「援軍要請の返答はまだか!」
「隔壁展開急げ!」
――第一種戦闘配備、第一種戦闘配備。非戦闘員は内科病棟地下へ避難せよ。
やかましくアナウンスが流れる中、正面のモニターに黒ローブ姿の軍勢が現れる。皆一様に、夜目にも映える白い仮面をあてていた。
「非戦闘員の誘導中、現在避難完了区画の確認中」
「北から返答来ました、……」
怒濤のようにモニターを流れ下る情報。その隅へ開かれたウィンドウに視線を走らせた看護士が蒼白になる。
「『当病院に襲撃あり。これまでの協力関係に感謝、サクラ・サクラ』……」
読み上げた後、力尽きるようにノイズの波が短い文を押し流した。
「だめです! 第三へも襲撃、大至急援軍請うとのこと!」
緊急司令所となった室内に広がる絶望。聞いていた看護士がうずくまるのを横目に見やり、医師の一人が一喝する。
「諦めるな! 殲術病院が簡単に陥落してたまるか!!」
●花の散るらむ
「ハルファス、それからセイメイとスキュラが『病院』の襲撃をもくろんでる」
那須殲術病院は知ってるよね、と成宮・樹(高校生エクスブレイン・dn0159)は淡々とルーズリーフをめくりながら説明を続ける。
「『病院』はそういった拠点を日本中に持っていて、高い防御力を武器に籠城し近隣から援軍を送って撃退、って戦法が十八番だったみたいだ」
しかしその戦法を完璧に封じられ、『病院』は壊滅の瀬戸際にある。
「三つのダークネス勢が各地の病院を一斉襲撃したために、互いに援軍を出すこともできず皆殺しってわけ」
北関東の地図をひろげた樹は、山間のとある地点にマーカーで印をつけた。
「向かってもらう病院はここ。殲術隔壁を展開して籠城中だけど、いくつか破られて白兵戦になってる所もある。陥落は時間の問題だね」
さらに樹は病院の俯瞰図を地図の上へ乗せる。
「病院周辺は上からだとこんな感じ。見たとおりのシンプルな箱型だし数十人の強化一般人を引き連れてるから、まともに戦ってどうこうできる数じゃない」
建物の構造を武器に粘ることはできず、奮戦しても逆転は難しい数。
樹は南向きの正面玄関の右上隅、見取り図の北東に指先を置いた。
「だから、このあたりの森の中にいる指揮官を叩いてもらう」
背後から奇襲し指揮系統を乱せば、籠城している病院内の者も外に出てくるはずだ。そして病院側と協力すれば、強化一般人の一掃も不可能ではなくなる。
「夜だけど晴れてるし、戦闘に支障はないよ。足が速い護衛が三人いて、指揮官と戦闘になると一人が応援要請のために逃走をはかる」
もしそれを阻止できなかった場合、数分後に増援を連れて戻ってくる。
「申し訳ないけど、戻ってくる正確な時間はわからなかった」
ただ、戻っても指揮官さえいなくなれば同じ。急いで倒せば、むしろ病院を攻めている人数はその分少なくなるので、危険は高まるがそれを逆手に取る戦法もあるだろう。
「指揮官と護衛は魔法使いのものによく似たサイキックと、契約の指輪で武装してる。強化一般人は黒ローブ姿で白い仮面をつけてるけど、指揮官だけは顔がついてるね」
細い顎にカイゼル髭、うっすら笑みを作った口元の仮面。残虐を愉しむ表情そのままに、戦闘となれば一切の容赦はない。かつ、病院の陥落が時間の問題なだけに、逃走を阻止したとしても戦闘を長引かせるべきではないだろう。
「実は、救援が間に合わなくて陥落した所もある」
八人という数で夜間の大規模戦闘に介入する。これだけでも充分危険な任務だ。作戦はもちろんのこと、その危険へ挑む覚悟も問われるだろう。
それまで淡々と説明を続けていた樹が急に顔を伏せた。
「危険だってわかってて送り出す側が言えたことじゃないけど、本当に……気をつけて」
参加者 | |
---|---|
黒咬・翼(翼ある猟犬・d02688) |
レイン・シタイヤマ(深紅祓いのフリードリヒ・d02763) |
加賀谷・彩雪(小さき六花・d04786) |
天河・蒼月(月紅ノ蝶・d04910) |
ディアナ・ロードライト(比翼の片羽根・d05023) |
大祓凶神・乙女(剣の花嫁・d05608) |
アルカンシェル・デッドエンド(ドレッドレッド・d05957) |
慈山・史鷹(妨害者・d06572) |
●花の色はうつりにけりな
雲ひとつない晴れ渡った夜空から斜めに月明かりが差し込む森を、黒咬・翼(翼ある猟犬・d02688)が疾走する。
襲撃されている殲術病院からだろうか、小さく、鈍い爆発音がきれぎれに届いていた。
肩越しに振り返れば、すぐそこにぴたりと追従してくる慈山・史鷹(妨害者・d06572)、そして大祓凶神・乙女(剣の花嫁・d05608)の姿も見える。倒木を躍り越えたレイン・シタイヤマ(深紅祓いのフリードリヒ・d02763)の長い髪が翻った。
まずは背後からソロモンの悪魔の軍勢を奇襲し、指揮系統を絶つ。
アルカンシェル・デッドエンド(ドレッドレッド・d05957)は無言のまま加賀谷・彩雪(小さき六花・d04786)の傍を離れ、大きく回り込むように左へ逸れた。
翼とディアナ・ロードライト(比翼の片羽根・d05023)の二人とは以前依頼を共にし力量を知っている間柄だ、心配ないだろう。
……増援の来るタイミングは、エクスブレインをもってしても『数分』としか見通せなかった。
天河・蒼月(月紅ノ蝶・d04910)は正直な所、その数分の存在に不安を隠せない。
そして数分後に来る増援と迅速な殲滅とを天秤にかけ、灼滅者たちの天秤は速さに傾いた。十五人の増援というリスクがどう転ぶか、今はまだ誰にもわからない。
ただ今は全力をもって、月影を背に立つあの仮面の指揮官を叩くだけ。
「首級を頂戴! ここがお主のデッドエンドじゃ!!」
夜陰を切り裂くアルカンシェルの怒号に、第三者の来襲を悟った黒ローブの護衛が身構える。しかし枯れ笹を踏みしめ急停止したアルカンシェルの初撃と、ディアナの援護を受けつつ【滅一閃】を横薙ぎに払った翼のほうが速さで勝った。
「行くぞ、ディアナ。背中は任せる」
「存分に」
ディアナの足元から黒い霊犬・刃が飛び出し、眼前の敵からの攻撃に備える。
四方八方からの攻撃に耐える指揮官を守るように護衛が動き、目の部分に切れ込みが入っただけの白い仮面が灼滅者たちへ向けられてきた。
その闇を、祓ってやろう。
そうその血濡れた目論見ごと、今この場で。
口早に解除コードを呟いたレインの足元、月とは逆方向に影色の獅子が疾駆する。一閃された肩口を押さえ、指揮官が一歩後ずさった。
「さて、邪魔させて貰いますかね」
「通りすがりの灼滅者だ。悪いが殲滅させてもらう!」
翼と、敵を挟む形で位置取った史鷹が腰だめに剣を抜く。
目深くおろされた黒いフードの陰から、細い顎とカイゼル髭がのぞいた。薄い唇は微笑の形。
その仮面を目にいれたディアナが一瞬瞠目した。仮面の奥にあるはずの目、しかしそこにはどこまでも果てない暗渠しか見えない。
護りなさい、と一瞬の予感に急かされた、悲鳴に似たディアナの声。
しかしつや消しの手袋に包まれた指先が指し示した先、無言のまま叩きこまれた攻撃は一瞬で最後列の乙女を庇ったディアナのサーヴァントを消滅させた。
●激しかれとは祈らぬものを
灼滅者へ衝撃が走る。たまたま会心の痛打だった、と考えれば対応に八人が割かれる相手である以上、おかしなダメージ量ではない。しかし。
指揮官が視線を巡らせた、ように思えた。
護衛の一人が指揮官の傍を離れ、一瞬の隙をついて駈けだして行く。事前に申し合わせていた通り援軍要請は無視しそのまま攻撃を続行、……しなかった者が一人だけいた。
「好き勝手なんてさせねぇぞ」
進路に立ち塞がる史鷹を振り切るべく、全力疾走に移ろうとしたがらあきの背後を、足元からすくい上げるような白光が襲いかかる。
相手に好き勝手に暴れ回られるのは非常に面白くない。しかし、指揮官を優先して撃破するという目的を違えたつもりもなかった。
そしてこの史鷹の牽制が、大きく灼滅者の命運を分けることになる。
「殲滅か」
面白い、と言わんばかりに肩を震わせた指揮官が左手を振った。
糸で操られるように護衛がそっくり同じ動きをなぞる。白の軌跡が走り急激に気温が低下した。
「すぐに癒しますのことよ!」
すぐさま乙女が回復に入り事なきを得るが、蒼月は胸の底の冷たい感触に気付く。たった今受けたフリージングデスの効果などではない、もっと根源的な何か。
数分で到着するという援軍。まずは布陣を万全にすべく、彩雪はサーヴァントを駆り前衛のダメージからの立て直しを急いだ。
「さっちゃん、ディアナさんをお願いです……!」
脳裏で忙しく考えを巡らせながらレインは戦況を読む。まだ戦端は開かれたばかり、あちらに状況が傾くかどうかはまだわからない。ひとまず治癒を待ってから攻撃に移るアルカンシェルや翼の動きにも、鈍さは感じられなかった。
「素顔を見せぬ手合いと慣れ合う趣味はない。全力で排除させてもらう」
「なるほど。期待には、応えねばな」
星明かりの下、まっすぐに顔を上げ指揮官を睨みつけるレインの指先へ爪状の影が凝った。両腕を鋭く振りぬくモーションで放たれた影の刃は、見る間に獅子の前脚の形をとって指揮官へ襲いかかる。
「お前を倒せば、僕らの勝ちだ!」
「さっさと倒れろ! 3番、4番全弾発射!!」
猛然と攻撃を仕掛けに行く蒼月と翼の前へ護衛が立ちはだかった。それには構わず奥の指揮官へそれぞれギルティクロスとマジックミサイルを浴びせかけるも、期待したほどの痛打にはならなかったようだ。
彩雪は護衛の動きを注視し、すぐに霊犬へ指示を与えられるよう身構える。雪の結晶を模した杖先が指し示したのは指揮官の頭上。にわかに雷光が走り青白い稲妻が迸った。
「なるほど、なるほど……面白い」
強かに撃ちすえられた指揮官が、しかし、笑い声をあげる。
「まず、兵站線の破壊は常套といえる」
すい、と妙に優雅な動作で革手袋の指先が上がった。
その先は、たった今アルカンシェルへエンチャントを施した乙女。
「え?」
心臓を握りつぶされるような、そんな錯覚。
胸の中央をまっすぐに貫いた軌跡。乙女はなすすべもなく膝をつき、咳に大量の鮮血が混じったことを知る。
「……か、っ……ハ……!!」
動けない。事態の急転を知り誰かが回復を飛ばしてくれたような気がしたが、視界が派手に歪んで目も開けていられない。
全身の血が逆流を始めたような気がした。蒼月は胸の底に沈んでいた不安の理由にようやく思い至る。
一切の容赦はないと言われた指揮官。殲滅を急ぐため回復はあえて薄かったが、乙女をもし真っ先に落とされたら。
わずな綻びが、やがて裂け目のように広がって布陣が瓦解をはじめる、その予兆にレインは言葉を失う。
●花の散るらむ
「止める!」
主語もなくただ一言を叫び、アルカンシェルが地面を蹴った。
逃走を図った護衛の姿はすでに消えている。逆手に取る戦法もあるが危険は増す、とも表現されていた。サーヴァントごと射線を遮るように乙女の前へ立ちはだかり、彩雪は唇を噛み締める。
「あなたの好きになんてさせません……!」
この戦場にベットしたチップの価値がどれほどか、なんて。痛いくらいにディアナは知っている。
背後に背負った病院ひとつ。その中に何人いるかなんて誰も知らない、でも伸ばした手が間に合わなければ悔やんでも悔やみきれないくらいの人数がいることなら知っている。
倒れた乙女は気になるがアルカンシェルの視線にはブレがない。
――指揮官を倒す。
もう賽は投げられた。賭けた命の数は背負った病院のものだけではない、自身の命も入れた八つを奪われたくなければ全力でもって運を引き戻すだけ。
なれば小難しい戦術の常套など、乙女のエンチャントを宿したこの手でぶち抜いてくれる!
「常套、などとぬかしおったな。笑止!!」
渾身の力で振りおろしたクルセイドソードの斬撃が、白銀の十字槍となって指揮官を貫く。護衛と護衛のごくわずかな隙間を縫った、見事としか言いようのない一撃だった。
さらに彩雪を覆い隠すように蒼月が壁となる間、持てるかぎりの回復を乙女へ集中させる。
「加減無用、掻き裂け、リヒャルト!!」
そして布陣を崩しにかかる相手の手数を減らすべく、レインは一切の雑念を捨てて指揮官を狙った。首元への狙いは逸れたものの、フードの右半分が派手にはじけ飛ぶ。さらにそこへ史鷹が追い打ちをかけた。
「後ろだから安全、って訳じゃねぇんだぜ!」
「……もう、よろしいのですだわ」
護符揃えを両手の指間へ広げ、乙女がゆらりと顔を上げる。真正面からクリーンヒットしたダメージは実はまだ癒えきらないが、ここで動かぬ身体ならばいっそ倒れてしまったほうが足手まといにならぬというもの。
「時間がないのですことよ!」
自身を奮い立たせるように一喝し、身代わりのように護衛の攻撃を受け止め続ける前衛へ次々と防護符を施していく。
一進一退の攻防は熾烈を極め、ほどなく回復の一助を担っていた彩雪の霊犬が力尽きた。
めまぐるしくサイキックの応酬がされる中、戦場を見渡す最後方という立ち位置の乙女はふと我に返る。
数分で到着するはずの増援。
司令官からの直撃を受けたせいで時間の経過が多少曖昧な部分があるものの、体感ではもう増援が到着していてもおかしくない気がした。しかし背後を振り返っても、十五人という一団が迫っている気配はない。
「増援が遅れているのですだわ」
「? どういう、――」
ことだ、という翼の呟きは声にならなかった。ディアナを襲った禍々しい漆黒の光線を肩代わりしたため、まるで全身が石にでもなったかのように重くなる。
そこを狙っていたのだろう、二人の護衛が翼へ攻撃を集中させてきた。血の花が咲くも、すぐさま庇われたディアナが傷を塞ぎにかかる。
走る護衛の足元をすくうように放たれた、史鷹のクルセイドスラッシュ。
「……あれか?」
乙女を沈めた指揮官の恐るべき一撃をなんとか耐えきった翼が、増援の遅れている理由に思い当たった。
冷静に考えれば別におかしな話ではない。傷を負えば当然走りにくいだろう、途中で癒すなり増援を揃えるのに時間がかかるのは当たり前だ。
そして互いに拮抗していた戦力が、何かのタガが外れるように急速に灼滅者へ傾きはじめる。
しかしアルカンシェルの頬に、ひとすじ冷たい汗が伝った。ふと嫌な予感に振り返った視線のその先、月光のさしこむ森をこちらへ進む一団が見えたのだ。
このまま増援の到着を許せば流れは再び傾くだろう。
ベットした命の数。
それでも勝利に足らぬのなら。
「小細工は好かぬしの!」
動物的な勘が命じるまま、最大ダメージを与えうるサイキックを選んだ。大きく一歩を踏み込み、放った純エネルギーの塊が指揮官をとらえ、ついに跡形もなく吹き飛ばす。
●神のまにまに
誰もが限界を越えていた。しかしアルカンシェルのオーラキャノンに蒸発させられるように指揮官が消滅した事実は、変えようもない。
時間の感覚すら麻痺するような激戦を制し、灼滅者たちは樹間からかいま見える病院を振り返る。
間に合ったのか。
自分達は間に合わせることができたのだろうか。
「私たちの勝ちよ!」
妖の槍を力任せに突き立て、ディアナは周囲に残った黒ローブの一団を一喝する。満身創痍の少女が発するには、あまりにも力に満ちたその声。
「指揮官を失ってもなお戦うかどうか、好きに選びなさい」
一歩も退かず苦難に挑み続けたその目に曇りはない。古代ローマの狩猟の女神と名を同じくするその輝きは、誰にも汚せない。
気圧されたのかそれとも指揮官を失い心折れたのか、ばらばらと逃げ出してゆく黒ローブの背中。
「ディアナ!」
それを見送り、ぐらりと傾いだ傷だらけの肩を抱き起こして翼は言葉を重ねる。
「大丈夫か? あと少しだ」
果たして自分達は間に合わせることができたのだろうか。
病院の周囲は静まりかえっていた。
一直線に森を抜ける。ほんの一秒すらも今は惜しい。
これから総攻撃でもかけようと言うのか、建物を遠巻きに囲んでいた黒ローブの集団の前へ走り込み、蒼月は無惨に破壊された殲術隔壁の奥を思う。
そこにまだ生存者がいるならば、その耳へ届けとばかりに大声をあげた。
「病院の事は良く知らないけど……同じ灼滅者、見過ごす訳にいかない!」
「誰……? あなたたち一体、どこから?」
やはり傷だらけの人影が幾人か、照明も落ちた暗闇の向こうから蒼月や彩雪の背中を見つめている。多少武蔵坂の灼滅者とは様相が異なっているようだが、ダークネスではない。
信じられないものを見るような、一度は諦めた希望を再び見いだしたような、そんな視線がいくつも注がれている。
「北も第三もみんな落ちたのに、本当にどうやって?」
間に合った。
「――お会いしたかった、です」
万感の思いをこめて彩雪は瓦礫を乗り越え、手をのばす。差し出した手に埃だらけの、しかし血の通う指が重なった。
「だから」
自分たちは間に合ったのだ。
「だから助けます。絶対に」
「乙女は疲れましたのですことよ」
本当に本当に、疲れた。胸はまだ痛むしもうありえないくらい傷だらけで、何だか目の前がおかしな具合で霞んでいる。
「だから早く、死にたい者は前へ出るのですだわ!」
そこまでが彼女のリミットだった。限界を遙かに超えたダメージを負った身体が後ろへ倒れこむ。
しかし、意識を失った乙女をしっかりと受け止め抱えおろした人物が、ひとり。
「『病院』が怪我人を立たせたままじゃ、いけないねえ……!!」
ばらばらと隔壁の奥から飛び出してくる『病院』の灼滅者。
「凌ぎきれば妾たちの勝利、押し返そうぞ!」
「皆『灼滅者』に続け! ひるむなァ!!」
鬨の声が夜陰をつんざいて響き渡った。
先頭をきって斬りこんでいくアルカンシェルに、傷だらけの『病院』の灼滅者が何人も続く。
「『灼滅者』の援護に回れ、何としても死なせるな!」
「走れ、リヒャルト! 掃討を始める!!」
自身を鼓舞するように叫んだレインの脇、ここに至ってもなお消耗を感じさせぬ影色の獅子が咆哮した。そのまま月光に照らされた病院の前庭を獣の王者そのものの猛々しさで疾駆し、黒ローブの一団へと襲いかかる。
横から割り込んできた武蔵坂の存在にどう対応すべきか考えあぐねていた配下たちは、指揮官からの下知がいくら待っても来ないことにようやく気付いた。
もはや勝敗は誰の目にも明らか。風で花が吹き散らされるように敗走してゆく仮面の一団。
「勝った……」
今にも膝が砕けてしまいそうな疲労とダメージ。
大きく肩で息をしながら史鷹は拳を突きあげた。喉が枯れて声も出そうにない。しかし。
圧倒的不利をはねのけてもぎとった勝利。
「俺たちの、勝ちだ!!」
晴れ渡った夜空に轟く万雷に似た歓声。
ついに死闘を制した二つの陣営を寿ぐように、初冬の空には満天の星がきらめいていた。
作者:佐伯都 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年12月6日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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