    「ベストを尽くした……つもりだったのですけど……」
    「いや、主目的は……果たしてる」
     彩歌と莉那が言葉を紡ぐが、すぐに痛みがぶり返し。
    「無理に話すな、限界来てんだ」
     嘉市が気遣う。
    「でも、やっぱり刺青について聞きたかったでござるな……」
    「あくまで第二目的だろ? 莉那の言うとおり……十分だ。それに……くっ」
    「雪月殿、肩を貸すでござる」
     重傷の雪月をハリーが支える。
     強力な羅刹は現れなかった。
     今の仲間の現状を見るに、それは幸運なことだっただろう。
     二兎を追わず一兎に絞って動いていれば……もしかしたら何か変わっていたかもしれないが……。
    「(それに……)」
     ふと思う、メンバー達は強力な羅刹が現れた時にどうするつもりだったのだろう? 話を聞きたいと言うが、もし話が通じない相手だったら? その対処は……もし前者を優先して考えていたのなら、後者だった場合に――。

     ゾクッ。

     まるで灼滅者達の魂に死という氷を当てられたような悪寒が走る。
     交渉など最低限にし、もしもに対処していなければ最悪の事態に陥る可能性だってあるのだ……。
    「早く、帰ろう……」
     折花の言葉がやけに重く響き、灼滅者達はその公園をあとにする。
    「(いつか、知ることができるかな……その時は大事な人の為にも……)」
     路地を曲がる時、僅かに公園を振り返ってマキナは思う。
     そう、情報を集める為にリスクを取るのは決して避難されることでもなければ悪いことでもない。
     それに同意してくれる仲間と覚悟があるのなら、今度こそ……きっと……――。

    作者:相原あきと 重傷:月雲・彩歌(幸運のめがみさま・d02980) 月柱・雪月(冬空の光柱・d03432) 日影・莉那(ハンター・d16285) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年12月3日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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