殲術病院の危機~屍ノ野に希望の灯火を

    作者:江戸川壱号

    「全殲術隔壁、展開! 各班は定められた配置へ付け!」
     その建物の中は、病院然とした外観からは想像も出来ない程、混沌とした状態にあった。
    「クソッ、数が多すぎんだろ……おい、援軍要請急げ!」
    「……だ、ダメです……」
    「あ?」
    「お、同じなんです! 全国各地の病院から救援要請が入ってます。『当病院に襲撃あり、援軍を求む』……」
     各地の病院へ連絡をとっていた女性の一人が、絶望的な表情を浮かべて言葉を詰まらせる。
    「どうします?」
     舌打ちして館内に指示を出していた男に視線を向ければ、彼は険しい顔ながらはっきりと言い切った。
    「……それでも、俺達がやることは変わらん。――籠城だ」
    「芸がないが、ウチのウリは防御力だしな。それしかねぇか」
     問いを投げた男はやれやれと肩を竦め、不安を拭い去れない様子の女性は指示を出していた男に問う。
    「襲撃者は、やはりハルファス軍でしょうか?」
    「恐らくは。だが……」
     双眼鏡から伺う建物の外。
    「外に押し寄せてきているのは――アンデッドだ」

     病院の外、大量のアンデッドの最後方には、一人の男がいた。
     ガリガリにやせ細っているため周囲のアンデッドと区別がつきにくいが、天を向いた前髪の一房が水晶化している以外は生身のようである。
    「いける、いけますよぉ。私のこのアンテナがぁ、ビンビンきてますよぉ。いいですかぁ、皆さん。じゃんじゃん殺っちゃってくださいねぇ。……あ、でも私は怖いんで後ろにいますけど。お任せしましたよぉ?」
     細い身を小刻みに震わせながら、男は枯木のような指先でアンデッド達へ指示を飛ばした。


    「複数のダークネス組織が手を組み、とある組織を襲撃しようとしています」
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は、単刀直入に切り出してから詳細を説明していく。
     襲撃されようとしているのは、武蔵坂学園とは別の灼滅者組織である『病院』だ。
     そして襲い掛かるダークネス勢力は、なんと三つ。
     一つは、ソロモンの悪魔・ハルファスの軍勢。
     一つは、白の王・セイメイの軍勢。
     最後は、淫魔・スキュラの軍勢。
    「病院勢力は『殲術病院』という拠点を全国に持っており、防御力が高く、どこかの殲術病院が襲撃されても、籠城している間に他の病院から援軍を送って撃退する。という戦いを得意としていたようです」
     だが手を組んだ三勢力が全国各地の病院を一斉に襲撃したことにより、互いに援軍を出すことができない。
     籠城して時を稼いでも、孤立無援となった彼らはいずれ消耗し、各個撃破されてしまうだろう。
     そうなっては『病院』という勢力は壊滅だ。
    「いずれも私達、武蔵坂学園とは因縁浅からぬ相手ばかりです。それに彼らも皆さんと同じ灼滅者……。どうか、『病院』の危機を救ってください」
     姫子は黒板に貼られた一枚の地図へと細い指先を向けた。
    「皆さんに行っていただきたい病院は、ここです」
     他の襲撃されている病院と同じく、この病院も殲術隔壁を閉鎖して籠城している。
     だが敵の圧倒的戦力の前に隔壁にも損傷が出ているらしく、白兵戦になっている箇所もあり、長くはもちそうもない。
     敵はダークネス一体と、眷属が五十体ほど。
     まともに戦えば、武蔵坂学園の灼滅者といえど勝てる見込みはない。
    「けれど、敵の指揮官であるダークネスさえ倒せば、道は開けます」
     指揮官を倒せば眷属達の統制もきかなくなり、病院の灼滅者達も籠城をやめて眷属を倒しに外に出てくる。
     そうなれば、協力して残る眷属を撃破することができると姫子は告げた。

     この病院は街場から少し離れた小さな山の麓の、山を背にして扇状に広がった平地に建っている。
     アンデッド達は平地側から病院を囲むように押し寄せており、『細井』という名の指揮官ダークネスが居るのは、最後方の中央付近。
     ノーライフキングながらアンデッドが怖いらしく、軍勢からは少し距離を置いている。
     扇状の地形故に病院に近づくほど敵の層は厚くなる代わり、指揮官側へ行くほど敵影は少なくなる為、接近はそれほど難しくない。
     ただ念のための護衛なのか、指揮官から五メートル範囲に三体のアンデッドがおり、戦闘になれば加勢しにくる。
    「少し離れているとはいえ、あまり時間をかけ過ぎれば眷属の中に逃げられるでしょう。そうなれば手出しは難しくなります」
     その場合は、撤退も止むを得ない。
     ダークネスはエクソシストと同等のサイキックに、魔導書のサイキックに近い物を使ってくるようだ。
     眷属のアンデッドは殴ったり引っ掻いたりが主で特殊な攻撃はしてこないという。
    「大規模な戦闘に介入する危険な作戦となりますが……皆さんならきっと希望をもたらしてくれると信じています。どうか、無事に帰ってきてくださいね」
     信頼と祈りを込めてそう言うと、姫子は深々と頭を下げた。


    参加者
    藤谷・徹也(高校生殺人機械・d01892)
    オデット・ロレーヌ(スワンブレイク・d02232)
    青柳・百合亞(一雫・d02507)
    行野・セイ(夢喰欠格者・d02746)
    丹生・蓮二(パラダイムシフト・d03879)
    栄・弥々子(砂漠のメリーゴーランド・d04767)
    青和・イチ(藍色夜灯・d08927)
    向日・葵咲(エクリプスキャット・d09295)

    ■リプレイ


     夜の闇の中、病院に群がっていく数多のアンデッドは、まるでそこに飲み込まれていくかのよう。
     だが実際に飲み込まれようとしているのは、『病院』の灼滅者達なのだ。
     孤立無援となって尚、籠城して戦い続ける彼らを助ける為に――武蔵坂学園に所属する灼滅者はここに居る。
    「同じ、ダークネスと戦う、灼滅者……。それだけで、仲間って気がする……。助けたい」
    「ナースに罪はないもの。困ってるナースは等しく助けなきゃ。ねぇ?」
     青和・イチ(藍色夜灯・d08927)の呟きに頷いた丹生・蓮二(パラダイムシフト・d03879)が軽口で張り詰める空気を和らげると、灼滅者達は頷き合い、それぞれの殲術道具を手に動き出す。
     身を沈め、気配と音を極力抑えて駆ける先は、軍勢の最後方に一人離れて立つノーライフキングの細井。
    「あー、寒いダルイ怖い帰りたい……。皆さーん、早く終わらせちゃってくださいよぉー」
     聞こえてくる声は面倒そうで、立ち姿にも声にもやる気が感じられず、周囲に注意を払う気配もない。
     だがそのやる気のなさを活路として、灼滅者達は細井にギリギリまで近づくと、取り囲むように散り、包囲した。
    「へっ。あ、なんですぅ!?」
     布陣を終え、あとはアンデッド達が病院を制圧するのみだと油断していたのだろう。
     細井は背後からの強襲と包囲に何が起こったのかも分からぬ顔で狼狽していた。
    (「好機……!)」
     奇襲が成功し完全に敵の不意を打ったことを確認した藤谷・徹也(高校生殺人機械・d01892)が、細井の正面から閃光のような連打を叩き込む。
     常から冷静で機械であることを望む青年の拳は、奇襲の成否にも揺らぐことなく正確無比だ。
     そんな慢心や油断と無縁の彼の拳が、常よりも深く相手を抉るように思える感触は、相手の油断故だろうか。
     徹也の連打で跳ねる体を左右から盾で殴りつけ挟み込むのは、行野・セイ(夢喰欠格者・d02746)と栄・弥々子(砂漠のメリーゴーランド・d04767)の二人。
     怒りを買い易い挑発的な盾での攻撃を選んだのは、敵の怒りをも利用する為。
     逃亡の可能性を下げる代わりに狙われやすくなる危険を背負った二人をフォローするのは、主の命令を受けたサーヴァント達だ。
     アンデッドと細井の間に入ったビハインドのナツが、主であるセイの行動に合わせて毒を持つ霊波を放ち、蓮二の霊犬のつん様とイチの霊犬であるくろ丸も、眷属のマークに付きつつ咥えた斬魔刀で細井に斬りかかる。
     時間が明暗を分ける今回の戦いにおいて、奇襲が成功した初手の意味は大きい。
     この好機を無駄にしない為、回復を担う向日・葵咲(エクリプスキャット・d09295)もまた攻撃を選び、真紅のキャットスーツの体をしならせて両手に集めたオーラを放った。
    「貴方がここの『超有能な』指揮官ね!」
     わざわざ『超有能な』と相手を持ち上げたのは、この後に続く作戦の為。
     早急に片を付けなければならないが、倒しきる前に怯えて眷属の群れに逃げ込まれてはならない。
     当の細井はようやく敵襲を受けたと認識したのか、盾の狭間で身動きするものの、その指先は意味を持つ前にオデット・ロレーヌ(スワンブレイク・d02232)の氷柱に貫かれ、凍りつく。
    「奇跡ってあるのね! まぐれ当たりが効いたわ」
     槍の柄を握りしめて驚愕の表情と共にオデットが零すのも、全ては不意を打ったからこその威力だと思わせる為だった。
    「ぬぅ……っ」
     細井が短く呻いたのを合図に、左右から盾で挟んでいたセイと弥々子が大きく一歩下がる。
     それは逃げる為ではなく、包囲を作戦の前提とした彼らが、前へ出る者の動きに合わせ連携したが為のもの。
     蓮二が放った音波と共に、空けられた左右のスペースへ滑り込んでくるのは、イチと青柳・百合亞(一雫・d02507)。
     集中を高め狙いを澄ませたイチの渾身の一撃は破邪の光を放ち、彼には加護を、敵には鋭く深い傷を与え。
     巨大な縛霊手を肩に食らいつかせた百合亞は、霊力の網で絡め取りながら武器の影からそっと囁いた。
    「貴方強いんでしょう? 私たちと遊んでくださいよ。見せてください、その強さ」
     自分の命は大事にしながら相手を一方的にやりこめたいなど、わがまま過ぎる。
     それが叶えられるだけの力を持っているのか否か――。
    「な、なんなんですかお前らぁっ。くそくそ、アンデッドを指示するだけの簡単なお仕事だって言うから来たのに、びっくりするじゃないですかぁ! 台無しですよ!」
     問いかけへの答えは、浮かび上がった逆十字から放出される反撃の光と共に来た。


    「手応えが殆ど無いな……こいつ見た目以上に強いぞ。一筋縄じゃいかなそうだ」
     こちらを振り払おうとする細井から、死角を貫いたオーラの刃を引いて距離をとった蓮二が舌打ちする。
     細井の肩越しに病院を見て異変がないことを確認してから、包囲が崩れないようにしつつも、さらに一歩下がった。
     戦場は細井を中心にした歪な円形を描いており、アンデッド三体は健在。
     包囲に穴を空けないよう灼滅者達は良く連携して動いていたが、細井に近づこうとする眷属の動きは愚直だが鬱陶しく、時折戦線を歪ませる。
     だが眷属の健在は、攻撃が全て邪魔されることなく細井に集中しているという意味でもあった。
     今も眷属の一体を近づけまいと奮闘しているつん様と、くろ丸にナツ。そして細井への攻撃を行いながらも、ナツと連携して常に眷属との分断と妨害を意識した動きを行うセイのお陰だろう。
     とはいえ初手のような灼滅者達の圧倒的優位は、既に崩れていた。
     速攻を狙い火力と抑えを重視した編成は、敵の範囲攻撃に一度に晒される危険と隣り合わせのもの。
     細井は自分を取り囲む人数を見て範囲攻撃を主体とすることに決めたようで、炎と殲術道具の威力を減じる攻撃をほぼ交互に繰り出している。
     広範囲に散る攻撃は威力が減る為に一撃で深傷とはならないが、相手は成り立てからそう遠くないとはいえノーライフキング。
     葵咲一人と霊犬二匹では、仲間が負った傷を即座に全開させるには至らない。
     元より回復は互いにフォローしあう手筈になっているので対応は充分に可能だが、短期決戦狙いの布陣と作戦の弱点ではある。
    「くっ! 想像以上のダメージだよ」
     夜霧を展開し仲間を癒しながらもジリジリと後退する葵咲に気を良くしたのか、細井は哄笑をあげ、空いた分だけゆっくりと距離を詰めていった。
    「ハァッハッハッハァ! いいですよぉ、もっと戦いてください。怖いのは嫌いですけど、怖がられるのは大好きなんですよ私!」
     それに気圧されたように他の灼滅者達も少しずつ足を引いた結果、戦場はまた少し後退していく。
    「あんな強い、人………今まで見た事、ないよ……!」
     病院側に立つイチがチラリと伺うのは、後方――病院だ。
     そこでは今も多くのアンデッドがひしめき、病院勢力と戦っている。
     ともすれば、いつ背後からアンデッドの大軍に襲い掛かられても不思議ではない状態。
     だが、最初こそ奇襲に遅れをとったものの今は己が優勢とみているのか、細井が病院側に集うアンデッドを呼び戻す気配はまだなかった。
    「俺らで倒せるのかコイツ……」
    「こんなに強いなんて、聞いてない、よぉ……」
     細井の怒りをあえて買ったセイと弥々子の傷は、他の仲間に比べても深い。
     葵咲が範囲回復に手をとられる分、くろ丸やつん様が優先的に傷を癒してくれるが、時折放たれる一人を狙った一撃は重く、サイキックで癒しきれぬ傷も増えていた。
     それだけに二人の嘆きは真実味に満ちて、細井の口角をさらに上げさせていく。
    「じゃあ、いま教えてあげますよぉ? さっきもそちらのお嬢さんに約束しましたしねぇ!」
     細井の視線が捉えたのは、縛霊手を構え細井へ向かう最中だった百合亞。
    「……ッ!」
     枯木のような指がパチンと鳴った途端、前衛陣を爆発と炎が襲った。
     百合亞は縛霊手を盾に顔を庇うが、防ぎきれるものではなく数歩よろけ。小柄な弥々子は耐えきれずに吹き飛ばされて地面へと倒れる。
    「きゃあっ」
     声をあげたのは、わざとだった。
     細井を逃さず、眷属を呼ばせず、確実に灼滅する為の。
     戦況は細井の優勢で進んでいるように見えて、実は弥々子達の狙い通りだ。
     けれど、怖くないわけではなかった。痛くないわけがなかった。
    「……大丈夫、だもん」
     それでも、きゅっと息を吸って、立ち上がる。
     前を向いて仲間を視界に捉え、盾を構えて敵を見る。
     この奥でもっと絶望的な戦いをしているのだろう『病院』の人達を助けるのだ。
     その思いは浄化と癒しの風となって吹いて、仲間達を癒し、彼らの力となる。
    「強い相手だとは知ってましたが、ここまでだとイラッとします」
     治癒を受けて百合亞が再び地を蹴り、蓄積する不安を振り払うかのように縛霊手を叩き込んだ。
     それでも細井が自信に満ちた笑みを深めるのは、イチの怯えた視線を意識してか。
    「マズいよ……。僕もう、逃げたい……」
     震える手で構えたクルセイドソードから放たれた捕縛の影を見ても、逃げる為の時間稼ぎとしか思わなかったのだろう。
    「逃げるのでしたら、見逃してあげてもよろしいですよぉ? 私は優しいノーライフキングですからねぇ!」
     細井は自慢の水晶の前髪を反らせて、高らかに笑った。
    (「あの水晶……変なの。折ったらどうなるの、かな……」)
     怯え嘆く演技の裏で、イチがそんなことを考えているなど知りもせずに。
     哄笑の影で、イチと蓮二、そしてオデットの視線が素早く交わされる。
     病院との距離はそろそろ五十メートルに近く、もし細井が応援を呼んだとしても、すぐには駆けつけられぬ距離だ。
     攻撃を優先した分、こちら側のダメージも決して小さくはないが、まだ手が回らぬ状況ではない。
     交わし合う視線はやがて三人だけでなく、仲間達全員へ。
    「このダークネスは強い……。このままでは戦線が崩壊する」
     感情の篭もらぬ声に数かな苦渋を滲ませて、徹也が現状を騙る。
    「こんなに力に差があるなんて……くやしいわ」
     オデットが、零れる金の髪の隙間から青の瞳で悔しげに睨みつける。
    「アハハハハ、残念でしたねぇ! 私はついてますよぉ。アナタ達のお陰で、手柄上乗せできちゃいそうなんですから」
     得意気に語る細井は気付かない。
     眷属に引っかかれるのも構わず、払い、押し戻し、また僅か後退する蓮二の目にも。
     不利を申告する彼らのどの瞳にも、強い戦意が灯ったままだということに。


    「おかしいですよ……?」
     細井は混乱していた。
     アンデッドを放って後は見守るだけの筈が灼滅者とやらに襲撃され、最初こそ驚いたものの怯え逃げ腰な敵に恐れることはないのだと思い直して。
     じわじわとダメージは積み重なり、とっとと逃げ帰って炬燵に篭もりたいとも思ったが、敵の様子からあと少し強気で押せば逃げ出すに違いないと頑張ったのに。
    「なんで逃げないんですぅ!? なんで倒れないんですかぁ!!」
     徹也に死角から切り掛かられ、セイと百合亞に切り裂かれ殴られ、地面に崩れ落ちた体をどうにか持ち上げた細井は、折れる寸前の枯木の様相だ。
     理不尽を前にした駄々っ子のように喚く細井に、槍の穂先を向けるのはオデット。
    「名付けて、瀕死の白鳥作戦ね。今日はあなたのために踊ったの。――私達の演技、どうだった?」
     細井は知るまい。瀕死の白鳥は、ただ踊りが上手いだけではダメなことなど。
     背後にある五十体の眷属を思えば、賭けの部分が大きかった。
     細井を逃がさないこと、短時間で灼滅すること、眷属と連携させないこと。
     ノーライフキングを相手に、苦戦の演技は演技でなくなる可能性も大きくあった。
     一歩何かが間違えば、ガタガタと崩れていたかもしれない。
     それでも尚、灼滅者達がそれを成し得たのは、心の強さで有り、密な連携を可能とした絆だ。
    「くそっ、おかしいですよ、こんなの! こんな筈じゃ……っ」
     骨と皮ばかりの腕を振り回し、細井が再び爆発と炎を振りまく。
    「……ッ!」
     それは灼滅者達を大きく傷つけたが、追い詰めるには至らない。
     誰も倒れさせないと誓った葵咲が、素早く皆に癒しの力を届け、炎を消す為に弥々子も清らかな風を喚び、二匹の霊犬が足りぬ分を補おうと走った。
     余波からは守ろうと葵咲の前に身を晒していた徹也は、積み重なったダメージは大きいものの攻撃に支障はないことを確認すると、もう遠慮する必要はないとばかり、真っ直ぐに前へ出る。
    「演技を終了する」
     常の完全なる無表情を取り戻した徹也は、友の祝福が込められた虹色のオーラを纏い、再び正面から閃光の連打を細井の全身へと叩き込んだ。
    「ガッ……」
     勢いのあまり宙へ浮いた細井の身を更に貫くのは、螺旋を描いて突き込まれる真白きオーラを纏った槍。
    「病院は命を助けるところなの。死そのもののあなた達は招かれざる客だわ」
    「――ッ!!」
     滅多打ちにされ胸を貫かれた細井は、声なき悲鳴をあげて倒れ――水晶の前髪もまた、パキリと音をたてて崩れ落ちた。


     その後危なげなく残る眷属三体を倒した灼滅者達は、治せる範囲の傷を治して態勢を整えてから、病院に群がる眷属の掃討に掛かった。
     細井との戦いで負った傷は小さくはなく、治りきらぬ傷も多い。
     消耗した状態であれだけの敵をまともに相手にしては、流石にもたないが――。
    「どうやら、気付いてくれたようですね」
     攻撃主体に方針を切り替えたセイが、ナツの激励を受けながらアンデッドを一体切り裂いていると、建物の中から騒がしい声がした。
    『救援、感謝する。こちらもこれより打って出よう』
    『でもまだアンデッドがたくさん……』
    『おいおい。ここで出なきゃ男が廃るだろ!』
     病院の裏口が開くと、そこから次々と『病院』側の灼滅者達が現れてアンデッドへ攻撃を加えていったのである。
     無事な人がいること、助けられたことを確認して、灼滅者達にも安堵が広がった。
    「よかっ、た……」
    「まずは少しでも数を減らさないと、ですね」
    「うん、行こう」
     弥々子と百合亞も僅かに笑みを浮かべ、イチもまた頷いて改めて殲術道具を握る手に力を込める。
    「そうそう、まだゾンビはいっぱいいるしな! 倒し放題だぜ? きゃははは!」
     ゾンビ掃除が好きだと豪語する蓮二などは、先程までの落ち着いた戦いぶりが嘘のようなテンションで次々にアンデッド達を屠っていき。
     葵咲もまた傷ついた病院の人達を治癒する為にもと、群がる敵へと炎を叩き込んでいった。
    「これより、掃討を開始する」
     そうして、数十分後――。
     武蔵坂学園側も病院側もそれぞれに満身創痍に近い状態になりながらも、淡々とした徹也の宣言通り、アンデッドの掃討に成功したのだった。

    作者:江戸川壱号 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年12月6日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ