殲術病院の危機~神奈備の籠鳥

    作者:志稲愛海

     その優美な姿から、地元では神々が降臨する山であると。
     そんな伝承のある山間に人知れず佇むのは、広い敷地に建つ病院であった。
     いつもならば壁に守られ、静かに夜を迎えている頃だが。
     この日の夜は――様相が違っていた。
    「ノーライフキングの襲撃あり! 第一種戦闘配備、防護隔壁展開、迎え撃て!」
     院内に響くのは、緊急事態発生を知らせる警報。
     そして慌しく動き回る人々の足音と、外で発生する大きな衝撃音。
    「とにかく急いで援軍を呼べ!」
     突然この病院を襲撃したのは、屍王の軍勢だという。
     だが――緊急事態は、それだけではなかった。
    「それが……当院だけでなく、日本中の病院が襲撃されていると……!」
    「何!? 那須殲術病院襲撃から動きが無いと思ってはいたが……殲術病院の一斉襲撃を企てていたとはっ」
     『病院』の組織自体が陥落する危機に、直面していたのだ。
     そして下された決断は。
    「籠城戦だ! 援軍が来るのを信じて耐えるぞ!」

    「おやおや、立て籠もる気ですか?」
     喪服のような、全身黒の紋羽織。
     長い黒髪を夜風に靡かせるその男『巽』は、一見人間のようだが。
     無機質な白の瞳と水晶化した左腕が……彼が人間ではない事を示している。
    「第一部隊は北の正面玄関、第二部隊は西の通用口から攻めなさい。残りの部隊は周囲の警戒を怠らないように。いいですね?」
     その丁寧な言葉とは裏腹に、高圧的な物言いで眷属達に指示を与えてから。
    「一斉に病院が襲撃されている今、援軍など来ないでしょうに。これではまるで、鳥籠の中の鳥ですね」
     巽は、ふっと不敵に口角を上げて。
    「そう簡単に陥ちないでくださいよ? 面白くありませんからね」
     傲岸不遜な笑みを宿すのだった。
     

    「武蔵坂学園以外にも灼滅者組織があること、みんなも知ってるよね?」
     飛鳥井・遥河(中学生エクスブレイン・dn0040)は、集まった灼滅者達を見回した後、察知した未来予測を皆へと告げる。
    「複数のダークネス組織がね、武蔵坂とは別の灼滅者組織『病院』の襲撃を目論んでいるらしいんだ」
     複数のダークネス組織。
     一つは、ソロモンの悪魔・ハルファスの軍勢。
     一つは、白の王・セイメイの軍勢。
     そして、淫魔・スキュラの軍勢。
     いずれも武蔵坂とも因縁のある相手。放っておくわけにはいかない。
    「病院勢力はね、殲術病院って拠点を全国に持ってるみたいで、守りに長けた籠城戦が得意らしいから、これまではどこかが襲撃されても他の病院から援軍を送って撃退してたらしいけど。でも今回は、ダークネスによって一斉に病院が襲撃されたから、互いに援軍を出す事ができなくなっているんだよ」
     いくら高い防御力を誇っても、籠城戦に援軍がないことは非常に厳しい。
     このままでは、病院勢力が壊滅してしまうかもしれない。
     なので同じ灼滅者として、その危機を救って欲しい。
     
    「それで向かって貰うのは、山間にある殲術病院だよ。殲術隔壁を閉鎖して籠城してるんだけど、既に幾つかの隔壁が破損して白兵戦になってる個所もあって……長くは持たないと思う。敵は、ダークネス1体と50体程の眷属だから、まともに戦えば勝てる相手じゃないけど。隙をついて指揮官のダークネスを撃破できれば、病院の灼滅者達も眷属を倒すべく外に出てくると思うから、協力して残る眷属を撃破できると思う。ただ、屍王の撃破に失敗しちゃうと、敵の数も多くて危険だから……撤退のタイミングも考えておいてね」
     灼滅者達が到着するのは、巽という指揮官ダークネスが各部隊に指示を出し、殲術病院内に攻め込むべく動き始めた頃。
     巽は自信過剰な性格のようだが、人間に近い容姿から見るにダークネスになったのはそれほど昔ではなさそうで、力よりも策士タイプということもあり、灼滅者が8人がかりで最善の策を取れば、灼滅も不可能ではないという。
     とはいえ相手は屍王、決して油断せず作戦にあたって欲しい。
    「この病院は壁に囲まれた敷地の中心に建っていて、北に正面玄関、西に通用口、南に中庭があるけど。巽は、病院敷地の南にある中庭にいるんだ。中庭の西の端にある噴水前で、戦況を高みの見物してるから。ヤツが油断している間に素早く接近できれば、バベルの鎖の隙をついて奇襲も可能だよ。巽は、ノーライフキングのサイキックと得物の護符揃えのサイキック、シャウトを使ってくるよ。病院への侵入は、壁が崩れてる箇所がいくつもあるようだけど、東側の壁が大きく崩壊してるから、そこからが一番入りやすくなってるみたい。でももし移動中に眷属に見つかったり時間がかかりすぎると、余計な戦闘が発生したり、巽に気付かれちゃうかもだから……作戦や移動は慎重にね」
     遥河はそう説明を終えた後、改めて皆をぐるりと見回して。
    「今回は、ダークネスと病院の大規模戦闘に介入するんだけどさ……すでに間に合わなくて陥落しちゃった殲術病院も、あるみたいなんだ。そんな危険な戦場に、みんなには行ってもらうことになるけど……」
     全員で無事に帰ってきてね、約束、と。灼滅者達を見送るのだった。


    参加者
    竜胆・藍蘭(青薔薇の眠り姫・d00645)
    迫水・優志(秋霜烈日・d01249)
    伐龍院・黎嚇(ドラゴンスレイヤー・d01695)
    新城・七葉(蒼弦の射手・d01835)
    オーファ・レクイエム(小学生エクソシスト・d06197)
    千景・七緒(揺らぐ影炎・d07209)
    水縹・レド(焔奏カンタービレ・d11263)
    黄嶋・深隼(風切の隼・d11393)

    ■リプレイ

    ●鳥籠の外
     夜の静寂と暗闇を破るのは、二つの勢力がぶつかり合い生じる、轟音と衝撃の光。
     だが、その音や光がする方角から背を向けて。
     大きく崩れた東側の壁から病院の敷地内に侵入した灼滅者達は、素早く木々の身を隠して夜に紛れる。
     今回潜入したこの場所は、ただの病院ではない。
    (「病院にも灼滅者が居たとは驚きですね」)
     そう……ここは、武蔵坂学園とは違う灼滅者組織の拠点『殲術病院』。
     竜胆・藍蘭(青薔薇の眠り姫・d00645)は自分達以外の灼滅者組織の存在に驚きながらも、仲間達と共に闇の中を慎重に南の方角へと進んでいく。
     そしてその傍らは、数匹の猫の姿が。
    (「本当に居たんだね、僕ら以外の灼滅者組織……!」)
     ニャーと黄嶋・深隼(風切の隼・d11393)の背のリュックからぴょこり顔を出しているちょっぴりくるりくせ毛の猫は、千景・七緒(揺らぐ影炎・d07209)。級友のエクスブレインもはっきりと察知した、武蔵坂学園とはまた別の灼滅者組織の情報に心の高まりを感じて。
     白猫へと姿を変えたオーファ・レクイエム(小学生エクソシスト・d06197)も、周囲の気配や音に気を配っている。
    (「新しい、仲間になるかも?」)
     そして同じ灼滅者だという『病院』に微かな期待を寄せる水縹・レド(焔奏カンタービレ・d11263)。
     だが灼滅者の集団であるということ以外、『病院』について何も分かってはいない。
     しかもその灼滅者組織は今、ダークネスの一斉襲撃を受け、壊滅の危機に陥っているのだという。
     でも、やはり。
    (「どっちにしても、必ず助ける。レドのやれることはやる」)
    (「病院ってどんな組織なんか未だに想像つかんけど、灼滅者がおらんくなるのは辛いよなぁ。自分らの為にも、ここはしっかり守り切ってかなあかんなー」)
    (「事情はよく知りませんが悪くなさそうな病院を襲っている屍王は許せませんな!」)
    (「彼らの無事を確保するためにも、この戦い負けられないです」)
     レドや深隼やオーファ、藍蘭に迷いはない。
     同じ灼滅者の危機を救うという選択に。
     いや、勿論4人だけではない。
    (「まさか、病院との最初の接触がこのような形になるとは」)
     伐龍院・黎嚇(ドラゴンスレイヤー・d01695)も、噂には聞いていた『病院』の実態こそ未だ掴めずにいたが。
    (「だが見捨てる訳にはいかん。救ってみせよう、伐龍院の名にかけて」)
     襲撃に遭っているという彼らを救うべく、そして宿敵ノーライフキングを討ち取るべく、夜闇の漆黒へとその身を投じる。
     ――その時だった。 
    「!」
     てしてしっと背中を引っ掻く七緒からの合図を受け、振り返った深隼は、周囲の皆に即座に接触テレパスを用いて知らせる。
    『ウウゥ……アア……』
     周囲の警戒にあたっているらしき眷属が、すぐ傍にいることを。
    (「今回は隠密大事。うまく奇襲したいよね」)
     オーファや七緒と同様に猫に変身した新城・七葉(蒼弦の射手・d01835)も、ぴたりとその足を止めて。ゆらり尻尾を揺らしつつも眷属が遠くに去るまでの間、木々の間で息を潜める。
     病院の北側と西側で生じている衝撃音のおかげで、多少の音であれば掻き消されるものの。
     派手な音や動きをみせれば敵に気付かれてしまい、屍王との戦闘の前に余計な戦いを強いられる事態にもなりかねない。
     今回の目的は、指揮官であるダークネスの討伐。
     それまでは無駄に体力を消耗したくないし、奇襲をかけることができれば、ダークネスとの戦闘も優位に進められるかもしれない。
     そんな隠密行動を成功させるべく灼滅者達が慎重に選択したESPは、今のところ非常に優位に働いていた。
     身を潜め移動しているこの場所は、病院の中庭を囲む木々や植え込みの茂み。
     深い森の中ならいざ知らず、いくら便利な効果があっても、大きな変化が目に見えるものや大きな音が出るような方法を取れば、あっという間に周囲を徘徊する眷属や指揮官ダークネスに存在を察知され、囲まれてしまうかもしれない。
     だが数人が小柄な猫に変化するだけでも、ぐんと敵の目に止まり難くなっており、異変を察知した時に対する連絡手段も上手く機能していた。
     そして近くまで来ていた眷属をやり過ごし、身を低くしたまま再び迅速に移動を開始しながら。
     迫水・優志(秋霜烈日・d01249)は冷静に周囲の状況を把握しつつも。
    (「あの野郎は必ず潰す。何一つ好きになどさせない」)
     言葉にこそ出さないが、胸中に強い憤りを感じていた。
     これまで白の王セイメイが起こしてきた、非人道的な所業。
     樹海や火葬場でそれを目にしてきた優志は、彼の思い通りには決してさせないと。
     ゆっくりと息を吐いた後、仲間達と顔を見合わせ頷き合う。
    「さて、いつまで持つでしょうか? まぁ陥ちるのも、時間の問題でしょうがね」
     灼滅者達が視界に捉えたのは、中庭の噴水の傍で余裕の表情をみせているダークネスの姿。
     全身黒の和装と長い黒髪に、水晶化した腕と瞳――この男が指揮官ダークネス『巽』であるに違いない。
     ここまで眷属に見つからずにやり過ごして来られたため、巽の周囲に配下の姿はない。
     ダークネスがすっかり油断しきっている今が、奇襲するチャンス。
     灼滅者達は巽の死角を付くべく、木々の間を素早く移動してから。
    「皆さん、僕の歌声に合わせて、攻撃開始です」
     中庭に神秘的な旋律を生み出す藍蘭の歌声を合図に、作戦通り一斉に行動を開始する。

    ●反撃の狼煙
    「!? 何……くっ!」
     一気に身を潜めていた場所から飛び出した灼滅者達に完全に意表をつかれ、白の瞳を見開いた巽へと同時に見舞われたのは。
     利き手の左のみ指なしグローブを嵌めた優志が握る槍から成された、鋭利な冷気の氷柱と、七緒が夜空高く振り掲げ叩きつけた盾の衝撃。
     さらに、無敵斬艦刀・隼! の声と共に繰り出されたのは、敵を粉砕するかの如く強烈な深隼の重い一撃。
    「高みの見物とはまぁ余裕そうやな。暇そうやし、こっちの相手でもしてもらおか!」
    「高みの見物は楽しかったですか? 今度は貴方がやられる番です」
     藍蘭も戦場と化した中庭に歌声を響かせながら、仲間に続いて攻勢に出る。
     黎嚇は、ふと眼前の宿敵・黒と白の屍王の姿を見据えて。
    (「屍王巽と言ったか。その名その姿、素晴らしい。解体し甲斐がある相手だ」)
     龍をも容易く解体し得るという黒き無常の十字の片割れを構え、死角から鋸状の刃を振るう。
    「屍王巽、その首級この僕が貰い受ける!」
     そして刃は刃でも、七葉が見舞うのは、影の斬撃。
    「切り裂くよ」
     その影が、夜の闇の様な和装ごと敵へとダメージを与えている間に。
     魂の奥底に眠るダークネスの力を解放し、順に黎嚇と深隼の術力を向上させるレドと。主人と同時に地を蹴った焔丸が、積極的に仲間を庇うべく屍王の前に立ち塞がって。
    「曲がる光ですよ!」
     眩きオーラの光線を撃ち放つオーファも、仲間達と一斉に、屍王へと攻撃をたたみかける。
    「く……何なのですか、貴方達は!? 周囲を警戒していた班は一体何をしてるのです!?」
     巽はそうシャウトしながらも、灼滅者達をぐるりと見回してから。
    「おや、その姿は……『病院』の灼滅者とは違いますね?」
     さらり黒髪を夜風に靡かせ、白き双眸をふっと細めたのだった。

     殲術病院内でまたひとつ、大きな衝撃音が轟くのが聞こえる。
     このままでは、ダークネス軍の襲撃に耐えられず、病院が壊滅してしまう。
     灼滅者達は指揮官である巽の早期灼滅を狙い、攻めの姿勢を崩さず、得物を振るっていく。
     だが奇襲を許したものの、灼滅者よりも格上のダークネス。
     巽は突如襲いかかってきた猛攻を受けても尚倒れず、手にした術符を戦場へと投じる。
    「……結構厄介っていうか、面倒なことになりそうだな」
     相手のポジションを見極めるべく注意を払っていた優志は、通常よりもきつい状態異常が付加される巽の攻撃に、そう漏らしつつも。屍王を飲み込まんと、影で成した漆黒の大型犬を解き放った。
     巽は削られた体力を怠りなくこまめに回復しつつも、降臨させた輝ける十字架からの光線や五芒星型に打った符を一斉発動させたりと、一撃の威力よりも、より多くの灼滅者達へと、ダメージと状態異常をばら撒く戦法を取っている。
    「あれ? こんなもん? 蒼の王の残党はもっと凄かったのに」
     遊んでる余裕なかったもん、と。生み出した炎を指で弄びながら、くすくすと煽るように笑んで。自分に意識を向けさせるべく、再びシールドを巽へと叩きつけ七緒。
     その衝撃を受け、怒りに染まった瞳を彼に向けながら。
    「まだだ……もう少しだ、もう少し待て……」
     ぼそりと、小声でそう呟く屍王。
     そして怒りの衝動で、七緒を中心とした前衛へと、列攻撃を集中的に仕掛けてくる敵に対して。
    「大丈夫ですか、いま治してあげますので、安心して下さい」
    「響いて……」
     藍蘭や七葉が、戦線を支えるべく回復を飛ばして。
    (「皆を絶対倒れさせない。必ず守って、全員無事に帰る。病院の人達も死なせない」)
     レドも闇と契約を交わし七緒の傷を癒せば、焔丸が身を呈して味方へと向けられた攻撃を肩代わりする。
     仲間を癒し支える彼女の表情に変化はなく、口数も殆どないが。
     だが従える焔丸共々、癒し手として騎士としての、その意思は高い。
     共に戦う仲間は勿論……病院の皆も、誰も決して倒れさせぬようにと。
     灼滅者達が狙うは、短期決戦。
     あくまで攻めの姿勢を崩さず、黎嚇の『《Black Transience》』が屍王を解体せんと鋭利な刃を剥き、深隼の『纏隼』の輝きを纏いし拳の連打が敵の身へ捻り込まんと繰り出されて。
    「貫通する光ですよ!」
     多種多様使い分け放つオーファの光が、相手の防御ごと貫かんと戦場を走る。
    「く、警戒班は一体何処で油を売っているのでしょうか、役に立ちませんね……!」
     サウンドシャッターはこの状況下では、展開する意味をあまり成さなかったが。
     灼滅者達の隠密行動が功を奏し、また病院から聞こえる衝撃音によって戦闘音がさほど目立たないことが幸いして、中庭に眷属の援軍などがまだ来る気配はない。
     この場所は南の中庭の奥。戦火の渦中にある西や北へと、警戒班の眷属の意識がより向いているのかもしれない。
     逆に、移動の際に気付かれていれば、北から集まった眷族に周囲を囲まれて窮地に陥っていたかもしれない。
     そして、援軍が来ないことに思わず愚痴を言いつつも。
     それでも尚……巽は戦法を変える事無く、灼滅者の攻撃をかわしシャウトして。その合間に、前衛後衛、満遍なく灼滅者達へと攻撃を仕掛けてくる。
     そのしつこいほどの状態異常付与に。短期決戦を狙い攻撃のみでサイキックを構成している仲間の回復も余儀なくされた癒し手の手数では、徐々に全ての傷やバッドステータスを癒しきれなくなって。
     さらに再び、七緒から怒りを付与された巽は。
    「くっ……貴方本当に目障りですね、消えなさい!!」
    「……ッ!」
     かわりに庇うように前へと出た優志には目もくれず、ダメージが蓄積して一旦後ろへと下がった七緒を追従するように、鋭き裁きの光条を解き放った瞬間。
     七緒のその身をモロに撃ち貫き、地へと沈めたのだった。
     そして――怒りが解けて我に返った巽は次に、意外な行動を取ったのであった。
    「貴方達等に、これ以上、もう構ってなどいられません」
     そう言い捨てるやいなや。
     灼滅者達へと向いていた視線が、ふと病院の西側へと移った瞬間。
    「!!」
     巽が、西の通用口を攻めている第二部隊へと合流すべく、逃走をはかったのだ。
     眷属の群れの中に紛れ込まれては、もう手の打ちようがない。
     だが蓄積され、まだ癒されていない足止めが効いてしまって。
     そんな思わぬ巽の行動への反応が遅れる灼滅者達。
     だが……咄嗟にいち早くその意図に気付き、彼の背後に回りこんでいたのは、優志。
    「屍王が、まさか逃げ出したりしないだろう?」
    「く……そこを退きなさい!」
     巽の挙動に警戒していた彼は、前衛へと移動しメディックのレドから優先的に施された闇の契約にて、すでに状態異常を浄化されていて。
     まさに間一髪、逃走する巽の前に回りこむことができたのである。
     退路を塞がれた巽は、それでも目の前の優志を打ち倒さんと衝撃を放ってくるも。
     すかさず飛び出した焔丸が彼を庇い、藍蘭やレドの手によってすぐに傷も癒される。
     そして。
    「神の身許に送るまでもない。ここで伐り刻んでやろう」
    「!」
     黎嚇の黒曜石の如き黒の短剣が、死角から的確に敵の急所を捉えて。
     大きく屍王の身を揺るがせた、刹那。
    「隼から逃げられると思ったら大間違いやで?」
    「狙い打つ、ね」
     天へと振り上げられた深隼の『隼』が唸りを上げ、呼吸を合わせ同時に動いた七葉のバスターライフルから眩い魔法光線が撃ち出されて。
    「そ、そんなバカな……この私が、灼滅者ごときに……ぐふぅっ!!」
     二人の連携攻撃をモロにくらい、逃走することすら叶わず、どさりと地に倒れた巽は。
    「一人じゃないのが僕らの力、僕らの誇り……灼滅者を嘗めるな」
     仲間に支えて貰いながらも言った、そんな七緒の声と共に。
     跡形なく消滅したのだった。

    ●解放の勝鬨
     指揮を執っていたダークネスを見事倒した、その直後。
    「聞け、ここを指揮していた屍王は我等が討伐した!」
     高らかにそう宣言した黎嚇の声を切欠に、戦況が一変する戦場。
     これまで籠城していた者達が、敵の指揮官喪失の報を受け、一気に反撃に転じたのだ。
     そして眷族の群れを次々と打ち倒していく、『病院』勢力。
     病院の灼滅者達は、闇落ちしかけの者のような容姿をしてはいたが。
     武蔵坂の灼滅者達はそんな彼らに協力し、共に残った眷族を駆逐していって。
     病院の灼滅者が放ったバベルブレイカーの一撃が、最後の眷属を打ち倒した瞬間。

     ――ウオオオオォォッ!

     武蔵坂の灼滅者のおかげで危機を切り抜けた殲術病院に。
     夜の静寂に響き渡る、大きな勝鬨の声が上がったのだった。

     武蔵坂学園とは別の灼滅者組織、『病院』。
     その実態は、まだ謎な部分が多いが……彼らも、ダークネスと戦う灼滅者。
     これから互いの関係がどうなるのか、それは今後の交渉次第。
     だが、これだけは間違いなく言える。
     この神奈備の殲術病院の危機と多くの命を救ったのは。
     紛れもなく、武蔵坂学園の灼滅者である――と。

    作者:志稲愛海 重傷:千景・七緒(揺らぐ影炎・d07209) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年12月6日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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