殲術病院の危機~闇色のサンタクロース

    作者:日向環


     陽はすっかり落ちていた。
     診療時間はとっくに終了しているはずだったが、その病院は喧騒に包まれていた。
     怒号と悲鳴が、そこかしこからあがっている。
     院内を映し出している監視カメラの映像は、既に半分近くが死んでいた。
    「第三病棟から救援要請! 隔壁を突破された模様!」
    「第二病棟! どうした、第二病棟!? 応答しろ!!」
    「なんということだ……」
     ふちなしの眼鏡を掛けた白衣の男が、低く呻いた。
    「我々だけでは持ちこたえられん。援軍はどうなっている? 要請は出しているな?」
    「何度も打診しています!」
     インカムを付けた看護婦の1人が、即座に答える。
    「……あ! 来ました!! え、そんな……」
     看護婦が息を飲む。白衣の男の右眉が跳ねる。
    「どうした?」
    「きゅ、救援要請です。南区の病院です。淫魔の大軍勢の襲撃を受け苦戦中とのことです」
    「院長センセ!!」
     パジャマ姿の大柄な男が、室内に駆け込んできた。白衣の男が振り返る。
    「羽釜!? 無事だったか!」
    「第二病棟はもう駄目だ。このままだと、第三病棟が陥ちるのも時間の問題だぞ。岸谷センセと地藤センセもやられちまったらしい。今、平井のやつが指揮を執ってる。ハルファス軍のやつら、ハンパねえぞ」
     パジャマ姿の大柄な男は、全身傷だらけだった。右手に持った巨大な鉄塊の如き刀も、刃毀れを起こしている。
    「院長」
     次いで、セーラー服を着た少女と、パジャマ姿の長身の男に抱えられながら、スーツ姿の男が入ってくる。右肩が大きく抉れ、出血がひどい。抱えている2人も手傷を負っていた。
    「事務長、その傷は……」
    「日本中の病院が襲撃されているようだ。残念だが、援軍は望めそうにない」
    「那須殲術病院襲撃から動きが無いと思っていた矢先に、これか。連中は、一斉攻撃をするタイミングを見計らっていたというわけか」
     直後、凄まじい衝撃音が響き、全ての電源が落ちた。室内が闇に包まれる。
    「非常電源に切り替えます」
     事務的な女性の声がしたかと思うと、すぐさま明かりが点された。
    「だ、第三病棟、沈黙……」
     同時に、悲痛な声が耳を打った。
    「くっ……!」
    「院長……頼む。この病院を守ってくれ」
    「分かっている。援軍が無くても殲術病院が簡単に陥ちはせん。籠城して時間を稼ぐ」
    「そうか。頼む……ぞ……」
    「!? 事務長! 事務長ぉーーー!!」
     すすり泣く声が聞こえる中、再び轟音が院内を揺るがした。


    「大変なのだ! 複数のダークネス組織が、武蔵坂学園とは別の灼滅者組織である『病院』の襲撃を目論んでいるらしいのだ」
     木佐貫・みもざ(中学生エクスブレイン・dn0082)の声が、珍しく上擦っている。
     ソロモンの悪魔・ハルファスの軍勢、白の王・セイメイの軍勢、そして淫魔・スキュラの軍勢の3つの軍勢が、同時に行動を開始するという。
     標的は、『病院』。
     それぞれの勢力により、狙う目的は違うようだが、その全てが『病院』に集中する。
    「病院勢力は、殲術病院という拠点を全国に持っていてるようなのだ。防御力はけっこう高くてね、どこかの殲術病院が襲撃されても、殲術病院に籠城している間に他の病院から援軍を送って撃退するという戦いを得意としていたらしいのだ」
     だが、今回はその戦法を封じられてしまった。
    「ほとんどの病院が一斉に襲撃されたから、お互いに援軍を出す事ができずに孤立無援となっているようなのだ」
     このままでは、病院勢力が壊滅してしまうだろう。
    「そこで、みんなの出番なのだ。同じ灼滅者として、病院の危機を救ってほしいのだ」
     みもざは握り拳に力を込める。
    「みんなに向かってもらいたいのは、この病院なのだ。近くに幾つか病院があるけど、間に合いそうなのはここしかないのだ」
     だから、全力でこの病院を守って欲しいとみもざは言う。
    「この病院は3つの病棟を持っているんだけど、みんなが到着する頃には、第二、第三の2つの病棟は既に壊滅しているのだ。生き残った人たちが、第一病棟に篭城してるんだけど、このままだとあんまり長く持ちそうにないのだ」
     攻めてきている敵は、ソロモンの悪魔・ハルファスの軍勢。指揮官1人と、配下の眷属が50体ほどいるという。
    「ごめんなさい。眷属の正確な数は分からないのだ。何体かは病院の灼滅者に倒されたから、50体以上はいないはず」
     とてもじゃないが、この人数で殲滅できる数ではない。
    「だから、『雑魚には構うな、頭を潰せ』作戦なのだ」
     指揮官のダークネスさえ倒してしまえば、病院の灼滅者達も籠城をやめて眷属を倒すために外に出てくる。そうなれば、協力して残る眷属を撃破する事が出来るだろう。
    「だけど、ダークネスを倒しそこなうと大変なことになるのだ」
     眷属の中に逃げ込まれると手出しが難しくなる。何しろ、眷属は50体近くいるのだ。ダークネスを倒すためには、まず50体の眷属を先に倒す必要が出てくる。そんな状況に陥ってしまった場合、最悪は病院を見捨て撤退しなければならなくなるかもしれない。
    「この病院を襲撃したソロモンの悪魔は、黒いサンタクロースの格好をしているのだ。配下の眷属は、ミニスカサンタのお姉さんたちなのだ。でも、やっぱり黒いミニスカサンタなのだ」
     黒いサンタクロースは、魔法使いのサイキックに告示したサイキックを使用してくるという。また、ミニスカサンタも同様のサイキックを使用するが、黒いサンタクロースよりは威力は劣るようだ。
    「黒いサンタクロースは、最初に占領した第二病棟のロビーにいるのだ。4体のミニスカサンタが護衛にいるのだ」
     敷地内の何箇所かで、病院の灼滅者とミニスカサンタが激しい戦闘を繰り広げているらしい。
    「篭城しそこなった人たちもいるみたいなのだ。助けてあげたいと思うけど、一直線に第二病棟に向かって欲しいのだ」
     途中、行く手を阻むミニスカサンタがいるだろうということも、考慮する必要があるだろう。
    「危機に陥っている灼滅者仲間を、放ってはおけないのだ。みんな、出撃なのだ!」
     みもざは、外をビシッと指差した。


    参加者
    長谷川・邦彦(魔剣の管理者・d01287)
    浅守・双人(一人で二人の灼滅者・d02023)
    森本・煉夜(斜光の運び手・d02292)
    ミカエラ・アプリコット(弾ける柘榴・d03125)
    海保・眞白(真白色の猟犬・d03845)
    羊飼丘・子羊(北国のニューヒーロー・d08166)
    園観・遥香(寝起きのネコ・d14061)
    九葉・紫廉(影の狼と天の狗・d16186)

    ■リプレイ


     夜の街を、灼滅者達が失踪する。
    「こっちです!」
     スーパーGPSを駆使し自分達の位置を確認しながら、園観・遥香(寝起きのネコ・d14061)は仲間達を誘導する。
     目的の病院はすぐに見えた。
     病棟の白っぽい壁が、闇に浮き上がって見える。
    「案内板だ」
     長谷川・邦彦(魔剣の管理者・d01287)が、敷地内の簡単な案内板を見つけた。
    「手前が第一病棟のようです」
     漫画のような見取り図を広げると、遥香は案内板と照らし合わせる。見取り図は、エクスブレインからの情報を元に事前に作成したものだ。
    「ミニスカサンタは、この辺とこの辺に集中してるみたいだよ!」
     第二、及び第三病棟の周辺を、ミカエラ・アプリコット(弾ける柘榴・d03125)が指し示した。
    「ここいら辺にもいるって、言ってたよな?」
     浅守・双人(一人で二人の灼滅者・d02023)は、第一病棟の裏手を指差す。
    「この位置からだと、中で大規模な戦闘が行われてるなんて分からないな」
     内部の様子を探っていた森本・煉夜(斜光の運び手・d02292)は、小さく肩を竦めた。
     シンプルで殺風景な門を入って右側には、広い駐車場が広がっていた。病院職員や、関係者の車なのか、数台が駐車しているのが見える。
     高速で動き回る幾つかの影が確認できた。閃光が煌めく。篭城しそこなった病院の灼滅者達が、ミニスカサンタと戦闘を繰り広げているのだろう。
     第二病棟は、第一病棟の陰になってしまって、彼らの位置からでは全容を掴めない。第三病棟も然り。
     偶然なのか、それとも狙ったのか、外部からでは戦闘の様子を確認するのは難しい。
    「そこを行くしかなさそうだな」
     海保・眞白(真白色の猟犬・d03845)が、第一病棟の脇を示した。真っ直ぐに第二病棟に向かうには、確かにそこを駆け抜ける以外なさそうだ。
    「急ごうよ。時間が惜しい」
     位置関係の把握ができたなら、この位置に留まる理由はない。羊飼丘・子羊(北国のニューヒーロー・d08166)は皆を促す。
    「そんじゃ行こうぜ!」
     九葉・紫廉(影の狼と天の狗・d16186)はヘッドライトのスイッチを入れた。


    「!? ミカエラさん、上です!!」
    「はぎゃ?」
     前方に気を取られていたミカエラは、遥香の言葉の意味が直ぐには理解できなかった。
    「上から落ちてくるとは、聞いてないぞ」
     煉夜がガトリングガンの銃口を上方に向けると、迷わず掃射した。
    「ぎゃっ」 
     落下してきたミニスカサンタが、短い悲鳴をあげる。
    「ひゃっほうミニスカサンタさんだー!」
     地面に転んだミニスカサンタの姿を見て、紫廉が小躍りする。太腿が眩しい。倒れた拍子なのか、スカートの裾がちょっと捲れあがっていた。
     無言のまま、遥香がいつもよりちょっとだけ怖い顔で視界を遮ってきたので、紫廉が咳払いをする。
    「…なんて悠長に喜んでられる状況じゃなさそうだなぁ。ま、気張っていきますか!」
     言うが早いか、オーラキャノンをぶっ放す。子羊がフォースブレイクで止めを刺した。
    「うりゃぁ! うりゃぁ!」
     別の1体を、ミカエラが戦艦斬りでガンガン攻めまくっていた。振り回される巨大な刃を器用に躱しながら、眞白がレーヴァテインで追撃を加えていた。
     仕留めたと思った瞬間――。
    「正面! 5体!」
     双人の叫び声が聞こえた。
    「キリがない」
     邦彦が前方を見据える。第二病棟の玄関を確認した。距離にして100メートルくらいか。
    「一転突破! 突き破るのみ!」
     邦彦が日本刀を構えて駆ける。こんなところで足止めされるわけにはいかない。この場は強引に突破を試みる。
    「カゲロウ! 行け!!」
     紫廉が相棒のライドキャリバー・カゲロウを突撃させる。カゲロウはタイヤを軋ませながら、ミニスカサンタの集団へ突進した。
    「一刻も早く指揮官の下に辿り着かねぇとな! …沢山の命が懸ってんだからよ…!」
     眞白も突っ込んだ。
     だが、ミニスカサンタも簡単には突破させてくれない。壁を作り、彼らの突破を阻む。
    「!?」
     その時、別の方向から飛び込んできた6つの影が、壁を形成した5体のミニスカサンタの一画を崩す。
     予期せぬ方向からの攻撃を受け、ミニスカサンタ達は浮き足だった。
    「病院の灼滅者達か!?」
     煉夜が問い掛けると、
    「見かけない顔だな? 援軍か?」
     一風変わった大型の武器を手にした青年が、訝しげな視線を向けてきた。病院の灼滅者で間違いないようだ。
     武蔵坂学園の灼滅者達は、自分達が援軍としてきたこと、そして、第二病棟にいる指揮官のソロモンの悪魔を討つ作戦であることを手短に説明した。
    「よし、分かった。こっちだ!」
     青年は3人の仲間にミニスカサンタの相手を任せると、他の2人を連れて武蔵坂学園の灼滅者達を先導してくれた。第二病棟の玄関前に辿り着くと、
    「ここは俺達が死守する。中には絶対に敵の援軍は入れさせない。だから、頼むぞ」
     そう言って、武蔵坂学園の灼滅者達に背を向けた。6体のミニスカサンタが襲ってきた。3人だけで、それを迎え撃つつもりらしい。
    「ダークネスを必ず倒すので、此処を頼みます!」
     双人が青年の背中に声を掛ける。
    「済まねェ、恩に着ますッ! …死なんで下さいッ!」
     頭を下げた眞白に対し、青年は悪ガキのような小憎らしい笑みを浮かべた。


     第二病棟のロビーは、外の喧騒が嘘のように静まり返っていた。
     椅子を並べてベッドのようにし、その上に寝転がっていた男が、気だるそうな視線を向けてきた。
     サンタクロースの格好をしていた。頭には三角形の帽子を被り、真っ白な長い髭を生やしていた。しかし、サンタクロースとは言っても、鮮やかな赤い衣装ではなく、不気味な黒で染め上げられた衣装を纏っていた。
    「日本列島! 全国各地! ご当地愛がある限り! 北国のニュー☆ヒーロー羊飼丘・子羊、参上!!」
     子羊が高らかに名乗りを上げる。
    「おやおや。ここに辿り着く子がいるなんてね。外の子達は何をしていたのかな。これじゃ、ご褒美のプレゼントはあげられないね」
     黒いサンタクロースは、ゆっくりと起き上がった。どこにいたのか、4体のミニスカサンタも姿を現す。
    「スカート、短いですね」
     遥香がミニスカートをジッと見つめる。改めて観察すると、あり得ないくらいに短い。
    「サンタか…だが、苗字はトナカイなんだな」
     顔がトナカイだったりするんだろうかと、煉夜は黒いサンタクロースの顔を覗き込んだ。面長なので、ちょっと馬面っぽく見えるが、トナカイのような愛嬌は感じられなかった。
    「クリスマス前のサンタか…慌てん坊にも程があるってぇの!」
     眞白が凄んでみせた。
    「ミニスカサンタさんを大量に侍らせてるとかマジギルティ。というかな…」
    「何か用かな? プレゼントならあげないよ」
     紫廉の台詞を途中で遮り、黒いサンタクロースは穏やかに笑った。
    「フライング登場のサンタには、ここで確実に退場してもらうとしよう」
     煉夜が仕掛けた。
     黒いサンタクロース――斗中居・賛汰を守るべく、4人のミニスカサンタが前に出る。さっさと蹴散らしたいところだが、簡単にはいきそうにない。
     紫廉の指示を受け。カゲロウは最前線に飛び出す。
     仲間達を護るべく、眞白がシールドを展開する。
     だが、ミニスカサンタ達は積極的には仕掛けてこない。攻撃よりも、防御に重点を置いているようだ。その身を盾として、指揮官を守るつもりらしい。
    「しかし、ミニスカサンタは浪漫だと誰かが言っていたが、ダークネスではな。ま、普通にいても困るんだが」
     煉夜は苦笑い。あんなのが街中を歩いていたら、目のやり場に困る。
    「あたいだってミニスカだもんっ。くらえー!」
     自分の身長よりもでかいバスターライフルを構えると、ミカエラはトリガーを引き絞った。円盤状の光線が前方にバラ撒かれる。ミニスカにはミニスカを。可愛いミニスカワンピースの水着で参戦のミカエラは、若さだけは負けてないと、ミニスカサンタ達と張り合う。
     子羊がヒーロー☆ロッド&ソードを振り上げ、1体のミニスカサンタの前に躍り出る。
     ぽよん。
     妙に感触が柔らかかったが気にしない。振り下ろしたロッドに魔力を集中させ、ミニスカサンタの体内に流し込む。
     ガクリと膝を突いたサンタに、遥香と紫廉のオーラキャノンが叩き込まれた。
    「しぶてぇな!」
     死角に回り込んでいた双人が、ティアーズリッパーでトドメを刺した。
     壁の一画が崩れたとみるや、邦彦がそこへ身を滑り込ませる。これで、後方から斗中居が狙いやすくなるはずだ。
    「お前達の相手は俺だ! どんどんかかって来い」
     邦彦はサンタ達の注意を自分に向けさせる。
    「ふん」
     小馬鹿にしたように鼻を鳴らし、斗中居は配下のミニスカサンタと共に、暗黒の風を吹かせる。前衛陣を執拗に反撃してくるも、更なる攻防で、灼滅者達は1体のサンタを撃破した。
    「なかなかやるね」
     それでも斗中居は余裕の笑みを浮かべている。病棟の外に、まだ多数の配下を残しているからなのだろう。暗黒の風による氷のダメージは、地味に前衛陣の体力を奪っていた。
     それでも、回復手が二枚いるのは心強かった。遥香が「Dominions」を振るえば、紫廉も無垢なる剣を振るい風を起こす。互いに分担しながら仲間達の傷を治療する。2人が紡ぐ「祝福の言葉」は、氷を溶かす暖かな風となって仲間達の体を優しく包み込む。
    「頑張るじゃないか。でも、いつまでも、君達と遊んでいるわけにはいかないでね」
     ピィィィッ。
     突如、斗中居が指笛を吹いた。配下を呼び寄せる合図か。しかし――。
    「何故、来ない!?」
     一向に配下が現れる気配がない。斗中居の顔に、焦りの色が浮かぶ。
     病院の灼滅者達が、玄関前で頑張ってくれているのだろう。
    「あまり時間は掛けられない。すぐに終わらせる」
     だからといって、いつまでも甘えているわけにはいかない。双人がフリージングデスで、残った2体のミニスカサンタを攻撃する。
    「君は、さっきから目障りなんだよ」
     最前線で獅子奮迅の活躍をしている邦彦目掛けて、斗中居は髑髏ミサイルを放った。
    「ぐっ」
     巨大な髑髏が邦彦の体に激突し、メリメリと体力を削り取る。
     指揮官が攻撃法を変えたことに同調し、2体のミニスカサンタも髑髏ミサイルに攻撃を切り替えた。
     大型の髑髏が、煉夜とミカエラを襲う。
     眞白とカゲロウが、2人の前に飛び出す。
    「……っの!!」
     シールドを突き出し、眞白は髑髏を弾く。
     加速して突進してくる髑髏を、カゲロウは真っ向から受け止めた。エンジンが唸り、タイヤが悲鳴を上げる。何かが折れる嫌な音が響きオイルが飛び散ったが、それでもカゲロウは怯まなかった。髑髏の猛攻を見事防ぎきる。
    「君は、もう寝て良いよ」
     斗中居の狙いは再び邦彦だ。幾ら防御を優先させているとはいえ、二度の髑髏ミサイルの直撃を受けてはたまらない。
    「ここで倒れるわけにはいかないんだよ」
     癒しのオーラを纏い、どうにか踏み止まる。
    「これも…私達の力」
     遥香が、自らの奥底に眠るダークネスの力を一時的に邦彦に注ぎ込む。
    「頑張るね。でも、そろそろ『死』をプレゼントするよ。靴下の用意はいいかな?」
    「サンタさんってのは子供に夢見せる為にいるんだ! テメエらみたいなエセサンタは、お呼びじゃねえんだよ!」
     紫廉が気を吐いた。
     煉夜が踏み込み、螺穿槍で斗中居を屠ろうと試みるが、ミニスカサンタが身を挺してそれを阻む。
    「庇うなら庇えっ、ミニスカごと吹っ飛ばすーっ!」
     気合いと共に、ミカエラがバスタービームをぶっ放した。光線がサンタを飲み込む。
    「くそっ。冗談じゃない」
     形勢不利とみた斗中居は、その場から逃走を図る。
     ここで逃走を許しては、外で命を張ってくれている味方に申し訳が立たない。
    「アンタの運ぶ悪夢は、此処で完全に潰す!」
     双人の黒死斬が、斗中居のアキレス腱を斬り裂く。
    「ぐがっ」
     バランスを崩して、黒いサンタクロースがその場に転がった。
    「サンタにゃ朱のが似合うだろうがよッ!」
     眞白の愛用の「Seraphim」が、真紅の炎に包まれる。
    「さぁて、プレゼントは頂くぜ…! 灼滅者側の逆転勝利って奴をなぁ!」
     凄まじい炎の奔流が、無様に転がる斗中居の背中に容赦なく襲い掛かる。
    「ひぃぃぃっ」
     悲鳴を上げて、斗中居は四つん這いのまま逃げ惑う。その前に小さな影が立ちはだかった。
    「折角だからその血で真っ赤なサンタにしてあげるね☆」
     子羊はニッコリと笑むと、ヒーロー☆ソードを振り下ろした。破邪の聖剣は白光を放ち、輝ける光は黒きサンタクロースの邪悪なる魂を斬り裂く。
    「ダークネスも、その目的も、ここで潰す!」
     煉夜の妖の槍が煌めく。螺旋の如き捻られた槍先は、斗中居の胸を深々と抉った。
    「がはっ」
     血反吐を吐き散らし、黒いサンタクロースはその場に倒れた。二-三度痙攣した後、完全に動きを止めた。


    「ボス獲ったどー!」
     ミカエラが高らかに宣言した。
     1体だけ残っていたミニスカサンタは、邦彦とカゲロウで仕留めた。
    「さて、後は…ナースさん他と協力してミニスカサンタさん達にお仕置きだな! みなぎってきたぜ!」
     指揮官が倒れたことにより、眷属達は混乱するはずだ。病院の灼滅者達と協力すれば、残存部隊を殲滅するのはそれ程難しくないと思われた。
     紫廉が先陣を切って、第二病棟を飛び出す。
    「!」
     玄関を出たところで、紫廉は足を止めた。
    「どうした? ……っ」
     不思議そうに声を掛けた双人も、その惨状を目の当たりにして息を飲んだ。
     動いている者は、誰もいなかった。
     病院の灼滅者達は、玄関口を文字通り死守してくれたのだ。
    「おい、あんた! おい!」
     ミニスカサンタの足首を掴んだまま息絶えている青年の体を、双人は揺り動かす。だが、彼の目が開けられることはない。
    「…お前ら、援軍か?」
     その声に顔を上げると、巨大な剣を担いだ青年が、静かに見下ろしていた。病院の灼滅者らしい。
    「気に病むな。こいつらは、お前達を守り切った。見ろよ。みんな満足そうな顔してやがる」
     彼らは彼らの任務を全うしたのだ。
     あちらこちらで戦闘音が響く。指揮官を失ったミニスカサンタ達の掃討戦が開始されたのだろう。
    「羽釜さん! あっちに10体ほどの集団がいる」
     セーラー服を着た少女が駆けてきて、青年を呼んだ。
    「分かった」
     大きく顎を引くと、次いで武蔵坂学園の灼滅者達に顔を向けてくる。
    「一戦やらかした後で疲れてるところ悪いが、手を貸してくれ」
    「これ以上の犠牲は出させない。だって僕はヒーローだから!」
     子羊は肯く。
    「さあ、反撃だっ!」
     ミカエラが駆けた。眞白が、遥香が、邦彦が続いた。
     煉夜はガトリングガンを肩に担いだ。
    「暴れるぜ、カゲロウ!」
     紫廉がカゲロウに跨がる。
     双人は青年の背中をポンと叩くと、仲間達の後を追った。

    作者:日向環 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年12月6日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 7/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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