灼滅者講座:魔人編纂室

    作者:七海真砂

    「皆さん、お集まりくださって、ありがとうございます」
     集まった生徒の前に立ったのは五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)だった。
    「今日は皆さんにお願いがあります。実は、魔人生徒会が新たに立ち上げた『魔人編纂室(まじんへんさんしつ)』に協力して欲しいんです」
    「魔人編纂室?」
     聞き慣れない言葉に、集まった皆が首をかしげる。どうやら姫子以外は誰も、その魔人編纂室のことを知らないようだ。

    「魔人編纂室は簡単に言うと『これまでの武蔵坂学園』についての記録をまとめた部屋です。ダークネスとの戦い、他の組織などの情報、学園で起こった出来事など、様々な内容についての動画や音声データ、書類などを整理して保管する部屋なんです」
     そうした記録を整理し、まとめておけば便利だろう……というのが、この魔人編纂室が作られた理由らしい。
    「さっそく今までの情報を整理することにしたのですが、まとめなければいけない情報が多くて……。そこでぜひ、皆さんの力をお借りできたらと思うんです」
     なるほど、と灼滅者たちは頷く。
     たとえばダークネスの情報をまとめるにしても、様々な種族や組織ごとバラバラに活動している彼らの動向を、全部完璧に把握し、理解しているという人はあまりいないはずだ。
     しかし、みんなで協力して手分けしながら進めていくことができれば、作業はぐんと効率よく進むだろう。

    「半年前の灼滅者講座で学園のあゆみを一度まとめましたから、その時の記録は私の方で整理して収納しておきました。ですから、皆さんにはそれ以降……ここ半年ほどの情報をまとめて欲しいんです」
     ダークネスといっても色々いるし組織の数はさらに多い。起こっている事件の種類も数えきれないほどある。夏休みを挟みながら学園行事などもたくさんあったし、今だからこそ皆に教えると役立ちそうな経験談などもあるかもしれない。
     半年といっても、かなりの情報量になることだろう。
    「何か分からないことがある人、知りたいことがある人、この機会に確かめておきたいことのある人は、ぜひこの機会に聞いてください。魔人編纂室は『何か知りたいことがある』という時に使う部屋ですから、みんなが疑問に思いそうなことについて、あらかじめ情報をまとめておくと、便利そうですよね」
     この機会に最近の情勢をばっちりマスターしておけば、今後の活動にも役立つはずだ。
     頑張ってここ半年の出来事をまとめましょう、と姫子はみんなに微笑みかけるのだった。


    ■リプレイ

    「ひえぇ~、さすがに凄い情報量なんよ」
     まずは参考までに過去の灼滅者講座の情報を確認してから……と思った久瀬・雛菊(蒼穹のシーアクオン・d21285)は、その膨大な量を前に溜息をついた。さすがに、全部把握するのは大変そうだ。
    「あ、なんかもうめげそう」
     軽くぺらぺらっとやった糸木乃・仙(蜃捜し・d22759)に至っては、さっそく「おやつの時間になったら起こしてください」と、休憩用に藤井・花火(迷子世界ランキング第四位・d00342)が用意したこたつに突っ伏し、夢の世界へ逃避行しかけている。ちなみにそれに関しては「居眠りしてるとソウルアクセスして遊んじゃうよ?」というペラン・ホルテン(高校生シャドウハンター・d22607)の言葉でしゃっきり起き上がったようだ。
     室内は、早めに来ていた大塚・左斗彌(大鎌の穢れし生贄・d20942)などによって、軽く掃除がされている。荷物を運んでも、埃が立つ心配はしなくて大丈夫そうだ。なお、さっそくサボって麻雀をはじめようとした面々は、さくっと室内から締め出された。
    「とりあえず年表を作ってみたから、誰か貼るのを手伝ってくれないかしら?」
     喚島・銘子(糸繰車と鋏の狭み・d00652)は、資料の山を読むよりもう少し良いのではないかと、いつどんな出来事が起きたかをまとめた模造紙を用意していた。なるほど確かに、ざっくり過去の出来事を確認できるようになっているのは便利かもしれない。
     これを見て、詳しく確認したい場合、編纂室のどこにあるデータを参照すればいいのか書き込んでおけば、更に使いやすくなりそうだ。
     模造紙には余白も十分にある。これ以降の内容は、更にこの続きにまとめていくと良いだろう。
    「えへへ~色のついたペン、いっぱい持ってきたから、みんなにも貸してあげるね」
     雨賀・ノエリア(闇疾・d04539)は両手に持ちきれないほど、たくさんのカラフルなペンをあたりに置いた。これは年表に文字を書き足すだけでなく、ここからの膨大なデータ整理でも役に立ってくれることだろう。
    「あとで相関図をつけてもよさそうだね」
     図解は情報を理解する手助けになってくれるだろうと、アルバート・レヴァイン(福音・d06906)は考えたようだ。
    「じゃあ次は、この半年分のデータですね」
    「……これで半年……」
     浅沼・日照(音の悪魔・d20674)は、さっそくげんなりしてしまいそうな気持ちを、なんとかこらえて資料と向き合う。
    「えーと、とりあえず書類を整理し……」
     そう手を伸ばした紺野・茉咲(居眠り常習犯・d12002)だったが、しかしうっかり書類の山を崩してしまう。
     ざばーーっ。
     バケツの水をひっくり返したかのように、床に広がっていく書類たち。
    「………スマン」
    「手伝うよ。このくらい、整理する作業に比べたら、どうってこと無いし」
     謝る茉咲に気にしないでと告げながら、月村・アヅマ(風刃・d13869)は拾い集めるのを手伝う。
     そう、敵種族ごとにデータを分けたり、更にその内容を事件の詳細や敵の派閥、組織ごとに分類しながら整理して、その上で更に……と考えるだけで、アズマは遠い目をしてしまう。それに比べたら書類を集める事なんて楽勝、全然大したことじゃない。
    「えっと……棚に、整理……するの……」
     華表・穂乃佳(眠れる牡丹・d16958)をはじめ、多くの生徒がすぐにでもデータを運んで収納しようとするが、まずは、どこに何の情報を収めていくかを考えなければならないだろう。

    ●『羅刹』とのあゆみ
    「ここ半年で印象に残ってることって言ったら、やっぱり羅刹佰鬼陣かな!」
     廻谷・遠野(ブランクブレイバー・d18700)の言葉には筧・宗二郎(柳に風・d09226)や夏目・直(雲居の二十六夜・d03220)など多くの灼滅者が頷いた。
    「レーネも名前だけは見たです。どんな戦いだったですか?」
     当時の事を直接知らなくても、レーネ・カザラギ(無貌のマリオネット・d22119)のように名前だけは聞いたことがあるといった灼滅者も多く、注目度は高い。
     そこで灼滅者達は、最近で一番大きな事件であり、まとめる情報も多そうな『羅刹佰鬼陣』を中心に、まずは羅刹についてまとめていくことに決めた。
    「まずは、隔絶された羅刹の村に調査に行っていたんだったかな?」
     一連の流れを最初からまとめようとする鳳蔵院・景瞬(破壊僧・d13056)に、多くの灼滅者が自分の持つ情報を携えて集まってくる。更に、山積みになっている資料の中からシャルロッテ・モルゲンシュテルン(夜明けに響く鎮魂歌・d05090)が必要そうなものを並べながら、情報のまとめは進められていった。
    「最初のきっかけは、上泉・摩利矢という羅刹との出会いだな」
     須賀・隆漸(双極単投・d01953)の言うように、羅刹の村へ向かったきっかけをさかのぼると、それは一人の羅刹との出会いが始まりだ。
     羅刹の村を出てきた摩利矢の目的は、羅刹の村にいた『御子』と呼ばれるラグナロクの少女を助け出すこと。そのために、羅刹の村の様子を探りに向かった。
    「『地獄絵図の鬼』が出現するようになったのも、その頃からだな」
     当初は羅刹の眷属だと考えられていた『鬼』に言及するのは月屋・優京(戯僻事・d15388)。後日、それは御子がラグナロクの力で生み出した存在だったことが判明したのだと付け加える。言う通りに鬼を生み出せば、摩利矢には危害を加えない……そう告げられ、御子は人質を取られたような状態で、羅刹たちに従っていたのだ。
    「そして、御子ちゃんはラグナロクダークネスへと闇堕ちしてしまったっす」
     摩利矢と、それを手伝う灼滅者達は、そんな御子を救出しようと力を尽くした。が……渓院・実誉(赤城の元気巫女・d04876)の言うように、彼らの前で御子は闇堕ちし、強大な力を持つラグナロクダークネスとなってしまった。
     その力は、居合わせた3人の神薙使いを、瞬く間に闇堕ちさせてしまうほどだったという。
    「そして更に羅刹の……いや、羅刹に留まらないな。ダークネスの絶対勢力圏を作り上げようとした。それこそが『羅刹佰鬼陣』だ」
     そんな事を許すわけにはいかない。この事態を放っておくことなどできない。そうして多くの灼滅者が立ち上がり、力を結集させたのだと鬼神楽・神羅(鬼祀りて鬼討つ・d14965)が語ると、大勢の灼滅者が頷いた。
     こうして大きな戦いを迎えた灼滅者達は、元凶となった村の羅刹達を倒し、そして――。
    「御子……いえ、椿・鞠花ちゃんが灼滅者になったのよね」
    「皆で御子ちゃんの名前を決めたのはいい思い出だね」
     雪片・羽衣(朱音の巫・d03814)は、あえて彼女の名前を呼んだ。更に続けた三蔵・渚緒(天つ凪風・d17115)をはじめ、多くの者達がそれに頷く。
     灼滅された御子はラグナロクとしての力をも失い、ごくごく平凡な一人の神薙使いとなった。元から名前がなかった彼女には灼滅者達が意見を出し合い、彼女自身が選んだ『椿・鞠花』という名前が付けられたのだ。
     同時に、鞠花の契約者だった摩利矢もまた灼滅者となる。闇堕ちした灼滅者ではなく、ダークネスが灼滅者になったという事実は、灼滅者達が知る限り他に1つも例がない。
    「あれは奇跡とでも言うべき光景でしたね」
     本当に驚きました、と仙道・司(オウルバロン・d00813)があの時の事を思い返す。よければ合間にどうぞ、と司が振舞う紅茶やお茶菓子には皆が手を伸ばしていった。
     羅刹佰鬼陣の詳しい経緯は知らなくても、ラグナロクダークネスとなった御子のこと、彼女が救われて灼滅者になったことは知っている、そんな灼滅者も多い。何割かの視線は神羅や草薙・風真(白紙の記憶・d13021)に向けられたが、神羅はそれ以上言及することなく黙々と資料の整理に努め、風真は、怪訝そうに首をかしげる。
    「椿には、そんな過去があったのだな」
     最近一緒に鎌鼬退治へ出向く機会があったという天道・雛菊(星を見上げて・d22417)は話を聞いて驚いたようだが、こうして知ることができてよかったと思う。

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    【マスターからの解説】
     羅刹佰鬼陣については、以下のページで詳しく確認できます。

    ●リアルタイムイベント:羅刹佰鬼陣
     http://tw4.jp/html/world/event/012war/012war_130728main.html
    ●『彷徨の羅刹』
     http://tw4.jp/html/world/story/st130516.html
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    「あと、羅刹といえば、鈴山・虎子のことかな」
     一休みして資料整理を再開した灼滅者達は、次にシェリー・ゲーンズボロ(白銀人形・d02452)達が口にした鈴山・虎子に関わるデータを整頓していく。
     虎子は羅刹佰鬼陣でも姿を見せていた羅刹の女だ。あのとき三夜沢赤城神社にいた虎子は倒しきれず、どこかへと去って行ったのだが……。
    「まさか群馬の榛名湖に姿を現し、しかも相手から刺青を奪うだなんて行動に出るとは思わなかった」
    「しかも相手の男が羅刹として闇堕ちするっちゅうんは予想外やった
     現場に向かった灼滅者の一部でもある鈍・脇差(ある雨の日の暗殺者・d17382)や守咲・神楽(地獄の番犬・d09482)が口々に言った。
     そもそもまず、刺青を奪うという言葉自体が不思議なフレーズなのだが、虎子は文字通り相手の入れ墨を奪ってしまう。
     「引き合う刺青を探す」という虎子の言葉も気になるところだ。
    「羅刹には刺青を入れているものが多いのかい?」
     愛宕・時雨(小学生神薙使い・d22505)の問いに明確な答えを出せる者はいない。ただ御子のいた村は村長が組長と呼ばれているなど、その筋の人っぽい雰囲気などがあったので、虎子の場合はその影響かもしれない。
    「新宿にも別の羅刹が現れたみたいね。それにしても、刺青って一体何なのかしら……」
     更に歌舞伎町で刺青を持つ羅刹同士が激突するという未来予測をエクスブレインが算出している。勅使河原・幸乃(鳥籠姫・d14334)の呟きに、現地に向かう灼滅者は答えを持って帰ってきてくれるだろうか。
    「じゃあ、ここは少しスペースを用意しておこう」
     皆が整理した情報を棚に運んでいた瀬河・辰巳(錯落なる幻想・d17801)は棚に少し余裕を持たせておくことにする。

     羅刹、特に羅刹佰鬼陣に関する資料は膨大だったが、辰巳や辰峯・飛鳥(変身ヒーローはじめました・d04715)などが怪力無双を駆使して書類運びを行ったこともあり、いったん整理さえ終わってしまえば、編纂室の棚に収納すること自体にそう長い時間はかからなかった。
     羅刹佰鬼陣の当日の様子については、動画や音声ファイルなどの提供もあった。雛沢・憂斗(タチムカウ・d04065)は、それらの保管や再生用だというマシンに、データ化したそれらを整理していく。最初は持参した写真をファイリングするつもりだった稲垣・晴香(伝説の後継者・d00450)も、そこに自分のデータを混ぜてもらう。
    「皆さん、差し入れですよ! 一息ついたら、また頑張りましょう★」
     そう若林・ひなこ(夢見るピンキーヒロイン・d21761)が押してきたワゴンには、ハーブティーやコーヒーなどと一緒に、ちょっとしたお菓子やくるくる巻いたサンドイッチ、更には温かいおしぼりまである。
     ひとやすみ。
     羅刹の資料の山を整理し終えて小休止を挟んだ灼滅者達は、更に次の作業へと取り掛かっていくのだった。
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    【マスターからの解説】
     刺青の羅刹については、以下のページで詳しく確認できます。

    ●刺青の羅刹達
     http://tw4.jp/html/world/story/st_irezumi.html
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    ●白の王セイメイ~『ノーライフキング』とのあゆみ
    「私が印象深いのはノーライフキングかな。蒼の王コルベインの残党と、それから……」
    「『白の王セイメイ』だよね?」
     守安・結衣奈(叡智を求導せし紅巫・d01289)の言葉にツェツィーリア・ノイブルン(秘密の花・d09132)が身を乗り出す。ツェツィーリアはまさに、そのセイメイの事を教わりたいと思っていたからだ。
     春、不死王戦争の際に灼滅者達の手で倒されたノーライフキング、蒼の王コルベイン。
     生き残った配下達が動きを見せる一方、他のダークネス組織と関わりながら活動を見せ始めたノーライフキングが、白の王セイメイだ。
     セイメイの方は様々なダークネス組織と関わりを持ちながら活動している事もあり、詳しくは知らないが名前だけは耳にしたことがある、という生徒も多いようだった。
    「じゃあ、まずコルベイン関連の資料を出していくの~」
     今にも崩れそうな資料の山から、器用にぽいぽいっと関連のありそうな物だけをエステル・アスピヴァーラ(おふとんつむり・d00821)は取り出していく。それらを手に取りつつ、灼滅者達は紅斜子・花々々々(四番目の花子さん・d01447)らが用意した椅子に座った。
    「蒼の王関連だと、日本各地に迷宮を作ろうとする動きがあったね」
     八絡・リコ(火眼幼虎の葬刃爪牙・d02738)が言うように、コルベインの配下だったノーライフキングは、アンデッドを引き連れて全国各地に散らばり、自分だけの迷宮を作ろうとする動きを見せた。
     ノーライフキングは、しばしば自分だけの迷宮を作り上げると言われている。徐々に強力な配下の数を増やしつつ、迷宮を拡大していくのだ。立派な迷宮を作り上げてこそ、ノーライフキングとしては一人前だと言えるかもしれない。
    「この時、迷宮の一つに紫堂・恭也が現れたんだよな」
     大神・月吼(戦狼・d01320)はホワイトボードに名前を書きだしつつ続ける。
     恭也はダークネスではなく灼滅者だが、武蔵坂学園とは全く別に活動をしている。恭也はもともとコルベイン配下のアンデッドに育てられていたこともあり、育ての親の仇である武蔵坂学園と手を結び難いという一面もあるだろう。だが、むしろ最近の彼の行動には、蒼の王勢力にいたノーライフキングを保護しなければならないという義務感の方が、彼にとっては大きいようだ。
    「武蔵坂学園に加わる事はありませんが、一定の理解を見せてくれて、協力したり手助けしたりという関係になってる……という感じだね」
     恭也は以前、殲術道具ウロボロスブレイドを武蔵坂学園に託してくれた事もある。彼には彼の正義があるからこそ、道が完全に重なることはないが、今のところそれなりに関係を築けているのでは……と、白咲・朝乃(キャストリンカー・d01839)などは思うのだ。
     その後も、9月にはソロモンの悪魔に囚われたノーライフキングの救出に手を貸してほしいと恭也から頼まれ、共闘した事などもある。
    「闇堕ちは悪、ダークネスになる奴は殺すが信条やった恭也が、蒼の王の残党として屍王見習いを保護・指導する立場になったんは、おもろい変化やったよなー」
     千条・サイ(戦花火と京の空・d02467)などはそう思うのだが、向こうは向こうで最近少し困った状況になっているようだ。
    「白の王セイメイが、蒼の王コルベインの残党を取り込もうとしているんだよな」
     その事件に直接関わった白金・ジュン(魔法少女少年・d11361)が詳細を語っていく。
     セイメイの働きかけによって、蒼の王側の恭也たちを裏切ったノーライフキングが、現れた援軍と共に恭也たちを壊滅させる――エクスブレインの予知を聞いたジュン達は、その阻止へと動いた。
     取った作戦は、恭也たちを裏切ると予知されていたノーライフキングを、先手を打って灼滅するというもの。その行動は恭也たちから見れば確実に印象の良くないものだっただろう。
     恭也達のことは、ヴァンパイアの組織の一つ『朱雀門高校』なども狙っているという。心配がないといえば嘘になるが、恭也の傍には彼を慕う多くのノーライフキングがいる。滅多なことは、そうそう起こらないはずだと信じる他ないだろう。

    「次は白の王セイメイについてですね」
     コルベインについての資料をまとめ終わると、東雲・羽衣(紫陽花カンツォーネ・d20543)達は次にセイメイに関する資料を手に取った。
    「蒼の王に白の王って親戚みたいなもん?」
    「うーん、ノーライフキングだっていうのは同じだけどね」
     首をかしげている月島・立夏(ヴァーミリオンキル・d05735)に、同じ種族という点では近い存在かもしれないと前置きする廣羽・杏理(トリッククレリック・d16834)。ただ、さっきまとめた恭也達の情報を考えると、仲はあまり良くなさそうだ。
    「そうだね、派閥としては別物だ。セイメイ達が初めて姿を見せたのは『羅刹百鬼陣』の時だったし」
     その時は羅刹に協力していたんだ、とイーニアス・レイド(楽園の鍵・d16652)が告げたように、当時の記録にもセイメイの名前は数多く出てくる。
    「そのあと、セイメイ達は全国各地の源泉で、儀式を行おうとしていたんだよね」
     戦いから引き揚げていったセイメイが次にどうしたのか。それに触れたのはファリス・メイティス(黄昏色の十字架・d07880)。全国各地の源泉には、ダークネス『イフリート』たちが暮らしているのだが、そこで邪悪な儀式を行おうとする動きがあったのだという。
    「バベルの鎖の『予兆』によると、全国各地の楔に『白炎換界陣』という紋を刻むのが目的だったようだね」
     それが何を意味するのか詳細は分かっていないが、それによって日本を引き裂くことすら可能らしいという予知を目の当たりにした身からすると、当然セイメイの動きは放っておけないとファリスは言う。
    「わしらはイフリートと協力し、それを阻止に向かった。そうして失敗に終わったセイメイは次に、富士の樹海で大量のアンデッドを生み出し、自らの手下にしようと目論んだのじゃ」
     西洞院・レオン(翠蒼菊・d08240)が回顧するのは、富士の樹海に大量のアンデッドが発生した事件だ。
     蒼の王コルベインの配下だった鍵島・洸一郎が、ダークネスと遜色ないほどの実力を持っていたように、強大な力を持つノーライフキングの眷属となったアンデッドは強い力を持つ事が少なくない。富士の樹海にいたアンデッド達も皆、強力だった。
    「ウチはノーライフキングそのものも姿を現していたって聞いたで」
     神座・澪(和気愛々の癒し巫女・d05738)はそのノーライフキングへアプローチする機会を得た灼滅者のひとりだ。エクスブレインの予知を踏まえ、あの場に残した手紙がどうなったのか、確かめる機会はないけれど……。
    「ともかく、富士の樹海での事件に収集をつけることに成功したのでございます」
     靴司田・蕪郎(靴下は死んでも手放しません・d14752)は情報をまとめる。しかし、セイメイの動きは、そこで終わりではなかった。
     富士の樹海のような生きている人間があまりいない場所だけに留まらず、セイメイは更に火葬場や病院など、市街地でもアンデッドを増やそうとしたのである。
    「市街地の方に出たアンデッドも、同様に強力だったな」
     更に血気盛んなイフリートがアンデッド討伐に動いたこともあり、一歩間違えば大惨事になりかねない状況でもあった。しかし、灼滅者達の尽力でなんとか、そこまでの出来事には発展せずに済んでいると、御盾崎・力生(ホワイトイージス・d04166)は語る。
    「それからさっきの蒼の王残党の取り込み……セイメイは、自分の勢力を強化しようとしていた、ってことなのよね?」
     情報を整理していく皆から話を聞き、ずっとセイメイが何を目的にしているのか不思議だった海原・河音(好好エクソシストガール・d15211)が、スッキリとした顔をしている。もちろん『何のために』、次々と眷属を増やそうとしているのかは不明なままだが――。
    「最近、他の組織と組んで『病院』を襲撃する動きを見せていますから、もしかしたら、それと関係があるのかもしれませんね」
     それだけが目的とは限りませんし、もっと別の何かが狙いなのかもしれませんが――と、イブ・コンスタンティーヌ(愛執エデン・d08460)は語る。
     病院襲撃については、今まさに動いている最中の生徒も多い。彼らがもし何か新たな情報を掴むことがあれば、更にセイメイに関する資料として、新たにまとめていく事になるだろう。
    「複数の種族にまたがる情報は、コピーを取って両方に置いておいた方が、検索性はいいかもしれないね」
     場所はとっちゃうけど……と、夜久・葵(闇夜の黒猫・d19473)はいくつかの書類についてコピーを取らせてもらいに出かける。
     城守・千波耶(裏腹ラプンツェル・d07563)は、今後のデータの編集も視野に入れて、まだ未解決だったり、終わっていない事件に関する書類は、できるだけ詳しく分類して整理しながら、まとめて棚に置くのだった。

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    【マスターからの解説】
     白の王セイメイについては、このページで関連シナリオがまとめられています。
     http://tw4.jp/html/world/story/st131006.html
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    ●朱雀門高校~『ヴァンパイア』と『デモノイド』とのあゆみ
    「アタイはヴァンパイアの事が気になるな」
     ダンピールの鷲宮・弥生(多分案外スタイリッシュ・d22707)は宿敵の事が気になると声を上げた。ヴァンパイアもまた、最近耳にする機会が多いダークネス種族だ。同様の声が多数挙がる。
    「ヴァンパイアといえば『朱雀門高校』だな。詳しく教えてくれないか?」
     レイ・ソウル(中学生ダンピール・d21239)が口にしたのはヴァンパイア組織の名前だ。自分たちと同じように学園を名乗っていることから、気にかけていた生徒が他にも多かったようだ。
     半年前の灼滅者講座では、まだまだ謎の多い組織といった感じだったが、この半年で判明した情報も多い。それらの情報をこの機会にまとめておく事は、とても有用に思われた。
    「朱雀門高校のヴァンパイアさんたちは、あの手この手で方々の学園支配を企んでいました」
     まずは全国各地の高校で起こった、この事件からだろうと山岸・山桜桃(ヘマトフィリアの魔女・d06622)が口にする。
     ヴァンパイア達は転校生として日本各地の高校へ向かい、全国の学校を支配下に置こうと画策していたのだ。
     彼らは、支配下に置いた学校の秩序や風紀を乱して闇堕ちを促進させたり、それによって生まれたダークネスを確保しようとしていたようだ。
    「闇堕ちしたダークネスがヴァンパイアになるとは限りませんが、その場合は協力関係を結ぶなどすることで、同じように戦力が増強できると考えていたみたいですね」
     多くの人間が集まる学校に目をつけ、そうした作戦に出たヴァンパイアに対し、自分たちは『学園の支配自体を阻止する』という方法で対処していったのだと六乃宮・静香(黄昏のロザリオ・d00103)は説明していく。
    「じゃあ、朱雀門高校も勢力の拡大を目的にしているのですね」
     なるほど、と竜胆・藍蘭(青薔薇の眠り姫・d00645)が頷く。しかし全国の学校に転校生を送り込む作戦は、灼滅者の妨害によって失敗に終わったというわけだ。
    「そこで新たに朱雀門高校が目をつけたのが『デモノイドロード』です」
     それはデモノイドの中でも一部の存在。悪の心でデモノイド寄生体を抑え込んだデモノイドは人間の姿を取るようになった。知性あるデモノイドとも言えるような存在ですね、と森田・依子(深緋の枝折・d02777)は付け足した。
    「デモノイドとデモノイドロードは、別物と言っていいくらいに違いがあるわ。デモノイドはただ暴れまわるだけの怪物だったものね」」
     見た目の違いだけでなく、言動にも大きな差があると羽丘・結衣菜(歌い詠う蝶々の夜想曲・d06908)は語った。
    「ソロモンの悪魔が生み出した事もあって、デモノイドはソロモンの悪魔に都合のいい……眷属に近いような存在だって印象があったけど、デモノイドロードになると全然別の種族って感じかな……」
     ソロモンの悪魔・アモンが創ったと言われているデモノイドについて、色々な事を考えていた敷島・春菜(高校生魔法使い・d19866)はそう呟く。
     ともあれ、そうして朱雀門高校は積極的にデモノイドロードを仲間に招くようになった。勧誘に成功したデモノイドロードは、朱雀門学園の生徒として転入しているらしいが、それもまた十分に上手くいっているとは言い難い。エクスブレインの予知で朱雀門高校の動きを知った武蔵坂学園の灼滅者が、その前に対象となるデモノイドロードを灼滅して回ったからだ。
     その辺りは関連資料を羽場・武之介(滲んだ青・d03582)らが運び込み、皆で手分けして整理を進めていった。
    「朱雀門高校はその後、木更津のデモノイド工場の情報を掴んだようです。そして、そこにいるデモノイドを奪って支配下に置こうとしたんです」
     三和・悠仁(嘘弱者・d17133)が次に口にした内容は、つい先日起こった事件だ。朱雀門高校は、ソロモンの悪魔・ハルファスが所有する工場を襲撃し、そこにいるデモノイドを奪うことによって戦力を増やそうとしたのである。
     デモノイドロードではなくデモノイドを狙った理由は不明だ。灼滅者達に邪魔され続けている影響で、一気に手っ取り早く戦力増強しようとして狙ったのかもしれない。
    「しかし、両者のぶつかり合いによって工場は混乱。そこから逃亡したデモノイドが街へ向かったんです」
     工場のある木更津市では数多くのデモノイド事件が起きた。しかしそれも、駆け付けた灼滅者によって何とか解決されたという。
    「だが、その裏では『侍従長デボネア』と名乗るヴァンパイアによる『武蔵坂学園のデモノイドヒューマン拉致事件』が起こっていたんだ」
     安曇野・乃亜(ノアールネージュ・d02186)の声に、室内の空気がピンと張る。
     先日起きたばかりであり、そして今も余波が続くこの事件のことは多くの灼滅者が知っている。
    「やっぱり、本当なんだ……」
     正確なところまでは知らなかった佐山・紗綺(高校生デモノイドヒューマン・d16946)は、皆の話に心配そうな顔をした。
    「なんでオレたちの仲間が闇堕ちして、オレたちと対立しなきゃならねーんだ!?」
    「人質を取られたからだ」
     四十嵜・悠凱(モーヴ・d22325)の怒りも、もっともだろう。それに片倉・純也(ソウク・d16862)は単刀直入に答えた。
     デボネアは、12人の一般人を人質として捕え、その上で『闇堕ちして従わなければ全員殺す』と脅迫したのである。
     選択を迫られた11人のデモノイドヒューマンは、結果として7人が闇堕ちし、デモノイドロードとなった。彼らの犠牲があって、同様に拉致された残る灼滅者達は一般人を救い、無事帰還できたのだ。
    「闇堕ちした7人のうち、卜部さんは無事に救出されたよ。あとの6人は……」
     シア・クリーク(知識探求者・d10947)は現時点での情報を書き出していく。

    ====================
    【マスターからの解説】
     朱雀門高校に関する出来事は、以下のページでまとめられています。
     http://tw4.jp/html/world/story/st130510.html

     デボネアによるデモノイドヒューマン拉致事件については、
    ●『デモノイドロードへの誘い』
     http://tw4.jp/html/world/event/016/sp_rp01.html
     を、闇堕ちした灼滅者達のその後は、
    ●【予兆】朱雀門高校のデモノイドロード達1
     http://tw4.jp/html/world/story/ex/131112main_ex01.html
    ●【予兆】朱雀門高校のデモノイドロード達2
     http://tw4.jp/html/world/story/ex/131112main_ex02.html
    ●ロード・ウラベの要求
     http://tw4.jp/html/world/event/017/sp_rp01.html
     などに詳しく掲載されています。
     他のデモノイドロードさんは、見えるところでの活動がなかったり、リプレイが執筆中であるなどの理由で、リンクをつけることができません。しばらく校門前などをチェックしてみてください!

    ====================

    「デモノイドヒューマンの人たち、早く助けたい……ね」
     所在がつかめた者、今まさに作戦に動いている者、同行が不明な者など様々だが、桜木・和佳(誓いの刀・d13488)をはじめ、皆が無事の帰還を願っている。
    「直接朱雀門高校へ向かい、交渉などするのは難しいでしょうか?」
     だが、如月・千早(明鏡止水・d13357)の言葉に頷ける者は誰もいない。朱雀門高校が京都にあることは判明しているが、だからといってそこまで出向いて話しかけたところで、解放してくれるとは思えなかった。それが通じるような相手なら、そもそも最初からデボネアのような手段になど出ないだろう。
     闇堕ちした彼らは、やはり灼滅者達自身の手で取り戻すしかないようだった。


    ●ラブリンスターとスキュラ~『淫魔』とのあゆみ
    「ここ最近の出来事だと、『太古の淫魔・スキュラ』の動向も気になるわ」
    「ラグナロクの海空・夏美さんを狙い、一つの町を完全に支配下に置きながら行動していたダークネスですね」
     黒咬・昴(叢雲・d02294)の言葉に、すぐ反応したのはナタリア・コルサコヴァ(スネグーラチカ・d13941)だ。夏美をめぐるスキュラとの攻防は激しく、何千人もの生徒がそれに関わった。今日ここに集まった者の中にも直接かかわったという当事者は多い。
    「スキュラとか、あと『八犬士』とか、最近よく名前を聞くけど結局どういう奴なんだ?」
     首をかしげている逢坂・信八(暁風・d21924)に、亜麻宮・花火(オールら・d12462)らがざっくりと説明していく。
     ラグナロクである夏美を闇堕ちさせようとしていたダークネス。それがスキュラだ。
     スキュラは強大な8体のダークネスを配下に従えており、彼らを犬、あるいは犬士と呼んでいる。
    「スキュラは夏美から掠め取ったサイキックエナジーを利用して、犬士の中の2体、白露のお絹と悪魔オロバスを復活させたんだよ」
     犬祀・美紗緒(犬神祀る巫女・d18139)は、先日スキュラが支配する街へ乗り込んだ際、お絹と直接たたかった灼滅者の一人だ。
    「夏美さんを救出し、お絹とオロバスを倒すことには成功しましたが、スキュラは逃がしてしまいました」
     ペットボトルから口を離した天渡・凜(天を渡る歌声・d05491)は少し残念そうな口ぶり。スキュラは緋影丸というイフリートを呼ぶと、その背に乗って撤退していったのだ。
    「お絹、オロバス、緋影丸。八犬士というからには、あと5体配下がいるはずです」
    「それについてはこの間、芸術発表会に遊びに来たラブリンスターから聞いたり、なにか予兆を見た人がいるみたいだね」
     凜の言葉を裏付けるように明月・満稀(明星の魔法図書館・d02879)は言った。

    ====================
    【マスターからの解説】
     スキュラと八犬士に関する出来事は、以下のページでまとめられています。
     http://tw4.jp/html/world/story/st_scylla.html

     また、スキュラの八犬士については、芸術発表会に遊びに来たラブリンスターが、こんなことを言っていました。
     http://cdn.tw4.jp/html/world/event/017sce/jigen3.html
    ====================

    「その後スキュラは、別の淫魔『ラブリンスター』の配下を勧誘したり、白の王セイメイと協力しているようです。……スキュラとラブリンスターは仲が悪いのでしょうか?」
     首をかしげる綿津海・珊瑚(両声類・d11579)だが、正確な答えを知る者はいない。だが配下を横取りしようとしているのだから、決して良好ではないだろう。
    「私はラブリンスターさんの方も気になります。ラブリンスターさん達は、今どのような状況なのです?」
     話題に上ったから、と質問してみるのは天宮・柚優(優しいメロディ届けます・d17035)。
     スキュラに対してラブリンスター側に大きな動きはあまりない。つまり、アイドルとして地道な営業活動に励んでいるわけなのだが……。
    「ラブリンスター配下のアイドル淫魔が、フライングバニー服を着たHKT六六六のメンバーをライバルだと勘違いして、アイドル対決を挑んだ事はあったな」
     学園一のラブリンスターファンを自称する水城・恭太朗(本棚荒らし・d13442)は、ラブリンスター周辺の淫魔情報にも詳しかった。
     間違った方向への頑張り具合に、ちょっと頭を抱えてしまいたくなったりもするが……。
     ひとまず、現状はその程度で大きな動きはない。武蔵坂学園とラブリンスター勢力は、引き続き良好な関係にあるというのも大きいかもしれない。しかし、スキュラ勢力、あるいは他のダークネス勢力の動きによって、いつ何が起こるかはわからない。予断は許さないだろう。
    「フライングバニー服といえば、あれは淫魔の眷属なんですよね? 六六六人衆の組織であるはずの『HKT六六六』の人達がそれを着ていたり、その恰好で謎のカードを配ってスカウトをしているのは、どうしてなんでしょう?」
     フライングバニー服の背後には、第三の淫魔がいるのだろうか?
     そういった情報は何か掴めているのだろうか……と、八重波・智水(刹那享楽破戒僧・d17932)のような一部の灼滅者は危惧しているのだが、それらに関する具体的な情報は今のところ無い。
     ただ、
    「すずのたちでつかまえて、きてみたら、ふつうにぼうぐとしてつかえたので、えいちけーてぃー666がきるために、よういされたのものだったのかも……?」
     らぶりんすたーさまとちがういんまがなにかしてるのか、それとも……と、綾町・鈴乃(無垢な純白・d15953)は唸っている。
     だってフライングバニー服って、着てみたら普通にバニースーツなんだもん。
    「防具ではないけど、ソウルボードと現実のはざまから現れた『魔導書』もあったね」
    「それから那須殲術病院での『クルセイドソード』もだな」
     内之倉・帳(夜殺し・d03930)や颯・十牙(三牙の殲術道具収集家・d06240)がブレイズゲートの探索によって発見された武器についても挙げていく。
     今後も、更に灼滅者の力となる物が発見されるかもしれない。
     激しくなるダークネスとの戦いに、ぜひ有効活用していきたいものだ。
    「兎変身とかミラクルだしねっ☆」
     それはそれとして、ノリノリな渋谷・チカ(ギャル・d15375)や少し恥ずかしそうな鴨宮・寛和(ステラマリス・d10573)、何かロマンを夢見ているらしいシヴァル・エンティミスタ(紅眼血鬼・d08764)など、バニースーツは一部の生徒に大きな余波をもらたしたようだった。
    「最近は、いろいろなブレイズゲートが発見されていますからね」
     花咲・マヤ(癒し系少年・d02530)が言うように、中にはクラスメイトやクラブの仲間と団結してブレイズゲートで起こっている事件に関わっている灼滅者もいるくらいだ。ここまでに判明したブレイズゲートの情報をまとめると、更に今後新情報があれば、すぐ情報を整理しやすいように準備しておく。
     今後の探索では、一体何が起こるのだろうか……。

    ●HKT六六六~『六六六人衆』とのあゆみ
    「さっき少し話題に出たHKT六六六ですけど、これが最近の六六六人衆の動きなんですか?」
     一方、そう疑問を口にしたのは皐月・誠也(咎の残月・d18158)。六六六人衆を宿敵とする椅子越・翔(安楽椅子のみる夢・d00885)なども、詳しく知りたいと声を上げる。
    「私もそれには興味があるね。ああ、君、コーヒーをくれないか?」
     温かい飲み物を配っていた秋夜・クレハ(紅の葬焉・d03755)は、アレックス・ダークチェリー(ヒットマン紳士・d19526)にそう呼びかけられると、クッキーを添えてカップを渡す。他にも、浅見・藤恵(薄暮の藤浪・d11308)が用意したお茶や牛野・ショボリ(歌牛・d19503)が持ち込んだ牛乳などが、それぞれの好みにあわせて配られた。メイドさんこと牛野・ランプ(アルデバランの狂腕・d21069)の配ったマドレーヌやパウンドケーキも好評である。
    「六六六人衆は他のダークネスと比べると、以前と変わらない活動をしているかなって感じよねー」
     そんな中、鳳・南(熱風翔女・d05269)がカップを手に感想をこぼす。
     六六六人衆は以前から続いている『闇堕ちゲーム』を引き続き起こしている。殺戮そのものではなく、殺戮を止めに来た灼滅者を闇堕ちさせることを主目的にした、六六六人衆ならではの娯楽だ。
    「それに加えて、活動を始めたのが『HKT六六六』。福岡県を縄張りにする集団なのよね」
    「私達は夏休みの臨海学校で、その事件に遭遇したんです!」
     アイレイン・リムフロー(スイートスローター・d02212)の言葉に頷き、星陵院・綾(パーフェクトディテクティブ・d13622)がビシッと指を突き付けた。
     HKT六六六の『デビューイベント』だというそれは、謎のカードを受け取った一般人が福岡市の各地で通り魔事件を起こすという衝撃的なものだった。
    「カードを受け取っただけなのに、それに操られて殺人事件を起こすだなんて……」
     あの時は事件を食い止められて本当によかったです、と回顧している織凪・柚姫(甘やかな声色を紡ぎ微笑む織姫・d01913)に、臨海学校へ向かった多くの生徒たちが頷いている。
    「その後で海水浴とかたっぷり楽しめたのは良かったんだけどな」
    「屋台や水炊きなども美味しかったですし」
     事件が絡んでいたとはいえ、臨海学校だったので、楪・奎悟(不死の炎・d09165)や一宮・光(闇を喰らう光・d11651)のように福岡を満喫した者も多く、しばらく思い出話で盛り上がる。
    「でも、彼らはまた『カード』をばらまき始めたんだよね。しかも今度はフライングバニー服姿で」
     やがて平戸・梵我(蘇芳の祭鬼・d18177)が口にしたのは、淫魔ラブリンスターの話題の時にも話が出た事件についてだ。
     アイドル活動をする女の子たちが配るカードを手にした一般人が、臨海学校の時と同じように殺人事件を起こそうとしたのである。
     それも灼滅者達の活動で食い止められたが、その際のHKT側の行動がきっかけで、ラブリンスター派の淫魔とのアイドル対決が始まっていった……。
    「それからシャドウと手を組んで、変な機械を使って夢の中で六六六人衆に闇堕ちさせようとする事件も起こしていますね」
     セレスティ・クリスフィード(闇を祓う白き刃・d17444)は「これも詳細は謎ですね」と悩ましげな顔だ。
     ソウルボードに囚われた一般人に、まるでゲームのように次々と殺人を体験させることによって、殺人への嫌悪感を薄れさせつつ楽しさを覚えさせていく。そうして、闇堕ちを促進するというのが事件の内容なのだが……いったい誰が、何の目的でそうしているのか詳細までは掴めていない。
    「HKTに関わっているダークネスというと、今のところ判明しているのは『ギヨティーヌ』こと八波木々・木波子でしょうか」
     何度か遭遇したことがある十三屋・幸(孤影の罪枷・d03265)は、彼女に関する最近の情報をまとめていく。
    「HKT六六六を率いてるのは人間なんだよな?」
    「『ミスター宍戸』なる男が深くかかわっているようだ」
     浅緋・雨戯(馨香・d20190)の声に泉二・虚(月待燈・d00052)が頷く。バベルの鎖での予兆を信じるならば、HKT六六六を率いているのは一般人の男らしい。しかし一般人でありながらあのような謎のカードを量産したり、淫魔やシャドウとのコネクションを持っているのだとしたら、
    「この所業、恐るべしだな」
     そうしみじみ虚はこぼす。
     トップが一般人だという事は、そもそも六六六人衆の組織だと呼ぶのも適切なのかどうか。実にイレギュラーな組織だと言えるだろう。
    「謎が多い組織なのですね……」
     HKTについて詳しくなれたような、相変わらずのような……と、籠野・美鳥(高校生サウンドソルジャー・d15053)はメモを取りながら思う。
    「今後の動きには更に注目が必要、という感じでござろうか」
     最後に清流院・静音(ちびっこ残念忍者・d12721)がそう締めくくり、灼滅者達は整理した資料を収納していく。
    「あ、それ運ぶぜ」
     重そうな束を見かけた赤星・田助(炎天下兄ちゃん・d21921)は、それを率先して運んでいく。灼滅者だから、ある程度の荷物は何ともないだろうが、それでもやっぱり、女の子に重たい荷物を持たせるわけにはいかないと、そう思ってしまう男性陣は、田助の他にも多かったらしく、あちらこちらで、そんな光景が見られた。

    ====================
    【マスターからの解説】
     HKT六六六関連は、このページでまとめられています。
     http://tw4.jp/html/world/story/st130903.html
    ====================

    ●『ソロモンの悪魔』とのあゆみ
    「あれから、ソロモンの悪魔は一体どうしているんでしょう?」
     噂などは聞くのですが、と前置きしつつ鈴虫・伊万里(黒豹・d12923)が尋ねる。
     不死王戦争でアモンが武蔵坂学園の灼滅者によって倒された後、アモン配下だったソロモンの悪魔たちは独自に動きを見せていた。
    「レヒト・ロートや、『ただでさえ気持ち悪いのにさらにやばい奴』もそうね」
     双方とも強力だったわ、と駿河・香(ルバート・d00237)が遠い目をしている。……主に後者と戦った時の事が脳裏に蘇っているのだろう。幸いにも、ただきも(略)はスムーズに灼滅され、灼滅者達を安堵させたものだ。
     一方のレヒトは、アモンが倒されたのは淫魔の裏切りによるものに違いないと思い込み、淫魔へ見当違いな復讐劇を仕掛けていく。
    「私たちがこの失策を突いたことで、レヒトは求心力を無くしてしまったの」
     百枝・菊里(アーケインワーズ・d04586)の言うように、淫魔に復讐しようとしたソロモンの悪魔が次々と武蔵坂学園によって灼滅されたことで、逆にレヒトの立場が揺らぐことになってしまったのだ。最終的にはレヒト自身もまた、灼滅されることとなった。
    「俺が印象に残ってるのはレヒトと別の一派、ベレーザ・レイドと、それから闇堕ちした筒井・柾賢のことやな」
     東当・悟(紅蓮の翼・d00662)は、ある廃校で彼らと遭遇した時の事を思い返す。
    「ベレーザ・レイド。彼女は同じソロモンの悪魔『ハルファス』の軍勢に合流を図りました」
     大まかな経緯は氷室・アスカ(藍色少女・d11177)が語っていく。
     レヒトが淫魔への復讐を試みている頃、ベレーザは羅刹佰鬼陣への協力を行っていた。しかし、武蔵坂学園によって羅刹佰鬼陣が阻止されると、今度は強大なソロモンの悪魔『ハルファス』との合流を目指したのである。
    「廃校はベレーザの拠点の一つだったみたいです。ベレーザはここで、自分に従わないダークネスを洗脳してまで配下に加えようとしていましたが……」
     その中に、蒼の王コルベイン配下だったノーライフキングが混ざっていたことから、紫堂・恭也から協力して欲しいという連絡があり、灼滅者達は廃校へ向かうことになった。
     しかも、廃校での指揮を執るのは筒井・柾賢――闇堕ちした武蔵坂学園の灼滅者だったのだ。二重の意味で、灼滅者達には放っておけなかった。
     そして、現地で戦った灼滅者達は、彼を灼滅したのである。
    「じゃあハルファス軍っていうのは?」
     詳しく知りたい! と幸・桃琴(桃色退魔拳士・d09437)が手を挙げる。が、交戦こそしているものの、ハルファス軍自体について、まだあまり詳しいことは判明していない。
    「百識のウァプラや、ブレイズゲートで目撃されたグラシャ・ラボラスがハルファス群の一員のようだけど……」
     マリア・スズキ(悪魔殺し・d03944)が挙げた他にも多数のダークネスがいるはずだ。気を引き締めておくべきだろう。
    「ブエル兵も、ソロモンの悪魔の眷属ですよね」
     また、エクスティーヌ・エスポワール(銀将・d20053)が挙げた眷属、ブエル兵は少々特殊な眷属だと言えるだろう。人間から『知識』を奪い、その上で死に至らしめるブエル兵は、恐ろしい存在だとエクスティーヌは思う。
     また、ハルファス軍はアモンの遺産の一環としてデモノイド工場を保有していたが、それは先日、朱雀門高校のヴァンパイア達に奪われてしまったようだ。
    「そして、ハルファス軍は今、『病院』という組織を襲撃していますね」
     以前から、予兆を見た灼滅者によって、どうやらハルファスが『病院』という組織と対立しているらしいことが判明していたが、黒瀬・夏樹(錆色逃避の影紡ぎ・d00334)の言うように、それは最近になって大々的な襲撃に発展した。
     『病院』に関しては、武蔵坂学園の灼滅者も詳しいことは知らないが、これまで「『病院』という、高度に武装された灼滅者達の一大勢力があるらしい」という噂だけは流れていた。
    「ダークネスの連合に灼滅者の組織が襲撃され、壊滅しようとしている……か。これを放っておくことはできないな」
     そう考えた灼滅者達が、全国各地の『病院』の拠点、殲術病院を支援しに向かうことになっている。同じ灼滅者、一体どんな人たちなのか……この一件が片付いたら、改めて確かめてみてもいいかもしれない。
     そうした『病院』への襲撃などについての情報もいったん纏めてしまうと、灼滅者達は更に新たな未整理の山へと手を伸ばしていった。
    ====================
    【マスターからの解説】
     ソロモンの悪魔については、以下のページで詳しく確認できます。

    ●アモン残党の復讐
     http://tw4.jp/html/world/story/st130627.html
    ●廃校の悪魔
     http://tw4.jp/html/world/story/st130902.html
    ●ハルファス軍
     http://tw4.jp/html/world/story/st_halphas.html
    ====================

    ●『イフリート』とのあゆみ
    「さってと、次は何からまとめるか……よし。イフリートについてまとめてみるか」
    「イフリートといえば、クロキバさんだよね!」
     栗原・嘉哉(陽炎に幻獣は還る・d08263)の言葉に、はいはいっと山城・竹緒(デイドリームワンダー・d00763)が手を挙げながら発言する。
     武蔵坂学園と接触したイフリート達。そのまとめ役のような立場にあり、多くのイフリートから頼りにされている存在が、漆黒のイフリート『クロキバ』である。
    「イフリート達は、あのあと石版でお手紙をくれるようになりましたね」
     前回の灼滅者講座の直後くらいでしょうか、と桜井・夕月(もふもふ信者の暴走黒獣・d13800)は思い返す。
     どうやらクロキバ周辺のイフリート達は『何か困り事があったら、灼滅者に連絡すると解決してくれるようだ』と認識したらしく、たびたび灼滅者の目につく方法で手紙をくれるようになった。
     困り事の内容は、イフリートのいる温泉の近くに眷属が現れた……といったもので、灼滅者としても、眷属を倒すためにイフリートが暴れて近隣に被害が出るよりは、その方が助かるという側面があったりする。
     なにせ山火事が起きたり、温泉街が壊滅したら一大事だ。
    「なるほど。その時の記録がこれですね」
     北大路・あすか(探偵櫻姫マジカルあすか・d20881)は集められていた資料の山を整理し、どの源泉でどのような眷属を退治したのかといった情報や、実際にイフリートが書いたという石版のお手紙の写真などをファイリングしていく。
    「あとはこれを……」
    「力仕事なら任せな」
     運ぼうとしたあすかを遮り、軽々と持ち上げたのはクーガー・ヴォイテク(白炎の速度狂・d21014)。クーガーは他にも力仕事なら! と申し出た皆と一緒になって、てきぱき棚に資料を収めていった。
     そうして資料を整理しながら、口を開いたのは遠野森・信彦(蒼狼・d18583)だ。
    「それ以来、イフリートが大暴れするような事もなく、平穏な状態が続いているのは有難いが……夏にアカハガネがぶっ倒れたって聞いた時は、さすがに拍子抜けしたぜ」
     信彦の言葉に、何人もの灼滅者が頷いたり、苦笑している。
     灼滅者達は面識のあるイフリート『アカハガネ』が夏バテして倒れたという話を聞き、そのお見舞いに行ったことがあるのだ。
    「そして夏の終わりに起こったのが、ノーライフキングによる襲撃でした」
     ノーライフキングの眷属が、イフリートのいる各地の源泉に現れ、何かの儀式を行おうとしたのだ。ノーライフキングを追い払うのを手伝って欲しい……そうクロキバから依頼され、小鳥遊・優雨(優しい雨・d05156)ら、多くの灼滅者が現地へ向かい、イフリートとの共闘の末、その撃退に成功した。
    「あれはどうやら『白の王セイメイ』と呼ばれるノーライフキングの指示によるものだったようですね。なんでも『白炎換界陣』なるものが関わっているようですが……」
     当時バベルの鎖で『予兆』を目にした優雨がつぶやく。それが何を表しているのか、具体的に何をしようとしていたのか、確かなことは分からず、ただ推測するしかないが――。
     セイメイは更に、全国の火葬場や病院で死者をアンデッドとして甦らせる実験を起こし始める。灼滅者達の頭を悩ませたのは、それを知った一部の血気盛んなイフリートが、クロキバの抑えも聞かずにノーライフキングを襲撃しようとしたことだろう。
     周囲への被害を気にすることなくイフリートが暴れると大惨事になってしまう。灼滅者達はなんとか彼らを説得しながら事件に対処することになった。
    「若いイフリートが多かったみたいだね。俺のところはうまく協力できたけど、俺たちの話を聞いてくれなかったイフリートなどもいたようだ」
     紗守・殊亜(幻影の真紅・d01358)の言うように、クロキバの抑えすら効かなかったイフリートだけあって対応には難儀したものの、あらかたうまくいったのは幸いだっただろう。
    「同じイフリートでも、色々いるんだな」
     話を聞いていた朱銀・壱彦(無声咆哮・d20004)はふむ、と考え込む。
     クロキバのように落ち着いて話ができるイフリートもいれば、話を聞かずに突っ走るようなイフリートもいる。同じ『イフリート』でも、ひとくくりにできるわけではないようだ。
    「イフリートだからかもしれませんが、この差は少々気懸かりですね」
     こうしたイフリートは一部だろう。しかし、いつどのような動きに出るか分からないという意味では懸念材料だと迅・正流(斬影騎士・d02428)は考える。
     相手は、あくまでもダークネス。ただこれまでの経緯から、今のところ表立って対立などはなく、比較的友好的な状況が続いているとは言えるだろう。
    「気になるといえば、クロキバとセイメイの関係じゃな」
     予兆によれば、両者にはどうやら何か関係があるらしい。イフリートとノーライフキング自体の関わり合いにもそれが影響している可能性すらある。久次来・奏(凰焔の光・d15485)らには、そのことも気になった。
    「イフリートとノーライフキングか……」
     両者の関係には注視しておいた方が良いかもしれない。大和・蒼侍(炎を司る蒼き侍・d18704)は皆から聞いた話をメモしていく。
    「セイメイ関連の資料は、ノーライフキングについて整理するとき一緒にまとめよう。資料が分散してしまうと、検索性が悪くなってしまうからね」
     他にも様々な事件に関わっているセイメイのことは、セイメイ単独で区切るのが良いだろうと四童子・斎(ペイルジョーカー・d02240)は結論を出す。関連資料やデータは、いったん分けて置かれることになった。そんな作業の合間に青柳・琉嘉(自由奔放サンライト・d05551)が配ったチョコレートは、程よい甘さで、ちょっとした癒しになったようだ。
     そうしてイフリートのここ半年について資料がまとまったところで、新たな疑問を口にしたのは、白鐘・空真(デッドマン・d19702)だった。

    ====================
    【マスターからの解説】
     イフリートについては、以下のページで詳しく確認できます。

    ●箱根温泉のイフリート
     http://tw4.jp/html/world/story/st130530.html
    ●イフリート源泉防衛戦
     http://tw4.jp/html/world/story/st130830.html
    ●白の王セイメイ(『セイメイとイフリートと蘇る死者』参照)
     http://tw4.jp/html/world/story/st131006.html
    ====================

    ●『シャドウ』とのあゆみ
    「ところでシャドウは最近、何をしているんだ? あんまり目立った動きがないようだが……」
    「確かにあんまり話を聞かない気がする」
     空真の言葉に炎谷・キラト(失せ物探しの迷子犬・d17777)など、多くの灼滅者が頷く。大きな話題をあまり聞いたことがないからこそ、逆に興味がわいている……そんな灼滅者も多いようだ。
    「はい! それ僕も気になるっす!」
     それまで寝ていた辻・蓮菜(反魂パステルアーミー・d18703)も、話題がシャドウの事になった途端に目を覚まし、思わず立ち上がった。
     シャドウは、人間の精神世界である『ソウルボード』に潜むダークネス種族だ。彼らは現実に姿を現すことは稀で、これまでの事件のほとんどは人間の夢の中など、ソウルボードで起こっている。
    「シャドウといえば、やはりまず欠かせないのは『慈愛のコルネリウス』と、その配下である『パンタソス・カロ』ですよね」
     シャドウを宿敵とするシャドウハンターである八重波・真忌(玉垣ノ篝火・d17933)をはじめ、この2体のシャドウが気になっている灼滅者は多く、まずはここから資料をまとめていくことにする。
     村上・椿姫(ボンクラーズモスキート・d15126)が準備した紅茶を配っていく中、口を開いたのは阿久沢・木菟(灰色八門・d12081)だった。
    「慈愛のコルネリウスは、大まかにいうと『誰でも幸せになれる夢』を皆に与えるシャドウでござるな」
     半年前の灼滅者講座でも詳しく語られていたが、コルネリウスは『夢の中でなら誰でも幸せになれる』と、その人にとっての幸福な夢を見せるシャドウだった。
     しかし、その夢に夢中になって目覚めなくなってしまったりする事が、本当に幸福なのだろうか?
     だからこそ灼滅者は、コルネリウス達の見せる夢を『幸福な悪夢』と呼んでいる。
    「でも、その様子が少し変わった……」
     紅茶に合わせて海野・歩(ちびっこ拳士・d00124)が周囲に振舞ったワッフルをもぐもぐしていた木菟が、「コルネちゃん超可愛いでござる」などと呟くのをそっとスルーして。口を開いたのはライラ・ドットハック(蒼の閃光・d04068)だ。
    「パンタソス・カロというシャドウが現れたの」
     パンタソスは、買い物依存症の女性には『何でも買える素敵なカードを持っている夢』を見せ、喧嘩ばかりで夫婦関係が破綻している男女には『相手がいかに自分を大切にし、愛しているかを偽装した夢』を見せた。
     夢の中で好きなだけ買い物ができれば、現実でちょっとだけ我慢するくらいできるだろう。愛の冷え切った夫婦が、互いに『本当は自分を愛しているのだ』という夢を見れば、冷え切った関係も少しは改善するだろう。
    「とてもシャドウの悪夢とは思えなかった。……でも、夢はやっぱり夢、だから」
     夢は、現実に影響を及ぼしていく。
     しかし幸せそうに見えても現実は、本当のことは、何一つとして変わっていない。
     ただ、夢を見ているだけ。根本的な問題の解決にはなっていないのだ。
     あれを『実験』と呼んだコルネリウス達の狙いがどこにあるのか、それは直接かかわったライラ達にも、誰にもわからない。
     しかもコルネリウスに関しては、それ以降、本人が直接目立った動きを見せていないのも気になるところだ。
    「じゃあ、他のシャドウは? 海外逃亡しようとしてる奴らがいるっすよね?」
    「あったわねぇ。でも、あれもいまいち狙いが分からないのよ~」
     高宮・琥太郎(ロジカライズ・d01463)の言葉に、遠間・雪(年齢詐称の性格破綻者・d02078)が唸る。
     シャドウの一部が、日本国外へ向かう旅客のソウルボードに潜んで、海外を目指そうとしたのだ。しかし彼らがなぜ、海外を目指そうとしたのか、その理由は掴めていない。
    「でもさ、なんで海外なんだろうな。サイキックアブソーバーの影響で、ダークネスは海外じゃロクに活動できないはずだろ?」
     海外でもうまく活動できる手段を持っているのか、それとも、そうまでして海外へ行かなければならない理由でもあるのか……森田・供助(月桂杖・d03292)を筆頭に、灼滅者達は多くの可能性を考慮していたが、結論は出しようが無いというのが現状だ。
     何の理由もなく海外へ行こうとしたとは思えないから、何かしらの目的があるのは間違いないのだろうが……。
     小千谷・硝(冷夏の雷鳴・d17338)など、多くの灼滅者が考え込む。
    「海外へ脱出しようとした他には、何かあったっけ?」
     そんな沈黙を破ったのは伊丹・弥生(ワイルドカード・d00710)だった。周囲を見回す彼女に答えたのは楯縫・梗花(さやけきもの・d02901)である。
    「HKT六六六の候補生探しに関わっているみたいだよね」
     ダークネス『六六六人衆』が、才能のありそうな人間に悪夢を見せて闇堕ちさせようとする動きを見せている。この悪夢というのが、どうやら『六六六人衆に協力しているシャドウ』によるものらしいのだ。
    「夢の中で殺しをさせて殺人に目覚めさせるだなんて、悪趣味そのものだよ」
     梗花は苦い顔だ。どんなシャドウが力を貸しているのかは不明だが、そうした事件があることは記録しておく必要があるだろう。
    「あとは最近『グレイズモンキー』というシャドウが姿を現したね」
     アシュ・ウィズダムボール(ディープダイバー・d01681)が真剣な顔で口にしたのは、ノーライフキング『白の王セイメイ』の配下となったノーライフキングの援軍として、姿を現したシャドウのことだ。
     以前にもコルネリウス配下のシャドウが現実世界に現れることがあったが、彼らは10分程度で夢の世界へと帰還していた。
     グレイズモンキーも同様に現実世界に現れたのだが、問題はエクスブレインの未来予測によれば、その時間内で紫堂・恭也と5名のノーライフキングを全滅させうる力を持っていたという点だ。
     グレイズモンキーは、太古の淫魔スキュラの配下だと言われているため、その影響なのかもしれないが、『何か』あるのだろうと、そう一部の灼滅者達は考えていた。
    「こうしてまとめてみると、シャドウにも色々あるんだね」
     ふう、と司城・銀河(タイニーミルキーウェイ・d02950)は息をついた。銀河はシャドウ達の持つトランプのマークが、組織や派閥に関係しているのではないかと気にしていたが、今のところ違うマークのシャドウが協力しているケースもあり、何かを断言できるほどの情報は無いようだった。
    「ブレイズゲートに現れたクラブのベヘリタスも込みで、どうにも連中の目的って見えてこないんだよなあ」
     那嘉川・真(痛みも辛さも乗り越える漢・d14239)の言うように、起きている事件は十分に整理できたものの、シャドウについては、まだまだ謎が多い。
     いつかは、それらを突き止められる日が来るだろうか……。
    ====================
    【マスターからの解説】
     シャドウについては、以下のページで詳しく確認できます。

    ●シャドウの国外脱出
     http://tw4.jp/html/world/story/st130823b.html
    ●HKT六六六(HKT式睡眠学習ゲーム参照)
     http://tw4.jp/html/world/story/st130903.html
    ●グレイズモンキー出現(蒼の残滓と黒き獣)
     http://tw4.jp/adventure/replay/?scenario_id=7194
    ====================

    ●『アンブレイカブル』とのあゆみ
    「じゃあアンブレイカブルはどうなっているんだろう? 確か『業大老』という非常に強力なダークネスがいたよね?」
     水澄・海琴(かっとおふすたいる・d11791)は、宿敵でもあるアンブレイカブルの事を気にしていた。
     武蔵坂学園と関わった『葛折・つつじ』からも師匠と仰がれている業大老だが、強大な力を持つため、思うように動けない状態が続いているようだ。
    「ですが、弟子の方は活発に活動しています。中でも大きな出来事は、アンブレイカブルがブレイズゲートと化した富士急ハイランドに集まってきたことでしょうね」
     ベアトリーチェ・アーデルグランツ(華やかな桜色の謡紡ぐ秘戯の蝶・d01453)は当時を思い返す。
     アンブレイカブル達は、己の腕を磨くために富士急ハイランドを目指した。結果的にアンブレイカブルが集結してしまったのは『修行しようとしたアンブレイカブルが多かったから』である。
    「ここで戦いとなったのが『柴崎・明』です」
     そもそもアンブレイカブルに富士急ハイランド行きを勧めたのは、この明だった。動けない業大老にかわって、修行をつけてほしいと頼まれた明は、ブレイズゲートでの武者修行をそれとなく勧めたのである。
    「そのアンブレイカブル達を、武蔵坂学園が追い払ったことに興味を持ったようですね」
     森沢・心太(隠れ里の寵児・d10363)は、実際に明と戦った灼滅者の一人だが、30人がかりでも攻撃をしのぐのがやっと。そのくらい強大な『力』を持ち、それを追及するアンブレイカブルであったことを思い返す。
    「あとアンブレイカブルの動きというと、オホーツク海での一件やな」
     ご当地幹部・ロシアンタイガーが日本へ向かってきた時の事をクリミネル・イェーガー(迷える猟犬・d14977)は言う。
     ロシアから流氷によって日本を目指してきたロシア怪人たちを、業大老らアンブレイカブルが迎撃したのである。
    「予兆によると、業大老はロシアンタイガーが持つ『弱体化装置』を狙っていたようだな。この襲撃時には業大老も少しだけ活動したようだが、すぐにサイキックエナジーが枯渇して動けなくなってしまったそうだよ」
     そのため、ロシアからの流氷に乗ったご当地怪人と、業大老配下のアンブレイカブルがぶつかり合うことになった。それに灼滅者達も介入したのである。
    「彼らを一気に倒すというのが目的でした。この時、私達はつつじの撃破にも成功したんです」
     それは拳と拳で語り合った末に、迎えた結末だった。
    「最近になって新たに現れたのは『ケツァールマスク』ですわね」
     ストレリチア・ミセリコルデ(銀華麗狼・d04238)は更に、闇のプロレス団体を主宰するアンブレイカブル、ケツァールマスクについて触れる。
     ただし、ケツァールマスクはこれまでのアンブレイカブルと比べると、少し変わったアンブレイカブルだと言えるだろう。何故なら、ツァールマスクは配下のアンブレイカブルを格闘技の大会に乱入させたらそれを見守るだけで、基本的に自分からは戦わないのだ。
    「反則行為や、試合があまりにつまらないと感じた時には介入してくるようですが……」
     逆に言えば、そうした事さえ行わなければケツァールマスクは介入してこない。配下のアンブレイカブルも相手を殺そうとまではしないの。なぜなら、ギブアップした選手を更に攻撃するのはケツァールマスクの美学に反するらしく、そんな真似をすればアンブレイカブルも徹底的に制裁されるからである。
     それでも、一般人とダークネスが格闘技とはいえ戦うのは阻止すべきだろう。そう判断して介入した灼滅者達は、ケツァールマスク配下のアンブレイカブルと、プロレス等さまざまな格闘技で対決してきた。
    「ケツァールマスクの方は、一体何が目的なんだろうな」
     何か行動に出るからにはメリットがあるに違いない。そう考える中神・通(柔の道を歩む者・d09148)だったが、具体的な目的はよくわかっていない。強いて言うなら配下に経験を積ませて腕を磨かせている、という所だろうか……。
    「なんにせよ、アイツらの『強さ』への執念や執着は半端無ェ。それが最優先過ぎて問答無用なところもあるし、言動が予測しにくい面もある。その辺は気ィ付けた方がいいだろうな」
     そして戦うことになったら、躊躇せず全力でぶつかるべきだろう。そう最後に紅竜・真二(レッドドラゴン・d10881)は締めくくった。
    ====================
    【マスターからの解説】
     アンブレイカブルについては、以下のページで詳しく確認できます。

    ●富士急に集う拳鬼達
     http://tw4.jp/html/world/story/st130703.html
    ●ロシアン怪人流氷事件
     http://tw4.jp/html/world/story/st130823a.html
    ●ケツァールマスク出現
     http://tw4.jp/adventure/replay/?scenario_id=7035
    ====================

    ●『ご当地怪人』とのあゆみ
    「さっき話が出た『ロシアン怪人流氷事件』は、ご当地怪人的な視点でも大きな出来事だったな」
     加藤・蝶胡蘭(ラヴファイター・d00151)が言うように、この事件はここ半年のご当地怪人関連の動きで、かなり大きなものだっただろう。
     なぜなら、それ以前から存在が明らかになっていた『ご当地幹部ゲルマンシャーク』に続いて、新たなご当地幹部『ロシアンタイガー』の存在が明らかになったからだ。
    「北海道近海ではアンブレイカブルと派手にやり合っていたロシア怪人たちだけど、それを避けて日本を目指したロシア怪人たちは日本海を南下して、新潟へ上陸したらしいのよ」
     黒蜜・あんず(帯広のシャルロッテ・d09362)は世界地図を広げる。ロシア方面から日本まで、地図をたどっていくと、その経路はなんとなく分かりやすいだろう。
    「そして今、新潟では『新潟ロシア化計画』が進められようとしているっす」
     ロシア化計画を阻止するため、多くの灼滅者が新潟へ向かっている。白波瀬・雅(光の戦士ピュアライト・d11197)も、その一人だ。
     淳・周(赤き暴風・d05550)や斎賀・なを(オブセッション・d00890)など、実家が新潟にあるという生徒や、親戚が新潟に暮らしているという生徒達にとって、今回のロシア怪人たちの動向はとても気懸かりだった。
    「宇都宮市では、『ロシアン餃子怪人』なんてご当地怪人も現れるようになったの……」
     しかも、ロシア化計画は新潟の外にまで波及している節がある。八重葎・あき(とちぎのぎょうざヒーロー・d01863)が心配そうに言うのも無理はない。
     これまでにロシア怪人が起こした様々な事件については、多くの生徒が自分の関わった事件についてまとめてくれていたので、比較的すぐに整理できたが、ロシアン洋梨怪人だったりシベリアンハスキー怪人だったりロイヤルミルクティー怪人だったりロシアンバラライカ怪人だったりと、実に数多くの事件が起こっている。
     これ以上新潟がロシア色に染まることは、なんとしても食い止めなければならないと、灼滅者達はいっそう気を引き締める。
    「ゲルマンシャークの方はどうなってるんだ? ゲルマンシャークも確か北海道だったよな……ハッ!? もしかして、まさかもう北海道は……!?」
    「そこまでの事態にはなってないですぅ。でも、ゆみかはゲルマンシャークの方が、尋常じゃない状況になっている気がしますぅ」
     新舞子・海漣(じゃーにーするー・d21141)の不吉な言葉を否定する夢野・ゆみか(サッポロリータ・d13385)だが、今ゲルマンシャークがいる帯広のグリュック王国跡地に限っていえば、事態は新潟よりも深刻かもしれない。
     その強大さゆえ、普段は石造になっているご当地幹部ゲルマンシャークは、配下のレディ・マリリンによって、グリュック王国へと運び込まれたのだが――。
    「偵察に向かった8人のうち、いろは以外の全員が闇堕ちした……ううん、闇堕ち『させられた』んだよ」
     四月一日・いろは(剣豪将軍・d03805)は、あのとき唯一グリュック王国の外まで逃げ延びることに成功した人物だ。その光景を直接目にしているから、自分自身が体験しているからこそ言える。
     あれは、普通の闇堕ちとは全く違う。『何か』による強制的な闇堕ちだった。
    「侵入者を強制的に闇堕ちさせてしまう領域だなんて、怖いよね……」
    「ああ。石像でありながら、そんなとんでもない真似ができるなんてな」
     レニー・アステリオス(星の珀翼・d01856)や三國・健(真のヒーローの道目指す探求者・d04736)ら、彼らから話を聞いた灼滅者達も背筋が凍る思いがしたものだし、今こうして、初めて耳にした者も、その気持ちは同じだ。
    「御子の時にも3人、同じように闇堕ちしたことがあったけど、あれはラグナロクダークネスだからなのだろう。しかし、それと同等の力を、それも石像でありながら発揮するゲルマンシャークは……」
     恐ろしい話だと、天地・玲仁(哀歌奏でし・d13424)もやや表情を硬くしている。
     グリュック王国がそのような場所であることが把握できている以上、灼滅者達には無闇に近付くことはできない。ゲルマンシャーク側がグリュック王国の中から出てこない事もあって、彼らの現在の様子は不明だ。
    「札幌市では、ゲルマンシャークと交渉したロード・シラヌイが活動をしているようではありますが……」
     闇堕ちしたデモノイドロードとゲルマンシャークがどのような密約を交わしたのかも、推測の域を出なかった。
    「ロシアンタイガーの方にもロード・アーヴェントが向かっているし、それをきっかけに何か新しい動きがあるかもしれないわ。しばらく注意しておかないとね」
     風花・クラレット(葡萄シューター・d01548)の言うように、朱雀門高校との関わりがきっかけで状況が変わる可能性は否定できない。新潟と北海道、ご当地幹部二人の動向は引き続きチェックし、情報をまとめていく必要がありそうだ。
    「あと、最近『日本全国ペナントレース』って聞くようになったね」
     日本全国に出現したペナント怪人が、滋賀県の琵琶湖を目指しながら、途中の町のご当地名所やご当地アイテムなどを破壊する事件を起こしている。
     なんだって急にこんなことが始まったのかは不明だが、こちらも気にしておいて損はしないだろう。
    「ただ、これはスキュラ配下の『安土城怪人』によるもので、ゲルマンシャークやロシアンタイガーとは無関係みたいよね……」
     どちらかというと、淫魔側の動きの一部として、警戒しておくのが良いのかもしれない。
    ====================
    【マスターからの解説】
     ご当地怪人については、以下のページで詳しく確認できます。

    ●ご当地幹部ゲルマンシャーク
     http://tw4.jp/html/world/story/st130607.html
    ●ロシアン怪人流氷事件
     http://tw4.jp/html/world/story/st130823a.html
    ●スキュラと八犬士(日本全国ペナントレース参照)
     http://tw4.jp/html/world/story/st_scylla.html
    ====================

    ●学園生活のあゆみ
    「ホント色々あった半年間だったなぁー……」
     ダークネス関連の情報をまとめを終えて、魔人編纂室はかなりすっきりした見た目になっていた。そんないろいろを振り返った仲村渠・弥勒(マイトレイヤー・d00917)は、半年って早いなぁと、思わずしみじみ呟いている。
    「パソコン側も終わりました」
     検索性を上げるため、大まかなデータはパソコンにも取り込むことになった。澄翳・紗響(高校生エクソシスト・d15597)はその作業を終えると、使い終わった付箋をまとめてゴミ箱に入れて……それがいっぱいなのに気付くと捨てに向かう。
    「お疲れさまですの」
     そんなみんなをねぎらうように、シャルレーゼ・フィールド(傷だらけの旅人・d19021)が戦いお茶を配っていく。それを片手に、口を開いたのは枷々・戦(きらきらセクシーバニーボーイ・d02124)だ。
    「俺としてはダークネスの戦いだけじゃなくて、学園行事も印象深いな」
    「それ、わかります。僕は転入してすぐ運動会があったんですけど、すさまじい内容で驚きました」
     運動は得意なつもりだったんですけど、と富山・良太(ほんのーじのへん・d18057)は苦笑するが、あの運動会なら仕方ない……と周囲から次々と声が上がる。
    「MUSASHIとかね~」
     小野・日向(殺戮幼女・d16124)の言葉に、当日突如グランドに出現した、あの恐ろしいコースが思い浮かぶ。
    「運動会の後は、小6と中2と高2の生徒が、沖縄まで修学旅行に行ったんだよー!」
     楽しかったな~と久志木・夏穂(純情メランコリー・d06715)が満面の笑顔で語る。青い海、白い砂浜、そして燃えに燃えまくったビーチバレー!
    「僕もたくさん写真を撮って、いい思い出になりました」
    「来年行く学年は、今から楽しみにしておくといいよ」
     海堂・詠一郎(破壊の軌跡・d00518)の言葉に、同じく思い出の写真を大切にしているノエル・エトワブラン(月を求める脆き太陽・d11228)は、そう後輩たちへ勧める。
    「7月の学園祭も盛り上がったな」
    「いやー盛り上がった盛り上がった。二日間あっても全然時間足りねーくらい楽しかったぜ!」
     殿宮・千早(陰翳礼讃・d00895)や初食・杭(メローオレンジ・d14518)、などが、当日の事を思い返してうんうん頷く。各クラブが工夫を凝らした企画の数々についての話は特に盛り上がり、今になってから「その企画に生きそこねたのが悔しいぜ!」という声があがったくらいだ。
    「水着コンテストも素敵だったよね。来年はボクも参加したいな♪」
     ちょっと気が早いかもしれないが、三雲・秋乃(偏愛スケープゴート・d08813)のように、来年に向けて今から意気込んでいる生徒の姿もちらほら。その様子は、当時まだ学園にいなかった者に、そのくらい面白い行事なのか! と思わせるには十分だったようだ。
    「で、臨海学校があって……」
    「2学期に入ったら、マラソン大会にハロウィン、そして芸術発表会だな」
     仮装行列の楽しさを結浜・里緒(ダンドリオン・d05829)と崇田・悠里(スタンス未定・d18094)が語り合えば、夕凪・緋沙(暁の格闘家・d10912)が芸術発表会について丁寧に説明をしていき、エドアルド・アルコバレーノ(サディコパッツィーア・d20740)とミカエラ・アプリコット(弾ける柘榴・d03125)がわいわい盛り上がる!
    「12月にはクリスマスだよね? 楽しみだな♪」
     今から待ちきれない様子で、姫乃井・茶子(歴女de茶ガール・d02673)がわくわくしている。武蔵坂学園では、クリスマスには盛大なパーティが行われている。去年のパーティの様子を話したり、聞いたりしながら、今年のパーティへの期待を膨らませる生徒達だが――。
    「その前にテストがあるけどね」
     ため息交じりに佐月・理央(高校生殺人鬼・d13107)がこぼした一言に、盛り上がっていた空気がピタッと固まった。一部の、いろいろと心当たりのある生徒の間には、一気にブリザードが吹き荒れる。
    「ぶっちゃけ、この半年で一番危機感ってのをを感じたのはテストだったな……次、いつだっけ?」
     どこか遠くを見つめるような目をしながら、佐々賀谷・充(猩血衣・d02443)がおそるおそる周囲に尋ねる。
     ちなみに、後期中間テストは12月10日から。あと10日ほどである。
    「よ、よし。こんな時こそ個人授業だな!」
     健剛・拳(駆け出し正義のミカタ・d12929)は武蔵坂学園が誇る個性的な先生達を頼ることにしたらしい。ただし時々、手品にしか興味のない先生やゲームの話しかしない先生、女の子が大好きすぎて男の子に微妙に冷たい先生とか、いろいろいるので注意が必要だ!
    ====================
    【マスターからの解説】
     学校行事については、以下のページで詳しく確認できます。

    ●武蔵坂学園のあゆみ:リアルタイムイベント
     http://tw4.jp/html/world/4-4ayumi.html#02

     また、一度受けた個人授業も下記のページから確認することができます。

    ●個人授業
     http://tw4.jp/adventure/private_lessons/
    ====================


    「ぐぎぎぎぎ……無念でござる……!」
     そんな中、なにやら資料をひっくり返していた霧島・サーニャ(北天のラースタチカ・d14915)が、疲れきった顔で倒れ込んだ。
     サーニャは、魔人生徒会の企画したイベントに関する議事録があるに違いない! それを調べれば、魔人生徒会の真実に近付けるに違いない! ……と、あちらこちらの資料を調べていたのだが、どうやら議事録らしき物を一切見つけられなかったらしい。
    「書記の方が別の場所に保管しているのか、それとも最初から存在しないのか……わかりませんけど、どうやら、そのような感じのようですね」
     姫子が整理した範囲にも、そういった議事録の類は入っていないらしいと聞き、更にがっくりするサーニャである。
    「そういえば整理は終わったけど、この魔人編纂室はこれから誰が管理するの?」
    「魔人生徒会……という事になるでしょうけど、日常的なお掃除とかは、有志で掃除当番表を作る感じになると思いますよ」
     渡来・桃夜(道化モノ・d17562)が何気なく口にした疑問には、そう推測交じりの返事が返ってきた。現に、今後の管理を手伝いたいと申し出ていた何人かがさっそく、そういった段取りを始めている。
    「……ところで、一番の疑問は、なぜ『魔人』生徒会という名前なのか、ということなのですけれど」
    「そういえば」
     暁月・燈(白金の焔・d21236)の問いには、もうすっかりこの名称に慣れてしまった先輩たちが、今更ながらにハッとしている。ちなみに生徒たちの間では『選ばれれば理由がわかる』と言われているようだ。
    「ところで、データといえば、ここ半年の姫子さんの……」
     クラウリー・ホール(高校生ファイアブラッド・d17758)は、じーっと姫子を見つめていた。しかし見るだけでは正確な数字は把握できない。もうちょっと近づいて綿密なチェックを……と思うクラウリーだが、姫子の周囲からは人が途切れず、大胆な動きに出るチャンスになかなか恵まれない。ちっ。
    (「それにしてもすげー量だったな」)
     荊木・莞爾(死花献上・d21029)は、以前の分は姫子一人で全部でやったという話が心底凄いと思いながら、合間合間に作っていた切り絵をひらひらさせる。
    「前の分の整理も、声掛けてくれたら良かったのに」
     きっと今回のように、多くの生徒が手伝いに来ただろう。そんな莞爾の言葉に「そうですね」と姫子は頷いて、
    「次からはそうすることにします。……皆さん、また魔人編纂室の整理が必要になったら、その時はお願いできますか?」
     姫子の呼びかけに、多くの灼滅者が「もちろん!」と頷き返す。

     今日までの武蔵坂学園のあゆみは、これで全部綺麗にまとまった。だが、明日も明後日もその先も、灼滅者達の日々は続いていく。これから起こる様々な事件や出来事を、またこうしてみんなで協力してまとめる日が、きっといつかまた来るだろう。
     それでも、ひとまず今日のところは作業を終えて。
     灼滅者達は後片付けをすると、完成した魔人編纂室を後にするのだった。

    作者:七海真砂 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年11月29日
    難度:簡単
    参加:2081人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 2/素敵だった 17/キャラが大事にされていた 81
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