殲術病院の危機~凍てつく不死者の行進

    作者:白黒茶猫

    ●援軍なき籠城戦
    「近隣の殲術病院より緊急連絡、『ソロモンの悪魔による襲撃あり、至急援軍求む』とのこと」
     とある病院の隠された一室で、看護師らしき若い男性が、白衣を着た精悍な男性に通信内容を伝える。
    「よし、わかった。すぐに援軍を出すと……」
     それを受けて命令を出そうしたところ、別の看護師の女性が慌てた声を上げる。
    「緊急事態です! アンデッドの軍勢がここへ襲撃してきました!」
    「何? 同時に異なるダークネスによる襲撃だと? そんな偶然が……数はどの程度だ?」
    「数は20、30……40……!? えっ、ノーライフキングまで!?」
    「バカな、何故ここへそれほどの戦力を……それも不死王自ら戦場に出るだと? いったいどうなって……」
     その間にも、緊急連絡のブザーが鳴る。
     内容はどれも同じ、援軍を求めるものだ。
     襲撃してきた相手はノーライフキング、ソロモンの悪魔、淫魔など多岐に渡る。
    「なるほど……『ここ』を狙ったわけではなく『全て』を狙い、我々の長所を潰しに来たか。……やってくれる」
    「ど、どうしましょう……!?」
    「うろたえるな。我々最大の武器はこの殲術病院の防衛力だ。ならば籠城戦で迎え撃つのみ」
     おろおろとする若い看護師達に、静かに告げる。
    「総員第一種戦闘配備だ。防御隔壁は全て展開してるな? よろしい、非戦闘要員を直ちに避難させろ。各自殲術道具の用意。この病院を奴らの好きにさせてはならん」
     太く長大な銃身のライフル銃……殲術道具『バスターライフル』を手にした男性は、慌てることなく、極めて冷静に命じていった。

    ●不死王の襲撃
    「凍て付き氷れ! 『氷晶弾』ッ!」
     一人の青年が水晶の右腕を振るうと、その腕から氷のような結晶が放たれる。
     それは殲術病院が展開した第一防壁を撃ち抜き、着弾点を瞬時に凍らせる。
    「はーっはっはっはっ! いいぜいいぜぇ、悪くねぇ!」
     青年は高笑いを上げ、水晶の腕でガッツポーズを決めた後、満足げにその腕を眺める。
    「くっくっくっ……これが不死王の、俺の力か」
     変異した部分はその水晶の右腕のみだが、その特徴は紛れも無くノーライフキング……不死王のもの。
     そして不死王の力は、自身の戦闘力だけではない。
    「さぁ行け、アンデッドども! ゴミ共を蹴散らしちまえッ!」
     不死王は数十体にも昇るアンデッドの大群に突撃を命じる。
     作戦も何も無いただの突撃命令だが、数とアンデッドのタフさに任せた攻撃は熾烈を極める。
     本来なら兵をいたずらに失う愚策だが、いくらでも替えも補充も利く死人兵となれば話は別だ。
     無論、病院の灼滅者達もされるがままではない。
     防壁を盾にしつつ遠距離サイキックで近づくアンデッドを射抜いていく。
     病院の反撃によって完全に破壊されるアンデッドも多いが、それ以上に防壁が削れて行く。
     不死王は最初の一撃以外手を出してこないが、眷属だけでも多勢に無勢だった。
     降り注ぐ攻撃の雨にも怯むことなく次々と襲い掛かるアンデッドの攻撃に、凍って脆くなった防壁は耐え切れず、突破されてしまう。
    「ぃよっしゃ、抜いたぜ! さぁ喜べ成り損ないにも劣る粗悪品のゴミクズ共! てめえら無意味な生を終わらせた後は、この俺様が手ずから不死の軍勢に加えてやらぁ!」
     そして、不死王が率いる死者の軍勢が、病院内へと侵入していった。

    ●教室
    「……大変な事になったわ。いや、いっつも大変だけど、今回は物凄い大変よ」
     常磐・凛紗(高校生エクスブレイン・dn0149)が眉間を抑えながら集まった灼滅者達に説明する。
     どうやら複数のダークネス組織が武蔵坂学園とは別の灼滅者組織である『病院』の襲撃を目論んでいるらしい。
     ソロモンの悪魔『ハルファス』、白の王『セイメイ』、淫魔『スキュラ』。
     三つとも、いずれも武蔵坂学園と因縁のある勢力だ。
    「さすがに、全部いっぺんに相手にしろってわけじゃないわ。けどかなり大規模なものになるでしょうね」
     凛紗の説明によると、病院勢力は、『殲術病院』という拠点を全国に持っている。
     それぞれの防御力は高く、襲撃された場合籠城して耐え凌ぎ、その間に他の病院から援軍を貰って撃退するというスタイルを得意としていたらしい。
    「けど今回、三勢力ものダークネスによって全国ほとんど全ての病院へ同時に襲撃されたせいで、お互い自分のトコで手一杯。いわゆる孤立無援って状況よ」
     前回の襲撃から時間をかけたのは、各拠点の場所を突き止め、それを同時に攻略するだけの戦力を集めるのに費やしたため、ということだろう。
    「病院のほうは防衛力に自信を持ってるみたいだけど、援軍のない篭城戦なんて、いつまでも続きはしないわ。このままいけば、病院勢力は壊滅するでしょうね」
     個々の拠点だけでなく、病院勢力そのものがなくなってしまうのだ。
    「けど、それを見過ごすあなた達でもないでしょ?」
     凛紗に言われるまでも無く、灼滅者達の答えは決まっていた。
     ここに集まった。つまりはそういうことなのだ。
    「あなた達に向かって欲しいのは、ここよ」
     凛紗が地図を指し示し、場所を伝える。
     場所はとある小さな町。
     田舎の病院にしては立派な敷地に設備だと近場では有名らしい。
    「敵は不死王が1体と、眷属が40体ちょっとよ。ふざけた戦力よね、全く!」
     眷属相手のみの依頼と比べても数倍であり、加えて不死王までいる。
     まるで戦争並みの戦力……いや、事実戦争なのだろう。『病院』と、ダークネスとの。
     はっきり言って、まともに戦って敵う戦力ではない。
    「だからあなた達には一番重要な役目、『不死王の灼滅』をお願いするわ」
     指揮官である不死王さえ撃破すれば、アンデッドの統率は崩れる。
     そうなれば病院の灼滅者と協力し、指揮系統が断たれた眷属を倒すことができる。
    「不死王は本来強力な相手だけど、闇堕ちしたばかりだからあまり力を蓄えてはいないわ。それでも並みのダークネスより頭一つ分強いんだけど」
     連れているアンデッドの手勢も、手製のものではなく白の王、セイメイより与えられたものだろうと凛紗は予想する。
    「不死王はアンデッドを先行させて後ろを悠々歩いているから、奇襲は簡単よ」
     バベルの鎖に慢心しており、一切警戒していない。
     病院の敷地内に入った後、建物に入る前を狙えば戦いやすいだろう。
    「眷属は殆ど向こうに引き受けてもらう事になるけど、不死王さえ倒してしまえばお釣りがくるわ。向こうもそれを望んでるでしょうね」
     病院にとっても、防衛に徹しながら指揮官を狙うのは不可能に近い。
     そこで自由に動け、かつ不死王を倒せる実力を持つ武蔵坂の灼滅者の出番というわけだ。
    「だけど、不死王に眷属の中に逃げ込まれると手出しが難しくなるわ。特にこの不死王は、氷や冷気によって治癒を妨げ、ジワジワと削る戦法を得意としてるの。相手の得意なフィールドに立っちゃダメ」
     眷族の元へ逃がさない為の戦い方や、策を講じる必要があるだろう。
    「もし逃げ込まれたら、作戦はほぼ失敗。……その時は、あなた達だけでも撤退してちょうだい」
     数十体ものアンデッドの中に紛れて遠距離から挑まれれば、絶対的戦力で劣る灼滅者達の勝ちの目はなくなってしまう。
     だが学園の灼滅者が撤退すれば、病院の関係者の末路は想像に難くない。
     灼滅者の脳裏に、『闇堕ち』の単語が過ぎる。
     凛紗はそれに気づきつつも、否定も肯定もしない。いや、できなかった。
     凛紗は目を軽く伏せたが、振り払うように顔を上げ、 しっかりと灼滅者達を見据えて告げる。
    「敵はいつも以上に強大で、戦いも大規模なものになるわ。……待っててあげるから、ちゃんと帰ってきなさいよ」
     信頼と不安。入り混じった感情が篭った目で、出発する灼滅者達を見送った。


    参加者
    鏡宮・来栖(気まぐれチェシャ・d00015)
    エステル・アスピヴァーラ(おふとんつむり・d00821)
    最上川・耕平(若き昇竜・d00987)
    前田・光明(中学生神薙使い・d03420)
    弥堂・誘薙(万緑の芽・d04630)
    ファリス・メイティス(黄昏色の十字架・d07880)
    紺野・茉咲(居眠り常習犯・d12002)
    ユーリー・マニャーキン(天籟のミーシャ・d21055)

    ■リプレイ

    ●奇襲
     宵闇と戦闘音に紛れながら、タイミングを伺う弥堂・誘薙(万緑の芽・d04630)が、病院の防壁へと群がるアンデッドの大群を遠目から見て怖気づく。
    「普通の依頼で対処する数じゃないですね……」
     眷属40体以上でも途方も無いというのに、加えてそれを統べる不死王までいる。
     聞こえてくる激しい戦闘音は、正に『戦争』のそれだ。
     防戦に徹しているためとはいえ、病院の灼滅者の姿が見えないのも不安が煽る。
    「40を超えるアンデットに不死王……確かにこれ程までに絶望的な戦力差での戦いは初めてだ」
     ユーリー・マニャーキン(天籟のミーシャ・d21055)も戦力差を肯定する。
    「しかし、このチームであれば勝てる、私はそう確信しているよ」
     だがそれでもやれると、第一線で活躍する灼滅者達へ尊敬の念を込め、頷く。
    「むきゅ~、新米不死王に年季?の違いを魅せつけてやるのですよ~」
     エステル・アスピヴァーラ(おふとんつむり・d00821)の不敵な笑みと、戦意に満ちた仲間達の姿が誘薙の心を勇気付ける。
    「俺は攻撃に徹する。回復は任せたよ」
    「僕にできるのなら全力を尽くします!」
     ファリス・メイティス(黄昏色の十字架・d07880)の信頼に応え、仲間の癒し手たるべく誘薙は護符揃えを握り締めて怖気づく心を振り払う。
    「そぅら、第二関門突破だ! 行けアンデッド共! ゴミ共を屠って来い!」
     突入を命じ、悠然と立つ不死王の背後へ、灼滅者達が忍び寄る。
     わらわらとゾンビが病院内へ侵入したのを見計らい、前田・光明(中学生神薙使い・d03420)が手で突入の合図する。
     紺野・茉咲(居眠り常習犯・d12002)が、冷たい手を握り締め、戦地へ向かう。
     祈ることは一つ。『どうか、みんな無事に』と。
    「はーっはっはっ、あっけねえなあ『病院』勢力ってのもよぉ!」
    「その驕った感情、ここで潰してあげるよ」
    「なっ、があっ!?」
     哄笑を挙げる不死王へ、最上川・耕平(若き昇竜・d00987)と鏡宮・来栖(気まぐれチェシャ・d00015)、二人が手にした破邪の光を纏った剣を無防備な不死王の背に振り下ろす。
     更に合図直後に駆けた光明の縛霊撃が、網状の霊力となり縛りつく。
    「行くよ。シェリル」
    「ナノ~」
     致命的な初撃に続き、付近のアンデッドをたつまきが襲う。
     それに気を取られた不死王へ、狙い済ました魔杖の一撃が命中し、魔力が爆発する。
    「随分楽しそうなことしてるね。俺たちも混ぜてくれるかな?」
     ファリスの魔杖と、相棒のナノナノ『シェリル』によるものだ。
    「むきゅ~、悪さする子はお仕置きなのです、かくごするですよ~」
     エステルのオーラキャノンが膝を折る不死王へ寸分違わず命中する。
     エステルと誘薙、2体の霊犬『おふとん』と『五樹』が十字に交差して切りつける。
     不死王に回避されたが、避けた先には誘薙の影の刃が不死王の身を斬り裂く。
    「その脚、ズタズタにしてやる」
     更に影の刃に隠れ、死角から現れた茉咲の日本刀が不死王の脚を切り裂き、ユーリーの光輪が、脚を斬られ動きが鈍った不死王を打つ。
    「調子に乗っているから痛い目を見るんです」
     影の刃を納めた誘薙が、一連の奇襲全てをその身に刻んだ不死王へ、冷めた調子で言う。
    「ことが上手くいってる時ほど注意すべきだったね。もう遅いけど」
    「ナノナノ~」
     フィリスの言葉に、同意だというように『シェリル』が声を上げる。
    「バカな、この数で完全にバベルの鎖をすり抜けて……そうか、てめえらが武蔵坂の灼滅者かッ」
     不死王はギリっと歯噛みし、灼滅者達へ怒りの視線をぶつける。
     奇襲はかなり手応えがあったが、不死王はまだまだ余裕といった風だ。
     その間に灼滅者達は病院を背に半円陣を敷いていく。
    「ははっ、随分沢山だな。不死王は強いと聞いていたが、肩透かしも良い所だ。どうやらこれほど群れないと怖くて闘えもしない連中らしいな」
     光明は病院にラッシュアワーさながらの密度となって入ろうとするアンデッドを見て嘲笑いながら挑発する。
    「はっ、王の力ってのは愚民共を統べる力だぜ? 愚民共は王の盾となって当然だっての!」
     不死王は気にした風もなく逆に嘲笑を浮かべる。道具としてしか認識してないのだろう。
    「どうやら僕とは致命的に相容れないようだな。そのつもりもないが」
     仲間を守るために身を挺する事を厭わない来栖にとっては、その有り様は理解できないものだ。
     聖剣を構える来栖へ不死王は余裕の視線を向ける。
    「ひゃっはっはっ、いいぜ? 手駒任せのワンサイドゲームもつまらねえと思ってたところだ。遊んでやるぜ、なり損ないどもッ!」
     体勢を立て直した不死王が、『病院』を護るように背にする灼滅者へその水晶の腕を振るった。


     戦いが始まって数分、光明は不死王の攻撃を見極めようとするが、その狙いは正確無比だった。
    「(動きは予想通り荒いが、狙いは思った以上に正確か……)」
     手酷い当たりを避けるのが精一杯で、完全に回避し切るのは難しい。
     灼滅者は不死王を半円状に包囲しようとするが、敵味方入り混じり激しく動き回る戦場では至難の業だ。
     攻撃の手を止めて入り口を塞ぐのに専念すれば可能だが、今は一人欠けるのも惜しい。
     戦いつつ瞬間瞬間、近くの数人で塞ぐ形を取る。
     凍り付いた光明へ、アンデッド達が群がるようにその爪で引き裂こうとするがその狙いは荒く、光明は容易く避ける。
     避けようとする度、氷に蝕まれ体力が削られていったが、それも誘薙の『五樹』、ユーリーの 『スェーミ』、2体の霊犬の清浄なる瞳の力によって癒され、凍てついた氷はたちまち取り除かれる。
    「ふむ、自慢のアンデッドは随分と粗製のようだな。これが『統べる力』とはお笑い種だ」
     にやりと笑う光明へ、不死王が歯噛みする。
    「ぐっ……これが終わったらじっくり俺様の俺様だけの軍勢を作ってやるさ、てめえらとゴミクズ共の死体でな!」
    「次なんてないよ。お前は逃がさない。ここで灼滅する」
     茉咲が日本刀で水晶の手を斬りつけ、阻害する。
    「ん? まだ堕ちたばかりかな?」
     不死王の水晶の拳を腹部に受けた耕平が、身を折り俯きながら独り言のように呟く。
    「何ィ?」
    「いや、僕が今まで出会ったダークネスの中では凌ぎやすい方だったね、今の一撃」
     体へ響く痛みに堪えながら、耕平はにやりと笑う。
     破邪の光を纏い『聖戦士化』した体は容易く屈しない。
    「むきゅ~、まだまだひよっこなのです♪」
     『おふとん』が耕平の傷を癒しつつ、エステルの影が伸びる。
    「言ったなてめえら……!」
     不死王は怒髪天といった風に怒り一色に染まり、影の刃を殴りつけ相殺する。
     激しやすい性格という情報通り、見事に乗ってくれた。
    「僕以外に攻撃が向くと、大変だな……!」
     仲間のサーヴァントと共に、狙われる耕平や光明、エステルを来栖が護る。
     庇い切れない攻撃もあるが、ディフェンダーへ負担が集中しないため、『シェリル』、『おふとん』、『五樹』、『スェーミ』、主人に代わって盾となるサーヴァント達の守りの厚さと手数は高いパフォーマンスを維持する。
    「大分焦っているみたいだな」
     ユーリーが戦いながら不死王の表情を観察していると、不死王の顔に苛立ち以外に、焦りが見え出した。
     集中攻撃されている上、茉咲によって氷晶の腕が傷つけられ、足への傷が多く回避を困難にしている。
     得意の氷の戦術も、ユーリーと誘薙、そして『シェリル』、『おふとん』、『五樹』、『スェーミ』、4体のサーヴァント達によってことごとく癒されてほぼ封殺され、手勢のアンデッドが全く役に立っていない。
     今までは灼滅者達の挑発と不死王自身の慢心によって、今の所逃げられる素振りは見せなかったが、こうなると逃げ込む可能性が出てくる。
     ユーリーは脚を止め、突破を警戒し、位置する。


    「むきゅ、逃げる気なのですか~、所詮は落ちたてなのです♪」
     攻撃をやめて立ち止まった不死王へ、エステルが挑発する。
     その隙に病院を背にし、立ち塞がる。
    「……お前ら、俺を傲慢な吸血鬼や戦闘狂どもと勘違いしてねえか?」
     不死王はそれを聞きつつ、ふーっ、と落ち着かせるように息を吐くと、口を開く。
    「OK、認めてやるぜ灼滅者ども……今の俺じゃ力押しじゃ敵わねえよ、クソがッ」
     そして心底苦々しそうに吐き捨てる。
     嫌な予感が灼滅者達の脳裏に過ぎる。
     奇襲、集中攻撃、挑発。
     個々は見事に発揮したが、流した血が不死王の頭を冷静にさせた。
     端的に言えば、挑発の言葉を事実と認識したのだろう。
    「だから本来の戦い方に戻す。この俺……王の戦い方にな!」
     不死王は本来、ダンジョンに篭りゆっくりと力を蓄え、戦闘は作り出した眷属にさせる。
    「来い死兵共ッ! 貴様らを統べる不死王の元へ集いやがれッ!」
     不死王は叫び声を上げ、アンデッドの軍勢を呼び寄せる。
    「まずはてめえらを片付けて、それからゆっくりと潰してやるぜ!」
     不死王は回避に徹し、攻撃を身に受けても少し耐えれば決着がつくとでも言いたげに余裕だ。
     後衛に移動した不死王を攻撃する手段が乏しく、攻めあぐねてしまう。
     だが数分が過ぎても、不死王の呼び寄せた声に答える者は居ない。
     灼滅者以上に不死王が疑問に思い、そして焦っていた。
    「クソっ、何故だ!? 何故来ないッ!?」
    「この戦い、絶望的な戦力差だと思ったが、そうでもないらしい」
     光臨を手にするユーリーの口元に、笑みが浮かぶ。
    「戦ってるのは、僕達だけではないということさ」
     その理由を察した来栖が呟く。
     呼び寄せたアンデッドが来ない。事前に聞いていた補充も無い。
     それは病院の灼滅者がアンデッドを足止めしているからだ。
    「敵とは違い僕たちは意思を持って連携できる。それが貴方と僕たちの違いです!」
     誘薙は回復の手を止め、一気に押し込むべく自らの影をもって不死王を切り裂く。
     事前に打ち合わせたわけでも指揮系統が同じなわけでもない。
     それでも、共に戦って居るのだ。
    「補充が無いなら倒しても問題ないよ、ね!」
     耕平の聖剣が、アンデッドを切り裂く。
    「病院の戦闘音から察するに、足止めは持ってあと数分だろう」
     傷を押さえながら光明が、壁となるアンデッドを魔杖の一撃を叩き込み打ち倒す。
    「数分あれば充分。よし、畳み掛けるよ」
     続けざまにフィリスが反対側から同じ魔杖を振るい、魔力を炸裂させる。
     これで壁――と言うには脆い――アンデッドは全て消えた。
    「く、そがッ!! 大体、なんでてめえらが出しゃばる!?」
     不死王はヤツ当たりするかのように、撒き散らす。
    「決まっている。『仲間』だからだ」
     来栖の剣が風起こし、仲間の身を蝕む氷を消し去る。
    「あのゴミクズが仲間……? ひゃーっはっはっ! まさかここで笑わせてくれるとは思わなかったぜ!」
     不死王はあっけに取られたような声を上げた後、この状況にも関わらず心底可笑しそうに嗤う。
    「なんだぁ、聞いてないのか? 見てないのか奴らの姿を? アレを、とんだ出来損ないのゴミクズを、仲間と呼ぶなんてよぉ!」
    「ゴミクズはお前だよ。もう一度言ってやる。お前は、ここで、灼滅する」
     茉咲の冷ややかな言葉が不死王の嘲笑いを凍らせ、表情が変わる。
     それは、死への恐怖。
    「ッ! 邪魔だ退けッ!」
     がむしゃらに逃げようとした不死王へ茉咲が立ち塞がり、破れかぶれに振るわれた不死王の腕がその身を打ち据える。
    「ッ……! 突破なんて、させない」
     本来なら倒れるはずの一撃を魂の力で耐え、行く手を阻み続ける。
     行く手を遮られ、立ち止まった一瞬の隙を付き、耕平が背後から不死王の体を掴む。
     そして脚払いと共に、不死王を全力で投げ飛ばす。
    「志なき暴力に、僕の心は折れないさ!」
     ゴキッと嫌な音を立てて倒れ伏した不死王の体が急速に腐り果て、やがて完全に消滅する。

    ●共闘
     その直後、大量のアンデッドと共に、闇堕ちしたような姿の灼滅者が次々と病院の中から現れる。
     一瞬構えてしまったが、アンデッド達へ攻撃を加えている姿を見れば、あれが病院の灼滅者なのだろう。
    「お前らの戦い見てたぜ! マジすげえな、マジでノーライフキングを倒しちまうなんてよっ!」
     四肢を炎に包まれた獣の手足へと変えた少年がテンション高く賞賛しながら炎でアンデッドを焼く。
    「むきゅ~、ちゃんと足止めできて、えらいのですよ~」
     予想より良い動きを見せた病院の灼滅者へ、エステルが無邪気な笑みを浮かべ褒める。
    「アンデッドは融通が利かないからね、撤退を命じられたら撤退しか考えない。足止めはそう難しくない」
    「偉そうに言わない、私達じゃ数分稼ぐので精一杯だったでしょ!」
     ダイヤのスートを胸に浮かべ、日本刀を手にした性別が分かりにくいシャドウハンターを、先端がハートの尻尾生えたパンク系の衣装に身を包んだサウンドソルジャーの少女が小突く。
     言葉を交わす限り彼らの意識ははっきりしている。
     闇堕ちしたような姿は外見だけなのだろう。戦いで見せる力もはっきり言ってしまえば見劣りするものだ。
    「君達は武蔵坂の灼滅者だね、援軍感謝する」
     白衣を纏い、顔の右半分が仮面のようなドクロで覆われた医者が現れる。
     医者は見た限り若く見えるが、年齢は推察できない。
     バスターライフルを持った右腕は水晶へと変じており、先ほどの不死王を思わせる。
    「こんな格好で済まないが、私達はこの状態が普通でね。これでも君達と同じ……と言えるかは微妙だが、一応灼滅者を名乗らせてもらっている」
    「ああ、他の病院の灼滅者を見れば分かる」
     光明が視線を向けるのはアンデッドを包囲する大勢の灼滅者だ。
     その全てが、闇堕ちした灼滅者の姿のものだ。中には殺人者らしき姿も見受けられる。
     その姿に誘薙は闇堕ちし、戻ってこなくなってしまった身近な者を連想してしまい、辛い顔を浮かべる。
    「まずはノーライフキングの灼滅、そして噂に違わぬ武勇、実に見事だ」
    「労ってくれるのは嬉しいけれど、まずはやることを済ませよう。敵はまだ残っている」
    「邂逅は、またの機会にね」
     フィリスと耕平がそれを制す。
     前衛を中心に、蓄積したダメージは大きいが、灼滅者達は戦意を衰えていない。
    「前衛の皆さんはお疲れの様子。次は私が前に出ましょう」
     アタッカーとして多くの傷を受けた耕平や光明は後衛に移動し、被害の少ないユーリーや誘薙は前衛に出て、戦闘態勢を整える。
    「僕はまだ大丈夫だ。このまま皆を守ろう。病院の皆もな」
     来栖は黒いトランプを手に、力強く前へ立つ。
     防御の力で固められたその身を傷つけるのは不死王といえど困難だったのだ。
     司令塔を失い、混乱したアンデッド達など敵ではない。
     病院が退路を断ち、武蔵坂が討つ。
     そうして掃討を終えた二つの勢力の灼滅者は互いを称え合い労った。

    作者:白黒茶猫 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年12月6日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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